Life Is A Rock - 洋楽こそ我が人生
洋楽全般について、英米ヒット・チャートに登場有無に関係なく、お気に入りの洋楽作品についての独り言やコメントをつれづれに掲載します。「新旧お宝アルバム!」「恒例グラミー賞大予想」など定期コラムが中心です。洋楽 ファンサイト、meantime(www.meantime-jp.com)のスピンオフ企画としてお楽しみ下さい。
【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#113「August And Everything After」Counting Crows (1993)

 #113August And Everythign AfterCounting Crows (Geffen, 1993)


ピョンチャンオリンピックでの羽生・宇野選手の金銀ワンツーフィニッシュで大変盛り上がった先週、そのオリンピックも終盤に向かい2月も後半になる中、外の気候は着実に春に向かって進んできているように思います。うちの庭の早咲きの河津桜はもうこの週末あたりからほころび始めました。春の到来楽しみですね。

今週の「新旧お宝アルバム!」は、どちらかというと春というよりは黄昏れた初秋、といった雰囲気をたたえる成熟した楽曲サウンドと、映画の一場面を切り取ったようなストーリー性の高い歌詞で構成された、とてもクオリティ高い楽曲満載の、90年代アメリカンロックの復興を当時担った代表的バンドの一つ、カウンティング・クロウズの名作の誉れ高いメジャー・デビュー・アルバム『August And Everything After』(1993)をご紹介します。


Counting Crows August Everything After 


90年代作品を改めて評価してみようシリーズ。


そもそもこのコラムや、Facebookで自分が展開している《Song Of The Day》の活動を始めるきっかけになったことなのですが、現在の洋楽聴取人口の過半数を占めていると思われるアラフィフから上、団塊の世代の皆さんが、往々にして大体1990年くらい、場合によっては80年代半ばくらい以降の作品・アーティストを聴こうという方が少ないという問題意識があります

ある意味致し方ないと思うのは、80年代に盛んに行われたシンセ打ち込みサウンド(ローランド社TR808、通称「ヤオヤ」やヤマハ社DX-7などが盛んに使われた)に支配された人工的でチープな楽曲や、創造性や楽曲構成力に乏しいアメリカのハートランド系やスラッシュ・メタル系のバンドがやたら跋扈したことで60・70年代から洋楽を聴いてこられたこの世代の方々の多くは大抵80年代後半には新しい音を追っかけるモチベーションを失って、それまでに発表された作品・アーティストによりどころを求めたという状況があったことです。事実自分もこの時期、一時会社派遣の留学で世俗的な生活を中断したこともあって、上記のような理由であまり洋楽を聴かない時期がありました。


ただ自分にとって幸運だったのは、そこから普通の業務に復帰した93年くらいにたまたま知り合った自分よりちょっと年下の「今のロック・R&Bを聴いている洋楽ファン」の友人たちと知り合い、洋楽ファンサークル「meantime」の運営メンバーの一人としてその時期の「今の音」も含めてどっぷり聴きこむ機会を得たこと。2006年くらいまで続いたこの「meantime」の活動が今の自分の年代やジャンルにこだわらず広くかつある程度突っ込んで洋楽を聴き続けることができるスタイルを作ってくれたと思っています。

先日同世代の洋楽ファンと話をしていて「90年代以降は聴いてないし、聴いて見たけどあまり合わないと思って昔の音ばかり聴いてる」というコメントがやっぱり出てくるのを聴いて、今週のこのコラムは「90年代に登場した素晴らしい作品を是非取り上げたい」ということでこのカウンティング・クロウズの名盤を取り上げた次第。このアーティストとアルバムも、93年当時知り合ったmeantimeのメンバーに教えてもらった作品の一つです。


Counting Crows


前置きが長くなりました。

カウンティング・クロウズのサウンドを一言で表現するのはなかなか難しい。全盛期はラスタヘアーかと思うようなボリューミーで個性的な髪型とちょっとポチャッとした体型からはなかなか想像できないような、心の奥底に訴えてくるような情感たっぷりのボーカルを聴かせるリードボーカルのアダム・ドゥーリッツの個性的な歌唱スタイル。アコースティック・ピアノやハモンドオルガンに加えてアコーディオンの音色が、とてもセピア色でボヘミアンな雰囲気を醸し出す独得の楽器構成。それでいて演奏の軸はしっかりとしたギター、ベース、ドラムスのバンドサウンド。そして極めつけは半分以上の楽曲を書くアダムの、物語を語るかのようなストーリー性が高く、孤独や満たされぬ愛情ややさぐれた気持ちなどを一流の歌詞に乗せてくる表現力。そして何よりもこうした楽曲や演奏、歌唱のスタイルが、80年代のアメリカンロックの典型的なスタイルとは対極的で、むしろ70年代初頭のスワンプやブルーズ、そして今風にいうとザ・バンドに代表されるようなアメリカーナなサウンドに根差していること。


そしてこういうアルバムを作らせたら天下一品のプロデューサー、T-ボーン・バーネットの下、とてもこれがメジャーデビュー作とは思えないほどの成熟した叙情性満点の素晴らしい楽曲群を聴かせるこのアルバム、中でも最も有名なナンバーはリード・シングルとしてラジオ・リリースされて、ビルボード誌エアプレイ・トラック・チャートでも最高位5位の大ヒットとなった3曲目の「Mr. Jones」(当時ビルボード誌Hot 100はフィジカル・シングルの出ない曲はチャートインさせなかったので、この曲のようにラジオエアプレイによるメガヒットはチャートインすらしなかったという事情あり)。

初期のビリー・ジョエルエルトン・ジョンの楽曲の歌詞構成を彷彿させるようなトルバドゥールで饒舌な歌詞の奔流が、エフェクトも何もないギターストロークで始まってだんだんにテンポと楽器を加えていって、ブリッジでは耳に残るサビメロにドライヴされた楽曲としてのカタルシスに達するという、およそ80年代では考えられないスタイルの楽曲。

そして歌詞の内容は、アダム自身と彼の昔からのバンド仲間のマーティ・ジョーンズ(Mr.ジョーンズ)が、サンフランシスコのニュー・アムステルダムというバーでビッグ・スターになる夢を語りながら、Mr.ジョーンズの父親のフラメンコ・ギタリストの弾くギターに合わせて踊る黒髪のフラメンコ・ダンサーを眺める、といった正に映画の一場面のような設定



「Mr.ジョーンズと僕は将来の夢を見ている

そして美しい女達を見つめてる

『ほら、あの娘、君をみてるぜ。違う違う、僕の方を見てるんだ』

明るいスポットライトに立って、僕は灰色のギターを買った

誰もが自分のことを好きなら、寂しくなることも決してないだろう」


この他にもピカの絵への言及や、ボブ・ディランになりたいなんていう歌詞も飛び出すこの曲は、ちょうどNYの留学から帰ってきて日本で日常の仕事の毎日に戻って、何を聴くべきだろうと途方にくれていた自分の耳にすーっと入って来た。ちょうど1992~93年頃というのは、このカウンティング・クロウズの他にも、ブラック・クロウズィランの息子のジェイコブ率いるウォールフラワーズといったような、この後90年代を通じてアメリカン・ロック・シーンを背負っていく新しいバンド達が勃興した時期。その中でちょっとユニークなスタイルのカウンティング・クロウズのサウンドはとても鮮烈に写ったものでした。



アルバムには他にも、夜明けのように静かなエレクトリック・ギターのつま弾きからだんだんに盛り上がっていく、「Mr. Jones」に似た構成で、ナッシュヴィルからやって来たマリアのことを歌うオープニング「Round Here」、アコーディオンが効いてて、典型的アメリカ中西部のネブラスカ州の一都市のことを歌ってるとは思えない「Omaha」、ハモンドオルガンの音色と音数を抑えたギターのつま弾きからサビにかけてレイドバック調に盛り上がるあたりが快感の「Time And Time Again」、マンドリンのイントロがちょっとREMの曲を想起させるけど、曲に入るとストレートなミディアム・テンポのロックの「Rain King」、ゆったりとしたギターのストロークに時々絡むピアノの音色とアダムのボーカルが楽曲全体のスケールの雄大さを演出している「Sullivan Street」、そしてアルバムラストでいきなりギターロックっぽいギターストロークを基調とした、彼らにしてはとてもストレートなロックナンバーながら「人生はあらゆる可能性に満ちているけど、下手をすると小さい時に思ってたよりずっとつまらなく、場合によっては残酷な結果になるから、そうならないように変化を常に求めてそういう連鎖を止めて行かなければいけないんだ」と歌う「Murder Of One」など、今聴いても、70年代のロックの名盤達と全く遜色ない、いやむしろ瑞々しくも新鮮な素晴らしい楽曲でいっぱいです


彼らはこのアルバムの成功で、1996年にはやはり「Goodbye Elisabeth」「A Long December」といったヒットもした名曲を擁するセカンド『Recovering The Satellites』をリリース、90年代を代表するアメリカンロックバンドの一つとしてシーンでの地位を確立。

アダム達はその後も自分たちの音楽スタイルを維持し、その後はこの2枚ほどの商業的成功にはつながらなくとも、4~5年に1枚くらいのゆっくりとしたペースで質の高いアルバムを出し続けて、現在も活動を続けている。現状では最新作となる通算7枚目の『Somewhere Under Wonderland』(2014)もちゃんとアルバムチャートのトップ10に入るヒットになってるし、評論家筋の評価もかなり高いようだ。


Recovering Satellite


同じ頃に90年代のアメリカンロック復興に貢献した他のバンドたち、例えばパール・ジャムらのグランジ系や、先ほど名前の出たブラック・クロウズ、ウォールフラワーズ、そしてよりインディーなベン・フォールズ・ファイヴらに比べると、なぜかカウンティング・クロウズというのは比較的最近語られることが少ないように思ってやや残念

90年代以降の音楽を聴かないシニア洋楽ファンだけでなく、最近洋楽を聴き始めた若い洋楽ファン達も是非これを機会に、カウンティング・クロウズというとてもいい楽曲を聴かせてくれるバンドを「発見」してもらえればこんなに嬉しいことはない


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位4位(1994.4.2付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#112「Gumbo」PJ Morton (2017)

#112GumboPJ Morton (Morton Records, 2017)


まだまだ北陸や新潟では豪雪が続いていて大変な状況が続いているようで、地元の皆さんのご苦労、心よりお見舞い申し上げます。一方関東では立春を過ぎたあたりから、日差しや空気の感じが少しずつ春に向かって変わり始めていることを感じさせてくれる日々が続いています。裏日本の皆さんも含めて春はそこまで来ているということで、もう少しの辛抱ですね。体調など崩されないよう、呉々もご自愛下さい。


今日はそうした早春の匂いを感じさせるような、有機的な暖かいボーカルと楽曲を聴かせてくれるアルバムをマルーン5のキーボーディストとしても活躍する一方、自分の故郷のニューオーリンズをベースに自らのレーベルを立ち上げてそこからリリースしたアルバムが、先日のグラミー賞にもノミネートされたR&Bシンガーソングライター、PJ・モートンのアルバム『Gumbo』(2017)をご紹介します。


PJ Morton Gumbo 


父親がニューオーリンズ地元のバプティスト教会の司教でゴスペル・シンガー、母親がやはり牧師という日常に宗教的な環境がある中で育ったPJがミュージシャンとしてその才能を広く知られるようになったのは、2010年、29歳の時に友人に勧められて受けたマルーン5のキーボーディスト兼バックシンガーのオーディションで高い評価を受けた時というから結構遅咲きのアーティスト

それまでもインディー・レーベルから4枚のアルバムを出していたものの脚光を浴びることのなかったPJマルーン5の正式メンバーとなることでより広くそのパフォーマンスを知られることになり、2012年にはドレイクなどを擁するメジャーレーベルのヤング・マネーと契約、翌年リリースしたメジャー・デビュー作『New Orleans』(2013)からのスティーヴィー・ワンダーをフィーチャーしたシングル「Only One」がその年の第56回グラミー賞の最優秀R&Bソング部門にノミネートされるというブレイクを果たします

自分がPJの作品と巡り会ったのはこの『New Orleans』が始めてで、きっかけはやはりグラミーのノミネートを見て「?誰だろうこれ」と思ったこと。聴いてみたところ、そのスムーズでオーガニックな70年代R&B然とした楽曲がすっかり気に入ってしばらくよく聴いていました。


PJ Morton New Orleans


その後しばらく名前を聴かずすっかり忘れていたところ、先日の第60回グラミー賞で、この『Gumbo』が最優秀R&Bアルバム部門、そしてアルバム冒頭収録の「First Began」が最優秀R&Bソング部門にノミネートされているのを見つけ「おーPJモートンまた出してるのか」と喜んで聴いてみたところ、これがなかなか素晴らしい作品なので今回取り上げることにした次第。

先日のカブキ・ラウンジでのグラミー賞予想イベントでご一緒した吉岡正晴さんも最近お気に入りでよく聴いているというこのアルバム、まず聴いてすぐ気が付くのが、PJの歌い回しやメロディ・コード展開など楽曲構成が、もろスティーヴィー・ワンダーを思わせること。前作の『New Orleans』でも、スティーヴィーをフィーチャーした曲があったくらいで、もともと歌い口がスティーヴィーっぽいという特徴はあったのですが、今回は、それを遠慮することなく、ひょっとしてかなり意図的にスティーヴィーっぽさを前面に出している印象があります

こういうアプローチについては好き嫌いあるのでしょうが、PJの場合ただの物まねや、あざとさは一切なく彼自身のスタイルの一つの表現方法として成功していると思いますし、スティーヴィーに代表される70年代半ばくらいまでの有機的なR&Bがお好きな向きにはたまらない内容になっていて、このアルバム気にいって頂けること請け合いだと思います。



もし僕が死んだら、また始めて君と会った頃のように別の世界で君と巡り会って、同じように恋に落ちよう、と暖かく歌う冒頭の「First Began」は歌い出しはジョン・レジェンドっぽいなあ、という感じなのですが、途中でボーカルをフェイクさせるあたりから、もうめっきりスティーヴィー(笑)。フェンダーローズを基調にウォーキング・リズムを刻む楽曲は例えようもない懐かしさを感じさせます。中間部分にニューオーリンズ同郷の若手ラッパー、ペルをフィーチャーした「Claustrophobic」も、『ファースト・フィナーレ』あたりでスティーヴィーが多用していたムーグ・シンセサイザーっぽいキーボード音をベースにしたミドル・シャッフルの気持ちいい曲。ペルのラップが結構効いていて、単なるスティーヴィー・コピー曲になるのをうまーく抑えてるのがいい所。

Sir Duke」や「As」みたいなキーボード・リフがご機嫌でファンキーな「Sticking To My Guns」も楽しいし、ストリングス・シンセとムーグっぽいキーボードで切々と歌う「Religion」や「Alright」も聴いててひたすら気持ちいい。



新進気鋭の若手R&Bシンガー、BJ・ザ・シカゴ・キッドとコーラスグループのハミルトーンズをフィーチャーした「Everything's Gonna Be Alright」でちょっとカーク・フランクリンのゴスペル・クワイアのパフォーマンスを彷彿させるアップテンポの楽曲を聴かせてくれるあたりは、PJのゴスペルのバックグラウンドを強く感じさせますが、続く「They Gon' Wanna Come」では再びスティーヴィー・モードに回帰(笑)。『キー・オブ・ライフ』あたりに入っていてもちっともおかしくないミディアム・バラードのこの曲も理屈抜きのグルーヴが心地良い一曲。このアルバムでは一番スティーヴィーの意匠を感じさせない「Go Thru Your Phone」を経て、アルバムは何とあのビージーズの「How Deep Is Your Love」をミディアム・アップの軽快なアレンジでR&Bグルーヴ満点に料理したパフォーマンスでクロージングに。ここまで9曲わずか29分という最近のアルバムにしては大変短いですが、楽曲クオリティが極めてどれも高くて、最優秀R&Bアルバムにノミネートされる資格充分といったところです。



今回、自らの出自であるニューオーリンズの名物料理、ガンボをアルバムタイトルにした理由について、PJ自身は「ソウル、ゴスペル、ジャズ、ポップ、ロックといったいろんな要素と楽曲スタイルをごっちゃにして作った、正しく自分に取ってガンボ・スープみたいなアルバムだから」と語っているように、スティーヴィーの意匠の下に聞こえてくる楽曲はさまざまな音楽スタイルをハイブリッドにしたものであり、それがアルバム全体のトータル感と楽曲クオリティを高くしている大きな要素のように思えます。



PJ Morton 

また、いわゆる最近のメインストリームR&Bがシンセや打ち込みを駆使して浮遊感は満点ながら、下手をするとどこか冷たいグルーヴを感じさせるものが往々にしてある一方、ここでPJが聴かせてくれる楽曲やサウンドは、それに対峙する形で耳に暖かくて懐かしさを感じさせてくれるものであり、ある意味で今のR&Bのあり方の別の形を提示しているように思いますし、それがグラミーのノミネートにも現れたのだと思います。

梅や河津桜のつぼみが日々膨らんできている今日この頃、こういう春の到来を期待させてくれるような暖かいR&B作品、いかがでしょうか。


<チャートデータ> チャートインせず

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#111「Little Stevie Orbit」Steve Forbert (1980)

#111Little Stevie OrbitSteve Forbert (Nemperor, 1980)


予想を上回る圧倒的なブルーノ・ナイトとなったグラミー賞の発表も終わり、アウォード関係ではあと3月初旬のアカデミー賞の発表を残すのみ。大谷エンジェルスのキャンプに向かい、一時期の凍り付くような東京の寒さもこの週末でちょっと和らいだ感じのあるここ最近、2018年も早くも1/12が終わって2月になりました。ここからは日々少しずつ春が遠くから近づいてくる気配を感じられる、そんな時期

今週の「新旧お宝アルバム!」は、そんな季節に聴くにはぴったりの、都会で生きる厳しさと荒涼感の向こうにほのかに暖かさを感じさせるような、そんな珠玉の楽曲を淡々と、しかし時にはエモーショナルに歌うシンガーソングライター、スティーヴ・フォーバートが、あの大ヒット曲「ロミオの歌」を含むアルバム『Jackrabbit Slim』(1979)でブレイクした後すぐさまリリースしたアルバム、『Little Stevie Orbit』(1980)をご紹介します。


LittleStevieOrbit.jpg


あの印象的なピアノのイントロで一気に聴く者のハートを鷲づかみにするヒット曲「ロミオの歌(Romeo's Tune)」(1980年全米最高位11位)でスティーヴを知った当時の洋楽ファンは多かったと思います。当時日本のFMでもよくプレイされていて、初期のビリー・ジョエルをもう少しラフでブルージーにしたトルバドゥールな感じの作風と、イケメンではないけど個性と魅力いっぱいのルックス、そしてあのかすれ声だけどエモーショナルなボーカル・スタイル。ミシシッピ州からNYに出てきて、2枚目のアルバムでブレイクしたというサクセス・ストーリーも彼への魅力をかき立てるものでした。


そんなスティーヴが、ある意味「ロミオの歌」の成功をリセットしたいとでもいうように、1年を空けずに発表したのが今回ご紹介する『Little Stevie Orbit』。ブレイクした前作『Jackrabbitt Slim』では、あのザ・バンドの『Music From Big Pink』(1968)やジャニス・ジョプリンの『Cheap Thrills』(1968)など、ルーツ・ロックのクラシックといえる数々の作品を手がけたジョン・サイモンをプロデューサーに迎えて、アルバム全体が大変手堅くまとまっている印象のアルバム作りをしていたのですが、この『Little Stevie Orbit』ではそのジョン・サイモンとは袂を分かち、ホワイトスネイクロマンティックス、モーターヘッドといったハードなロック・バンドとの仕事で知られる元プロコル・ハルムのピート・ソリーをプロデューサーに迎えるという大胆な路線変更をしています。


Steve Forbert 

よりハードエッジなロック色の強い音を得意とするピーターと作られたこの『Little Stevie Orbit』、オープニングはあの「ロミオの歌」同様アップテンポなピアノの音で始まる「Get Well Soon」ですが、ピアノもブギウギのリフをバックで叩きつけていて、楽曲のスタイルはポップなものからよりロック色を感じさせるパンチの効いたもの。それでいてスティーヴのトルバドゥール的な魅力満載の楽曲になっています。







2曲目の「Cellophane City」は控えめなバンドの演奏が刻んでいるのはレゲエのリズムですし、「Song For Carmelita」や「Song For Katrina」はウォーキング・リズムのカントリー・フォークっぽい、ちょっとディランを思わせる楽曲たちですが、そこに乗っているメロディと歌詞は紛う方なきスティーヴ・フォーバートの世界。

Laughter Lou (Who Needs You?)」くらいから、前回のアルバムのソロの弾き語り的スタイルから、うねりのあるバンドの演奏をバックに軽快にあのボーカルを繰り出すスティーヴの魅力が全開となります。アルバムのバックを固める主要メンバーは前作とあまり変わっていないのですが、よりバンドサウンド的に聞こえるのは、プロデューサーの仕事の違いでしょうか

そしてレコードだとA面ラストを飾る「One More Glass Of Beer」はお客が帰ってしまってがらんとしたバーラウンジかどこかで、ピアノと抑えめのオルガンをバックにスティーヴがギター一本で切々と歌い、後半からはストリングも入ってきて盛り上がって終わる、という印象的な楽曲。



アルバムB面はディラン的なスタイルで、アコーディオンをバックにブルース・ハープを吹きながらちょっとジプシー民謡風に歌う「Lucky」でスタート。カッチリしたリズムセクションとラグタイム風のピアノとオルガンが、ちょっと南部的なサウンドを思わせるバンドサウンドをバックに歌う「Rain (Philadelphia Rain)」などはスティーヴのミシシッピ出身というR&Bやブルースをルーツに持つ作風を如実に表した魅力たっぷりの曲。




そして、おそらくプロデューサーのピーターのアイディアだと思われる、ハートランド・ロックっぽいエレクトリック・ギターのコードリフを印象的に配してこちらもロック色を前面に出した「I'm An Automobile」や、「いいレコードがなぜいいか、パーティーで女の子が君に話しかけてきた理由がなぜか/あんた何でそんな質問するの、ええ?/聞かなきゃわからないくらいだったら一生わかんないぜ」とパンチの効いた歌詞を軽快なリズムに乗せていかにもスティーヴらしいメロディというか喋りで聞かせる「If You've Gotta Ask You'll Never Know」など、B面も魅力満載の楽曲でいっぱい。



アルバムはちょっとスティーヴらしくないギターソロで始まるけど、楽曲に入ると一気にスティーヴのトルバドゥールっぽい世界になる「Lonely Girl」、そして静かにアコギを掻き鳴らしながら、ちょっと昔のドゥーワップっぽい楽曲スタイルからこのアルバムのテーマでもあるバンドサウンドになだれ込んで行くあたりがいい感じの「A Visitor」で幕を閉じます。


アルバム全体を聴くと、前作に比べて一曲一曲の楽曲の魅力が非常に際立っていて、メリハリが効いている印象ビリー・ジョエルとのアナロジーを許して頂けるのであれば、前作がスティーヴの『The Stranger』(1977)とするならば、このアルバムはその2作前の『Streetlife Serenade』(1974)という感じで、スティーヴは前作の成功でビリーが『52nd Street』(1980)に進んだように一気に商業的に突き進むのではなく、今一度自分のルーツ的なサウンドに立ち返って、それを更に研ぎ澄ましたのがこのアルバム、と言う印象です


Little Stevie Orbit (back)


残念ながらこのアルバムは前作ほどの商業的成功は得られず、このアルバムからのシングルヒットも出ていません。最初からシングルヒットを狙うのではなく、自分の立ち位置を確認して高めるためのアルバムだったとすればある意味当然だったと思いますし、スティーヴ自身もそれは百も承知だったに違いありません。

その後スポットライトの当たる場からはめっきり姿を消してしまった感のあるスティーヴですが、実はその後も2~3年に1枚ずつというコンスタントなペースで新作を発表し続けていて、シーンからは堅実な評価を得続けています。1985年にはナッシュヴィルに移住して、以降カントリー・コミュニティとの交流も深めており、カントリーの巨人、ジミー・ロジャースに対するトリビュート・アルバム『Any Old Time』は2004年のグラミー賞で最優秀トラディショナル・フォーク部門にノミネートされたり、2007年にはキース・アーバンが「ロミオの歌」をカバーするなど、着実な活動を続けていて今でも健在です。


2016年には18作目のアルバム『Flying At Night』を発表、今も地に足の着いた音楽活動を続けているスティーヴが、メディアやシーンの注目の的になっていた時期に、自らの音楽表現の矜持を維持しながらいい作品を作ろうとしたこのアルバム、今のような気候の時期に聴いて頂くと「ああ、春もそんなに遠くないなあ」と思わせてくれる、そんな作品です


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位70位(1980.11.15付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#110「Freudian」Daniel Caesar (2017)

#110FreudianDaniel Caesar (Golden Child Recordings, 2017)


新旧お宝アルバムのコラムの読者の皆さん明けましておめでとうございます。え?何で今頃って?実は年末仕事の激務でギリギリまで死ぬ思いだったのと、年明けからは去る1/17に新宿カブキ・ラウンジ吉岡正晴さん「ソウル・サーチン・ラウンジ:第60回グラミー賞大予想」のイベントの準備とそのためのグラミー各賞の予想とブログアップで忙しかったので、その間この「新旧お宝アルバム!」は一ヶ月ほどお休みしていました。このコラムを楽しみにされておられる方々、どうもご心配おかけしました。


そのイベントも好評のうちに終わり、気が付けばあっという間に第60回グラミー賞授賞式の日程。このブログがアップされる頃は15年ぶりにLAからNYに会場を移した節目の第60回グラミー賞の各賞が正に発表されようとするところでしょう。

別途グラミー賞予想のブログでもつらつらとアップしましたが、今年のグラミーは主要部門にブルーノ、ジェイZ、ケンドリック・ラマーといった誰が取ってもおかしくない大物が三つ巴になっている他、チャイルディッシュ・ガンビーノの驚きの主要賞ノミネートや、エド・シーランの驚きの主要賞ノミネート漏れなど話題の多いイベント、数々のパフォーマンスも楽しみ。


そういった中、今年最初の、そして1ヶ月ぶりの「新旧お宝アルバム!」で取り上げるのは、そのグラミー賞最優秀R&Bパフォーマンス部門、および最優秀R&Bアルバム部門に今回初ノミネートを果たしているカナダはオンタリオ州出身のR&Bシンガーソングライター、ダニエル・シーザーのとてもマチュアな雰囲気と今の最先端のR&Bサウンドを兼ね備えたデビュー・フル・アルバム『Freudian』(2017)です。


Daniel Caesar Freudian


本名をアシュトン・シモンズというダニエルがシーンで注目されたのは2014年にストリーミングのみでリリースしたデビューEP『Praise Break』がローリング・ストーン誌の選ぶ「2014年ベストR&Bアルバム」の19位にランキングされたのがきっかけ。その次のEP『Pilgrim's Paradise』(巡礼者の天国)のタイトルでも察せられるように、その生い立ちに宗教的な環境が大きく影響を与えているらしく、曲調も内省的で思索的な雰囲気が色濃く感じられる、そういうR&Bシンガー。

実際、このデビューフルアルバムを聴いて感じるのは、音像的にはシンセサイザーによるクールで浮遊感・荒涼感たっぷりのサウンドが軸となっていてゆったりと聴かせる、今風のR&Bサウンドである一方、随所にギターやピアノやハモンド・オルガンなどアコースティックな楽器も多く使われていて、最近の最先端のR&Bとは一線を画しているようにきこえること、更には楽曲のスタイルというか歌い方というかメロディ回しが非常にゴスペルの要素を感じさせて、教会あたりで歌われても違和感ないこと。美しいメロディと美しい音像、そしてある時は催眠的に迫ってくるダニエルのボーカルが1990年代のオーガニック・ソウルを彷彿とさせる魅力を醸し出していて、何度も何度もこのアルバムを聞き返させる要素になっています。

また、そうしたゴスペル的な要素のせいか、シンセを中心にした音像は最近の東京の寒波を思わせるようなクールで肌寒さを感じさせる一方、どこか遠くから吹いてくる風の中にツクシやフキノトウの香りを感じさせるような、そんなほんのりした暖かさも感じさせるのも、このアルバムを聴くたびにのめり込んで行く一つの理由かもしれません。

Daniel Caesar


このアルバムにフィーチャーされている4人の女性シンガー達も印象的なパフォーマンスと同時に、それぞれが自分のフィーチャー曲をダニエルと共作していて、ダニエルの作品に独得の色と雰囲気を与えています

グラミー賞最優秀R&Bパフォーマンス部門にもノミネートされた冒頭の「Get You」では、タイラー・ザ・クリエイターゴリラズなど、今最先端のメインストリーム・ヒップホップ・サウンドを作るアーティストとの客演で知られるコロンビア移民系のカリ・ウチス嬢が、いかにもフランク・オーシャン+マックスウェル的な浮遊感満点の楽曲で、まるでマーヴィン・ゲイとタミー・テレルのような正統派R&Bデュエットを聴かせてくれます。ここでは「僕の欲しいものはすべて君の太ももの間にある」といった際どい表現もありますが、基本はお互いに求める愛をデュエットで表現している美しいナンバー。「Best Part」ではH.E.R.ことガブリエラ・ウィルソン嬢がアコギのつま弾きに乗りながら楽曲のボーカル展開を逆にリードして、インディア・アリーコリン・ベイリー・レイっぽいオーガニックなソウル・バラードで、とっても暖かいトーンの歌を聴かせてくれます。




フランク・オーシャンを中心とするオッド・フューチャー派のグループ、ジ・インターネットのボーカルで、一昨年のフジロックにも来日したシド・ザ・キッドがフィーチャーされた「Take Me Away」はいかにもオッド・フューチャー的な浮遊感満点の肌寒い残響音を効果的に使ったサウンドの中でシドがだるーい感じの夢想的なボーカルを聴かせてくれる印象的なナンバーですし、トロント出身の白人シンガーソングライター、シャーロット・デイ・ウィルソンがフィーチャーされた「Transform」ではバックに幻想的なシンセ音を置いて、フロントではアコギやエレピといった70年代R&Bの意匠をふんだんに配しながら、白人にはあまり聞こえないさりげなくソウルフルなシャーロットのボーカルがダニエルのボーカルに絡んで来る、ドリーミーな感じの作品

しかしその中であくまでも全体のトーンを統一させながら、ゴスペル的雰囲気で愛や人生に対する思いを、ゆったりとしたリズムに乗せながら歌うという自らのスタイルを能弁に表現しているのは、ダニエルのボーカルであり、そうしたダニエルの立ち位置表明は、これらの曲以外の「We Find Love」「Blessed」といった、正にコンテンポラリー・ゴスペルとでも言うべき楽曲に顕著なのです。



アルバムの最後を飾るタイトル・ナンバー「Freudian」というのは、夢による精神分析で名高いあのフロイトの説を支持するもの、という意味。ここでは例によって浮遊感満点のシンセを軸にした音像をバックに、自分が歌っているのも、自分が今生きているのもあなた(女性)がいて、アドバイスしてくれたからだ、と愛情の対象者である女性に対して感謝を表明する歌です。

曲の後半ではそれが急に母親への言葉となり「時間が僕を変えたんだ。ママ、僕は信仰心を失ってしまった」というフレーズで不安感を誘うピアノ音で一旦曲が終了。そこから1分半の無音の後、ハモンド・オルガンの重厚な音色をバックにダニエルが荘厳な感じのゆっくりとした歌声でこう歌います。その厭世的で破滅的に聞こえるメッセージは、愛をそして光を求めるが故のダニエルの心からのメッセージかもしれません。


素敵じゃないか 人の命を犠牲にするのは

世界はその犠牲を受け入れた

興奮しすぎたが 今我々は命を取り上げている

素敵じゃないか 人の命を犠牲にするのは

必然的な結果なんて嫌いだ 代償が大きすぎる

ただ君らは歓楽を追い求めるだけ

素敵じゃないか 人の命を犠牲にするのは

僕は常に楽な逃げ道を取る 自分が生きてる価値などない

素敵じゃないか 人の命を犠牲にするのは

僕が殉教者だと言ってくれ 僕のエゴにそれを求めてくれ

ただ光が欲しいだけ


このアルバムは昨年のグラミーで話題となったチャンス・ザ・ラッパー同様、デジタル・ダウンロードとストリーミングのみの配信。なので内容は音像こそ今風R&Bですが、楽曲の構成やメッセージは昔ながらのR&Bの要素とゴスペル的要素を内包しながら、正に今の時代の音楽消費に合った形での表現方法を取っていると言えます。

彼がノミネートされた部門は、ブルーノ・マーズやこちらも実力派女性R&Bシンガーのディシ、今年の有力新人の一人SZAなど強力な面子が肩を並べていますので、なかなか受賞は難しいと思いますが、今年3月には代官山UNITで一回きりの初日本公演も予定されているこのダニエル・シーザーという才能、これを機会に今後注目していかれてはいかがでしょうか。


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位25位(2017.9.16付)

同全米R&B/ヒップホップ・アルバム・チャート 最高位16位(2017.9.16付)

同全米R&Bアルバム・チャート 最高位6位(2017.9.16付)

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【年末恒例企画#2】My Top 10 Albums Of 2017 (Part 1, 10-6位)

【年末恒例企画#2】My Top 10 Albums of 2017 (Part 1, 10-6位)


前回の【年末恒例企画#1】年間チャート予想をやった後、仕事上のタイペイクライシスが本格化してしばらく日本にもおらず、結果確認も含めて何もできてなかったここ数週間でしたが何とか通常状態に復帰の方向に進んできたので、結果確認と次の企画、My Top 10 Albums of 2017にかかりたいと思います。


<年間チャート予想結果確認>


12/12と例年に比べて1週間ほど遅れて発表された2017ビルボード誌Hot 100の年間チャート、そのトップ10は下記のリンクで発表された以下の顔ぶれでした(カッコ内は最高位と僕の予想順位)。

ビルボード誌2017年年間チャートサイト:https://www.billboard.com/charts/year-end/2017/hot-100-songs

Billboard 2017 Year in Music


1. Shape Of You - Ed Sheeran(1位12週、予想1位)

2. Despacito - Luis Fonsi & Daddy Yankee Featuring Justin Bieber(1位16週、予想2位)

3. That's What I Like - Bruno Mars(1位1週、予想3位)

4. Humble. - Kendrick Lamar(1位1週、予想11位)

5. Something Just Like This - The Chainsmokers & Coldplay(3位、予想8位)

6. Bad And Boujee - Migos Featuring Lil Uzi Vert(1位3週、予想4位)

7. Closer - The Chainsmokers Featuring Halsey(1位12週ただし集計期間中1位なし、予想5位)

8. Body Like A Back Road - Sam Hunt(6位、予想7位)

9. Believer - Imagine Dragons(4位、予想10位)

10. Congratulations - Post Malone Featuring Quavo(8位、予想9位)


何とか上位3位はズバリ的中ですが、11位に予想していた「Humble.」が4位に飛び込んできてしまった関係で4位以下の予想はグチャグチャになってしまいました(笑)。それでもトップ10の顔ぶれは順位こそ違ってますが、その「Humble.」以外は一応当たっているという、まあ惜しい結果。うーん、ジェイムス・アーサー君の最高位11位「Say You Won't Let Go」が当たってくれると結構快挙だったのですが。で、今回の予想結果の評価ですが、ここで、トップ10の予想が、順位も的中したものを10点、トップ10内であることは当たったが順位が違ったものを5点とカウントした場合(すべて的中すれば100点)、今回の点数は10点×3 + 5点×6 = 60点ということになりました。で、これはいい成績なのか、そうでないのか?


同じ評価方法で過去10年間の年間チャート予想の成績をみると、


2016年:45点(順位的中なし)

2015年:55点(順位2曲的中)

2014年:55点(順位4曲的中)

2013年:55点(今回同様上位3曲の順位的中)

2012年:55点(今回同様上位3曲の順位的中)

2011年80点上位7曲の順位的中

2010年:55点(上位2曲の順位的中)

2009年:50点(順位2曲的中)

2008年80点(上位4曲を含め7曲の順位的中)

2007年:50点(順位2曲的中)


ということなので、実は今回は過去で3番目にいい成績だった、ということになります。昨年が的中ゼロとひどかったので、まあまずまず、といったところでしょうか。また来年をお楽しみに。(^^)


さて既に12/12に吉祥寺のクアトロラボでやったDJで発表ずみですが、【年末恒例企画#2】My Top 10 Albums of 2017、さっそく10位です。


10位:『DAMN.』Kendrick Lamar (Top Dawg / Aftermath / Interscope)


Kendrick Lamar Damn 




やはり2017年を語る時に欠かせないアルバムの一つでしょうこれは。良くも悪くも今やメインストリームの領域でヒップホップを代表する存在となっているケンドリック・ラマー。何つったってあの『ロッキングオン』が年間アルバムランキングの2位にするくらいですから(笑)。とりあえずこのアルバムを評価しとけばいいだろ、的な感じが透けて見えるのが残念ですねえ。

それはともかく、前回の『To Pimp A Butterfly』が研ぎ澄まされたストイックな音像と、今のアメリカで黒人であることについての内省と社会的なメッセージを色濃く打ち出したリリックの曲が満載の作品だったのに対して、今回はよりR&Bチックなサウンドや楽曲重視で、リアーナU2とかとのコラボ曲もあったりして、3年前のドレイクとかを思い出させた。「LOVE.」なんて凄く気持ちいいし。もちろん「DNA.」とか「ELEMENT.」とかゴリゴリのケンドリックらしいラップもふんだんに聴かせてくれてその切れ味も鋭いからヤバイ。

個人的にはLPが出るのを待っていて、ストリーミングとかでも最初あまり聴かないようにした関係で、アルバム全体の聴きこみが充分ではなかったので10位になってしまったけど、聴きこむほどに凄さを感じさせてくれる盤。グラミー賞でもジェイZなんかぶっ飛ばして受賞して欲しい、そう思わせるアルバムです。


9位:『Chris Thile & Brad MehldauChris Thile & Brad Mehldau (Nonesuch)


Chris Thile Brad Mehldau 




一昨年の衝撃のアルバム『The Phosphorescent Blues』、そして去年のブルーノートでのカッコ良すぎるライヴでここのところずっとマイブームのパンチ・ブラザーズ。その実質リーダーで、元ニッケル・クリークのメンバーでマンドリンの名手、クリス・シーリーと、本来ジャズピアニストでありながらジャンルを問わずポップ・ロック・クラシックのアーティストと縦横無尽にコラボしているブラッド・メルドーが組んで作ったアルバムがこれ。そんじょそこらのロック・アルバムなんかでは経験できないような、スリリングな音楽ジャンルを超えたミュージシャン同士のぶつかり合いが経験できるというのが何にしても新鮮で興奮する。多分80年代にブライアン・イーノがロックでもない、ミュージック・コンクレートでもない音楽を目指して結果アヴァンギャルドな音楽手法にたどり着いた、そういう音楽表現プロセスに近いものがここにあって、しかもそれがオーガニックなマンドリンとピアノの音色で醸し出されているというのがこのアルバムの凄いところ

二人の共作による楽曲もさることながら、ディランの「Don't Think Twice, It's All Right」やフィオナ・アップルの「Fast As You Can」、エリオット・スミスの「Independence Day」のカバーなどは、二人の音楽の興味の幅の広さを示すと共に、それぞれに全く新しい解釈を提示して、あくまでも二人の楽曲に完成されているのが素晴らしいところ。

とにかく今の若手のミュージシャンで、最高の技術と楽曲解釈力を持った二人のこのアルバム、ある意味今年最大の音楽イベントだったと言ってもいいのではないか、そんな気がするアルバムです。




(「新旧お宝アルバム!」でのレビュー:http://boonzzy.blog.fc2.com/blog-entry-366.html


8位:『A Deeper Understanding』The War On Drug (Atlantic)


The War On Drug A Deeper Understanding 




ザ・ウォー・オン・ドラッグというのは、フィラデルフィア出身のアダム・グランドゥシエル(vo., g.)をリーダーとする6人組のバンドで、簡単にいうといわゆるオルタナティヴ・ロック・バンド、ということになるのだが、彼らのサウンドは多分ベックとかの80年代~90年代のエレクトロサウンドと、70年代の叙情的プログレ・ロックサウンドのいい意味でのマリアージュのようなサウンドが最大の魅力だと思う。大体ここ10年くらいで出てきたオルタナティヴ・バンドって、たいていREMとかスマパンとかを経由している、ギター・ロック・バンド的な奴らが多いのだけど、このザ・ウォー・オン・ドラッグキーボードやシンセを有機的に多用しながら、叙情的なメロディを聴かせてくれるところが素敵なところだと、僕は思ってます。

この前のアルバム『Lost In The Dream』(2014)もそういう路線で、数々の先進的な音楽誌の年間アルバムランキングを飾ったものだけど、このアルバムはさらにそれをメインストリームの方に少しだけ移動させているところが凄いところだと思ってます。

前回のアルバムの高評価で、今回メジャーのアトランティックから出したこのアルバム、80年代UKロックとか好きな方であれば絶対気に入る、素敵なアルバムだと思います。



7位:『Lust For Life』Lana Del Rey (Polydor / Interscope)


Lana Del Rey Lust For Life 




今回、ジャケで笑わないラナ・デル・レイがこのアルバムではニッコリ笑ってるので、果たしてこのアルバム買うべきか、と悩んでいる従来のラナ・ファンの知人がおられた。その悩みはよく分かる。ラナの信条は、普通でないキャラなのに、見かけは1950年代のハリウッド・スターのような美形で、でも歌う曲は無茶苦茶ダウナーで、4レター・ワーズ連発で、という超アナーキーでミスマッチな魅力、というものだったから。

確かに今回楽曲の内容やサウンドは少し従来よりメインストリームよりかも知れないのだけど、これまでになくヒップホップへ接近してそれを自家薬籠中のものとしている凄さとか(2曲でコラボしているエイサップ・ロッキーがまるでラナの子飼いの手下みたいになってるのが印象的)、ショーン・レノンとのドリーミーながら異次元的なコラボとか、この手のキャラの先達のスティーヴィー・ニックスとのコラボでも堂々と自分の存在感を示しているところとか、いやいやどうして今回もラナはラナで、唯我独尊的な凄さを充分発揮しているなあ、というのが僕の感想。

この後に聴いたセント・ヴィンセントのアルバムが、ヒップホップではなくインディーロックの意匠から同様のアプローチをしていて「あちゃあ、時代性の高い音像を自分のものとしていることから言うとセント・ヴィンセント、後輩のラナに飛び越されちゃったかも」と思ってしまった。(ちなみにセント・ヴィンセントの「Masseducation」はMy年間13位でした)



(「新旧お宝アルバム!」でのレビュー:http://boonzzy.blog.fc2.com/blog-entry-389.html


6位『Waiting On A Song』Dan Auerbach (Easy Eye Sound / Nonesuch)


Dan Auerbach Waiting on a Songgif 

ご存知ブラック・キーズの片割れで、Dr.ジョンレイ・ラモンターニュ、そして先ほどのラナの『Ultraviolence』(2014)のプロデュースなどでも活躍しているダン・オーワーバックの久しぶりのソロアルバム。最近カントリーだけでなくてロック・ミュージシャン達の間でもナッシュヴィル録音が人気で(ホワイト・ストライプスジャック・ホワイトなんてナッシュヴィルでレーベルとスタジオを立ち上げた)、今あらゆるジャンルのスタジオや楽曲出版会社とその周辺の人・もの・金がナッシュヴィルに集まりつつあるけど、このアルバムもナッシュヴィル録音。しかもダンは2010年からナッシュヴィル在住で自分のスタジオ、Easy Eyeを立ち上げてそこで録音されている。

聴く前は、ブラック・キーズのブルースっぽいラウドロックの変形か、オルタナの小難しいことをしてるのか、と思っていたが、聴いてみるとあっけらかんとした、判りやすい、ものによってはとてもポップな(「Shine On Me」なんてジェフ・リンの意匠まんまのポップさ)、伝統的なロックへのオマージュ的な部分もちらほら伺える微笑ましい作品だった。
そう、ルーツロックやアメリカーナ・サウンドの好きな人だったら、とにかく聴いててひたすら気持ちいい作品。デュアン・エディジョン・プライン、果てはブルーグラス・ドブロの名手ジェリー・ダグラスなども登場するこのアルバム、ミュージック・マガジンの年末号でもアメリカ・ロック部門の8位に選ばれていたが、確かに萩原健太氏を含め、僕のようなアメリカン・ロック・ファンなら喜ばずにはいられない作品、一家に一枚です。




(「新旧お宝アルバム!」でのレビュー:http://boonzzy.blog.fc2.com/blog-entry-374.html


さて、残りトップ5も年内にはアップします。

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

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