Life Is A Rock - 洋楽こそ我が人生
洋楽全般について、英米ヒット・チャートに登場有無に関係なく、お気に入りの洋楽作品についての独り言やコメントをつれづれに掲載します。「新旧お宝アルバム!」「恒例グラミー賞大予想」など定期コラムが中心です。洋楽 ファンサイト、meantime(www.meantime-jp.com)のスピンオフ企画としてお楽しみ下さい。
【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#83「Whatever And Ever Amen」Ben Folds Five (1997)

#83『Whatever And Ever Amen』Ben Folds Five (550 Music / Epic, 1997)


先週は久しぶりに一回お休みを頂いてしまったこのブログ、その間にすっかり桜も終わり先週はずっと暖かい初夏のような陽気でしたが、週末は少し涼しくなってました。でもこれからはどんどん暖かくなる一方だと思うので、アウトドアにコンサートにイベントにとアクティヴィティがどんどん増える季節、音楽は欠かせないですよね。自分も先週ノラ・ジョーンズの素晴らしいライヴに行くことができ、今週はポール卿のドームライヴも含め二つライヴに出かける予定にしてます。皆さんも洋楽ライフ、いい季節に存分に楽しんで下さい。


さて今週は前回に引き続いて90年代の作品です。とかくこの時代は若いリスナーとベテランリスナーの時代の狭間のブラックホールのようなデケイドで、超有名なミュージシャンは別として、地味ながら素晴らしい作品がジャンルを問わず多いにもかかわらず取り上げられることが少ないなあ、と思っていたら先日ミュージック・マガジンさんが4月号で「90年代のUKアルバム・ベスト100」という企画でとりあえずUKにはスポットを当ててくれてちょっと嬉しかったものです。次回は是非USや非英米系の90年代の作品を是非取り上げて頂きたいな、と密かに思う今日この頃。そこで今週はそんなUSの90年代のインディー・ポップを代表する作品の一つだと思う、ベン・フォールズ・ファイヴのメジャーデビュー作『Whatever And Ever Amen』(1997)を取り上げます。



Whatever And Ever Amen


このブログをチェック頂けている方であれば「ベン・フォールズならとっくに知ってるよ」という方も多いだろうとは思いましたが、やはりこの季節になるとこのびっくりするほどのポップ・センス満載で、かつウィットや皮肉に富んだランディ・ニューマンあたりの系譜を継いだような歌詞を、ベン・フォールズのピアノをメインにした楽曲で聴かせてくれるこのギターレス・バンドのアルバムを聴きたくなります。


ノース・キャロライナ州はチャペルヒル出身のベンを中心とした、ロバート・スレッジ(ベース)とダーレン・ジェシー(ドラムス)からなるスリーピース・バンドのベン・フォールズ・ファイヴは、インディー・レーベルからのファースト・アルバム『Ben Folds Five』(1995)でデビュー。当時USの音楽シーンは90年代初頭に大きくブレイクしたグランジ・ブームが終焉に向かう一方、数々のオルタナ・ロック・バンドと言われるアーティスト達が多様な音楽性を糧に新しいロックを模索して数々の作品を世に問うていた時代。そんな中で、まずギターを使わずピアノ中心のバンドで充分にロックしながら、ティンパン・アレー・スタイルの楽曲やトッド・ラングレンを想起させるようなパワーポップな楽曲にウィット満点の歌詞を乗せた楽曲を聴かせる彼らのサウンドはとてもユニークなものでした

Ben Folds Five


そのファーストでシーンの注目を集めた彼らはメジャーレーベルと契約、満を持してリリースしたのがこの『Whatever And Ever Amen』。メジャーデビューなのに売る気あるのかしら、と思うような地味なジャケのこのアルバム、いやいやどうしてファーストのポップながらひりりとする歌詞の楽曲は更にパワーアップしていて、聴く者の耳を冒頭から鷲づかみにします。

冒頭は「One Angry Dwarf And 200 Solemn Faces」。「一人の怒れるこびとと200人のしかつめらしい顔」というタイトルも彼ららしいウィット満点のタイトルですが、弾むようなアップテンポでリズミックなベンのピアノで一気呵成にポップなメロディで聴かせるこの曲で一気に盛り上がれます。歌詞は、高校生の頃クラスメートにいじめられたこびとの主人公がその後成功して大金持ちになって、昔いじめたクラスメート達を罵る(「Kiss my ass, goodbye」という歌詞が思わずにやり、とさせてくれます)というこれまた彼ららしいアイディアの楽曲。

続く「Fair」はミディアムテンポながらここでもベンのピアノがとてもリズミック。途中のコーラスは1960年代のミュージカル映画にでも出てきそうなグッド・タイミーなポップセンス満載で聴いているとウキウキします。




Brick」はこのアルバムからの最初のシングルで当時結構大きなエアプレイヒットになり、BF5のメジャー・ブレイクの起爆剤となった曲。静かなピアノのイントロから徐々にドラマチックに盛り上げていって、クライマックスでのベンのファルセット・ボーカルが利いた、楽曲としてはティンパン・アレー・マナー満点の美しいメロディのポップ作品。しかし歌詞の内容は、彼女を妊娠させてしまった主人公が彼女に堕胎させて、その後それを隠しておくのが苦しくなったので彼女の両親に打ち明ける、というなかなかヘヴィなもの。彼自身の高校時代の経験が題材だというこの曲、内容とメロディの美しさとのギャップが、ベン・フォールズというアーティストの魅力の端的なところを象徴しています。


歌詞の面白さでいえばこのアルバムで一二を争うのが次の「Song For The Dumped(捨てられた男の唄)」。やけっぱちに聞こえるベンのカウントで始まり、終始ピアノとドラムのリズミックなリフが結構ドタバタしながら変にポップに聴かせるこの曲、このアルバムで唯一ギターがフィーチャーされている曲ですが、歌詞はこんな感じです。


「そうか、君はちょっと僕らの付き合いを一休みしたいと。

ちょっとペースを落として自分のスペースを持ちたいって?

ふざけんなこのやろう。


俺の金を返せ

俺の金を返せ、このbitch

今まで使った金を返せってんだ

そして俺の黒いTシャツを返すのも忘れんなよ


お前にディナーなんてご馳走するんじゃなかった

こうやってお前の家の前で俺をぼろ切れみたいに捨て去る直前にさ


俺の金を返せ

俺の金を返せ、このbitch

今まで使った金を返せってんだ

そして俺の黒いTシャツを返すのも忘れんなよ」

 

どうです、笑えるでしょう(笑)。多分史上最も正直で直裁的な別れの歌だと思います、これ。(なお、下に貼った動画は、アルバム未収録の日本語の歌詞を含むバージョンです。お楽しみ下さいw)



とまあ、曲ごとに解説していくときりがないのですが、この他にもジャズっぽいピアノが素敵な「Selfless, Cold And Composed」、トッド・ラングレン的ポップ・センス再登場の「Kate」、ちょっとヨーロッパ風のアコーディオンが気分の「Smoke」、エリック・カルメンのようなクラシック・センスのピアノが美しいのに、終日泣き叫ぶ病気の妻が寝てる間にタバコで家を火事にしないかと悩むという歌詞の「Cigarette」、何にも興味ないふりをしてクールさを装う彼女を痛烈に皮肉る「Battle Of Who Could Care Less」などなど、思い切り楽しいポップ・センスと思わずニヤリとしてしまう歌詞満載の楽曲のオンパレードで一気に聴いてしまいます。

なお、最後の美しいメロディの「Evaporated」が終わってしばらくすると「ほらここに君のための隠しトラックがあるよ~聞いて聞いて、ベン・フォールズ・ファイヴはとんでもない馬鹿野郎さ!Ben Folds Five is a f**king a**hole!)」という声が聞こえて、まあ最後まで笑わせてくれます。

Whatever And Ever Amen (back)


彼らはこの後よりジャズっぽい方向性の『The Unauthorized Biography Of Reinhold Messner』(1999)をリリースしましたが、アルバムサポートのためのツアー終了後にバンドは一旦解散。ベンは解散後も『Rockin' The Suburbs』(2001)、『Songs For Silverman』(2005)などクオリティの高いソロ作品をコンスタントにリリースして、シーンでの存在感をキープしていました。その後2012年にニューヨーク州北部で開催のマウンテン・ジャム・フェスティバルへのライヴ出演をきっかけにバンド再結成し『The Sound Of The Life Of The Mind』(2012)とライブアルバム『Live』(2013)を出しましたが、現在は活動休止状態で、ベンは再度ソロ活動に専念している模様です。


再三言っているようにとにかく楽しい、ポップ・センス満点の作品なので、やはり家にこもって聴いているよりは、外に出て太陽の光の下で聴くのが似合う作品。比較的CD屋さんなどでもよく見かけるので、お求めになりやすいこのアルバム、是非彼らのピアノ中心の素晴らしいポップな楽曲を聴きながら、時には歌詞カードを読んでベンのユニークなユーモアセンスを楽しんでみてはいかがでしょうか?


 <チャートデータ> ビルボード誌全米アルバムチャート最高位42位(1998.1.31付)


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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#82「Loose」Victoria Williams (1994)

#82『Loose』Victoria Williams (Mammoth / Atlantic, 1994)


先週一週間は、雨の予想とかもあったにも関わらず終始天候も崩れそうで崩れずに暖かい日が続いて、そのおかげで週の後半は一気に桜が満開になった、心が満たされる気持ちのいい週でしたね。週末からまたゆっくり天気が崩れてきていますが、一日でもこの素晴らしい桜が楽しめるよう願う毎日、そんな中で欠かせないのは気持ちのいい音楽。皆さんも花見のかたわらいろんな音楽でこの桜を楽しまれたことと思います。


さて今週は久しぶりに90年代の作品を取り上げます。商業的にはなかなか成功することがないのですが、常に個性的でチャーミングで、それでいてインスパイアリングな楽曲を一貫して届け続けてきている、他にあまり似たタイプを見ない女性シンガーソングライター、ヴィクトリア・ウィリアムスキャリアの一つのマイルストーンとなったアルバム『Loose』(1994)をご紹介します。


Loose.jpg 

ヴィクトリア・ウィリアムス、といっても日本の洋楽リスナーの方で彼女の名前をご存知なのは、音楽評論家の方以外ではかなり熱心なここ30年くらいのアメリカのフォーク・ロック/アメリカーナ系ロックのフォロワーの方くらいでしょう。残念ながらこれまでリリースされている彼女の7枚のソロアルバムは、本作を含めてどれもチャートインするほどの売上は記録していませんし、FMなどで頻繁にエアプレイされるタイプの音楽でもないので無理もありません。

でも、ヴィクトリアはアメリカのロック・シーンではミュージシャンの間からのリスペクトを受け続けるミュージシャンの一人で、今回紹介する『Loose』に収録されている作品群の幅広いスタイルに亘る音楽性、決して巧くはないが個性的でチャーミングなボーカルスタイル、そして自然やスピリチュアルなテーマや人への愛、といったことをテーマにする楽曲はそうしたリスペクトを集めるに充分なものであることが分かります。


実はこのアルバム発表の一年前、ヴィクトリア多発性硬化症という難病の宣告を受けていました。この病気は脳や脊髄、視神経などに激痛、視野異常、神経麻痺、筋力低下などの症状が繰り返し出ては収まるのを繰り返すというもので、ギタリストでありシンガーであるヴィクトリアにとっては極めて深刻な病気でした。加えてミュージシャンであったため治療費用を賄う保険等も持っていなかったヴィクトリアの治療をサポートするために立ち上がったのは他あろう彼女をリスペクトするミュージシャン仲間達だったのです。

ソウル・アサイラムデイヴ・パーナー、パール・ジャム、ルシンダ・ウィリアムス、ルー・リード、マシュー・スイートといった90年代のオルタナ・ロック・シーンを代表するそうそうたるミュージシャン達に、当時ヴィクトリアと結婚したばかりのマーク・オルソン率いるザ・ジェイホークスが加わり急遽リリースされたのが全曲ヴィクトリア作品のカバー・アルバム『Sweet Relief: A Benefit For Victoria Williams』(1993)。


Sweet Relief 

このアルバムは幸いチャートインもし、そこそこの評判を呼んだこともあってヴィクトリアに対する関心も当時高まったのでしょう、自身の症状とも折り合いを付けながら、頑張ってスタジオ入りしてヴィクトリアが翌年の1994年にリリースしたのがこの『Loose』でした。


彼女の揺らぐようなハイトーンのボーカルとアコースティックなバンド演奏で、百歳を超えるという古いサボテンの木にまだ遅くないから花を咲かせてよ、と呼びかける「Century Plant」で始まるこのアルバム、タワー・オブ・パワーのレイドバックなホーンセクションをバックにゴスペル的な内容を歌う「You R Loved」、ピアノとバイオリンだけをバックに友人の死を明るく悼む小品「Harry Went To Heaven」、そして『Sweet Relief』収録曲中唯一当時まだヴィクトリアが録音しておらず、パール・ジャムがカバーしたことでおそらく彼女の最も有名な曲となったオルタナ・ロック色の強い「Crazy Mary」などなど、このアルバムを構成する16曲(うち2曲はカバー、1曲はソウル・アサイラムデイヴとの共作でもう1曲はバンドメンバーの作品)はいずれもちょっと聴くだけでヴィクトリアというとてもユニークな才能とスタイルを持ったアーティストが目の前に現れて、優雅にパフォーマンスをしてくれているのが目に見えるようなのです



実は自分はおそらく前述のチャリティアルバムが出る直前くらいの1993年に、ニューヨークのヴィレッジにあったライヴハウス、ボトム・ライン(2004年に廃業)で彼女のライヴを見ています。確か3人くらいのバンドをバックに、椅子に座ってストラトやアコギを掻き鳴らしながら「病気のせいで時々ミスピッキングとかするけど許してね」と言いながら、ステージにパッと清楚な花が咲いたかのようなイメージを放ちつつ、とても心温まるステージをしてくれたことを覚えています。その時多分このアルバムに収録されている作品もいくつかやってくれたに相違ありません。改めて今この『Loose』を聴くと、その時の彼女のステージが蘇ってくるようなので。

上記の曲の他にも、ピアノをバックにしたヴィクトリアのガーリッシュなボーカルがキュートなルイ・アームストロングでお馴染みの「What A Wonderful World」や、LAを中心に70年代初頭人気のあったロックバンド、スピリットの「Nature's Way」(デイヴ・パーナーとのデュエット)などの曲をカバー曲に選ぶあたりも、ヴィクトリアの自然を慈しむキャラクターが表れてますし、叔父さんのジャックの愛犬パピーと自分の愛犬ベルの他界を悲しみながらも彼らを思い出しながら楽しく歌う「Happy To Have Know Pappy」や、友人への情熱的ではないけど確かで安心できる一体感を真摯なボーカルで歌う「My Ally」などなど、彼女の楽曲は聴いていて、そして歌詞を眺めていて思わずほっこりさせてくれるものが多いのです

まさに冬を脱ぎ捨てて春に向かうこの時期にぴったりの感覚を味わわせてくれる、そんな素敵なアーティストであり、アルバムなのです。



件のチャリティ・アルバム同様、この作品のバックをつとめるメンバーもそうそうたるもの。何度も名前の出ているソウル・アサイラムデイヴ・パーナーの他、ご主人のマーク・オルソンとそのバンドメイトである、ザ・ジェイホークスゲイリー・ルイス、タワー・オブ・パワーのホーンセクション、スライ・ストーンの妹のローズ、R.E.M.ピーター・バックマイク・ミルズ、そして何曲かのストリングス・アレンジメントは何とあのヴァン・ダイク・パークスが担当するなど、この時期のフォーク・ロック/アメリカーナ系の作品としてはとても豪華な布陣での制作になっており、高いミュージシャンシップのパフォーマンスが楽しめる作品にもなっています


Loose (back)

その後2006年のマークとの離婚も乗り越えて着実にアルバムを発表し続けていたヴィクトリアですが、2015年末に持病の発作が原因で肩と腰を負傷してしまって現在は治療専念中とのこと。ただまたしても保険が適用されないため、『Sweet Relief』の時に設立されたスイート・リリーフ・ミュージシャン基金が中心になって治療費の寄付を募っているとのこと。

彼女の一刻も早い完全復帰を祈りつつ、ヴィクトリア・ウィリアムスという、希有のスタイルと才能を持ったシンガーソングライターの、人と自然とスピリチュアルへの愛に溢れた作品を、暖かさを増す春に存分に楽しんで見ませんか?


 <チャートデータ> チャートインなし

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#81「Blacks And Blues」Bobbi Humphrey (1974)

#81『Blacks And Blues』Bobbi Humphrey (Blue Note, 1974)


先週一旦暖かくなったか、と思ったら週後半から土曜日にかけてぐっとまた寒くなって雨まで降ったため、桜のつぼみも開きかけの3~4分咲きのまま週末を終わってしまいましたが、昨日の日曜日はまたぐっと春の陽気が戻ってきていました。今週はいよいよ一気に桜開花、お花見日和が期待でき、今度の週末はあちこちの桜の名所が人でいっぱいになることでしょう。


先日もここで言いましたが、春はジャズっぽい音楽が耳に心に優しく感じられる時期。そこで今週は桜の花の下でパーティーでもしながら聴くにはもってこいの、ジャズ・フルート奏者のアルバムをご紹介しましょう。名門ブルー・ノート・レーベルでも数少ない女性ジャズ・ミュージシャンの一人である、ボビー・ハンフリーの春を感じさせるフルート・ワークやライト・ジャズ・ファンクでR&Bに寄り添った楽曲がとても心地よいアルバム『Blacks And Blues』(1974)をご紹介します。


Blacks And Blues 

本来ジャズはまだまだ門外漢に近い自分なので、ジャズ系のアルバムをご紹介する、というのはややおこがましいのですが、このアルバムが出た1970年代前半というのは、60年代中頃までの正統派でストイックなジャズの本流を中心とした発展の歴史から、一気にジャズとファンクとソウルとが一体の流れに合流しラムゼイ・ルイスドナルド・バード、ハービー・ハンコックらによる様々な「ソウル・ジャズ」や「ジャズ・ファンク」といわれる分野の素晴らしい作品が相次いで生まれた変革の時期だったと理解しています。そんな時期に生まれたのがこのアルバム。ジャズ・フルートというと古くはエリック・ドルフィ、近年フュージョンの世界ではハービー・マン、ヒューバート・ローズ、そして先月惜しくも他界したデイヴ・ヴァレンティンといったところが有名ですが、その中でも女性パフォーマーとしてボビー・ハンフリーは独自のポジションを確保しています


テキサス州ダラス出身で、高校の頃からクラシックとジャズのフルート演奏を勉強していたボビーは、地元のタレントコンテストを観ていたあのジャズ・トランペットの大御所、ディジー・ガレスピーに見いだされてNYでミュージシャンとしてのキャリアを積むことを薦められたのがプロのジャズミュージシャンのキャリアの振り出しでした。

その後1971年にジャズの名門レーベル、ブルー・ノートからデビュー。同レーベルの重役でもあった有名プロデューサー、ジョージ・バトラーの下、当時のR&Bソウル楽曲のカバーと、ジャズの先達達の作品のボビーなりの解釈によるプレイを納めたアルバム2枚『Flute In』(1971)と『Dig This!』(1972)でシーンでの存在感を高めていたのですが、1974年にリリースしたこの『Blacks And Blues』はいろんな意味で彼女に取って飛躍の、そして商業的ブレイクの作品となったのです


まず前2作と違うのは、本作のプロデュースと全楽曲の作曲を担当したのが、当時音楽シーンを沸かしていたジャズ・トランペットのドナルド・バードがR&B・ファンクに大きく軸足を寄せたソウル・ジャズの代表作『Black Byrd』(1972)、『Street Lady』(1972)のプロデュースでシーンにその名を馳せていたラリー・ミゼル。彼はジャズ・トランペッターだったドナルド・バードをソウル・ジャズ・ファンクの代表的ミュージシャンとしてブレイクさせ、またドナルド直系のソウル・グループとして1970年代後半「Walking In Rhythm」(1975年全米最高位6位)「Happy Music」(1976年19位)などの全米ヒットを飛ばすブラックバーズの仕掛人として70年代R&Bやソウルジャズシーンにおける重要人物でした。



その彼が作り出したクールな中にも暖かなファンク・グルーヴを内包したソウル・ジャズ・ファンクの楽曲群と、ボビーの縦横無尽にソロを操るジャズ・フルートのパフォーマンス、そしてラリーが自分のプロデュース作品に必ず起用する名うてのミュージシャンたち(ギターのデヴィッド・T・ウォーカー、ベースのチャック・レイニー、ドラムスのハーヴィー・メイソン、そしてピアノ・キーボードのジェリー・ピータース、シンセのフレディ・ペーレンといった彼のレコードにはお馴染みの面々です)のタイトでファンキーな演奏が、すべて有機的につながってこのアルバム全体の大きな暖かなグルーヴを生み出しています。オープニングの「Chicago, Damn」そしてニューヨークの街角の様子を彷彿させるような自動車や街角のSEで始まる「Harlem River Drive」はこうしたラリーの「グルーヴの方程式」とボビーのフルート・ソロが見事にマッチしていて、アメリカの大都市の町中をオープンカーとかで春にドライヴしている、といった雰囲気が満点ですね。


このアルバムのR&B寄りのスタイルは、次のボビーがボーカルを取る「Just A Love Child」で更に鮮明になります。ジャケで観るアフロヘアーで闊達そうな風貌のボビーのイメージとは異なり、聴きようによっては子供の声のように聞こえるハイトーンのボーカルと、男性バックコーラスとの組み合わせがR&B楽曲としての魅力溢れる作品を生み出しています。

アルバムタイトル曲の「Blacks And Blues」はジェリーのピアノのソロを大きくフィーチャーして、それにフレディの奏でるシンセの音色、男性バックコーラスそしてボビーのフルート・ソロが絡んで行くというこのアルバムの楽曲パターンの最大公約数のようなナンバー。春のそよ風を思わせるようなボビーのフルートと男性コーラスの組み合わせが軽やかなグルーヴを演出します。続く「Jasper Country Man」は同じような楽器構成ながら、このアルバム中最もファンクネスが色濃く感じられるアーシーなナンバー。



そしてアルバム最後の「Baby's Gone」はまたR&Bソウル的なスタイルに大きく寄り添って、男性コーラスをバックにしたボビーのガーリッシュなボーカルによる「My baby's gone~」という歌を所々に散りばめながら、ボビーのフルートが主旋律を奏でる、という楽曲。ただR&Bソウル的とは言いながらも、一般的な歌ものの楽曲ではなく、あくまでもボビーのフルートを軸として淡々と楽曲が展開していく、というバンドがジャムりながら、アルバム全体をフェードアウトに持っていく、といった風情がまた春の花爛漫の光景を想像させてくれます。

Blacks And Blues (back)


このアルバムで商業的にブレイクしたボビーは続く『Satin Doll』(1974)、『Fancy Dancer』(1975)でもラリー・ミゼルとのタッグでジャズ・ソウル・ファンクの名盤を世に出していくことになります。また、ソウルR&Bシーンとの接近がきっかけで、あのスティーヴィー・ワンダーの名作『Songs In The Key Of Life』(1976)からのシングル「Another Star」にジョージ・ベンソンと共にジャズ界代表として競演するなど、ジャズの枠にとらわれない幅広い活動を続け、1994年には自分のレーベル、パラダイス・サウンズ・レコードを立ち上げて、自分のアルバム『Passion Flute 』をリリースするなど、現在も活動を続けているようです。


Bobbi Humphrey


いかにも桜の花びらが舞う様を彷彿とさせるようなボビーのフルートの音色と、ラリーの作り出すライト・ファンクなグルーヴ満点の楽曲で、今週あちこちで観られるであろう満開の桜を楽しんではいかがでしょうか。


 <チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位84位(1974.5.25付)

同全米ソウル・アルバムチャート最高位20位(1974.5.18付)

同全米ジャズLPチャート最高位2位(1974.5.11付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#80「A Sailor's Guide To Earth」Sturgill Simpson (2016)

#80A Sailor's Guide To EarthSturgill Simpson (Atlantic, 2016)


いよいよこれから春、桜本番かと思われたのにこの日曜日は冷たい雨で一気に冬に戻ったような気候。これが桜本格開花前の最後の雨でありますように。皆さんも不安定な気候で体調など崩さぬよう、洋楽ライフをお楽しみ下さい。


さて今週の「新旧お宝アルバム!」は昨年アメリカの各音楽誌でも高い評価を受けていて、先日の第59回グラミー賞でもメインの最優秀アルバム部門にノミネートされ、台風の目の一つとなり、今年のフジロック・フェスティヴァルへの来日が決まっていながら、まだまだ日本では知名度ゼロに近い、アメリカーナ・ロックのシンガーソング・ライター、スタージル・シンプソンのアルバム『A Sailor's Guide To Earth』(2016)をご紹介します。


ASailorsGuideToEarth.jpg


とかく日本においてこのルーツロックというか、アメリカーナ・ロックというジャンルは、昔の有名ロック・アーティスト(たとえばザ・バンドのメンバーとか、ディランとか、クラプトンとか、イーグルスのメンバーとか)がやる分にはラジオにも乗っかるし、レコード会社もマーケティングしやすいと見えてガンガン露出するしということで日が当たるケースが多いのですが、ことこれが新しいアーティストやそれまであまり有名でなかったアーティストの作品となると途端に日本では話題になりにくい、という構造的な問題があります。

ただ実際に音を聴いて、ライヴなどを聴くとえてして従来無名のアーティストたちによる作品がハッとするほど瑞々しかったり、無茶苦茶カッコよかったり、うーんと唸るほどミュージシャンシップが高かったりすることも多く、この点で日本の洋楽ファンは結構いいアーティストの作品に触れることなく終わってしまっていたのではないかと思っています。

ただこういう状況も徐々に改善されてきていて、例えばウィルコとかこのブログでも以前に取り上げたライアン・アダムスとかいったこうしたジャンルのアーティスト達が音楽メディアでも取り上げられることが増えて来ていて、なかなかいい傾向だな、と思っているところです。


Sturgill Simpson


で、スタージル・シンプソン。彼の音楽スタイルは、カントリーとブルースをバックボーンに置いたロック的アプローチのシンガーソング・ライターと言えばいいでしょうか。その男臭くて渋さ満点のボーカル・スタイルは70年代のアウトロー・カントリーシンガーである、ウェイロン・ジェニングスマール・ハガードといった大御所達を彷彿させますが、このアルバムのホーンセクションを全面的にバックアップしているダップ・キングス(昨年末惜しくも他界した黒人女性R&Bシンガー、シャロン・ジョーンズのバック・バンドでR&B・ブルースファンには有名)のアーシーでファンキーな演奏を軽々と乗りこなして歌う様はブルース・ロック・シンガーそのものです。

また、アコギの弾き語りや、ストーリー性満点の歌詞を持った楽曲を聴くと正統派のシンガーソングライターとしてもかなりのものですし、一方ニルヴァーナの有名曲「In Bloom」をオリジナルとは全く表情の異なるアレンジで、極端に音数を絞ったアコースティックで美しく、抑えたトーンでカバーするのを聴くと、シンガーとしての表現力も非常に高いものを感じます。

また、アルバム全体が自分の生まれたばかりの子供に向けて人生の歩き方を教える、といったコンセプトで楽曲構成されていることや、そこここで控えめにしかし効果的に挿入されるシンセや効果音っぽいサウンドの使い方のセンスなどはちょっとしたプログレ的なセンスも感じる、このアルバムはそんな多彩な表情を持っています。




冒頭の「Welcome To Earth (Pollywog)」は正に70年代のプログレッシヴ・ロック作品の冒頭を思わせるドラマチックな効果音とピアノの音色で始まりますが、入ってくるボーカルがベテラン・カントリー・シンガー、といった感じのスタージルの声なのでこのアンマッチさが独特の魅力をいきなり醸し出しています。ストリングスのイントロからアコギとカモメの鳴き声のような効果音をバックにしっとりと歌われる「Breakers Roar」も、彼のボーカルがなければ例えばムーディ・ブルースの70年代の作品、と言われても違和感がない、そんなサウンド。




しかしそんなプログレっぽさは、ダップ・キングスのソウルフルなホーンでいきなりファンク・グルーヴ満点の「Keep It Between The Lines」、そしてカントリー・ロックっぽいシャッフル・リズムに乗って「♪東京、川崎、恵比寿、横須賀、横浜、新宿、渋谷、六本木、原宿~♪」(スタージルは20代の頃日本在住経験あるらしいです)と軽ーい感じで歌う「Sea Stories」でガラッとルーツ・ロック的方向に大きく舵を切ります。

そして上述した美しいニルヴァーナのカバー「In Bloom」を経て、今度は正統派アメリカン・ブルースロック、といった雰囲気の「Brace For Impact (Live A Little)」である意味アルバムのクライマックスを迎えます。


ハモンド・オルガンとダップ・キングスのホーンがまた聴く者を一気にアメリカーナな世界に連れ戻してくれ、スタージルの歌も味わい深い「All Around You」、エレピとウッドベースとストリングスとスタージルのボーカルだけの静かな「Oh Sarah」、そしてまたカモメの鳴き声をバックに海のコンセプトに戻って、取り憑かれたようなスワンプ・ファンクロックスタイルのアルバムの最大の問題作「Call To Arms」でドラマチックに終わりますが、息子に送る最後のそして重要なアドバイスという設定の歌詞は、スタージルの強力なメッセージで満ちています



「俺は兵役でシリアにもアフガニスタンにもイラクにもイランにも、そして北朝鮮にも行った

いったいどこまで行けば終わるのか教えて欲しい

毎日うずたかく積み上がる死体の山

いったいあと何人兵士を送れば気が済むのか


連中は石油のため、ヘロインのコントロールの為に息子や娘達を送り続ける

息子よ、どうか男になるためには奴らの操り人形にならなきゃなんて思うな

連中はお前の髪を切り、腕にバッジを付け、お前のアイデンティティを奪う

つべこべ言わずに列に並んで海外に行って仕事をするんだと言って


(中略)


誰も頭の上を飛ぶドローンが何してるか気にもせず

自分のスマホばっかり見て忙しい

まるで犬が食い物を求めるように俺たちのエゴも目から血が出るまで新しい情報とやらを求め続ける

連中は本質から目を背けさせるような情報を準備して俺たちはそれをフレンチフライと一緒に食ってしまう

俺たちの頭の上から爆弾が落ちてくるまで


TVは消せ ニュースも見るな 何も見るものなんてない

ただ憂鬱な話が流れてくるだけ

TVやラジオは嘘っぱちばかり

ハリウッドの映画は自分自身になれる方法を教えてくれるらしいが

そんな大嘘はどっかへ消えてしまえばいい」 


自身米国海軍にも所属していた経験のあるスタージルが放つ「平和を守るために戦うという国のプロパガンダを信じて戦争なんか行くな、そうしたメッセージを垂れ流すメディアも信じるな」というメッセージは極めてパワフルなものがあります。

おそらくその芳醇な音楽性だけでなく、こうした強いメッセージもこのアルバムをグラミー賞最優秀アルバム部門にノミネートさせた大きな要因でしょう。惜しくも最優秀アルバムアデルに譲りましたが、最優秀カントリーアルバム部門は見事受賞。最優秀アメリカーナ・アルバム部門にノミネートされた前作『Metamodern Sounds In Country Music』(2014)では逃したグラミー初受賞を果たしています(余談ですがこの前作のタイトルはレイ・チャールズのあの名盤『Modern Sounds In Country And Western Music』(1962)へのオマージュですね)。


A Sailors Guide To Earth (back)_2


グラミー受賞をきっかけにスタージルの名前が日本の洋楽メディアにもちょくちょく出てくるようになりました。夏のフジロックへの出演も楽しみ。実は自分のアメリカ人の上司はナッシュヴィル在住でスタージルがブレイク前から何度もライヴを観てきたらしいのですが「彼は絶対ライヴ観るべき!」と言ってますので、今年はスタージルのライヴを是非観たいと思ってます。

既に当年38歳という人生経験も重ねてきながら、豊かな音楽性とメッセージを持ったこの新しいミュージシャン、スタージル・シンプソンの作品を皆さんも是非一度お聴きになってみて下さい。


<チャートデータ>
ビルボード誌
全米アルバムチャート 最高位3位(2016.5.7付)

同全米カントリー・アルバムチャート 最高位1位(2016.5.7付)

同全米アメリカーナ・フォークアルバムチャート 最高位1位(2016.5.7付)

同全米ロック・アルバムチャート 最高位1位(2016.5.7付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#79「Soul's Core」Shawn Mullins (1998)

 #79『Soul's Core』Shawn Mullins (Columbia, 1998)


この3連休は素晴らしいお天気続きでいよいよ春本番、南の方ではそろそろ桜も咲き始めたとの知らせも入ってくるこの頃、来週のこのコラムをお届けする頃には都内でももうお花見できる状態になってるのでは、と思うと心躍りますね。いい音楽をバックに気のおけない友人と花見、というのもこの季節ならではの楽しみです。


春はジャズやアコースティックな感じの音楽がとても似合う時期。今週の「新旧お宝アルバム!」では久しぶりに90年代の作品で、味と渋みたっぷりのボーカルと物語性たっぷりの歌詞を持つフォーク・ロック的アメリカーナな楽曲で一部のファンに強く支持され、その後も知る人ぞ知る的な活動を続けているシンガーソングライター、ショーン・マリンズの商業的ブレイク作『Soul's Core』(1998)をご紹介します。

Souls Core 


1990年代のアメリカの音楽シーンは、80年代のMTVを中心とした映像中心のヒットを飛ばすポップスターや、シンセサイザーの打ち込みサウンドで大半のトラックを作り込むダンスヒットの氾濫へのアンチテーゼとして90年前後にはシアトルを中心としたインディー・レーベルのロック・バンド達によるグランジ・ムーヴメントの盛り上がりとか、より社会的な視点からのリリックを中心にストイックな音作りによるヒップホップのルネッサンス的隆盛、そして60年代~70年代のカントリー、R&B、ブルーズ、ハードロックといった音楽をルネッサンス的に換骨奪胎してフレッシュなスタイルで聴かせるアメリカーナ・ロックやオルタナ・カントリーといった音楽スタイルが盛り上がった、音楽シーン的には極めて豊かな時代になっていました

残念ながら70年代からの日本の洋楽ファンの皆さんは、80年代後半の音楽のマスプロ化や打ち込み主体のスタイルに辟易して新しい音楽には背を向けて昔からおなじみの70年代以前の音楽に戻ってしまった方が多かったようです。もう少し辛抱してシーンに耳を澄ませていれば、90年代の素晴らしい音楽に巡り会えていたはずだったんですが


で、このショーン・マリンズも、90年代にアメリカーナの隆盛に時期を合わせて対等してきた、そんなアーティストの一人。アトランタ出身の彼は学生時代からバンドを組んで主にアコースティックな音楽を中心に活動してきていて、高校時代の友人にはあのインディゴ・ガールズエイミー・レイもいたとのこと。大学卒業後一時期陸軍の士官養成プログラムに身を投じ、陸軍でのキャリアも考えたようですが、やはり音楽を捨てきれずこの道に戻り、地元のアトランタ近辺で地道なバンド活動をしながら実績を積んでいたようです。


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その彼をブレイクしたのは、今日紹介する『Soul's Core』にも収録されているシングル「Lullaby」の大ヒット(全米1999年最高位7位)。トム・ウェイツを思わせるようなしゃがれた低いボソボソ声で歌う、というよりはつぶやくようなファースト・ヴァースからサビに行くところで一気にハイトーンの美しいボーカルでブリッジを歌うあたりは、ラジオで流れていたら一発でハートを仕留められること請け合い、そういう歌です。そしてこの曲は楽曲メロディだけでなく、その歌詞もまるで映画を見ているかのような独特の情景を浮かび上がらせてくれるという意味でもとても魅力的です。


彼女はハリウッド・ヒルやサンセット・ブールヴァードに住むスターの子供達と一緒に育った

彼女の両親は盛大なパーティーをよく開いてそこにはいろんな人が集まった

彼女の家族はデニス・ホッパー、ボブ・シーガー、ソニー&シェールなんて連中とよく付き合っていたっけ


今彼女はフェアファックス・アヴェニューのこのバーで安全に過ごしてる

ステージの俺から見ると彼女は未だにあの頃の思いを捨てきれず、リラックスできてないのがよく分かる

だから彼女がうなだれて泣き出す前に

俺は彼女に子守歌を歌うのさ


何もかもうまくいくさ ゆっくりお休み

何もかもうまくいくって だからゆっくりお休み



LAの社交シーンの退廃感とそこで自分を見いだせない女性のことを、トム・ウェイツ的なつぶやきと美しいハイトーンのボーカルの組み合わせと、アコースティックで優しいメロディで包むようなこの歌は、おそらく聴く者の心の琴線に触れるものがあったに違いなく、ショーンに取ってはブレイクヒット、しかし彼唯一のヒット曲となりました。


個人的なイメージでショーンの音楽スタイルを一言で表現するなら、「グランジを通過してきたクリス・クリストファーソン」。作る楽曲スタイルはいわゆるアメリカーナに分類されるシンプルなアコースティック寄りのアメリカン・メインストリーム・ロック曲ですが、バンドのリズムセクションの使い方やエレクトリックギターの使い方に明らかにグランジあたりの影響を聴いて取れます。そしてボーカルスタイルは明らかにクリスマール・ハガードといった70年代の無頼派のややロック寄りのカントリー・レジェンド達の強い影響を受けていますが、時々聴かせる伸びやかなテナーからハイテナーのボーカルは、ただのカントリー・ロック・ボーカリストでは片付けられない個性と才能を感じるのです。

同時期にアメリカで大ブレイクしたフーティー&ザ・ブロウフィッシュのリード・ボーカル、ダリウス・ラッカーあたりと作る楽曲スタイルはとてもよく似ているのですが、フーティーズがあくまでも「90年代のイーグルス」的なポジショニングだったのに対し、ショーンのアプローチは明らかに「ロックっぽいナッシュヴィルのシンガーソングライター」的なものでした。


Souls Core back


そしてこのアルバム収録の他の曲は、「Lullaby」に続いてシングルカットされ、よく似た楽曲スタイルでアダルト・トップ40チャートで小ヒットとなった「Shimmer」を初め、衰退していくアメリカの地方都市の状況を16歳の少年の目から描き、いつかはここを出て行くんだ、とアコギ一本でトルバドゥール風に歌う「Ballad Of Billy Jo McKay」や同じくアコギ一本で亡き友を歌ったと思われる「Patrick's Song」、もう15年も電車に乗り続けて旅する37歳の男がもう長いこと海の塩の匂いを嗅いでないから、といってオレゴン州の海岸に来て、同じようにヴァンの乗って町から町にコーヒー・ハウス・ギグのギャラとチップでその日その日を過ごしているミュージシャンと会う、というストーリーを淡々と歌う「Twin Rocks, Oregon」などなど、歌詞カードを見ながら彼の楽曲を聴くと、本当に目の前に映画のような映像がヴィヴィッドに浮かび上がって来ます

このアルバムのもう一つのハイライトは、クリス・クリストファーソンの「Sunday Mornin' Comin' Down」のカバー。エルヴィスを初め多くのアーティストにカバーされたクリスのこの有名なスワンプ・バラードをクリス直系だけあってショーンは見事に自分のものとして歌いきっています



このシングルとアルバムのブレイクで一躍注目を浴びたかに見えたショーンでしたが、続く『Beneath The Velvet Sun』(2000)も同様にビジュアルなイメージを想起する楽曲満載の意欲作だったにもかかわらずチャートインすらせず、この後しばらくソロ活動をお休み。その間、2002年には同じく90年代を代表するシンガーソングライター、マシュー・スイートとオルタナ・フォーク・ロック・シンガーのピーター・ドロウジの3人によるスーパー・バンド、ソーンズ(Thorns)を結成。素晴らしいアコースティック・ロック・アルバム『The Thorns』(2003)をリリースして、一部に高い評価を得ましたが、広く知られるまでには至っていません。その後2006年以降は『9th Ward Pickin Parlor』(2006)、『Honeydew』(2008)、『Light You Up』(2010)、そして最新の『My Stupid Heart』(2015)と質の高い作品を地道にリリースしているようです。

My Stupid Heart


桜の季節になった今、歌詞の想起するイメージに身を任せながら、ショーンの心にしみるようなアコースティック・サウンドと味のあるボーカルによる楽曲をじっくり楽しんでみてはいかがでしょうか。


 <チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位54位(1998.11.28付)

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

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