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Life Is A Rock - 洋楽こそ我が人生
洋楽全般について、英米ヒット・チャートに登場有無に関係なく、お気に入りの洋楽作品についての独り言やコメントをつれづれに掲載します。「新旧お宝アルバム!」「恒例グラミー賞大予想」など定期コラムが中心です。洋楽 ファンサイト、meantime(www.meantime-jp.com)のスピンオフ企画としてお楽しみ下さい。
【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#137「Heard It In A Past Life」Maggie Rogers (2019)

#137Heard It In A Past LifeMaggie Rogers (Debay Sounds / Capitol, 2019)


皆さんお久しぶりです(笑)。前回のこのシリーズのポストからは約二ヶ月の間が空いてしまいましたが、その間は2018年年間チャート予想My Best Album of 2018そして先週授賞式があった第61回グラミー賞の41の主要部門の受賞予想と授賞式当日は実況中継の生ブログを敢行するということでここ2ヶ月間というもの、年末年始特別企画で手一杯の状態だったため、しばらくこの「新旧お宝アルバム!」はお休みを頂いておりました。

晴れてグラミーも終わったので、今週よりこの「新旧お宝アルバム!」のコラム再開、そして2019年最初のお宝アルバムのご紹介をお届け致します。


さて今年最初の「新旧お宝アルバム!」では、昨年末にエレクトロなサウンドながらオーガニックな雰囲気満点でスケールの大きいシングル「Light On」が全米トリプルAチャートでNo. 1となり、一躍メインストリームへのブレイクを果たした新進女性シンガーソングライター、マギー・ロジャーズの初のメジャー・リリース・フルアルバム『Heard It In A Past Life』をご紹介します。


Heard It In A Past Life 


ワシントンDCとチェサピーク湾を挟んだ対岸にある小さなメリーランド州の町、イーストンで生まれ育ったマギーは現在若干24歳。しかし、90年代後半の幼少の頃から母親がエリカ・バドゥローリン・ヒルといったネオソウル・シンガーのファンで、よく彼女らのレコードが家でかけられていたこともあり、早くからハープやピアノ、ギターさらにはバンジョーなど様々な楽器を手にするようになって音楽への傾倒を深めていったようです。

彼女がソングライティングへ一気にのめり込んでいったのは、高2の夏に有名なボストンのバークリー音楽院のプログラムに参加して、そこで作曲コンテストに優勝したのがきっかけ。その後ニューヨーク大学(NYU)クライヴ・デイヴィス・レコード音楽院に入学出願する際に、当時制作したインディ・アルバム『The Echo』(2012)の曲のデモを一緒に出したり、NYU在学中に2枚目のインディ・アルバム『Blood Ballet』(2014)を作るなど、作曲活動を続けていたようです。

Now That The Lightjpg

彼女のブレイクのきっかけとなったのは、2016年に非営利学校法人、ナショナル・アウトドア・リーダーシップ・スクールのマスター・コースに参加していた時、講師のファレル・ウィリアムスの前で15分で書き上げた曲「Alaska」がその高い楽曲クオリティでファレルの高い評価を得た様子がYouTubeで流れ、数百万ビューを獲得したこと。その後間もなくこの「Alaska」他5曲を収録した初EP『Now That The Light Is Fading』(2017)が初のメジャー・レーベル・リリースとなり、レコーディング・アーティストとして大きくステップアップ、そして昨年末の「Light On」にヒットを受けてリリースされたのが、今回ご紹介する初メジャー・リリース・フルアルバムとなる『Heard It In A Past Life』なのです。


彼女の楽曲とサウンドの特徴は、いずれもポップ、フォーク、ホワイト・ソウル、そしてエレクトロといった多様な音楽性をベースにしたスケールの大きな楽曲構成ながら、ベタになりすぎないキャッチーなポップさを称えたメロディー・ラインを持った、一度聴いたら耳に残るタイプの楽曲が多いことです。そして印象的なのは彼女のボーカル。昔のジュディ・コリンズを彷彿とされるメゾソプラノですが、はっきりとした力強さと、時折交えるファルセット・フェイクの使い方がとても印象に残る、神秘さと清涼感を併せ持った、そんな歌声が彼女の書く楽曲ととてもよくマッチして、マギー独特の音世界を構築しているのです。


Maggie Rogers

A面冒頭の「Give A Little」から最後の「Back In My Body」まで全12曲、前のEPに収録されていた「Alaska」と「On + Off」、そしてトリプルAチャートNo.1の「Light On」を含む楽曲群のサウンドは、そのほとんどがいわゆるシンセやサンプラーなどによる打込みによるエレクトロなサウンド構成によるものがほとんどで、通常楽器を使った曲は、エレピで弾き語りをしているA面ラストの「Past Life」くらい。でも、彼女の曲には人工的で無機的な感じは微塵もなく、どの曲も大自然の広がりや宇宙の広大さといったイメージを想起するオーガニックなイメージを強く聴く者に与え、その楽曲スケールの大きさと適度なリズミックなアクセントと卓越したメロディで、聴く者の心をすぐにつかんでしまう、そんなパワーを感じます。

彼女の出世作となった「Alaska」は、ちょっとエキゾチックで不思議感のあるエレクトロのリフが印象的で、彼女のボーカルも得意のファルセット・フェイクを多用しながら、ジワジワと彼女の世界を構築していくという、なかなか一度聴くとクセになる曲。

そしてヒットした「Light On」は、ミディアム・アップのエレクトロでリズミックな導入部が今風のポップ・ソング、という感じですが、サビに行くと一気に大気圏を飛び出して宇宙に行ってしまう、といった感じのスケール感が快感の曲です。自分はこの曲を聴いた時、同じように浮遊感とスペース感を持った楽曲とボーカルが印象的だった、1996年のドナ・ルイスのヒット「I Love You Always Forever」を思い出しました。しかしスケール感では「Light On」の方が遙かに上ですが。




同じくミディアム・アップのリズミックさが特徴的な「On + Off」はよりEDMっぽさが強い曲ですが、サビのメロディや歌詞のキャッチーさですぐにシンガロングできるタイプの曲で、この曲などはライヴでやるとかなり盛り上がるのでは、と思わせます。

この「On + Off」やよりエレクトロなリズムを強調しながら、やはりサビのメロディと歌詞が印象的な曲「Overnight」などは、同時代のエレクトロ・サウンドを駆使して最近ブレイクした新世代ポップ・アーティスト、ハイムあたりの楽曲にかなり通じるスタイルの優れたポップ・ミュージックを完成度高く提示していて、このアルバム、そしてマギー・ロジャーズというアーティストのミュージシャンシップの高さを印象づけていますね。

アルバムの音が全面エレクトロの打込みだからといって、マギーの音楽性がEDM系というわけでは決してなく、むしろオーガニックな音楽性の方こそが彼女の作風の本質であることも忘れてはいけません。それが証拠に彼女がネット上にアップしているライヴ映像などは、その殆どすべてがアコギやギター、通常のエレピやキーボードなど、通常楽器を使ったものが殆どであり、そういう意味でいうと、彼女のサウンド作りとライヴパフォーマンスへのアプローチは、あのエド・シーランあたりと極めて近いスタイルのように見えます。そういう意味でも、マギーは今の時代を象徴するスタイルのシンガーソングライターだといっていいと思います


今回のアルバムは前作自作または共作で、基本セルフ・プロデュースですが、A面の「Give A Little」「Overnight」「The Knife」「Light On」、そしてB面の「Retrograde」の5曲では、あのデルピンク、シアケリー・クラークソンなど、今時の女性ポップ・シンガー達のプロデュースでは定評があり、昨年・一昨年と2年連続グラミー賞の最優秀プロデューサーに輝いたグレッグ・カースティンがプロデュースの腕を振るっており、これがアルバム全体のポップ・クオリティを上手に上げている要因の一つ。

そしてもう一つ、彼女の「Alaska」を聴いて「ブッ飛んだよ」とコメントしたファレルの様子を納めたYouTubeのビデオでファレルがサウンドに加えて「君の楽曲の中には君がここまでどう旅をしてきてここに辿り着いたかがとても雄弁に語られている」と絶賛した詞については今回掘り下げて検証できてませんが、このあたりも引き続きチェックしていきたいところ。


Heard It In A Past Life (back) 

ある意味マギーとしては勝負に出てきたアルバムということも察せられ、個人的にはこの作品でマギー来年のグラミー賞新人賞部門(ひょっとするとアルバム部門)のノミネートはかなり堅いものではないかと思うくらいです。


いずれにしても新しいサウンドとどこか懐かしいメロディ、そしてスケール大きい楽曲を紡ぎ出す新しいシンガーソングライター、マギー・ロジャースのこの作品、今年を代表する作品になる可能性を秘めていると思いますので、是非どこかでお耳を傾けてみて下さい。


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート 最高位2位(2019.2.2付)

同全米アルバム・セールス・チャート 最高位1位(2019.2.2付)

同全米ヴァイナル・アルバム・チャート 最高位1位(2019.2.2付)

同全米オルタナティヴ・アルバムチャート 最高位1位(2019.2.2付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#134「Shipwrecked」Gonzalez (1977)

 #134ShipwreckedGonzalez (Capitol, 1977)


MLBワールド・シリーズもレッドソックスの圧倒的な勢いによる勝利で終わり、日本シリーズの決着も着いたということで野球シーズンも終了、日々朝晩が冷え込み始めていよいよ晩秋の雰囲気一色になってきた今日この頃、皆さんも音楽の秋を十分に満喫されているでしょうか。このブログがアップされる月曜日にはポール・マッカートニーの国技館公演というまあいろいろ賛否両論を呼びながら、ある意味歴史的なイベントも行われる中、そろそろ年間チャートや年間ベストアルバムの発表、そして来月頭にはグラミー賞ノミネーションの発表もあるという、音楽ファンにはいろいろと忙しい時期になってきました。


そんな中、深まる秋を楽しんで頂くべく、今回の「新旧お宝アルバム!」では、あまりスポットの当たることのないアーティストの隠されたお宝、Hidden Gem的なアルバムを、ということで、イギリスのホワイトR&B・ファンク・バンド、ゴンザレスが1977年の暮れに発表したアルバム『Shipwrecked』をご紹介します。


Shipwrecked.jpg 


ゴンザレス?何か聞いたことあるな」と思われた洋楽チャートファンの方、いらっしゃいますよね(笑)。そう、このゴンザレスというバンド、ディスコ全盛期の1979年に「Haven't Stopped Dancing Yet(邦題:ダンスは止まらない)」という中ヒット(全米最高位26位、全英最高位15位)でチャートを賑わしたあのゴンザレスです

この曲がヒットした当時は「まあキャッチーだけどノー天気なディスコヒットだなあ」という印象(失礼)で、グループの素性も何も全く分からず、てっきり当時よくあったスタジオミュージシャンをかき集めて作ったワンショットグループだと思っていました。

ところが時は流れて30年以上が経ち、最近彼らの1975年のアルバム『Our Only Weapon Is Our Music』を耳にする機会があり、その洒脱でファンキーでブルー・アイド・ソウルなグルーヴ満点のサウンドを聴いて一発で気に入ってしまい、更にこのゴンザレスが「あのゴンザレスと同じバンドだと知って二度驚いたのでした。


Our Only Weapon


彼らのことを調べると、実はこのバンド、同じく70年代中期以降80年代にかけて活躍した、アヴェレージ・ホワイト・バンドココモといった、いわゆるUKホワイトR&Bファンク・グループの代表選手の一つであり、かつその後シーンで活躍したミュージシャン達を輩出、あるいはそれまでにシーンで活躍したミュージシャン達がからんだ、ある意味登竜門のようなバンドだった、ということを知りました。


その最たる人物が、今日紹介するアルバムのプロデューサーで、B面1曲目に収録されているその「Haven't Stopped Dancing Yet」の作者である、グロリア・ジョーンズ。オハイオ州シンシナティ出身の彼女は60年代自らR&Bシンガーとして活躍、この時期に録音した1981年にあのソフト・セルが英米で大ヒットさせた「Tainted Love」が70年代にUKのノーザン・ソウル・シーンで人気を集めるなど、カルトな人気を持っていたようです。

またグロリアは60年代後半以降70年代前半にかけてはモータウンのヒット曲ライターチームの一員で、この頃手がけたグラディス・ナイト&ザ・ピップスの「If I Were Your Woman」(1971年全米最高位9位)ではグラミー賞にもノミネートされるなど、ソングライターとしての地位も確立。

しかし彼女が最も有名なのは、あのマーク・ボランのパートナーとして、またTレックスのバック・ボーカル兼クラヴィネット奏者として、そして数々のセッション・ボーカルの実績で、70年代を通じてUK音楽シーンでそのポジションを確立していきました

しかし1977年、自動車事故でマーク・ボランが亡くなった時、当の車を運転していたのが他ならぬグロリアで、事故で財産を失って以降はマークとの間にできた息子ローランと共に家族のいるLAに戻って細々と音楽活動を続けているようです。そしてその事故の直前に録音されたのが、このゴンザレスのアルバム『Shipwrecked』。


Gonzalez.jpg


ジャケは昔船乗りがギリシャ神話のアルゴ号のお話にちなんで、海難を避けるために船首に彫り込んだという女神の船首像を模したような女性が船首に据え付けられた図、というレコ屋でもちょっと目を引くデザイン。このジャケのアート・ディレクションは実はスティーヴ・ミラー・バンドの『Book Of Dreams(ペガサスの祈り)』(1977)、ビートルズの『Rock 'N' Roll Music』(1976)、ジョン・レノンの『Shaved Fish』(1975) そしてR&Bバンド、メイズの1977~80年の一連のアルバムのジャケを手がけた日系アメリカ人のロイ・コハラ氏。こんなところにも我々の感性に響く要素があるのかも。そしてサウンドは、ブチブチ・ファンクあり、メローなフュージョン・インストあり、そしてUKソウルマナーで、ダンサブルなグルーヴ満点のナンバーありと、70~80年代のブラック系がお好きな向きにはたまらないアルバム構成になっています



オープニングの「Just Let It Lay」はいわゆる当時のディスコ調の軽い感じではなく、スレイヴとかザップと言ったオハイオ・ファンク的な重たいシンセ・ベースが効いた、それでいて洒脱な感じの漂う長めの、フロアで人気を呼びそうなファンクナンバー。そして続く「Rockmaninoff」は、何とタイトルからも想像できるように、あのエリック・カルメンも「All By Myself」で使った、ラフマニノフピアノ協奏曲第2番ハ短調作品18のメロディーをモチーフに使ったナンバー。この下手すればコケそうなアイデアを70年代中期の一番脂が乗ってた頃のクルセイダーズを彷彿とさせる、スタイリッシュなフュージョン・ファンク・ナンバーに仕立て上げてるあたりはメンバーのミュージシャンシップの高さを感じさせます


ストリングスを優雅に配したスロウなメロディを、後にアラン・パーソンズ・プロジェクトに転じるボーカルのレニー・ザカテクAPPの「Games People Play」等のボーカルは彼)が歌う、クラシカル・ゴスペル風のスケールの大きい「Oh I」に続きA面を締めるのはアルバムタイトルの「Shipwrecked」。波の音と船体がギシギシときしむ音にかぶさって始まる軽快なアップテンポなメロディとリフ、そして70年代初頭フィリーサウンド風のコーラスがキャッチーなナンバーです。



B面トップはヒット曲の「Haven't Stopped Dancing Yet」。何となくアルバム全体ではやはり浮き気味のナンバーだけど、改めて聞いてみると中盤のリフがフォートップスとかのモータウン系のサウンドを本歌取りしてるのが分かって、さすがノーザン・ソウルの女王、グロリアのペンによるだけあってただの「ノー天気なディスコ」ではないなあと再評価。続く「Bob Gropes Blues」はフルート/ソプラノ・サックス担当のスティーヴ・グレゴリーのペンによる、ムードあるセンシュアルなフュージョン・インストナンバー。デヴィッド・T・ウォーカーを思わせるゴードン・ハンテのギターとホーンの絡みがひたすら気持ちよし。



再びムードをファンクにシフトした「Tear Down The Business」は、これもオハイオ風な、でもちょっとバーケイズあたりを思わせるブチブチ・ファンク・ナンバー。ただのファンク一辺倒ではなく後半の展開がちょっとシャレオツな感じになるのはUKバンドならではか。そしてアルバムフィニッシュにふさわしく、映画のエンドロールのバックにいいのでは、といった感じの「Baby, Baby, Baby」はちょっとレトロな感じのホーンセクション中心で、軽快なリフとメロが70年代UKポップ風のライトファンクのインストナンバーです。

Shipwrecked (back) 

このアルバムには参加していませんが、クリス・リアミック・テイラーのバック等でUKシーンで活躍した日本人ベーシスト、クマ原田もこの頃ゴンザレスに在籍していたようですし、80年代に英米のダンス・チャートで「If You Could Read My Mind」(1980年全米ダンス・チャート2位)などのヒットを放ったヴァイオラ・ウィルスも一時期所属していました。


このアルバムはリリース当時は全く注目を浴びませんでしたが「Haven't ~」のヒットを受けて、アメリカでは『Haven't Stopped Dancin'』(1979)というタイトルで、ジャケ・収録曲も変えて再発、一応チャートインしています。しかしこの後バンドは2枚のアルバム『Move It To The Music』(1979)、『Watch Your Step』(1980)をリリースしましたが、商業的な成功には恵まれず、中心メンバー、キーボードのロイ・デイヴィーズの他界をきっかけに1986年には解散しています。


Havent Stopped Dancin


この秋のお供としてはなかなかお勧めのこのアルバム、できれば再発盤(ジャケもいかにもディスコ!って感じ)ではなく、オリジナル・パッケージ、オリジナルの曲構成で聴いて頂き、彼らのタイトな演奏力と楽曲の流れを楽しんで頂ければ嬉しい限りです


<チャートデータ> 

チャートインせず

(再発盤『Haven't Stopped Dancin'』はビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位67位(1979.3.10-17付))

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#133「The Future And The Past」Natalie Prass (2018)

 #133The Future And The PastNatalie Prass (ATO, 2018)


前回のこのコラムからここ一ヶ月弱、公私ともにいろいろ忙しく間が空いてしまいましたが、その間に着実に秋は深まり、この週末は最高気温がいよいよ20度を切るという絶好の季節になってきました。そしてMLBのポストシーズンも今や佳境。今週はいよいよワールドシリーズ進出チームが決定しそうな感じでMLBファンにはたまらない季節ですね


さて今回の「新旧お宝アルバム!」では、深まる秋にぴったりのメランコリーでポップながら、今の時代のコンテンポラリーな音像をまとった不思議な魅力を持つシンガーソングライター、ナタリー・プラスの2枚目になる今年リリースのアルバム『The Future And The Past』をご紹介します。


TheFutureAndThePast.jpg 


あのエリック・カルメンを輩出したオハイオ州クリーヴランド生まれで、現在はヴァージニア州リッチモンドをベースに活動する今年32歳のシンガーソングライター、ナタリー・プラスは、リッチモンドでの幼少からの友人であるシンガーソングライター、マシュー・E・ホワイトが主宰するスペースボム・レーベルから2015年にリリースしたデビューアルバム『Natalie Prass』がその年の各種音楽誌で高い評価を受けたのがきっかけで一躍注目を集めたアーティスト。

デビュー・アルバムでは、そのささやくようなボーカルと70年代初頭LAのローレル・キャニオンを中心に活躍したキャロル・キングジョニ・ミッチェルらの作品を思わせるトルバドール・タイプの楽曲や60年代ブルー・アイド・ソウル的楽曲、さらにはオールド・タイム・ミュージック的なサウンドまでを満載した「クラシック・アメリカーナ」な世界観を展開していたのが、各誌の高い評価につながっていて、自分も当時そうしたレビューに惹かれてこのアルバムを聴いて大いにその虜になったものでした。


Natalie Prass


その彼女が3年ぶりにリリースした今回の『The Future And The Past』。今回も盟友のマシュー・E・ホワイトのプロデュースで、彼との共作曲が5曲収録された作品ですが、その内容は、楽曲的にはコンテンポラリーなサウンドのブルー・アイド・ソウル的作品群と70年代のメインストリーム・シンガーソングライター的スタイルの作品群を軸にして「新しい音像でクラシック味わいのメロディや構成の楽曲を展開する」という世界観を作りあげた、前作とまたひと味変わった意欲的な作品に仕上がっています。




冒頭の「Oh My」はタイトなリズム&ブルース風のサウンドとビートに乗ってナタリーのウィスパリング・ボーカルが炸裂するナンバー。「おっソウルフル」と思わせる曲調が前作と比べると意外性もあって掴みとしてはなかなか。そしてその歌詞は「信じられないことが起きている/もうハートはボロボロよ/毎日ニュースを読むたびに私達は負けていると感じてしまう」という、反トランプ的なメッセージも垣間見えて興味深いところ。続く「Short Court Style」は一転、シャッフルなリズムとコーラスを随所に効果的に使った、70年代メインストリーム・ポップの香りを80年代っぽい音像で構成した、ミディアム・テンポのキャッチーなナンバーで、ここでまたぐっと聴き手を引き込みます。

短いインタールードに続いて2000年代以降のメインストリーム・ポップなスタイルの「The Fire」は、同世代のアーティスト、ハイムあたりの楽曲を思わせるブルー・アイド・ソウルの香りのするリズミックなトラックが心地よいナンバー。こちらはリアーナの2013年のヒット「Stay」(全米最高位3位)を共作しフィーチャーされ、グラミーでもリアーナと共演したミッキー・エッコとの共作ナンバーです。



ジャズのジャム・セッションっぽい短いフレーズに続いて、マシューとの共作のうちの1曲「Hot For The Mountain」は意図的にと思われる音程的抑揚の少ないメロディ・ラインがおもしろい作品。続く「Lost」はピアノの弾き語りからジワジワと盛り上がる、70年代シンガーソングライター作品っぽいノスタルジックなメロディと、「あなたといると迷ってしまう/どのくらい代償を払ってあなたの仕打ちに耐えればいいの/傷が癒えてもまたあなたは噛みついてくる/このままあなたを愛し続けられない」というヒリリとする歌詞の対比がぐっと来る曲です。そしてレコードだとA面ラストの「Sisters」はまたマシューとの共作で、ウォーキング・リズムのややジャジーな感じのこちらもジワジワとくる楽曲ですが、ここも最近の#me too運動に呼応するかのようなメッセージの歌詞で、ナタリーのシンガーソングライターとしての意思が伝わってきます。



B面オープニングの「Never Too Late」はこのアルバムで最もキャッチーなナンバー。夢見るようなメロディとノスタルジックなバックの演奏から、80年代AORで多用されたお馴染みのリズムリフのサビに入っていくあたり、まんま80年代和モノのシティー・ポップの意匠そのままなので、思わずニヤリとすること請け合い。ボーカルスタイルも、「イマイチ歌が巧くないカレン・カーペンター」的な味わいを意識して出している感じが見事にハマっています。次の「Ship Go Down」は、変速リズムパターンのトラックとややメランコリーなメロディに乗るナタリーのちょっとコケティッシュなウィスパリング・ボーカルが不思議な魅力を醸し出す6分超の作品。後半はちょっとアヴァンギャルド・ポップ的な展開になっていき、ナタリーがこれまで見せなかった異なる一面を垣間見せます。

エレピの弾き語りでジワッと始まる「Nothing To Say」は70年代後半の面ストリームな感じのメロディと、2000年代以降のメインストリームなコンテンポラリーR&Bを意識したリズムと音像が不思議なバランスを持って迫ってくる曲。ここにも、今回恐らく音作りで参考にしたのではと個人的に思っているハイムの楽曲の影響がちらほら。


またもやスローなジャズのジャム・セッションのフェードインで始まる「Far From You」はすぐ曲調が変わり、カーペンターズの70年代初期作品を思わせる、抑制しながらぐんぐん盛り上がる楽曲スタイルを、またまた「イマイチ歌の巧くないカレン・カーペンター」的イメージ満点のドラマティックなナタリーのボーカルが見事に構築。この曲の甘酸っぱくも心に迫る、魅力的な世界観はこのアルバムでも屈指の出来ワン・ダイレクションのヒット曲「Little Things」(2012年全英1位、全米33位)をエド・シーランと共作したことで知られるイギリスの女性シンガー・ソングライター、フィオナ・ベヴァンとの共作です。

そして最後はぐるっと回ってまたA面冒頭「Oh My」のスタイルに回帰した感じのマシューとの共作によるリズミックなブルー・アイド・ソウルなナンバー「Ain't Nobody」。曲が終わった後に三たびスローなジャズのジャム・セッションがフェードイン、そしてフェードアウトして、まったりとした余韻を残してアルバムが終わります。


TheFutureAndThePast (back)


今回のナタリーのアルバムも概ね音楽誌の間では評判がいいようで、内容もある意味前回のアルバムからまた一つ違うフェーズに進化した感がある、と言う意味でも更に次の作品が楽しみです。特に今中間選挙を前にしてあちこちで失点が起きているトランプ政権の今後の動きに対して、ナタリーがシンガー・ソングライターとして次の作品でどう反応していくのか、というあたりも興味深いところ。


その間、夜になるとひんやりしてきた秋の季節、ナタリーのこの作品を聴いて単にシンガーソングライター作品、単にAORなインディ・ポップ作品に止まらないこの作品でじんわりとした感動を味わって見て下さい。


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米インディ・アルバム・チャート 最高位29位(2018.6.16付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#132「Honky Tonk Angel」Ellen McIlwaine (1972)

#132Honky Tonk AngelEllen McIlwaine (Polydor, 1972)


秋雨前線が活動を本格化した先週から次第に秋らしい空が見れる日が増えてきました。このシルバー・ウィーク、旅行やアウトドアを楽しんだ方も多かったと思います。そうこうしているうちにいよいよ来週からは2018年も最後の四半期に突入。今月末をもって来年発表のグラミー賞の対象期間も締め切りになるので、いよいよ2018年も総決算のタイミングになってきました。ホントに一年なんて、あっという間ですねえ。

さて秋深まる10月を前にして、今回の「新旧お宝アルバム!」では、70年代初頭、新たなロックの夜明けの時代に次々と輩出した数々の素晴らしいアーティスト達の中で、卓越したギタープレイテクニックと個性的でソウルフルな歌声を持って登場しながらも、なぜかメインストリームの人気を勝ち得ることなく「知る人ぞ知る」的な存在だった女性シンガーソングライター&ギタリスト、エレン・マッキルウェインが輝くような才能を存分に発揮したデビューアルバム『Honky Tonk Angel』(1972)をご紹介します。

Ellen McIlwaine Honky Tonk Angel

70年代初頭、60年代後半のサイケデリック・ロックやフラワー・ムーヴメントの衰退にカウンターするかのように、ビートルズストーンズらの系譜を受け継ぐ形で、多くのR&Bやブルースを音楽的基盤としてサウンドや楽曲を展開する数々のアーティスト達が英米で輩出しました。リオン・ラッセルジョー・コッカーによるマッド・ドッグ&イングリッシュメンや、デラニー&ボニーと合流したクラプトン、オールマン・ブラザーズ・バンドらの南部のバンド達、いわゆるスワンプ・ロックと呼ばれるスタイルでアメリカ南部を中心に活動したボビー・チャールズ、ジェシ・エド・デイヴィス等々、この時期にR&B/ブルース的なスタイルによるロックは大きな隆盛の時期を迎えました。

そんな時期に登場したのが今回ご紹介するエレン・マッキルウェイン。このデビュー作リリースの時点では27歳のやや遅咲きのデビューでしたが、アコギを中心に卓越したギター・テクニック、特にそのスライド・ギターの腕は同時期にやはりR&B・ブルースベースのロックでスライド・ギターを操っていたボニー・レイットに勝るとも劣らないレベル。

ナッシュヴィル生まれのエレンは宣教師の養子になり、何と15歳まで神戸に住んでいて、米軍放送から流れてくるレイ・チャールズファッツ・ドミノの音楽を聴いて育ったと言うから極めてユニークな経歴です。

17歳でアメリカに戻り高校大学と進んだ彼女でしたが、21歳の時には大学をドロップしてミュージシャンとしてのキャリアをスタート。NYに出て幸運にも当時のグリニッジ・ヴィレッジの人気ライヴハウス、カフェ・オー・ゴー・ゴーで演奏する機会を得た彼女は、当時ジミヘンジョン・リー・フッカー、ハウリン・ウルフといった超大物のブルース・ミュージシャン達と共演したというから既にこの頃から「持ってる」人だったようです。

リッチー・ヘヴンスなどギターの達人達からスライド・ギターの手ほどきを受けたエレンはこれをマスター、その後アトランタに戻って、当時では珍しい女性である自らリード・ボーカル、リード・ギターのロック・バンド「フィア・イットセルフ」を結成、デビュー・アルバムをNYで録音。


Ellen McIlwaine

バンドとしてのデビューが必ずしも成功とはならなかった中、ソロに転じたエレンが満を持してリリースしたのが今日ご紹介する『Honky Tonk Angel』。タイトルからいってカントリーのアルバムか、と思われやすいのですが、その内容は、R&B、ジャズ、ブルース、ゴスペルなどのアーシーな音楽を渾然としてスタイルを中心に、タイトル通りのカントリーや、アフリカン・リズム、黒人霊歌までも抱き込んで消化した楽曲群を、エレン・マッキルウェインというユニークな才能のアーティストとしての圧倒的なパフォーマンスを聴かせる、多様で複雑でエモーショナルなアルバムです。

しかも録音にあたっては、当時のNYの最高峰のスタジオ、レコード・プラント・スタジオのスタッフが高音質の録音を行い、マスタリングの巨匠と言われるボブ・ラドウィッグがマスターしたというとにかく音のいいレコードで、エレンの素晴らしいパフォーマンスが楽しめるヴァイナルLPを探す価値がある、そういうレコードです。


レコードのA面は、NYのライヴ・ハウス「ビター・エンド」でのライヴ収録で、一曲一曲に対する観客の反応が、エレンのギターとバンドの演奏の素晴らしさ(アルバムには「すべてのギター:エレン・マッキルウェイン」というクレジットがあります)と、エレンのボーカルの存在感と表現力が素晴らしいことを証明している、エキサイティングなサイド。

冒頭からいきなりぶちかましてくるのは、1966年ジョニー・テイラーがそのデビューアルバムに収録していた、アイザック・ヘイズデヴィッド・ポーター作のナンバー「Toe Hold」。ジョニーのゆったりとしたサザン・ソウル風のアレンジとは全く異なり、コンガがいきなりハイテンポなリズムを刻む、冒頭からエキサイティングなアレンジで観客を一気に持って行きますエレンのボーカルも多彩で途中スキャットを交えながら観客をドライヴ、タイトなカッティングギターのフレーズでもグルーヴをドライヴするあたり、エレンのギターの腕前を感じます。

2曲目はエレンが敬愛するというジャック・ブルースの曲「Weird Of Hermiston」。ジャックのアルバム『Songs For A Tailor』(1969)収録のこの曲をアコギ一本で歌うエレン、静かに初めて次第にエモーショナルに歌い上げ、カタルシスの後また最後は静かにフィニッシュ。続いてジミヘンの『Axis: Bold As Love』(1967)からの有名曲「Up From The Skies」のカバーは、こちらもエレンのアコギとベースだけでシンプルながら、グルーヴ満点、ブルージーに料理。ここでもエレンのソウルフルなボーカルが光っています。

4曲目はエレン自作の2分という短い「Losing You」。アコギのスライド・ギターをビンビンと唸らせる迫力あるリフに乗せて「あなたを失っていく、あなたを失っていく」とややトランス状態にもきこえるテンションで叫ぶエレンのボーカルはふとアラニス・モリセットを思い出させます。

そしてA面ライヴの最後はご存知ボビー・ジェントリーの大ヒット曲「Ode To Billy Joe」のカバー。スローなカントリー・バラードのオリジナルのアレンジを完全に壊して、エレンの複雑なリフ満載のアコギワークを駆使して、アップテンポなブルース・ナンバーに変貌させているのが凄い。


B面はレコード・プラント・スタジオでの録音。冒頭はいきなりコンガで始まって延々とコンガのみとアフリカン・チャントの輪唱のような演奏が繰り広げられる、アフロ・ジャズ・ドラマーのガイ・ウォーレンの作品「Pinebo (My Story)」。そして続いてはアコギをバックにメロディが始まった瞬間、ああスティーヴ・ウィンウッドの曲だ、とわかる、ブラインド・フェイスの「Can't Find My Way Home」のカバー。相変わらず達者なアコギの複雑な手数のフレーズと個性的な音色のエレンのボーカルが、彼女ならではの世界を再構築しています。

B面3曲目はエレンのこのアルバム2曲目の自作「Wings Of A Horse」。アップテンポなバンド演奏が繰り出す複雑なメロディとコード進行に乗った、独特なエレンのボーカルがある瞬間はジョニ・ミッチェルのように、またある瞬間はジャニスとボーカルの表情が刻一刻と変わっていくのがとってもスリリングなナンバー




そしていきなりこの曲だけがベタベタのオールド・スタイルなナッシュヴィル・カントリー・チューンな「It Wasn't God Who Made Honky Tonk Angel」。もちろんアルバムタイトル由来の曲だし、エレンもナッシュヴィル出身だし、この曲のオリジナルである女性カントリーシンガーの草分け的存在のキティ・ウェルズのバージョンに敬意を払って、ということなんだろうけど、全体のブルージーな感じのアルバムの中ではやや唐突感が。それでもエレンはここでスティール・ギターも達者にこなして、レンジの広いボーカルを聴かせるなど、エレンの多彩さを存分にアピールしていて、その意味では選曲としてはある意味必然なのかもしれないが。

そしてアルバムの最後を締めるのは、60年代公民権運動のコンテクストでも様々なアーティストに取り上げられ、ラムゼイ・ルイスハーブ・アルパートのバージョンが有名な黒人霊歌「Wade In The Water」のエレン的解釈・アレンジによる演奏。このアルバムを通して印象的なアクセントの一つとなっているコンガの音色とリズムをバックに、ジャズ・ブルース・ロックとでも言えるアーシーなグルーヴ感を存分に感じさせる、エレンならではの「Wade In The Water」でアルバムは終わります。


Honky Tonk Angel (back)

商業的に成功することはほとんどなかったエレンですが、ボニー・レイットスーザン・テデスキなど、この後輩出する女性ブルース・ギタリスト達の一つの先駆的ロール・モデルとして広い範囲のミュージシャンから敬愛を受けつつ、現在に至るまで活動を続けている模様。

80年代には敬愛するジャック・ブルースとの共演を果たし、アルバム『Everybody Needs It』(1982)をリリースしたり、なぜか当時人気があったオーストラリアに度々ツアーで出かけたり、2000年代に入ってはインドのタブラ奏者のカシアス・カーンと共演したアルバム『Mystic Bridge』(2006)をリリースしたりと、様々なアーティストと多様な活動を展開しているようです。

そんなエレンが、これから大きく羽ばたこうというヴァイブに溢れた熱演を聴かせてくれる、70年代初頭の空気を今にヴィヴィッドに伝えてくれるこのアルバム、是非ともヴァイナルで見つけてその素晴らしい演奏、録音によるサウンドを秋の夜、楽しんで下さい。

<チャートデータ> チャートインなし

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#131「Back Roads And Abandoned Motels」The Jayhawks (2018)

 #131Back Roads And Abandoned MotelsThe Jayhawks (Sony Music Entertainment / Legacy, 2018)


先週は日本ではなくアメリカ南東部が巨大ハリケーンに襲われ、ノース・キャロライナ州を中心に洪水や停電などの被害が発生している模様。まるでその前の週の関西地方のように、今も数百万戸がまだ停電中途のこと。犠牲者も発生しているようで、一刻も早い平常状態への復帰を祈るばかりです


一方日本ではここ1~2週間でめっきり過ごしやすい気候になり、着々と秋の気配が深まる毎日。そんな秋にぴったりの哀愁とアップビートな感じをもったメロディ満載の楽曲を毎回聴かせてくれる、ゲイリー・ルイス率いる今やアメリカーナ・ロック・バンドの重鎮となったジェイホークスが今年に入って2年ぶりに出してくれたアルバム『Back Roads And Abandoned Motels』を今日はご紹介します。


Back Roads Abandoned Motels 


90年代以降のいわゆるアメリカーナ・ロック・ルネッサンスの潮流に乗って登場した様々なバンドの中でも、ジェイホークスと言えばウィルコライアン・アダムス率いるウィスキー・タウン、サン・ヴォルトといったバンドと並んで、その後のこのジャンルのアーティスト達に大きな影響を与えてきた1986年創立の今や老舗バンド。今もバンドを引っ張るゲイリー・ルイスと共にバンドを創立したマーク・オルソンの二人が中心になったジェイホークスは1992年の傑作アルバム『Hollywood Town Hall』でこの分野での代表的なアーティストとしての確固たる地位を築きました。続く『Tomorrow The Green Grass』(1995)では新たに女性キーボード&ボーカルのカレン・グロトバーグをメンバーに加え、グランド・ファンクの「Bad Time」のカバーを含む素晴らしい楽曲群を揃え、アーティストとしての頂点を極めることに。

しかしこのアルバムを最後にマークが脱退、それでもロック・エッジの立った楽曲と、デビュー以来の持ち味であるメランコリーでありながら心が温かくなるような楽曲をバランスよく配した『Sound Of Lies』(1997)、『Rainy Day Music』(2003)といった素晴らしいアルバムをコンスタントに発表してきました。


Hollywood Town Hall


2011年の『Mockingbird Time』では久しぶりにマークがバンドに復帰、『Hollywood~』以来のジェイホークスらしい力強いアルバムを聴かせてくれましたが、この後マークは再脱退。一昨年久しぶりにリリースされた『Paging Mr. Proust』(2016)では実験的な楽曲もいくつか試みている分、個人的にはやや散漫な印象があって「ああ、ジェイホークスもこのままフェイドアウトしていくのかなあ」と寂しい気分になっていたところでした。


ところが昨年元キンクスレイ・デイヴィーズが突然リリースした、強いアメリカ音楽へのオマージュを剥き出しにした好アルバム『Americana』のバックを、何とジェイホークスのメンバーが全面的に努めているのを見て大いに驚いたものです

今年に入って出た、その続編とも言うべき『Our Country: Americana Act II』(2018)でもジェイホークスのメンバーが続いてバックを努めていて、一つ気になったのはカレンのボーカルがいつになく前面にフィーチャーされた曲が耳に残ったこと。そのレイのアルバムを聴きながら「ジェイホークスの新譜は出ないのか」とぼんやりと思っていた矢先にリリースされたのが今日ご紹介するこのアルバムです。


今回のこのアルバムは、リーダーのゲイリー・ルイスがこれまでに他のアーティストと共作、提供してきたここ数年の楽曲のセルフカバー10曲と、ゲイリーのペンによる新曲2曲という構成。ジェイホークス・ファンとしてはなかなかそれだけでも「いったいどの曲をやってるのか」と期待が膨らむところ。そして届いた新譜に針を落として聴き始めたところ、流れてくる楽曲の演奏スタイルといい、それぞれのメロディといい、90年代から2000年代にかけて彼らが一番輝いていた時期のジェイホークスのサウンドがよみがえったような、そんな素晴らしい内容だったので、今回ご紹介することにしたというわけです。



まずA面冒頭から、歌い出しが力強いカレンの歌声というのにジェイホークスのレコードでのゲイリーのボーカルに慣れたファンの耳が快い驚きに見舞われるのが「Come Cryin' To Me」。ディキシー・チックスナタリー・メインズのソロアルバム『Mother』(2013)に収録されていた曲で、ゲイリーディキシー・チックス3人の共作のナンバーです。ちょっとメランコリックなメロディがゲイリーっぽさを思わせるこの曲、やはりナタリーのバージョンを意識してカレンのボーカルにしたのかな、と思ってると次はそのディキシー・チックスが2007年のグラミー賞主要3部門を独占した大ヒット作にして彼女らの傑作アルバム『Taking The Long Way』に収録されていた、アコースティックでレイドバックしたリズムに乗った「Everybody Knows」ではゲイリーのボーカルが登場、ほっこり心が温かくなるようなサビでのコーラスは正真正銘のジェイホークス節。これよこれよ、と思わず頬がほころぶところで続くのが、ゲイリージェイコブ・ディランと共作して、HBOのTVドラマ『True Blood』のサントラ(2011)に収録されていた「Gonna Be A Darkness」。長尺のちょっとスロウなテックスメックスっぽいイントロから、ドラムスのティム・オレーガンのボーカルが入って来てこちらもジェイホークス節を聴かせてくれるあたりはさながら目の前で彼らのライヴを観ているかのよう。そして再度ディキシー・チックスTaking The~』収録の「Bitter End」ではこちらも70年代のカントリー・ロック全盛期の頃のイーグルス初期やポコらのスタイルから脈々と伝わる楽曲スタイルの最高形のパフォーマンスを聴かせてくれ、このあたりでもうかなりジェイホークス・ファンとしては大満足な状態です


アコギのストロークで力強く始まる「Backwards Women」はナッシュヴィル出身の若手カントリー・ロック・バンド、ザ・ワイルド・フェザーズのメンバーとの共作。こちらはよりジャムセッションっぽく、でもピアノのバッキングや、ハイノートのボーカルとコーラスの絡みなど、カントリー・ロックのおいしいところは余すことなく盛り込まれたご機嫌なナンバー。

続く「Long Time Ago」は90年代「If You Could Only See」のヒットを飛ばしたバンド、トニックのリーダー、エマーソン・ハートゲイリーとの共作。ここではライアン・アダムスの作風を彷彿させるような、ちょっとトルバドゥール風のスタイルのゆったりした楽曲を聴かせてくれます。



この後も様々なアメリカーナやオルタナ・カントリー系アーティストとの共作ナンバーを、ジェイホークス一流のフレッシュでいてどこか懐かしい、ハイクオリティなカントリー・ロック・スタイルで次々に聴かせてくれるのですが、アルバム最後の2曲は今回ゲイリーが新たに書き下ろした新曲2曲

最初の「Carry You To Safety」はミディアム・テンポの、これまたメランコリックなメロディをメンバーの分厚いコーラスがバックアップ、時折ラウンジ風なリヴァーヴの効いた骨太なギターがオブリガード的に絡むあたりがグッとくる、そんな曲。そしてアルバムラストの「Leaving Detroit」はピアノの弾き語りにアコギと控えめなドラムスだけが絡む、そんな音数を抑えたアレンジで、途中からゲイリーのボーカルに寄り添うように絡んでくるカレンの、そしてメンバーの分厚いコーラスがとても気持ちのよい曲です


Back Roads (back)


前作の『Paging Mr. Proust』で個人的にはややがっかりしてからは、ジェイホークスというと昔の素晴らしかったアルバムを聴き返すことが多かった最近でしたが、久しぶりにパワーローテーションで聴きこめるアルバムを届けてくれたジェイホークスには感謝。このコラムでジェイホークスを取り上げるとすれば『Hollywood Town Hall』か『Tomorrow The Green Grass』、と思っていたのですが、この新作の到着まで待っていてよかったな、と今では素直に喜べることが嬉しい、このアルバムはそんな作品です。

とかくセルフ・カバー集というと、ファン・サービスの内輪向け的な位置づけの作品だったりすることが多いわけですが、このアルバムに限ってはそんなことはなく、フラットに聴いてもゲイリーを中心にバンドのメンバーが力を込めて作ってくれた立派な新作として評価されてしかるべき作品だと思います


いよいよ秋本番も近い今日この頃、昔からジェイホークスを知っている方も、最近レイ・デイヴィーズのアルバムで彼らを知ったという方も、そしてジェイホークスは知らないけど、心に触れる秋っぽいいい音楽を聴きたい、という方も、このアルバムも含めて過去からのジェイホークスのサウンドに改めて触れてみるというのもお勧めです。ゆっくり彼らの素敵な新譜、お楽しみ下さい。


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アメリカーナ・フォーク・アルバム・チャート 最高位8位(2018.7.28付)

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