FC2ブログ
Life Is A Rock - 洋楽こそ我が人生
洋楽全般について、英米ヒット・チャートに登場有無に関係なく、お気に入りの洋楽作品についての独り言やコメントをつれづれに掲載します。「新旧お宝アルバム!」「恒例グラミー賞大予想」など定期コラムが中心です。洋楽 ファンサイト、meantime(www.meantime-jp.com)のスピンオフ企画としてお楽しみ下さい。
【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#151「Mount Royal」Julian Lage & Chris Eldridge (2017)

 #151Mount RoyalJulian Lage & Chris Eldridge (Free Dirt, 2017)


連日相変わらずの雨続きで、いつになったらこの梅雨は明けるのだろう、などと5月後半に空梅雨だと思われた時期とは正反対のことを思ってしまう今日この頃。こういう天気には、瑞々しいアコースティックな音楽が似合いますね。

今週の「新旧お宝アルバム!」はそんなアコースティックな気分に合わせて、ジャズやブルーグラス、オルタナカントリーのアーティストらとの共演も多い、独自の世界を聴かせる若手気鋭のギタリスト、ジュリアン・ラージと、先日二度目の来日で大いにアメリカン・ルーツ・ロック・ファンを興奮させるライヴを披露してくれたパンチ・ブラザーズのギタリスト、クリス・エルドリッジの二人が彼ら3作目のコラボ・アルバムとしてリリースした心温まるアコースティック・アルバム『Mount Royal』(2017)をご紹介します。

Mount Royal 

ミュージシャンシップ」という言葉があります。「歌唱や楽器演奏に関わらず、ミュージシャンとして卓越した技量と感情表現、楽曲創作などを存分に発揮させている状態」といったような意味だと理解していますが、先日Blue Note東京で行われたパンチ・ブラザーズのライヴは正にその「ミュージシャンシップが最大限に発揮された」ライヴだったと思います。音楽のスタイルや使う楽器はブルーグラスのそれですが、展開する楽曲パフォーマンスはパッションと卓越した技量を存分に爆発させた、最高級のロック・パフォーマンスにも通じるものを感じさせたのです。パンチ・ブラザーズ自体がロック系やポピュラー系の楽曲、さらにはドビュッシーバッハなどクラシックの楽曲すらも彼らのブルーグラスの意匠を纏わせた新しい音楽として表現するという極めてカバー領域の広いアーティストだけに、くだんのライヴはその殆どが伝統的なブルーグラス楽曲であったにも関わらず(前のセットではレディオヘッドの「Kid A」なんて曲をやったりしたようですが)、全く古臭さとか予定調和的といったものとは正反対の興奮を呼び起こすライヴだったのです。

以前、パンチ・ブラザーズのリーダーでマンドリンの名手、クリス・シーリーとジャズ・ピアニストのブラッド・メルドーとの素晴らしいコラボアルバムを取り上げたことがありますが、これを聴いてパンチやそれを取り巻くミュージシャン達をまたこのブログで取り上げたい、という気持ちが湧いてきて、そうだ、このアルバムがあったと思い出し、こうしてご紹介している次第です。

Lage Eldridge

ジュリアン・ラージはカリフォルニアのワインで有名なソノマ郡出身。今年32歳とまだまだ若いミュージシャンながら、8歳の頃の演奏の様子がドキュメンタリー映画になったり、15歳でスタンフォード大学のジャズ・ワークショップの教鞭を執ったりという、言わば天才ジャズ・ギタリスト。ご多分に漏れずジャズやアメリカ現代音楽のエリート達を輩出しているボストンのバークリー音楽院を卒業後、2009年の『Sounding Point』(2010年の第52回グラミー賞最優秀コンテンポラリー・ジャズアルバム部門ノミネート)を皮切りに勢力的に作品を次々に発表。その過程でジャズミュージシャンとの競演だけでなく、オルタナカントリー・ロック・バンドのウィルコのギタリスト、ネルス・クラインや、今回ご紹介するパンチ・ブラザーズクリス・エルドリッジ、更にはブルーグラス・マンドリンの巨匠、デヴィッド・グリスマンらとの競演作も発表するなど、幅広い活動を展開しています。

クリス・エルドリッジは先日のパンチ・ブラザーズのギタリストとしてのライヴでも、その超人的なアコースティック・ギター・ワークで観客を興奮させてくれたこちらも若手のブルーグラス/オルタナ・カントリー系のギタリスト。伝説的なブルーグラス・バンド、セルダム・シーンのバンジョー奏者だったベン・エルドリッジを父に持ち、その影響もあってティーンエイジャーの頃から父のバンドに入ってギターの腕を磨いて来ました。こちらもバークリー音楽院卒業後、同じバークリーで知り合ったメンバーとブルーグラス・バンド、ジ・インファマス・ストリングダスターズを結成。シーンで活動を展開している中、クリス・シーリーの耳に止まり、彼の誘いでパンチ・ブラザーズに加入、今やパンチのあのスリリングなバンド・サウンドの要の一人として活躍中です。

このアルバムは、二人が奏でるマーティンのアコースティック・ギター2本だけで構成されているという完全なアコギ・アルバム。しかし時折クリスのボーカルを交えながら、それぞれがある時はメロディを美しく奏でたり、ある時はパーカッシヴにリズムをドライヴしたり、またある時はミニ・オーケストラのように美しいゴージャスなハーモニー・アンサンブルを聴かせたりととても表情豊かなサウンドで出来上がっています。ジュリアン作の曲が3曲、クリス作の曲が2曲、二人の共作が3曲、何とあの元パール・ジャムエディ・ヴェダー作を含むカバー曲が3曲に、トラディショナル曲が1曲という、楽曲構成バランスも考えられたアルバム構成で、プロデュースは、クリスパンチ・ブラザーズでの盟友、フィドル・プレイヤーのゲイブ・ウィッチャーが務めて二人のアンサンブルを美しく仕上げています。

アルバム冒頭の「Bone Collector」はパンチの曲を彷彿させるような、叙情的にゆっくり始まり、ジャズなのかブルーグラスなのか渾然とした複雑な楽曲展開を経てカタルシスを作りだす、のっけからおっと思わせる二人の共作曲。クリス作の「Rygar」はさりげないアコギの技巧が楽しめるリフと、ブリッジでコードストロークのパーカッシヴな感じの対照が美しい心安らぐナンバー。

再び共作の「Everything Must Go」はまたクラシックの小品を思わせるような、詩情豊かなアコギの奏でるメロディと楽曲展開が美しい作品。

一転してクリスのボーカルが聴ける、1960年代のブルーグラス復興に寄与した有名なバンジョー奏者、ドン・ストーヴァー作の「Things In Life」で、それまで映画のサントラ的な情景描写的な楽曲群からすっと違和感なくブルーグラス楽曲の世界に連れて行ってくれるあたりは二人の能力のなせる業か。その流れをキープするかのように、トラディショナル・ナンバーの「Old Grimes」は美しい二人のギターリフの絡み合いによるブルーグラス風味が楽しめる曲。ちょっとギター練習曲的な雰囲気もなかなか楽しいナンバーです。そしてレコードA面ラストはジュリアン作の静かなジャズ的雰囲気の「Henry」。

B面オープニングは、クリスのボーカルでゆっくりとしたアコギのアルペジオで演奏される「Sleeping By Myself」。Aメロの最後のあたりのコード進行が心地よいこのナンバーは、パール・ジャムのアルバム『Lightning Bolt』(2013)で、エディ・ヴェダーがもう少し早いテンポでカントリー・ロックっぽく演奏していた曲。こういう曲を見つけてきてカバーするセンスは、多分クリス・シーリーあたりの影響を受けたクリスゲイブのアイディアではないかと思いますね。

続いてジュリアン作の「Broadcast」「Goldcare」と、いかにも雨粒したたる木々の緑が広がる光景にぴったり、といったアコギジャズ・スタイルの心がホッとする楽曲が続いて、共作の「Lion's Share」。A面の楽曲もそうでしたが、ジュリアンが書く曲はアコギジャズ風、クリスが書く曲はブルーグラス風、とスタイルがはっきり現れるのに、二人の共作になると途端に映像的で叙情的なジャンル不明の音楽スタイル(ある意味パンチ・ブラザーズ的とも言えますか)による素晴らしい世界観が表現されるのには軽い感動を覚えますね。

また雰囲気はブルーグラス方向にちょっとシフトされ、ミシシッピ川流域のフォーク・ミュージックの第一人者として60年代後半から90年代まで活躍したブルーグラス奏者、ジョン・ハートフォードのアルバム『Annual Waltz』(1986)に収録されていた、フォスターあたりのメロディを纏ったいかにも昔のオールド・タイム・フォーク・ミュージックといった趣の「Living In The Mississippi Valley」が軽快な二人のギターと、クリスのさりげない歌声で演奏され、またホッとした感じを醸し出します。

そしてアルバムを締めるのは、楽曲スタイルとしてはクリス作ということもあり、ブルーグラス風にファーストピッキングのアコギフレーズや、技巧的なフレーズの展開が軽快な「Greener Grass」。



アルバムの中ジャケにはジュリアンクリスが、揃って1930年代製のヴィンテージもののマーティンのギターを抱えて写った写真があしらわれていて、その二人の様子も気楽にセッションを楽しんでいる途中の休憩時間、といった感じを伝えて、このアルバムの制作過程がとてもいい雰囲気であったろうことが窺えるものです。きっとどちらがリードを取るとか、どうとかいったようなゴタゴタは一切なかったんだろうな、と絡み合うような二人の卓越したプレイを聴けば聴くほど思う、そんな一枚。

Mount Royal (back) 

実はこの二人はこのアルバム発表後、一緒に来日してライブもやっています。今更ながらそれも見に行くべきだった、と思いますね。

まだまだ雨は続き、鬱陶しいと思う一方、水に濡れそぼった木々の様子を窓から眺めながら、二人のある時は美しく、ある時はホッとするようなアコギ・アンサンブルのこの作品を聴いて、心豊かな時間を過ごすのはいかがでしょうか。

<チャートデータ> 
ビルボード誌全米ジャズ・アルバムチャート 最高位8位(2017.3.18付)

スポンサーサイト

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#150「Breakaway」Art Garfunkel (1975)

 #150BreakawayArt Garfunkel (Columbia, 1975)


いよいよ今日から2019年も後半、7月に突入ですがまだしばらく梅雨っぽい天気は続くようでして。こういう天気になるとやっぱりしっとりした音楽が聴きたくなるもんですね。

今週の「新旧お宝アルバム!」は記念すべき150回目。今回はひとつ70年代に戻って、こういうややムーディーな天気を爽やかにしてくれる、美しい歌声を聴かせてくれるアート・ガーファンクルのアルバムでも。彼のソロアルバム第2作目でファンの間でも人気のあるアルバム『Breakaway愛への旅立ち)』を、この頃のアートをご存知ない若い洋楽ファンの方々のためにも、改めてご紹介します。

Breakaway.jpg 

一昨年3年ぶりに来日して、もう70代ながらその素晴らしい歌声を聴かせてくれたという(残念ながら自分は行けず涙)アート。70年代に入ってサイモン&ガーファンクルの解散を受けてリリースした最初のソロアルバム『Angel Clare(天使の歌声)』(1973)は、S&G時代のプロデューサー、ロイ・ハリーとの共同作業で選曲やプロデュースを行った、ある意味ではアートにとってはソロ活動モードに充分慣れるための、S&G時代の延長的なアルバムになっていました。ジミー・ウェッブ作の「友に捧げる讃歌(All I Know)」(全米最高位9位)やポール・ウィリアムスロジャー・ニコルス作の「青春の旅路(Traveling Boy)」といったS&G時代のアートの名唱を彷彿させるようなドラマティックな楽曲のヒットが出ましたが、個人的には今聴き返すとどこか肩に力の入った、それでいてそれまでのアプローチから脱していない感じが否めない、そんなアルバムにきこえます。オシビサの「Woyaya」のカバーとか、どうしても「コンドルは飛んでいく」のアプローチの二番煎じのようにきこえてしまって。

Angel Clare

それから彼がいろいろ考えたのかどうかは判りませんが、3年を経てリリースされたこの2枚目のソロ『Breakaway』では、プロデューサーを名匠リチャード・ペリーに任せたことや、ポールS&G瞬間再結成となった曲「My Little Town」を収録したのが、逆にS&G時代からの延長の呪縛からアートを解き放ってくれたのか、すっかりフレッシュな感じで歌うアートの歌声が「これからがソロ活動時代の本番だ」と決意表明しているようにもきこえるのです。

様々なカバー曲を集めて、これにアートの歌声、歌唱解釈力で新たな魅力を吹き込む、というアルバム制作スタイルは前作と同じですが、このアルバムの選曲に当たっては、60年代に活躍していたジミー・ウェッブポール・ウィリアムスといった「お馴染み」のライター達からちょっと離れて、いろいろな人の曲をトライしているのも好感が持てます。そしてそれが見事に機能しているのもこのアルバム全体の「アートのソロアルバム」としての完成度を高めている要因ではないかと思うのです。

アルバムオープニング、ハイトーンで始まる美しいバラード「I Believe (When I Fall In Love It Will Be Forever)」はまるでアートのためにあるようなそんなゴージャスなメロディを持った曲ですが、これが実はスティーヴィー・ワンダーの名作アルバム『Talking Book』(1972)のクロージング・ナンバー。原曲より2度ほどキーを上げて、アートのハイトーンボーカルによりマッチするようにアレンジされたこの曲でのアートの歌唱にははっきり自信を感じますね

2曲目はスティーヴ・イートンというシンガーソングライターの正直地味なバラード「Rag Doll」ですが、こういうシンプルなメロディではアートの声と歌唱が引き立つようです。

そしてアルバム・タイトルナンバーの「Breakaway」(全米最高位39位)。スコットランド出身のシンガーソングライティング・デュオ、ギャラガー&ライルのペンによる、夢見るようなメロディが素敵なナンバーで、リトル・フィートビル・ペインが弾くフェンダーローズのイントロに乗って登場するアートの歌声と、デヴィッド・クロスビー、グラハム・ナッシュ、トニー・テニールらの美しいバックコーラスがふわっと気持ちを持ち上げてくれます。元々70年代初頭マッギネス・フリントというバンドにいたギャラガー&ライルは、1976年にこの曲を自ら録音したアルバム『Breakaway』がUKでアルバムチャート6位に登るまではあまり知られていなかったわけで、その2人を見つけてきて自分のアルバムのために曲提供を依頼したアートの先見の明は素晴らしいもんです


4曲目のバーバンク・サウンドを思わせるメロディのバラード「Disney Girls」は、あのビーチ・ボーイズの中期以降のメンバーで、バリー・マニローの「歌の贈り物(I Write The Songs)」の作者としても有名なブルース・ジョンストンの作品。この曲は、彼が在籍していたビーチ・ボーイズ1971年の名作『Surf's Up』に「Disney Girls (1957)」と言うタイトルで収録されていた切ない味わいのバラード。その他数々のアーティストにカバーされたこの曲をアートは見事に自分のものとしてほんわりとした切なく素晴らしい歌唱を聴かせてくれます。ブルースはこのアルバム発表直後、バリー・マニローに書いた「I Write The Songs」が大ヒットして、ソングライターとしてのキャリアを一気に次のレベルに上げていますので、アートのこのカバーもそうした流れに一役買ったのではないでしょうか。ちなみにブルース自身のバージョンは、この後1977年にリリースされた彼のアルバム『Going Public』で聴くことができます。

そしてレコードA面のラストは、今度はボサノヴァの大御所アントニオ・カルロス・ジョビンの代表曲「三月の水(Águas de Março)」をカバーした「Waters Of March」。同じラテン系作品のカバーでも、ここでは前作のオシビサのカバーなどに見られた気負いのようなものは感じられず、あくまでゆったりとジョビンのメロディに身を任せるかのようなアートの歌唱が印象的。

レコードB面トップは、当時S&G再結成か!と騒がれたヒット曲「My Little Town」(全米最高位9位)。久々のポールとのハーモニーにもテンションのようなものは感じられず、5年の月日が溶けゆくかのようなスムーズなコーラスが気持ちいいナンバーですが、この曲、よく聴くと、実は転拍子がいくつも行われ、コード進行もかなり複雑で歌唱にはかなり技術を要する曲なのです。そんなことを聴いただけでは一切感じさせない2人のケミストリーは、少なくともこの時期はまだ健在だったということでしょう。

そして2曲目は、イントロのアンドリュー・ゴールドが弾くギターのコードアルペジオ的なストロークが夢見るような雰囲気を醸し出す、1950年代のドゥーワップ・グループ、フラミンゴズのヒット曲のカバー「I Only Have Eyes For You(瞳は君ゆえに)」(全米最高位18位)。そしてこのアルバムでアートが2曲を取り上げているスティーヴン・ビショップ作の1曲目「Looking For The Right One」。この頃はまだ駆け出しのソングライターだったスティーヴンの曲をアートが録音したのは、このアルバムに参加しているベースのラス・カンケルの奥様、リア・カンケルがたまたまスティーヴンのデモ・カセットをアートに渡したのがきっかけだったとか。後のスティーヴンの作品を思わせる、アコギ・エレキの両方のギターの使い方が印象的で、美しいメロディを持つこの曲が、シンガーソングライター、スティーヴン・ビショップのキャリアに扉を開いてくれたわけで、ここでもこのアルバムのテーマとも言える、新しいシンガーソングライターの作品に日を当てるというアートのアプローチが成功しています。


アートが日を当てたのは新しいライターだけではなく、往年の名シンガーソングライターであったアルバート・ハモンドが同じ1975年に放った小ヒット(全米最高位91位、ACチャート1位)をカバーした「99 Miles From L.A.」も、アートのドリーミーなボーカルが素敵な一曲になっています。

そしてアルバムを締めるのは、シンプルなピアノと控えめなベースとドラムスをバックにアートが押さえた情感を表現しながら歌い、後半ドラマティックに盛り上がる、スティーヴン・ビショップ作のもう一曲「The Same Old Tears On A New Background」。この曲は、この後アートの肝いりでABCレコードと契約成ったスティーヴンのデビュー名作アルバム『Careless』(1976)のクロージング・ナンバーでもありました。

Breakaway (back)

この宝石箱のようなアルバム全体を支えるのは上記の他、リー・スクラー(b)ら西海岸のセッション・プレイヤー、ザ・セクションの面子や、ラリー・ネクテル(g)、ジョー・オズボーン(b)らレッキング・クルーの面々、バリー・ベケット(kbd)やピート・カー(g)らマッスルショールズの面々に加え、ジム・ケルトナー(ds)、ニッキー・ホプキンス(kbd)、ジム・ゴードン(ds)やスティーヴ・クロッパー(g)等々、超豪華なセッション・ミュージシャン達。アートがいかにも気持ち良さそうに歌っているのも納得ですね。

2007年のスタンダード・ナンバー・カバー・アルバム『Some Enchanted Evening』以降アルバムを発表していないアート。1978年には王貞治選手(当時)のホームランを見るためにお忍びで来日もしたというアートにはまだまだ新作を出して、そしてまた来日してその変わらない歌声を聴かせてもらいたいものです

<チャートデータ> 
ビルボード誌全米アルバムチャート 最高位9位(1975.11.29-12.6付)
全英アルバムチャート 最高位7位(1975.11.2付)


テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#149「The North Star」Roddy Frame (1998)

 #149The North StarRoddy Frame (Independiente, 1998)


先週から一転してまるで帳尻を合わせるかのようにここのところいかにも梅雨らしい雨空が続いてますが、こういう天気が続くとどうしても出歩くのが億劫になるわけで。そして音楽もやたら元気のいいものよりも、アコギやピアノが入ったちょっとしんみりするものがぴったり来たりする、そんな季節。

今週の「新旧お宝アルバム!」は久しぶりに「90年代を見直そう」シリーズ、とかくシニアの洋楽ファンの耳に届くこともなかなかない、それでいて今の洋楽メインストリームの様々な意味でのある源流にもなっている、音楽的には豊潤だったあのデケイドからアルバムをご紹介します。今日は、雨空に雰囲気的もぴったりくる、元アズテック・カメラのリーダー、ロディ・フレイムが1998年、アズテック・カメラ解散後にリリースした初ソロアルバム『The North Star』をご紹介します。

TheNorthStar.jpg 

アズテック・カメラというと、最初のヒット曲「Oblivious(思い出のサニー・ビート)」(1983年全英最高位18位)に代表されるように、軽快なビートにアコギのサウンドが印象的な、上質なポップ・ソングを聴かせてくれるバンドで、当時、エヴリシング・バット・ザ・ガール(EBTG)とかペール・ファウンテンズとかいったバンドと並び称されていわゆる80年代前半の「ネオ・アコ・ブーム」の中心的バンドの一つとして、ちょっと趣味のいいUK系のサウンドを好む洋楽ファンの間では人気あったバンドでした。ちょうど今だとアラ還世代の昔の洋楽ファンは、当時流行ったカフェバー(死語w)なんかでこのアズテック・カメラとか、EBTGベン・ワットの『North Marine Drive』(1983)とかを聴きながらカクテルなんぞ飲んで「クリスタル(これも死語w)」気分を味わった方も多いのでは。

そのアズテック・カメラのリーダーだったロディ・フレイムはファーストの『High Land, Hard Rain』(1983)から6作目のラストアルバム『Frestonia』(1995)までに収録された全曲を書き、一貫して高いクオリティの楽曲を作り出す一方(80年代当時、あのエルヴィス・コステロが作曲家としてロディをライバル視していたという話もあり)、様々なスタイルの音楽に強く興味を持ってそれらを自分の楽曲に取り入れたり、いろんな曲をカバーしたりするなど、アズテック・カメラの作品を辿るとロディの音楽感性の幅の広さが如実に感じられます。具体的には、セカンド・アルバム『Knife』(1984)を作る際、当時ロディがお気に入りだったボブ・ディランの『Infidels』(1983)のプロデューサーが、ダイア・ストレイツマーク・ノップラーと知るや、アルバム用にマークがプロデュースしてもらえそうな曲を書き上げて、マークをプロデューサーに迎えて『Knife』を完成したり、その『Knife』からのリード・シングル「All I Need Is Everything」のB面に、あのヴァン・ヘイレンの「Jump」のアコギ・カバーを収録して評判を呼んだりと、自らの作品の幅を広げることにはいい意味で貪欲さを見せて、その評価を高めていきました。その後も彼はアメリカのR&Bにも興味津々で、「ジャム&ルイスみたいなアルバムを作りたい」といって、ジャズ・R&Bの大御所トミー・リピューマをプロデューサーに迎えて3作目『Love』(1987)をヒットさせたり、何と坂本龍一をプロデューサーに迎えて5作目『Dreamland』(1993)を作ったりと、その間口の広さをいかんなく発揮していました。

Roddy Frame

そのロディが13年間にわたるアズテック・カメラとしての活動に終止符を打ち、満を持してリリースした初ソロアルバムがこの『The North Star』。

アルバムを聴くと、「Bigger, Brighter, Better」のように従来のアズテック・カメラでの路線を踏襲した、いわゆるネオ・アコ・スタイルの軽快なポップ・ナンバーもあり、「Autumn Flower」のように初秋の季節などにぴったりのピアノの弾き語りによる叙情的なナンバーもあり、あの80年代のUKギター・ポップ・サウンドが目の前に蘇ってくるような「Sister Shadow」や日本盤のみのボートラ「Biba Nova」もありと、アズテック・カメラ時代からのロディのファンの期待に十二分に応えてくれる、クオリティ高い楽曲も多く含まれている一方、初ソロにふさわしくロディの気概を感じさせる新しいスタイルの曲も多く、おっと思わせる作品になっています

具体的には、オープニングの「Back To The One」やリードシングルにもなった「Reason For Living」、そして個人的にはこのアルバムで最も好きなナンバー「River Of Brightness」といった楽曲群に感じられる、強いアメリカーナ・サウンドへの傾倒ぶり。使っている楽器についても、これらの曲についてはアコギと同等以上にエレクトリック・ギターが主役を張っており、またその使われ方や、楽曲・メロディの展開までもが、当時アメリカでメインストリーム・ロック・シーンに登場し始めていた、あのライアン・アダムスを擁するウィスキータウンサン・ヴォルトといった、当時で言うオルタナ・カントリー・ロック・バンドの影響を強く感じさせるものが多いのです。特にこの3曲あたりは、ブルース・スプリングスティーンあたりに演奏させても全く違和感がない、そんなアメリカーナの魅力をふんだんに湛えた「豪快さ」すら感じさせるナンバーで、繊細なギター・ポップの作品で知られるロディの作品スタイルからは明らかに新しい世界に踏み出しているように思います。

思えばロディの音楽的な間口の広さと、彼がアメリカ音楽を貪欲に吸収しようとしてきたことを考えると、彼がこうしたアメリカーナの動きに興味を持っていち早く自らの楽曲に取り入れようとしたとしても全く違和感のないところ。

レコーディングにもシンセサイザー等の電子楽器系は一切使わずシンプルな楽器構成に徹しているあたりも、アメリカーナなサウンドへのアプローチをサポートするために必要なセットアップだったに違いないと思えます。

そんな彼のこのアルバムに託した思いは、アルバムラスト(日本盤ではこの後にボートラの「Biba Nova」収録)のシンプルで美しいアコギの弾き語りのバラード「Hymn To Grace」に窺えます。

アコギ一本にいかにもロディらしい、UKポップスタイルのメロディに乗ってロディのボーカルが静かな部屋に響き渡るようなこの曲では「天からの恵みへの賛歌があなたの中にその場所を見つけたのだ」と、あたかもロディ自身がこうした素晴らしい楽曲達を天からの恵みと表現しているかのようにきこえます。静かに最後のアコギのフレーズが終わってギターの残響が消える時、ロディがこのアルバムに託した思いが伝わってくるように思うのは自分だけでしょうか。

残念ながらこの初ソロアルバムは商業的には成功したとは言えませんが(全英アルバムチャート最高位51位)、彼はそんなことを気にする様子もなく、次作『Surf』(2002)では更にシンプルな楽曲スタイルを前面に出した作品で評判を呼び、3作目『Western Skies』(2006)リリース直後には初の単独来日を敢行。その際の大阪ブルーノートでのライヴは翌年ライヴ盤で発売されています。その後も2010年に再来日した後、2013年には地元ロンドンで、アズテック・カメラの『High Land, Hard Rain』リリース30周年記念ライブを行うなど継続的に活動。2014年には今のところの最新作『Seven Dials』を8年ぶりにリリース。ネオアコ時代からの盟友、元オレンジ・ジュースエドウィン・コリンズらをバックに迎えたこの作品は、引き続きシンプルで親しみやすい楽曲でシーンからの評判もまずまずのよう。

Seven Dials

まだまだ音楽活動を継続的に続けているロディ、次の新作と3回目の来日を期待しながら、この素敵な初ソロアルバムを聴いて梅雨空の鬱陶しさを、清々しさに感じ取って本格的な夏の到来を待つこととしましょう。

<チャートデータ> 
全英アルバムチャート 最高位55位(1998.3.10付)

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#148「Be The Cowboy」Mitski (2018)

 #148Be The CowboyMitski (Dead Oceans, 2018)


短い梅雨っぽい時期もどうやらそろそろ終わりになって、昨日くらいからまた暑いいい天気が戻ってきた感じがありますね。早くこいこい夏よ来い。

今週の「新旧お宝アルバム!」は最近の新譜から。ここのところ、ブルース・スプリングスティーンマドンナの新譜が相次いでリリースされてベテラン組のミュージシャン達も頑張ってますが、ここは新しめのアーティストの新譜ということで。とは言ってもリリース自体は昨年の8月ですからしばらく前ではありますが、この夏フジロック・フェスティヴァルにもやってくる、日米ハーフの女性オルタナティヴ・シンガーソングライター、ミツキのもう5枚目になるアルバム『Be The Cowboy』(2018)をご紹介します。

Be The Cowboy 

ミツキは米国務省に勤務していたアメリカ人の父と日本人の母を持つ、日本生まれニューヨーク育ちの今年29歳になる、女性シンガーソングライター。

ニューヨーク州立パーチェス・カレッジで音楽の勉強をしている頃、学校のプロジェクトとして、最初のアルバム『Lush』(2012)と2枚目『Retired From Sad, New Career In Business』(2013)を自らのピアノ弾き語りベースでダウンロードオンリーで作成。大学卒業後、ミュージシャンとしてのキャリアを求めて3枚目のアルバム『Bury Me At Makeout Creek』(2014)をリリース。この作品から彼女のスタイルはそれまでのピアノ中心から、いわゆるオルタナティヴ・ロック的なギターを中心としたスタイルに変化したと言いますから、この頃に今に続くミツキの楽曲スタイルがある程度固まってきたようです

そのミツキが音楽シーンで注目される存在となったのは前作、4作目となるアルバム『Puberty 2』(2016)のリリースと、90年代のシューゲイザーやエモ・ロックへのオマージュ的サウンドと自らのバイカルチュラルな出自からわき出る感情を表現したように思えるシングル「Your Best American Girl」がシーンで大きな話題と評価を得たこと。『思春期その2』と題されたこのアルバムは初めてロック関係のチャートに顔を出し、ピッチフォーク、ペイスト、ローリング・ストーンといった音楽各誌の2016年のベストアルバムランキングの上位に選出され、ミツキの名前を多くの音楽ファンに知らしめることになったのです。

彼女の「Your Best American Girl」のPVを初めて見た時のエモーションの湧出をものすごく感じたのははっきり覚えています。米人男性との素敵な状況が突然ガラスが割れるかのように崩れ去り、ニコを思わせるようなミツキの静かな歌声がファジーなギターストロークをバックにした叫びのような歌声に変貌していく様子をイメージ化したこのPV、ミツキというアーティストの一つの側面を理解し、彼女の作品にリスナーを引きつけるのにうってつけのプレゼンテーションだったと思いますね。

これをきっかけに2016年12月、2017年11月そして今年の2月とほぼ毎年来日を果たして着実に日本でのファンも増やす一方、2017年秋から1年以上に及ぶロードの「Melodrama」ワールドツアーの北米でのオープニング・アクトを務めるなど、USでもリスナー・ベースを着実に広げているミツキが、昨年8月にドロップしたのがこの新譜『Be The Cowboy』です

Mitski.png

大きな評価を得た前作でも聴かれた、ミツキニコを思わせるような、何かが取り憑いたような、それでいて聴く者の感情をある時は掻き立て、またある時は落ち着かせてくれる、独特のボーカルスタイルは健在。そしてギター・ロック的だったり、エレクトロ・ポップ的だったり、60年代ポップ風だったり、後期ビートルズ風だったり、ゴスペル風だったりと様々な音楽スタイルを自由自在に操りながら、ミツキならではのエモーションを感じさせるメッセージや情景描写の歌詞を持つ楽曲群が今回のアルバムを前作以上の素晴らしいものにしていますし、ミツキの存在が楽曲を通して大きく迫ってくる、そんな感じがします。彼女の楽曲スタイルは、たとえばそのオルタナで多彩な音楽性や、感情を複雑に表現した歌詞で、セント・ヴィンセントラナ・デル・レイといった同時代のアーティスト達に似ているのですが、彼女の場合、この作品でこの2人以上にミツキならではのスタイルを確立しているように思います。

そして今回のアルバムの特徴的なのは、ほとんどの曲が3分以下と短く、次から次に送り出されてくるミツキの楽曲が万華鏡のようにリスナーの耳を包んでくれること。

荘厳な教会音楽のようなオルガンをバックに「あなたは私のナンバーワン....」と訴えるようなミツキのボーカルとのっけから壮大なメロディとカタルシスを届けてくれるオープニングの「Geyser」を聴いただけで、今回のアルバムの内容に期待が膨らむというもの。ニュー・オーダーっぽい80年代エレクトロ・ポップとギターサウンドにポップなメロディが乗っている「Why Didn't You Stop Me」は自ら終止符を打った関係なのに、相手に「何で止めてくれなかったの?」と迫るアンビヴァレントな感情を歌っていたり、初期のスマッシング・パンプキンスを思わせるオルタナ・ギター・ロックな「A Pearl」では二人の関係が倦怠に陥っているのは自分が「戦争」に恋していて、それが残してくれた真珠を手の中で転がしてるから、と意味深なメタファーを提示します。

60年代カントリーポップっぽい「Lonesome Love」は相手に愛で優位に立とうとする彼女が敢えなく愛の虜になってしまう、という歌ですし、後期のビートルズのアルバムに登場しそうなちょっとノスタルジックな曲調の「Me And My Husband」では夫と私は完璧にうまく行ってるといいながら、あたかも息絶える直前の状況にいるかのような歌詞が不思議なシメトリーを醸し出しています。

70年代ディスコっぽいメロー・ポップな「Nobody」もまたまた孤独さをテーマにしながらも、自分に必要なのは哀れみなんかじゃなくて、あなたがそばにいて心からのキスをしてくれること、とストレートな感情を吐露した曲です。

静謐なピアノをバックに夢見るようなボーカルを聴かせる「A Horse Named Cold Air」などは、ミツキ自身がこのアルバムを作る時にイメージしたという「真っ暗な舞台で自分だけがピンスポットを受けて歌っているミツキの姿」をビジュアライズするかのような曲で、ある意味このアルバムの象徴的な楽曲なのかもしれません。

そしてアルバムラストの「Two Slow Dancers」。エレピのコードプレイとシンセのたゆとうようなサウンドをバックに歌われるこの美しいスローバラードは、昔若い頃よくダンスした体育館の匂いを思い出しながら、もっと若ければいろいろ簡単なのに、と昔を懐かしむ歌のようにきこえるのですが「私達は2人のスローダンサーだけど、1人で残されてる」というあたりからミツキ独特の世界に。「重力がゆっくり私達を引っ張り下げていて、それはお互いの肌を見ればわかる」という歌詞で、この歌が単に懐古的感情ではなく、人の老いとか更には人生の終末を見つめる感情を歌っていることがわかります

そうしたちょっと重いテーマを美しく、さりげなく歌いきってしまうミツキ

音楽シーンは昨年からちょっと「カウボーイ」がキーワードになってきている気がします。昨年のグラミー賞最優秀アルバムを取ったケイシー・マスグレイヴの『Golden Hour』はカウボーイをはじめとしたヒーロー達をパートナーのメタファーに使ってましたし、今年に入って既に10週連続Hot 100の首位を走っているリル・ナズ・Xの「Old Town Road」は黒人ラッパーのリル・ナズ・Xがカウボーイの格好でラップしたのがネットで大いにバズったのが大ヒットの大きな要因でした。

ミツキのいう「カウボーイになれ」というのは自分に対するメッセージなのか、リスナーへのメッセージなのかは不明ですが、カウボーイが単なるマッチョイメージのシンボルではなく、独立した、他の助けを必要としない自分自身を持ったキャラクターだとすると、彼女が自分自身に対して更に一段上のレベルを目指していくための自己発揚なのかもしれませんし、彼女自身がインタビュー等で以前吐露しているように、自分の出自に関し「自分が何人かって葛藤することはもうやめた」という思いを更に昇華するためのタイトルなのかも。

そういうミツキ自身の強いヴァイブもこのアルバムを魅力溢れるものにしていると思いますし、その証拠にこのアルバム、2018年のピッチフォーク誌の年間アルバムランキングで堂々1位に輝くなど、再び業界各誌の高い評価を受けています。

Be The Cowboy (back)

その『Be The Cowboy』を引っさげて、ミツキはこの夏フジロック・フェスティヴァルにやってきます。去年から続く新作ツアーの一貫として日本では2月の来日公演に続く2回目のライヴ、自分もフジロックには今年も参戦しますので今からミツキのステージが楽しみ。

彼女はその後も8月シカゴのロラパルーザを始め、この夏欧米の各種フェスに出演した後、9月7日と8日のニューヨークはセントラル・パークで開催される夏の音楽フェス、SummerStageへの出演を最後にしばらく音楽活動を休止することを先頃宣言しています。前作そして今作で大きく羽ばたいたミツキには9月以降の休養を前に、フジロックでは大いに充実したパフォーマンスを見せてくれることを期待して、我々はこのアルバムでミツキの世界を楽しみましょう。

<チャートデータ> 
ビルボード誌全米アルバムチャート 最高位52位(2018.9.1付)
同全米ロック・アルバムチャート 最高位7位(2018.9.1付)
同全米オルタナティヴ・アルバムチャート 最高位6位(2018.9.1付)

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#147「Bible Belt」Diane Birch (2009)

 #147Bible BeltDiane Birch (S-Curve, 2009)


一時期あれだけ暑さが続いていたのに、先週末くらいから雨模様や曇りがちの日々が続いて、どうやら東京地方も夏本番前の梅雨っぽい時期を通り過ぎようとしている模様。でも夏フェスの季節はもう目の前、いろんな洋楽アーティストの来日や新譜のリリースも続くこの時期、間もなく到来する夏本番を待ちながら洋楽を楽しみたいですね。

さて、今週の「新旧お宝アルバム!」、どのアルバムを取り上げようかなと考えていたところ、今のこの季節にぴったりな、リリース当時かなり大きな反響を呼んでその年の洋楽レコード店の選ぶCD大賞にも選ばれたこのアルバムをまだ取り上げていなかったことに気が付きました。今週は、2009年リリースのしかもデビュー・アルバムながら、キャロル・キングローラ・ニーロといった70年代前半に輝いていた女性シンガーソングライターの系譜を引き継ぐかのような素晴らしい楽曲と、ゴスペルやR&B、そしてアメリカーナといったアメリカ音楽の歴史を辿るような作風と歌唱で当時多くのファンを生んだ、ダイアン・バーチの名盤アルバム『Bible Belt』(2009)を改めてご紹介します。

Bible Belt 

オルタナティヴ・ロックやアメリカーナ、ヒップホップやR&Bなど、多くの洋楽のサブジャンルにおいて多くのクリエイティヴで質の高い作品と、実力派のアーティスト達が多く輩出されて、個人的には1960年代後半~70年代前半に次ぐ「大きな洋楽ルネッサンス期」と呼んでいる1990年代も、1999年、あのサンタナが様々なコンテンポラリーなアーティストとコラボしたアルバム『Supernatural』の大ヒットで終わりを告げました。

そして21世紀に突入したあたりから、洋楽シーンの方向性も更に細分化、多様化、そしてマイクロジャンル化の方向に向かい始めました。それに伴っていわゆる「メインストリームのジャンル」という概念がそれまで以上に希薄化し、コテコテのアイドル・ポップでも、下世話な音作りのR&Bでも、ハードコアなヒップホップでも、カントリー・ポップでも、グランジ崩れのパワー・ポップ・ハードロックでも、マーケティングに乗って、YouTubeを通じてPVが膨大なビューを積み上げればメインストリームなヒットになる、というある意味民主的、悪く言うと何でもbuzzれば勝ち、的な今にも通じる音楽マーケティングモデルが定着し始めたのが2000年代ではないかと思ってます

そんな21世紀最初のデケイドが終わりに近づいた2009年に、こうした音楽マーケティングモデルのほとんどの要件に対するアンチテーゼを表明するかのように忽然とシーンに現れ、その作品を聴いた多くの洋楽リスナー達(特に従来からの洋楽ファン)の心を一瞬に奪っていったのが、今回ご紹介するダイアン・バーチの『Bible Belt』

この「新旧お宝アルバム!」を読んで頂いている読者の多くの方には「このアルバム知ってるよ、死ぬほど聴いた」という既にお馴染みの作品だとは思います。でもこのアルバムリリースから10年が経った今、当時まだ洋楽を聴いていなかった若いリスナーの皆さんに「つい10年くらい前に、今巷で流行ってる洋楽ヒットとは全く違うタイプのこういう素晴らしい作品に魅了された洋楽ファンがいっぱいいたんだよ」と伝えるためにこのアルバムを取り上げるのはそれなりに意味があるのでは、と思った次第。

既に多くの評論家の皆さんにも論評されているこの作品、ご存知のように次の3つの要素がこのアルバムのサウンドと楽曲に、一見オールドスタイルにきこえながら、時代を超えた普遍的なクオリティと魅力を与えていると言えます。

1.ローラ・ニーロジョニ・ミッチェルに代表されるような、60年代のティンパン・アレー・ミュージック(体制的価値観に基づく商品として作られた優れたポップ楽曲スタイル)と70年代以降のロック・サウンド(現状への疑問と否定を一段高いスキルによる楽器演奏や特徴的なリフ、そして問題意識提示型の歌詞で表現した楽曲スタイル)の橋渡しをしたスタイルのメロディや詞を持った楽曲を多く作り出した女性シンガーソングライター達のスタイルをその表現スタイルとしていること。

2.プロテスタントの宣教師の娘として、ジンバブエや南アフリカなど世界中を幼少時に移り住んだ経験によると思われる、R&Bやゴスペル・ミュージックやワールド・ミュージックの影響が楽曲構成やコーラスアレンジなどの端々に印象的に見られること

3.シンセサイザーなど電子楽器は使わず、自らの歌声と基本的なギター・ベース・ドラムスの楽器編成を使い、キーボードについてもアコースティック・ピアノの他にワーリツァーのエレピの使用に拘るなど、70年代の優れた楽曲が表現していたニュアンスを忠実に再現しながら、古臭さを感じさせないこと。

上記の1.、特にローラ・ニーロのスタイルへの類似性はこのアルバムを聴いたら誰もが強く感じるところではないかと思います。アルバム冒頭のアカペラで始まる「Fire Escape」やピアノの弾き語りが印象的な「Rewind」、ジャジーなピアノの伴奏と歌い出しの一瞬裏声になるあたりが素敵な「Rise Up」などなど、このあたりを強く感じさせる楽曲は多いのに、決してローラの物真似には止まらない、楽曲の完成度が聴く者(特にローラのファン)のハートを奪ってしまうゆえんでしょう

上記の2.については、ブルージーなR&B風味の素敵な「Fools」、ゲイリー・マーシャル監督の映画『Valentine's Day』(2010)の挿入歌にも使われた「Valentino」の軽快なパーカッションが印象的なリズム、静かなバラードで始まる「Photograph」が後半、アレサ・フランクリンが登場しそうなドラマティックでスピリチュアルなゴスペル・コーラスに変貌していくあたりのカタルシス、そしてリヴァーヴギターをバックに教会で歌われる正しくソウルフルなゴスペル然とした「Forgiveness」といったあたりに顕著ですよね。マイアミ・ソウルの大御所シンガー、ベティ・ライトがプロデュースに携わっていることも大きいのでしょう。そしてそのベティ・ライトを持ってきたのが、ダイアンを見いだした本作のエグゼクティヴ・プロデューサーも務めるS-カーヴ・レーベルのスティーヴ・グリーンバーグ

このアルバムの完璧なまでのトータル感やクオリティは、あのハンソンジョス・ストーンなどアーティスト発掘で業界では有名なスティーヴの影響も大きかったに違いありません。これについてはまた後ほど。

そして3.で特に印象に残るのが、ワーリツァー・エレピでたゆとうように始まり、ダイアンのソウルフルでさりげなく技巧的な歌い回しがとても魅力的な「Nothing But A Miracle」。この曲などは楽器の選択も含めて、完璧な楽器アンサンブルでこのアルバムの魅力を端的に表していると思っていて、後にあのダリル・ホールがウェブで放映している『Daryl's House』でダイアンダリルと共演した際もイントロ部分でダリルらしいフィリー・ソウル風のコーラスを加えたくらいで、楽器設定もアレンジもオリジナルに忠実だったことでもこの要素がこのアルバムの重要なファクターだったことが判ります。

とにかくこのアルバムは「繰り返して聴くことが発見と喜びを生み出す」という希有な作品なので、多くのダイアンに巡り会った洋楽ファンが何度も何度もこのアルバムを聴いたのは想像に難くないところ。当然次作に対する期待は大きく高まったわけですが、次作『Speak A Little Louder』(2013)は『Bible Belt』でのダイアンのパフォーマンスとスタイルに惚れ込んだファンに取ってはやや戸惑う内容でした。彼女の最大の魅力であるゴスペルを基盤にしたソウルフルなボーカルや、70年代のシンガーソングライター黄金期を彷彿させる楽曲の魅力は十分楽しめるものの、サウンドに対するアプローチが『Bible Belt』に比べて遙かに音響派っぽいというか、今回はシンセが結構多いぞとか、全体的にはちょっとメランコリーでポジティヴなヴァイブが少ないぞといったあたりが自分も含めて当時の印象だったと思います。このアルバム発表直前に父親を失う、ということも大きく影響していたとは思いますが、言わばフリートウッド・マックの『噂』(1976)の後に『タスク(牙)』(1979)を聴かされた戸惑いに近かった、と言えばいいでしょうか。

その後、ダイアンスティーヴと袂を分かって、インディから更にダークでメランコリーなアルバム『Nous』(2016)をリリースするわけですが、彼女が自分がティーンエイジャー時代に愛聴していた曲のカバーを収めたEP『The Velveteen Age』(2010)がジョイ・ディヴィジョンスージー&ザ・バンシーズ、シスターズ・オブ・マーシーといった言わばゴス・ロック系の楽曲で埋め尽くされていたのを考えると、こうした作風が彼女の作風の他の重要な一面であることは間違いないところなのでしょう

Speak A Little Louder 

ダイアンはこのアルバム発表直後の2009年の他、2016年と2018年の都合3回来日していて、2016年の来日の時は勇んで駆けつけたのですが、当時リリースされたばかりの『Nous』からの曲や、シャーデーや彼女を見出したプリンスのカバーなどが中心で、期待していたこのアルバムからの曲は数曲だったので不完全燃焼でした。その後のインタビューとかを読むと、当時彼女はこの『Bible Belt』が好きになれなかったらしく、その理由の一つが彼女が持ち寄った曲のうち、ダークでメランコリーな側面を持った楽曲がことごとくアルバムに採用されなかったことだったとのこと。当時ライヴ見ながら「どうも彼女は『Bible Belt』のイメージにはめ込まれることを嫌がってるのでは」と感じたことは正にその通りだったようで。

でも、前回の2018年来日時のインタビューでは「今では10年を経て『Bible Belt』を愛せるようになってきた」と語り、事実ライヴでもこのアルバムのナンバーを中心にしたセットリストでファンを喜ばしたらしい。ううむ、行けば良かった

Bible Belt (back)

最近のインタビューによると「次の新作は『Bible Belt』のファンにも楽しんでもらえるものにしたい」と言ってくれているようです。また今月はあのブライアン・フェリーのオープニング・アクトとしてヨーロッパをツアー中のようなので、夏に向けて上がって行く活動レベルのお伴になってくれるような、そんな素晴らしい作品を期待して、今はこのアルバムを改めて聴き返しておきましょう。

<チャートデータ> 
ビルボード誌全米アルバムチャート 最高位87位(2009.6.20付)

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

copyright © 2019 Life Is A Rock - 洋楽こそ我が人生 all rights reserved.
Powered by FC2ブログ.