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Life Is A Rock - 洋楽こそ我が人生
洋楽全般について、英米ヒット・チャートに登場有無に関係なく、お気に入りの洋楽作品についての独り言やコメントをつれづれに掲載します。「新旧お宝アルバム!」「恒例グラミー賞大予想」など定期コラムが中心です。洋楽 ファンサイト、meantime(www.meantime-jp.com)のスピンオフ企画としてお楽しみ下さい。
【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#128「Under The Table And Dreaming」Dave Matthews Band (1994)

 #128Under The Table And DreamingDave Matthews Band (RCA, 1994)


静かながら暑いお盆週間が過ぎ、先週末あたりから急に朝晩そして昼間の気温も湿度もぐっと下がり、一気に秋の到来を思わせる素晴らしい天候が続いていますね。この週末はこの最高の天候でサマソニを満喫した洋楽ファンも多かったことでしょう。このまま一気に秋に突入してほしいものですが。


さて今週の「新旧お宝アルバム!」、久しぶりに90年代を見直そうシリーズで、日米でこれだけ知名度と人気度のギャップの大きい実力派ロック・バンドもそうそういないのでは、と言うほど日本では一部の熱心なファン以外に知られていないのに、USでは年齢問わずクラシック・ロック・ファンの間で絶大な人気を誇る、アメリカを代表するロック・バンドの一つ、デイヴ・マシューズ・バンドがその人気を決定づけた2作目のアルバム『Under The Table And Dreaming』をご紹介します。


Under The Table And Dreaming 


90年代作品を改めて評価してみようシリーズ、通算第6弾。


日本でデイヴ・マシューズ・バンド(DMB)というバンドを知っている洋楽ファンは果たしてどのくらいいるのか。南アフリカ出身のデイヴ・マシューズを中心に、アメリカはヴァージニア州シャーロッツヴィルをベースに1991年から活動。本国アメリカでは今回ご紹介する『Under The Table And Dreaming』でメジャーブレイク、次作の『Crash』(1996)で人気を決定付け、その次の『Before These Crowded Streets』(1998)から今年6年ぶりにリリースされた新作『Come Tomorrow』までスタジオアルバム7枚連続をNo.1とし、U2(連続5枚No.1)やメタリカ(連続6枚No.1)を上回り、メインストリーム・ロック・アーティストでは同じく7枚連続No.1の記録を持つコールドプレイと並んで絶大なマス人気を誇るバンドなのに、日本では彼らの曲がオンエアされたり、名前が音楽誌等で大きく取り上げられることは大変少ない、という状況には常々疑問を持ってきました。

自分は90年代半ばに洋楽ファンコミュニティ「meantime」に関わった頃に当時エアプレイ・チャートでこのアルバムからガンガンにヒットを飛ばしていた彼らの作品に触れ、その後2000~2004年のNY駐在時に、現地でのDMBの人気の凄さを目の当たりにして以来この疑問はずっとあります。


DMB.jpg


彼らのサウンドを一言で言うのは大変難しいのですが、いくつかのポイントを挙げますと、


1.70年代ロックのスタイルを底辺に、ジャズ、フォーク、ファンク、R&B、ブルースといった様々なジャンルの要素を複雑に取り入れた多様な楽曲を、高い演奏力で90年代以降のロックバンドらしい先進性を持ったスタイルを実現している。


彼らの作品を聴いてすぐに気が付くのは、とても複雑な演奏とコード進行を駆使し、ほとんどジャズロック・バンドのような高い演奏力で複雑なグルーヴを聴かせてくれる、ということですが、彼らのサウンドの底辺を支えているのはジャズというよりも、むしろ70年代初頭の頃のメインストリーム・ロックやスワンプ、ブルーズロックなど、90年代以降新しい洋楽から離れてしまったシニアな洋楽ファンでもとても楽しめる要素なのです。このあたりが、USではシニアなファンも含めて絶大な人気を得ている大きな要因。

また、メンバー達の演奏力はただ者ではないレベルで、リーダーのデイヴはこのアルバムを含む最初の3枚では一切エレクトリック・ギターを使わずアコギでの演奏にこだわりながら、いわゆるアコースティック・ミュージックではなく、大きなうねりのあるグルーヴを生み出すサウンドを、エレクトリック・ヴァイオリンやサックスなど通常のロック・バンドではあまり使われない楽器も駆使した魅力的な個性を実現しているのです。


2.ライヴ活動を重視し、数々のライヴ・アルバムを通じて70年代のジャムバンド的なフォロワー層や人気を確保している。


彼らのライヴの人気もUSでは非常に高く、チケットはプレミアムがついてすぐ売り切れるのが当たり前(自分もNYで電話申し込みで一瞬チケットを確保しながら、クレジットカードを取り出している間にあっという間にチケットがなくなった、という悲しい経験をしています)。ライヴではその演奏力をバックに単にアルバムの再現をするのではなく、延々とインプロヴィゼーションを繋いで全く新しいアレンジで聴かせたり、アルバム未収録ながらライヴ定番の曲があったりと、ファンがDMBを「90年代のグレイトフル・デッド」と例えるように、ジャムバンド的なライヴのスタイルが有名です。

ことほどライヴを重要視してますが、デッドのようにライヴ音源録音自由で草の根によるファンへの音源供給というスタイルではなく、ライヴ音源の不法な商品化を行う業者を当局と連携して逮捕させたりして不公平な音源供給を防ぐ一方、これまで15作のライヴ・アルバム(そのほとんどが2枚~3枚組)をリリースし、ライヴに行けないファンにも音源供給を確保するなど、新世代のジャムバンドとしての対応を行っています。

DMB RS


そのDMBのメジャーブレイク作となったこの『Under The Table And Dreaming』はまさしく上述した様々な音楽的要素が既に高い完成度で練り上げられ、高い演奏力で複雑なグルーヴによるロックを聴かせてくれる、そんなアルバムになっています。そしてそのアルバムをプロデュースするのは、先進的でエッジの立った音作りでは定評のある名匠スティーヴ・リリーホワイト。DMBの初期3枚をプロデュースした彼もDMBのシグニチャー・サウンドの形成に大きく貢献した一人。


オープニング「The Best Of What's Around」はややレイドバックしたリズムをバックにやや陰りのある複雑なメロディを聴かせますが、サビの部分はキャッチーに聴かせるナンバーで、デイヴのちょっと鼻にかかった独特のボーカルでラジオ等でかかれば一発で「あ、DMB」とわかる曲。

デイヴと僚友のギタリスト、ティム・レイノルズの二人が繰り出す達者なイントロの複雑でリズミックなアコギのフレーズから強いビートのメインに入っていく「What Would You Say」はR&B的要素が強い、彼らの最初のエアプレイヒット。あのマイケル・マクドナルドがバックコーラスに入っており、バックでハーモニカを吹いているのは当時人気の高かったブルース・トラヴェラーズジョン・ポッパーです。

続く「Satellite」も複雑なアコギのフレーズ(デイヴがギターの運指練習に使っていたフレーズを使ったとのこと)とそれをバックアップするヴァイオリンの演奏から静かに始まり、6/8拍子のテンポに乗ったゆったりとしたナンバーでこちらもエアプレイでヒット、ライヴなどでも人気の高い曲。



こちらも複雑なギターリフをバックに珍しくデイヴがつぶした声でのヴォーカルで歌う「Rhyme & Reason」、静かなアコギのイントロでちょっと息をつく、こちらもライヴ定番曲「Typical Situation」に続いて再びマイケル・マクドナルドがバックコーラスに入った「Dancing Nancies」はちょっとミュージカルの挿入曲のようなシアトリカルなアレンジで始まり、メインに入るとちょっとメンバーのリロイ・ムーアのアルト・サックスが効果的な異国調のコード・メロディが展開されるちょっと変わったスタイルの曲



後半は、彼らの看板的な代表曲で、初期の最大のエアプレイ・ヒットだった「Ants Marching」。エレクトリック・ヴァイオリンやサックスのリフをバックに後打ちのシャッフルリズムに乗って時にはファルセットを駆使してボーカルを聴かせるデイヴが気持ち良さそう。静かなアコギをバックの、しかしリズミックな「Lover Lay Down」に続いて出てくるのは、これこそDMBライヴでの定番人気曲、彼らのライヴ盤には必ずといっていいほど収録、それも延々とインプロヴィゼーションを加えてショーのハイライトとして演奏される「Jimi Thing」。タイトルの通り、あのジミヘンをイメージして作られた曲だと思われますが、初期ドゥービーを思わせるアコギストロークのイントロから次第次第にDMBのお馴染みに複雑で無国籍なグルーヴとリズムに発展するこの曲、ライヴで聴くとまた一段と盛り上がること必至

その「Jimi Thing」同様、初期の頃から現在に至るまでライヴでの人気が高くほとんどのライヴで演奏される「Warehouse」はこちらもデイヴとティムのアコギ2台の複雑なギターワークが大変印象的で、そこからどんどん後半にかけて様々な楽器やリズムがなだれ込んでカタルシスを上げていくというDMBお得意のパターンの楽曲。



アルバムの最後は後乗りリズムでのアコギのリフに乗ってデイヴが歌う静かめな「Pay For What You Get」に続き、このアルバム唯一のインスト・ナンバー「#34」でアルバムは終わりますが、この曲はのち2008年に事故死するバンドのサックス奏者リロイ・ムーア他2名との共作。曲中何度も複雑に転拍するアコギのフレーズにリロイのサックスがオブリガードのように乗って演奏されるこの曲、最初にライヴで演奏された1993年のバージョンでは歌詞があったものを、このアルバム録音ではインストにしたという楽曲。2008年リロイ逝去後のサマーツアーではアンコールブレイクでリロイの映像を流すバックにも何度か使われたというこの曲、その後も何度かライヴでは歌詞付でプレイされたという、DMBにとって様々な意味で特別なこのナンバーで静かに終了します


Under The Table And Dreaming (back)


このアルバムがリリースされる直前の1994年1月には、デイヴの姉アンの夫が自殺直前にアンを殺害するというショッキングな事件があり、アルバムのライナーには「このアルバムをアンの思い出に捧げる」というコメントが入っており、そうした意味でもこのアルバムはデイヴ自身にとっても大変特別なものだったに違いありません。このアルバムのブレイク、そして次の『Crash』の大ヒットで名実ともにアメリカを代表するロック・バンドとなったDMBこのアルバム収録ナンバーの多くが今でもライヴで演奏されるあたりに、彼らのこのアルバムに対する思いが忍ばれます


今年リリースの新作『Come Tomorrow』でも変わらぬ個性あふれるグルーヴ満点の楽曲を聴かせてくれているDMB。恐らくギャラの問題が大きすぎてなかなか来日は難しいのでしょうが、そのうちフジロックあたりに来てくれないか、と密かに思っているのです。それまではこのアルバムをはじめ、DMBの作品を聴いてそのグルーヴに身を任せることとしましょう。


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位11位(1995.6.10付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#127「Against The Grain」Phoebe Snow (1978)

 #127Against The GrainPhoebe Snow (Columbia, 1978)


相変わらず暑い毎日が続いていますが、このお盆前の週末に一雨入ってからは、気持ち暑さもややしのげるレベルになってきたような。今週はお盆ですのでお休みで帰省その他であちこちに出かけている方も多いでしょうが、水の事故等も多いようですのでくれぐれも安全に気を付けて、暑い夏を楽しんで下さい。

さて「新旧お宝アルバム!」は、先週のジョージャ・スミス同様、声を聴くだけでちょっとだけ涼しさを運んできてくれるシンガー、ということでスタイルはだいぶ違いますが、皆さんよくご存知の素晴らしくソウルフルなのに軽やかな歌声のシンガーソングライター、故フィービ・スノウの5作目のアルバム『Against The Grain(詞華集)』をご紹介します。

Against The Grain 

フィービ・スノウというと、コントラルトの澄み切った歌声ながらR&Bやブルーズ・スタイルの歌唱で独特の魅力を持っているシンガーで、デビュー・アルバム収録の「San Francisco Bay Blues」のカバーや、彼女唯一の全米トップ10ヒット「Poetry Man」(1975年最高位5位)で彼女の素晴らしいボーカル・パフォーマンスに出会ってぶっ飛んだ、という方も多いことと思います。

でも、自分がリアルタイムでフィービの歌にノックアウトされたのは、デビュー後間もなくして、1976年にグラミー賞最優秀アルバムを獲得したポール・サイモンの『Still Crazy After All These Years(時の流れに)』に収録されていたヒット曲「Gone At Last(哀しみにさよなら)」に共演してポールとデュエット、そのブルース・スタイルでスイングしながらパンチの効いたボーカルを聴いた時でした

声を聴いただけですぐフィービとわかる特徴的なのに魅力的。技巧的にも優れているだけでなく、ブルース、フォーク、R&B、ジャズといった様々な音楽スタイルをこなし昇華しながら、ワン・アンド・オンリーのスタイルのシンガーとしてシーンから、評論家から極めて高い評価を得ていたフィービ。しかしそのスタイルが多様であるが故に、センセーショナルなデビューを果たしながら、大手レコードレーベルは彼女をうまくマス・プロモーションできず、商業的な成功には残念ながら恵まれず。

一方私生活では、デビュー後まもなく結婚して1975年12月に授かった娘ヴァレリーが生まれながらにして脳障害を患っているという不幸に見舞われ、施設に入れずに自宅での養育を選ぶという決断を。正にこのアルバム制作中の1977~1978年はヴァレリーの看病をしながらの音楽活動を行っていたわけで、ライナーノーツにある「このアルバムは愛する娘、ヴァレリーに捧げる。愛しているわ」と言う控えめなコメントが彼女の苦労を忍ばせます。

Phoebe Snow

2作目の『Second Childhood(夜の調べ)』(1976) 以降移籍したメジャーのコロンビア・レコードは、同作のフィル・ラモーンビリー・ジョエルストレンジャー』等プロデュース)、次の『It Looks Like Snow(雪模様)』(1976)のデヴィッド・ルービンソン(70年代のポインター・シスターズのブレイクに貢献したジャズ系の大物プロデューサー)、そしてこの前作にあたる『Never Letting Go(薔薇の香り)』(1977)では再びラモーンと、大物プロデューサーをつぎ込んでフィービの再ブレイクを狙ったのですが、残念ながら商業的には今ひとつ。娘の養育の負担が彼女の音楽活動に陰を落とす中、最後のトライアル的に作られたのがこのアルバムではなかったか、と察せられます。

このアルバムではラモーンが引き続きプロデュースを担当していますが、共同プロデューサーとしてマッスルショールズ・スタジオの主要人物として有名なバリー・ベケットが名を連ね、キーボードとシンセサイザーで全面参加すると共に、アルバム全体の最終ミックスもバリーが、自分のマッスルショールズ・サウンド・スタジオで行っています。

その結果、前作までと同様、名うてのセッション・ミュージシャン達(スタッフのメンバーやウィル・リー、ヒュー・マクラッケン等)でバックを固めながら、それまでの作品のよく言えば洗練されたサウンド、悪く言うと「小綺麗すぎるサウンド」とは一線を画した、中低音のパワーとメリハリが素晴らしい、引き締まったサウンドが全体のグルーヴを一段上げています

その効果はA-1の「Every Night」からしていきなりリスナーを持って行くフィービの歌唱とサウンドに如実に表れています。ポール・マッカートニーのソロ第1作『McCartney』(1970)に収録されていた曲のカバーであるこのトラックは、楽曲のアレンジとタイトなリズムにフィービのボーカルがぴったりマッチした素晴らしいバージョン。この一曲でこのアルバムに対する期待が大きく膨らむというものです。


続く「Do Right Woman, Do Right Man」はマッスルショールズ・サウンドを代表すると言ってもいい、あのアレサ・フランクリンのバージョンの他数々の名カバーでつとに有名なスワンプR&Bの定番曲バリーがこの曲をフィービラモーンに強くプッシュしたことは想像に難くありません。そしてその結果はやはりフィービのボーカル特性を存分に生かした出来になっています。

その後も70年代初頭、モータウンから離脱してインヴィクタス・レーベルを作ったブライアン・ホランドの作によるエイス・デイのヒット曲を性別を女性から男性に変えた「He's Not Just Another Man」でファンキーなバックのリズムに乗ってフィービ本来のブルージーな魅力が聴けるという、バリー結構好き勝手にアルバムをマッスルショールズ色に染め上げたA面のプロデュースワークが光っています

フィービ自作のやや内省的で静かな「Random Time」を挟んで、タイトなA面を締めるのは、パティ・オースティンのファースト『End Of A Rainbow』(1976)に入っていたパティ作のミディアムのドリーミーなナンバー「In My Life」です。


B面になると、楽曲的には4曲目の『The Married Men』(個性的なパフォーマンスで知られた3姉妹のグループ、ローチェスのナンバー)以外はすべてフィービの自作曲。B面トップの「You Have Not Won」は「あなたは私にプレッシャーを与えて打ちのめすけど、私は逃げないし、あなたは勝ったわけではない」と、正しく娘の病気と闘うこの頃のフィービの苦しみがにじみ出ているような曲ですが、続く「Mama Don't Break Down」はニューオーリンズのスワンプ・ミュージックを思わせるようなファンキーで軽快なナンバーにフィービが軽々とグルーヴ満点のボーカルを乗せて聴かせる、と言う曲でちょっとほっ、とします。




続いて、LAでの男性との苦い過去の思い出を歌ったように聞こえる静かで美しい「Oh, L.A.」でまたちょっとフィービの辛い心理的側面が垣間見えますが、上記のローチェスのカバー「The Married Men」では冒頭にルイジアナ、という歌詞が出てくるように、これもまたニューオーリンズのファンキーなスタイルな楽曲で、たゆとうようなフィービのボーカルのヴィブラートがよくマッチした素敵なカバーに仕上がっています。

そしてアルバムラストの「Keep A Watch On The Shoreline」はまた内省的で希望を追い求めるけどもたどり着けない、といった切なさを感じさせるような歌詞を、やや哀しげなメロディに乗せてフィービが思いに埋もれるような感じで歌う、という感じで、アップとダウンが交互するB面を象徴するような形でアルバムが終わります。

Against The Grain (Back)

後のインタビューで「この頃は娘の病気の関係で音楽活動に打ち込めなかった」と言っているように、このアルバムを最後にフィービコロンビアを離れ、1981年にアルバム『Rock Away』をリリースしただけで80年代は音楽シーンの一線に出てくることはめっきりなくなりました。恐らくその間娘ヴァレリーの養育に注力していたのでしょう。

それでも1989年久しぶりにリリースしたアルバム『Something Real』がちょっとしたヒットとなったのをきっかけに音楽活動を再開。90年代は数々のイベントライブやNYでの企画コンサートやイベントに参加、特にドナルド・フェイゲンマイケル・マクドナルドを中心としたNYビーコン・シアターでの「New York Rock And Soul Revue」に参加して1992年に出たアルバムでも数曲フィービの久しぶりの歌声が聴かれていました。

その後も1998年には当時のジュリアーニNY市長からNY文化功労賞を授与されたり、1999年にはキャンプ・デイヴィッドに招かれて当時のクリントン大統領夫妻を前にパフォーマンスするなど、着実な活動を行っていましたが、残念ながら2007年に娘ヴァレリーが長年の闘病の結果31歳で急逝

フィービ自身も2008年にリリースしたライブ盤『Live』を最後に、2010年1月に脳内出血で倒れた後、2011年4月にその60歳の短すぎる生涯を終えたのでした。

このアルバムでもふんだんに聴かれる彼女の素晴らしい、独特の魅力をたたえた歌声を聴くにつけ、彼女のシンガーソングライターとしてのキャリアはもう少し商業的にも恵まれたものになれなかったんだろうか、とどうしても考えてしまいます。おそらくこんな声で、こういうスタイルでここまで心を揺さぶることのできるシンガーはそうそう現れないのでは。そんなことを思いながら、お盆の週、フィービの歌声を聴きながらまだまだ続く暑い夏を過ごしています。皆さんも是非フィービの歌声、暑い夏のお供にいかがでしょうか。

<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位100位(1978.12.2付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#126「Lost & Found」Jorja Smith (2018)

 #126Lost & FoundJorja Smith (FAMM, 2018)


いやあそれにしてもこの7月、そして8月に入ってもちょっと外に出ると気持ちの悪いくらいのレベルの猛暑。だからというわけでもなく、たまたま自分の7月が公私ともにとんでもなく多忙だったこともあってこのブログも丸々一ヶ月、ちょっと一足お先に夏休みを頂いてしまってました。その間に中国には2回も出張で行って疲れたり、一方でフジロック・フェスティヴァルに参戦して、ィランケンドリック・ラマーをはじめとした素晴らしいパフォーマンスで仕事の疲れを癒やしたりしてきました。


ということで一ヶ月の「新旧お宝アルバム!」は、このたまらない暑さの中でも涼しげな歌声を聴かせてくれて、耳を傾けるにつけちょっとだけこの猛烈な暑さを忘れさせてくれる、そんな素敵な新人アーティストはいかがでしょう。しばらく前から英米のR&Bシーンでは評判になってきていて、今年はキャリア初のワールド・ツアーの一環で今月日本のサマーソニックへの出演も決定しているイギリス出身の女性R&Bシンガーソングライター、ジョージャ・スミスのデビュー・アルバム『Lost & Found』をご紹介します。


Jorja_Smith_-_Lost__Found.png


幼少の頃から、やはりR&Bミュージシャンだった父親の影響もあって、スカやダブ・レゲエで有名なUKのトロージャン・レコードの作品や、カーティス・メイフィールドといったアーシーでオーガニックな音楽の中で育ったジョージャ、その彼女が一貫して聴かせてくれるのはやはりそうした出自を反映した、オーガニックで地に足のついたR&B作品

彼女が英米のメインストリーム・シーンでその名前を取り上げられるようになったのは、2016年に初めてリリースした4曲入りEP『Project 11』の中から「Blue Lights」という曲がUKのブラック・ミュージシャンを対象にした音楽賞、MOBOアウォード最優秀ソングにノミネートされたのがきっかけ。その年UKでツアーをしたドレイクのサポート・ボーカリストとしていくつかのライヴに参加したのが縁で、2017年リリースのドレイクの大ヒット・アルバム『More Life』には彼女のボーカルをメインフィーチャーしたその名も「Jorja Interlude」というショート・トラックに続く「Get It Together」に大きくフィーチャーされ、その名前と存在をUKのみならず世界中に広く知られることに。


シーンでのバズが高まっていく中、今年に入って、過去アデルサム・スミスらが受賞しているUKの音楽評論家が選ぶBrit Critics' Choice Awardを受賞ジョージャ自分でも言っているように「自分が書いてきた曲をそろそろ世間でも自分の名前が出てくるようになったから、アルバムで出そうかと思って」と今年4月に初フルアルバムのリリース予定を発表、そして6月にリリースされたのがこのアルバム『Lost & Found』というわけ。

その間もシングル「Teenage Fantasy」などのビデオをリリースしたり、アメリカの有名ロックフェス、コーチェラに出演してこのアルバム収録の新曲を披露したり、様々なアーティストが図書館のようなスペースで生のライヴを披露することで人気のネット番組「NPR Music Tiny Desk Concert」で素晴らしいライヴを披露したりと、なかなか自分のメディア・プレゼンスを嫌味のないステップでタイミング良く大きくする活動も繰り広げてきました


Jorja Smith


そしてリリースされたこのアルバム。全体を通して聴いてまず自分が感じるのは、アリシア・キーズローリン・ヒル、シャーデーといったヒップホップやジャジーな味わいのオーガニックR&Bの魅力で我々を虜にしてきた数々の先達の系譜上にあるシンガーであり、作品だということ。

ちょっとエイミー・ワインハウスや、ヒップホップ・シンガー達のスタイルも感じさせるクセのある歌い回しながら基本的にはコントラルト・ヴォイスなので、今風R&Bなスペーシーで夢見るような音像とも相まって独特の浮遊感を感じさせる、ひたすら気持ちのいいボーカル・パフォーマンスは、どの世代のR&Bファンにも問題なく受け入れられるのではないでしょうか



オープニングのアルバム・タイトル曲「Lost & Found」からして、エレピの涼しげな音とタイトでゆっくりとしたリズムをバックに、スキャットからふわっと立ち上がってくるジョージャのボーカルにはぐっとハートを捕まれること間違いなし。そしてバックのサウンドは明らかにUSではなく、UKの、それもヒップホップや90年代のアシッド・ジャズあたりを経由して作りあげられた浮遊感とグルーヴと清涼感が一体となったサウンドで、同じオーガニックR&Bといっても、ジル・スコットとかアンジー・ストーンとかの生活感の強いグルーヴとはちょっと違うところがミソです。

2曲目の「Teenage Fantasy」はシングルとしてもリリースされた曲で、1曲目の日なたを感じさせる曲調とは異なり、ちょっと日陰とか雨の日を感じさせるマイナー調の、しかし迫り来るエモーションを感じる曲。

物憂げなピアノのイントロから静かに始まる「Where Did I Go?」も曲に入るとちょっとインダストリアル・ノイズっぽいパーカッションが効果的なミディアム・テンポのトラックにジョージャのボーカルが絡みつく、独特の魅力を持つトラック。




一転してドリーミーなトラックがここ最近USでもよく聴かれる浮遊感満点の音像を想起させる「February 3rd」や「On Your Own」「The One」と続くアルバム展開も、ジョージャの世界を積み上げるかのように形作っていく構成としては大変効果的で、ここまで聴いてくると個々の楽曲を聴くと言うより、アルバム全体が一個の「ジョージャの音楽世界」を塊として体験する、といった感じになってきます。彼女のスタイルはR&Bパフォーマンスとして決して斬新ではありませんが、自分の音楽表現のエグゼキューションが見事に構成されているので、聴く者へ強い印象とある意味の感動を与えてくれます。



LPでいうとB面サイドはよりヒップホップの影響を感じさせる楽曲が多いのですが、オープニングの「Wandering Romance」はその中で音像スタイルが最もヒップホップ、というよりは今時のトラップの影響を感じさせる曲。でもあくまで楽曲の主役はジョージャの気だるい、それでいてエモーションを感じるボーカル。それに続く、彼女が2016年のEPに収録されていた出世曲の再収録となる「Blue Lights」は後半半分ラップっぽいスタイルでジョージャが歌ったり、オールド・スクール・ヒップホップ的なスクラッチがちょっと入ったりとそこはかとないヒップホップテイストが魅力的なトラック。しかしここで歌われている「Blue Lights」とはパトカーのサイレンのライト(UKのパトカーのサイレンは青いライト)のことのようで「サイレンが聞こえてきても決して逃げたりしてはだめ/何も悪いことをしてなければ/青いライトは通り過ぎていくはず/どうして逃げようとするの、何をしたの?」という歌詞が社会の現実的な側面をさりげないメロディで表現するこの曲、魅力的であると同時に緊張感を与えるクオリティの高い楽曲です。


そして続く「Lifeboats (Freestyle)」は確かローリン・ヒルの曲でこういうフレーズあったよなあ、という「すべては落ちていく、落ちていく」とリフレインでスタートした後、ジョージャがまさしくフリースタイルのラップを、可愛らしいUKアクセントで達者に聴かせてくれる、ある意味このアルバムで最も「ヒップホップな」曲。そのフロウはなかなか思索的な内容なのでちょっと紹介します。


「水に入ってもいないのにどうやって泳ぎを覚えられるというの?

時には入るためには飛び込むしかないこともあるのよ

人生は浅瀬ばかりじゃない

体を浮かしなさい、そうすれば誰かが腕をさしのべて助けてくれるかも

もし誰かが混乱の海で溺れそうになっていたら

私だったら助けようとするし、どうしてうまく潮に乗れなかったのか、

なぜ灯台の光が消えていたのか理解しようとするもの


なぜ金持ちだけが水に浮くことができて

ボートに乗ってるはずなのになぜ私の兄弟たちは溺れてしまうの?

マザーシップは誰も助けてくれない」


なかなか示唆的でしょう?この曲をジョージャと共作して、プロデュースもしているトム・ミッシュは、やはり最近注目のUK若手ビート・メイカー兼ギタリストで、ジョージャ共々今年のサマソニに出演、今年は自身のソロ・アルバムもリリースしている注目のアーティストなんです



アコギの弾き語りでしんみりとしかし後半エモーショナルにジョージャが歌う「Goodbyes」はライヴで是非とも聴いてみたいと思わせる曲。この曲からアルバム最後の3曲はいずれもこのアルバムで最もアンプラグドな楽曲。エレピをバックにドラマティックに歌う「Tomorrow」、そしてピアノをバックに静かにアルバムを締める「Don't Watch Me Cry」までの全12曲を聴き終わる頃にはどっぷりジョージャの世界に浸っていることでしょう。


Lost Found (back)


このアルバムもリリース以来、シーンでの評価も高く、今年従来の5から8に拡大される予定のグラミー賞新人賞候補へのノミネートも多分間違いないジョージャ。現在7月にUKを皮切りにスタートした「Lost & Found Tour: 2018」は今月の日本のサマソニを経てまたヨーロッパ・UKに戻り、11~12月にかけては全米をツアーで巡るジョージャ。今年が終わる頃にはジョージャの名前は、単にR&B好きのファンだけでなく、ハウスホールド・ネームになっているかもしれません。


それまでの間はこのアルバムを聴きながら、連日暑い日々にジョージャが届けてくれる涼しげな歌声を楽しむことにしませんか?


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位41位(2018.6.23付)

同全米R&B・ヒップホップ・アルバム・チャート 最高位23位(2018.6.23付)

同全米R&Bアルバム・チャート 最高位3位(2018.6.23付)

全英アルバム・チャート 最高位3位(2018.6.21付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#125「Dirty Computer」Janelle Monáe (2018)

#125Dirty ComputerJanelle Monáe (Bad Boy / Atlantic, 2018)


あっという間に梅雨も明け、今年も半分が終わり7月に入ってから連日暑い日が続いていてもう完全に夏模様。これからは夏フェスが次から次に始まりますが、皆さん体調管理は万全にして、絶好調のコンディションで音楽もアウトドアも楽しみたいもんですね。


さて今週の「新旧お宝アルバム!」は、ここのところ映画俳優としての活動でも各所で存在感を出しながら、モデルとしても、またアクティヴィストとしてもメディアに顔が出ることが増えてきたジャネル・モネイが今年リリースした、ちょっとだけ先進的なサウンドアプローチながらメインストリーム・アピールもバッチリという3枚目のフル・アルバム『Dirty Computer』をご紹介します。


DirtyComputer.png

今のフューチャリスティックで都会的な風貌からはちょっと意外に思える、カンザス・シティという中西部の地方都市のブルー・カラーな家庭に生まれ育ったジャネル・モネイ(本名:ジャネル・モネイ・ロビンソン)の子供の頃からの夢はシンガー/パフォーマーになることだったというから既に彼女はその夢をほとんど達成していることになります

彼女は音楽と演劇の勉強のためにNYのアカデミーに通った後、2001年、16歳の時にアトランタに移住して当時ヒップホップの大スターだったアウトキャストビッグ・ボイと知り合い、地元の若手のアーティスト達とワンダランド・アーツ・ソサエティなるグループを結成。このワンダランドの仲間達がその後、現在まで彼女の作品の曲作りや制作のバックアップをしてくれることになります。

その後アウトキャストのアルバム『Idlewild』(2006)に客演したのがきっかけで、あのバッド・ボーイ・レーベルの主宰者、ショーン・”P-ディディ”・コムズに気に入られてバッド・ボーイと契約。同レーベルからリリースした最初のEP『Metropolis: Suite I (The Chase)』(2007)の中の一曲がその年のグラミー賞の最優秀アーバン・オルタナティヴ/パフォーマンス部門にノミネートされたのが彼女のミュージシャンとしての成功のスタートでした。


Janelle Monae


そのジャネルが多くの我々の前に登場したのは、あのファンの大ヒット曲「We Are Young」(2012年6週連続1位)にフィーチャーされて、2013年2月開催の第55回グラミー賞で、ソング・オブ・ジ・イヤーを受賞したその「We Are Young」をファンのメンバーとパフォームしたあの時

当時既に最初のフル・アルバム『The ArchAndroid』(2010)をリリース、その先進的コンセプトのポップ・R&B作品が一部に高く評価されていた彼女がこれでメインストリームに正式に登場、続く『The Electric Lady』(2012)ではエリカ・バドゥ、プリンス、ミゲル、エスペランザ・スポールディングなど新旧の個性的なスーパーゲスト達をフィーチャーした、様々なジャンルの音楽が渾然一体となった、とても個性的ながらキャッチーなフック満載の「ジャネル・モネイ・ワールド」を提示してシーンの高い評価を集めることに


そして2016年には、その年のアカデミー賞作品賞候補となった、いずれも厳しい社会でのプレッシャーや差別と戦いながらもアフリカン・アメリカンとして生き抜いていくという2本の映画、『ムーンライト(Moonlight)』と『ドリーム(Hidden Figures)』に主要な役どころで好演。単に音楽的表現に止まらず、アーティスト「ジャネル・モネイ」としての存在感をマスに大きくアピールしました

そしてリリースされたこの最新作。アルバムリリースに先駆けてドロップされた新曲「Make Me Feel」のPVは、あのプリンスが逝去直前にアイディアを出したというシンセ・ベース・リフをフィーチャーした、そのプリンスの「Kiss」を彷彿させるようなミニマリスティックながら強烈なファンク・グルーヴが全編を通してうねりまくるバイセクシュアル賛歌、そして映像もとてもフューチャリスティックでファッショナブルなもので、新作への期待をいやが上にも盛り上げてくれたものです。



このアルバムでは、前作の『The Electric Lady』同様、シンセポップ、ファンク、ゴスペル、オルタナティヴ・ロック、ヒップホップ、R&Bといった様々なジャンルの要素がある時は渾然一体と、またある時は曲ごとに全く異なるジャンルの要素を前面に出した形で楽曲が提示されます。しかし楽曲のアレンジやメロディ・フックの感じが前作よりもメインストリームを意識しているような感じもあり、ジャネルの作品が初めて、という方も比較的抵抗感なく彼女の楽曲世界に入っていける、そんな作品になっています。


アルバムのオープニングは厳かなコーラスだけをバックにジャネルがアルバムの紹介をするような小品「Dirty Computer」。分厚いバックのコーラスに参加しているのは何とビーチ・ボーイズブライアン・ウィルソン

ゴスペル教会の牧師のような演説からR&Bポップっぽいミディアム・リズムにポップなメロディフックで盛り上げていく「Crazy, Classic, Life」(マーヴェル・コミックスの『Black Panther』に登場するワカンダ国でとれる架空の金属ヴィブラニウムに着想を得たとのこと)と「Take A Byte」(禁断のリンゴを食べたエデンの園のイヴに着想を得たとのこと)でアルバムのトーンを今風R&Bポップな感じに持っていった後、レニー・クラヴィッツの実娘で俳優でも活躍するゾウ・クラヴィッツをフィーチャーした、ちょっとオルタナ・ポップな感じの「Screwed」では刹那的な快楽主義を揶揄するような歌詞を思いっきりポップに歌ってるというのがこのアルバムでの彼女の立ち位置を象徴しているような気が

続いてラッパー・ジャネルの登場で、これまでの自分の生い立ちとキャリアを斜に構えたような視点でまくし立てる達者なそして挑発的なフロウを聴かせる「Django Jones」(『Black Panther』に登場する女闘士団、ドラ・ミラジェに着想を得たとか)でぐっと雰囲気変更。続く「Pynk」はザ・ナショナルフェニックスかという感じの今風のシンセポップ・ロックトラックで、このあたりはジャンルがあちこちに飛びまくっているのにアルバムとしては不思議な統一感を感じさせるのは、やっぱりジャネルのボーカルが立っているからか。



そしてこのアルバムの先行シングルで先ほど冒頭に触れたプリンス・マナーのミニマル・ファンク「Make Me Feel」。やはりこの曲はこのアルバムでもハイライトの一つですね。この曲を一つの頂点として、ファレル・ウィリアムスをフィーチャーしたR&Bポップ「I Got The Juice」、今風R&B的なミニマルなトラックに一段とジャネルのボーカルが映える「I Like That」から80年代ベイビーフェイスっぽいスローなR&Bジャム「Don't Judge Me」とアルバムの雰囲気は段々とワインドダウンの方向に




神秘的なサウンドをバックに、スティーヴィー・ワンダー神への愛と、怒りや憎しみの感情すらも愛の言葉で表現すべき、という福音的な語りを聴かせる短い「Stevie's Dream」に続き、ニルヴァーナとかの90年代グランジ・ロックっぽいギターのバッキングがまたちょっと異色な感じの「So Afraid」が終わると、アルバム・ラスト・ナンバーのゴスペルっぽいコーラスとボーカルからあたかもミュージカルのフィナーレのような感じの盛り上がりでエンディングに向かっていくアップビートな楽曲「Americans」へ。
この最後の曲は、オバマ元大統領が2008年大統領選立候補の際行った、人種差別を超えて国全体の結束を求める演説「A More Perfect Union」と、今年2月にクインシー・ジョーンズGQ誌のインタビューで行った「我々は黒人であることに付き合わざるを得ない。怒りは何も解決しない。怒りではなく、問題を解決可能なパズルとして捉えることが大事で、常に自分はそればかり考えている」というコメントにインスパイアされてジャネルが書いた曲。そしてそのメッセージはオバマ氏クインシーのメッセージをジャネル風に咀嚼した前向きなものなのです。

Dirty Computer (back) 

その後も新しい映画への出演も予定されながら、自らのバイセクシュアリティを隠すこともなく、積極的にLGBTQコミュニティへの支援発言や活動を続ける、ある意味今のアメリカを象徴するオピニオン・リーダーの一人としても注目を集め続けるジャネル・モネイ。このアルバム、今年から対象作品数が5から8に拡大されることになったグラミー賞主要4部門でも必ずどこかにノミネートされるのでは、と個人的には密かに思っています。


暑い夏の昼下がり、あるいは夜友人達とのパーティーなどの席で、ジャネル・モネイのフューチャリスティックだけどメインストリーム、エッジーだけどポップ、そして歌詞の内容を読み込むとオピニオン・リーダーとしての彼女が浮き出てくるというこの作品を是非楽しんでみてください。


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位6位(2018.5.12付)

同全米R&B・ヒップホップ・アルバム・チャート 最高位4位(2018.5.12付)

同全米R&Bアルバム・チャート 最高位1位(2018.5.12付)

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#124「Home Grown」Johnny Rivers (1971)

 #124Home GrownJohnny Rivers (United Artists, 1971)


どうやら梅雨らしい雨模様の天気が続き、気温も一時に比べるとかなり涼しくなってきているこの季節、一方で雨に濡れた新緑の美しい時期でもあります。今世の中はワールドカップですが、MLBファンの自分は、贔屓のNYメッツの不調と、大谷をはじめ日本人メジャーリーガーの相次ぐ故障で、最近はちょっとスポーツ観戦に熱が入らなくなってきたところ。そうなると戻る先は音楽で、いろいろな新譜や昔のレコードを引っ張り出して聴く機会がめっきり増えてきているこの頃です。


さて今週の「新旧お宝アルバム!」は、久しぶりに70年代に戻り、このしっとりとした新緑の季節にぴったりな感じのアルバムをご紹介。60年代にロックンロール・スターとしてブレイク、大きな人気を勝ち得ながら70年代のニューロックへの大きな音楽シーンのうねりの中、商業的には今ひとつの状況に立たされていたジョニー・リヴァースが、自らを見つめ直すような感じでリリースした、心和ませる珠玉のアルバム、『Home Grown』(1971)をご紹介します。


Home Grown 


おそらく我々昭和世代のシニアな洋楽ファンでも、ジョニー・リヴァースというアーティストの名前を聞いたことはあってもどういう曲をやっていた、どんなアーティストかと言われるとあまりピンと来ない方も多いのでは。ましてや今ストリーミングやYouTube、デジタルダウンロードで洋楽を聴いている40代以下の皆さんは名前も聞いたことない、という方も多いでしょう。

かなり熱心なアメリカの70年代のヒット曲ファンでも、「Rockin' Pneumonia & The Boogie Woogie Flu」(1972年最高位6位)と「Swayin' To The Music (Slow Dancin')」(1977年最高位10位)の2曲が思い浮かべられればかなり詳しい方だと思います。ことほどさようにジョニー・リヴァースというアーティストは、ブレイクした60年代を除いては、70年代以降特に日本ではその名を知られるようなヒットもなく、洋楽ファンにとってもイメージが持たれにくいアーティストなんではないでしょうか


ニューヨークに生まれたイタリア系移民の息子であるジョニー(本名:ジョン・ヘンリー・ラミステラ)は、幼少の頃に移り住んだルイジアナ州バトン・ルージュで、現地のカントリー、ブルース、ケイジャン、ジャズ、R&B等が混沌とした音楽文化に触れて8歳の頃ギターを始めたのが音楽人生の振り出し。

高校時代からバンド活動を始めたジョニーは、1958年NYへ旅行した際当時ロックンロールの生みの親といわれた伝説的DJ、アラン・フリードに出会ったのがきっかけでレコード・デビューにこぎ着けますが、この時は不発。

その後60年代に入ってLAに移って地元のクラブでライブ活動をしていたところを、後にキャロル・キングの『つづれ織り』をプロデュースすることになる有名プロデューサー、ルー・アドラーに認められ、ちょうどジョニーが人気を博していた地元の有名クラブ「ウィスキー・ア・ゴー・ゴー」でのライヴをそのままアルバムにしてリリース。そこからシングル・カットされた、チャック・ベリーのカバー「Memphis」の大ヒット(1964年最高位2位)で一躍ロックンロール・スターとしてブレイクしました

Johnny Rivers


その後1966年にはルー・アドラーとの共作「Poor Side Of Town」が全米1位に輝き、キャリアの絶頂期でしたが、その後作品は発表し続けるも人気は下降線をたどり、今回ご紹介する『Home Grown』がリリースされた70年代初頭は、アルバムもシングルも以前のようなヒットにならず、ある意味商業的にはどん底の時期。しかしこのアルバムは、ジョニーとその息子と思われる少年が楽しそうにならんでいる写真が、手縫い刺繍でタイトルとジョニーの名前が縫い込まれたキャンバス地にあしらわれているという、見ただけでほのぼのとするジャケットに象徴されるように、ネガティヴなトーンは皆無で、聴く者の心を和ませてくれる、そんな作品なのです。(ちなみにレコードのレーベルも手書きのイラスト入り。これもなかなか好感度です)


Home Grown Label


またこのアルバム、バックにはLAのクラブ時代からの相棒であるジョー・オズボーン(b.)や有名セッションドラマーのジム・ケルトナーを初め、シナトラビーチ・ボーイズ、ママス&パパスなど数々の60年代のポピュラー楽曲のバックをつとめたセッションミュージシャン集団「レッキング・クルー」のメンバーも多数参加、古くから気の知れたメンツの手堅くもグルーヴ満点の演奏をバックに、ジョニーが気持ちよさそうに歌っています。



ちょっとカントリー・ブルース風な「Moving To The Country」を皮切りに、ジョニーの魅力の一つである優しく艶のあるボーカルが映える、R&B風味のカントリー・バラード「My New Life」という流れはいかにも70年初等のシンガーソングライター・アルバム(このアルバムでジョニーは10曲中3曲しか作品に絡んでませんが)という雰囲気で、ぐっと引き込まれます。

彼のブレイクがチャック・ベリーのカバーであったように、ジョニーは自分で曲も書きますが、他人のカバーがピタッとはまるケースの方が実は多いのですが、このアルバムでそれを象徴的に感じさせるのが、3曲目の「Our Lady Of The Well」と5曲目の「Rock Me On The Water」。ご存知の方も多い、ジャクソン・ブラウンのカバーですが実はジャクソンはこのアルバムが出た当時はまだレコード・デビュー前。おそらくLAの音楽シーンで既に実績・人脈とも有していたジョニーが業界の誰かからジャクソンの評判を聞いてこれらの曲のデモを聴く機会があったのでしょう。

後にジャクソンの代表曲となるこの2曲を、いち早く取り上げるジョニーの目も大したものですが、このいずれの曲もジョニーは見事に自分のスタイルにアレンジして、彼らしいスワンプ風のスタイルでものにしています。


レコードA面のラストは、おそらくジャケ写真の息子に捧げたと思われる自作のバラード「Song For Michael」。「目の前に現れる明るい光のように僕の気持ちを喜びで満たしてくれる/君を見ていると自分が子供だった時に戻るようだ/君と僕は目を見合わせて/ただ「やあ」と言うだけだけど」という、もうマイケル君にメロメロなジョニーの様子が窺える、微笑ましいこの曲の途中にはマイケル君本人と思われる声もSEで登場します。このアルバムをとっても私的で、ポジティヴな感じにしている要因の一つがこの曲の存在で、ジャケットはそれをそのまま表しているのです


B面はA面のラストからつなげるように自作のジャグバンドっぽいカントリー・ポップ・チューン「Permanent Change」でスタートした後、ここから有名曲3曲のカバー攻撃。まずは元々インプレッションズカーティス・メイフィールド作で、ロッド・スチュアートのカバーでも有名な「People Get Ready」。ここではピアノとストリングスをバックにゴスペル風に、エンディングに向けて控えめに盛り上げるジョニーの歌唱が印象的。

続いてはキャロル・キングのアルバム『つづれ織り』収録の「So Far Away」のカバー。ルー・アドラーの導きなのでしょうが、これも当時リリースされたばかりの『つづれ織り』からさっそくカバーに取り上げたジョニーの選曲センスが光ります。ジョニーのバージョンは比較的オリジナルに忠実な、これもピアノとストリングスを中心にしたもの。


そして3曲目のカバーは、ジェームス・テイラーの「Fire And Rain」。原曲同様アコースティックなアレンジですが、ギターの代わりに名手ジェームス・バートンのドブロがややカントリー・スワンプ的なイメージを与えています。しかしこの曲のポイントは、ジョニーが後半歌唱を盛り上げてシャウトしたかと思うと、最後のフェードのところでバックコーラスが「Help me Jesus / Be my friend(主よ救い給え/我が友として)」と繰り返し原曲にはないコーラスを付けるところ。実はこれがその前2曲のカバー共々、この後のアルバム最後の壮大なアップテンポのゴスペル・チューン「Think His Name」の前振りとなっていたのだ、ということに曲が始まって間もなく気付きます。ひたすらジーザス・クライストの名前を連呼するゴスペルクワイアをバックに、淡々と歌うジョニー。商業的な逆境の中で、子供への愛と神への感謝で自らのスピリットを高くという思いを込めて、ジョニーはこのアルバムを作ったのではないか、そんな風に思わせるエンディングです。



このように非常に心温まる作品ながら、このアルバムも残念ながら大きなヒットにはならず。次作の『L.A. Reggae』(1972)からのシングル「Rockin' Pneumonia & The Boogie Woogie Flu」(こちらもヒューイ・スミスのカバー)のヒットと、「Swayin' To The Music」(イーグルスグレン・フライの作詞作曲パートナーだったジャック・テンプチンの曲のカバー)がヒットした『Outside Help』(1978)がマイナーなヒット・アルバムになったのを最後に彼の作品はチャートに戻ってくることはありませんでした。

しかし今でも年間50回を超えるライヴを行っているというジョニー、最近では自分のルーツの一つでもあるブルースに軸足を置いた活動を続けているようです。


2009年にはルイジアナ州の音楽殿堂入りし、2015年にはアメリカン・ポップ・ミュージック殿堂入りの候補にもノミネートされるなど、シーンからのリスペクトを今も受け続けているジョニー。そんな彼のとても私的な一面を感じ取ることができるこのアルバムで、梅雨の合間の緑美しいこの時期をお過ごしください。


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位148位(1971.9.25付)

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

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