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Life Is A Rock - 洋楽こそ我が人生
洋楽全般について、英米ヒット・チャートに登場有無に関係なく、お気に入りの洋楽作品についての独り言やコメントをつれづれに掲載します。「新旧お宝アルバム!」「恒例グラミー賞大予想」など定期コラムが中心です。洋楽 ファンサイト、meantime(www.meantime-jp.com)のスピンオフ企画としてお楽しみ下さい。
【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#160「Belle Of The Ball」Richard Torrance & Eureka (1975)

#160Belle Of The BallRichard Torrance & Eureka (Shelter / ABC, 1975)


日本シリーズも、MLBポストシーズンも、そしてラグビーワールドカップも終わってしまって、これまで毎日スポーツで盛り上がっていたのが一気に寂しくなったような気がする今日この頃。いや、まだまだNFLもあるしNBAもある!という方もいらっしゃるでしょうが、個人的にはやはりMLBロスは大きいですねえ。これから年末にかけてはナショナルズ初優勝ということもあっていろんな特番が放送されるでしょうから、せいぜいそちらで楽しむことにします。

さて今週の「新旧お宝アルバム!」は久しぶりに70年代に戻ってみます。ウェスト・コースト・ロックのシンガーソングライターで、70年代に何枚かのアルバムを出した後は一線からは姿を消してしまいましたが、その作品が近年一部で見直されている、知る人ぞ知るお宝アーティスト、リチャード・トランスが自分のバンド、ユーレカを率いて、リオン・ラッセルのレーベル、シェルターからリリースした2作目のアルバム『Belle Of The Ball』(1975)をご紹介します。

Belle Of The Ball 

リチャード・トランス、という名前を知っている洋楽ファンはそれほど多くないと思いますが、彼の書いたある有名な曲はかなりの洋楽ファンの方(特に現在アラフィフ~アラ還の方)がご存知だと思います。その曲は「リオ・デ・ジャネイロ・ブルー(Rio De Janeiro Blue)」。そう、あのニコレット・ラーソンが2枚目のアルバム『In The Nick Of Time(愛の季節)』(1979)の中でカバーしていた、ちょっとマイケル・フランクスのナンバーを思わせるボサノヴァ・タッチの曲で、その後、クルセイダーズとのコラボで有名なフュージョンR&Bシンガー、ランディ・クロフォードが『Secret Combination』(1981)でもフュージョン風にカバーしていた、当時AORチューンとしてはそこそこ人気のあった楽曲ですのでご存知の方は多いのでは。


そう、この「リオ・デ・ジャネイロ・ブルー」の共作者がリチャード・トランスなのです。

リチャードはノース・ダコタ州の州都、ビスマルクの出身でしたが、音楽で身を立てるために高校卒業後カリフォルニアに移住。そこで1972年、当時音楽シーンの大物の一人、リオン・ラッセルのレーベル、シェルターとの契約をものにして今日ご紹介する『Belle Of The Ball』を含む3枚のアルバムをリリースします。オンの『Wedding Album』(1976)にもアコギで参加するなどこの時期リオンとのつながりが深かったため、この『Belle Of The Ball』を「スワンプの名盤」と評する方も多いのですが、自分的にはスワンプ、というよりはちょっと南部の香りのする硬派のウェスト・コースト・ロック、というのが正直な印象です。あ、これ全部褒め言葉ですので(笑)。

こうした作品のリリースをバックに、リチャードユーレカイーグルス、リトル・フィート、リンダ・ロンシュタット等々といった当時のウェスト・コーストの人気アーティスト達のライブのオープニングを務めたり、自らのナショナル・ツアーも3回ほど行うなど、バンド活動を勢力的に展開。この後リチャードリオンシェルター・レーベルと袂を分かってキャピトルと契約、「リオ・デ・ジャネイロ・ブルー」を含むアルバム『Bareback』(1977)を含む4枚のアルバムをリリース後は一線から退き、北カリフォルニアでもっぱらスタジオの経営や、地元のタレントのプロデュースなど裏方に回った活動を80年代を通じて地道に行っていたようです。

そのリチャードがアーティストとして一番輝いていた時代に、唯一全米アルバムチャートにもチャートインしたのが『Belle Of The Ball』。ジャケットには南部と思われる瀟洒なお屋敷の前にたたずむ白の正装の淑女の写真。タイトルが「舞踏会の佳人」という意味なので、そのものズバリのイメージ通りのジャケットということになります。

Richard Then

アルバムはいきなりツインアコギギターの豪華なカッティング・リフが印象的なインストゥルメンタル曲「The Jam」でスタート。このアルバムがリリースされた1975年には結構多くのウェスト・コースト系のロック・バンドがアルバムにインストを入れていて、ドゥービー・ブラザーズの「Slack Key Soquel Rag」(『Stampede』収録)のようなアコギの小品から、イーグルスの「Journey Of The Sorcerer」(『One Of These Nights(呪われた夜)』収録)のようなプログレッシヴ・カントリー・ロック的な壮大なもの、はてはパブロ・クルーズの「Ocean Breeze」(『Pablo Cruise』収録)のようなピアノによる12分の大作など、いろんなバンドが意欲的なアプローチを見せていました。ある意味この時期のアルバム作りのスタイルだったのだと思いますが、リチャードのこのナンバーは言わばイーグルスドゥービーのアプローチをうまく取り入れて、それをよりロック的なアプローチで、素晴らしい楽器のアンサンブルで聴かせてくれて、これでいきなり「おお何だ何だこれは」とわしづかみにされること請け合いです。

続く「Southern Belles」や「That's What I Like In My Woman」(このあたりは女性テーマですね)は、アウトローズとかのサザンっぽいウェストコースト・ロックでレイド・バックしたロック・ナンバーで、後者はよりブギータイプのストレートなロックンロール。このあたりはこのバンドの骨太な演奏力が堪能できます。その後ちょっと雰囲気を変えて「North Dakota Lady」ではアコギのカッティングと分厚いハーモニー・コーラスを印象的に配した、初期イーグルスを思わせるちょっと幻想的なメロディが聴けます。スローな「Side By Each」で一息ついた後、A面ラストは分厚いギターストロークのフレーズがメインの、またまたサザンロックっぽいストレートなナンバー「Hard Heavy Road」で終了。

B面オープニングは、あのリンジー・バッキンガム作で、彼がマック合流前のスティーヴィー・ニックスとのデュオによるバッキンガム・ニックス時代のアルバム『Buckingham Nicks』(1973)収録の「Don't Let Me Down Again」のカバー。跳ねるドラムスや独特のギターフレーズの感じがまんまバッキンガムの世界観の再現、という忠実なカバーでリチャードがこの曲をよっぽど気に入ってたのがよくわかります。

続く「Singing Spring」はイントロから登場するドブロの音色や、アームを多用するギターワークが確かにスワンプっぽい雰囲気を漂わせているナンバー。ボーカルもややスワンプっぽさを意識しているかも。そしてこの曲でも初期イーグルス風のパチッとしたハーモニーコーラスが印象的です。

Lady」はこのアルバムでも多分一番楽曲構成に凝ったのが分かる曲。イントロから入ってくるムーグの音色でおやっと思うのですが、すぐにラテン風なリズムでパーカッションをバックにムーディーな曲調に変貌。後半などちょっとこの時期のサンタナっぽい雰囲気も感じるナンバーです。


バンドの卓越したコーラスワークを存分にショーケースしてくれるのが次の「Lazy Town」。シンプルなピアノの弾き語りから楽器の音数を押さえた造りの楽曲に時折絶妙に美しいハーモニーコーラスが重ねられるという、地味ながらこのアルバムで屈指のナンバーだと思います。随所で半音にフェイクするリチャードのボーカルもこの曲のメロディに魅力を付加してます。

そして最後はやーお疲れ様、ご苦労さん的な「Sweet Sweet Rock & Roll」で打ち上げパーティー的にストレートなロックンロールで締め。これだけ工夫を凝らしたアルバム作りのエンディングにしてはやや単純すぎる嫌いはあるけどバンドが演奏を楽しんでる気分が伝わってくるのはいい。最後のバックコーラスがビーチボーイズ風なあたりが、このバンドのユニークなスタイルを改めて確認させてくれます。

なお、アルバムを聴き終えて、裏ジャケを見ると先ほどの佳人のものとおぼしきドレスやブーツが脱ぎ捨てられてピックアップトラックの荷台に放り出してあるというなかなか意味深なお遊びにも思わずニヤリとさせられます。

Belle Of The Ball (back)

さて80年代バンド活動から裏方に回ったリチャードですが、その後90年代はラス・ヴェガスのカジノでハウス・バンドをやったりという稼業をしながら2枚のCDをリリースするなど音楽活動は地味ながら継続。

2004年からは故郷のビスマルクに戻り、地元で音楽活動を続けながら地元タレント発掘TVショーの仕事を手伝ったり、教会の音楽監督の仕事をしたりとコミュニティーへの貢献をテーマにした活動を続ける、充実した人生を過ごしてる模様です。

Richard Now

秋が深まり、音楽を楽しむには最高の時期が到来しました。商業的にはこの1枚だけでシーンからは遠のいてしまったリチャード・トランス&ユーレカ。しかしこの1枚はこうした季節に楽しむには珠玉の一枚です。70年代ウェストコースト、サザンロックそしてもちろんスワンプのお好きな方には一押しの作品、Apple MusicSpotifyなどのストリーミングでは聴けないのが残念ですが、リチャードのウェブサイト(http://www.richardtorrance.com/vinyl.htmlで何とCDで買えるようですのでチェックしてみて下さい。

<チャートデータ>
ビルボード誌全米アルバムチャート 最高位107位(1975.5.24付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#159「Duncan Sheik」Duncan Sheik (1996)

 #159Duncan SheikDuncan Sheik (Atlantic, 1996)


台風19号に続いてこの週末の雨で被災者の皆さんは引き続きご苦労されていることと思います。我々も義援金の寄付など、できることをしなければいけないし、被災者の皆さんの一日も早い日常復帰を心より祈っています。

朝晩がめっきり肌寒くなってきた今日この頃、秋が次第に深まるのを感じますが、今週の「新旧お宝アルバム!」は引き続き深まる秋にぴったりの作品をお届けします。久々の90年代作品再評価シリーズということで、当時新人ながらその作品のクオリティの高さで注目を集め、その後は数々のミュージカル作品の音楽制作者として活躍を続けるシンガー・ソングライター、ダンカン・シークのデビューアルバム『Duncan Sheik』(1996)をご紹介します。

 

90年代作品を改めて評価してみよう、第11弾。

ポイグナント(poignant)という表現をご存知でしょうか。

もともとは「胸に突き刺さるような」という意味の英語ですが、一般的にはその転意で「見る者、聴く者の胸に強く訴えかけるような感動を呼ぶ」という意味に使われる表現のことばです。

1996年当時、ダンカン・シークのぱっと聴きには地味な感じのトップ40ヒット「Barely Breathing」を何回か聴くうちに感じたのは正にこのポイグナントな感動でした。下手をすると単調な起伏のない繰り返しのAメロから、正にその歌詞のように軽く「息ができなくなるくらい」のカタルシスを持ったBメロに突入した瞬間、一気に持って行かれるような感動を覚えるこの曲、当時のFMラジオで長期間に亘ってヒットとなり、その前年にビルボード誌Hot 100連続滞在週数記録を更新したエヴリシング・バット・ザ・ガールの「Missing」と並ぶ55週連続チャートインを記録(同じ週にやはり55週を記録したジュエルの「Foolish Games / You Were Meant For Me」はその後も記録を65週まで伸ばすのだが)。その年のグラミー賞最優秀男性ポップボーカル部門にノミネートされるなど、ダンカンの名前を一躍シーンに知らしめたのでした。

しかし今回ご紹介するデビューアルバムで特にこの「Barely Breathing」だけが際立っているわけではなく、アルバム全体のトーンは秋を思わせる抑えめながらオーディエンスに強い印象を思わせる楽曲群で統一されていて、それらの曲調スタイルは、アメリカのシンガーソングライターの楽曲というよりは、どこかヨーロッパの美しい街角を舞台にした映画のバックグラウンドで歌われている曲を思わせるような哀愁をたたえ、時折胸をつく感動(ポイグナンス)を想起させる楽曲ばかり。

Duncan Sheik 

アルバムのプロデュースが、あのハワード・ジョーンズの一連の作品のプロデュースで80年代に名を成したルパート・ハインの手によるところもこうしたアルバムのトーンを作り上げる大きな要素にもなっているのでしょうが、それに加えてダンカン自身の作風スタイルの独特さが際だっているように思います。ブラウン大学在学時代には、あのリサ・ローブともグループを組んで活動していたというあたりからも分かるように、基本的な作風スタイルはフォークやアメリカーナをベースにしたシンガーソングライター的なそれであり、ダンカンの場合はそれが映像を想起させるようなビジュアル性をもったメロディと歌詞で独特なものを作り上げているように思います。

Barely Breathing」以上にスケールの大きいメロディと楽曲構成がアルバムオープニングからいきなり軽い感動を呼び起こす「She Runs Away」、このアルバムの中では比較的アメリカーナっぽいメロディと楽曲スタイルで、基本ダンカンのアコギ弾き語りにストリングスが控えめに被さっていくという展開の美しいメロディの「In The Absence Of Sun」、「Barely Breathing」を挟んで、静謐なピアノのイントロから静かに楽曲が展開していく「Reasons For Living」そして室内弦楽曲的にアコギとチェロがヨーロッパ的な楽曲の世界を静かに織りなす「Days Go By」などなど、いずれもポップセンス溢れる一方で、音数を重ねていくというより適格な音の引き算も駆使して音数を抑えながら、映像感と感動があふれ出るような楽曲が並んでいます。

ダンカンのこのアルバムはその完成度の高さから、その年のローリング・ストーン誌の年間アルバムランキング7位に選ばれるなど当時シーンでも高く評価されたのですが、シングルヒットも「Barely Breathing」以降チャートインせず、その後もコンスタントに『Humming』(1998)、『Phantom Moon』(2001)、『Daylight』(2002)と、彼独特の魅力的な楽曲を聴かせるアルバムをリリースするのですが、商業的には全く振るわず、とうとうアトランティック・レーベルとの契約も終了。このままワン・ヒット・ワンダーとしてポップの歴史に名前を残すだけで終わってしまうのかとも思われました。

Duncan Sheik Album back

ところが、2006年に5枚目の『White Limousine』をインディーレーベルからリリースした頃と時を同じくして、それまでに8年かけて『Phantom Moon』以来コラボしていた詩人のスティーヴン・セイターと書き上げたロックミュージカル『Spring Awakening(春のめざめ)』がニューヨークのオフ・ブロードウェイで開演。たちまち人気を呼びその秋にはブロードウェイでも開演、その年のトニー賞の最優秀ミュージカル部門を含む8部門受賞、その勢いでグラミー賞の最優秀ミュージカル・ショー・アルバム部門も受賞、その年を代表するミュージカルとして大ヒットになりました。

後にポップ・ミュージック・シーンに大きな反響を呼んだTV音楽コメディ番組『Glee』でメインストリームにブレイクすることになるリー・ミシェル(『グリー』のレイチェル役)のキャリアを大きくブレイクすることになったこのミュージカルの成功で、ダンカンは新たにミュージカル音楽作曲家としてのキャリアを歩み出すことに。その後もダンカンセイターと再び共作の『Alice By Heart』(2012、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』をベースにしたミュージカル)、2013年には映画『アメリカン・サイコ』のミュージカル版や犬を主人公にした大ヒット小説『Because of Winn-Dixie』のミュージカル版の音楽制作、2016年にはワシントンDCのシェイクスピア・シアター・カンパニーによる『じゃじゃ馬ならし』の演劇公演に曲を書くなど、第2のキャリアを着実に進んでいる様子です。

一方、ミュージシャンとしてもその後、曲を提供したミュージカルの自作曲を収録した『Whisper House』(2009)、デペッシュ・モード、ハワード・ジョーンズ、ティアーズ・フォー・フィアーズ、スミスといった80年代のUKミュージシャンの曲をカバーした『Cover 80's』(2011)、今のところの最新作の『Legerdemain』(2015)と、アルバムも時折リリースしているようです。

今回ご紹介のデビューアルバムだけでなく、その後ダンカンがリリースしているアルバムはどれも彼の非アメリカ的で、ポイグナントな映像感満載の独特のスケールの大きい世界観が感じ取れる作品ばかりですので、秋が深まり始めたこの季節、そうした彼のアルバムを生活のサウンドトラックにしてみるのもいいかもしれません。

<チャートデータ>
ビルボード誌全米アルバムチャート 最高位83位(1997.4.19付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#157「Turn Off The News (Build A Garden)」Lukas Nelson & Promise Of The Real (2019)

 #157Turn Off The News (Build A Garden)Lukas Nelson & Promise Of The Real (Fantasy, 2019)


このコラムも先週お休みしている間にぐっと秋っぽい気候になってきました。日中の日差しは強いけど、風はどことなく涼しいし、日陰に入るとすっと気持ちよい今日この頃。こういう時期は新旧問わずいい音楽を目一杯浴びたいもの。

さて今週の「新旧お宝アルバム!」は今年リリースの新譜を取り上げます。今回お届けするのは、あのカントリー・レジェンド、ウィリー・ネルソンの息子、という看板がもう必要ないくらい、最近様々な方面で活躍しているルーカス・ネルソンと彼が率いるバンド、プロミス・オブ・ザ・リアルの5枚目になる、この秋の素晴らしい気候にぴったりの久々にスカッと抜けたアメリカン・ルーツ・ロックでありながらちょっとした社会批判も聞かせてくれる『Turn Off The News (Build A Garden)』(2019)です。

80年代からハワイに住むウィリーと4人目の妻、アニー・ディアンジェロとの間に生まれたルーカスは、同じハワイ生まれの弟のマイカ共々、まあ自然に音楽の世界に身を投じるようになって、2008年にはロスの大学在学中にニール・ヤングのコンサートで知り合ったメンバーと今のバンド、プロミス・オブ・ザ・リアルを結成、まずは父親のライブのバックバンドとして経験を積みます。ただマイカは当時も今もバンドのメンバーではなく、ソロミュージシャンとして同じく父親のバックを務めていたというのがなかなか面白い関係。

Lukas And Willie

そうやって父親のバックバンド活動をしながら、自分達のアルバム『Promise Of The Real』(2010)、『Wasted』(2012)をインディからリリース。一方、父がニール・ヤング、ジョン・メレンキャンプと一緒に1985年に立ち上げて以来毎年様々なアメリカン・ロックのミュージシャンが参加してきたライヴ・イベント「ファーム・エイド」にも2011年からバンドとして参加していましたが、たまたま2014年のファーム・エイドの後、ニール・ヤングとジャム・セッションで盛り上がった彼らをニールが次作『The Monsanto Years』(2015)に呼び、これ以降ニール・ヤングのバックバンドとしての活動を開始。

Lukas and Neil

ニールの『Earth』(2016)、『The Visitor』(2017)に参加する一方、徐々にメディアへの露出も増えていったルーカス・ネルソンと彼のバンドが一気にその存在感をシーンで確立したのは、昨年のブラッドリー・クーパーレディ・ガガの大ヒット映画『A Star Is Born(アリー/スター誕生)』でのルーカスの音楽プロデューサーとしての成功と、映画の中でブラッドリーのバンドとして登場、熱いライヴを聞かせたプロミス・オブ・ザ・リアルのパフォーマンスでした。

Lukas Nelson Promise Of The Real

名実ともに今のアメリカン・ルーツ・ロックのメインストリームの中心的若手バンドの一つとしての評価を着実に積み上げた彼らが満を持して今年リリースしたのがこのアルバム『Turn Off The News (Build A Garden)』。

アルバムを通じて聴けるサウンドは、申し分のない正統派のアメリカン・ルーツ・ロックで、それぞれの楽曲の構成も素晴らしく、印象に残るリフや、メロディーライン、地に足の着いたしっかりとしたリズム隊に支えられたルーツ・ロック的な安定感溢れる演奏はさすがに数あるライヴ活動で磨き込んだだけのことはあるパフォーマンスです。

ただ彼らが、他の同スタイルのルーツ・ロック・バンドと違うのは、父ウィリーの歌声を彷彿とさせるルーカスのひたすら暖かく優しい特徴的な歌声と、ルーカスの書く楽曲がハワイで育ったことが少なからず影響しているのでは、と思わせるスケールの大きさと華やかな味わいで一味違った魅力を放っていること。

そして何よりもこのアルバムでルーカスが一番伝えたかったメッセージは、アルバム・タイトル・ナンバーに込められていると思います。

「ニュースなんか消して、庭を造ろう」

A面2曲目ではエレクトリック・バージョンで歌われるこの曲は、ファジーギターのせいか、ニール・ヤングの雰囲気も見え隠れし、その力強さはブルース・スプリングスティーンの初期や最近の楽曲を思わせる、ストレートなアメリカン・ロック・タイプの楽曲。その歌詞は、多分今の心あるアメリカ国民の多くの琴線に触れる、それでいてシンプルなメッセージで埋められています。

「人の心って実はみんな優しいものだと思う
ただ一部の人はその優しさを充分に発揮できてないだけ
憎悪ってよく状況や物事が理解できずに憂鬱に落ち込む今の時代の人たちの症状

僕はただできる間にあなたを愛したい
後知恵や結果論でものを言う人には混乱させられるだけ
そういう人たちのことを努力して理解しようなんて必要ない
多分椅子から立ち上がってニュースを消せばいいだけ

ニュースを消して庭を造ろう
近所の人たちと自分とで
そうすれば少しは頑なな心も和らぐと思うし
もう少し自由になったと感じられるかもしれない

ニュースを消して僕らの子供達を育てよう
彼らが信じることのできるものを与えよう
彼らにどうすればいい人間になれるかを教えよう
はっきりと彼らに見える希望を与えよう
彼らにそれが見えるといいけど

ニュースを消して僕と一緒に庭を造ろう
信頼は信頼でしか築けない
全てのネガティヴな考えや発言はなくしてしまおう
信頼こそが信頼を築いてくれる
幸せになりたくないのかい?」


本来あるべき優しい心の人間に立ち戻って、くだらない中傷やネガティヴな争いには背を向けて、ほんとに僕らの未来に取って必要なことをやれば幸せになれる、というメッセージはシンプルだけどストレート、心にグッと迫るものがあります。

てらいのないルーツ・ロックな楽曲に乗って、ルーカスのボーカルに寄り添うようにハーモニーを付けながらスリリングなボーカルを聞かせる(そしてこれも最近リリースされたアルバム『Threads』でも明確に示されていたように、ルーカスと同じ考えを持つ)シェリル・クロウのボーカルもこの曲の魅力を倍増させています。

そしてこの曲は、アルバムに同梱されたボーナス7インチシングルでは、アコースティック・バージョンで、ルーカスのアコギで再演されています。彼が影響を受けたニール・ヤングもオルガンで参加しているこのバージョンでは、「椅子から立って」というところ「ただあのクソったれなニュースを消せばいいだけ」と、より直接的なメッセージになっているのが何となく微笑ましくて。


アルバムのA面にはその他にも、恐らくルーカスのボーカルがトム・ペティの雰囲気を思わせるためにトラヴェリング・ウィルベリーズを彷彿とさせるオープニングの「Bad Case」、スケールの大きい大海原をバックにあのロイ・オービソンが歌っているようなイメージがオールド・スタイルながら心に響く「Where Does Love Go」、バンジョーやラップ・スティールをふんだんにフィーチャーしたオーセンティックなカントリー・チューンで、最近の注目カントリー・シンガーソングライターのマーゴ・プライスがハーモニー・ボーカルで参加している「Lotta Fun」(「もうコンピューターは信じない/マリファナ屋でハッパを買うんだ/楽しくやれば愛もやってくる」ってヒッピーな歌詞が気分です)、そして父ウィリーとのデュエット・ボーカルに、ウィリーの盟友故ウェイロン・ジェニングスの息子、シューターのコーラスも入り二つの世代が入り乱れて、彼らが惹かれる力強い女性のことを歌う「Civilized Hell」と、アメリカン・ルーツ・ロックファンにはたまらない楽曲満載。

そしてアルバムB面も、静かにアコギで始まって徐々に盛り上がる「Mystery」から、この手の楽曲には珍しくリズムボックスの音色で始まる「Out In LA」、このアルバムで一番ハードにロックするサザン・ロックっぽい「Something Real」、そしてブルース・スプリングスティーンの最新アルバムからの楽曲を思わせる、やはりスケールの大きいメロディとストリング・シンセサイザーの音色をバックに朗々とルーカスが歌う「Stars Made Of You」と、最初から最後まで気持ち良い楽曲の連続。このアルバム、個人的には今年の年間アルバムランキングの一躍トップに躍り出てしまいました

このアルバム、各音楽関係サイトでの評価もまずまず。また、8月末でエントリーを締め切った来年1月のグラミー賞では、少なくとも最優秀アメリカーナ・アルバム部門ではノミネートされるでしょうし、ひょっとすると主要部門の最優秀アルバム部門にもノミネートされるかも、と個人的に密かに盛り上がっているところです。

まあグラミー賞はどうなるかは判りませんが、このアルバムの完成度はかなり高く、こういうタイプの音楽がお嫌いでない方は、アラフィフ以上のシニア・ロック・ファンも、アラフォーの90年代ロック・インディロックファンも、そしてもっと若い今のロック・ファンの皆さんも、是非「カントリーっぽいロックだよね」という先入観を捨ててこのアルバムを聴いてみて頂きたいのです

きっと何らかの思いを感じることができる、そんな素敵なアルバムなので。

Turn Off The News (back)

<チャートデータ>
ビルボード誌全米アルバムチャート 最高位151位(2019.6.29付)
同全米カントリーアルバムチャート 最高位19位(2019.6.29付)
同全米ロックアルバムチャート 最高位31位(2019.6.29付)
同全米アメリカーナ・フォーク・アルバムチャート 最高位4位(2019.6.29付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#156「Guru's Jazzmatazz, Vol. 1」Guru (1993)

#156Guru's Jazzmatazz, Vol. 1Guru (Chrysalis, 1993)


この週末は3連休、そして気候も最近めっきり過ごしやすくなってそろそろ秋もそこまで来ているかな、という感じ。一方台風などの災害で以前大変な状況の千葉の皆さんには一日も早く日常へ復帰できるよう、祈っています。

さてここ2週ほどお休みしていた「新旧お宝アルバム!」、久しぶりの今週は、日々に近づいてくる秋の雰囲気にぴったりのアルバムをお届けします。1990年代初頭、ヒップホップやR&Bは、80年代の商業的マスプロダクション的なスタイル中心だったものから、よりオーガニックなサウンド作りで、そしてより60~70年代のブラック・ミュージックの先達達のスタイルへのリスペクトや憧憬を露わにした形でのサンプリングやサウンドスタイルのものに変貌していき、90年代を通じて「ブラック・ミュージック・ルネッサンス」とでもいうべき充実の時期を迎えようとしていました。その時期に、既に実力派のヒップホップ・グループとしての地位を確立していたギャング・スターの創立メンバー、グールーことキース・エドワード・イーラムが、英米新旧の有力ジャズ・ミュージシャン達と、その時期を代表する欧米のヒップホップアーティストやR&Bシンガー達を一同に集めて、ヒップ・ホップとジャズという新旧のブラックミュージックジャンルを見事にマリアージュして、新たなクールネスのスタイルを提示して見せた当時としては革新的なアルバムGuru's Jazzmatazz, Vol. 1』(1993)をお届けします。

Jazzmatazz Vol1 

1980年代後半にボストンで、MCのグールーを中心に結成されたギャング・スターは当初アンダーグラウンドな活動が中心でしたが、1989年にグールー以外のメンバーが脱退するのと時を同じくして、グールーはヒューストン出身のDJ、DJプレミアと運命的に出会います。これがこの後90年代を通じてヒップホップ・コミュニティで最もリスペクトされることになる新生ギャング・スターの誕生であったと同時に、その後現在に至るまで伝説的なカリスマ的人気を持つヒップホップ・サウンド・メイカー、DJプレミアのシーンへの登場となりました。

この二人で『Step In The Arena』(1990)、『Daily Operation』(1992)といった、東海岸ヒップホップを代表するアルバムを送り出す一方、スパイク・リー監督の映画『Mo' Better Blues』(1990)に提供した「Jazz Thing」がリー監督のみならずシーンで高く評価されたのがおそらくきっかけでグールーが作りあげたのが、今回お届けする全部で4作作られることになる「Jazzmatazz」シリーズの第1作、『Guru's Jazzmatazz, Vol. 1』です。

Guru.jpg

冒頭にも説明した通り、このアルバムでは新旧欧米のジャズ・ミュージシャン達とヒップホップ/R&Bミュージシャンが競演。ジャズシーンからは、ドナルド・バード(トランペット)、ロイ・エアーズ(ヴィブラフォーン)、ロニー・リストン・スミス(キーボード)、ブランフォード・マルサリス(サックス)といったアメリカジャズ界を代表するベテラン達から、ロニー・ジョーダン(ギター)、コートニー・パイン(フルート、サックス)といった若いイギリスのジャズ・シーンを代表するアーティストが参加。これにグールーやフランスのMCソーラーらのラップに加えて、これも当時UKで活躍していたカーリーン・アンダーソンブランド・ニュー・ヘヴィーズンデア・ダヴェンポート、当時スタイル・カウンシポール・ウェラー夫人だったD.C.リーといったボーカリスト達が一体となって、極上のグルーヴを醸し出すアルバムを作り上げています。

オープニングはグールーがおそらくドナルド・バードのトランペットをバックに、このアルバムのできた経緯とその趣旨(共にリアリティをベースにした黒人音楽であるジャズのライブ演奏とヒップホップの実験的フュージョンである「ジャズマタズ」をお届けする、というもの)を説明し、参加ミュージシャン達を紹介する「Introduction」。

そしてそのドナルド・バードのトランペットをメインにしたトラックにのってグールーが淡々としたフローを聴かせる「Loungin'」では早くもジャズとラップが一体となったクールなグルーヴが存分に楽しめるパフォーマンスにいきなり引き込まれます。続いて、ソウルIIソウルのキーボーディスト、サイモン・ローのエレピとタイトなリズムセクションに、ンデア・ダヴェンポートのボーカルとグールーのラップが交互に絡む「When You're Near」などはこの当時UKで人気のあったアシッド・ジャズ風の曲調で、なかなかこの時期のアメリカのヒップホップ・アーティストの作品では聴かれなかった雰囲気のグルーヴが楽しめます。



グールーのラップと呼応するかのように、ブランフォード・マルサリスの雄弁ながらクールなサックスソロとスクラッチ・ノイズが随所に登場する「Transit Ride」、これまたこの当時のUKアシッド・ジャズのポップなスタイルをロニー・ジョーダンのグルーヴィーなギターとD.C.リーのボーカル、そしてグールーのラップで楽しげに演奏してくれるライト・ファンク・チューン「No Time To Play」、そしてロニー・リストン・スミスのキーボードが幻想的なイメージを想起させるよりジャズ寄りのナンバー「Down The Backstreets」と、レコードのA面は既に盛り沢山な内容で完全にこの二つの音楽スタイルが渾然一体となった形で、スリリングなグルーヴのうねりを体感させてくれる内容。

レコードのB面は、90年代以降のレア・グルーヴの定番アーティストとして、そしてさまざまなサンプリング・ソースとしてつとにジャズ・ファン以外にも有名になったロイ・エアーズのヴィブラフォーンが、また全く違った感触のグルーヴを作りだしている「Respectful Dedications」から「Take A Look (At Yourself)」でスタート。ンデア・ダヴェンポートの涼しげなボーカルが再び登場、グールーがラップするベースの基本トラックがライヴ演奏ながらまるでサンプリング・ループのように聞こえる「Trust Me」に続いて、ジャズというよりは数々のUKロック・アーティスト達のセッション・ミュージシャンとして有名なゲイリー・バーナクルの縦横無尽なサックスとフルートのプレイがタイトなファンク・リズム・セクションと一体となった「Slicker Than Most」と、この面も次から次に素晴らしいミュージシャンシップのプレイヤー達のパフォーマンスがとてもスリリングなグルーヴを実現しています。

グールーに代わってフランス語のラップで独特なドウプネスを作り出しているMCソーラーのパフォーマンスが楽しい「Le Bien, Le Mal」に続いてアルバム最後はカーリーン・アンダーソンのボーカルとコートニー・パインのサックスやフルートが、グラウンドビート風のリズムと共にバックトラックを作り、グールーのラップがまたまた、このアルバムの企図する「ジャズマタズ」というコンセプトのクールネスを演出する「Sights In The City」で完結。

このアルバムは当時アメリカだけでなく、ヨーロッパでも大きな反響と評価を獲得、当時アシッド・ジャズ・ブームで特に盛り上がっていたUKでは「Trust Me」と「No Time To Play」がシングルとしてもスマッシュヒットするなど人気を呼びました。これを受けてこの後もグールーは同様のコンセプトでややジャズ色を控えめにした『Guru's Jazzmatazz, Vol. 2: The New Reality』(1995)、エリカ・バドゥアンジー・ストーンなどR&Bシンガーをより中心にした『Guru's Jazzmatazz, Vol. 3: Streetsoul』(2000)、そしてVol. 1での伝統的ジャズスタイルというよりもフュージョン・ジャズとヒップホップ/R&Bの合同作品といった趣の『Guru's Jazzmatazz, Vol. 4: The Hip Hop Jazz Messenger: Back To The Future』(2007)とジャズマタズ・シリーズのアルバムをリリースしています。

Jazzmatazz Vol1 (back)

ヒップホップを楽しめるブラック・ミュージック・ファンであれば、シリーズのどのアルバムを取ってもそれなりに楽しめるレベルの作品ですが、やはりシリーズ1作目で、おそらくグールーとしても一番MCとして脂の乗った時期に、革新的な実験をやるんだ!という意気込みで作ったこのアルバムが、やはり参加しているミュージシャン達のテンションの高さや、各プレイヤーやシンガー達のインタープレイが新鮮であり、スリリングな分、一番聴き応えがあると思います。

グールーはこのシリーズ完結後もインディ・レーベルから『Guru 8.0: Lost & Found』(2009)をリリースするなど、シーンで着実に活動を続けていましたが、2010年心臓発作により48歳の若さで他界してしまいます。

しかしグールーが残した多くの音楽的遺産の中でも一際文化科学的にも重要な意味を持つこの「ジャズマタズ」シリーズは発表後四半世紀を超えた今聴いても、その当時シーンの注目を集めた輝きを失っていません。

これから秋に向けてジャジーな音が耳に心地よくなる季節、このジャズとヒップホップが一体となったグルーヴを聴かせるアルバムを、今一度楽しんでみてはいかがでしょうか。

<チャートデータ>
ビルボード誌全米アルバムチャート 最高位94位(1993.6.5付)
同全米R&B/ヒップホップアルバムチャート 最高位15位(1993.6.5付)
全英アルバムチャート 最高位58位(1993.5.29付)

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#155「Con Todo El Mundo」Khruangbin (2018

 #155Con Todo El MundoKhruangbin (Night Time Stories, 2018)


心なしか先日の台風が過ぎてから、あの厳しかった暑さがちょっと和らいで、朝夕に吹く風に何となく秋の気配を感じるようになってきた今日この頃。8月ももう終わろうとしている中、音楽を楽しむにはまたまたいい季節になろうとしています。

さて今週の「新旧お宝アルバム!」は最近のアーティストの中で、先日自分もフジロック・フェスティバルでそのライヴを体験した、テキサスはヒューストン出身の、今一番不思議な、それでいて一度聴くとどんどん引き込まれていく、ある意味中毒性のあるサウンドを聴かせてくれる3人組、クルアンビンのアルバム『Con Todo El Mundo』(2018)をご紹介します。

Con Todo El Mundo 

クルアンビンのサウンドを一言で説明するのは難しいのですが、敢えてレッテルを貼ってしまうことを恐れずに言うと「ワールド・ミュージック、特にタイやアラブのファンクやポップ・ミュージックに影響を受けたサウンドを展開するインスト・オルタナティブ・ロック・バンド」ということになるでしょうか。

そもそもグループ名の「クルアンビン」というのはタイ語で「飛行機」という意味らしく、主要メンバーのマーク・スピア(ギター)とローラ・リー(ベース)が知り合ったのも、二人ともタイ・ファンク・ミュージックに興味を持っていて友人を通じて紹介されたのがきっかけといいますから、アメリカ人である彼らがタイやイラン、トルコといったアジアから中東の音楽に影響を受けたサウンドを奏でているのは彼らにとっては自然だったのです。

この二人に同じくヒューストン地元の教会のゴスペル・バンドでマークと一緒だったドナルド・レイ "DJ" ジョンソンJr.がドラマーとして加わって、2010年頃に今のクルアンビンがバンドとして誕生。そこから3人はマークの家族が持っていたヒューストン郊外の大きな納屋に集まり、演奏の練習や曲作り、演奏した楽曲の録音などを繰り返して、バンドとしてのパフォーマンス・レベルを磨いたとのこと。

Khruangbin.jpg

彼らがそのタイ・ファンクに影響を受けた、およそアメリカのバンドとは思えない音像とグルーヴを持った楽曲で2015年に初のフル・アルバム『The Universe Smiles Upon You』をリリースすると、その独特な音楽スタイルがシーンの注目と評価を得て、イギリスのザ・ガーディアン紙の選ぶ「今週の注目バンド」に選ばれるなど、次第に多くの耳目を集めて行きます。その間彼らはファーザー・ジョン・ミスティマッシヴ・アタックらのツアーのオープニング・アクトを務めたり、グラストンベリーボナルー、コーチェラSXSWといった英米の大きなロック・フェスにも出演して、フォロワーを増やしていったのです。

もう一つ特筆すべきは、彼らが単なるワールド・ミュージック・バンドではなく、その基礎にはR&Bやヒップホップ、サイケデリック・ロックやファンクといった、ベースとドラムビートを強く打ち出した欧米系の音楽スタイルも絶妙にブレンドされていること。彼らはイギリスのインターネット・ラジオで「AirKhruang」という番組のホストもしているなど、様々な形で彼らの独特の音楽性を表現する活動を行っています。

彼らが今年参加した南カリフォルニアで開催のコーチェラ・フェスティバルでは、そうしたもう一つの音楽性を証明するかのような、ヒップホップの有名曲とそれらにサンプリングされている曲のインスト・メドレーを演奏してオーディエンスに大いに受けた様子がYouTubeでアップされています。その時演奏したのは、

  • Dr.ドレの「Next Episode」(デヴィッド・マッカラムThe Edge」)
  • アイス・キューブIt Was A Good Day」(アイズレーFootsteps In The Dark」)
  • ウォーレンGRegulate」(マイケル・マクドナルドI Keep Forgettin'」)
  • Dr. ドレNuthin' But A 'G' Thang」(リオン・ヘイウッドI Want'a Do Something Freaky To You」)

といったところ。R&B/ヒップホップ・ファンであれば間違いなく狂喜乱舞する、そんなパフォーマンスと選曲ですよね。

そして昨年2018年に、前作のワールド・ミュージック的アプローチを更に発展させて、今度はタイ・ファンクに加えて中東のイラン・ポップや、スペインの音楽などの要素を加えて、さらに中毒性の高い、催眠性がありながら妙に覚醒感もあるインスト・ロックを詰め込んでリリースしたのが今日ご紹介する「Con Todo El Mundo」。スペイン語で「すべての世界と一緒に」という意味のタイトルのこのアルバム、その名の通り欧米のファンク、R&B、サイケデリック・ロックと、東南アジアのファンクやダンス歌謡、そして中東のポップスといった世界のあらゆる音楽要素をごった煮のようにしながら、すーっと聴かせてくれます。

冒頭の「Cómo Me Quieres」から最後の「Friday Morning」まで、一貫した楽曲スタイルは、マークのラウンジっぽい音色で眠気を誘うようなギターがローラDJのソリッドなビートに乗り、ところどころで欧米の音楽には登場しないようなギターのトリル・フレーズ(素早く異なった音をハンマリング・プリングオフでメロディのように演奏するフレージング)が楽曲のアジアっぽさを演出するというもの。ボーカルはほぼなく、時々ローラがフレーズをシャウトする「Lady And Man」が例外なくらいで、後は入ってもドリーミーなコーラスが時折入るくらい。

特にマークのギターのトリルは、メロディのエキゾチックさとも相まって、あたかもバンコックのダンスクラブか、テヘランのライヴハウスにいるかのような気分になります。そして同じく一貫しているのが、ビートの効いた楽曲ばかりなのに、チル・アウト・ミュージックとして極めて優れているということ。

フジロックのステージを観たときもそうでしたが、彼らの音楽が演奏されると、そこはもう異空間、不思議なグルーヴとチルアウトなヴァイブで満たされるのです。まだまだ知名度は高くないからゆっくり観れるな、と思って彼らが演奏するフィールド・オブ・ヘヴンのステージに行くとものすごい数のオーディエンスで盛り上がっていてびっくり。まだ商業的には成功していませんし、メディアへの露出もこれからでしょうが、既に彼らの中毒性の高いサウンドの虜になった人は意外に多いようです。中でもこのアルバムでもハイライトの一つ、このアルバムで多分一番マークが早弾きをしているイラン風味満点の「Maria También」などではオーディエンス大喜びでした。

この他にも、このアルバムで最も東南アジア的なメロディを聴かせてくれる「Shades Of Man」や、逆にこのアルバムで最も欧米的なライト・ファンクを心地よく聴かせてくれる「Evan Finds The Third Room」、無国籍なドキュメンタリー映画のサウンドトラック・スコアのような静かで心を静めてくれるその名も「A Hymn」などなど、彼らの引き出しの多さとそれらを一貫して支えるグルーヴの快感に、アルバムを聴き終わるまでには酔いしれてしまいます。

これから涼しい気候に向かう晩夏、クルアンビンのサウンドをバックトラックにしてアウトドアでバーベキュー・パーティなどやるととても気持ち良さそうですね。皆さん夏が終わって秋になってもいい音楽を!

Con Todo El Mundo (back)

<チャートデータ>
全英アルバムチャート 最高位82位(2018.8.2付)

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

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