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Life Is A Rock - 洋楽こそ我が人生
洋楽全般について、英米ヒット・チャートに登場有無に関係なく、お気に入りの洋楽作品についての独り言やコメントをつれづれに掲載します。「新旧お宝アルバム!」「恒例グラミー賞大予想」など定期コラムが中心です。洋楽 ファンサイト、meantime(www.meantime-jp.com)のスピンオフ企画としてお楽しみ下さい。
【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#154「Guitar Town」Steve Earle (1986)

 #154Guitar TownSteve Earle (MCA, 1986)


長いことかけて日本を横断していた台風10号も去り、また猛暑の毎日、皆さんいい音楽で暑さをしのいでますか?この週末はサマソニで大いに盛り上がった方も多かったのでは。そしてこういう暑いときこそ、熱い音楽を聴いて大いに盛り上がって暑さを吹き飛ばしたいですね。

さて今週の「新旧お宝アルバム!」は80年代に戻ってみます。当時ソングライターとしての実績を踏まえて鮮烈にデビュー、その時その時の社会情勢や自らの心情を吐露するアルバムを多く世に出す一方、結婚と離婚、ドラッグやアルコール依存症による健康問題、不法銃器所持で拘留されるなど波瀾万丈の人生を送りながら、今も力強く自分の歌を作り歌い続けている80年代ネオ・カントリーの旗手、そして今に脈々と続くオルタナ・カントリー・ロックの先駆者、スティーヴ・アールの鮮烈なデビュー盤『Guitar Town』(1986)をご紹介します。

Guitar Town 

アメリカーナ・ロックや、オルタナ・カントリー・ロックのアーティストを既に多く聴き親しんでいる洋楽ファンの間では、スティーヴ・アールという名前は既に説明する必要のないくらい、こうしたジャンルの先駆者として、そしてシーンを常にリードするアーティストとして知れ渡っていますが、こうしたジャンルに親しんでいない洋楽ファンには、ひょっとしてあまり聴き覚えのない名前かもしれません。

テキサス州はサン・アントニオという南部のど真ん中で育ったスティーヴは少年の頃から体制や家庭に反抗的だったようで、16歳で高校をドロップアウトして、当時彼が憧れていた伝説のカントリー・シンガーソング・ライター、タウンズ・ヴァン・ザントを追ってミュージシャンの世界に飛び込みました。

1970年代にナッシュヴィルに移り、ソングライターとしてのキャリアを開始、80年代に入る頃にはジョニー・リーコニー・スミスといったベテラン・カントリー・ミュージシャンが彼の曲を取り上げてヒットさせるに至り、彼の名前がシーンで少しずつ浸透。1986年にメジャー・レーベルのMCA(現ユニヴァーサル)と契約、リリースしたのが今回ご紹介する『Guitar Town』です。

Young Steve Earle 

このアルバムは当時大きな評価を持って迎えられ、スティーヴハンク・ウィリアムスウェイロン・ジェニングス、タウンズ・ヴァン・ザントといった伝統的カントリーの巨人たちのみならず、ブルース・スプリングスティーンジョン・メレンキャンプといった70~80年代を彩った硬派アメリカン・ロック・アーティスト達の影響も強く感じられる、いわばネオ・カントリー・ロックの旗手として鮮烈なデビューを飾ったのです。

このアルバムは当時としてはカントリー界ではまだ珍しかった、三菱X-800というDAT(デジタル・オーディオ・テープ)を全面的に使ったデジタル録音だった、というのも新しいネオ・カントリーの時代を象徴する事実でしたし、彼はこのアルバムでこの年の第29回グラミー賞では最優秀男性カントリー・ボーカル部門と最優秀カントリー・ソング部門にノミネートされるなど、一気にその存在をシーンで確立しました。

そんな状況でリリースされたこのアルバム、全編を通じてまだ若いスティーヴ(当時まだ31歳!)が意欲とエネルギーを存分に自ら書いた楽曲の演奏に満ちあふれている、聴くごとに元気の出るアルバムです。


アルバム冒頭のタイトルナンバー「Guitar Town」は当時第2弾シングルとしてリリース、彼の初のカントリーチャートトップ10ヒット(最高位7位)となったスティーヴ初期の代表曲。骨太のギターのリフをバックにウェイロン・ジェニングスあたりを彷彿するような伝統的カントリー・スタイルのミディアム・ナンバーですが、伝わってくるグルーヴは既にロックンロールのそれです

続く「Goodbye's All We've Got Left」はブルース・スプリングスティーンの初期のナンバーを思わせるようなミディアム・テンポのロック・ナンバー。この2曲は大変強力で、アルバム始まってこの2曲を聴くと、この手の音楽好きの方であれば一気にハマってしまうこと請け合いですね。この曲もシングルカットされ、同じくカントリー・トップ10ヒット(最高位8位)になりました。


同じくカントリー・チャートで小ヒットとなった「Hillbilly Highway」はアコギとウッドベースだけでシンプルに歌われるウォーキング・リズムのヒルビリー・スタイルの曲。このようにカントリーの伝統的なスタイルとロックンロールのスピリット満点のスタイルを交互に、あるいは曲によっては渾然一体と聴かせるというのが、今までを通じて一貫したスティーヴのスタイルで、彼の作品の魅力の最たるところです。

そして今度はジョン・メレンキャンプの曲をハンク・ウィリアムスが歌ってるかのような、ハートランド・ロック調の「Good Ol' Boy (Gettin' Tough)」、シンプルなアコギだけの弾き語りでスティーヴのボーカルの魅力が炸裂する「My Old Friend The Blues」と続いてアルバムA面が終わります。

アルバムB面は、一瞬イントロがイーグルス初期を連想させてくれますが、スティーヴのボーカルとエレキギターのリフが入ると一瞬に彼のカントリー・ロックの世界に突入する「Someday」でスタート。ラウンジ・ギター風のリフがネオ・ロカビリーで2:15という短さが潔い「Think It Over」(そういえばこの1986年という年は当時のネオ・ロカビリーの旗手、ドワイト・ヨーカムのデビューの年でもありました)から、このアルバムでは一番カントリー・ポップっぽいイントロとアレンジで、おそらく当時カントリーだけでなくメインストリームのエアプレイも狙ったと思われる、それでもスティーヴっぽいゆったりとした佳曲「Fearless Heart」とB面は少し落ち着いた感じのトーンで進みます。


Little Rock 'N' Roller」は、アーカンソーのトラック・デポで見かけた少年をロックンローラーに模して「君のパパはまたしばらく帰って来ないけど、心配しなくていいよ/おやすみ、チビのロックンローラー/君も大きくなったらバスに乗って出かけて、全てはオーケー/それまではママと一緒にいるんだ」と父と子の関係を思わせるような静かな曲。他の曲の歌詞がこの頃はまだ普通のカントリー系楽曲のテーマ(男同士のつきあいの楽しさ、こんな街は出て行ってビッグになるんだ、失った恋に対する後悔、などなどお馴染みのテーマです)がほとんどの中で、この曲だけはちょっと異色な感じがします。

この頃スティーヴはおそらく自分の前途は可能性に満ちていると実感していたでしょうし、希望で一杯だったろうと思われます。この時点で既に彼は三回の結婚・離婚を経験し(笑)、ちょうど2000年代後半から才能に溢れたオルタナ・カントリーのシンガーソングライターとして活躍している息子のジャスティン・タウンズ・アールタウンズというミドルネームはもちろんスティーヴのアイドル、タウンズ・ヴァン・ザント由来です)が生まれて間もない頃で、プライベートでも充実した時期だったと思われるので、このアルバムのポジティヴなパワーとこの先を見つめる意欲に満ちた雰囲気は非常によく判ります。

Guitar Town (back)

ただこの後スティーヴは1987年に2枚目『Exit 0』、1989年には彼の初期の傑作と言われる3枚目『Copperhead Road』、そして4枚目『The Hard Way』(1990)をリリース後、90年代前半はドラッグ依存のためまったく活動を停止、MCAからも契約更新を断られることに。この時期彼はヘロインやコカインの不法所持、そして銃器不法所持で60日間の拘留をくらうなど、プライベートでは最低の時期だったようです。

しかしその後90年代後半から活動を再開、インディーからリリースしたフォーク・アルバム『Train A Comin'』(1995)は商業的には成功しなかったものの第38回グラミー賞では最優秀コンテンポラリー・フォーク・アルバム部門にノミネートされるなど次第にシーンへの復活を果たし始めます。

Transcendental Blues 

自らのレーベル、E-Squareレコードを立上げてリリースした『I Feel Alright』(1996)を皮切りにここから2000年代にかけては彼の第2期の充実した活動時期に。個人的にこの時期の傑作だと思う『Transcendental Blues』(2000)や、9-11同時多発テロ以降急速に右傾化するアメリカを憂えて反戦、そして死刑制度に反対するという思いテーマに満ちた名盤『Jerusalem』(2002)など政治的なスタンスを明確にした(彼は前回の大統領選でもバーニー・サンダースを支持するなど、社会主義派リベラリストを自認しています)作品をリリースする一方、自らのアイドルへのトリビュートアルバム『Townes』(2009)をリリースするなど、音楽活動の絶頂期。一方、2005年には、カントリー・シンガーであのシェルビー・リンの妹としても知られるアリソン・ムーラーと7回目で今のところ最後の結婚(笑)をし、息子のジャスティンも4枚目のアルバム『Harlem River Blues』(2010)で見事メジャーシーンブレイクを果たすなど、プライベートでも最高の時期だったのです。

アリソンとは2014年に離婚してしまいましたが、その後もスティーヴは、T-ボーン・バーネットをプロデューサーに迎え、ハンク・ウィリアムスの曲のタイトルから取った『I'll Never Get Out Of This World Alive』(2011)と同タイトルの小説を上梓、拘留中に直接激励のメッセージを送ってくれたという彼のヒーローの一人、故ウェイロン・ジェニングスに捧げたハードコアなカントリー・アルバム『So You Wanna Be An Outlaw』(2017)、そして駆け出しの頃にバンドメンバーとしてメンターの一人として仰いでいた故ガイ・クラークへのトリビュート・アルバム『GUY』(2019) など、気骨とミュージシャンシップに溢れたアルバムをコンスタントにリリースし続け、今でもオルタナ・カントリー/アメリカーナのシーンで中堅・若手のアーティスト達のインスピレーション的存在として活躍を続けています

Steve Earle now

この『Guitar Town』の若々しくセクシーな風貌から、今は毛もなく(笑)体型も二回りほど大きくなり、髭伸ばし放題と全くイメージが変貌してしまったスティーヴですが、彼の体には熱いミュージシャンとしての血が未だに脈々と流れている、そんな心動かされる彼のレコード

熱い夏だからこそ、従来からの彼のファンであれば今一度彼の原点でもあるこのアルバムに耳を傾けて、彼の音楽への感動を新たにし、彼の名前を初めて聞いた洋楽ファンの方には、こんな熱いアーティストがいるんだ、というを是非知って、そして彼の音楽を楽しんでみてはいかがでしょうか。

<チャートデータ> 
ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位89位(1986.11.15-22付)
同全米カントリー・アルバム・チャート 最高位1位(1986.11.8付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#153「The Broken Instrument」Victory (2018)

#153The Broken InstrumentVictory (Roc Nation, 2018)


いよいよお盆の週に入り8月も半ば。3連休に休暇をくっつけてゆっくりと実家や旅先でくつろいでおられる方も多いのでは。暑さは相変わらずですが、朝夕のちょっとしたところに少しずつ秋の気配も感じられるここ数日、今週は台風の来襲も予想されてますが、体調と天気には気を付けて、暑い夏もう少しですので、いい音楽で乗り切りたいものです。

さて今週の「新旧お宝アルバム!」はそのR&B、ジャズ、ゴスペル、フォークといった様々な音楽の要素を見事に自らの作品に練り上げて昨年メジャーデビューした、デトロイト出身、ニュージャージー在住の女性R&Bシンガー、ヴィクトリーことヴィクトリー・ボイド嬢の素晴らしいアルバム『The Broken Instrument』(2018)をご紹介します。

TheBrokenInstrument.jpg

ここ10~20年くらいのメインストリームR&Bって、1990年代が一大オーガニックR&Bの復興期だったのに比べて、どちらかというとエレクトロ系やダンス・ポップ系にヒップホップ・テイストを色濃く織り込んだタイプのアーティスト、楽曲がメインストリームやヒットチャートの上位を占め続けています。2000年代にエレクトロ・ヒップホップサイドからのそうしたアプローチでこのジャンルのメイン・アーティストとなったのがフランク・オーシャンを代表とするオッド・フューチャー系のアーティスト群ですし、つい最近初アルバムをリリースしたチャンス・ザ・ラッパーなどもそうしたアーティストの一人でしょう。同じエレクトロでもよりR&Bサイドからのアプローチでビッグになったカリードケラーニ、ジェネ・アイコといったアーティストもシーンで活躍しています。

そしてそうしたコンテンポラリー・メインストリームR&Bは言わば「売れる音楽スタイル」として、アリアナ・グランデを筆頭とする非アフリカン・アメリカン系ポップ・アーティスト達にもスタイルとして取り入れられ、全体として一つの今のR&B系スタイルとしてジャンル確立されている感があります。

一方、1990年代のオーガニックR&Bの流れ(というか1970年代以来のR&Bの流れ)を脈々と継承しながらコンテンポラリーなスタイルで聴かせるアーティストも当然健在で、最近ではエラ・メイH.E.R.カニエ・ウェストのプロデュースによるテイアナ・テイラーなど、古くからのR&Bファンのハートをしっかり掴む楽曲や歌唱を聴かせるシンガー達も健在です。

今日ご紹介するヴィクトリーは、そうした伝統的なR&Bスタイルにジャズやゴスペル、フォークといったある意味ポップ・メインストリームとは一線を画するスタイルを見事に融合させた自作の楽曲を、自ら敬愛するというニーナ・シモンや70年代女性シンガーソングライター的アプローチで見事な世界観で聴かせてくれる、そんなシンガーです。

彼女の魅力はそんなメインストリームではないけど、黒人音楽やシンガーソングライターの楽曲が好きなオーディエンスに強くアピールする楽曲に加えて、彼女自身のボーカルにもあります。ややハスキーでスモーキーな感じのする彼女のボーカルは、そのジャジーでシンガーソングライター的なスタイルもあいまって、個人的にはトレイシー・チャップマンや、最近イギリスから出てきたジョージャ・スミスといった自らのボーカルスタイルの個性をしっかり持ったアーティスト達を想起させました。

Victory Boyd

もともとデトロイトで家族で幼少の頃から9人兄弟と父親ジョンと一緒に音楽活動をしていたヴィクトリーは、12歳の時にニュージャージー州のノース・バーゲンに移住。それからはハドソン川を挟んだマンハッタンはセントラル・パークやニューヨークの地下鉄でバスキング(ストリート・パフォーマンス)をしていたといいます。

彼女のブレイクのきっかけは、彼女達が定位置としていたセントラル・パークベセスダの泉横でバスキングしていたところ、2016年第58回グラミー賞の新人賞部門ノミネートの白人R&Bシンガー、トリー・ケリーが通りかかって自然に一緒にパフォームした様子を観客の一人が撮影した動画がABC-TVの目に止まり、人気モーニング・ショー『The View』にトリーボイド一家が出演したもの。その後ジェイZのバックで演奏する機会を得たのをきっかけに、ジェイZのレーベル、ロック・ネイションと契約に至って、このアルバムのリリースにこぎつけたヴィクトリー、この素晴らしいアルバムをリリースすることができたのです。

アルバム全曲を書いたヴィクトリー(一曲のみ共作)はほとんど全ての曲で自らアコギを弾きながら、バンドや曲によってはセンスよく配されたストリングスをバックに、ジャジーなグルーヴを醸し出しながら不思議な魅力のある歌声を聴かせてくれます。

冒頭のゆったりとした「Against The Wind」、イントロのアカペラコーラスから懐かしのグラウンド・ビートっぽいリズムをバックにヴィクトリーのちょっと舌足らずなボーカルがサビで一気に不思議な魅力を醸し出す「Open Your Eyes」、地味な曲調のマイナー調のメロディから次第にメジャーコードに展開していってじわじわとドラマティックな「Weatherman」や「Who I Am」、彼女が兄弟達とバスキングして盛り上がっていく雰囲気が何となく伝わってくる後半のSEがいい感じの「Jazz Festival」など、どの曲を取っても楽曲としての魅力と、バックの控えめな演奏やコーラスにストリングス、そしてやはり彼女の声の魅力に、聴いているうちにどんどん引き込まれていきます。

アルバム後半はヴィクトリーのアコギの弾き語りとピアノのコンビネーションがシンガーソングライター的アプローチを色濃くしている、このアルバムでは一番トレイシー・チャップマンを思わせる「Extraordinary」から珍しくエレピを配して楽しげなミディアムテンポのその名も「A Happy Song」、静かで内省的なピアノのバックが印象的な「First Night Together」といった曲に続いて、ボイド一家で構成されたグループ、インフィニティズ・ソングをバックに70年代R&Bとゴスペルを渾然一体とした感じの楽曲展開で静かなカタルシスを生みだす「Don't You Ever」でアルバムはクライマックスに。


そしてアルバム最後は「The Broken Instrument」という楽曲の「i.」「ii.」「iii.」の3部作構成。ヴィクトリーのアコギをメインにして静かに盛り上がる「i.」とラテン・ジャズ風のパーカッションと重厚なストリングスをバックに映画のローリング・クレジット的ドラマティズムを湛えた「iii.」をつなぐ「ii.」では、ヴィクトリーが絶望的な現状とそこに見える一筋の光を、詩の朗読のように淡々と語っているのがとても印象的です。

「私は暗黒と栄光にまつわる伝説を聞いたことがある 
 夜が日を支配し死がまた一人の犠牲者を獲物とするこの話を知らぬものいない
 強き者の力を絶望が奪い、囚われし者の自由を憎悪の斧が叩き潰す
 こうした伝説は今でも現実にあるので驚くにはあたらない

 しかし伝説によると栄光が打ち砕かれし者を守るために現れ
 光が夜を打ち破り絶望は戦いに敗れ去るという
 私は愛が悪の力をその恵みと徳で押し流してしまうという伝説も聞いた
 しかしそれは伝説 それが真実かどうかを確かめたことはまだない

 もしその奇跡が本物なら私はこのゴミ溜めから逃げ出したい
 でも私が埋められているそのゴミ溜めの中には何の希望も見えない
 それでも私は昔聞いたことがあるその伝説を忘れることができない
 希望と未来の伝説 どこかに私を作り出した創造主が存在するという伝説
 そしてその創造主は私を愛してくれているという伝説を」

かなり宗教的な余韻を残して終わるこのアルバムですが、高い楽曲クオリティとヴィクトリーの印象的で魅力的な歌唱パフォーマンスがこの「The Broken Instrument ii - I've Heard Legends」のメッセージをポジティヴなものにしているように思います。

TheBrokenInstrument (back)

聴き終わってみると、様々なメッセージに満ちた映画を見終わったような感じになるこのアルバム、でも聴き終わった後に不思議な高揚感と清々しさを感じさせてくれるこのアルバム、デビューアルバムとしては鮮烈な印象を与えることは間違いないところ。今のメインストリームR&Bスタイルとは全く違ったアプローチで一つのブラック・ミュージックの完成形を提示してみせているこのアルバムは一聴に値すると思います。ソウルミュージックファンも、そうでない方も一度是非。

<チャートデータ> 
ビルボード誌全米R&Bアルバム・セールス・チャート 最高位24位(2018.6.30付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#152「The Dynamic Superiors」The Dynamic Superiors (1975)

 #152The Dynamic SuperiorsThe Dynamic Superiors (Motown, 1975)


7月後半はフジロックへのフル参戦など個人的に忙しく、しばらく間が空いてしまいましたこの「新旧お宝アルバム!」、ここのところの連日の猛暑を払うためにはいい音楽、ということで今週は久しぶりに70年代ソウルの名盤ながら、熱心なソウルファンの間では大変知名度も人気も高いものの、一般の洋楽ファンの皆さんにはそれほどお馴染みがない、というのがいかにも惜しい、ワシントンDC出身のコーラス・グループ、ザ・ダイナミック・スーペリアーズのデビューアルバム『The Dynamic Superiors』(1975)をご紹介します。

既にソウル・R&B関係のレビューや書籍では語り尽くされた感のあるこの名盤、今更ながら取り上げるのはソウルファンの先輩方からの突っ込みを頂きそうで甚だ不安なのですが、ここは敢えてそうした名盤をソウルファン以外の皆さんにも知って頂きたい、という趣旨で取り上げますので、是非暖かい心でご覧頂きたいと思います(笑)

Dynamic Superiors 

伝統的なソウル・ミュージックにおいて、一つのスタイルとして「コーラス・グループ」というものがあるのは皆さんご存知の通り。1970年代はそのスタイルが一つの絶頂期を迎えた時期でした。60年代から活躍してそのモメンタムをがっちり持続していたモータウンテンプスフォー・トップス(後にダンヒル/ABCに転じますが)や「Oh Girl」のシャイライツといったベテラングループは言うまでもなく、ドラマティックスIn The Rain」、スタイリスティックスBetcha By Golly Wow」、ブルー・マジックSideshow」などなど、このデケイドは数々の名曲・名唱でファンを虜にした新しいコーラス・グループも続々登場、さながらソウル・コーラス・グループ百花繚乱の様相を呈した時代を形成していました

そんな中、1963年にワシントンDCで結成以来、苦節10年を経て1960~70年代に隆盛を極めたモータウン・レーベルとの契約がかない、レコーディングにこぎ着けて今日ご紹介する『The Dynamic Superiors』をリリース、ソウル・シーンで大きな成功を収めることができたのが、リードのトニー・ワシントン、ファースト・テナーのジョージ・スパン、セカンド・テナーのジョージ・ピーターバックJr.、バリトンのマイケル・マカルピン、ベースのモーリス・ワシントンの5人からなる、ザ・ダイナミック・スペリアーズ

このアルバムの素晴らしさはいろいろあれど、リードのトニーの美しく艶やかなファルセットと、2人のテナーの達者な歌唱とそれをサポートするバリトンとベースによる、当時の並み居るコーラスグループと比較しても実力充分のグループ歌唱力と、当時はモータウンの強力ハウス・ソングライティング・チームだったアシュフォード&シンプソンがほぼ全曲作曲とプロデュースを手がけた楽曲群のクオリティの高さが、このアルバムを実にソリッドなコーラス・グループの名盤にしている二つの大きな要素だと思います。

Dynamic Superiors (photo)

そしてもう一つ、トニーは当時としては珍しく自らがゲイであることを公言して、ステージにもドラッグの出で立ちでしばしば登場していたという、今のLGBTQムーヴメントのはしりのようなアーティスト。当時ブラックでゲイであることを公表するのはとても勇気のいることだったと思うけど、彼の時折天にも突き抜けるような美しいファルセット・ボーカルにはそうした自信が満ちていることも、このアルバムを通じて感じることです。

アルバムは彼らの代表作の一つで最初のナショナルヒット、クラシックなコーラス・グループ・スタイルの楽曲「Shoe Shoe Shine」で始まりますが、これがのっけからトニーのファルセットが炸裂する70年代ソウル王道の名曲バラード。ソウルファンの間ではつとに有名なこの曲、作者のアシュフォード&シンプソン自身もかなり気に入った出来だったらしく、彼ら自身のライヴで自分が書いた数々の名曲メドレーをやる時にもこの曲を交えることが多かったといいます。

テナーがリードを取って他のメンバーがコーラスに徹する、ミディアムテンポのこれまた王道の楽曲「Soon」に続いて、ドラマティックなイントロからまたまたトニーのリードが素晴らしく、後半サビにかけてメンバーのコーラスが絡んで感動的に盛り上がる「Leave It Alone」は個人的にもこのアルバムのベストカット。ソウルチャートでもこの曲が最初のヒットで最高位13位を記録した、事実上彼らのシーンでの地位を確固たるものにした曲です。


なお、この「Leave It Alone」とA面最後の「Romeo」のアレンジを担当しているのが、この直後スタジオ・ミュージシャンによるスーパーグループ、スタッフに加入して70年代後半~80年代にかけてのフュージョンシーンで活躍、数々のポップヒットのバックやアレンジも担当したリチャード・ティー(kbd)。このアルバムでは彼の他に、ヴァン・マッコイとの仕事で有名なリオン・ペンダーヴィスアーサー・ジェンキンスら実力者のスタジオ・ミュージシャンがアレンジを担当するなど、当時モータウンとしては万全の布陣で臨んでいた自信作であったことが窺えます。

アッパーなリズムながらしなやかなメロディとメンバーのコーラスが素晴らしい「Don't Send Nobody Else」で引き続き盛り上がった後、A面は静かな始まりからサビから「いろんな女の子を経験したけど君の前では僕はただの男の子/君が僕を1人の女性しか愛せない男にしたんだ」というベタな歌詞ながら後半盛り上げるバラード「Romeo」でA面は終了。


B面も最初のトニーのファルセットが再び炸裂する「Star Of My Life」から始まって、トニーの真骨頂ともいえるドラマチックな展開のバラードナンバー「Cry When You Want To」、後期のフォートップスを彷彿させるテナー・リードのアップテンポナンバー「I Got Away」、ストリングスを配したサザン・ソウル的な味わいから後半フィリー・ソウル風に展開する素敵なミディアム曲「One-Nighter」を経て、最後もサビのコーラスとリードの掛け合いに思わず頬がほころぶ、安定の王道ソウル・ナンバー「Release Me」でアルバムは余韻を残して終わります。

アルバムはチャートインできなかったものの、シングル「Shoo Shoo Shine」がナショナルヒット、「Leave It Alone」がR&Bヒットとなったのにモータウンも気を良くしたか、次のアルバム『Pure Pleasure』(1975)でも同じくアシュフォード&シンプソンを起用して、そこそこのヒットを達成。

しかしプロダクション・スタッフを大幅に入れ替えた『You Name It』(1976)は商業的には不発に終わり、起死回生のつもりだったのか、モータウン黄金期のソングライターチーム、ホランド兄弟プロデュースで、彼らの曲を中心としたほとんどがカバーのアルバム『Give And Take』(1977)でもマジックを再現することはできず。

モータウンとの契約も切られ、グラディス・ナイト&ザ・ピップスの「夜汽車よジョージアへ!」のアレンジや「Dynomite」のバズーカで有名なトニー・カミロが立ち上げたレーベルから、1980年には最後のアルバム『The Sky's The Limit』をリリース。この時はトニー・ワシントンの代わりにレーベルオウナーのトニー・カミロがボーカルを務めたりしてるので、まあこの辺が潮時だったのでしょう。

Dynamic Superiors (back)

本来得られるべきであったレベルの商業的成功や、ジャンルを超えた人気などを勝ち得るには至りませんでしたが、今聴き返してもこのアルバムは、当時のザ・ダイナミック・スペリアーズのメンバーがアシュフォード&シンプソンや腕達者のサポート・ミュージシャン達と作り出すマジックがぎっしり詰まっている、それこそ珠玉のような作品です。ソウルをこれからもっと聴いていきたい、何かソウルのいい作品はないか、という向きには心よりお勧めできる、そういうアルバムです。このアルバムが皆さんに一筋の涼風をお届けできますように。

<チャートデータ> 
チャートインせず

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#151「Mount Royal」Julian Lage & Chris Eldridge (2017)

 #151Mount RoyalJulian Lage & Chris Eldridge (Free Dirt, 2017)


連日相変わらずの雨続きで、いつになったらこの梅雨は明けるのだろう、などと5月後半に空梅雨だと思われた時期とは正反対のことを思ってしまう今日この頃。こういう天気には、瑞々しいアコースティックな音楽が似合いますね。

今週の「新旧お宝アルバム!」はそんなアコースティックな気分に合わせて、ジャズやブルーグラス、オルタナカントリーのアーティストらとの共演も多い、独自の世界を聴かせる若手気鋭のギタリスト、ジュリアン・ラージと、先日二度目の来日で大いにアメリカン・ルーツ・ロック・ファンを興奮させるライヴを披露してくれたパンチ・ブラザーズのギタリスト、クリス・エルドリッジの二人が彼ら3作目のコラボ・アルバムとしてリリースした心温まるアコースティック・アルバム『Mount Royal』(2017)をご紹介します。

Mount Royal 

ミュージシャンシップ」という言葉があります。「歌唱や楽器演奏に関わらず、ミュージシャンとして卓越した技量と感情表現、楽曲創作などを存分に発揮させている状態」といったような意味だと理解していますが、先日Blue Note東京で行われたパンチ・ブラザーズのライヴは正にその「ミュージシャンシップが最大限に発揮された」ライヴだったと思います。音楽のスタイルや使う楽器はブルーグラスのそれですが、展開する楽曲パフォーマンスはパッションと卓越した技量を存分に爆発させた、最高級のロック・パフォーマンスにも通じるものを感じさせたのです。パンチ・ブラザーズ自体がロック系やポピュラー系の楽曲、さらにはドビュッシーバッハなどクラシックの楽曲すらも彼らのブルーグラスの意匠を纏わせた新しい音楽として表現するという極めてカバー領域の広いアーティストだけに、くだんのライヴはその殆どが伝統的なブルーグラス楽曲であったにも関わらず(前のセットではレディオヘッドの「Kid A」なんて曲をやったりしたようですが)、全く古臭さとか予定調和的といったものとは正反対の興奮を呼び起こすライヴだったのです。

以前、パンチ・ブラザーズのリーダーでマンドリンの名手、クリス・シーリーとジャズ・ピアニストのブラッド・メルドーとの素晴らしいコラボアルバムを取り上げたことがありますが、これを聴いてパンチやそれを取り巻くミュージシャン達をまたこのブログで取り上げたい、という気持ちが湧いてきて、そうだ、このアルバムがあったと思い出し、こうしてご紹介している次第です。

Lage Eldridge

ジュリアン・ラージはカリフォルニアのワインで有名なソノマ郡出身。今年32歳とまだまだ若いミュージシャンながら、8歳の頃の演奏の様子がドキュメンタリー映画になったり、15歳でスタンフォード大学のジャズ・ワークショップの教鞭を執ったりという、言わば天才ジャズ・ギタリスト。ご多分に漏れずジャズやアメリカ現代音楽のエリート達を輩出しているボストンのバークリー音楽院を卒業後、2009年の『Sounding Point』(2010年の第52回グラミー賞最優秀コンテンポラリー・ジャズアルバム部門ノミネート)を皮切りに勢力的に作品を次々に発表。その過程でジャズミュージシャンとの競演だけでなく、オルタナカントリー・ロック・バンドのウィルコのギタリスト、ネルス・クラインや、今回ご紹介するパンチ・ブラザーズクリス・エルドリッジ、更にはブルーグラス・マンドリンの巨匠、デヴィッド・グリスマンらとの競演作も発表するなど、幅広い活動を展開しています。

クリス・エルドリッジは先日のパンチ・ブラザーズのギタリストとしてのライヴでも、その超人的なアコースティック・ギター・ワークで観客を興奮させてくれたこちらも若手のブルーグラス/オルタナ・カントリー系のギタリスト。伝説的なブルーグラス・バンド、セルダム・シーンのバンジョー奏者だったベン・エルドリッジを父に持ち、その影響もあってティーンエイジャーの頃から父のバンドに入ってギターの腕を磨いて来ました。こちらもバークリー音楽院卒業後、同じバークリーで知り合ったメンバーとブルーグラス・バンド、ジ・インファマス・ストリングダスターズを結成。シーンで活動を展開している中、クリス・シーリーの耳に止まり、彼の誘いでパンチ・ブラザーズに加入、今やパンチのあのスリリングなバンド・サウンドの要の一人として活躍中です。

このアルバムは、二人が奏でるマーティンのアコースティック・ギター2本だけで構成されているという完全なアコギ・アルバム。しかし時折クリスのボーカルを交えながら、それぞれがある時はメロディを美しく奏でたり、ある時はパーカッシヴにリズムをドライヴしたり、またある時はミニ・オーケストラのように美しいゴージャスなハーモニー・アンサンブルを聴かせたりととても表情豊かなサウンドで出来上がっています。ジュリアン作の曲が3曲、クリス作の曲が2曲、二人の共作が3曲、何とあの元パール・ジャムエディ・ヴェダー作を含むカバー曲が3曲に、トラディショナル曲が1曲という、楽曲構成バランスも考えられたアルバム構成で、プロデュースは、クリスパンチ・ブラザーズでの盟友、フィドル・プレイヤーのゲイブ・ウィッチャーが務めて二人のアンサンブルを美しく仕上げています。

アルバム冒頭の「Bone Collector」はパンチの曲を彷彿させるような、叙情的にゆっくり始まり、ジャズなのかブルーグラスなのか渾然とした複雑な楽曲展開を経てカタルシスを作りだす、のっけからおっと思わせる二人の共作曲。クリス作の「Rygar」はさりげないアコギの技巧が楽しめるリフと、ブリッジでコードストロークのパーカッシヴな感じの対照が美しい心安らぐナンバー。

再び共作の「Everything Must Go」はまたクラシックの小品を思わせるような、詩情豊かなアコギの奏でるメロディと楽曲展開が美しい作品。

一転してクリスのボーカルが聴ける、1960年代のブルーグラス復興に寄与した有名なバンジョー奏者、ドン・ストーヴァー作の「Things In Life」で、それまで映画のサントラ的な情景描写的な楽曲群からすっと違和感なくブルーグラス楽曲の世界に連れて行ってくれるあたりは二人の能力のなせる業か。その流れをキープするかのように、トラディショナル・ナンバーの「Old Grimes」は美しい二人のギターリフの絡み合いによるブルーグラス風味が楽しめる曲。ちょっとギター練習曲的な雰囲気もなかなか楽しいナンバーです。そしてレコードA面ラストはジュリアン作の静かなジャズ的雰囲気の「Henry」。

B面オープニングは、クリスのボーカルでゆっくりとしたアコギのアルペジオで演奏される「Sleeping By Myself」。Aメロの最後のあたりのコード進行が心地よいこのナンバーは、パール・ジャムのアルバム『Lightning Bolt』(2013)で、エディ・ヴェダーがもう少し早いテンポでカントリー・ロックっぽく演奏していた曲。こういう曲を見つけてきてカバーするセンスは、多分クリス・シーリーあたりの影響を受けたクリスゲイブのアイディアではないかと思いますね。

続いてジュリアン作の「Broadcast」「Goldcare」と、いかにも雨粒したたる木々の緑が広がる光景にぴったり、といったアコギジャズ・スタイルの心がホッとする楽曲が続いて、共作の「Lion's Share」。A面の楽曲もそうでしたが、ジュリアンが書く曲はアコギジャズ風、クリスが書く曲はブルーグラス風、とスタイルがはっきり現れるのに、二人の共作になると途端に映像的で叙情的なジャンル不明の音楽スタイル(ある意味パンチ・ブラザーズ的とも言えますか)による素晴らしい世界観が表現されるのには軽い感動を覚えますね。

また雰囲気はブルーグラス方向にちょっとシフトされ、ミシシッピ川流域のフォーク・ミュージックの第一人者として60年代後半から90年代まで活躍したブルーグラス奏者、ジョン・ハートフォードのアルバム『Annual Waltz』(1986)に収録されていた、フォスターあたりのメロディを纏ったいかにも昔のオールド・タイム・フォーク・ミュージックといった趣の「Living In The Mississippi Valley」が軽快な二人のギターと、クリスのさりげない歌声で演奏され、またホッとした感じを醸し出します。

そしてアルバムを締めるのは、楽曲スタイルとしてはクリス作ということもあり、ブルーグラス風にファーストピッキングのアコギフレーズや、技巧的なフレーズの展開が軽快な「Greener Grass」。



アルバムの中ジャケにはジュリアンクリスが、揃って1930年代製のヴィンテージもののマーティンのギターを抱えて写った写真があしらわれていて、その二人の様子も気楽にセッションを楽しんでいる途中の休憩時間、といった感じを伝えて、このアルバムの制作過程がとてもいい雰囲気であったろうことが窺えるものです。きっとどちらがリードを取るとか、どうとかいったようなゴタゴタは一切なかったんだろうな、と絡み合うような二人の卓越したプレイを聴けば聴くほど思う、そんな一枚。

Mount Royal (back) 

実はこの二人はこのアルバム発表後、一緒に来日してライブもやっています。今更ながらそれも見に行くべきだった、と思いますね。

まだまだ雨は続き、鬱陶しいと思う一方、水に濡れそぼった木々の様子を窓から眺めながら、二人のある時は美しく、ある時はホッとするようなアコギ・アンサンブルのこの作品を聴いて、心豊かな時間を過ごすのはいかがでしょうか。

<チャートデータ> 
ビルボード誌全米ジャズ・アルバムチャート 最高位8位(2017.3.18付)

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#150「Breakaway」Art Garfunkel (1975)

 #150BreakawayArt Garfunkel (Columbia, 1975)


いよいよ今日から2019年も後半、7月に突入ですがまだしばらく梅雨っぽい天気は続くようでして。こういう天気になるとやっぱりしっとりした音楽が聴きたくなるもんですね。

今週の「新旧お宝アルバム!」は記念すべき150回目。今回はひとつ70年代に戻って、こういうややムーディーな天気を爽やかにしてくれる、美しい歌声を聴かせてくれるアート・ガーファンクルのアルバムでも。彼のソロアルバム第2作目でファンの間でも人気のあるアルバム『Breakaway愛への旅立ち)』を、この頃のアートをご存知ない若い洋楽ファンの方々のためにも、改めてご紹介します。

Breakaway.jpg 

一昨年3年ぶりに来日して、もう70代ながらその素晴らしい歌声を聴かせてくれたという(残念ながら自分は行けず涙)アート。70年代に入ってサイモン&ガーファンクルの解散を受けてリリースした最初のソロアルバム『Angel Clare(天使の歌声)』(1973)は、S&G時代のプロデューサー、ロイ・ハリーとの共同作業で選曲やプロデュースを行った、ある意味ではアートにとってはソロ活動モードに充分慣れるための、S&G時代の延長的なアルバムになっていました。ジミー・ウェッブ作の「友に捧げる讃歌(All I Know)」(全米最高位9位)やポール・ウィリアムスロジャー・ニコルス作の「青春の旅路(Traveling Boy)」といったS&G時代のアートの名唱を彷彿させるようなドラマティックな楽曲のヒットが出ましたが、個人的には今聴き返すとどこか肩に力の入った、それでいてそれまでのアプローチから脱していない感じが否めない、そんなアルバムにきこえます。オシビサの「Woyaya」のカバーとか、どうしても「コンドルは飛んでいく」のアプローチの二番煎じのようにきこえてしまって。

Angel Clare

それから彼がいろいろ考えたのかどうかは判りませんが、3年を経てリリースされたこの2枚目のソロ『Breakaway』では、プロデューサーを名匠リチャード・ペリーに任せたことや、ポールS&G瞬間再結成となった曲「My Little Town」を収録したのが、逆にS&G時代からの延長の呪縛からアートを解き放ってくれたのか、すっかりフレッシュな感じで歌うアートの歌声が「これからがソロ活動時代の本番だ」と決意表明しているようにもきこえるのです。

様々なカバー曲を集めて、これにアートの歌声、歌唱解釈力で新たな魅力を吹き込む、というアルバム制作スタイルは前作と同じですが、このアルバムの選曲に当たっては、60年代に活躍していたジミー・ウェッブポール・ウィリアムスといった「お馴染み」のライター達からちょっと離れて、いろいろな人の曲をトライしているのも好感が持てます。そしてそれが見事に機能しているのもこのアルバム全体の「アートのソロアルバム」としての完成度を高めている要因ではないかと思うのです。

アルバムオープニング、ハイトーンで始まる美しいバラード「I Believe (When I Fall In Love It Will Be Forever)」はまるでアートのためにあるようなそんなゴージャスなメロディを持った曲ですが、これが実はスティーヴィー・ワンダーの名作アルバム『Talking Book』(1972)のクロージング・ナンバー。原曲より2度ほどキーを上げて、アートのハイトーンボーカルによりマッチするようにアレンジされたこの曲でのアートの歌唱にははっきり自信を感じますね

2曲目はスティーヴ・イートンというシンガーソングライターの正直地味なバラード「Rag Doll」ですが、こういうシンプルなメロディではアートの声と歌唱が引き立つようです。

そしてアルバム・タイトルナンバーの「Breakaway」(全米最高位39位)。スコットランド出身のシンガーソングライティング・デュオ、ギャラガー&ライルのペンによる、夢見るようなメロディが素敵なナンバーで、リトル・フィートビル・ペインが弾くフェンダーローズのイントロに乗って登場するアートの歌声と、デヴィッド・クロスビー、グラハム・ナッシュ、トニー・テニールらの美しいバックコーラスがふわっと気持ちを持ち上げてくれます。元々70年代初頭マッギネス・フリントというバンドにいたギャラガー&ライルは、1976年にこの曲を自ら録音したアルバム『Breakaway』がUKでアルバムチャート6位に登るまではあまり知られていなかったわけで、その2人を見つけてきて自分のアルバムのために曲提供を依頼したアートの先見の明は素晴らしいもんです


4曲目のバーバンク・サウンドを思わせるメロディのバラード「Disney Girls」は、あのビーチ・ボーイズの中期以降のメンバーで、バリー・マニローの「歌の贈り物(I Write The Songs)」の作者としても有名なブルース・ジョンストンの作品。この曲は、彼が在籍していたビーチ・ボーイズ1971年の名作『Surf's Up』に「Disney Girls (1957)」と言うタイトルで収録されていた切ない味わいのバラード。その他数々のアーティストにカバーされたこの曲をアートは見事に自分のものとしてほんわりとした切なく素晴らしい歌唱を聴かせてくれます。ブルースはこのアルバム発表直後、バリー・マニローに書いた「I Write The Songs」が大ヒットして、ソングライターとしてのキャリアを一気に次のレベルに上げていますので、アートのこのカバーもそうした流れに一役買ったのではないでしょうか。ちなみにブルース自身のバージョンは、この後1977年にリリースされた彼のアルバム『Going Public』で聴くことができます。

そしてレコードA面のラストは、今度はボサノヴァの大御所アントニオ・カルロス・ジョビンの代表曲「三月の水(Águas de Março)」をカバーした「Waters Of March」。同じラテン系作品のカバーでも、ここでは前作のオシビサのカバーなどに見られた気負いのようなものは感じられず、あくまでゆったりとジョビンのメロディに身を任せるかのようなアートの歌唱が印象的。

レコードB面トップは、当時S&G再結成か!と騒がれたヒット曲「My Little Town」(全米最高位9位)。久々のポールとのハーモニーにもテンションのようなものは感じられず、5年の月日が溶けゆくかのようなスムーズなコーラスが気持ちいいナンバーですが、この曲、よく聴くと、実は転拍子がいくつも行われ、コード進行もかなり複雑で歌唱にはかなり技術を要する曲なのです。そんなことを聴いただけでは一切感じさせない2人のケミストリーは、少なくともこの時期はまだ健在だったということでしょう。

そして2曲目は、イントロのアンドリュー・ゴールドが弾くギターのコードアルペジオ的なストロークが夢見るような雰囲気を醸し出す、1950年代のドゥーワップ・グループ、フラミンゴズのヒット曲のカバー「I Only Have Eyes For You(瞳は君ゆえに)」(全米最高位18位)。そしてこのアルバムでアートが2曲を取り上げているスティーヴン・ビショップ作の1曲目「Looking For The Right One」。この頃はまだ駆け出しのソングライターだったスティーヴンの曲をアートが録音したのは、このアルバムに参加しているベースのラス・カンケルの奥様、リア・カンケルがたまたまスティーヴンのデモ・カセットをアートに渡したのがきっかけだったとか。後のスティーヴンの作品を思わせる、アコギ・エレキの両方のギターの使い方が印象的で、美しいメロディを持つこの曲が、シンガーソングライター、スティーヴン・ビショップのキャリアに扉を開いてくれたわけで、ここでもこのアルバムのテーマとも言える、新しいシンガーソングライターの作品に日を当てるというアートのアプローチが成功しています。


アートが日を当てたのは新しいライターだけではなく、往年の名シンガーソングライターであったアルバート・ハモンドが同じ1975年に放った小ヒット(全米最高位91位、ACチャート1位)をカバーした「99 Miles From L.A.」も、アートのドリーミーなボーカルが素敵な一曲になっています。

そしてアルバムを締めるのは、シンプルなピアノと控えめなベースとドラムスをバックにアートが押さえた情感を表現しながら歌い、後半ドラマティックに盛り上がる、スティーヴン・ビショップ作のもう一曲「The Same Old Tears On A New Background」。この曲は、この後アートの肝いりでABCレコードと契約成ったスティーヴンのデビュー名作アルバム『Careless』(1976)のクロージング・ナンバーでもありました。

Breakaway (back)

この宝石箱のようなアルバム全体を支えるのは上記の他、リー・スクラー(b)ら西海岸のセッション・プレイヤー、ザ・セクションの面子や、ラリー・ネクテル(g)、ジョー・オズボーン(b)らレッキング・クルーの面々、バリー・ベケット(kbd)やピート・カー(g)らマッスルショールズの面々に加え、ジム・ケルトナー(ds)、ニッキー・ホプキンス(kbd)、ジム・ゴードン(ds)やスティーヴ・クロッパー(g)等々、超豪華なセッション・ミュージシャン達。アートがいかにも気持ち良さそうに歌っているのも納得ですね。

2007年のスタンダード・ナンバー・カバー・アルバム『Some Enchanted Evening』以降アルバムを発表していないアート。1978年には王貞治選手(当時)のホームランを見るためにお忍びで来日もしたというアートにはまだまだ新作を出して、そしてまた来日してその変わらない歌声を聴かせてもらいたいものです

<チャートデータ> 
ビルボード誌全米アルバムチャート 最高位9位(1975.11.29-12.6付)
全英アルバムチャート 最高位7位(1975.11.2付)


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