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Life Is A Rock - 洋楽こそ我が人生
洋楽全般について、英米ヒット・チャートに登場有無に関係なく、お気に入りの洋楽作品についての独り言やコメントをつれづれに掲載します。「新旧お宝アルバム!」「恒例グラミー賞大予想」など定期コラムが中心です。洋楽 ファンサイト、meantime(www.meantime-jp.com)のスピンオフ企画としてお楽しみ下さい。
【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#141「Painted From Memory」Elvis Costello with Burt Bacharach (1998)

 #141Painted From MemoryElvis Costello with Burt Bacharach (Mercury, 1998)


先週には桜の開花宣言もあり、このまま一気に本格的な春に突入するのか、という勢いでしたが週末寒が戻った感もあり、今週から春の進捗はまた仕切り直し、という感じですね。しかしまた今日あたりから少しずつ暖かさが増していく感じもあり、月末には早くも桜の満開予想が出ている様子。これからは4月中旬まで街中や郊外の山々が美しくなる季節、存分に楽しみたいものです。

さて、先週プライベートでちょっと厳しい状況がありお休みしていたこの「新旧お宝アルバム!」、今回は久しぶりに90年代に戻って、多くの古くからの洋楽ファンの皆さんがとかく見逃しがちなあの時期のアルバムを取り上げます。今日ご紹介するのは、新旧の個性的かつ偉大なメロディメイカー、バート・バカラックエルヴィス・コステロがコラボして、全曲コステロバカラックによる共作の新曲12曲を、コステロが決して声楽的に巧いとは言いがたい、それでいて情感と偉大な作曲家バカラックとの共演できることの感動と畏敬に満ちあふれた素晴らしい歌声を聴かせてくれるアルバム『Painted From Memory』(1998)です。

Painted From Memory 

片や70年代終盤のパンク・ニューウェイヴ・ムーヴメントの中から登場、当初は60年代を彷彿させるパワーポップでシーンを虜にし、その後80年代90年代を通じてミュージックメイカーとしての成熟を重ねていったコステロと、60~70年代初期のメインストリーム・ポピュラー音楽を代表する、叙情的でスケールの大きなメロディメイカーとして既にこの時レジェンドとなっていたバカラックによるコラボレーションの話は、90年代後半当時ちょっとした驚きと、いったいどういう音楽が作られるのか大いに興味をそそられたものです。ディオンヌカーペンターズのようにコステロがバカラック作品の解釈者として果たして機能するのか?バカラックが、20年以上のブランクを経てなおあの変拍や独特のコード進行を駆使して唯一無二の楽曲を作りあげるマジックを、コステロとのコラボで再現できるのか?

その期待と謎に対する回答は、1996年のNYブリル・ビルディングを題材にした映画『グレイス・オブ・マイ・ハート』の最後のクレジット・ロールで二人がパフォームする新曲「God Give Me Strength」でその一端が届けられました。当時この曲を聴いた時、イントロからいかにもバカラック作品らしいフレンチ・ホルンの音色とオーケストレーションをバックに、トーチ・シンガーよろしく情感たっぷりに、どん底にいる人間が神に救いを求めるこのバラードをエモーションを絞り出すように、しかし自信を持って歌い上げるコステロのパフォーマンスには、びっくりするような新鮮さと感動を覚えたものでした。

Costello Bacharach at Grammy

しかし当時はこのコラボレーションがフル・アルバムに発展するとは思っておらず、従来からバカラックへの敬愛を露わにしていたコステロの夢実現的なワンタイム・コラボレーションだと思っていました。なので、その2年後、1998年9月にこのアルバム『Painted Memory』がリリースされたことにこれまたちょっとした驚きを感じたものです

コステロバカラックが共演すること自体が既にスペシャルなイベントであるこの企画、そのアルバムに含まれていた全12曲はいずれもまごうかたなきバカラック作品の意匠とスタイルとそしてマジックを見事に再現していると同時に、コステロとの共作がそうしたバカラックの楽曲に微妙な新鮮さと90年代の(そして今の)鑑賞にも充分絶えうるコンテンポラリーさと、コステロのボーカルが独特の表情と印象を届けてくれるという、ふたつの才能がたいへん有機的に結実している素晴らしい作品になっていたのです

ほとんどの楽曲はバカラックのピアノとオーケストラ、そして二人のベテラン・セッション・ミュージシャン、ジム・ケルトナーのドラムスとディーン・パークスのギター、そしてコステロの盟友、スティーヴ・ニーヴのキーボードを中心にした演奏をバックに歌われるバラード曲、それも失恋や失意、逆境にいる人間の哀愁といった、バカラック一流のブルーなテーマの楽曲を情感たっぷりに、そしてほのかに見える希望のようなものを暗示するポジティヴネスをたたえながらコステロが見事に歌っているものです


ためらうように始まるメロディとコステロの歌い出しで既にこのアルバムがスペシャルなものであることを確信させる「In The Darkest Place」に始まり、ほのかな春の訪れを感じさせるピアノのメロディとゴージャスなオーケストレーションとは裏腹に、以前の恋人が頭から消えないまま君と逢い続けるのは間違っているから僕らは終わりにしよう、という悲しいストーリーを語る「I Still Have That Other Girl」、まるで叙情的ロマン映画の一シーンから切り出してきたようなピアノとオーケストレーションをバックに、去って行った恋人が夢の中にだけ現れる男の慨嘆を切々と歌う「My Thief」、自分が思いを寄せる女性たちに対して心ない仕打ちをする男に対して「今日君がひどい仕打ちをする彼女の名前は何?」と迫る「What's Her Name Today?」、そしてそもそもこのコラボの発端となった「God Give Me Strength」などなど、どの曲もこのアルバムのハイライトといっていい、楽曲としての完成度と存在感、そして聴く者の心を動かす楽曲ばかりです。

これ以上このアルバムのそれぞれの楽曲を解説してもレビューとしては退屈なものにならざるを得ません。なぜならば、どの楽曲も同様のスタイルとクオリティで、クイントエッセンシャル(典型的)なバカラック・ワールドを同じように構築していながら、聴く者に訴えてくる楽曲ばかりで、解説としては同じようなものにしかならざるを得ないからです。こればかりは当時ほとんど全ての音楽誌の絶賛を受けたこのアルバムの楽曲を取りあえず聴いてみて下さい、というのが最高の紹介になってしまうのです。


このアルバムのリリース直前の1998年8月に、アメリカのPBS(公共放送局)の音楽番組「Sessions At West 54th」で、当時番組のホストを務めていた元トーキング・ヘッズデヴィッド・バーンの紹介で、バンドとフルオーケストラをバックに、タキシードに身を包んだコステロと、オーケストラを指揮しながらピアノを弾くバカラックによってこのアルバムから「Toledo」「In The Darkest Place」「I Still Have That Other Girl」「God Give Me Strength」など数曲を演奏するという放送がありました。こちらは当時VHSでリリースされたのですが残念なことにDVD化されていません。しかし現在でも当時の放送の一部がYouTube等ネット上にアップされていて今でも見ることができます。取りあえずApple Musicなどで聴いてみるのもいいですが、この映像を見ながら聴くと、このアルバムの素晴らしさが更にぐっと感じられると思います

Painted From Memory (back)

正しく春を迎えようとする今の季節、バカラックが操る柔らかなホルンやオーケストラ、ピアノの音色にのってコステロのボーカルが織りなす、ちょっとメランコリーで暖かいこのアルバムの楽曲群を聴きながら、ほころび始めた桜を愛でるには最高の時期です。これまでこの作品を何度も聴いて親しんで来た方も、そして「こんなアルバム知らなかった」と仰る方も、是非この素敵なコラボレーションに身を任せて、春を満喫してみて下さい。

<チャートデータ> 
ビルボード誌全米アルバムチャート 最高位78位(1998.10.17付)
全英アルバムチャート 最高位32位(1998.10.10付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#140「Home At Last」Wayne Berry (1974)

#140Home At LastWayne Berry (RCA, 1974)


この週末も先週後半の雨が嘘のように晴れ上がり、素敵な週末でした。その天気も日曜夜からはまた雨模様に。もうひと雨、ふた雨するといよいよ本格的な春の到来になると期待して、今満開の梅や既に散り始めた庭の河津桜を眺めながら暖かい気候を楽しみにしたいところです。

さて、今週の「新旧お宝アルバム!」は、1970年中盤に戻ります。当時は、60年代後半からのウッドストック、ベトナム戦争終結、社会公民権運動の盛り上がりなどといった社会文化的な大きなゆねりが一段落に向かおうとしており、この後やってくる音楽業界の巨大ビジネス化、ディスコやAORそしてパンク・ニューウェイヴへと流れていく70年代後半のポップカルチャー爛熟期を前に音楽シーンも過渡的な状態にあり、さまざまなアーティストが勃興しては消えていった時期でした。そんな時期にリリースされ、当時は残念ながら全く商業的には結果が出なかったのですが、近年特にシンガーソングライターやスワンプ・ロックなどの観点から再評価の声が静かに盛り上がっている、ウェイン・ベリーのファースト・アルバム『Home At Last』(1974)をご紹介します。

Home At Last 

ウェイン・ベリーの素性はイマイチ明らかではないのですが、1960年代後半にLAにいて、もっぱらいろいろな曲を作ってはレコード会社に売り込みつつ、自らもティンバーというスワンプっぽいウェストコースト・ロック・バンドで2枚のアルバムを1970年と71年にリリースするなど、地道な活動を通じてシーンではそれなりに評価されたソングライターとして認知されていたようです。当時のLAは、NYから移住してきたキャロル・キングジョニ・ミッチェル、ヴァン・ダイク・パークス、そしてジャクソン・ブラウンやまだ駆け出しだったイーグルスの面々などそうそうたるメンツがローレル・キャニオンを中心としたエリアで一大ソングライター・コミュニティを形成していて、その中でウェインも曲を書きためながら様々なネットワークを作って自らのブレイクを目指していました

ティンバーのアルバムは商業的には成功しませんでしたが、ウェインの曲を評価したRCAが彼と契約、今回ご紹介する『Home At Last』のリリースにつながったようです。

彼の音楽スタイルは、ベースは70年代ウェストコーストのシンガーソングライターの典型的なスタイルですが、そのちょっと鼻にかかった甘い声ながらかなりソウルフルな歌い回しも駆使する歌唱スタイルは魅力的です。また彼の書く楽曲のスタイルもLAのシンガーソングライターらしく洗練されたメロディや叙情的な楽曲スタイルを持つ一方、R&Bやカントリー、スワンプといったアメリカ南部の音楽の香りを色濃く感じさせて、様々な音楽スタイルが渾然一体に

当時のウェストコーストのミュージシャンのイメージである「ひたすらさわやかな、カントリー風味のロック」というのとは全く一味もふた味も違う、先週ご紹介したポール・キャラックとかの音楽性とも通じる滋味を湛えた楽曲がこのアルバムには満タンに納められています

Wayne Berry

もう一つこのアルバムのポイントは、バックのミュージシャンの豪華さで、当時RCAが彼のブレイクに大いに期待していたのが窺えます。アルバムの録音は当時のスワンプ・ロックの聖地、アラバマ州のマッスルショールズ・サウンド・スタジオで3曲、LAのサウンド・ラボで4曲、そしてナッシュヴィルで3曲の録音が行われ、それぞれのスタジオでは当時活躍していて充実したプレイを見せていた様々なミュージシャン達が参加。

マッスルショールズを中心に60年代末からのスワンプ・ロック・シーンをリオン・ラッセルらと支えたロジャー・ホーキンス(ds)、ジム・ゴードン(ds)、バリー・ベケット(kbd)、ピート・カー(g)、ジェシ・エド・デイヴィス(g)といったメンバーに加え、LA人脈のジェフ・バクスター、デヴィッド・ペイチといった連中や、バックコーラスではあのネッド・ドヒニーやジャクソン・ブラウンも参加しているという豪華さ。

プロデューサーは、ボブ・ディランの『Blonde On Blonde』(1966) や『Nashville Skyline』(1969) などのアルバムを支えたナッシュヴィルの腕利きセッション・ミュージシャン集団、エリアコード615ノーバート・パトナムが、ナッシュヴィルの実力ミュージシャンを従えて担当、豪華なバックが決して前に出すぎることもなく、全体のアルバムにちりばめられた様々な音楽スタイルをうまーくバランスさせたアルバムに仕上げてます

アルバムは12弦アコギの爽やかなストロークとアーシーなオルガンとカッティング・ギターのフレーズがソウルフルな雰囲気を織りなすウェストコースト・ロック・ナンバー「Al I Needed」で気持ち良くスタート。間奏でのジェフ・バクスターとジェシ・エド・デイヴィスのギターリフのスリリングな掛け合いがいきなり冒頭からこのアルバムへの期待を高めてくれます。

最初の部分のヴァースがジャクソン・ブラウンの楽曲を彷彿させるミディアム・スローの「Another's Lifetime」も全面さりげなくサックスをあしらったり、サビのメロディの盛り上がりがちょっと東海岸のパブロックっぽい味わいを演出したりしていて、不思議な魅力を感じさせる楽曲

マッスルショールズ録音の2曲に続いて聞こえてくるのはLA録音の「Indian Woman From Wichita」。こちらはむしろナッシュヴィル録音か?と思わせるようなアーシーでカントリー風味のミディアム楽曲。ストリングスなども配した「ジョージアの灯は消えて」のヴィッキー・ローレンスなどを想起する曲調はいかにも70年代、といった感じ。

続く「Snowbound」はまたマッスルショールズ録音で、当時コロラド州ではかなりのラジオ・ヒットになったという、ちょっと初期ドゥービーを思わせるイントロから、バリー・ベケットのオルガンとエレピがスワンピーで軽快なナンバー。そしてA面を締めるのはLA録音のタイトルナンバー、スロウな「Welcome Home」。ここでのウェインのボーカルは一段とソウルフルで、歌い回しなど「Alison」などのエルヴィス・コステロを思わず想起させる味のあるねちっこさ。サビでのハーモニー・ボーカルはネッド・ドヒニージャクソン・ブラウンです。

B面の最初の2曲はLA録音。「Dixie's Pride」はタイトルの感じに反してピート・カーのエレクトリック・ギターがギュインギュインとドライヴする、イーグルスの『On The Border』当たりに収録されてそうな、いかにも70年代ウェストコースト・ロック!といったナンバー。ここでもバックにゴスペル風の女性コーラスを配しているあたりがユニークなアプローチで、70年代後半にジャクソン・ブラウンがバックに黒人女性コーラスを配するようになったのはこの辺の影響があるのかも、とちょっと思いました。

もう一曲のLA録音の「Black Magic Gun」は、基本ウェインのアコギと、ジェシ・エド・デイヴィスのスチール・ギター、ジム・ゴードンのドラムスをバックに、ある意味このアルバムで一番スワンピーな、リトル・フィートあたりの影を強く感じるミディアム・スロー・ナンバーで、こういう曲は聴いてるととにかく酒が進みます(笑)。

残りの3曲はいずれもナッシュヴィル録音。「Ballad Of Jonah」はちょっとオールド・タイム・ミュージックっぽく、カズーやフィドル、ドブロなどを配していかにもナッシュヴィル、と思わせるアーシーなサウンドがまた違った魅力です。そしてイントロから「これ、ニール・ヤングの「Helpless」みたい!」と思わせる「Gene's Tune (Blonde Guitar)」は正にあの60年代後半・70年代初頭のカントリー・ブルーグラス音楽とロックが素敵なマリアージュを聴かせてくれていた時代の音を彷彿させる、伝統的なカントリー系シンガーソングライター・チューンです。

そしてアルバムを締める「Lover's Moon」は、ピアノ一本をバックに、トム・ウェイツや初期イーグルスのバラードを想起させる、映像感満点な楽曲ウェインの情感たっぷりなボーカルも素晴らしく、正しくこの素敵なアルバムを締めるにふさわしいナンバーで幕を閉じます。

アルバム全体を通じて感じるのは、おそらくウェイン自体がいろいろ出来てしまうために、シンガーソングライター的で、ブルーアイド・ソウル的で、スワンプな感じもあり、カントリー風味もバッチリこなせる、という器用さが逆に類型化したエアプレイフォーマットに乗っかることがヒットの条件だった70年代半ば当時には中途半端に捉えられたのかもしれないな、ということ。ここでウェインがやっている音楽は、70年代後半にAORとして人気を集めるフォーマットにかなり近いと思いますし、「All I Needed」や「Snowbound」などヒットしても全くおかしくない楽曲クオリティだと思うのですが、時代がちょっと早かったのかもしれません。

そこでふと思い出したのは、やはり同じ頃に似たようなスタイルのアルバムをリリースしていて全く売れず、しかしその後このアルバムにも参加していたピート・カーと組んで、ルブラン&カーして「Falling」の大ヒットを放ったレニー・ルブラン。彼もやはりマッスルショールズをベースにカントリー系のアーティストのバックを努めながらリリースしたソロアルバム『Lenny LeBlanc』(1976) は、このウェインのアルバム同様、スワンピーでカントリー風味のポップ・ロック路線でしたが、彼の場合は「Falling」が正に後のAOR路線にうまく乗っかって成功したのでした

Home At Last (back)

残念ながらウェインがその後リリースした2枚目『Tails Out』(1975) もマジックを起こすことはできず、LAの仲間とヴォランティアーズというグループを結成してアルバムを出したりしましたが、その後彼のレコードは発表されていません。ある情報によると、今はナッシュヴィルに移り住んで、牧師関係の仕事をしているとのこと。彼のレコードが今後出ることはどうやらなさそうなので、この『Home At Last』を聴きながらすぐそこまで来ている春の到来を待つことにします。

<チャートデータ> 
チャートインせず

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#139「These Days」Paul Carrack (2018)

 #139These DaysPaul Carrack (Carrack-UK, 2018)


昨日の日曜日から生憎の天気となってしまっていますが、ここ最近の雨も一頃の冷たいものではなく、間もなく本格的に春がやってくることを思わせるそんな雨に思えます。折から週末の土曜日は大変暖かい快晴の日でした。この雨が行った後は更に暖かい春の陽気がいよいよ本番となることを期待したいものですね。

今週の「新旧お宝アルバム!」は、先週のポール・ウィリアムスに続き、もう一人のポールという名前のベテラン・ミュージシャンを取り上げます。1970年から一貫してその艶っぽいボーカルで歌うブルー・アイド・ソウルのスタイルで英米音楽シーンでの数々のヒット曲、数々のバンドで活躍してきたイギリスはシェフィールド出身のポール・キャラックです。今回は、2000年以降は自らのレーベル「キャラックUK」を立ち上げて2~3年に一枚のペースで気の合ったミュージシャン達とソロ・アルバムをリリースし続けているポールが、昨年ひっそりとリリースした17作目となる珠玉のソロ・アルバム『These Days』をご紹介します。

These Days 

1970~80年代に全米トップ40など英米の洋楽ヒットに親しんだ方であれば、ポールの名前はどこかで耳にされてるはずですし、名前は知らなくても彼のベルベットのようでかつソウルフルな歌声をいくつかの大ヒット曲のボーカリストとして耳にされていると思います。

彼がシーンでその名と歌声を知られるきっかけになったのは、1975年全米最高位3位、全英最高位20位の大ヒットとなったエースというグループの「How Long」を作者兼ボーカルとして歌ったこと。これ一発で終わったエース解散後、80年代にはあのロキシー・ミュージックのキーボーディストとして『Flesh + Blood』(1980)、『Avalon』(1982)といった名アルバムに参加する一方、UKの個性的なポップ・バンド、スクイーズに加入して彼らの全米でのブレイク・ヒットとなった「Tempted」(1981年全米最高位49位)のボーカリストとして久々にその歌声を広く聴かせてくれました。

その後ニック・ロウのバンドのサポートメンバーとして活動した後、ジェネシスマイク・ラザフォードから「今度新しいバンドやるんだけど、ボーカル・キーボードで参加してくれないか」と誘われて加入したのが、80年代半ば英米で大人気だったマイク+ザ・メカニックス。そう、あの大ヒット曲「Silent Running」(1985年全米6位、全英21位)や「The Living Years」(1989年全米1位、全英2位)のあの感動的で伸びやかなボーカルはこのポールなのです。

These Days (Alternate Cover)

スクイーズマイク+ザ・メカニックスで一気にメジャーシーンにその存在感を示したポールがソロ活動でも活躍したのも1980年代。1982年にはソロ2作目となるこちらも隠れた名盤『Suburban Voodoo』からの往年のテンプテーションズを思わせる珠玉のソウル・バラード「I Need You」(1982年全米37位)で初のUSトップ40ヒットをマークしたポールは、3作目『One Good Reason』(1987)からは初の全米トップ10ヒット「Don't Shed A Tear」(1988年全米9位)、4作目『Groove Approved』(1989)からは「I Live By The Groove」(1989年全米31位)と次々にソロでもヒットを飛ばし、そのシーンでの存在感を確固たるものとしました。特に「グルーヴこそ俺の人生だ!」という自己存在意義ステートメントのような「I Live By The Groove」のヒットには個人的に彼のミュージシャンとしての矜持を当時強く感じ、今後ずっと彼のファンでいよう、と思ったものでした。

その彼が90年代はソロ作をリリースしながら、数々のセッションに参加したり、イーグルスの再結成アルバム『Hell Freezez Over』(1994) にあのジム・キャパルディと共作した「Love Will Keep Us Alive」を提供するなど活動を継続。2000年のソロ7作目『Satisfy My Soul』以降は自らのレーベル、キャラックUKを立ち上げ、マイク+ザ・メカニックス時代のバンド仲間、ピーター・ヴァン・フック(プロデュース)とのタッグでほぼ2年に1枚のペースで、ある時はR&Bの名曲や他のアーティストのカバー・アルバム、でも殆どは彼自作、またはマイク・ラザフォードクリス・ディフォードスクイーズでのバンド仲間)ら気の置けない仲間との共作曲を収録した、一貫してオーソドックスながら滋味深いブルー・アイド・ソウル・アルバムをリリースし続けています

もちろんその間、リンゴ・スター・オールスターズのメンバーとして、またエリック・クラプトン・バンドのメンバーとして活動し、日本にも何度も来日してその素晴らしい歌声とキーボードプレイを見せてくれています。自分も2016年クラプトン来日の際、彼が「How Long」「I Need You」といった涙ものの曲を歌うのを聴いて感動したものです。

前置きが長くなりました。そのポールが昨年リリースしたこのアルバム『These Days』。ここ何作かのアルバム同様、ピーター・ヴァン・フックとポールのプロデュースで、バックのミュージシャンもギターのロビー・マッキントッシュ(80年代プリテンダーズ、その後ポール・マッカートニーのツアーバンドを経て現在ジョン・メイヤー・バンド)やサックスのピーウィー・エリスジェームス・ブラウン・バンド出身)といった最近お馴染みのミュージシャン達に加えて、今回は御大スティーヴ・ガッド(ドラムス)もバックを固め、演奏はかっちりとした工芸品の趣を感じさせる安心感満点のパフォーマンスで、ポール自作(半分はクリス・ディフォードとの共作)の素敵な楽曲を、ポールの相変わらず艶っぽい歌声で聴かせてくれます。


特に何も新しいことはやってません。ただ長年の友人の部屋に招待されて、リラックスした雰囲気でゆったりした時間を過ごす、そんな雰囲気がいっぱいの素敵な楽曲たちが並んでいるアルバムです。

ホーンセクションが控えめにシャッフルリズムの曲を盛り上げてくれる冒頭の「Amazing」では、このアルバムのアイディアのきっかけとなった、家族の昔からの写真を納めたアルバムを見ながら書かれたと思われる、ポールの「随分長いことかけてここまで来たね/一緒に生きて、常に現実を思い知らされて/どこに行けばいいか判らなくて世間の人々からも気にかけられない時でも/後ろを振り返れば常に君がいた」という歌詞がぐっと来ます。

クラプトンの「Change The World」を思わせるメロディが懐かしい「Life In A Bubble」、ニック・ロウとやってた頃のネオ・ロカビリー・サウンドっぽいサウンドが楽しい「In The Cold Light Of Day」、メンフィス・ソウルの雰囲気を称えたしんみりした「Dig Deep」、レゲエのリズムとまたまたホーンセクションの掛け合いがこれも楽しいタイトル・ナンバー「These Days」などなど、ポールがその優しい人柄で仲間達とただただ楽しく、リラックスしてやってる雰囲気が伝わってくる楽曲が次々に登場します


着慣れたコート、はき慣れたスニーカー、手をつっこむと気持ち良くそして暖かく手を包んでくれるズボンのポケット....そういった感じを彼のこのアルバムから感じるのは、自分が年を取ったからなのか、それともポールとその仲間達の今作り出す音楽のヴァイブが自分にぴったり来るのか、まあおそらくその両方なのでしょう。

アルバムの最後をしんみりと締める「The Best I Could」ではその歌詞が、今成長した子供達の巣立ちを近くに迎えた自分自身の状況にまさしく当てはまってしまい、聴いていて不覚にも目頭がちょっとウルッと来たもんです。

「子供達が家を離れていって
僕は空っぽの家をただ歩き回る
家は空っぽだが愛情と思い出でいっぱいの家を
そして誇らしい気持ちでいっぱいの自分

コップの水に浮かんだ氷のように
僕たちは時間を溶かしていった
時の経つのは早いもの

もし自分がベストを尽くしたと言えるのであれば
それは他の人と同様に暮らすためにただ一生懸命働いて蓄えを作ったから
自分がベストを尽くしたんだって言える限りは
そういうシンプルなことが僕たちをいい気分にさせてくれた」


まもなく初来日から45周年の集大成ライヴを武道館5公演で行うというクラプトンが、4月に来日。当然ポールの名前も、名手ネーサン・イースト(ベース)や最近テデスキ・トラックス・バンドのサポートでも活躍中のドイル・ブラムホールII(ギター)等と並んで来日メンバーとして上げられています。クラプトンのライヴは3年前でもういいかな、と思っていましたが、ポールのこんなアルバムを聴かされてしまうと、ポールの歌声を聴くためにもう一度行ってもいいかな、と思ってしまいます。

These Days (Back) 

ちょうど満開の桜が千鳥ヶ淵にその花びらを散らす頃に武道館にやってくるポール。その日を楽しみにそれまではこの素敵なアルバムを噛みしめ、噛みしめ、聴くことにします。

<チャートデータ> 
全英アルバム・チャート 最高位33位(2018.9.20付)
全米チャートインせず

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#138「Someday Man」Paul Williams (1970)

 #138Someday ManPaul Williams (Reprise / Warner Bros., 1970)


ようやく先週くらいから少しずつ暖かくなり始めた東京地方、後半には北海道の地震などもありヒヤリとしましたが、この週末は天気もよくほのかに暖かい陽気で、お出かけになった方も多いのでは。自宅の庭にある河津桜も今や満開で、これから3月に入って徐々に普通の桜のつぼみが膨らんでくる前触れのように近づいてくる春への気持ちも膨らんできてます。

さて今週の今「新旧お宝アルバム!」では、先週から一気に50年近く昔に戻り、60年代後半から70年代半ばにかけて活躍し、スリー・ドッグ・ナイトの「オールド・ファッションド・ラヴ・ソング(An Old Fashioned Love Song)」やカーペンターズの「愛のプレリュード(We've Only Just Begun)」など数々の有名なヒット曲の作者として70年代のメインストリーム・ポップ・シーンを代表するシンガーソングライターとしてつとに有名なポール・ウィリアムスが、シンガーとして初めてリリースしたアルバム、『Someday Man』(1970)をご紹介します。

Paul Williams Someday Man 

とにかく70年代ポップス好きの洋楽ファンの間では有名なポール・ウィリアムス。彼が作曲または共作した曲を数え上げるとそれだけで70年代洋楽ポップスヒットのグレイテスト・ヒッツ・コンピレーションが作れるくらい。特にカーペンターズに提供した曲が多く、前出の「愛のプレリュード」(1970年全米最高位2位)以外にも「雨の日と月曜日は(Rainy Days And Mondays)」(1971年同2位)「愛は夢の中に(I Won't Last A Day Without You)」(1974年同11位)など、彼らを代表するヒット曲の多くを手がけています。

そしてこれらのカーペンターズの曲を、ポールの作詞に共作者として曲を付けていたのがロジャー・二コルス。ロジャー・二コルスといえば彼もまた60年代後半から70年代にかけて数々の名曲を手がけたソングライターで、1990年代渋谷系のムーヴメントの中でパイドパイパー・ハウス長門芳郎氏を中心とした方々による再評価を受けたCDの再発等により、若手の洋楽ファンの間でもその名前が近年かなり知られています。

Paul Williams

その最強の二人が全曲共作し、ロジャー・二コルスがプロデュースして作られたのが今日ご紹介するポール自ら歌う初ソロアルバム『Someday Man』。

そのアルバム全編を彩るのは、いかにもロジャー・二コルス色満点の極めて洗練された楽曲とその楽曲を演奏するハル・ブレイン(ドラムス)、ジョー・オズボーン(ベース、昨年末惜しくも逝去)、ラリー・ネクテル(ピアノ、後にブレッドのメンバー)といった、60年代ヒットポップスの演奏を支えたことで有名なレッキング・クルーのメンバーを中心としたミュージシャン達の手堅くも表現力豊かなプレイ。アルバム全体が珠玉の輝きを放って聴く者の耳を楽しませてくれます。


昨年末その逝去を悼んで、山下達郎氏がわざわざ追悼番組を組んだジョー・オズボーンの聴いてすぐそれとわかる力強いベースリフで始まるA面1曲目のタイトル・ナンバー「Someday Man」が始まった瞬間に、この素晴らしいアンサンブル・チームのマジックが目の前に広がりますニコルス/ウィリアムス作の最初の頃の作品で、もともとはあのモンキーズのために書かれたこの曲をセルフ・カバーしているポールのゆったりとした歌声が心地よく、途中ロジャーお得意の転調と転メロディでふわっと楽曲のレベルが上がるところも快感ですポールの詞もレイドバックなこの曲のイメージ通り。

「世の中には生き急ぐ人、文句ばかり言ってる人もいるけど
僕に取っては人生はホリデーのようなものでゆっくり楽しむもの
僕は生まれつき「そのうちどうにかなるさ」ってタイプの男」


この曲もそうですが次の「So Many People」もその次の「She's Too Good To Me」も、そこここに控えめながら効果的に配置されたストリングやホーンセクションが洗練度の高いアレンジを実現していて、サビのコーラスの付け方なども往年のママス&パパスや、カーペンターズ初期の楽曲を彷彿させるロジャーのソングライティング・マジックの独壇場です。

ポールのセンスのいい詞もあちこちの曲で際立っていますが、ロジャーの紡ぐ60年代ティンパン・アレー風のトラックに乗ってこういう歌詞が歌われる「Mornin' I'll Be Movin' On」などはポールの作詞センスの真骨頂を感じさせます。

「僕は太陽が沈んだ後にいつまでも影を追いかけるようなタイプじゃない
再び僕は旅立つ
もう新しいものを握りしめ、明日からの自分の新しい道を決めたんだ
どうか理解してくれ、心の底では君も僕もよく似たもの
誰かに触れて、泣く代わりに笑わせることができる限りは
今日の涙は明日にとっておき、僕も努力しなければ」


ここでもハル・ブレインのドラムスやジョー・オズボーンのベースが一見シンプルそうなメロディのバックで、極めて複雑なリズムやリフで演奏していて、楽曲にしっかりとした深みを与えているのが印象的

その他にもビーチ・ボーイズブライアン・ウィルソンの作風を思わせる室内楽的な完成度が素晴らしい「Trust」や、ここでもジョーの歌うベースが印象的で、「君の素敵さに気が付かないなんて思わないで/君のルックスも素晴らしい/でも君をがっかりさせなくてはいけない/なぜなら僕は君の思うところに我慢して従うようなタイプの男じゃないから/君の次の失恋ボーイフレンドになるのはごめんさ」なんていう洒落た歌詞がポール・ワールド炸裂の「To Put Up With You」など、聴き所には困らないこのアルバム。今時のエレクトロ・ポップっぽいアレンジの楽曲に比べるとややクラシックな感じは否めませんが、だからこそロジャーの織りなす繊細で洗練されたメロディーや楽曲構成、ポールのウィットとそこはかとない詩情に満ちた歌詞、そして確かなバックの演奏が、今聴くと実に新鮮に耳に、心に迫ってきます

Someday Man Back 

ポール・ウィリアムスといえばカーペンターズの曲以外にも、バーブラ・ストライザンドクリス・クリストファーソン主演の1976年の映画『スター誕生』(そう、今日のアカデミー賞レディ・ガガブラッドリー・クーパー主演の作品賞候補になっている『アリー/スター誕生』のこの前のリメイクバージョンですね)の主題歌「スター誕生愛のテーマ(Evergreen)」(1977年全米最高位1位)や1979年の映画『Puppet Movie』の挿入歌で、あのセサミストリートカーミットが歌う「Rainbow Connection」(1979年同25位)など、映画音楽のオリジナルソングの作詞でも有名。

その他にも2014年グラミー賞最優秀アルバムを受賞したあのダフト・パンクの『Random Access Memories』にも「Touch」という曲で共作のみならず客演もしたり、その昔オランウータン役で出演した『猿の惑星』シリーズ以来の俳優業も継続しているようで、一昨年話題を読んだ映画『Baby Driver』にも武器商人役で出演、最近でも幅広い分野で活躍中のようです。

すぐそこまで足音が迫ってきている春をほのかに感じさせるような、そんな雰囲気を感じさせてくれるポール・ウィリアムスのこのアルバム、もう少し暖かくなって本チャンの桜が咲き始めたら、外に音源を持ち出して、春爛漫の陽気を楽しみながら聴くのに正にうってつけではないかと思います。是非お試しあれ。

<チャートデータ> 
チャートインせず

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#137「Heard It In A Past Life」Maggie Rogers (2019)

#137Heard It In A Past LifeMaggie Rogers (Debay Sounds / Capitol, 2019)


皆さんお久しぶりです(笑)。前回のこのシリーズのポストからは約二ヶ月の間が空いてしまいましたが、その間は2018年年間チャート予想My Best Album of 2018そして先週授賞式があった第61回グラミー賞の41の主要部門の受賞予想と授賞式当日は実況中継の生ブログを敢行するということでここ2ヶ月間というもの、年末年始特別企画で手一杯の状態だったため、しばらくこの「新旧お宝アルバム!」はお休みを頂いておりました。

晴れてグラミーも終わったので、今週よりこの「新旧お宝アルバム!」のコラム再開、そして2019年最初のお宝アルバムのご紹介をお届け致します。


さて今年最初の「新旧お宝アルバム!」では、昨年末にエレクトロなサウンドながらオーガニックな雰囲気満点でスケールの大きいシングル「Light On」が全米トリプルAチャートでNo. 1となり、一躍メインストリームへのブレイクを果たした新進女性シンガーソングライター、マギー・ロジャーズの初のメジャー・リリース・フルアルバム『Heard It In A Past Life』をご紹介します。


Heard It In A Past Life 


ワシントンDCとチェサピーク湾を挟んだ対岸にある小さなメリーランド州の町、イーストンで生まれ育ったマギーは現在若干24歳。しかし、90年代後半の幼少の頃から母親がエリカ・バドゥローリン・ヒルといったネオソウル・シンガーのファンで、よく彼女らのレコードが家でかけられていたこともあり、早くからハープやピアノ、ギターさらにはバンジョーなど様々な楽器を手にするようになって音楽への傾倒を深めていったようです。

彼女がソングライティングへ一気にのめり込んでいったのは、高2の夏に有名なボストンのバークリー音楽院のプログラムに参加して、そこで作曲コンテストに優勝したのがきっかけ。その後ニューヨーク大学(NYU)クライヴ・デイヴィス・レコード音楽院に入学出願する際に、当時制作したインディ・アルバム『The Echo』(2012)の曲のデモを一緒に出したり、NYU在学中に2枚目のインディ・アルバム『Blood Ballet』(2014)を作るなど、作曲活動を続けていたようです。

Now That The Lightjpg

彼女のブレイクのきっかけとなったのは、2016年に非営利学校法人、ナショナル・アウトドア・リーダーシップ・スクールのマスター・コースに参加していた時、講師のファレル・ウィリアムスの前で15分で書き上げた曲「Alaska」がその高い楽曲クオリティでファレルの高い評価を得た様子がYouTubeで流れ、数百万ビューを獲得したこと。その後間もなくこの「Alaska」他5曲を収録した初EP『Now That The Light Is Fading』(2017)が初のメジャー・レーベル・リリースとなり、レコーディング・アーティストとして大きくステップアップ、そして昨年末の「Light On」にヒットを受けてリリースされたのが、今回ご紹介する初メジャー・リリース・フルアルバムとなる『Heard It In A Past Life』なのです。


彼女の楽曲とサウンドの特徴は、いずれもポップ、フォーク、ホワイト・ソウル、そしてエレクトロといった多様な音楽性をベースにしたスケールの大きな楽曲構成ながら、ベタになりすぎないキャッチーなポップさを称えたメロディー・ラインを持った、一度聴いたら耳に残るタイプの楽曲が多いことです。そして印象的なのは彼女のボーカル。昔のジュディ・コリンズを彷彿とされるメゾソプラノですが、はっきりとした力強さと、時折交えるファルセット・フェイクの使い方がとても印象に残る、神秘さと清涼感を併せ持った、そんな歌声が彼女の書く楽曲ととてもよくマッチして、マギー独特の音世界を構築しているのです。


Maggie Rogers

A面冒頭の「Give A Little」から最後の「Back In My Body」まで全12曲、前のEPに収録されていた「Alaska」と「On + Off」、そしてトリプルAチャートNo.1の「Light On」を含む楽曲群のサウンドは、そのほとんどがいわゆるシンセやサンプラーなどによる打込みによるエレクトロなサウンド構成によるものがほとんどで、通常楽器を使った曲は、エレピで弾き語りをしているA面ラストの「Past Life」くらい。でも、彼女の曲には人工的で無機的な感じは微塵もなく、どの曲も大自然の広がりや宇宙の広大さといったイメージを想起するオーガニックなイメージを強く聴く者に与え、その楽曲スケールの大きさと適度なリズミックなアクセントと卓越したメロディで、聴く者の心をすぐにつかんでしまう、そんなパワーを感じます。

彼女の出世作となった「Alaska」は、ちょっとエキゾチックで不思議感のあるエレクトロのリフが印象的で、彼女のボーカルも得意のファルセット・フェイクを多用しながら、ジワジワと彼女の世界を構築していくという、なかなか一度聴くとクセになる曲。

そしてヒットした「Light On」は、ミディアム・アップのエレクトロでリズミックな導入部が今風のポップ・ソング、という感じですが、サビに行くと一気に大気圏を飛び出して宇宙に行ってしまう、といった感じのスケール感が快感の曲です。自分はこの曲を聴いた時、同じように浮遊感とスペース感を持った楽曲とボーカルが印象的だった、1996年のドナ・ルイスのヒット「I Love You Always Forever」を思い出しました。しかしスケール感では「Light On」の方が遙かに上ですが。




同じくミディアム・アップのリズミックさが特徴的な「On + Off」はよりEDMっぽさが強い曲ですが、サビのメロディや歌詞のキャッチーさですぐにシンガロングできるタイプの曲で、この曲などはライヴでやるとかなり盛り上がるのでは、と思わせます。

この「On + Off」やよりエレクトロなリズムを強調しながら、やはりサビのメロディと歌詞が印象的な曲「Overnight」などは、同時代のエレクトロ・サウンドを駆使して最近ブレイクした新世代ポップ・アーティスト、ハイムあたりの楽曲にかなり通じるスタイルの優れたポップ・ミュージックを完成度高く提示していて、このアルバム、そしてマギー・ロジャーズというアーティストのミュージシャンシップの高さを印象づけていますね。

アルバムの音が全面エレクトロの打込みだからといって、マギーの音楽性がEDM系というわけでは決してなく、むしろオーガニックな音楽性の方こそが彼女の作風の本質であることも忘れてはいけません。それが証拠に彼女がネット上にアップしているライヴ映像などは、その殆どすべてがアコギやギター、通常のエレピやキーボードなど、通常楽器を使ったものが殆どであり、そういう意味でいうと、彼女のサウンド作りとライヴパフォーマンスへのアプローチは、あのエド・シーランあたりと極めて近いスタイルのように見えます。そういう意味でも、マギーは今の時代を象徴するスタイルのシンガーソングライターだといっていいと思います


今回のアルバムは前作自作または共作で、基本セルフ・プロデュースですが、A面の「Give A Little」「Overnight」「The Knife」「Light On」、そしてB面の「Retrograde」の5曲では、あのデルピンク、シアケリー・クラークソンなど、今時の女性ポップ・シンガー達のプロデュースでは定評があり、昨年・一昨年と2年連続グラミー賞の最優秀プロデューサーに輝いたグレッグ・カースティンがプロデュースの腕を振るっており、これがアルバム全体のポップ・クオリティを上手に上げている要因の一つ。

そしてもう一つ、彼女の「Alaska」を聴いて「ブッ飛んだよ」とコメントしたファレルの様子を納めたYouTubeのビデオでファレルがサウンドに加えて「君の楽曲の中には君がここまでどう旅をしてきてここに辿り着いたかがとても雄弁に語られている」と絶賛した詞については今回掘り下げて検証できてませんが、このあたりも引き続きチェックしていきたいところ。


Heard It In A Past Life (back) 

ある意味マギーとしては勝負に出てきたアルバムということも察せられ、個人的にはこの作品でマギー来年のグラミー賞新人賞部門(ひょっとするとアルバム部門)のノミネートはかなり堅いものではないかと思うくらいです。


いずれにしても新しいサウンドとどこか懐かしいメロディ、そしてスケール大きい楽曲を紡ぎ出す新しいシンガーソングライター、マギー・ロジャースのこの作品、今年を代表する作品になる可能性を秘めていると思いますので、是非どこかでお耳を傾けてみて下さい。


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート 最高位2位(2019.2.2付)

同全米アルバム・セールス・チャート 最高位1位(2019.2.2付)

同全米ヴァイナル・アルバム・チャート 最高位1位(2019.2.2付)

同全米オルタナティヴ・アルバムチャート 最高位1位(2019.2.2付)

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

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