Life Is A Rock - 洋楽こそ我が人生
洋楽全般について、英米ヒット・チャートに登場有無に関係なく、お気に入りの洋楽作品についての独り言やコメントをつれづれに掲載します。「新旧お宝アルバム!」「恒例グラミー賞大予想」など定期コラムが中心です。洋楽 ファンサイト、meantime(www.meantime-jp.com)のスピンオフ企画としてお楽しみ下さい。
【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#101「Fox Confessor Brings The Flood」Neko Case (2006)

 #101Fox Confessor Brings The FloodNeko Case (Anti-, 2006)


秋になってきて渡る風も気持ちよいものになり、朝晩はかなり肌寒くなってきて、めっきり過ごしやすくなってきた今日この頃ですが、先々週の台風18号に続いて先週はアメリカではハリケーン・アーマがフロリダを直撃、メキシコでM7.1の大地震が発生、230人を超える犠牲者が出るという自然災害に世界中が震撼した一週間になってしまいました。一人でも多くの方が災害を免れ、また震災地での救助で一人でも多くの方が救出されるよう、ただただ祈るばかりです。


さて、辛いことや厳しいことがあった時のヒーリング・パワーとしての音楽の威力は心当たりのある方も多いと思います。こういう時であるからこそ、心癒やされる音楽に浸りたいものです。今週の「新旧お宝アルバム!」は、ちょうど10年ほど前に自分が初めて出会って、楽曲や歌唱パフォーマンス・スタイルもさることながら、ある曲は浮遊感いっぱい、またある曲はアーシーなフォーク、そしてまたある曲は物憂い雰囲気を称えた映画のようなイメージ喚起力の高い楽曲と、作品の多様性に一発にやられてしまった、オルタナティヴ・フォーク・ロックのシンガーソングライター、ニーコ・ケイスのソロ3作目『Fox Confessor Brings The Flood』(2006)をご紹介します。


Fox Confessor 


彼女の名前はその少し前から目にしていたのですが、Neko Caseという表記のアーティスト名を見て「きっとUrusei Yatsuraとか、ああいった日本語フェチなパンク・バンドか何かなんだろう」と勝手に勘違いしていたので、最初に音を聴いた時、女性の、それも澄み切った声のボーカルで夢の世界に連れて行ってくれそうな楽曲メロディだったのにはギャップがでかくて大いに驚いたものでした。(ちなみにニーコ・ケイスというのは立派な本名です)

アメリカはヴァージニア州生まれながら父親が米国空軍勤務だった関係で子供の頃からUS中のあちこちを転々としたのと、学校に上がるとまもなく両親が離婚したこともあり、15歳で家を出て18歳の頃には地元でバンドのドラマーとしてライヴ活動をしていたとか。

バンクーバーのアートカレッジに入学した頃からバンクーバーに拠点を移し、地元の様々なバンドにドラマーとして参加してミュージシャンとしてのキャリアを積んだニーコ、この頃参加したバンドは、パンク・バンドやカントリー・ベースのバンドなど、当時から多様な音楽性に対応していたよう。

カレッジ卒業直前に出した最初のソロ『The Virginian』(1997)はそんな多様な音楽性を反映してか、ロレッタ・リンパッツィ・クラインのような昔ながらのホンキートンク・カントリー・シンガーを思わせるボーカル・スタイルで、カントリーのカバーの他オリジナルやクイーンのカバーもやっていたようです。

シカゴに拠点を移してリリースした2作目の『Furnace Room Lullaby』(2000)あたりから、今回ご紹介するアルバムにも通じる、本人曰く「カントリー・ノワール」(カントリーにフィルム・ノワールのようなイメージ喚起性を加えた音楽スタイル、というような意味らしい)のスタイルを確立し始めて、シーンで着々と注目を集めていたところにドロップされたのが今回ご紹介する『Fox Confessor Brings The Flood』。

Neko Case


前述のように、澄み切っていてそれでいてパワフルなニーコのボーカル、ある時はナッシュヴィルのカントリー・ホンキートンクで夜一人で弾き語りをするカントリー・シンガーのように、ある時はメンフィスのR&Bジョイントでのライヴを思わせるようなダウン・トゥ・アースなスタイルで、ある時は1950年代のポップ・バラードを思わせるようなシンプルな楽曲で、またある時は映画の一場面を想起させるような、音数少ないのにイメージが浮き上がってくるような浮遊感満点の音像で、まことに聴くごとにリッチな音世界を紡ぎ出してくれるアルバムです。全曲ニーコの自作、またはバンドメンバーとの共作で、バックには昔からのバンドメンバー達に加え、あのザ・バンドガース・ハドソンもピアノとオルガンで参加、全体の音像の完成度を高めるのに一役買っています。



冒頭「Margaret vs. Pauline」はアコギでシンプルに歌われるフォーク・チューンで、そこからラウンジ風のトワンギーなギターとブラッシング・ドラムがいやが上にもR&Bな雰囲気を盛り上げる「Star Witness」、60年代後半のビート・ポップ・ナンバーを彷彿とさせる、自伝的内容を歌った「Hold On, Hold On」と頭三曲聴いただけであっという間にニーコの世界に引き込まれます

A Widow's Toast」はアカペラのコーラス中心に、わずかな楽器があちこちに入ってくるのですが、その音数の少なさが逆に様々なイメージを喚起してくれる印象的な小品。エヴァリー・ブラザーズなどをふと思わせるオールド・ファッションなポップ・バラード「That Teenage Feeling」もあくまで聞こえてくるのはニーコの声(多重コーラス録音したもの)とギターと控えめなドラミングのみ。



このアルバムで一番オルタナ・カントリー・ロックっぽい雰囲気のタイトル曲を挟んで、ちょっとワールド・ミュージックっぽいコーラスで始まり、カントリー・ラグタイム風なメインヴァースに入る感じが独特の「John Saw That Number」、これもアコギとニーコの声だけとシンプルながら素晴らしいボーカルとメロディが胸を震わせてくれる「Dirty Knife」、ナッシュヴィルのライヴが終わった後のクラブで残ったバンドが何となくクールダウンでプレイしてる、その前で昔風のクラシックなマイクをいたわるようにニーコが歌ってる、そんなイメージが喚起される「Lion's Jaws」などなど、アルバム後半も素晴らしい楽曲と、見事に構成された音像世界とのマッチングがあたかもフィルム・ノワールの映画を見ているかのような感覚でアルバムは完結します。



この後もニーコは『Middle Cyclone』(2009)、『The Worse Things Get, The Harder I Fight, The Harder I Fight, The More I Love You』(2013)と、いずれもクオリティの高い作品を出し続けていて、昨年2016年には以前からお互いに気になっていたという、k.d.ラングとやはりオルタナ・フォークのシンガーソングライター、ローラ・ヴェアーズとのユニット、ケイス/ラング/ヴェアーズ名義でのアルバムをリリース、いずれもシーンでは高い評価を受けています。


Fox Confessor (back)




それ以外にも映画サントラへの楽曲提供や、オルタナ・カントリー/フォーク・シーンのアーティスト達の作品への参加の他、カナダのインディ・ロック・バンド、ニュー・ポルノグラファーのボーカリストとしての活動も平行して行っていて、今年リリースのアルバム『Whiteout Conditions』にも2曲でリード・ボーカルを取っているなど、相変わらず多岐に亘る活動を行っているようです。

でも遅れてきたニーコ・ファンとしてはやはり彼女のソロ新作を聴いてみたいところ。ちょうど深まってきた秋の雰囲気にピッタリな彼女の歌声と楽曲の数々を肴に気の合った仲間と旨い酒など酌み交わしてみたいな、とふと思う今日この頃です。


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位54位(2006.3.25付)

同全米インディ・アルバムチャート最高位4位(2006.3.25付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#100「American Teen」Khalid (2017)

 #100American TeenKhalid (Right Hand / RCA / Columbia, 2017)


この週末は日本列島をなめるように通過する台風18号でとんだ三連休になってしまっていますが、西日本の台風被害にあった皆様の無事と被害が少しでも少ないことを祈っています。この台風が去った後は名実ともに素晴らしい音楽を充分楽しめる、気持ちのよい秋が到来することを楽しみにすることにしましょう。


早いものでこのコラムをスタートしてから今週の「新旧お宝アルバム!」で節目の100回目を迎えました。個人的にFacebookで毎日一曲アップしている《Song Of The Day》の方も900曲目に近づいていて、来年早々にはこちらも1,000曲目に到達する見込み。これを機に来年早々には何らかの形で日頃聴く機会のない洋楽の素晴らしいレコードを広く聴いて頂けるようなイベントを構想中なので、乞うご期待。ということで記念すべき100回目の「新旧お宝アルバム!」は、彗星のようにシーンに登場、いきなり各方面からの高い評価を集めている、テキサス州エル・パソ在住の今年若干19歳のR&Bシンガーソングライター、カリードことカリード・ロビンソン君のデビュー・アルバム『American Teen』をご紹介します。


American Teen 


最初にカリードのデビュー・シングル「Location」(最高位16位)がヒットチャートに登場した時は、そのレイドバックして成熟した歌唱スタイルや歌声からはとても彼がティーンエイジャーとは思えず驚いたのを覚えています。そしてその成熟した、表現力ありながら一歩引いたようなスタイルはこのシングルだけでなく、今回ご紹介するアルバム『American Teen』全体を通じて一貫していて、若干19歳でありながら、まるでキャリア充分なR&Bシンガーの作品であるかのような完成度を感じさせます。




彼自らペンを取って、ドレイクとの仕事で知られるナッシュヴィルベースのシック・センス(ジョッシュ・スクラッグス)など今の最先端のサウンドメイカー達と共作する楽曲群は、サウンド的には明らかに今メインストリームとなっているフランク・オーシャンオッド・フューチャー系の音響系R&Bサウンドをベースとしてます。従って音数も控えめで、シンセトラックとリズム・マシーンを軸にしたシンプルなものですが、彼の独特の歌声と明らかにR&Bだけではなく、オルタナ・ロック系の影響も受けているであろう楽曲のメロディ構成などが、全体のアルバムの印象をかなりオーガニックなものにしているのが、最近の新進のR&Bアーティスト達とはひと味違うところ。

事実カリード自身も音楽的影響として、ケンドリック・ラマーフランク・オーシャン、チャンス・ザ・ラッパーなどいかにも今時のブラック・ティーンエイジャーが好きそうなアーティスト達だけでなく、ジェームス・ブレイクファーザー・ジョン・ミスティ(元オルタナ・フォーク・ロック・バンドのフリート・フォクシズのメンバー)、グリズリー・ベアといった音響派フォーク系のオルタナ・ロック・バンドを上げているのは興味深いですね。



冒頭のアルバム・タイトル・ナンバーで、シンセドラムのロールから入ってくるカリードのボーカルがその後のR&Bっぽくないポップなメロディーに乗せて、一気にリスナーを彼の世界に引っ張り込み、続く「Young, Dumb & Broke」ではストイックながら何故かぬくもりを感じるドラムビートの打ち込みをバックにしながら、ちょっとカリビアンというかレゲエっぽい雰囲気のグルーヴを醸し出すカリードの歌で「何だこいつ、面白いな」と思わせてくれます。

シングルヒットした「Location」はシック・センスが作ったビートに、当時17歳のカリードがフックのメロディを付けて「君のロケーションを送ってよ/今はメッセージのやりとりに集中しよう/僕には今は成功するための時間と場所が必要なんだ」と、スマホのGPS機能を題材にして男女関係のストーリーを作ったという歌詞をわずか30分ほどで書き上げたという、カリードの才能を感じさせる楽曲。そして先ほど感じたカリビアン/レゲエセンスは、次の「Another Sad Love Song」で全開となり、ドラムス以外はすべてデジタルの打ち込みなのに、コーラスの雰囲気といい、カリードの鼻声でレイドバックした歌といい、思わず体を揺らせながら踊り出したくなるような曲


それ以降も、シンプルなエレクトリック・ギターの使い方がロック的ながらR&Bグルーヴの「Saved」、フランク・オーシャン直系のダウナー系入った音響派R&Bの世界全開の「Coaster」や「Cold Blooded」、そういう音を使いながらメインストリーム・ポップセンス溢れるアップビートなフックが楽しい「8TEEN」や「Hopeless」「Winter」などなど、アルバム全15曲、最後まで飽きることなくあっという間に聴けてしまいます。そして前述したとおり、カリードのティーンエイジャーとはとても思えない(風貌も含めて)成熟して表現力の豊かなボーカルがこのアルバム全体を特別なものにしているのです。


American Teen (back)


最近シーンでの躍進著しいケラーニ、ティナシェ、ギャラント、XXXテンタシオンといった今の若いR&Bアーティスト世代の中でも、このカリードは独特の表現スタイルと存在感で、今後大きくなっていく可能性を大いに秘めたアーティストだと思います。このアルバムも既に全米R&Bアルバム・チャートで堂々1位をマーク、おそらく今年のグラミー賞でも、新人部門やR&B部門で多くにノミネートされるのではないかと思われますし、既に7月に開催されたMTVビデオ・ミュージック・アウォードでは新人賞を受賞。


これから年末にかけて彼の露出も多くなっていくと思いますし、そんな動向を見ながら、今はこれから秋深まる中、彼のこの素晴らしいデビュー作をパワープレイで楽しみたいところです。


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位4位(2017.9.2付)

同全米R&Bアルバムチャート最高位1位(2017.8.5-19 & 9.2-9付 5週1位)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#99「White Light」Gene Clark (1971)

 #99『White Light』Gene Clark (A&M, 1971)


ちょっと前は天候も不順で、肌寒い日もあったりなどして一気に秋に行ってしまうのか、と思っていたらこの週末は久しぶりにいい天気と暑さが戻ってきてまだもう少し本格的な秋まではあるな、と思う一方、空気や空の雲やわたる風は明らかに夏のそれとは違ってきているのも事実。これからは徐々に深まっていく秋を感じながら音楽、楽しみたいですね。


さて今週は久しぶりに70年代初頭の古めのアルバムをご紹介。先週は今の若いオルタナ・カントリー系のシンガーソングライター、ジャスティン・タウンズ・アールをご紹介しましたが、今週はその親父のまたその上の世代のミュージシャンです。60年代後半の音楽的にはウッドストックジャニスジミといった影響力あるロック・ミュージシャンが若く他界するなど動乱の時期を経て、音楽界全体が成熟していった時期に60年代のキャリアを後に新たなシンガーソングライターとしてのキャリアをスタートしたカントリー・ロックの巨人、ジーン・クラークの2枚目のソロ・アルバムでこの時期のシンガーソングライターの傑作アルバムの一つと言われる『White Light』(1971)をご紹介します。


White Light 




古くからの洋楽ファン、特にアメリカン・ロックのファンであれば、ジーン・クラークと言えば1960年代にある時はサイケデリックな、またある時は伝統的なフォーク・ロック的味わいを持つ数々のカントリー・ロックの名盤を残したバンド、ザ・バーズの結成メンバーの一人として既によくご存知の名前でしょう。ただ、同じバーズの結成メンバーで、その後クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング(CSNY)などの輝かしいソロ活動で知られるデヴィッド・クロスビーあたりに比べるとどうしても地味な印象はあり、日本でも一部の熱心なファン以外に広く知られたアーティスト、というわけではないのが残念なところ。若い洋楽ファンにしてみればもっと彼の音楽に親しむ機会は少ないわけですが、実はバーズ時代から70年代のソロ時期にかけての彼の作品に大きく影響を受けた若いアーティスト達も多く、最近のバンドでいえばブルックリン一派の代表的バンド、グリズリー・ベアやシアトル出身のオルタナ・フォーク・ロック・バンドのフリート・フォクシズなどは頻繁にこの時期のジーンのアルバムを丸ごとライヴでやるなど今の若いアーティストへの影響は大きいものがあるのです。アメリカのアーティストだけではなく、UKのオルタナ・ロック・バンド、ティーンネイジ・ファンクラブなどはその名も「Gene Clark」というトリビュート曲をやってるほど。


バーズ時代は最初の2枚のアルバム『Mr. Tambourine Man』(1965)と『Turn! Turn! Turn!』(1965)に参加、「I'll Feel A Whole Lot Better」や「Set You Free This Time」といったバーズのナンバーの中でもビートの効いたロックっぽい優れた楽曲を提供していたジーンですが、1966年にバーズを脱退、初ソロアルバム『Gene Clark With The Gosdin Brothers』(1967)を経た後、バンジョープレイヤーのダグ・ディラードと組んで『The Fantastic Expedition Of Dillard & Clark』(1968)『Through The Morning, Through The Night』(1969)といったカントリーロック色の強い作品を出すなど、その作風を少しずつ変貌させて行っていました。

Gene Clark


そうしたタイミングでリリースされたこの『White Light』(ジャケにはタイトルがプリントされていませんが、ジャケにジーンのシルエットが見える丸い光をもってこの通称が使われています)は、いわゆるスワンプ系ロックでのスライド・ギター・プレイが有名なギタリスト、ジェシ・エド・デイヴィスがプロデュースおよび参加していることや、当時はまだバリバリのブルース・ロック・バンドだったスティーヴ・ミラー・バンドのメンバー、ベン・シドラン(ピアノ)とゲイリー・マラバー(ドラムス)が参加していることなどもあり、全体的にぐっとダウン・トゥ・アースな感じの強いアルバムになっています。楽曲はラス前のディランのカバー「Tears Of Rage」以外は全曲ジーンの自作自演。







冒頭、ハーモニカと軽いタッチのジェシ・エドのスライド・ギターで始まる「The Virgin」ではジーンが気持ちよさそうにレイドバックしたボーカルを聴かせていて、オープニングからして古い友達に再会したかのようなリラックス感が満載。シンプルなアコギの弾き語りで内省的な歌を聴かせる「With Tomorrow」、ジャグバンド風のバックに乗ってちょっとディラン風に軽快に歌うアルバムタイトル曲「White Light」、オルガンをバックにちょっとスワンプ・ロック・バラード風に聴かせる「Because Of You」など、アルバム前半はかなりバラエティに富んだ楽曲構成なのですが、一本ジーンのゆったりとした暖かいボーカルが芯を通していてアルバム全体のトータル感が高いところが素晴らしいところ。



5曲目の「One In A Hundred」あたりから冒頭に出てきたジェシ・エドのスライド・ギターがあちこちに登場し、よりカントリー・ロックっぽい楽曲表現に効果的な役割を果たしています。LPだとB面の頭になる「For A Spanish Guitar」はシンプルな2台のアコギをバックに、70年代のシンガーソングライターの楽曲のお手本とも言えるようなポップとカントリーっぽさが微妙に一体となった楽曲構成の曲で、あのディランが「史上最高の曲」と絶賛したという噂もある、このアルバムのハイライトとも言える曲です。




このアルバムの中で唯一メインストリーム・ロックっぽいエレクトリック・ギターのフレーズがイントロで聴かれて「おっ」と思わせる「Where My Love Lies Asleep」などは初期イーグルスのアルバムに出てきてもおかしくない、70年代クラシック・ロックっぽい佳曲(事実イーグルスはファーストでジーンバーニー・レドンの共作「Train Leaves Here This Morning」を演ってます)。ザ・バンドの名演で知られるディランの「Tears Of Rage」は原曲とザ・バンドに敬意を表してか、オリジナルのアレンジにかなり忠実にカバーしたバージョン。そして、アルバムラストはイントロからヴァースにかけてのコード進行がこれもイーグルスの「You Never Cry Like A Lover」(アルバム『On The Border』収録)を彷彿させる(というかおそらくイーグルスはこの曲からコード進行のアイディアを頂いたに違いない)、ちょっとシンガーソングライターっぽくない、先進的なカントリー・ロック曲「1975」。当時1975年は未来だったわけで、歌詞の内容もそうしたまだ見ぬ未来に向けて何かを探して進んで行くことの意味を歌っているように思えます。


White Light (back)


このアルバムは当時シンガーソングライター作品の傑作としてシーンでは評価されるものの、ジーン自身がプロモーションにあまり熱心でなかったこともあって商業的には残念な結果に終わっています。

ジーンはその後1973年のバーズの再結成に合流、アサイラム・レーベルから出た再結成アルバムに参加しますがバーズはすぐに再解散。再びソロになったジーンは同じアサイラムからの唯一のソロ・リリース『No Other』(1974)を発表。これも「White Light」をしのぐ傑作として高い評価を受けたのですが、こちらも商業的には振るわない結果となっています。

その後も2枚ほどのソロを出しながら、1979年にバーズのオリジナルメンバー3人でマッギン・クラーク・ヒルマンとしてアルバムを出したりと活動を続けましたが、晩年ドラッグとアルコール依存で健康を害してしまいます。1991年1月にオリジナル・バーズのメンバーとしてロックンロールの殿堂入り、自らの「I'll Feel A Whole Lot Better」を他のメンバーと一緒に演奏したのが公的パフォーマンスの最後となり、同年5月、46歳の若さで他界。


No Other


秋の雰囲気が日々強くなる今日この頃、70年代のシンガーソングライター・ムーヴメントの走りとも言えるこの名盤の楽曲を味わいながら、早逝したカントリー・ロックの巨人、ジーン・クラークに思いを馳せてみてはいかがでしょうか。


 <チャートデータ> チャートインせず

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#98「Kids In The Street」Justin Townes Earle (2017)

#98Kids In The StreetJustin Townes Earl (New West Records, 2017)


先週末くらいからめっきり秋めいた気温と天気になってきた今日この頃、学校も始まって一気に新しい季節が到来した感満載なのですが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。北朝鮮はポンポンミサイルを撃ったりと相変わらず世間は何かと騒がしいですが、芸術の秋、音楽の秋ということでいい音楽、引き続き楽しんでいきましょう。


さて先週イベント続きだった関係で一週間お休みしてしまったこの「新旧お宝アルバム!」、今週は新しいアルバムのご紹介の順番ですが、今日は来る秋にふさわしく、アメリカーナ・ロック・シーンで地味目ながら個性溢れる作品を作り出しているシンガーソングライター、ジャスティン・タウンズ・アールが今回ロックしている8作目のアルバム、『Kids In The Street』をご紹介します。

Kids In The Street


既にアメリカーナ・ロックのファンの皆さんにはお馴染みだとは思いますが、ジャスティンは1990年代にギター・サウンドを前面に押し出したロック寄りの骨太のカントリー・ルネッサンスの立役者となったギタリスト、スティーヴ・アールの実の長男です。

スティーヴは、1986年のアルバム『Guitar Town』で鮮烈にシーンに登場、新時代のカントリーの旗手として脚光を浴び、『Exit 0』(1987)、『Copperhead Road』(1988)、『The Hard Way』(1990)と力強いギター・ロック・ベースのカントリー・アルバムを発表してシーンでの存在感を確立。しかし1993~94年にヘロインとコカインの不法所持で約一年拘留されるという試練を経た後、90年代後半からはカントリーの枠に止まらず、人種差別や社会的弱者が経験する不合理、中東戦争への疑問や共和党政権への反発をメッセージとした楽曲を、以前よりは内省的なスタイルながら相変わらず骨太な演奏と楽曲スタイルでコンスタントにアルバムをリリースし続けています。つい今年も16作目にあたり、彼が拘留中に支援し続けてくれたアウトロー・カントリーの第一人者、故ウェイロン・ジェニングスに捧げた『So You Wanna Be An Outlaw』(2017)をリリースしたばかり。


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その父スティーヴが3回目の結婚でもうけたのが今回ご紹介するジャスティン。ミドルネームの「タウンズ」は、スティーヴが敬愛する60年代後半~70年代のカリスマ的なナッシュヴィルの無頼派シンガーソングライター、タウンズ・ヴァン・ザントの名前にちなんだものという、生まれも育ちもナッシュヴィルだったジャスティン生まれながらにしてミュージシャンへの道が待っていたようなそんな境遇にいました

ちょうど父が拘留されて母と二人きりで取り残されてしまった頃、ローティーンの頃から親の悪いところを受け継いでドラッグに手を染めたこともあって高校をドロップアウトもしましたが、父が戻ってからは父のバンドの一員としてツアーに同行したり、ナッシュヴィルを拠点にバンドをやったりして自らのミュージシャンとしての経験を積み、2007年インディからファースト・アルバム『Yuma』をリリース。

その後2010年にリリースした4作目の『Harlem River Blues』が高い評価を受け、タイトル曲が翌年のアメリカーナ・ミュージック・アウォードで最優秀ソングを受賞して、ジャスティンの名前と評判は一気にアメリカーナ・ロック・シーンのみならず全米の音楽シーンに知られることとなったのです。


ただここ最近の作品は『Single Mothers』(2014)にしても前作の『Absent Fathers』(2015)にしても、父拘留中の時代を思い返すようなテーマのアルバムで、しかも楽曲もかなり内省的なスタイルのものが多かったので、このままどんどん地味になっていくのかな、と気になっていました。


ところが今回のアルバムに針を落として、一曲目の「Champagne Corolla」(シャンペン色のカローラ、そうあのトヨタカローラです)を聴いた瞬間に「おお、ジャスティン吹っ切れたな!」と思わず嬉しくなったもんです。何しろイントロの全力でドアをバンバン叩くような重厚なドラムスから、オルガンをバックにR&Bベースのロックンロールを、いつものレイドバックした歌いっぷりでぶちかますジャスティンこのアルバムは多分ここ数作の中で一番ロックっぽい作品になっていたのです

そのひたすら元気のいい「Champagne Corolla」からレイドバックしたミディアムテンポの「Maybe A Moment」、このアルバムで一番カントリーっぽいナンバーでペダルスティール・ギターとウォーキング・シャッフルリズムで伝統的なカントリー・チューンの「What's She Crying For」、そしてニューオーリンズのプロフェッサー・ロングヘアにインスパイアされたという、ニューオーリンズのR&Bファンク色いっぱいのクラシックなグルーヴ満点の「15-25」まで、アルバム前半はとにかくアメリカーナ・ロックといってもよりストレートでクラシックなカントリー、R&B、クリオールといった様々な要素を称えた楽曲を、ジャスティンが独特のレイドバックなボーカルで軽々とぶちかましてくれます。



自らの子供時代(といっても1990年代ですが)を懐かしむアコギ一本のしんみりとしたアルバムタイトル曲、南部のラウンジで奏でられているかのようなギターとマンドリンの音色がマリアッチっぽい情緒を思わせる「Faded Valentine」、ピッキング・ギターと時折入るペダルスティールギターとオルガンのみのシンプルなバッキングがジャスティンの個性的なボーカルを映えさせている「What's Goin' Wrong」など、アルバム中盤はちょっとペースダウンしたナンバーでほっこりさせてくれるのもこの人の味


後半に移るとまたまた南部の匂いが漂うロックな「Short Hair Woman」やトラディショナルナンバーを編曲した「Same Old Stagolee」、スローながらおどろおどろしさを感じさせる、これもいかにも南部的な「If I Was The Devil」などが続き、シンプルなギターのリズムが楽しい「Trouble Is」、そして最後は抑えめのオルガンのバックと控えめに入るホーンセクションが、南部の教会あたりで演奏されているのではないか、といったイメージを惹起させてくれる、ゴスペルちっくなナンバー「There Go A Fool」で締められます。



ジャスティンはこの7月に初めての子供を授かったらしく(名前がエタ・セント・ジェームス・アール何とR&Bな名前の女の子なんでしょう)、この作品を作っている時は奥さんが妊娠中でもあったことが、今回のアルバムの比較的な明るさとアップビートで吹っ切れた感じにつながったことは容易に想像が付きます。結果、このアルバムは最近のジャスティンの作品の中では飛び抜けて優れたロック作品でありジャスティンの素直な心情が伝わってくる作品となっています。

Kids In the Street (back)


なかなか来日はしてくれないでしょうが、野外フェスなどでは精力的にライヴ活動を展開しているジャスティンそのうち親子で来日、なんてことがあれば絶対観に行くのですが、それまではこのジャスティンの最新作で、彼の心踊る楽曲を楽しむこととしましょう。


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位161位(2017.6.17付)

同全米ロック・アルバムチャート最高位37位(2017.6.17付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#97「Your Favorite Record」Linus Of Hollywood (1999)

#97『Your Favorite Record』Linus Of Hollywood (Franklin Castle, 1999)


先週のお盆の週は「戻り梅雨か?」と思うほど雨や曇りの日が多く、真夏とは思えない天気が続きましたが皆さんは体調など大丈夫だったでしょうか。自分は夏休みの週ということであちこちに出かける予定もあったのですが、天気のおかげでお出かけの代わりに家の片付けなどをする日も多く、思わず家の中が整理されて良かったような悪かったような(笑)。先週末のサマソニも雨に見舞われたりとなかなか苦労した方も多かったのかも。

さて今週の「新旧お宝アルバム」はいつもよりはぐっと最近のレコードで。折しも9月初旬にほぼ10年ぶりの来日ライヴを東京・大阪で行う予定の、ライナス・オブ・ハリウッドことケヴィン・ドットソンが1999年にリリースした、珠玉のポップ・レコード、『Your Favorite Record』をご紹介します。


Your Favorite Record 

あの大富豪、ウォーレン・バフェットが住んでいることで有名なネブラスカ州オマハ出身のケヴィン(ステージ・ネームの由来は彼が20代にLAに移り住んだ時、よくあのピーナッツ・コミックスライナスが着てたようなストライプのシャツを着てたかららしい)がインディ・レーベルからこのアルバム、ブライアン・ウィルソンロジャー・ニコルス、ヴァン・ダイク・パークスそしてピーター・ゴールウェイといったいわゆるパイド・パイパー・ハウス系のアメリカン・ポップ・ソングがお好きな洋楽ファンであれば、きっとニヤニヤしながら楽しんで聴けて、結果大満足してもらえること間違いなし!というレコードです。

そもそもタイトルからして『君のお気に入りのレコード』なんて、遊び心いっぱいのネーミングで、ジャケもタンテに乗っけたレコードの写真というまあそのものズバリのお遊び感覚満点の作品。


アルバム冒頭の「Say Hello To Another Goodbye」からそうしたポップ・センスが溢れるような、無茶苦茶ポップなヴァン・ダイク、といった感じのバラードで、「さよならよ、またこんにちは」なんていう、ちょっと屈折した歌詞をちょっとファルセットっぽいボーカルで聴かせるあたり、既にここでニヤリとするリスナーも多いのでは。そして続く「Heavenly」。イントロのオルガンのリフからして、こりゃビーチ・ボーイズの「Good Vibrations」ではないの、と爆笑。でも楽曲の作りはアメリカン・スタンダード・ポップ・ナンバーのスタイルを忠実に守り、所々にメジャー7thコードなども散りばめた、とてもポップな作品。

ピアノの半音降下コードで始まる「Nice To Be Pretty」も、アコギとリズム・セクションだけのバックでXTCあたりを思わせる、随所に変拍を織り交ぜたマイナーコードでミディアム・アップで、後半ビートルズ後期を思わせるSEが入る「The Man Who Tells The Crazy People What To Say」も、そしてピアノ弾き語りの「Thankful/It's Over Now」もどれもこれも、60年代後半~70年代前半にかけて輝きを放っていたパイド・パイパー・ハウス系のソフト・ロック・サウンドのオンパレードで、これ絶対どっかで聴いたことある!と思わせる既視感(既聴感?)いっぱいの楽曲ばかりです。



このアルバムでライナスは自作曲だけでなく、彼がこのアルバムで再現しようとした60年代後半のソフト・ロック・サウンドの作者の一人、マーゴ・グリヤンの曲を2曲カバーしています。マーゴは60年代女性ポップ・シンガー、ジャッキー・デシャノンクローディン・ロンジェらが歌った「Think Of Rain」(1967年)や、同じく60年代のドリーミー・ポップ・グループ、スパンキー&アワ・ギャングが歌ってヒットした「Sunday Morning」(1968年全米最高位30位)などを書いたソングライター。

ライナスはこのアルバムでその「Sunday Morning」と、そのマーゴ自らバックでピアノを弾く「Shine」の2曲をカバーしてますが、彼の作り出すソフト・ロック・サウンドと見事に一体化しているのには思わず微笑んでしまいます。



マイナーコードのアコギのシャッフル・ストロークで始まり、途中ホーンとコーラスが控えめに入る「When I Get To California」なんて、まんまカリフォルニア・ソフト・ロック・サウンド。「これ、絶対60年代ポップ・ヒットのカバーだろ」と思わせる楽しい「Good Sounds」やニルソンあたりを思わせる「Everybody's Looking Down」もいいですが、アルバム後半の白眉は、イントロから歌い出し、サビのメロディからコーラスの入り方など、ブライアン・ウィルソンや山下達郎の顔が目にちらついてしょうがない「A Song」。この曲は多分このアルバム全体を象徴する完成度を持った珠玉のポップ楽曲といって差し支えないでしょう。

アルバム最後はお風呂の水音のSEをバックにアコギとコーラスだけで、とってもハッピーな感じで締める「Let's Take A Bath」。


Your Favorite Record (back)


ライナスはこうしたドリーミーでハッピーで、美しくも遊び心満点のポップサウンドに辿りつくまでには、パンク・バンドをやったり、ヒップホップのアーティストの作品にバックで参加したり、やはり90年代を代表するパワー・ポップ・バンド、ジェリーフィッシュロジャー・マニングJr.のバックを努めたりとそれこそ幅広い音楽ジャンルをカバーする活動を経験してきたようです。また、日本とも縁が深く、パフィや木村カエラのアルバムに楽曲を提供したりと、とてもユニークで個性的な活動を続けてきています。


この『Your Favorite Record』の後、現在に至るまで5枚のアルバム(最新作は2014年の『Something Good』)をリリースしてきているライナス・オブ・ハリウッド、その織りなすポップ・ワールドは、人によっては「単なるレトロ、懐古主義ではないか」「新しいものはなく、伝統主義的ポップに過ぎない」という批判もあるでしょうが、そうした「伝統主義的ポップ」の作り出すマジックがここには確かにありますし、そうした音楽をこよなく愛する洋楽ファンにとっては、間違いなく珠玉の作品として楽しんでもらえるものだと思います。


Linus Of Hollywood


セミ達がこの夏最後の力を振り絞って鳴く声が、暑さがやや和らいできたこの季節の終わりを感じさせる今日この頃、ライナス・オブ・ハリウッドの素晴らしいポップ・ワールドを堪能して、来る秋を感じるというのも乙ではないでしょうか。


 <チャートデータ> チャートインせず

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

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