Life Is A Rock - 洋楽こそ我が人生
洋楽全般について、英米ヒット・チャートに登場有無に関係なく、お気に入りの洋楽作品についての独り言やコメントをつれづれに掲載します。「新旧お宝アルバム!」「恒例グラミー賞大予想」など定期コラムが中心です。洋楽 ファンサイト、meantime(www.meantime-jp.com)のスピンオフ企画としてお楽しみ下さい。
【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム! #86 「Americana」 Ray Davies (2017)

 

#86 AmericanaRay Davies (Legacy / Sony Music, 2017)

いやいや急に連日真夏日が続いて一気に街はみんな半袖になってしまったこの週末、皆さんは如何お過ごしでしょうか。寒暖の差が激しいと体調を崩しやすいのでお互いに健康には気をつけて楽しい洋楽ライフを楽しみましょう。

さて先週お休みを頂いてしまったこの「新旧お宝アルバム!」、今週は最近リリースされたアルバムをご紹介する番。今回は、60年代からブリティッシュロックを代表するバンドの一つ、皆さんよくご存知キンクスのリーダー、レイ・デイヴィーズがフルオリジナルのソロアルバムとしては10年ぶりにリリースした「Americana(2017)をご紹介します。

Ray Davies Americana

このアルバムのタイトルを見て「イギリス人のレイが『アメリカーナ』ってどういうこと?」と思った方も少なからずいるでしょう。
実はオリジナル作としては3枚目になる今回のソロはいろんな意味でこれまでのキンクスの顔としてのレイのイメージからするとえっ、と思うところの多いアルバム。

まず、レイのバックを固めるのは、これまでのイギリスのミュージシャンを中心としたベテラン達ではなく、今のアメリカのオルタナ・カントリー・ロックシーンを代表するバンドの一つ、ギターのゲイリー・ルイス率いるジェイホークスの面々。彼らは『Hollywood Town Hall(1992)、『Tomorrow The Green Grass(1995)、『Rainy Day Music(2003)などのアメリカーナ・ロックの名盤と言われる数々の作品でシーンで絶対的な地位を占め、昨年も新境地を模索するかのような新作『Paging Mr. Proust』をリリースしたばかりのバリバリの一線級バンド。その彼らが全面参加したこのアルバムのサウンドはまごうかたなき、正真正銘のがっしりとしたアメリカーナ・サウンドです。
しかし、これもこのアルバムの魅力の大きな一つの要素なのですが、そうしたジェイホークスの面々が奏でるサウンドによる楽曲が、すべてレイ自身の作品。さらにジェイホークスの新作といっても通りそうな曲にレイのボーカルが入ってきた瞬間に、それこそ一瞬にしてレイの世界になってしまうのには驚きです
つまりこの二つ~ジェイホークスのアメリカーナサウンドとレイ一流のスタイルと練られた楽曲~が見事に渾然一体となって、アルバムとしての素晴らしい一体感を作り出しているのがこのアルバムの最大の魅力でしょう。

レイの楽曲スタイルは明らかにカントリーやゴスペルやラグタイム、果てはニューオーリンズのクリオールといったアメリカの伝統的音楽スタイルを意識しながらも、そうしたアメリカ音楽が、過去半世紀間トップブリティッシュ・ロック・アーティストとして歴史的な活動をしてきた彼自身の音楽にどう影響してきたか、彼がどう消化してきたかを今一度見つめ直してアウトプットしてみた、そんな作品に聞こえるのです。

冒頭のタイトルナンバーでは、アコースティックなサウンドに乗って「バッファローがさまようこの素晴らしいパノラマの広がる自由の国、アメリカーナに住みたい」なーんて、真面目だかシャレだか判らんなぁと思いながら聴いてると、「Poetry」なんてモロ90年代のジェイホークス、だけどボーカルはあのウインクしながら皮肉っぽく歌うレイだし、かと思うと「A Place in Your Heart」なんて100%カントリーロック。「Rock 'N' Roll Cowboy」なんてタイトルもまんま、曲もフィンガーピッキングのアコギでもろナッシュヴィル、歌詞も「ロックンロール・カウボーイよどこへ行く/OK牧場の決闘での最後の撃ち合いの後で/引退した老いぼれみたいに夢を追うのはあきらめたか/ それともまだ敵の顔をハッタと睨むだけの元気はあるのか」と自らを叱咤激励するかのような内容ではっとさせられて。ウディ・ガスリーの曲を思わせる華やかなアコギの「The Invaders」もいい出来です。

一方でイントロでいきなりキンクスの代表曲の一つ「All Day And All Of The Night」のリフが出てきてニンマリする「The Man Upstairs」とか70年代前半のキンクス彷彿しまくりの「The Deal」とか、80年代前後久々にハードロックしてたアルバム『Low Budget(1979)や『Give The People What They Want(1981)の頃のキンクスを思わせるハードながらポップセンスが隠れたカッコいいリフと相変わらずフワッとしたレイのボーカルのアンバランスさが憎い「The Great Highway」など、ホントにこの二つの要素がうまく共存していて、聴いててどんどん引き込まれていくこと請け合い。何せ、クラブでいい女に会ってよくよく話してみると実は性転換した男だった、なんていうユーモアと諧謔たっぷりの曲「Lola」を1970年に大ヒットさせたキンクスの親分だけに、なかなか一筋縄ではいかないし、それがまた大変魅力的なのです

レイはこのアルバムに先立って同名の半生自伝を2013年に出してるらしいですが、今回はそれを音で表現、発表したという位置付けなのかもしれません。 思えば60年代から活躍してるブリティッシュ・ロッカー達は、ビートルズストーンズツェッペリンの例を挙げるまでもなく、一貫して米国音楽への憧憬と愛憎を糧に大きくなって来てる訳で、この年になってそうした自らの音楽遍歴を俯瞰したくなったとしても不思議はないのです

このアルバムにいくつか収録されているレイのモノローグもそうで、「The Man Upstairs」ではブルースアコギの音色をバックにツアーで訪れるいろんな街のホテルの部屋やバーの荒んだ様子を回顧したり、「Silent Movie」ではニューオーリンズを訪れた時の回顧で、ニューオーリンズを離れる前の夜に友人のアレックス・チルトンが訪ねてきて、曲作りがいかに喜びを与えてくれるかを長々と語り合ったと独白。アレックス・チルトンといえば1967年の「あの娘のレター」のヒットで有名なボックス・トップスのリーダーで、90年代にはパワーポップ・バンドのビッグ・スターのリーダーとして復活、レイのこの前のセルフ・トリビュート・アルバム『See My Friends(2010)でも共演していた、レイを敬愛してやまなかったミュージシャン。そのアレックスがその後2013年に他界したこともこうした独白を自分の音楽遍歴の集大成的な今回のアルバムに入れた理由なのでしょう。

Ray Davies Americana (back)

そしてこの芳醇な作品を聴きながらふと思ったのは、ひょっとしてこのアルバム、今年のグラミーのアルバム部門にノミネートされちゃうかも、という突拍子もない予想。考えてみれば今アメリカは、トランプ大統領就任からこっち、特にここ数週間のトランプFBI長官解任に端を発した目が点になるような展開で、史上かつてないくらい世界のリーダー国としての尊厳を揺るがす展開が続いている状況(もっともそれは、アメリカが過去水面下で国際紛争を助長すべき行ってきた数々の諜報活動を知らされない善良なアメリカ人達にとっての尊厳なのだが)。そこでこうした、アメリカの文化への赤裸々なリスペクトに満ちた、しかも作品としても素晴らしいアルバムが出てきたわけで、これを聴いて感激するアメリカ人は結構多いに違いないことは想像に堅くない。そう考えるとなかなか愉快ではないですか。

ま、そんな予測の当否は半年後には明らかになるわけですが、その間、レイ一流の乾いたウィットとスタイルを持って、英米の音楽史を今の表現として形にしたこの素敵な作品をじっくり楽しもうではないですか。

<チャートデータ>
ビルボード誌全米アルバムチャート最高位79位(2017.5.13付)
同全米アメリカーナ・フォークアルバムチャート最高位3位(2017.5.13付)


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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#85「A Quiet Storm」Smokey Robinson (1975)

#85『A Quiet Storm』Smokey Robinson (Tamla / Motown, 1975)


終始天候に恵まれた今年のゴールデンウィーク、皆さんはいかがお過ごしでしたか。自分は5連休でしたが、丹沢と奥多摩の御岳山にと2度登山ハイクにでかけ、その合間を縫って嫁さんと越後湯沢まで日帰りで温泉&日本酒三昧の小旅行に行ってきました。9連休の方はもっとダイナミックなホリデーを過ごされた方も多いでしょう。そしてそのお供に常に素敵な音楽がご一緒だったことと思います。


さてGWも終わり日常に戻った皆さんに向けて、今週の「新旧お宝アルバム」はまだ頭に残っているゆったりとした休暇のイメージを想起させるような、ゴージャスな雰囲気たっぷりのソウルの名盤をお送りします。ソウル界の大御所でこのアルバム発表当時はモータウン・レコード副社長を務めながら、60年代大成功したミラクルズを脱退し、ソロ・キャリアをスタートさせたばかりのそう、皆さんよくご存じのスモーキー・ロビンソンのアルバム『A Quiet Storm』(1975)をご紹介します。


A Quiet Storm 

スモーキー・ロビンソンといえばあのヴェルヴェットのようなファルセット・ヴォイスのボーカルによる歌唱がつとに有名ですが、スモーキーは60年代、モータウン・レコードの看板グループの1つ、ミラクルズのリード・シンガー時代から、シンガーとしてだけではなくソングライターとしても非常に素晴らしい楽曲をつくり出しています

ミラクルズ時代の60年代のヒット曲で後にカバーヒットとなっている「Shop Around」(1960年最高位2位、キャプテン&テニールのカバーで1976年最高位4位)、「Ooh Baby Baby」「Tracks Of My Tears」(いずれも1965年16位、いずれもリンダ・ロンシュタットのカバーで1978年7位&1976年25位)、「More Love」(1967年23位、キム・カーンズのカバーで1980年10位)などは言うまでもなく、他のモータウンのアーティスト達の数々のヒットも書いています。メアリー・ウェルズのNo.1ヒット「My Guy」やテンプテーションズの「My Girl」「The Way You Do The Things You Do」「Get Ready」をはじめ、マーヴィン・ゲイ、マーヴェレッツらのヒット曲を量産していた、モータウンにとってはスーパーマンのようなアーティストだったのです。その貢献度から60年代半ばに20代の若さでモータウンの副社長に任命されたのもむべなるかな、です。

そのスモーキーがツアーから離れて家族との時間を確保すると共にモータウン副社長の仕事に専念するために1972年にミラクルズから脱退して一旦アーティスト引退。しかし間もなくソロとしてカムバックしてアルバム『Smokey』(1973)、『Pure Smokey』(1974)を発表しましたが当時ヒットを連発していたレーベル仲間のマーヴィン・ゲイスティーヴィー・ワンダーらの成功には及ぶべくもない状況。そんな中発表されたのがこのアルバム『A Quiet Storm』でした。



同時期のスティーヴィー・ワンダーの大ヒットアルバム『Fulfillingness' First Finale(ファースト・フィナーレ)』(1974)などでも使われていたアープ・シンセサイザーの電子的なトーンとタイトルから暗示されるような嵐の風音で始まるタイトル・ナンバー「Quiet Storm」は、これぞスモーキー、という感じのヴェルヴェット・ヴォイスで官能的に歌われるゴージャスなR&Bソングで、7分半以上に渡ってアープ・シンセやフルートのソロをバックにいきなりリスナーをカタルシスに持って行きます。

充分暖まったところに往年の60年代モータウンソウルを彷彿させるようなクラシックな感じのリズム・パターン(彼の80年のカムバックヒット「Cruisin'」のイントロのリズムを思い出して下さい)で始まる「The Agony And Ecstasy」は「僕らの愛は簡単じゃないんだ/エクスタシー(快感)を得るためには苦悩の時期を耐えなきゃいけないんだよ」と歌う、ちょっとイケない愛の関係を想起してしまう、これもスモーキーの官能ファルセットが切々と歌うバラード。

続く「Baby That's Backatcha」は、一転して当時流行初めのディスコ・ビートを意識したアップテンポのナンバー。意識したといってもあくまでビートと楽曲はスモーキースタイルの洒脱なもので、この曲は彼に取ってソロ転向後初の全米ソウル・シングル・チャート1位のヒットとなりました。

Backatcha.jpg


マイケルを初め兄弟がモータウンから移籍する中一人モータウンに残ったジャーメイン・ジャクソンの結婚式のために書かれたというちょっとハワイあたりの風景を想起する「Wedding Song」に続くのは、当時レーベル仲間のダイアナ・ロスビリー・ホリデイ役で初の映画主演を遂げた映画『Lady Sings The Blues(ビリー・ホリデイ物語)』にフィーチャーされた、ピアノ一本をバックに静かに歌い出し、後半ストリングスやリズム・セクションが加わる中、ちょっとジャズ・ボーカル風の曲調でデリケートに、しかしドラマティックに歌い上げる「Happy (Love Theme From "Lady Sings The Blues")」。正に映画の一場面を想像させてくれる素晴らしい歌唱を聴かせてくれる、こういうスモーキーもいいもんですね。


アルバムはちょっとこの中では異色な感じの,シンセベースを特徴的に使ったマイナーなアップテンポの「Love Letters」から、この時期台頭していたソウル・ジャズを思わせるような曲調で女性コーラスをバックにスモーキーがクールに決める「Coincidentally」でクロージングを迎えます。


A Quiet Storm (back)


しかしこのアルバムの制作コンセプトで面白いのは、各曲の曲間が無音ではなく、嵐のSEだったり、前の曲のエンディングと後の曲のオープニングを被らせたりと、全体のトータル感を強く意識している点。しかもアルバム最後の「Coincidentally」のエンディングのアープ・シンセサイザーの電子トーンとお馴染みの嵐のSEがそのままアルバムオープニングの「Quiet Storm」の冒頭の音とつながっていること。つまり、このアルバムをiTuneのリピートモードで聴くとサウンドの違和感なしに延々ループして聴くことができるのです。これ、なかなか素敵なコンセプトだと思いませんか?


全曲スモーキーのペンによる(タイトル曲と「Happy」は共作)このアルバムは上述のようにスモーキーにソロ初の全米ソウル・シングル1位をもたらし、Hot 100でもその「Baby That's Backatcha」と「The Agony And Ecstasy」がそれぞれ26位、36位とヒットするなどスモーキーに取ってソロ・キャリアを確固たるものにした作品でした。

しかしそれ以上に何よりもこのアルバムが重要なのは、このアルバム(及びタイトル曲)の「Quiet Storm」というのが、この後全米のブラック・ラジオ・ステーションで、スローでゴージャスな楽曲中心にオンエアするプログラムのフォーマットの総称として使われるようになったこと

このアルバムは、彼にとってこの時点でソロアルバムとしては最高の商業的成功を収めたわけですが、それだけでなく「クワイエット・ストーム」という音楽ジャンルを定義するという、黒人音楽文化に大きなインパクトを与えた歴史的アルバムとして評価されるべきなのです


この後スモーキーはソロ作をリリースし続けますが、モータウン副社長の業務との二本草鞋ということもあり、なかなかヒットにめぐまれず。彼が再びヒット作に恵まれるのは、1980年のカムバックヒット「Cruisin’」(最高位4位)を含む『Where There's A Smoke』まで待たねばなりませんでした。

WhereTheresSmoke.jpg


スモーキー自身は有名なアーティストですが、そのアルバムというとなかなか聴く機会がこれまでなかった方も多いのでは。春から初夏に向かっていこうというこの時期、気持ちをぐっとゴージャスに挙げてくれるスモーキーのボーカルをふんだんにフィーチャーしたこのアルバム、是非聴いてみてはいかがでしょうか?


 <チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位36位(1975.6.14 - 28付)

同全米ソウル・アルバムチャート最高位7位(1975.6.7 - 14付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#84「Chris Thile & Brad Mehldau」Chris Thile & Brad Mehldau (2017)

#84Chris Thile & Brad MehldauChris Thile & Brad Mehldau (Nonesuch, 2017)


いよいよ風薫る五月到来、そして多くの皆さんが既にゴールデンウィークを楽しんでおられることでしょうね。自分はカレンダー通りの仕事ですが、今週はオフィスも静かですし、水曜日からは五連休なので存分にアウトドアに、そして音楽にゴールデンウィークを満喫しようと思っています。また先週土曜日は東京ドームのポール・マッカートニーのライヴを観に行ってその素晴らしさに感動して来たのでいつになく音楽に対するテンションが上がりっぱなし(笑)。皆さんも楽しい音楽でいっぱいのGWをお過ごし下さい。


さて今週の「新旧お宝アルバム!」は久しぶりに今年の新譜からのご紹介。今回は、以前このコラムでも2年ほど前にご紹介したプログレッシヴなブルー・グラス・バンド、パンチ・ブラザーズのリーダーでマンドリンの達人、クリス・シーリーと、こちらも気鋭のジャズ・ピアニスト、ブラッド・メルドーの二人がタッグを組んで録音した、とてもフレッシュで刺激的な自作曲と新旧の幅広い分野からのカバー曲を聴かせてくれる、今の季節にピッタリなアルバム『Chris Thile & Brad Mehldau』(2017)をご紹介します。


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パンチ・ブラザーズをご紹介した時にもご説明しましたが、現在36歳のクリス・シーリーは90年代~2000年代にニッケル・クリークという、ブルーグラスをカントリー・ロック的なアプローチで再度メインストリームに引っ張り出した功労者的バンドのメイン・メンバーとして活躍、その卓越したマンドリン・プレイと、シンガーソングライターとしても優れた才能で、2012年には毎年限られた数の、各分野のトップレベルの米国人に与えられる「マッカーサー・フェロー」賞を受賞するなど、正しく今のアメリカ音楽界を代表するミュージシャンの一人です

一方ブラッド・メルドーは現在46歳、90年代にジャズ・サックス奏者のジョシュア・レッドマン・カルテットのピアニストとして頭角を現し、早くから自らのトリオによる作品も多く発表、一方でパット・メセニーやクラシック・オペラ・シンガーのアンヌ・ソフィー・フォン・オッターエルヴィス・コステロとのコラボで有名)、ウィリー・ネルソン、アメリカーナ・ロックのジョー・ヘンリーなど、様々な分野のアーティスト達との競演でジャンルレスな活動を展開する、こちらも気鋭のピアニスト。


Chris Brad


アルバムは全11曲(LPは1曲、フィオナ・アップルの「Fast As You Can」がボーナス・トラックで追加されてますが、これがまた素晴らしい出来です)、うちクリスの作品2曲、ブラッドの作品が1曲、二人の共作が1曲ある他は6曲(LPは7曲)が様々なジャンルから選曲によるカバー。これらのカバーが見事にこの二人の卓越したパフォーマンスで、このアルバム全体を作り上げている世界観に納まっているのが、このアルバムの素晴らしいところ。そう、まるでクリスブラッドが作り上げる映画のサントラ盤を聴いている、ブラッドのある時は繊細な、ある時はリズミックで力強いピアノと、クリスの超絶テクとこちらも繊細さを巧みに取り混ぜたマンドリン・プレイ、そしてファルセットや力強いボーカル、そしてはたまたルックス通りの甘いボーカルを操りながら、二人の世界観を完璧なものにしている、そんな感じを強く抱くアルバムなのです

ピアノとマンドリンという一種異形の組み合わせながら、一つも違和感を感じることなく、そればかりか静謐にも思える世界観を醸し出しているのは、つまるところ二人の才能と、それをお互いに引き立てようとする、見事なコラボワークの賜物なのでしょう。この二人、2013年から一緒にツアーもやっているらしく、今回のアルバムはその一つの完成形だったのですね。



クリスのマンドリンのストラミングとブラッドの繊細なピアノで始まる共作の「The Old Shade Tree」や、ジャズ的展開とブルーグラス展開が絶妙なインタープレイを繰り広げるブラッド作の「Tallahassee Junction」、ブラッド作で彼のピアノが全体を物憂げにコントロールする若葉の季節を思わせる「The Watcher」や、クリス作で彼の特異なパーカッシヴなマンドリン・プレイを中心にリズミカルな楽曲展開が後半クリスのマンドリンとブラッドのピアノの絶妙に息の合ったプレイでカタルシスに昇り詰めていく「Daughter Of Eve」などの自作曲も素晴らしいですが、このアルバムの魅力はやはりカバー曲



中でもおそらく一番耳を引くのがボブ・ディランの「Don't Think Twice, It's All Right(くよくよするなよ)」のカバー。名盤『Freewheelin' Bob Dylan』(1963)収録の有名曲ですが、この曲をブラッドの軽快なピアノプレイとクリスの流れるようなマンドリンで奏でながら、クリスはややディランを意識したかのような癖のあるボーカルスタイルで、しかしはつらつと生き生きとカバーしてくれてます。これはディラン・ファンのベテラン洋楽リスナーの皆さんに是非聴いて頂きたい、聴いてるだけで楽しくなるバージョンです。




この他にも有名なジャズ・スタンダードの「I Cover The Waterfront」や16~17世紀に活躍したアイルランドのハープ奏者の作品「Tabhair dom do Lámh」といった古くからの伝統的音楽への敬意が伝わってくるカバーから、90年代のインディ系シンガーソングライター、エリオット・スミスの「Independence Day」やジョニ・ミッチェルの初期のアルバム『Song To A Seagull』(1968)からの「Marcie」、そして前述のフィオナ・アップルの「Fast As You Can」といった近年の曲のカバーでは、同時代に生きるミュージシャンとして自らの伝統的楽器(クリスは巧みなボーカル)を駆使しながら自分たちの解釈でのパフォーマンスが楽しく、この二人が明らかにジャンルの壁を完全に超越した音楽を楽しみながらやっているのが伝わってくる、そこがこのアルバムの最大の魅力なのです。


Chris Brad (Back)


このアルバムは、クリスブラッドが共に所属するナンサッチ・レーベルの社長、ロバート・ハーウィッツ氏のアイディアで始まった企画だそうですが、元々ブラッドのファンだったというクリスと、ハーウィッツ社長に連れられてパンチ・ブラザーズのライヴを観に行ってぶっ飛んでしまった、というブラッドが、いずれも自らの楽器とジャンルの軸を持ちながら、ロック、ポップ、ジャズ、クラシック、カントリーといったあらゆる音楽に対する興味が常に高い二人であったという時点で既に、こういう素晴らしい作品の完成は約束されていたのでしょう

アルバムのライナーノーツでハーウィッツ氏はこのように言っています。

「二人とも才能あるクリエイティブな演奏家なので、このコラボ作品の楽器演奏面が素晴らしく満足いくレベルであることは驚きに値しない。私が全く予期しなかったにもかかわらずこのレコードを聴けば明らかなのは、彼らがお互いの共演を通じて、新しい分野を露わにしてくれる演奏と歌唱の組み合わせや歌唱のスタイル、そしてインプロヴィゼーションに基づくミュージシャンシップの関係性を根本から再定義する方法を見つけ出していることだ。それはもはやジャズでもポップでもフォークやブルーグラスでもない、『クリスとブラッドの音楽』という伝統とでも言うべきものだ


若葉の季節、素晴らしい季節のこの時期にぴったりの、この二人の才能溢れるミュージシャンが作り出す「クリスとブラッドの音楽」を存分に楽しんでみてはいかがでしょうか?


<チャートデータ> ビルボード誌全米ブルーグラス・アルバムチャート 最高位1位(2017.2.18付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#83「Whatever And Ever Amen」Ben Folds Five (1997)

#83『Whatever And Ever Amen』Ben Folds Five (550 Music / Epic, 1997)


先週は久しぶりに一回お休みを頂いてしまったこのブログ、その間にすっかり桜も終わり先週はずっと暖かい初夏のような陽気でしたが、週末は少し涼しくなってました。でもこれからはどんどん暖かくなる一方だと思うので、アウトドアにコンサートにイベントにとアクティヴィティがどんどん増える季節、音楽は欠かせないですよね。自分も先週ノラ・ジョーンズの素晴らしいライヴに行くことができ、今週はポール卿のドームライヴも含め二つライヴに出かける予定にしてます。皆さんも洋楽ライフ、いい季節に存分に楽しんで下さい。


さて今週は前回に引き続いて90年代の作品です。とかくこの時代は若いリスナーとベテランリスナーの時代の狭間のブラックホールのようなデケイドで、超有名なミュージシャンは別として、地味ながら素晴らしい作品がジャンルを問わず多いにもかかわらず取り上げられることが少ないなあ、と思っていたら先日ミュージック・マガジンさんが4月号で「90年代のUKアルバム・ベスト100」という企画でとりあえずUKにはスポットを当ててくれてちょっと嬉しかったものです。次回は是非USや非英米系の90年代の作品を是非取り上げて頂きたいな、と密かに思う今日この頃。そこで今週はそんなUSの90年代のインディー・ポップを代表する作品の一つだと思う、ベン・フォールズ・ファイヴのメジャーデビュー作『Whatever And Ever Amen』(1997)を取り上げます。



Whatever And Ever Amen


このブログをチェック頂けている方であれば「ベン・フォールズならとっくに知ってるよ」という方も多いだろうとは思いましたが、やはりこの季節になるとこのびっくりするほどのポップ・センス満載で、かつウィットや皮肉に富んだランディ・ニューマンあたりの系譜を継いだような歌詞を、ベン・フォールズのピアノをメインにした楽曲で聴かせてくれるこのギターレス・バンドのアルバムを聴きたくなります。


ノース・キャロライナ州はチャペルヒル出身のベンを中心とした、ロバート・スレッジ(ベース)とダーレン・ジェシー(ドラムス)からなるスリーピース・バンドのベン・フォールズ・ファイヴは、インディー・レーベルからのファースト・アルバム『Ben Folds Five』(1995)でデビュー。当時USの音楽シーンは90年代初頭に大きくブレイクしたグランジ・ブームが終焉に向かう一方、数々のオルタナ・ロック・バンドと言われるアーティスト達が多様な音楽性を糧に新しいロックを模索して数々の作品を世に問うていた時代。そんな中で、まずギターを使わずピアノ中心のバンドで充分にロックしながら、ティンパン・アレー・スタイルの楽曲やトッド・ラングレンを想起させるようなパワーポップな楽曲にウィット満点の歌詞を乗せた楽曲を聴かせる彼らのサウンドはとてもユニークなものでした

Ben Folds Five


そのファーストでシーンの注目を集めた彼らはメジャーレーベルと契約、満を持してリリースしたのがこの『Whatever And Ever Amen』。メジャーデビューなのに売る気あるのかしら、と思うような地味なジャケのこのアルバム、いやいやどうしてファーストのポップながらひりりとする歌詞の楽曲は更にパワーアップしていて、聴く者の耳を冒頭から鷲づかみにします。

冒頭は「One Angry Dwarf And 200 Solemn Faces」。「一人の怒れるこびとと200人のしかつめらしい顔」というタイトルも彼ららしいウィット満点のタイトルですが、弾むようなアップテンポでリズミックなベンのピアノで一気呵成にポップなメロディで聴かせるこの曲で一気に盛り上がれます。歌詞は、高校生の頃クラスメートにいじめられたこびとの主人公がその後成功して大金持ちになって、昔いじめたクラスメート達を罵る(「Kiss my ass, goodbye」という歌詞が思わずにやり、とさせてくれます)というこれまた彼ららしいアイディアの楽曲。

続く「Fair」はミディアムテンポながらここでもベンのピアノがとてもリズミック。途中のコーラスは1960年代のミュージカル映画にでも出てきそうなグッド・タイミーなポップセンス満載で聴いているとウキウキします。




Brick」はこのアルバムからの最初のシングルで当時結構大きなエアプレイヒットになり、BF5のメジャー・ブレイクの起爆剤となった曲。静かなピアノのイントロから徐々にドラマチックに盛り上げていって、クライマックスでのベンのファルセット・ボーカルが利いた、楽曲としてはティンパン・アレー・マナー満点の美しいメロディのポップ作品。しかし歌詞の内容は、彼女を妊娠させてしまった主人公が彼女に堕胎させて、その後それを隠しておくのが苦しくなったので彼女の両親に打ち明ける、というなかなかヘヴィなもの。彼自身の高校時代の経験が題材だというこの曲、内容とメロディの美しさとのギャップが、ベン・フォールズというアーティストの魅力の端的なところを象徴しています。


歌詞の面白さでいえばこのアルバムで一二を争うのが次の「Song For The Dumped(捨てられた男の唄)」。やけっぱちに聞こえるベンのカウントで始まり、終始ピアノとドラムのリズミックなリフが結構ドタバタしながら変にポップに聴かせるこの曲、このアルバムで唯一ギターがフィーチャーされている曲ですが、歌詞はこんな感じです。


「そうか、君はちょっと僕らの付き合いを一休みしたいと。

ちょっとペースを落として自分のスペースを持ちたいって?

ふざけんなこのやろう。


俺の金を返せ

俺の金を返せ、このbitch

今まで使った金を返せってんだ

そして俺の黒いTシャツを返すのも忘れんなよ


お前にディナーなんてご馳走するんじゃなかった

こうやってお前の家の前で俺をぼろ切れみたいに捨て去る直前にさ


俺の金を返せ

俺の金を返せ、このbitch

今まで使った金を返せってんだ

そして俺の黒いTシャツを返すのも忘れんなよ」

 

どうです、笑えるでしょう(笑)。多分史上最も正直で直裁的な別れの歌だと思います、これ。(なお、下に貼った動画は、アルバム未収録の日本語の歌詞を含むバージョンです。お楽しみ下さいw)



とまあ、曲ごとに解説していくときりがないのですが、この他にもジャズっぽいピアノが素敵な「Selfless, Cold And Composed」、トッド・ラングレン的ポップ・センス再登場の「Kate」、ちょっとヨーロッパ風のアコーディオンが気分の「Smoke」、エリック・カルメンのようなクラシック・センスのピアノが美しいのに、終日泣き叫ぶ病気の妻が寝てる間にタバコで家を火事にしないかと悩むという歌詞の「Cigarette」、何にも興味ないふりをしてクールさを装う彼女を痛烈に皮肉る「Battle Of Who Could Care Less」などなど、思い切り楽しいポップ・センスと思わずニヤリとしてしまう歌詞満載の楽曲のオンパレードで一気に聴いてしまいます。

なお、最後の美しいメロディの「Evaporated」が終わってしばらくすると「ほらここに君のための隠しトラックがあるよ~聞いて聞いて、ベン・フォールズ・ファイヴはとんでもない馬鹿野郎さ!Ben Folds Five is a f**king a**hole!)」という声が聞こえて、まあ最後まで笑わせてくれます。

Whatever And Ever Amen (back)


彼らはこの後よりジャズっぽい方向性の『The Unauthorized Biography Of Reinhold Messner』(1999)をリリースしましたが、アルバムサポートのためのツアー終了後にバンドは一旦解散。ベンは解散後も『Rockin' The Suburbs』(2001)、『Songs For Silverman』(2005)などクオリティの高いソロ作品をコンスタントにリリースして、シーンでの存在感をキープしていました。その後2012年にニューヨーク州北部で開催のマウンテン・ジャム・フェスティバルへのライヴ出演をきっかけにバンド再結成し『The Sound Of The Life Of The Mind』(2012)とライブアルバム『Live』(2013)を出しましたが、現在は活動休止状態で、ベンは再度ソロ活動に専念している模様です。


再三言っているようにとにかく楽しい、ポップ・センス満点の作品なので、やはり家にこもって聴いているよりは、外に出て太陽の光の下で聴くのが似合う作品。比較的CD屋さんなどでもよく見かけるので、お求めになりやすいこのアルバム、是非彼らのピアノ中心の素晴らしいポップな楽曲を聴きながら、時には歌詞カードを読んでベンのユニークなユーモアセンスを楽しんでみてはいかがでしょうか?


 <チャートデータ> ビルボード誌全米アルバムチャート最高位42位(1998.1.31付)


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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#82「Loose」Victoria Williams (1994)

#82『Loose』Victoria Williams (Mammoth / Atlantic, 1994)


先週一週間は、雨の予想とかもあったにも関わらず終始天候も崩れそうで崩れずに暖かい日が続いて、そのおかげで週の後半は一気に桜が満開になった、心が満たされる気持ちのいい週でしたね。週末からまたゆっくり天気が崩れてきていますが、一日でもこの素晴らしい桜が楽しめるよう願う毎日、そんな中で欠かせないのは気持ちのいい音楽。皆さんも花見のかたわらいろんな音楽でこの桜を楽しまれたことと思います。


さて今週は久しぶりに90年代の作品を取り上げます。商業的にはなかなか成功することがないのですが、常に個性的でチャーミングで、それでいてインスパイアリングな楽曲を一貫して届け続けてきている、他にあまり似たタイプを見ない女性シンガーソングライター、ヴィクトリア・ウィリアムスキャリアの一つのマイルストーンとなったアルバム『Loose』(1994)をご紹介します。


Loose.jpg 

ヴィクトリア・ウィリアムス、といっても日本の洋楽リスナーの方で彼女の名前をご存知なのは、音楽評論家の方以外ではかなり熱心なここ30年くらいのアメリカのフォーク・ロック/アメリカーナ系ロックのフォロワーの方くらいでしょう。残念ながらこれまでリリースされている彼女の7枚のソロアルバムは、本作を含めてどれもチャートインするほどの売上は記録していませんし、FMなどで頻繁にエアプレイされるタイプの音楽でもないので無理もありません。

でも、ヴィクトリアはアメリカのロック・シーンではミュージシャンの間からのリスペクトを受け続けるミュージシャンの一人で、今回紹介する『Loose』に収録されている作品群の幅広いスタイルに亘る音楽性、決して巧くはないが個性的でチャーミングなボーカルスタイル、そして自然やスピリチュアルなテーマや人への愛、といったことをテーマにする楽曲はそうしたリスペクトを集めるに充分なものであることが分かります。


実はこのアルバム発表の一年前、ヴィクトリア多発性硬化症という難病の宣告を受けていました。この病気は脳や脊髄、視神経などに激痛、視野異常、神経麻痺、筋力低下などの症状が繰り返し出ては収まるのを繰り返すというもので、ギタリストでありシンガーであるヴィクトリアにとっては極めて深刻な病気でした。加えてミュージシャンであったため治療費用を賄う保険等も持っていなかったヴィクトリアの治療をサポートするために立ち上がったのは他あろう彼女をリスペクトするミュージシャン仲間達だったのです。

ソウル・アサイラムデイヴ・パーナー、パール・ジャム、ルシンダ・ウィリアムス、ルー・リード、マシュー・スイートといった90年代のオルタナ・ロック・シーンを代表するそうそうたるミュージシャン達に、当時ヴィクトリアと結婚したばかりのマーク・オルソン率いるザ・ジェイホークスが加わり急遽リリースされたのが全曲ヴィクトリア作品のカバー・アルバム『Sweet Relief: A Benefit For Victoria Williams』(1993)。


Sweet Relief 

このアルバムは幸いチャートインもし、そこそこの評判を呼んだこともあってヴィクトリアに対する関心も当時高まったのでしょう、自身の症状とも折り合いを付けながら、頑張ってスタジオ入りしてヴィクトリアが翌年の1994年にリリースしたのがこの『Loose』でした。


彼女の揺らぐようなハイトーンのボーカルとアコースティックなバンド演奏で、百歳を超えるという古いサボテンの木にまだ遅くないから花を咲かせてよ、と呼びかける「Century Plant」で始まるこのアルバム、タワー・オブ・パワーのレイドバックなホーンセクションをバックにゴスペル的な内容を歌う「You R Loved」、ピアノとバイオリンだけをバックに友人の死を明るく悼む小品「Harry Went To Heaven」、そして『Sweet Relief』収録曲中唯一当時まだヴィクトリアが録音しておらず、パール・ジャムがカバーしたことでおそらく彼女の最も有名な曲となったオルタナ・ロック色の強い「Crazy Mary」などなど、このアルバムを構成する16曲(うち2曲はカバー、1曲はソウル・アサイラムデイヴとの共作でもう1曲はバンドメンバーの作品)はいずれもちょっと聴くだけでヴィクトリアというとてもユニークな才能とスタイルを持ったアーティストが目の前に現れて、優雅にパフォーマンスをしてくれているのが目に見えるようなのです



実は自分はおそらく前述のチャリティアルバムが出る直前くらいの1993年に、ニューヨークのヴィレッジにあったライヴハウス、ボトム・ライン(2004年に廃業)で彼女のライヴを見ています。確か3人くらいのバンドをバックに、椅子に座ってストラトやアコギを掻き鳴らしながら「病気のせいで時々ミスピッキングとかするけど許してね」と言いながら、ステージにパッと清楚な花が咲いたかのようなイメージを放ちつつ、とても心温まるステージをしてくれたことを覚えています。その時多分このアルバムに収録されている作品もいくつかやってくれたに相違ありません。改めて今この『Loose』を聴くと、その時の彼女のステージが蘇ってくるようなので。

上記の曲の他にも、ピアノをバックにしたヴィクトリアのガーリッシュなボーカルがキュートなルイ・アームストロングでお馴染みの「What A Wonderful World」や、LAを中心に70年代初頭人気のあったロックバンド、スピリットの「Nature's Way」(デイヴ・パーナーとのデュエット)などの曲をカバー曲に選ぶあたりも、ヴィクトリアの自然を慈しむキャラクターが表れてますし、叔父さんのジャックの愛犬パピーと自分の愛犬ベルの他界を悲しみながらも彼らを思い出しながら楽しく歌う「Happy To Have Know Pappy」や、友人への情熱的ではないけど確かで安心できる一体感を真摯なボーカルで歌う「My Ally」などなど、彼女の楽曲は聴いていて、そして歌詞を眺めていて思わずほっこりさせてくれるものが多いのです

まさに冬を脱ぎ捨てて春に向かうこの時期にぴったりの感覚を味わわせてくれる、そんな素敵なアーティストであり、アルバムなのです。



件のチャリティ・アルバム同様、この作品のバックをつとめるメンバーもそうそうたるもの。何度も名前の出ているソウル・アサイラムデイヴ・パーナーの他、ご主人のマーク・オルソンとそのバンドメイトである、ザ・ジェイホークスゲイリー・ルイス、タワー・オブ・パワーのホーンセクション、スライ・ストーンの妹のローズ、R.E.M.ピーター・バックマイク・ミルズ、そして何曲かのストリングス・アレンジメントは何とあのヴァン・ダイク・パークスが担当するなど、この時期のフォーク・ロック/アメリカーナ系の作品としてはとても豪華な布陣での制作になっており、高いミュージシャンシップのパフォーマンスが楽しめる作品にもなっています


Loose (back)

その後2006年のマークとの離婚も乗り越えて着実にアルバムを発表し続けていたヴィクトリアですが、2015年末に持病の発作が原因で肩と腰を負傷してしまって現在は治療専念中とのこと。ただまたしても保険が適用されないため、『Sweet Relief』の時に設立されたスイート・リリーフ・ミュージシャン基金が中心になって治療費の寄付を募っているとのこと。

彼女の一刻も早い完全復帰を祈りつつ、ヴィクトリア・ウィリアムスという、希有のスタイルと才能を持ったシンガーソングライターの、人と自然とスピリチュアルへの愛に溢れた作品を、暖かさを増す春に存分に楽しんで見ませんか?


 <チャートデータ> チャートインなし

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

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