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Life Is A Rock - 洋楽こそ我が人生
洋楽全般について、英米ヒット・チャートに登場有無に関係なく、お気に入りの洋楽作品についての独り言やコメントをつれづれに掲載します。「新旧お宝アルバム!」「恒例グラミー賞大予想」など定期コラムが中心です。洋楽 ファンサイト、meantime(www.meantime-jp.com)のスピンオフ企画としてお楽しみ下さい。
【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#131「Back Roads And Abandoned Motels」The Jayhawks (2018)

 #131Back Roads And Abandoned MotelsThe Jayhawks (Sony Music Entertainment / Legacy, 2018)


先週は日本ではなくアメリカ南東部が巨大ハリケーンに襲われ、ノース・キャロライナ州を中心に洪水や停電などの被害が発生している模様。まるでその前の週の関西地方のように、今も数百万戸がまだ停電中途のこと。犠牲者も発生しているようで、一刻も早い平常状態への復帰を祈るばかりです


一方日本ではここ1~2週間でめっきり過ごしやすい気候になり、着々と秋の気配が深まる毎日。そんな秋にぴったりの哀愁とアップビートな感じをもったメロディ満載の楽曲を毎回聴かせてくれる、ゲイリー・ルイス率いる今やアメリカーナ・ロック・バンドの重鎮となったジェイホークスが今年に入って2年ぶりに出してくれたアルバム『Back Roads And Abandoned Motels』を今日はご紹介します。


Back Roads Abandoned Motels 


90年代以降のいわゆるアメリカーナ・ロック・ルネッサンスの潮流に乗って登場した様々なバンドの中でも、ジェイホークスと言えばウィルコライアン・アダムス率いるウィスキー・タウン、サン・ヴォルトといったバンドと並んで、その後のこのジャンルのアーティスト達に大きな影響を与えてきた1986年創立の今や老舗バンド。今もバンドを引っ張るゲイリー・ルイスと共にバンドを創立したマーク・オルソンの二人が中心になったジェイホークスは1992年の傑作アルバム『Hollywood Town Hall』でこの分野での代表的なアーティストとしての確固たる地位を築きました。続く『Tomorrow The Green Grass』(1995)では新たに女性キーボード&ボーカルのカレン・グロトバーグをメンバーに加え、グランド・ファンクの「Bad Time」のカバーを含む素晴らしい楽曲群を揃え、アーティストとしての頂点を極めることに。

しかしこのアルバムを最後にマークが脱退、それでもロック・エッジの立った楽曲と、デビュー以来の持ち味であるメランコリーでありながら心が温かくなるような楽曲をバランスよく配した『Sound Of Lies』(1997)、『Rainy Day Music』(2003)といった素晴らしいアルバムをコンスタントに発表してきました。


Hollywood Town Hall


2011年の『Mockingbird Time』では久しぶりにマークがバンドに復帰、『Hollywood~』以来のジェイホークスらしい力強いアルバムを聴かせてくれましたが、この後マークは再脱退。一昨年久しぶりにリリースされた『Paging Mr. Proust』(2016)では実験的な楽曲もいくつか試みている分、個人的にはやや散漫な印象があって「ああ、ジェイホークスもこのままフェイドアウトしていくのかなあ」と寂しい気分になっていたところでした。


ところが昨年元キンクスレイ・デイヴィーズが突然リリースした、強いアメリカ音楽へのオマージュを剥き出しにした好アルバム『Americana』のバックを、何とジェイホークスのメンバーが全面的に努めているのを見て大いに驚いたものです

今年に入って出た、その続編とも言うべき『Our Country: Americana Act II』(2018)でもジェイホークスのメンバーが続いてバックを努めていて、一つ気になったのはカレンのボーカルがいつになく前面にフィーチャーされた曲が耳に残ったこと。そのレイのアルバムを聴きながら「ジェイホークスの新譜は出ないのか」とぼんやりと思っていた矢先にリリースされたのが今日ご紹介するこのアルバムです。


今回のこのアルバムは、リーダーのゲイリー・ルイスがこれまでに他のアーティストと共作、提供してきたここ数年の楽曲のセルフカバー10曲と、ゲイリーのペンによる新曲2曲という構成。ジェイホークス・ファンとしてはなかなかそれだけでも「いったいどの曲をやってるのか」と期待が膨らむところ。そして届いた新譜に針を落として聴き始めたところ、流れてくる楽曲の演奏スタイルといい、それぞれのメロディといい、90年代から2000年代にかけて彼らが一番輝いていた時期のジェイホークスのサウンドがよみがえったような、そんな素晴らしい内容だったので、今回ご紹介することにしたというわけです。



まずA面冒頭から、歌い出しが力強いカレンの歌声というのにジェイホークスのレコードでのゲイリーのボーカルに慣れたファンの耳が快い驚きに見舞われるのが「Come Cryin' To Me」。ディキシー・チックスナタリー・メインズのソロアルバム『Mother』(2013)に収録されていた曲で、ゲイリーディキシー・チックス3人の共作のナンバーです。ちょっとメランコリックなメロディがゲイリーっぽさを思わせるこの曲、やはりナタリーのバージョンを意識してカレンのボーカルにしたのかな、と思ってると次はそのディキシー・チックスが2007年のグラミー賞主要3部門を独占した大ヒット作にして彼女らの傑作アルバム『Taking The Long Way』に収録されていた、アコースティックでレイドバックしたリズムに乗った「Everybody Knows」ではゲイリーのボーカルが登場、ほっこり心が温かくなるようなサビでのコーラスは正真正銘のジェイホークス節。これよこれよ、と思わず頬がほころぶところで続くのが、ゲイリージェイコブ・ディランと共作して、HBOのTVドラマ『True Blood』のサントラ(2011)に収録されていた「Gonna Be A Darkness」。長尺のちょっとスロウなテックスメックスっぽいイントロから、ドラムスのティム・オレーガンのボーカルが入って来てこちらもジェイホークス節を聴かせてくれるあたりはさながら目の前で彼らのライヴを観ているかのよう。そして再度ディキシー・チックスTaking The~』収録の「Bitter End」ではこちらも70年代のカントリー・ロック全盛期の頃のイーグルス初期やポコらのスタイルから脈々と伝わる楽曲スタイルの最高形のパフォーマンスを聴かせてくれ、このあたりでもうかなりジェイホークス・ファンとしては大満足な状態です


アコギのストロークで力強く始まる「Backwards Women」はナッシュヴィル出身の若手カントリー・ロック・バンド、ザ・ワイルド・フェザーズのメンバーとの共作。こちらはよりジャムセッションっぽく、でもピアノのバッキングや、ハイノートのボーカルとコーラスの絡みなど、カントリー・ロックのおいしいところは余すことなく盛り込まれたご機嫌なナンバー。

続く「Long Time Ago」は90年代「If You Could Only See」のヒットを飛ばしたバンド、トニックのリーダー、エマーソン・ハートゲイリーとの共作。ここではライアン・アダムスの作風を彷彿させるような、ちょっとトルバドゥール風のスタイルのゆったりした楽曲を聴かせてくれます。



この後も様々なアメリカーナやオルタナ・カントリー系アーティストとの共作ナンバーを、ジェイホークス一流のフレッシュでいてどこか懐かしい、ハイクオリティなカントリー・ロック・スタイルで次々に聴かせてくれるのですが、アルバム最後の2曲は今回ゲイリーが新たに書き下ろした新曲2曲

最初の「Carry You To Safety」はミディアム・テンポの、これまたメランコリックなメロディをメンバーの分厚いコーラスがバックアップ、時折ラウンジ風なリヴァーヴの効いた骨太なギターがオブリガード的に絡むあたりがグッとくる、そんな曲。そしてアルバムラストの「Leaving Detroit」はピアノの弾き語りにアコギと控えめなドラムスだけが絡む、そんな音数を抑えたアレンジで、途中からゲイリーのボーカルに寄り添うように絡んでくるカレンの、そしてメンバーの分厚いコーラスがとても気持ちのよい曲です


Back Roads (back)


前作の『Paging Mr. Proust』で個人的にはややがっかりしてからは、ジェイホークスというと昔の素晴らしかったアルバムを聴き返すことが多かった最近でしたが、久しぶりにパワーローテーションで聴きこめるアルバムを届けてくれたジェイホークスには感謝。このコラムでジェイホークスを取り上げるとすれば『Hollywood Town Hall』か『Tomorrow The Green Grass』、と思っていたのですが、この新作の到着まで待っていてよかったな、と今では素直に喜べることが嬉しい、このアルバムはそんな作品です。

とかくセルフ・カバー集というと、ファン・サービスの内輪向け的な位置づけの作品だったりすることが多いわけですが、このアルバムに限ってはそんなことはなく、フラットに聴いてもゲイリーを中心にバンドのメンバーが力を込めて作ってくれた立派な新作として評価されてしかるべき作品だと思います


いよいよ秋本番も近い今日この頃、昔からジェイホークスを知っている方も、最近レイ・デイヴィーズのアルバムで彼らを知ったという方も、そしてジェイホークスは知らないけど、心に触れる秋っぽいいい音楽を聴きたい、という方も、このアルバムも含めて過去からのジェイホークスのサウンドに改めて触れてみるというのもお勧めです。ゆっくり彼らの素敵な新譜、お楽しみ下さい。


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アメリカーナ・フォーク・アルバム・チャート 最高位8位(2018.7.28付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#130「Definition Of A Band」Mint Condition (1996)

 #130Definition Of A BandMint Condition (Perspective / A&M, 1996)


先週西日本を襲った巨大台風21号Jebiによる被害、そしてその数日後に北海道を直撃した震度7の地震と、先週の日本はまさに災害列島の様相を呈し、各地での犠牲者の方々、非難されて電気や水などのライフラインを断たれて大変な状況の方々の様子を知るにつけ、犠牲者の方々のご冥福を心より祈ると共に、被災者の皆さんの一刻も早い日常へのご復帰を祈らずにはいられません。一方昨日日本中をわかせた大坂なおみ選手の全米オープン優勝。セリーナや大会側のフェアとはいえない対応もありましたが、彼女の輝きがこれでくすむことはないので、このニュースが災害に苦しむ方々の力に少しでもなればいいですね。


さて一方で徐々に秋に向かう感じの天候になりつつある今日この頃、今週の「新旧お宝アルバム!」は、来る秋の雰囲気を感じさせてくれる、90年代のお宝R&Bアルバムをご紹介。90年代のソウルR&Bルネッサンス・ムーヴメントを代表する、セルフ・コンテインド・バンド(自ら楽器演奏するR&Bバンドのこと)の代表選手、ミント・コンディションの3枚目のアルバム『Definition Of A Band』(1996) をご紹介します。


Definition of a band


以前もこのコラムで触れましたが、1970~80年代を通じて洋楽に親しんだファンの皆さんの多くが、新しい洋楽作品やアーティストから離れてしまった1990年代というデケイドは、実は80年代USの音楽シーンの多くがマスプロ偏重、シンセや打込みサウンドに偏重したことのアンチテーゼでもあるかのように、多くのアーティストがよりアコースティックで、オーガニックな演奏や歌唱、楽曲スタイルに回帰し、ロック、R&B、ヒップホップ、カントリー、ルーツ・ミュージックと多くのジャンルにおける質の高い作品が多く生み出された、実は音楽的には大変重要なデケイドでした

かのMTVアンプラグド・シリーズが始まったのが1989年というのもそれを象徴しています。で、


90年代作品を改めて評価してみようシリーズ、通算第7弾。


以前申し上げたように、個人的に90年代のR&Bシーンでのルネッサンス立役者は、テディ・ライリーブラックストリート、ガイなど)、ラファエル・サディークトニ・トニ・トニ)、ベイビーフェイスそしてジャム&ルイスソロジャネットの一連の作品など)だと思っているのですが、このうち唯一クリエイティヴ的には停滞期だった80年代の初頭から一貫してクオリティの高い作品を作り続けてきたのがご存知ジャム&ルイス

その二人が90年代の動きに呼応するかのように、A&Mレーベルの肝いりで1991年に立ち上げたレーベルがパースペクティヴ・レーベル。そしてそこからの第1号アーティストが、今日お届けするミント・コンディションでした。


ストークリー・ウィリアムス(vo.)、ホーマー・オデル(g.)、ラリー・ワデル(kbd.)、ジェフ・アレン(kbd., sax.)、ケリ・ウィルソン(g., kbd., perc.)そしてリック・キンチェン(b.)の6人からなるミント・コンディションは、1989年にミネアポリスのクラブで演奏しているところをジミー・ジャムにスカウトされ、当時彼がテリー・ルイスと立ち上げようとしていたパースペクティヴ・レーベルから1991年にはデビュー・アルバム『Meant To Be Mint』をリリース。

バンドメンバー全員が楽器演奏(しかもキーボード奏者が3人いて音の厚みが素晴らしいのです)し、全員が曲を書けるというミントが、キャッチーなバラード・ナンバー「Breakin' My Heart (Pretty Brown Eyes)」(全米最高位6位、R&Bチャート3位)でたちまちヒットをものにしたのは、上記のような彼らの音楽的才能レベルの高さを考えればある意味当然だったかも


Mint Condition


彼らの音楽性は、当時の他のアメリカのR&Bアーティスト達に比べると、自らの演奏を主体に楽曲を自ら書いていく、そしてプロデュースもセルフでこなしてしまう、というスタイルも関係してか、ジャズ、それも90年代UKで同時に盛り上がっていったアシッド・ジャズ的なスタイルを強く持っていて、それが彼らを90年代R&Bルネッサンス・ムーヴメントの中でも、ユニークな存在にしている大きな要素のように思いますそしてこのアルバムもタイトル(バンドというものの定義)も彼らがバンド・アーティストであることの矜持を明確に示しているのは間違いのないところ。



まるでジャムセッションのような、ドラムスのソロからカリプソ・スティール・ドラムやサックスが入り乱れる短い「Definition Of A Band (Intro)」で始まるアルバムは最初からただのR&Bアルバムじゃない感満載。リズムを強調したグルーヴがいい「Change Your Mind」から、ミントお得意のゆったりとしたグルーヴを内包したバラードのシングル「You Don't Have To Hurt No More」になだれ込むあたりの気持ちよさはこのバンドの真骨頂。

レコードのスクラッチノイズ的SEをバックにこちらもうねるグルーヴとリズムが快感の「Gettin' It On」を経てこのアルバム最大のヒットシングルとなった完全クワイエット・ストーム・フォーマットの「What Kind Of Man Would I Be」。同時期最盛期を迎えていたベイビーフェイスの影響も感じるメロディを歌うストークリーの艶のあるボーカルと時折入るミント得意のリズムのキメがアルバム前半のハイライトを構成



その後冒頭の曲を更にスイング・ジャズ・セッション風にアレンジした「Definition Of A Band (Swing Version)」に続いて演奏される「Ain't Hookin' Me Up Enough」はそれまでの楽曲に比べてファンキーさを前面に出したナンバー。そしてそこからいきなりボコーダーをフィーチャーしてザップ風のヘヴィー・ファンクを聴かせる「Funky Weekend」、ピーヒャラ・シンセをフィーチャーした「I Want It Again」あたりはいわばこのアルバムのファンク・セクション。それでもそれに乗るストークリーのテナー・ボーカルが楽曲のしなやかさを演出してるところがミントたるところ。



On & On」からはまたお得意のミント節に戻り「The Never That You'll Never Know」は90年代R&Bの典型的なアレンジで彼らのミュージシャンシップを感じさせるナンバー。そこからまた「Raise Up」ではスローながらまたファンキーな楽曲を挟んだ上で、ボーイズIIメンを思わせるほぼアカペラの「On & On (Reprise)」でまた少しメインストリームに戻した後、アルバム終盤はバンド演奏ならではのジャムセッションにボーカルが乗ったような楽曲スタイルの2曲「Sometimes」「Missing」でシャッフル調のグルーヴを展開した後、クロージングはピアノのみの弾き語りでストークリーが両親への愛情を気持ちをこめて、しなやかに歌い上げる「If It Wasn't For Your Love (Dedication)」で終了。最後にストークリーが「Love you, Mom & Dad」とつぶやくのがいい。


Definition of a band (back)


ストークリーの歌のうまさ、アシッド・ジャズやジャズのジャム・セッション的グルーヴで聴かせるバンド演奏と楽曲構成、そしてキメのリズムやメロディをメリハリよく配置したそつのないソングライティングがミントの魅力の主たる構成要素で、このアルバムは初期3枚の中でもこれらが最もバランスよく、絶妙に作り込まれている作品だと思います


この後ミントパースペクティヴ・レーベルのクローズに伴いエレクトラに移籍して『Life's Aquarium』(1999)をリリースの後、6年間のバンド活動休止に入ります。トニ・ブラクストンと結婚したケリの脱退後、活動を再開したミントはインディから4枚ほどのアルバムをリリース。いずれもそこそこの結果を残していたのですが、彼らの名前を久しぶりにメジャーなニュースで聞いたのは2016年の第59回グラミー賞で、彼らが前年に出したクリスマス・アルバム『Healing Season』が最優秀R&Bアルバム部門にノミネートされたこと。残念ながら賞はレイラ・ハサウェイに持って行かれてしまいましたが、彼らの健在さを改めて実感したことができて嬉しく思ったのを覚えています。


秋の気配が少しずつ強くなる今日この頃、ミントのグルーヴ満点な楽曲と演奏、そしてストークリーの素敵なボーカルを聴きながら過ごしてみるのも乙なのではないでしょうか。


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位76位(1996.10.12付)

同全米R&Bヒップホップ・アルバム・チャート 最高位13位(1996.10.12付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#129「Out Of The Blues」Boz Scaggs (2018)

 #129Out Of The BluesBoz Scaggs (Concord, 2018)


先々週はいよいよ秋の到来か?と思われるくらいの素晴らしい気候が何日か続いたのですが、先週は台風一過の後、連日30度台半ばのまたうだるような夏の暑さに逆戻り。こう暑さが続くと疲れてしまいますが、皆さん体に十分に気を付けていい音楽で最後の夏の暑さを乗り切って下さい。


さて今週の「新旧お宝アルバム!」は、そんな暑さを忘れるべく、今年リリースされたボズ・スキャッグスの、渋い艶のあるボーカルが存分に楽しめる、ブルース・カバーを中心にしたニュー・アルバム『Out Of The Blues』をご紹介します。


Out Of The Blues 


ボズといえば70~80年代に洋楽に親しんだファンならアルバム『Silk Degrees』(1976)と大ヒット曲「ロウダウン」に代表されるファンキーで洒脱なブルー・アイド・ソウル・ナンバーや、「We're All Alone」に代表されるR&Bテイスト満点のAORバラード・シンガーのイメージが強烈に残っているアーティストだと思います。

一方、彼の作品を追いかけていろいろ聴かれた方であれば既によくご承知だと思いますが、そもそも彼のルーツというか出自は、同じ黒人音楽でもより根源的なサウンドである、ブルース。彼のキャリアの振り出しは、あのスティーヴ・ミラー・バンドがまだブルースとサイケデリック・ロックのミクスチャー的ロックをやってた1960年代後半の頃のギタリストとしてであり、その後1969年にソロとなりディープなR&Bやブルースロックの聖地とも言えるマッスルショールズで、当時まだ存命だった故デュエイン・オールマンや、マッスルショールズ・スタジオ創設者の一人、バリー・ベケットらと実質上の初ソロ・アルバム『Boz Scaggs』(1969)をリリース、そこに収録されたブルース・ナンバーのカバー「Loan Me A Dime」は、存在感抜群のデュエインのギター・ソロと共にブルース・シンガー、ボズのアイデンティティを確立した有名ナンバーです。


Silk Degrees』『Down Two Then Left』(1978)そして『Middle Man』(1980)といった、当時のメインストリームだったAORブルー・アイド・ソウル・ブームの寵児となったボズでしたが、この後パッタリ活動を休止。1988年に8年ぶりにリリースしたアルバム『Other Road』は、ボビー・コールドウェル作の「Heart Of Mine」の小ヒットを含む、それまでの大ヒット路線を踏襲したものでしたが、この頃からボズは自分の出自であるブルースやディープなR&Bの方向に戻り始めます。


90年代から2000年代にかけ、『Some Changes』(1994)、『Come On Home』(1997)や『Dig』(2001)といった、ブルースやよりディープなR&Bナンバーのカバーと自作曲を含む好盤をいくつかリリースしたものの大きな商業的な成功は得られず。しかし一方で90年代初頭にドナルド・フェイゲンマイケル・マクドナルドと組んで「The New York Rock And Soul Revue」や2010年に同じメンバーでの「Dukes Of September Rhythm Revue」といったR&Bを基調としたライヴ活動に参加し、自分の方向性固めをした後、リリースしたのがボズのメンフィス・ソウルへのオマージュに満ちた素晴らしい『Memphis』(2013)でした。そしてこの作品はシーンからも高く評価され、あの『Middle Man』以来の全米トップ20アルバムとなったのです。


Memphis.jpg


この直後の来日公演では、『Memphis』からの曲やR&Bのカバーを中心にやってたところ残念ながら多くの観客の反応が今ひとつだったためか「わかったわかった、これやればいいんでしょ」と言って「What Can I Say」から『Silk Degrees』のナンバーになだれ込んで見せたのがとても印象的でした。でも一部の熱心なボズのファンは『Memphis』の素晴らしさとそのライヴに喝采を送っていたと思います。

その『Memphis』に続いて更に様々なR&Bアーティスト達へのオマージュに溢れた『A Fool To Care』(2015)を経て、ブルース・R&B三部作の完結編として今回リリースされたのがこの『Out Of The Blues』。


Boz Scaggs


このアルバムは、いくつかの点で三部作最初の二作『Memphis』『A Fool To Care』と異なっているところがあり、個人的にはそれらはボズの自分のルーツに忠実であろうとする思いの表れだと感じています。

一つには、今回のプロデュースは、それまでの二作でR&Bオマージュのテーマを的確に素晴らしいアレンジでいい仕事をしていたスティーヴ・ジョーダンではなく、基本セルフ・プロデュース。共同プロデューサーとしてクレジットされているのは、90~2000年代にブルースやR&Bテーマのアルバムを一緒に作り続けてきた盟友、クリス・タバレスマイケル・ロドリゲス。ここに彼がサウンドやアルバム作りにおいて気の知れた仲間と自分のやりたいことをやるんだ、という気持ちが表れていると思います。


そして二つ目の、そして最大のポイントは、今回の収録曲は、こちらもブルース・バンド時代からの盟友、ジャック・ウォルロス作の新曲4曲(1曲はボズとの共作)を含めすべてゴリゴリのブルース・ナンバーであるということ。しかも「I've Just Got To Forget You」「The Feeling Is Gone」と彼自身のアイドルであるボビー・ブランドのナンバーを2曲もカバー。前作までのように、アル・グリーンカーティス・メイフィールド、スピナーズザ・バンドらの曲をR&B手法でカバーする、という中途半端なやり方ではなく、自分の最大のルーツであるブルースに徹しているということ。ここにボズの本作に対する本気度を感じるのは自分だけでしょうか。アルバムタイトルはやや逆説的ですが、このアルバムではボズは完璧に「Into The Blues」状態で、それが彼自身の艶のあるボーカルも相まって、最高の結果を生み出しています。


ジャック・ウォルロス作のオリジナル「Rock And Stick」でゆったりと体を委ねるかのように気持ちよく歌うボズの声は最高。ジャック自身のハーモニカのエッジの立った演奏も、このアルバムはブルース・アルバムだぜ!と宣言しているかのよう。メンフィスの夜を思わせるボビー・ブランドの「I've Just Got To Forget You」のカバーも色っぽく、イントロのフレーズから曲を通じてラフながらグルーヴ満点のチャーリー・セクストンのギターが効いている「I've Just Got To Know」、そして一昨年出たストーンズのブルース・アルバムのあの雰囲気を強く感じさせるリズム・セクションが凄いジャック作の「Radiator 110」とどっしりとしたリズムと演奏のナンバーが続きます。




アルバムA面ラストは、ジャックボズの共作で、ちょっとチャック・ベリー風のロックンロールテイストな「Little Miss Night And Day」。ここまで聴いてもブルースだからと単調なところは一切なし。バックを固めるドラムスのジム・ケルトナー、ベースのウィリー・ウィークス、ギターのチャリ坊レイ・パーカーJr.、そしてクラプトンの再来と言われるドイル・ブラモール2世といったここ数作のバックを努める最高のメンバーの演奏もボズのボーカルを引き立てる素晴らしいグルーヴを生み出しています。



そしてアルバムB面に移り、ちょっと驚いたのはいきなりのニール・ヤングの「On The Beach」のカバー。アフターアワーのメンフィスのバーで演奏されるスロー・ブルース・ナンバーのようなアレンジで歌われるこのバージョン、最初聴いた時はニールのカバーとは気付かず、途中で作者クレジットを見てびっくりした記憶があります。オリジナルもムーディーなナンバーですが、これを自分のブルース・スタイルに仕立て上げるあたりが、本作でのボズの素晴らしいところ。

そしてシャッフル調のブルース・ナンバーで、今度はハーモニカをドイルが担当するジミー・リードのカバー「Down In Virginia」からジャッ作のややアップビートなリズムにこのアルバムで初めてホーンセクションが絡む「Those Lies」と流れるように繰り出されるブルース・ナンバーの流れは、またまたアフター・アワーのブルース・バーの雰囲気に戻ってゆったりと歌われる、ボズのアイドル、ボビー・ブランドの「The Feeling Is Gone」のカバーで静かに終わりを告げます。


ここまで読んで来て、うーんブルース・アルバムねえ、ブルースってちょっとハードル高い、なんか難しそう、みんな同じような感じの曲なんでしょう、といった印象を持たれる方も多いかもしれませんが、そういう先入観を一切捨ててとにかくボズのこの新作、ガツンと聴いてやって下さい。

何よりも凡百のブルース・アルバムとの最大の違いは、ボズの素晴らしい声。あの『Silk Degrees』から40年以上経ちますが、年齢を重ねてその艶はますます増しているかのようです。

そしてそれ以前の70年代初頭の頃のボズのアルバムを聴いた後にこのアルバムを聴いても全く違和感がないのも、それだけボズというミュージシャンの軸がぶれていないことの証明だと思いますし、だからこそこのアルバムにはボズの本気度がみなぎってるように感じるのだと思います。


Out Of The Blue (back)


まあ、堅いことは抜きにして今夜はこのアルバムを聴きながら、バーボンでも傾けることにしますか。


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位82位(2018.8.11付)

同全米ロック・アルバム・チャート 最高位12位(2018.8.11付)

同全米ブルース・アルバム・チャート 最高位1位(2018.8.11付)

同全米アメリカーナ・フォーク・アルバム・チャート 最高位3位(2018.8.11付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#128「Under The Table And Dreaming」Dave Matthews Band (1994)

 #128Under The Table And DreamingDave Matthews Band (RCA, 1994)


静かながら暑いお盆週間が過ぎ、先週末あたりから急に朝晩そして昼間の気温も湿度もぐっと下がり、一気に秋の到来を思わせる素晴らしい天候が続いていますね。この週末はこの最高の天候でサマソニを満喫した洋楽ファンも多かったことでしょう。このまま一気に秋に突入してほしいものですが。


さて今週の「新旧お宝アルバム!」、久しぶりに90年代を見直そうシリーズで、日米でこれだけ知名度と人気度のギャップの大きい実力派ロック・バンドもそうそういないのでは、と言うほど日本では一部の熱心なファン以外に知られていないのに、USでは年齢問わずクラシック・ロック・ファンの間で絶大な人気を誇る、アメリカを代表するロック・バンドの一つ、デイヴ・マシューズ・バンドがその人気を決定づけた2作目のアルバム『Under The Table And Dreaming』をご紹介します。


Under The Table And Dreaming 


90年代作品を改めて評価してみようシリーズ、通算第6弾。


日本でデイヴ・マシューズ・バンド(DMB)というバンドを知っている洋楽ファンは果たしてどのくらいいるのか。南アフリカ出身のデイヴ・マシューズを中心に、アメリカはヴァージニア州シャーロッツヴィルをベースに1991年から活動。本国アメリカでは今回ご紹介する『Under The Table And Dreaming』でメジャーブレイク、次作の『Crash』(1996)で人気を決定付け、その次の『Before These Crowded Streets』(1998)から今年6年ぶりにリリースされた新作『Come Tomorrow』までスタジオアルバム7枚連続をNo.1とし、U2(連続5枚No.1)やメタリカ(連続6枚No.1)を上回り、メインストリーム・ロック・アーティストでは同じく7枚連続No.1の記録を持つコールドプレイと並んで絶大なマス人気を誇るバンドなのに、日本では彼らの曲がオンエアされたり、名前が音楽誌等で大きく取り上げられることは大変少ない、という状況には常々疑問を持ってきました。

自分は90年代半ばに洋楽ファンコミュニティ「meantime」に関わった頃に当時エアプレイ・チャートでこのアルバムからガンガンにヒットを飛ばしていた彼らの作品に触れ、その後2000~2004年のNY駐在時に、現地でのDMBの人気の凄さを目の当たりにして以来この疑問はずっとあります。


DMB.jpg


彼らのサウンドを一言で言うのは大変難しいのですが、いくつかのポイントを挙げますと、


1.70年代ロックのスタイルを底辺に、ジャズ、フォーク、ファンク、R&B、ブルースといった様々なジャンルの要素を複雑に取り入れた多様な楽曲を、高い演奏力で90年代以降のロックバンドらしい先進性を持ったスタイルを実現している。


彼らの作品を聴いてすぐに気が付くのは、とても複雑な演奏とコード進行を駆使し、ほとんどジャズロック・バンドのような高い演奏力で複雑なグルーヴを聴かせてくれる、ということですが、彼らのサウンドの底辺を支えているのはジャズというよりも、むしろ70年代初頭の頃のメインストリーム・ロックやスワンプ、ブルーズロックなど、90年代以降新しい洋楽から離れてしまったシニアな洋楽ファンでもとても楽しめる要素なのです。このあたりが、USではシニアなファンも含めて絶大な人気を得ている大きな要因。

また、メンバー達の演奏力はただ者ではないレベルで、リーダーのデイヴはこのアルバムを含む最初の3枚では一切エレクトリック・ギターを使わずアコギでの演奏にこだわりながら、いわゆるアコースティック・ミュージックではなく、大きなうねりのあるグルーヴを生み出すサウンドを、エレクトリック・ヴァイオリンやサックスなど通常のロック・バンドではあまり使われない楽器も駆使した魅力的な個性を実現しているのです。


2.ライヴ活動を重視し、数々のライヴ・アルバムを通じて70年代のジャムバンド的なフォロワー層や人気を確保している。


彼らのライヴの人気もUSでは非常に高く、チケットはプレミアムがついてすぐ売り切れるのが当たり前(自分もNYで電話申し込みで一瞬チケットを確保しながら、クレジットカードを取り出している間にあっという間にチケットがなくなった、という悲しい経験をしています)。ライヴではその演奏力をバックに単にアルバムの再現をするのではなく、延々とインプロヴィゼーションを繋いで全く新しいアレンジで聴かせたり、アルバム未収録ながらライヴ定番の曲があったりと、ファンがDMBを「90年代のグレイトフル・デッド」と例えるように、ジャムバンド的なライヴのスタイルが有名です。

ことほどライヴを重要視してますが、デッドのようにライヴ音源録音自由で草の根によるファンへの音源供給というスタイルではなく、ライヴ音源の不法な商品化を行う業者を当局と連携して逮捕させたりして不公平な音源供給を防ぐ一方、これまで15作のライヴ・アルバム(そのほとんどが2枚~3枚組)をリリースし、ライヴに行けないファンにも音源供給を確保するなど、新世代のジャムバンドとしての対応を行っています。

DMB RS


そのDMBのメジャーブレイク作となったこの『Under The Table And Dreaming』はまさしく上述した様々な音楽的要素が既に高い完成度で練り上げられ、高い演奏力で複雑なグルーヴによるロックを聴かせてくれる、そんなアルバムになっています。そしてそのアルバムをプロデュースするのは、先進的でエッジの立った音作りでは定評のある名匠スティーヴ・リリーホワイト。DMBの初期3枚をプロデュースした彼もDMBのシグニチャー・サウンドの形成に大きく貢献した一人。


オープニング「The Best Of What's Around」はややレイドバックしたリズムをバックにやや陰りのある複雑なメロディを聴かせますが、サビの部分はキャッチーに聴かせるナンバーで、デイヴのちょっと鼻にかかった独特のボーカルでラジオ等でかかれば一発で「あ、DMB」とわかる曲。

デイヴと僚友のギタリスト、ティム・レイノルズの二人が繰り出す達者なイントロの複雑でリズミックなアコギのフレーズから強いビートのメインに入っていく「What Would You Say」はR&B的要素が強い、彼らの最初のエアプレイヒット。あのマイケル・マクドナルドがバックコーラスに入っており、バックでハーモニカを吹いているのは当時人気の高かったブルース・トラヴェラーズジョン・ポッパーです。

続く「Satellite」も複雑なアコギのフレーズ(デイヴがギターの運指練習に使っていたフレーズを使ったとのこと)とそれをバックアップするヴァイオリンの演奏から静かに始まり、6/8拍子のテンポに乗ったゆったりとしたナンバーでこちらもエアプレイでヒット、ライヴなどでも人気の高い曲。



こちらも複雑なギターリフをバックに珍しくデイヴがつぶした声でのヴォーカルで歌う「Rhyme & Reason」、静かなアコギのイントロでちょっと息をつく、こちらもライヴ定番曲「Typical Situation」に続いて再びマイケル・マクドナルドがバックコーラスに入った「Dancing Nancies」はちょっとミュージカルの挿入曲のようなシアトリカルなアレンジで始まり、メインに入るとちょっとメンバーのリロイ・ムーアのアルト・サックスが効果的な異国調のコード・メロディが展開されるちょっと変わったスタイルの曲



後半は、彼らの看板的な代表曲で、初期の最大のエアプレイ・ヒットだった「Ants Marching」。エレクトリック・ヴァイオリンやサックスのリフをバックに後打ちのシャッフルリズムに乗って時にはファルセットを駆使してボーカルを聴かせるデイヴが気持ち良さそう。静かなアコギをバックの、しかしリズミックな「Lover Lay Down」に続いて出てくるのは、これこそDMBライヴでの定番人気曲、彼らのライヴ盤には必ずといっていいほど収録、それも延々とインプロヴィゼーションを加えてショーのハイライトとして演奏される「Jimi Thing」。タイトルの通り、あのジミヘンをイメージして作られた曲だと思われますが、初期ドゥービーを思わせるアコギストロークのイントロから次第次第にDMBのお馴染みに複雑で無国籍なグルーヴとリズムに発展するこの曲、ライヴで聴くとまた一段と盛り上がること必至

その「Jimi Thing」同様、初期の頃から現在に至るまでライヴでの人気が高くほとんどのライヴで演奏される「Warehouse」はこちらもデイヴとティムのアコギ2台の複雑なギターワークが大変印象的で、そこからどんどん後半にかけて様々な楽器やリズムがなだれ込んでカタルシスを上げていくというDMBお得意のパターンの楽曲。



アルバムの最後は後乗りリズムでのアコギのリフに乗ってデイヴが歌う静かめな「Pay For What You Get」に続き、このアルバム唯一のインスト・ナンバー「#34」でアルバムは終わりますが、この曲はのち2008年に事故死するバンドのサックス奏者リロイ・ムーア他2名との共作。曲中何度も複雑に転拍するアコギのフレーズにリロイのサックスがオブリガードのように乗って演奏されるこの曲、最初にライヴで演奏された1993年のバージョンでは歌詞があったものを、このアルバム録音ではインストにしたという楽曲。2008年リロイ逝去後のサマーツアーではアンコールブレイクでリロイの映像を流すバックにも何度か使われたというこの曲、その後も何度かライヴでは歌詞付でプレイされたという、DMBにとって様々な意味で特別なこのナンバーで静かに終了します


Under The Table And Dreaming (back)


このアルバムがリリースされる直前の1994年1月には、デイヴの姉アンの夫が自殺直前にアンを殺害するというショッキングな事件があり、アルバムのライナーには「このアルバムをアンの思い出に捧げる」というコメントが入っており、そうした意味でもこのアルバムはデイヴ自身にとっても大変特別なものだったに違いありません。このアルバムのブレイク、そして次の『Crash』の大ヒットで名実ともにアメリカを代表するロック・バンドとなったDMBこのアルバム収録ナンバーの多くが今でもライヴで演奏されるあたりに、彼らのこのアルバムに対する思いが忍ばれます


今年リリースの新作『Come Tomorrow』でも変わらぬ個性あふれるグルーヴ満点の楽曲を聴かせてくれているDMB。恐らくギャラの問題が大きすぎてなかなか来日は難しいのでしょうが、そのうちフジロックあたりに来てくれないか、と密かに思っているのです。それまではこのアルバムをはじめ、DMBの作品を聴いてそのグルーヴに身を任せることとしましょう。


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位11位(1995.6.10付)

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#127「Against The Grain」Phoebe Snow (1978)

 #127Against The GrainPhoebe Snow (Columbia, 1978)


相変わらず暑い毎日が続いていますが、このお盆前の週末に一雨入ってからは、気持ち暑さもややしのげるレベルになってきたような。今週はお盆ですのでお休みで帰省その他であちこちに出かけている方も多いでしょうが、水の事故等も多いようですのでくれぐれも安全に気を付けて、暑い夏を楽しんで下さい。

さて「新旧お宝アルバム!」は、先週のジョージャ・スミス同様、声を聴くだけでちょっとだけ涼しさを運んできてくれるシンガー、ということでスタイルはだいぶ違いますが、皆さんよくご存知の素晴らしくソウルフルなのに軽やかな歌声のシンガーソングライター、故フィービ・スノウの5作目のアルバム『Against The Grain(詞華集)』をご紹介します。

Against The Grain 

フィービ・スノウというと、コントラルトの澄み切った歌声ながらR&Bやブルーズ・スタイルの歌唱で独特の魅力を持っているシンガーで、デビュー・アルバム収録の「San Francisco Bay Blues」のカバーや、彼女唯一の全米トップ10ヒット「Poetry Man」(1975年最高位5位)で彼女の素晴らしいボーカル・パフォーマンスに出会ってぶっ飛んだ、という方も多いことと思います。

でも、自分がリアルタイムでフィービの歌にノックアウトされたのは、デビュー後間もなくして、1976年にグラミー賞最優秀アルバムを獲得したポール・サイモンの『Still Crazy After All These Years(時の流れに)』に収録されていたヒット曲「Gone At Last(哀しみにさよなら)」に共演してポールとデュエット、そのブルース・スタイルでスイングしながらパンチの効いたボーカルを聴いた時でした

声を聴いただけですぐフィービとわかる特徴的なのに魅力的。技巧的にも優れているだけでなく、ブルース、フォーク、R&B、ジャズといった様々な音楽スタイルをこなし昇華しながら、ワン・アンド・オンリーのスタイルのシンガーとしてシーンから、評論家から極めて高い評価を得ていたフィービ。しかしそのスタイルが多様であるが故に、センセーショナルなデビューを果たしながら、大手レコードレーベルは彼女をうまくマス・プロモーションできず、商業的な成功には残念ながら恵まれず。

一方私生活では、デビュー後まもなく結婚して1975年12月に授かった娘ヴァレリーが生まれながらにして脳障害を患っているという不幸に見舞われ、施設に入れずに自宅での養育を選ぶという決断を。正にこのアルバム制作中の1977~1978年はヴァレリーの看病をしながらの音楽活動を行っていたわけで、ライナーノーツにある「このアルバムは愛する娘、ヴァレリーに捧げる。愛しているわ」と言う控えめなコメントが彼女の苦労を忍ばせます。

Phoebe Snow

2作目の『Second Childhood(夜の調べ)』(1976) 以降移籍したメジャーのコロンビア・レコードは、同作のフィル・ラモーンビリー・ジョエルストレンジャー』等プロデュース)、次の『It Looks Like Snow(雪模様)』(1976)のデヴィッド・ルービンソン(70年代のポインター・シスターズのブレイクに貢献したジャズ系の大物プロデューサー)、そしてこの前作にあたる『Never Letting Go(薔薇の香り)』(1977)では再びラモーンと、大物プロデューサーをつぎ込んでフィービの再ブレイクを狙ったのですが、残念ながら商業的には今ひとつ。娘の養育の負担が彼女の音楽活動に陰を落とす中、最後のトライアル的に作られたのがこのアルバムではなかったか、と察せられます。

このアルバムではラモーンが引き続きプロデュースを担当していますが、共同プロデューサーとしてマッスルショールズ・スタジオの主要人物として有名なバリー・ベケットが名を連ね、キーボードとシンセサイザーで全面参加すると共に、アルバム全体の最終ミックスもバリーが、自分のマッスルショールズ・サウンド・スタジオで行っています。

その結果、前作までと同様、名うてのセッション・ミュージシャン達(スタッフのメンバーやウィル・リー、ヒュー・マクラッケン等)でバックを固めながら、それまでの作品のよく言えば洗練されたサウンド、悪く言うと「小綺麗すぎるサウンド」とは一線を画した、中低音のパワーとメリハリが素晴らしい、引き締まったサウンドが全体のグルーヴを一段上げています

その効果はA-1の「Every Night」からしていきなりリスナーを持って行くフィービの歌唱とサウンドに如実に表れています。ポール・マッカートニーのソロ第1作『McCartney』(1970)に収録されていた曲のカバーであるこのトラックは、楽曲のアレンジとタイトなリズムにフィービのボーカルがぴったりマッチした素晴らしいバージョン。この一曲でこのアルバムに対する期待が大きく膨らむというものです。


続く「Do Right Woman, Do Right Man」はマッスルショールズ・サウンドを代表すると言ってもいい、あのアレサ・フランクリンのバージョンの他数々の名カバーでつとに有名なスワンプR&Bの定番曲バリーがこの曲をフィービラモーンに強くプッシュしたことは想像に難くありません。そしてその結果はやはりフィービのボーカル特性を存分に生かした出来になっています。

その後も70年代初頭、モータウンから離脱してインヴィクタス・レーベルを作ったブライアン・ホランドの作によるエイス・デイのヒット曲を性別を女性から男性に変えた「He's Not Just Another Man」でファンキーなバックのリズムに乗ってフィービ本来のブルージーな魅力が聴けるという、バリー結構好き勝手にアルバムをマッスルショールズ色に染め上げたA面のプロデュースワークが光っています

フィービ自作のやや内省的で静かな「Random Time」を挟んで、タイトなA面を締めるのは、パティ・オースティンのファースト『End Of A Rainbow』(1976)に入っていたパティ作のミディアムのドリーミーなナンバー「In My Life」です。


B面になると、楽曲的には4曲目の『The Married Men』(個性的なパフォーマンスで知られた3姉妹のグループ、ローチェスのナンバー)以外はすべてフィービの自作曲。B面トップの「You Have Not Won」は「あなたは私にプレッシャーを与えて打ちのめすけど、私は逃げないし、あなたは勝ったわけではない」と、正しく娘の病気と闘うこの頃のフィービの苦しみがにじみ出ているような曲ですが、続く「Mama Don't Break Down」はニューオーリンズのスワンプ・ミュージックを思わせるようなファンキーで軽快なナンバーにフィービが軽々とグルーヴ満点のボーカルを乗せて聴かせる、と言う曲でちょっとほっ、とします。




続いて、LAでの男性との苦い過去の思い出を歌ったように聞こえる静かで美しい「Oh, L.A.」でまたちょっとフィービの辛い心理的側面が垣間見えますが、上記のローチェスのカバー「The Married Men」では冒頭にルイジアナ、という歌詞が出てくるように、これもまたニューオーリンズのファンキーなスタイルな楽曲で、たゆとうようなフィービのボーカルのヴィブラートがよくマッチした素敵なカバーに仕上がっています。

そしてアルバムラストの「Keep A Watch On The Shoreline」はまた内省的で希望を追い求めるけどもたどり着けない、といった切なさを感じさせるような歌詞を、やや哀しげなメロディに乗せてフィービが思いに埋もれるような感じで歌う、という感じで、アップとダウンが交互するB面を象徴するような形でアルバムが終わります。

Against The Grain (Back)

後のインタビューで「この頃は娘の病気の関係で音楽活動に打ち込めなかった」と言っているように、このアルバムを最後にフィービコロンビアを離れ、1981年にアルバム『Rock Away』をリリースしただけで80年代は音楽シーンの一線に出てくることはめっきりなくなりました。恐らくその間娘ヴァレリーの養育に注力していたのでしょう。

それでも1989年久しぶりにリリースしたアルバム『Something Real』がちょっとしたヒットとなったのをきっかけに音楽活動を再開。90年代は数々のイベントライブやNYでの企画コンサートやイベントに参加、特にドナルド・フェイゲンマイケル・マクドナルドを中心としたNYビーコン・シアターでの「New York Rock And Soul Revue」に参加して1992年に出たアルバムでも数曲フィービの久しぶりの歌声が聴かれていました。

その後も1998年には当時のジュリアーニNY市長からNY文化功労賞を授与されたり、1999年にはキャンプ・デイヴィッドに招かれて当時のクリントン大統領夫妻を前にパフォーマンスするなど、着実な活動を行っていましたが、残念ながら2007年に娘ヴァレリーが長年の闘病の結果31歳で急逝

フィービ自身も2008年にリリースしたライブ盤『Live』を最後に、2010年1月に脳内出血で倒れた後、2011年4月にその60歳の短すぎる生涯を終えたのでした。

このアルバムでもふんだんに聴かれる彼女の素晴らしい、独特の魅力をたたえた歌声を聴くにつけ、彼女のシンガーソングライターとしてのキャリアはもう少し商業的にも恵まれたものになれなかったんだろうか、とどうしても考えてしまいます。おそらくこんな声で、こういうスタイルでここまで心を揺さぶることのできるシンガーはそうそう現れないのでは。そんなことを思いながら、お盆の週、フィービの歌声を聴きながらまだまだ続く暑い夏を過ごしています。皆さんも是非フィービの歌声、暑い夏のお供にいかがでしょうか。

<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位100位(1978.12.2付)

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

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