Life Is A Rock - 洋楽こそ我が人生
洋楽全般について、英米ヒット・チャートに登場有無に関係なく、お気に入りの洋楽作品についての独り言やコメントをつれづれに掲載します。「新旧お宝アルバム!」「恒例グラミー賞大予想」など定期コラムが中心です。洋楽 ファンサイト、meantime(www.meantime-jp.com)のスピンオフ企画としてお楽しみ下さい。
【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#79「Soul's Core」Shawn Mullins (1998)

 #79『Soul's Core』Shawn Mullins (Columbia, 1998)


この3連休は素晴らしいお天気続きでいよいよ春本番、南の方ではそろそろ桜も咲き始めたとの知らせも入ってくるこの頃、来週のこのコラムをお届けする頃には都内でももうお花見できる状態になってるのでは、と思うと心躍りますね。いい音楽をバックに気のおけない友人と花見、というのもこの季節ならではの楽しみです。


春はジャズやアコースティックな感じの音楽がとても似合う時期。今週の「新旧お宝アルバム!」では久しぶりに90年代の作品で、味と渋みたっぷりのボーカルと物語性たっぷりの歌詞を持つフォーク・ロック的アメリカーナな楽曲で一部のファンに強く支持され、その後も知る人ぞ知る的な活動を続けているシンガーソングライター、ショーン・マリンズの商業的ブレイク作『Soul's Core』(1998)をご紹介します。

Souls Core 


1990年代のアメリカの音楽シーンは、80年代のMTVを中心とした映像中心のヒットを飛ばすポップスターや、シンセサイザーの打ち込みサウンドで大半のトラックを作り込むダンスヒットの氾濫へのアンチテーゼとして90年前後にはシアトルを中心としたインディー・レーベルのロック・バンド達によるグランジ・ムーヴメントの盛り上がりとか、より社会的な視点からのリリックを中心にストイックな音作りによるヒップホップのルネッサンス的隆盛、そして60年代~70年代のカントリー、R&B、ブルーズ、ハードロックといった音楽をルネッサンス的に換骨奪胎してフレッシュなスタイルで聴かせるアメリカーナ・ロックやオルタナ・カントリーといった音楽スタイルが盛り上がった、音楽シーン的には極めて豊かな時代になっていました

残念ながら70年代からの日本の洋楽ファンの皆さんは、80年代後半の音楽のマスプロ化や打ち込み主体のスタイルに辟易して新しい音楽には背を向けて昔からおなじみの70年代以前の音楽に戻ってしまった方が多かったようです。もう少し辛抱してシーンに耳を澄ませていれば、90年代の素晴らしい音楽に巡り会えていたはずだったんですが


で、このショーン・マリンズも、90年代にアメリカーナの隆盛に時期を合わせて対等してきた、そんなアーティストの一人。アトランタ出身の彼は学生時代からバンドを組んで主にアコースティックな音楽を中心に活動してきていて、高校時代の友人にはあのインディゴ・ガールズエイミー・レイもいたとのこと。大学卒業後一時期陸軍の士官養成プログラムに身を投じ、陸軍でのキャリアも考えたようですが、やはり音楽を捨てきれずこの道に戻り、地元のアトランタ近辺で地道なバンド活動をしながら実績を積んでいたようです。


Lullaby.jpg


その彼をブレイクしたのは、今日紹介する『Soul's Core』にも収録されているシングル「Lullaby」の大ヒット(全米1999年最高位7位)。トム・ウェイツを思わせるようなしゃがれた低いボソボソ声で歌う、というよりはつぶやくようなファースト・ヴァースからサビに行くところで一気にハイトーンの美しいボーカルでブリッジを歌うあたりは、ラジオで流れていたら一発でハートを仕留められること請け合い、そういう歌です。そしてこの曲は楽曲メロディだけでなく、その歌詞もまるで映画を見ているかのような独特の情景を浮かび上がらせてくれるという意味でもとても魅力的です。


彼女はハリウッド・ヒルやサンセット・ブールヴァードに住むスターの子供達と一緒に育った

彼女の両親は盛大なパーティーをよく開いてそこにはいろんな人が集まった

彼女の家族はデニス・ホッパー、ボブ・シーガー、ソニー&シェールなんて連中とよく付き合っていたっけ


今彼女はフェアファックス・アヴェニューのこのバーで安全に過ごしてる

ステージの俺から見ると彼女は未だにあの頃の思いを捨てきれず、リラックスできてないのがよく分かる

だから彼女がうなだれて泣き出す前に

俺は彼女に子守歌を歌うのさ


何もかもうまくいくさ ゆっくりお休み

何もかもうまくいくって だからゆっくりお休み



LAの社交シーンの退廃感とそこで自分を見いだせない女性のことを、トム・ウェイツ的なつぶやきと美しいハイトーンのボーカルの組み合わせと、アコースティックで優しいメロディで包むようなこの歌は、おそらく聴く者の心の琴線に触れるものがあったに違いなく、ショーンに取ってはブレイクヒット、しかし彼唯一のヒット曲となりました。


個人的なイメージでショーンの音楽スタイルを一言で表現するなら、「グランジを通過してきたクリス・クリストファーソン」。作る楽曲スタイルはいわゆるアメリカーナに分類されるシンプルなアコースティック寄りのアメリカン・メインストリーム・ロック曲ですが、バンドのリズムセクションの使い方やエレクトリックギターの使い方に明らかにグランジあたりの影響を聴いて取れます。そしてボーカルスタイルは明らかにクリスマール・ハガードといった70年代の無頼派のややロック寄りのカントリー・レジェンド達の強い影響を受けていますが、時々聴かせる伸びやかなテナーからハイテナーのボーカルは、ただのカントリー・ロック・ボーカリストでは片付けられない個性と才能を感じるのです。

同時期にアメリカで大ブレイクしたフーティー&ザ・ブロウフィッシュのリード・ボーカル、ダリウス・ラッカーあたりと作る楽曲スタイルはとてもよく似ているのですが、フーティーズがあくまでも「90年代のイーグルス」的なポジショニングだったのに対し、ショーンのアプローチは明らかに「ロックっぽいナッシュヴィルのシンガーソングライター」的なものでした。


Souls Core back


そしてこのアルバム収録の他の曲は、「Lullaby」に続いてシングルカットされ、よく似た楽曲スタイルでアダルト・トップ40チャートで小ヒットとなった「Shimmer」を初め、衰退していくアメリカの地方都市の状況を16歳の少年の目から描き、いつかはここを出て行くんだ、とアコギ一本でトルバドゥール風に歌う「Ballad Of Billy Jo McKay」や同じくアコギ一本で亡き友を歌ったと思われる「Patrick's Song」、もう15年も電車に乗り続けて旅する37歳の男がもう長いこと海の塩の匂いを嗅いでないから、といってオレゴン州の海岸に来て、同じようにヴァンの乗って町から町にコーヒー・ハウス・ギグのギャラとチップでその日その日を過ごしているミュージシャンと会う、というストーリーを淡々と歌う「Twin Rocks, Oregon」などなど、歌詞カードを見ながら彼の楽曲を聴くと、本当に目の前に映画のような映像がヴィヴィッドに浮かび上がって来ます

このアルバムのもう一つのハイライトは、クリス・クリストファーソンの「Sunday Mornin' Comin' Down」のカバー。エルヴィスを初め多くのアーティストにカバーされたクリスのこの有名なスワンプ・バラードをクリス直系だけあってショーンは見事に自分のものとして歌いきっています



このシングルとアルバムのブレイクで一躍注目を浴びたかに見えたショーンでしたが、続く『Beneath The Velvet Sun』(2000)も同様にビジュアルなイメージを想起する楽曲満載の意欲作だったにもかかわらずチャートインすらせず、この後しばらくソロ活動をお休み。その間、2002年には同じく90年代を代表するシンガーソングライター、マシュー・スイートとオルタナ・フォーク・ロック・シンガーのピーター・ドロウジの3人によるスーパー・バンド、ソーンズ(Thorns)を結成。素晴らしいアコースティック・ロック・アルバム『The Thorns』(2003)をリリースして、一部に高い評価を得ましたが、広く知られるまでには至っていません。その後2006年以降は『9th Ward Pickin Parlor』(2006)、『Honeydew』(2008)、『Light You Up』(2010)、そして最新の『My Stupid Heart』(2015)と質の高い作品を地道にリリースしているようです。

My Stupid Heart


桜の季節になった今、歌詞の想起するイメージに身を任せながら、ショーンの心にしみるようなアコースティック・サウンドと味のあるボーカルによる楽曲をじっくり楽しんでみてはいかがでしょうか。


 <チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位54位(1998.11.28付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#78「Made Of」Elviin (2014)

 #78Made OfElviin (VAA, 2014)


先週一週間は日々暖かくなりかけていた気温が一歩また冬に戻ったような肌寒い日々でしたが、週末はどちらもカラリと晴れて日曜日に立ち寄った吉祥寺の井の頭公園の桜の木々のつぼみも心なしかかなり色づいて来ている様子。まだまだしばらくは一進一退の気候が続くようですが、確かな春の足音を感じた週末でした。


今週の「新旧お宝アルバム!」は比較的最近のアルバムの順番ですが、そうした春がそこまで来ているという気分にぴったりな、アコースティックで、グルーヴィーで、聴くだけで楽しくなってしまうほど洒脱なポップセンスに溢れる、南ロンドン出身のR&Bシンガーソングライター、エルヴィーンことエルヴィン・スミスの多分オフィシャル・アルバムとしては唯一の作品、『Made Of』(2014)をご紹介します。


Elviin Made Of


自分がこのエルヴィーンというアーティスト、このアルバムと出会ったのはちょうど3年前の今頃、やはりこれから春本番、という時期でした。タワーレコードの試聴コーナーで「何かよさげなアルバムはないかなあ」と思いながらいろいろなCDを聴いていたのですが、この白地にポップな感じのアートセンスで描かれたアーティストの肖像のジャケット(よーく見ると様々な色とサイズのボタンが並べられて描かれたという素敵なジャケットでした)に目を引かれ、POPでも「イチオシ!」とあったので聴いてみたところ、目の前を一気に明るくして、春に本当にふさわしいポップなセンスに溢れた、それでいて陳腐さとか甘ったるさとかいったものとは無縁な、うるさ方の洋楽ファンでもきっと気に入って頂けるようなサウンドに一発でやられてしまい、購入。以来この時期になると引っ張り出してきてプレイする、愛聴盤となっています。


このアルバムは2008年にロサンゼルスのサウンド・ファクトリー・スタジオで録音され、ベックの『Midnight Vultures』(1999)や『Guero』(2005)、ベル&セバスチャンフォスター・ザ・ピープルといったオルタナティヴ系の作品プロデュースで知られるアメリカ人のトニー・ホッファーのプロデュースで制作されたのですが、なぜか英米でのアルバムリリースはUK

のマイナー・レーベル、Clicks 'n' Clapsから行われただけで、大きな反響も得られず(実際WikiAllmusicDiscogsなど英米系の音楽データベースではこの作品についてのデータは存在していないようです)、2014年に日本で独自にリリースされたようなのです。

でも、このサウンドは日本のファンだけに聴かせておくのは本当にもったいない、そんな宝箱のようなキラキラした輝きがどの曲からも感じられる珠玉の一品ヴァージンレコードと契約した2008年当時は、UKの音楽メディアではスタイル・カウンシルに比べられたり、「UKのジョン・レジェンド」という評価を得ていたようですが、自分が聴いた感じではエルヴィーンのサウンドはこうしたアーティスト達と比べて遙かに湿っぽさが少ない、カラリとした青空を想起するようなサウンドなのです。

むしろ自分が想起したのはベン・フォールズや、以前この「新旧お宝アルバム!」でもご紹介したあの山下達郎氏が敬愛するというフィフス・アヴェニュー・バンド。元来ピアニストだというエルヴィーンの作り出す曲はピアノがそのサウンドの中核を支えている、洗練されたコード進行の曲が多いのと、それでいてリズムセクションが際だっていて、印象的なアレンジの楽曲が素晴らしく、ボーカルもR&Bシンガーながらいわゆる「黒っぽさ」よりも、地声とファルセットを自由自在に行き来する洒脱なボーカルワークが素晴らしいあたりもそういう印象を強く持たせる理由でしょうか。エルヴィーン自身、両親が西インド諸島のセント・ルシア出身だという出自がこうした乾いたポップセンスを持つ背景にあるかもしれません。


爽やかなピアノリフと力強いに乗ったエルヴィーンのボーカルを分厚いコーラスがバックアップする冒頭の「In Colour」、歌詞に「パリでも東京でも君を好きなところに連れて行くよ」と出てくるのが受けたか、J-Waveのカウントダウンにもランクインした、こちらもリズム隊とピアノとコーラスが一体となった「Good Books」、もろフィフス・アヴェニュー・バンドや70年代初頭のバーバンク・サウンドを思わせるフィール・グッドな「The Sun And I」、アコースティックなナンバーの中で唯一、控えめながらシンセサイザーの打ち込みが効果的に使われている(でも曲調は70年代初頭のグルーヴィー・ポップ・マナーでベン・フォールズを彷彿させる)「Rise」などなど、アルバム前半は正に珠玉の楽曲が詰まっています。



後半、「That Road」「The Clock」のようにやや陰りのあるメロディの曲でもやはりフィール・グッドなポップさは変わりません。後者は珍しくピアノの代わりにフェンダー・ローズを使ったバラードですがこれがまた楽曲のドリーミーなポップさによくマッチしています。ピアノをパーカッシヴに駆使してドカスカ・ドラムとの共演で聴かせる「Control」はこのアルバムで最もベン・フォールズを思わせるナンバー。その他夢見るようなメロディの「Human Nature」やピアノとエルヴィーンの繊細なボーカルだけでしっとり聴かせる「Subtitles」など、最後までアルバムを彩る楽曲群の安定したクオリティの高さは素晴らしく、この作品が英米で陽の目を見なかったことが信じられないくらいです。

Elviin Good Books


こうした楽曲全13曲はすべてエルヴィーンの自作自演。そしてこのアルバムがUKでリリースされた2008年には、彼は当時デビューアルバム『19』(2008)でセンセーショナルにデビューしたアデルの最初のUKツアーのメインのサポーティング・アクトに抜擢。当時多くの聴衆にパフォーマンスを届けていたのですが、この素晴らしい作品が商業的にはブレイクに至らなかったためか、その後彼は音楽マネジメントの道に進むことになります。

そして彼が2012年にマネージャーとして仕事を始めた相手があのサム・スミスエルヴィンサムと会った時、二人は2008年のアデル・ツアーの際に最前列でアデルを見ていたサムエルヴィンが当時会話を交わしてことを思い出したのです。何という巡り合わせ。

そしてサム・スミスの3人目のマネージャーとなったエルヴィンは、グラミー賞ブリット・アウォードを総ナメにしたサムのデビューアルバム『In The Lonely Hour』(2014)に収録された、サムの3曲目の全英ナンバーワンヒットとなった「Lay Me Down」を友人のソングライター、ジミー・ネイプスと共作し、晴れて音楽ビジネスでの成功をサムと一緒に味わったのでした。


Elviin.jpg


長い苦労の末にサム・スミスの成功でやっと陽の目を見たエルヴィンの才能、そしてそれと時を同じくして彼の最初のアルバムであるこの『Made Of』が日本でリリースされていたことには、何やら運命的なものを感じざるを得ません

春が目の前まで来ているこの季節、エルヴィーンの素晴らしい楽曲に溢れたこのアルバムを是非手に入れて、耳を傾けてみて下さい。


<チャートデータ> チャートインせず

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!追悼〜#77「Just A Stone's Throw Away(愛はすぐそばに)」Valerie Carter (1977)

 #77『Just A Stone's Throw Away』Valerie Carter (Columbia, 1977)


日々少しずつ暖かくなる今日この頃、梅も盛りを過ぎ、もう少しすると桜の季節に突入しそうなそんな春爛漫に向かう感じで、思わず気持ちも軽くなり、いろいろな音楽を聴きたくなるそんな季節になってきました。


そんな明るい気持ちになる季節、残念ながらこの週末にまた悲しい知らせが。70年代にフォーク・ロック・トリオのハウディ・ムーンのメンバーとしてシーンに登場、70年後半以降何枚かのソロアルバムを出しながら、数々のポップ・ロック系の作品のバックを固めるセッション・バックアップ・ボーカリストとして活躍したヴァレリー・カーターの訃報に愕然とした古くからのファンの方も多いと思います。彼女は、あのスティーヴ・ウィンウッドの1987年の大ヒット曲「Valerie」にもその素晴らしさを歌われた多くのミュージシャンからの敬愛を集めたボーカリストでした。

その彼女を追悼しつつ、まだ彼女の素晴らしい歌声に触れていないかもしれない若い洋楽ファンの皆さんに是非彼女の素晴らしさを知ってもらいたくて、今週の「新旧お宝アルバム!」は彼女のソロ・デビュー作『Just A Stone's Throw Away(愛はすぐそばに)』(1977)をご紹介することにしました。


Just A Stones Throw Away 

既に古くからのウェスト・コースト・ロック・ファンや、AORファンの皆さんの間ではその美しくも時にはソウルフルで力強いヴォーカルの魅力で広く人気のあったヴァレリー・カーターのキャリアの始まりは、上述のようにLAの有名ライヴハウスである「トルバドゥール」での、ハウディ・ムーンのメンバーとしてのライヴと、それに続くアルバム『Howdy Moon』(1974)のリリースでした。ハウディ・ムーンは、彼女の他に以前#63でご紹介したフィフス・アヴェニュー・バンドのギタリストだったジョン・リンドと同じくギタリストのリチャード・ホヴェイの3人組。後にヴァレリーのメンター(導師)となり、彼女を70年代カリフォルニアのミュージック・シーンに導いていくこととなるリトル・フィートローウェル・ジョージのプロデュースによるアルバムは残念ながら商業的にはブレイクしませんでしたが、ヴァレリーはこのアルバムに参加したリトル・フィートのメンバーやアンドリュー・ゴールド、ジョン・セバスチャン、後のトトのメンバー、デヴィッド・ペイチジム・ケルトナー、チャック・レイニーといった当時のカリフォルニア音楽シーンを代表するミュージシャン達との交流を深めていきました。

そしてその間ジェームス・テイラーのアルバム『Gorilla』(1975)『In The Pocket』(1976)といったアルバムのバックコーラスや、リンダ・ロンシュタット、ジャクソン・ブラウンといったウェスト・コーストの大物ミュージシャンのツアーに参加するなどしてシーンでの確かな存在感を高めていったのです。


Howdy Moon


1977年にローウェルの導きでリリースした、今日紹介する初ソロアルバムは、収録された楽曲のスタイルといい、バックを固める当時のカリフォルニア音楽シーンを代表するそうそうたるミュージシャンのプレイといい、彼女の可憐なポートレートをあしらったジャケットといい、いずれもヴォーカリスト、ヴァレリーの魅力を最大限に発揮するに充分な出来です

何しろ、一曲目、70年代初頭のR&Bボーカル・グループ、ファイヴ・ステアステップスの大ヒットバラード「Ooh Child」のカバーからして、冒頭のエレピのイントロからヴァレリーの透き通ったような美しいボーカルがふわっと立ち上がってくるあたりの素晴らしさに、初めてこのアルバムを聴いた当時(自分は高校生でしたw)震えるような感動を覚えたものです。そして他の曲にも言えることですが、単に歌声が美しいだけでなく、原曲のR&Bテイストを絶妙に表現するそこはかとないソウルフルさも持ち合わせているのがヴァレリーのヴォーカルの独特な魅力です。この曲、アルバムの「つかみ」としては絶妙で、プロデューサーのジョージ・マッセンバーグやアルバム制作に深く関わったであろうローウェルの細心の気配りが感じられるオープニングです。


Ooh Child 


自作の「Ringing Doorbells In The Rain」は引き続き高音域では美しいヴィヴラート、中低音域ではぐっとソウルフルな発声でグルーヴを生み出すレンジの広いボーカルでやはりヴァレリー独特の魅力満点のちょっとゆるいファンク気味のスタイルの楽曲。続くローウェルの曲「Heartache」はオーケストラとピアノを配してしっとりと失恋の哀愁を歌うバラードで、バックにリンダ・ロンシュタットと思しきコーラスが寄り添う楽曲。そしてローウェルと、ハウディ・ムーンのアルバムにも参加していた元ラヴィン・スプーンフルジョン・セバスチャンのペンによる「Face Of Appalachia」は、ジョンの1974年のアルバム『Tarzana Kid』にも収録されていた、バンジョーの音色が郷愁を誘うフォーキッシュなナンバー。嫌みのないそれでいて巧みなボーカルテクニックを披露してくれるヴァレリーのパフォーマンスは、こうしたシンプルなアレンジな曲で最高に映えます。




そしてLPでいうとA面最後の「So, So Happy」はアース・ウィンド&ファイアエモーションズ、アニタ・ベイカーといった70~80年代メインストリームのR&Bアーティストの数々のプロデュースで知られるスキップ・スカボローの作による、ミディアムテンポのウキウキするようなナンバー。元々ハウディ・ムーンの盟友だったジョン・リンドが後にEW&Fの「Boogie Wonderland」の共作者となった人脈によると思われるスキップの曲と、バックのホーンはEW&Fのメンバーだと思われますが、前述のように美しい歌声の中にソウルフルさを内包するヴァレリーのボーカルのまた別の魅力を引き出しています。


LPでいうとB面の冒頭のアルバムタイトル・ナンバー「A Stone's Throw Away」はこれもこの新旧お宝アルバム!#45でご紹介したバーバラ・キースと夫のダグ・ティブルスの作品で、紹介した彼女のアルバムにも収録されていた、ゴスペル・スワンプ調のソウルフルなグルーヴ満点の曲。バーバラのバージョンに比べるとやや小綺麗な感じのアレンジになっていますが、中盤以降でヴァレリーが聴かせるゴスペル調の力強いボーカルはここでも彼女のボーカリストとしてのレンジの広さを証明してくれます。今回の訃報に当たってツイッターでフォーク・シンガーのショーン・コルヴィン曰く「最初彼女の歌を聴いた時、唯々彼女のように歌いたいと思って努力したけど、誰も彼女のように歌うことは出来ないのよ」。まさしく唯一無二のヴァレリーのボーカルの真骨頂を感じさせるナンバーです。


再びローウェルとヴァレリーの共作によるしっとりとしたバラード「Cowboy Angel」に続いて、故モーリス・ホワイト以下EW&Fのメンバーのペンによる作品で、彼らの演奏とホーンセクションをバックにパフォームされる、都会的なファンク・ナンバー「City Lights」が意表を突いて登場。アースのアルバムに入っていても全然おかしくないこのナンバー、ハーモニー・ボーカルを付けているモーリスヴァレリーのボーカルが見事に一体となったグルーヴを生み出していて、ここでもまたヴァレリーの多才さが発揮されています。

そしてアルバム最後「Back To Blue Some More」はローウェル、ヴァレリー、そしてリトル・フィートのキーボードのビル・ペインの作品。前の曲の都会的なテイストを引き継いで、こちらは都会の夜を思わせるようなジャジーな楽曲をヴァレリーが洒脱にしっとりと歌い上げてラストを締めます。

Just A Stones Throw Away (back)


残念ながら本作も、そしてこのアルバムに続いてトトのメンバーをバックにリリースした2枚目の『Wild Child』(1978)も商業的な成功には至らず、この後ヴァレリーはセッション・シンガーとしてのキャリアを継続することに。クリストファー・クロスの大ヒット作『南から来た男(Christopher Cross)』(1980)を初めとしてニコレット・ラーソンNicolette』(1978)、ドン・ヘンリーThe End Of The Innocence』(1989)、ジャクソン・ブラウンLooking East』(1996)と様々なアルバムで活躍する一方、『The Way It Is』(1996)、『Find A River (EP)』(1998)、『Midnight Over Honey River』(2004)と自分の作品もリリースしていましたが、2000年代に入って思うような活躍が出来ないストレスからか、薬物依存となり一線から姿を消してしまいました。2009年に薬物不法所持によって逮捕されるというニュースは昔からのファンや、彼女を敬愛するアーティスト達の心を痛めたのです。

The Way It Is


しかしデビュー以来彼女の才能を認めて自らの数々のアルバムやツアーに起用し続けてきたジェイムス・テイラーのサポートもあり、2011年には薬物依存症治療プログラムを無事完了したという明るいニュースが伝わってきていて、これから少しずつまたあの素晴らしい歌声を聴かせてくれるという期待を持たせてくれていたのですが、今回の訃報は本当に残念です。まだ64歳と若かった彼女の死亡の原因はまだ詳細が伝わってきていませんが、唯々冥福を祈るのみ。


春がもうすぐそこまできている今、改めてヴァレリーの美しくも表現力豊かなボーカル・パフォーマンスが堪能できるこのアルバム、2005年にソニーミュージックさんがCD再発してくれていて、比較的手に入りやすいと思いますので、是非一人でも多くの人に聴いていただきたいな、と心から思うことしきりです。


 <チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位182位(1977.4.30付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#76「But You Caint Use My Phone」Erykah Badu (2015)

#76But You Caint Use My PhoneErykah Badu (Control Freaq / Motown, 2015)


ここ数日は春一番だか二番だか知りませんが、春の到来を告げる強い風が吹いたり、雨が降ったりしながら日々少ーしずつですが春に近づいているような気がしますね。うちの庭の河津桜や、近所のおうちの梅の木がもう満開になってきていて、春はもうそこのようです。


さて、今週の「新旧お宝アルバム!」は最近のアルバムのご紹介ということで、5年間の活動休止期間を経て久々の作品をミックステープという形で発表した、今やベテランのR&Bシンガー、エリカ・バドゥの6枚目のアルバム『But You Caint Use My Phone』(2015)をご紹介します。


But You Caint Use My Phone 


エリカ・バドゥといえば、ローリン・ヒルらと共に1990年代のヒップホップのルネッサンス的隆盛時に「オーガニック・ソウル」と言われた70年代ソウルに回帰したスタイルのR&Bシンガーとして、大いに人気を集めたR&Bシンガーソングライターですよね。デビュー作『Baduizm』(1997)、2作目『Mama's Gun』(2000)による鮮烈なシーンへの登場、「On & On」(1996年最高位12位)や「Bag Lady」(2000年最高位6位)といったポップ・チャートでの大ヒットもあり、90年代後半のR&Bシーンを代表するアーティストの一人として存在感ある活動をしていたエリカですが、2010年のアルバム『New Amerykah Part Two (Return Of The Ankh)』発表後はロバート・グラスパージャネル・モネイなど他のアーティスト作品への客演以外は、特筆すべき活動を行っていませんでした。その間、アフリカで新しいアルバムに取り組んでいる、という噂はあったものの5年間が経過。


そんな中、2015年10月にエリカがサウンドクラウドを通じてネットにリリースしたのが、その年の後半にヒップホップ・シーンのみならずポップ・チャートでも大ヒットとなったドレイクの「Hotline Bling」のリミックス・トラック。それに続いてデジタル・ダウンロードとストリーミングのみの形でiTunes / アップル・ミュージックにリリースされたミックステープが今回ご紹介する『But You Caint Use My Phone』です。

そのタイトルからも分かるように、このミックステープのテーマは「電話」。それも今時のスマホや携帯電話というよりも、昔ながらのプッシュ式電話にかかわる様々な情景やドラマをイメージしたようなサウンドコラージュや効果音や、電話に関する過去の様々な楽曲のサンプリングや歌い直しをふんだんに含む楽曲が並ぶ、いわばコンセプト・ミックステープになっていますエリカを模したと思われるジャケのイラストの女性も千手観音のように無数に生えた手にそれぞれ異なるタイプの電話を手にしている、というポップなデザイン。


Erykah Badu


オープニングからして電話の話し中のシグナルからタイトルフレーズを繰り返すエリカの歌声が繰り返される「Caint Use My Phone (Suite)」。この曲も含めてこの作品の楽曲はいずれも極めてシンプルなフレーズとメロディ、そして各種効果音の繰り返しで一貫していて、通常のAメロ、Bメロ、ブリッジといった展開をする楽曲はほとんどありません。しかしそうしたシンプルなメロディ・フレーズの繰り返しと、今時のR&B的な残響たっぷりの音像と、タイトなドラム・サウンド(これを彼女は最近のトラップ・ラップの名前をもじって「TRap &B」と呼んでいるようです)、そしてエリカの神秘的な歌声がアルバム全体の不思議なグルーヴ感を生み出していて、それがこの作品の最大の魅力になっています

冒頭のタイトル曲に続いて、ひたすら「Hello Hello, Hey Hello Hello」とエリカが誰かに呼びかけるようなわずか30秒の「Hi」から、リズムボックスのチャカポコ・ビートで始まるミニマルなサウンドの「Cel U Lar Device」に突入。本作のリリースのきっかけとなったのはエリカによるドレイクの「Hotline Bling」のリミックスですが、ここでもメインメロディにまんま「Hotline Bing」のフレーズが歌われるというまあ言ってみれば本歌取りをした自分のリミックスの返歌みたいな作品。ポップヒットとしてあちこちで本当によく聴かれたフレーズとメロディで一気にエリカの世界に持って行かれるのが不思議な感覚です。


今回のこの作品は、エリカの地元であるテキサス州ダラスの若きヒップホップ・プロデューサーであるザック・ウィットネスエリカの共同プロデュースであり、こうした今風のヒップホップR&Bサウンドを強く感じさせる音像構成についてもエリカだけではなく、エリカとは親子くらい年の違うザックの貢献度は高いのでしょう。続く「Phone Down」などは正にそういう作品。この曲も基本的に残響バックグラウンドにタイトなドラム、Aメロの反復だけで終始するエリカの夢見るようなボーカル、という道具立てで何とも言えないグルーヴを作りだしています。

ItsRoutineという無名のラッパーをフィーチャーしたリズムボックス・ヒップホップといった感じの「U Use To Call Me」に続いて聞こえてくるのは80年代R&Bファンには懐かしい、あのニュー・エディションの「Mr. Telephone Man」のフレーズ。ここもあの曲のサビの2ラインのフレーズだけを、ドラムビートと夢見るような音像をバックにエリカが延々と口ずさむ、というスタイルです。


アルバムはリズムボックスビートをバックにアッシャーの大ヒット曲のフレーズをエリカが歌い直す「U Don't Have To Call」から、再びItsRoutineをフィーチャーした「What's Yo Phone Number / Telephone (Ghost Of Screw Mix)」、そしてアフリカ・バンバータあたりのエレクトロ・ファンク的意匠満点なトラックに乗ってコンピューターの人工知能がしゃべってるような男女の声が淡々と歌う「Dial' Afreeq」(エジプシャン・ラヴァーことグレッグ・ブロサードの80年代のエレクトロ・ヒップホップ曲のフレーズをサンプル)と、アルバム後半は様々なスタイルの音像をバックにエリカが縦横無尽のグルーヴを展開。


そして、ドレイクの「Hotline Bling」のサンプル元としても使われたティミー・トーマスの「Why Can't We Live Together」のリズムボックスビートをバックに、またしても催眠効果を持つエリカのボーカルでタイトルフレーズが延々と歌われる1分半の「I'll Call U Back」を経て、アルバム最後の「Hello」では、冒頭の「Hi」と同じフレーズでエリカの歌う「Hello Hello...」という呼びかけに応えるようにラップするのは、エリカの以前の夫でもあるアウトキャストアンドレ3000。最初はエリカの「Hello Hello...」という歌声とアンドレの「I don't know I don't know」というラップフレーズが交錯していたのが、途中からエリカの歌うトッド・ラングレンの(というか、ここではそれをカバーしたアイズレー・ブラザーズのバージョンを模したというべきかも)「Hello It's Me」にアンドレもラップではなく歌で応え始めるという展開。最後は元夫婦の二人が仲むつまじくコーラスを付けながらデュエットする歌声がフェイドアウトするのが何ともほっこりした印象を残してくれます。


But you caint (back)


この作品については、上述の通りどのトラックも楽曲としては完成形というよりはフレーズやメロディのループに毛が生えたくらいの構成のものがほとんどなので、アルバムとして捉えるには不十分ということであまり高く評価しない音楽メディアもあるようですが、共同プロデュースのザックが作り出す、エリカ言うところの「TRap & B」トラックに乗って彼女のドリーミーな歌声が絡んでいくことによって他のアーティストではなかなか出せないグルーヴ感が生まれていて、それだけでも個人的にはこの作品を高く評価したいと思っています。

あなたもこの作品でエリカならではのグルーヴに身を任せて、極上のR&B体験をしてみませんか?


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート 最高位14位(2015.12.19付)

同全米R&B/ヒップホップアルバムチャート 最高位2位(2015.12.19付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#75「Wrecking Ball」Emmylou Harris (1995)

 #75『Wrecking Ball』Emmylou Harris (Asylum, 1995)


先週の今頃は第59回グラミー賞の発表で大いに盛り上がってましたが、蓋を開けてみればアデルチャンス・ザ・ラッパーが主要賞をそれぞれガッチリ獲得した今年のグラミーでした。個人的にはこのコラムでもご紹介したアンダーソン・パークKINGにも何か受賞して欲しかったのですが、でもチャンス新人賞とラップ・パフォーマンス部門、ラップ・アルバム部門の獲得は、彼のアルバムがストリーミング・オンリーということを考えると大きな「事件」であったことは間違いないところ。一方既に来年のグラミー賞候補の予想も取りざたされていて、ブルーノ・マーズ、ローリング・ストーンズ、ア・トライブ・コールド・クエスト、ソランジェ、そしてもうすぐリリースされるエド・シーランのアルバムやレディ・ガガのシングル曲あたりは来年のグラミー候補は少なくとも堅いところではないかと思っています。来年もブログで予想頑張ってやりますのでよろしくお願いします。


さて今週の「新旧お宝アルバム!」は少し古めのアルバムをご紹介する順番。今回は少し古いといっても90年代後半とまあ比較的最近の時期に、それまでも長いキャリアを誇っていたエミルー・ハリスが、自らのキャリアを見事に再定義した画期的な作品ながら、日本の洋楽ファンの間で語られることの少ない傑作、『Wrecking Ball』をご紹介します。


Wrecking Ball 

皆さんはエミルー・ハリスというアーティストについて、どのようなイメージを持たれているでしょうか?バックグラウンドがカントリー・ミュージックであることや、カントリー・シーンではいざ知らず、ポップ・フィールドでこれといったヒット曲もあまり持ち合わせいないことから、熱心なカントリー/カントリー・ロックのファン以外の日本の洋楽ファンに取ってはハッキリ言って残念ながら馴染みの薄いアーティストではないかと思います。

しかし彼女は、古くは60年代後半にバーズフライング・ブリトー・ブラザーズといった歴史に名を残すカントリー・ロック・バンドのメンバーで、後のイーグルスらに大きな影響を与えた伝説のカントリー・ロッカー、グラム・パーソンズの遺作(彼は26歳で薬物中毒で死亡)『Grievous Angel』(1974)でのグラムとの共演を事実上キャリアの振り出しに、70年代は様々なジャンルの曲をカバーしたアルバムをリリース、ただのカントリー・アーティストの範疇に止まらない活動でシーンでの高い評価を獲得して、ザ・バンドの解散コンサートである『The Last Waltz』(1978)にも参加。80年代にはドリー・パートン、リンダ・ロンシュタットとの『Trio』(1987)でグラミー賞の最優秀アルバム部門にノミネートされるなど、ポップ・フィールドでも存在感を示し、90年代以降は今回ご紹介する『Wrecking Ball』や、元ダイア・ストレイツマーク・ノップラーとの共演などで大きくロック的方向に自らを再定義して数々の高い評価を得た作品を発表。69歳の現在もコンスタントに質の高いアルバムを発表し続けて、半世紀にも及ぶキャリアを見事に発展させ続けてきている、そんなアーティストなのです。


そんな彼女が『Trio』の後、カントリーのみならずポップ・ロック・アーティスト達のカバー曲をカントリー的アプローチで聴かせる、という従来のスタイルで何作かの意欲作を放つものの、商業的に振るわずシーンでも今ひとつ輝きを失っていた時期がありました。その時、エミルーが活路を見いだすべく、自らのスタイルを転換するために起用したのが、80年代にその独特の音響的、浮遊感満点のサウンド・プロダクションでU2の『ヨシュア・トリー(Joshua Tree)』(1987)などの仕事で名を挙げたダニエル・ラノワ

彼のサウンド・プロダクションと、エミルーの幻想的と言ってもいい、浮遊感と取り憑かれたような哀愁に充ち満ちたボーカルとの組み合わせは、見事にこのアルバムでマジックを実現しています



本作を通して参加したU2のドラマー、ラリー・ミューレンJr.の、セカンド・ラインを思わせるストイックなタム・ロールをバックに歌うエミルーの歌がまるでアイリッシュのフォークロアのような雰囲気を醸し出している「Where Will I Be?」で始まるこのアルバム、正に自分の向かっている方向性を探っているかのようなエミルーの歌声が不思議な緊張感を演出。この曲も含めてアルバムを一貫して聴かれるのは、控えめな音数ながら陰りのある、それでいて夢想的な浮遊感満点の音響的雰囲気による楽曲の数々です。

しかもその大半は、従来のエミルー作品の特徴でもある、幅広いアーティスト達による様々なスタイルの楽曲たち。本作にもバックで参加しているニール・ヤング作のタイトル曲、ボブ・ディラン1981年のどちらかというとマイナーなアルバム『Shot Of Love』からのナンバー「Every Grain Of Sand」、カナダの個性的なフォーク・シンガーソングライター、アナ・マッギャリグルの「Goin' Back To Harlan」、90年代のオルタナ・カントリー・ロック・ムーヴメントの火付け役となったギタリスト、スティーヴ・アールの「Goodbye」、この後自らも名盤『Car Wheels On A Gravel Road』(1998)でオルタナ・カントリー界を代表するアーティストとしてブレイクするルシンダ・ウィリアムスの「Sweet Old World」、そして何とあのジミヘンの『Are You Experienced?』(1967)所収の楽曲を大胆にエミルー風にアレンジした「May This Be Love」などなど、そのカバー曲の選曲の幅広さと多様性には感服するばかり。




そして更に刮目すべきは、それらの多様なアーティスト達による様々な楽曲が、ダニエル・ラノワのサウンドとエミルーの歌によって作り出される高揚感と見事に一体化した出来になっていて、あたかもこれらがもともとエミルーの曲であったかのような強いイメージを作りだしていることです

このアルバムのエンディングは、オープニング同様、ラリー・ミューレンJr.のストイックなドラミングが強い印象を残す、エミルー自身と彼女の長年の盟友ロドニー・クロウェルのペンによる「Waltz Across Texas Tonight」。まるで無駄をそぎ落とした演出で淡々とプレイされた演劇か映画を見終わった後のような静かな感動を残して、アルバムは終わります。


Wrecking Ball (Back)


このアルバムは、エミルーのキャリアを全く新しいアプローチで定義し直した作品としてシーンでも高く評価され、その年のアメリカ各音楽誌の年間アルバム・ランキングの上位にリストアップされた他、翌年のグラミー賞で最優秀コンテンポラリー・フォーク部門を受賞するなど、停滞していたエミルーのキャリアを大きく押し上げる作品ともなりました。

またこの作品の後、それまでほとんど他人の楽曲のみを歌ってきたエミルーが積極的に自ら曲作りに取り組むようになり、リンダ・ロンシュタットとのデュエット・アルバム『Western Wall: The Tucson Sessions』(1999)では3曲、そして『Red Dirt Girl』(2000)では何と12曲中1曲を除く全曲、『Stumble Into Grace』(2003)でも11曲中10曲を自作曲で埋めるなど、この後もアーティストとしての更なる大きな進化を遂げています。


最近では、この頃ほどの迫力ある作品作りではないものの、盟友ロドニー・クロウェルと『Old Yellow Moon』(2013)および『The Traveling Kind』(2015)の2枚のコラボ作を発表、コンスタントな活動を続けています。


Emmylou Harris


漆黒の長い髪が神秘的だった20代30代の頃のエミルーの髪の毛は今やプラチナ・シルバーですが、年齢を重ねて更にその美しさと気高さは円熟味を増していますし、何かに取り憑かれたような、澄み切った美しい歌声も変わりありません。おそらく自分は今後もリリースされるであろうエミルーの作品を聴き続けていくと思いますし、そうして一生付き合う価値あるアーティストだと思います。その彼女の大きな転換策となったこの素晴らしいアルバムを是非一度お聴きになって頂ければこんなに嬉しいことはありません。


 <チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位94位(1995.10.14付)

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

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