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Life Is A Rock - 洋楽こそ我が人生
洋楽全般について、英米ヒット・チャートに登場有無に関係なく、お気に入りの洋楽作品についての独り言やコメントをつれづれに掲載します。「新旧お宝アルバム!」「恒例グラミー賞大予想」など定期コラムが中心です。洋楽 ファンサイト、meantime(www.meantime-jp.com)のスピンオフ企画としてお楽しみ下さい。
【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#133「The Future And The Past」Natalie Prass (2018)

 #133The Future And The PastNatalie Prass (ATO, 2018)


前回のこのコラムからここ一ヶ月弱、公私ともにいろいろ忙しく間が空いてしまいましたが、その間に着実に秋は深まり、この週末は最高気温がいよいよ20度を切るという絶好の季節になってきました。そしてMLBのポストシーズンも今や佳境。今週はいよいよワールドシリーズ進出チームが決定しそうな感じでMLBファンにはたまらない季節ですね


さて今回の「新旧お宝アルバム!」では、深まる秋にぴったりのメランコリーでポップながら、今の時代のコンテンポラリーな音像をまとった不思議な魅力を持つシンガーソングライター、ナタリー・プラスの2枚目になる今年リリースのアルバム『The Future And The Past』をご紹介します。


TheFutureAndThePast.jpg 


あのエリック・カルメンを輩出したオハイオ州クリーヴランド生まれで、現在はヴァージニア州リッチモンドをベースに活動する今年32歳のシンガーソングライター、ナタリー・プラスは、リッチモンドでの幼少からの友人であるシンガーソングライター、マシュー・E・ホワイトが主宰するスペースボム・レーベルから2015年にリリースしたデビューアルバム『Natalie Prass』がその年の各種音楽誌で高い評価を受けたのがきっかけで一躍注目を集めたアーティスト。

デビュー・アルバムでは、そのささやくようなボーカルと70年代初頭LAのローレル・キャニオンを中心に活躍したキャロル・キングジョニ・ミッチェルらの作品を思わせるトルバドール・タイプの楽曲や60年代ブルー・アイド・ソウル的楽曲、さらにはオールド・タイム・ミュージック的なサウンドまでを満載した「クラシック・アメリカーナ」な世界観を展開していたのが、各誌の高い評価につながっていて、自分も当時そうしたレビューに惹かれてこのアルバムを聴いて大いにその虜になったものでした。


Natalie Prass


その彼女が3年ぶりにリリースした今回の『The Future And The Past』。今回も盟友のマシュー・E・ホワイトのプロデュースで、彼との共作曲が5曲収録された作品ですが、その内容は、楽曲的にはコンテンポラリーなサウンドのブルー・アイド・ソウル的作品群と70年代のメインストリーム・シンガーソングライター的スタイルの作品群を軸にして「新しい音像でクラシック味わいのメロディや構成の楽曲を展開する」という世界観を作りあげた、前作とまたひと味変わった意欲的な作品に仕上がっています。




冒頭の「Oh My」はタイトなリズム&ブルース風のサウンドとビートに乗ってナタリーのウィスパリング・ボーカルが炸裂するナンバー。「おっソウルフル」と思わせる曲調が前作と比べると意外性もあって掴みとしてはなかなか。そしてその歌詞は「信じられないことが起きている/もうハートはボロボロよ/毎日ニュースを読むたびに私達は負けていると感じてしまう」という、反トランプ的なメッセージも垣間見えて興味深いところ。続く「Short Court Style」は一転、シャッフルなリズムとコーラスを随所に効果的に使った、70年代メインストリーム・ポップの香りを80年代っぽい音像で構成した、ミディアム・テンポのキャッチーなナンバーで、ここでまたぐっと聴き手を引き込みます。

短いインタールードに続いて2000年代以降のメインストリーム・ポップなスタイルの「The Fire」は、同世代のアーティスト、ハイムあたりの楽曲を思わせるブルー・アイド・ソウルの香りのするリズミックなトラックが心地よいナンバー。こちらはリアーナの2013年のヒット「Stay」(全米最高位3位)を共作しフィーチャーされ、グラミーでもリアーナと共演したミッキー・エッコとの共作ナンバーです。



ジャズのジャム・セッションっぽい短いフレーズに続いて、マシューとの共作のうちの1曲「Hot For The Mountain」は意図的にと思われる音程的抑揚の少ないメロディ・ラインがおもしろい作品。続く「Lost」はピアノの弾き語りからジワジワと盛り上がる、70年代シンガーソングライター作品っぽいノスタルジックなメロディと、「あなたといると迷ってしまう/どのくらい代償を払ってあなたの仕打ちに耐えればいいの/傷が癒えてもまたあなたは噛みついてくる/このままあなたを愛し続けられない」というヒリリとする歌詞の対比がぐっと来る曲です。そしてレコードだとA面ラストの「Sisters」はまたマシューとの共作で、ウォーキング・リズムのややジャジーな感じのこちらもジワジワとくる楽曲ですが、ここも最近の#me too運動に呼応するかのようなメッセージの歌詞で、ナタリーのシンガーソングライターとしての意思が伝わってきます。



B面オープニングの「Never Too Late」はこのアルバムで最もキャッチーなナンバー。夢見るようなメロディとノスタルジックなバックの演奏から、80年代AORで多用されたお馴染みのリズムリフのサビに入っていくあたり、まんま80年代和モノのシティー・ポップの意匠そのままなので、思わずニヤリとすること請け合い。ボーカルスタイルも、「イマイチ歌が巧くないカレン・カーペンター」的な味わいを意識して出している感じが見事にハマっています。次の「Ship Go Down」は、変速リズムパターンのトラックとややメランコリーなメロディに乗るナタリーのちょっとコケティッシュなウィスパリング・ボーカルが不思議な魅力を醸し出す6分超の作品。後半はちょっとアヴァンギャルド・ポップ的な展開になっていき、ナタリーがこれまで見せなかった異なる一面を垣間見せます。

エレピの弾き語りでジワッと始まる「Nothing To Say」は70年代後半の面ストリームな感じのメロディと、2000年代以降のメインストリームなコンテンポラリーR&Bを意識したリズムと音像が不思議なバランスを持って迫ってくる曲。ここにも、今回恐らく音作りで参考にしたのではと個人的に思っているハイムの楽曲の影響がちらほら。


またもやスローなジャズのジャム・セッションのフェードインで始まる「Far From You」はすぐ曲調が変わり、カーペンターズの70年代初期作品を思わせる、抑制しながらぐんぐん盛り上がる楽曲スタイルを、またまた「イマイチ歌の巧くないカレン・カーペンター」的イメージ満点のドラマティックなナタリーのボーカルが見事に構築。この曲の甘酸っぱくも心に迫る、魅力的な世界観はこのアルバムでも屈指の出来ワン・ダイレクションのヒット曲「Little Things」(2012年全英1位、全米33位)をエド・シーランと共作したことで知られるイギリスの女性シンガー・ソングライター、フィオナ・ベヴァンとの共作です。

そして最後はぐるっと回ってまたA面冒頭「Oh My」のスタイルに回帰した感じのマシューとの共作によるリズミックなブルー・アイド・ソウルなナンバー「Ain't Nobody」。曲が終わった後に三たびスローなジャズのジャム・セッションがフェードイン、そしてフェードアウトして、まったりとした余韻を残してアルバムが終わります。


TheFutureAndThePast (back)


今回のナタリーのアルバムも概ね音楽誌の間では評判がいいようで、内容もある意味前回のアルバムからまた一つ違うフェーズに進化した感がある、と言う意味でも更に次の作品が楽しみです。特に今中間選挙を前にしてあちこちで失点が起きているトランプ政権の今後の動きに対して、ナタリーがシンガー・ソングライターとして次の作品でどう反応していくのか、というあたりも興味深いところ。


その間、夜になるとひんやりしてきた秋の季節、ナタリーのこの作品を聴いて単にシンガーソングライター作品、単にAORなインディ・ポップ作品に止まらないこの作品でじんわりとした感動を味わって見て下さい。


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米インディ・アルバム・チャート 最高位29位(2018.6.16付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#132「Honky Tonk Angel」Ellen McIlwaine (1972)

#132Honky Tonk AngelEllen McIlwaine (Polydor, 1972)


秋雨前線が活動を本格化した先週から次第に秋らしい空が見れる日が増えてきました。このシルバー・ウィーク、旅行やアウトドアを楽しんだ方も多かったと思います。そうこうしているうちにいよいよ来週からは2018年も最後の四半期に突入。今月末をもって来年発表のグラミー賞の対象期間も締め切りになるので、いよいよ2018年も総決算のタイミングになってきました。ホントに一年なんて、あっという間ですねえ。

さて秋深まる10月を前にして、今回の「新旧お宝アルバム!」では、70年代初頭、新たなロックの夜明けの時代に次々と輩出した数々の素晴らしいアーティスト達の中で、卓越したギタープレイテクニックと個性的でソウルフルな歌声を持って登場しながらも、なぜかメインストリームの人気を勝ち得ることなく「知る人ぞ知る」的な存在だった女性シンガーソングライター&ギタリスト、エレン・マッキルウェインが輝くような才能を存分に発揮したデビューアルバム『Honky Tonk Angel』(1972)をご紹介します。

Ellen McIlwaine Honky Tonk Angel

70年代初頭、60年代後半のサイケデリック・ロックやフラワー・ムーヴメントの衰退にカウンターするかのように、ビートルズストーンズらの系譜を受け継ぐ形で、多くのR&Bやブルースを音楽的基盤としてサウンドや楽曲を展開する数々のアーティスト達が英米で輩出しました。リオン・ラッセルジョー・コッカーによるマッド・ドッグ&イングリッシュメンや、デラニー&ボニーと合流したクラプトン、オールマン・ブラザーズ・バンドらの南部のバンド達、いわゆるスワンプ・ロックと呼ばれるスタイルでアメリカ南部を中心に活動したボビー・チャールズ、ジェシ・エド・デイヴィス等々、この時期にR&B/ブルース的なスタイルによるロックは大きな隆盛の時期を迎えました。

そんな時期に登場したのが今回ご紹介するエレン・マッキルウェイン。このデビュー作リリースの時点では27歳のやや遅咲きのデビューでしたが、アコギを中心に卓越したギター・テクニック、特にそのスライド・ギターの腕は同時期にやはりR&B・ブルースベースのロックでスライド・ギターを操っていたボニー・レイットに勝るとも劣らないレベル。

ナッシュヴィル生まれのエレンは宣教師の養子になり、何と15歳まで神戸に住んでいて、米軍放送から流れてくるレイ・チャールズファッツ・ドミノの音楽を聴いて育ったと言うから極めてユニークな経歴です。

17歳でアメリカに戻り高校大学と進んだ彼女でしたが、21歳の時には大学をドロップしてミュージシャンとしてのキャリアをスタート。NYに出て幸運にも当時のグリニッジ・ヴィレッジの人気ライヴハウス、カフェ・オー・ゴー・ゴーで演奏する機会を得た彼女は、当時ジミヘンジョン・リー・フッカー、ハウリン・ウルフといった超大物のブルース・ミュージシャン達と共演したというから既にこの頃から「持ってる」人だったようです。

リッチー・ヘヴンスなどギターの達人達からスライド・ギターの手ほどきを受けたエレンはこれをマスター、その後アトランタに戻って、当時では珍しい女性である自らリード・ボーカル、リード・ギターのロック・バンド「フィア・イットセルフ」を結成、デビュー・アルバムをNYで録音。


Ellen McIlwaine

バンドとしてのデビューが必ずしも成功とはならなかった中、ソロに転じたエレンが満を持してリリースしたのが今日ご紹介する『Honky Tonk Angel』。タイトルからいってカントリーのアルバムか、と思われやすいのですが、その内容は、R&B、ジャズ、ブルース、ゴスペルなどのアーシーな音楽を渾然としてスタイルを中心に、タイトル通りのカントリーや、アフリカン・リズム、黒人霊歌までも抱き込んで消化した楽曲群を、エレン・マッキルウェインというユニークな才能のアーティストとしての圧倒的なパフォーマンスを聴かせる、多様で複雑でエモーショナルなアルバムです。

しかも録音にあたっては、当時のNYの最高峰のスタジオ、レコード・プラント・スタジオのスタッフが高音質の録音を行い、マスタリングの巨匠と言われるボブ・ラドウィッグがマスターしたというとにかく音のいいレコードで、エレンの素晴らしいパフォーマンスが楽しめるヴァイナルLPを探す価値がある、そういうレコードです。


レコードのA面は、NYのライヴ・ハウス「ビター・エンド」でのライヴ収録で、一曲一曲に対する観客の反応が、エレンのギターとバンドの演奏の素晴らしさ(アルバムには「すべてのギター:エレン・マッキルウェイン」というクレジットがあります)と、エレンのボーカルの存在感と表現力が素晴らしいことを証明している、エキサイティングなサイド。

冒頭からいきなりぶちかましてくるのは、1966年ジョニー・テイラーがそのデビューアルバムに収録していた、アイザック・ヘイズデヴィッド・ポーター作のナンバー「Toe Hold」。ジョニーのゆったりとしたサザン・ソウル風のアレンジとは全く異なり、コンガがいきなりハイテンポなリズムを刻む、冒頭からエキサイティングなアレンジで観客を一気に持って行きますエレンのボーカルも多彩で途中スキャットを交えながら観客をドライヴ、タイトなカッティングギターのフレーズでもグルーヴをドライヴするあたり、エレンのギターの腕前を感じます。

2曲目はエレンが敬愛するというジャック・ブルースの曲「Weird Of Hermiston」。ジャックのアルバム『Songs For A Tailor』(1969)収録のこの曲をアコギ一本で歌うエレン、静かに初めて次第にエモーショナルに歌い上げ、カタルシスの後また最後は静かにフィニッシュ。続いてジミヘンの『Axis: Bold As Love』(1967)からの有名曲「Up From The Skies」のカバーは、こちらもエレンのアコギとベースだけでシンプルながら、グルーヴ満点、ブルージーに料理。ここでもエレンのソウルフルなボーカルが光っています。

4曲目はエレン自作の2分という短い「Losing You」。アコギのスライド・ギターをビンビンと唸らせる迫力あるリフに乗せて「あなたを失っていく、あなたを失っていく」とややトランス状態にもきこえるテンションで叫ぶエレンのボーカルはふとアラニス・モリセットを思い出させます。

そしてA面ライヴの最後はご存知ボビー・ジェントリーの大ヒット曲「Ode To Billy Joe」のカバー。スローなカントリー・バラードのオリジナルのアレンジを完全に壊して、エレンの複雑なリフ満載のアコギワークを駆使して、アップテンポなブルース・ナンバーに変貌させているのが凄い。


B面はレコード・プラント・スタジオでの録音。冒頭はいきなりコンガで始まって延々とコンガのみとアフリカン・チャントの輪唱のような演奏が繰り広げられる、アフロ・ジャズ・ドラマーのガイ・ウォーレンの作品「Pinebo (My Story)」。そして続いてはアコギをバックにメロディが始まった瞬間、ああスティーヴ・ウィンウッドの曲だ、とわかる、ブラインド・フェイスの「Can't Find My Way Home」のカバー。相変わらず達者なアコギの複雑な手数のフレーズと個性的な音色のエレンのボーカルが、彼女ならではの世界を再構築しています。

B面3曲目はエレンのこのアルバム2曲目の自作「Wings Of A Horse」。アップテンポなバンド演奏が繰り出す複雑なメロディとコード進行に乗った、独特なエレンのボーカルがある瞬間はジョニ・ミッチェルのように、またある瞬間はジャニスとボーカルの表情が刻一刻と変わっていくのがとってもスリリングなナンバー




そしていきなりこの曲だけがベタベタのオールド・スタイルなナッシュヴィル・カントリー・チューンな「It Wasn't God Who Made Honky Tonk Angel」。もちろんアルバムタイトル由来の曲だし、エレンもナッシュヴィル出身だし、この曲のオリジナルである女性カントリーシンガーの草分け的存在のキティ・ウェルズのバージョンに敬意を払って、ということなんだろうけど、全体のブルージーな感じのアルバムの中ではやや唐突感が。それでもエレンはここでスティール・ギターも達者にこなして、レンジの広いボーカルを聴かせるなど、エレンの多彩さを存分にアピールしていて、その意味では選曲としてはある意味必然なのかもしれないが。

そしてアルバムの最後を締めるのは、60年代公民権運動のコンテクストでも様々なアーティストに取り上げられ、ラムゼイ・ルイスハーブ・アルパートのバージョンが有名な黒人霊歌「Wade In The Water」のエレン的解釈・アレンジによる演奏。このアルバムを通して印象的なアクセントの一つとなっているコンガの音色とリズムをバックに、ジャズ・ブルース・ロックとでも言えるアーシーなグルーヴ感を存分に感じさせる、エレンならではの「Wade In The Water」でアルバムは終わります。


Honky Tonk Angel (back)

商業的に成功することはほとんどなかったエレンですが、ボニー・レイットスーザン・テデスキなど、この後輩出する女性ブルース・ギタリスト達の一つの先駆的ロール・モデルとして広い範囲のミュージシャンから敬愛を受けつつ、現在に至るまで活動を続けている模様。

80年代には敬愛するジャック・ブルースとの共演を果たし、アルバム『Everybody Needs It』(1982)をリリースしたり、なぜか当時人気があったオーストラリアに度々ツアーで出かけたり、2000年代に入ってはインドのタブラ奏者のカシアス・カーンと共演したアルバム『Mystic Bridge』(2006)をリリースしたりと、様々なアーティストと多様な活動を展開しているようです。

そんなエレンが、これから大きく羽ばたこうというヴァイブに溢れた熱演を聴かせてくれる、70年代初頭の空気を今にヴィヴィッドに伝えてくれるこのアルバム、是非ともヴァイナルで見つけてその素晴らしい演奏、録音によるサウンドを秋の夜、楽しんで下さい。

<チャートデータ> チャートインなし

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#131「Back Roads And Abandoned Motels」The Jayhawks (2018)

 #131Back Roads And Abandoned MotelsThe Jayhawks (Sony Music Entertainment / Legacy, 2018)


先週は日本ではなくアメリカ南東部が巨大ハリケーンに襲われ、ノース・キャロライナ州を中心に洪水や停電などの被害が発生している模様。まるでその前の週の関西地方のように、今も数百万戸がまだ停電中途のこと。犠牲者も発生しているようで、一刻も早い平常状態への復帰を祈るばかりです


一方日本ではここ1~2週間でめっきり過ごしやすい気候になり、着々と秋の気配が深まる毎日。そんな秋にぴったりの哀愁とアップビートな感じをもったメロディ満載の楽曲を毎回聴かせてくれる、ゲイリー・ルイス率いる今やアメリカーナ・ロック・バンドの重鎮となったジェイホークスが今年に入って2年ぶりに出してくれたアルバム『Back Roads And Abandoned Motels』を今日はご紹介します。


Back Roads Abandoned Motels 


90年代以降のいわゆるアメリカーナ・ロック・ルネッサンスの潮流に乗って登場した様々なバンドの中でも、ジェイホークスと言えばウィルコライアン・アダムス率いるウィスキー・タウン、サン・ヴォルトといったバンドと並んで、その後のこのジャンルのアーティスト達に大きな影響を与えてきた1986年創立の今や老舗バンド。今もバンドを引っ張るゲイリー・ルイスと共にバンドを創立したマーク・オルソンの二人が中心になったジェイホークスは1992年の傑作アルバム『Hollywood Town Hall』でこの分野での代表的なアーティストとしての確固たる地位を築きました。続く『Tomorrow The Green Grass』(1995)では新たに女性キーボード&ボーカルのカレン・グロトバーグをメンバーに加え、グランド・ファンクの「Bad Time」のカバーを含む素晴らしい楽曲群を揃え、アーティストとしての頂点を極めることに。

しかしこのアルバムを最後にマークが脱退、それでもロック・エッジの立った楽曲と、デビュー以来の持ち味であるメランコリーでありながら心が温かくなるような楽曲をバランスよく配した『Sound Of Lies』(1997)、『Rainy Day Music』(2003)といった素晴らしいアルバムをコンスタントに発表してきました。


Hollywood Town Hall


2011年の『Mockingbird Time』では久しぶりにマークがバンドに復帰、『Hollywood~』以来のジェイホークスらしい力強いアルバムを聴かせてくれましたが、この後マークは再脱退。一昨年久しぶりにリリースされた『Paging Mr. Proust』(2016)では実験的な楽曲もいくつか試みている分、個人的にはやや散漫な印象があって「ああ、ジェイホークスもこのままフェイドアウトしていくのかなあ」と寂しい気分になっていたところでした。


ところが昨年元キンクスレイ・デイヴィーズが突然リリースした、強いアメリカ音楽へのオマージュを剥き出しにした好アルバム『Americana』のバックを、何とジェイホークスのメンバーが全面的に努めているのを見て大いに驚いたものです

今年に入って出た、その続編とも言うべき『Our Country: Americana Act II』(2018)でもジェイホークスのメンバーが続いてバックを努めていて、一つ気になったのはカレンのボーカルがいつになく前面にフィーチャーされた曲が耳に残ったこと。そのレイのアルバムを聴きながら「ジェイホークスの新譜は出ないのか」とぼんやりと思っていた矢先にリリースされたのが今日ご紹介するこのアルバムです。


今回のこのアルバムは、リーダーのゲイリー・ルイスがこれまでに他のアーティストと共作、提供してきたここ数年の楽曲のセルフカバー10曲と、ゲイリーのペンによる新曲2曲という構成。ジェイホークス・ファンとしてはなかなかそれだけでも「いったいどの曲をやってるのか」と期待が膨らむところ。そして届いた新譜に針を落として聴き始めたところ、流れてくる楽曲の演奏スタイルといい、それぞれのメロディといい、90年代から2000年代にかけて彼らが一番輝いていた時期のジェイホークスのサウンドがよみがえったような、そんな素晴らしい内容だったので、今回ご紹介することにしたというわけです。



まずA面冒頭から、歌い出しが力強いカレンの歌声というのにジェイホークスのレコードでのゲイリーのボーカルに慣れたファンの耳が快い驚きに見舞われるのが「Come Cryin' To Me」。ディキシー・チックスナタリー・メインズのソロアルバム『Mother』(2013)に収録されていた曲で、ゲイリーディキシー・チックス3人の共作のナンバーです。ちょっとメランコリックなメロディがゲイリーっぽさを思わせるこの曲、やはりナタリーのバージョンを意識してカレンのボーカルにしたのかな、と思ってると次はそのディキシー・チックスが2007年のグラミー賞主要3部門を独占した大ヒット作にして彼女らの傑作アルバム『Taking The Long Way』に収録されていた、アコースティックでレイドバックしたリズムに乗った「Everybody Knows」ではゲイリーのボーカルが登場、ほっこり心が温かくなるようなサビでのコーラスは正真正銘のジェイホークス節。これよこれよ、と思わず頬がほころぶところで続くのが、ゲイリージェイコブ・ディランと共作して、HBOのTVドラマ『True Blood』のサントラ(2011)に収録されていた「Gonna Be A Darkness」。長尺のちょっとスロウなテックスメックスっぽいイントロから、ドラムスのティム・オレーガンのボーカルが入って来てこちらもジェイホークス節を聴かせてくれるあたりはさながら目の前で彼らのライヴを観ているかのよう。そして再度ディキシー・チックスTaking The~』収録の「Bitter End」ではこちらも70年代のカントリー・ロック全盛期の頃のイーグルス初期やポコらのスタイルから脈々と伝わる楽曲スタイルの最高形のパフォーマンスを聴かせてくれ、このあたりでもうかなりジェイホークス・ファンとしては大満足な状態です


アコギのストロークで力強く始まる「Backwards Women」はナッシュヴィル出身の若手カントリー・ロック・バンド、ザ・ワイルド・フェザーズのメンバーとの共作。こちらはよりジャムセッションっぽく、でもピアノのバッキングや、ハイノートのボーカルとコーラスの絡みなど、カントリー・ロックのおいしいところは余すことなく盛り込まれたご機嫌なナンバー。

続く「Long Time Ago」は90年代「If You Could Only See」のヒットを飛ばしたバンド、トニックのリーダー、エマーソン・ハートゲイリーとの共作。ここではライアン・アダムスの作風を彷彿させるような、ちょっとトルバドゥール風のスタイルのゆったりした楽曲を聴かせてくれます。



この後も様々なアメリカーナやオルタナ・カントリー系アーティストとの共作ナンバーを、ジェイホークス一流のフレッシュでいてどこか懐かしい、ハイクオリティなカントリー・ロック・スタイルで次々に聴かせてくれるのですが、アルバム最後の2曲は今回ゲイリーが新たに書き下ろした新曲2曲

最初の「Carry You To Safety」はミディアム・テンポの、これまたメランコリックなメロディをメンバーの分厚いコーラスがバックアップ、時折ラウンジ風なリヴァーヴの効いた骨太なギターがオブリガード的に絡むあたりがグッとくる、そんな曲。そしてアルバムラストの「Leaving Detroit」はピアノの弾き語りにアコギと控えめなドラムスだけが絡む、そんな音数を抑えたアレンジで、途中からゲイリーのボーカルに寄り添うように絡んでくるカレンの、そしてメンバーの分厚いコーラスがとても気持ちのよい曲です


Back Roads (back)


前作の『Paging Mr. Proust』で個人的にはややがっかりしてからは、ジェイホークスというと昔の素晴らしかったアルバムを聴き返すことが多かった最近でしたが、久しぶりにパワーローテーションで聴きこめるアルバムを届けてくれたジェイホークスには感謝。このコラムでジェイホークスを取り上げるとすれば『Hollywood Town Hall』か『Tomorrow The Green Grass』、と思っていたのですが、この新作の到着まで待っていてよかったな、と今では素直に喜べることが嬉しい、このアルバムはそんな作品です。

とかくセルフ・カバー集というと、ファン・サービスの内輪向け的な位置づけの作品だったりすることが多いわけですが、このアルバムに限ってはそんなことはなく、フラットに聴いてもゲイリーを中心にバンドのメンバーが力を込めて作ってくれた立派な新作として評価されてしかるべき作品だと思います


いよいよ秋本番も近い今日この頃、昔からジェイホークスを知っている方も、最近レイ・デイヴィーズのアルバムで彼らを知ったという方も、そしてジェイホークスは知らないけど、心に触れる秋っぽいいい音楽を聴きたい、という方も、このアルバムも含めて過去からのジェイホークスのサウンドに改めて触れてみるというのもお勧めです。ゆっくり彼らの素敵な新譜、お楽しみ下さい。


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アメリカーナ・フォーク・アルバム・チャート 最高位8位(2018.7.28付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#130「Definition Of A Band」Mint Condition (1996)

 #130Definition Of A BandMint Condition (Perspective / A&M, 1996)


先週西日本を襲った巨大台風21号Jebiによる被害、そしてその数日後に北海道を直撃した震度7の地震と、先週の日本はまさに災害列島の様相を呈し、各地での犠牲者の方々、非難されて電気や水などのライフラインを断たれて大変な状況の方々の様子を知るにつけ、犠牲者の方々のご冥福を心より祈ると共に、被災者の皆さんの一刻も早い日常へのご復帰を祈らずにはいられません。一方昨日日本中をわかせた大坂なおみ選手の全米オープン優勝。セリーナや大会側のフェアとはいえない対応もありましたが、彼女の輝きがこれでくすむことはないので、このニュースが災害に苦しむ方々の力に少しでもなればいいですね。


さて一方で徐々に秋に向かう感じの天候になりつつある今日この頃、今週の「新旧お宝アルバム!」は、来る秋の雰囲気を感じさせてくれる、90年代のお宝R&Bアルバムをご紹介。90年代のソウルR&Bルネッサンス・ムーヴメントを代表する、セルフ・コンテインド・バンド(自ら楽器演奏するR&Bバンドのこと)の代表選手、ミント・コンディションの3枚目のアルバム『Definition Of A Band』(1996) をご紹介します。


Definition of a band


以前もこのコラムで触れましたが、1970~80年代を通じて洋楽に親しんだファンの皆さんの多くが、新しい洋楽作品やアーティストから離れてしまった1990年代というデケイドは、実は80年代USの音楽シーンの多くがマスプロ偏重、シンセや打込みサウンドに偏重したことのアンチテーゼでもあるかのように、多くのアーティストがよりアコースティックで、オーガニックな演奏や歌唱、楽曲スタイルに回帰し、ロック、R&B、ヒップホップ、カントリー、ルーツ・ミュージックと多くのジャンルにおける質の高い作品が多く生み出された、実は音楽的には大変重要なデケイドでした

かのMTVアンプラグド・シリーズが始まったのが1989年というのもそれを象徴しています。で、


90年代作品を改めて評価してみようシリーズ、通算第7弾。


以前申し上げたように、個人的に90年代のR&Bシーンでのルネッサンス立役者は、テディ・ライリーブラックストリート、ガイなど)、ラファエル・サディークトニ・トニ・トニ)、ベイビーフェイスそしてジャム&ルイスソロジャネットの一連の作品など)だと思っているのですが、このうち唯一クリエイティヴ的には停滞期だった80年代の初頭から一貫してクオリティの高い作品を作り続けてきたのがご存知ジャム&ルイス

その二人が90年代の動きに呼応するかのように、A&Mレーベルの肝いりで1991年に立ち上げたレーベルがパースペクティヴ・レーベル。そしてそこからの第1号アーティストが、今日お届けするミント・コンディションでした。


ストークリー・ウィリアムス(vo.)、ホーマー・オデル(g.)、ラリー・ワデル(kbd.)、ジェフ・アレン(kbd., sax.)、ケリ・ウィルソン(g., kbd., perc.)そしてリック・キンチェン(b.)の6人からなるミント・コンディションは、1989年にミネアポリスのクラブで演奏しているところをジミー・ジャムにスカウトされ、当時彼がテリー・ルイスと立ち上げようとしていたパースペクティヴ・レーベルから1991年にはデビュー・アルバム『Meant To Be Mint』をリリース。

バンドメンバー全員が楽器演奏(しかもキーボード奏者が3人いて音の厚みが素晴らしいのです)し、全員が曲を書けるというミントが、キャッチーなバラード・ナンバー「Breakin' My Heart (Pretty Brown Eyes)」(全米最高位6位、R&Bチャート3位)でたちまちヒットをものにしたのは、上記のような彼らの音楽的才能レベルの高さを考えればある意味当然だったかも


Mint Condition


彼らの音楽性は、当時の他のアメリカのR&Bアーティスト達に比べると、自らの演奏を主体に楽曲を自ら書いていく、そしてプロデュースもセルフでこなしてしまう、というスタイルも関係してか、ジャズ、それも90年代UKで同時に盛り上がっていったアシッド・ジャズ的なスタイルを強く持っていて、それが彼らを90年代R&Bルネッサンス・ムーヴメントの中でも、ユニークな存在にしている大きな要素のように思いますそしてこのアルバムもタイトル(バンドというものの定義)も彼らがバンド・アーティストであることの矜持を明確に示しているのは間違いのないところ。



まるでジャムセッションのような、ドラムスのソロからカリプソ・スティール・ドラムやサックスが入り乱れる短い「Definition Of A Band (Intro)」で始まるアルバムは最初からただのR&Bアルバムじゃない感満載。リズムを強調したグルーヴがいい「Change Your Mind」から、ミントお得意のゆったりとしたグルーヴを内包したバラードのシングル「You Don't Have To Hurt No More」になだれ込むあたりの気持ちよさはこのバンドの真骨頂。

レコードのスクラッチノイズ的SEをバックにこちらもうねるグルーヴとリズムが快感の「Gettin' It On」を経てこのアルバム最大のヒットシングルとなった完全クワイエット・ストーム・フォーマットの「What Kind Of Man Would I Be」。同時期最盛期を迎えていたベイビーフェイスの影響も感じるメロディを歌うストークリーの艶のあるボーカルと時折入るミント得意のリズムのキメがアルバム前半のハイライトを構成



その後冒頭の曲を更にスイング・ジャズ・セッション風にアレンジした「Definition Of A Band (Swing Version)」に続いて演奏される「Ain't Hookin' Me Up Enough」はそれまでの楽曲に比べてファンキーさを前面に出したナンバー。そしてそこからいきなりボコーダーをフィーチャーしてザップ風のヘヴィー・ファンクを聴かせる「Funky Weekend」、ピーヒャラ・シンセをフィーチャーした「I Want It Again」あたりはいわばこのアルバムのファンク・セクション。それでもそれに乗るストークリーのテナー・ボーカルが楽曲のしなやかさを演出してるところがミントたるところ。



On & On」からはまたお得意のミント節に戻り「The Never That You'll Never Know」は90年代R&Bの典型的なアレンジで彼らのミュージシャンシップを感じさせるナンバー。そこからまた「Raise Up」ではスローながらまたファンキーな楽曲を挟んだ上で、ボーイズIIメンを思わせるほぼアカペラの「On & On (Reprise)」でまた少しメインストリームに戻した後、アルバム終盤はバンド演奏ならではのジャムセッションにボーカルが乗ったような楽曲スタイルの2曲「Sometimes」「Missing」でシャッフル調のグルーヴを展開した後、クロージングはピアノのみの弾き語りでストークリーが両親への愛情を気持ちをこめて、しなやかに歌い上げる「If It Wasn't For Your Love (Dedication)」で終了。最後にストークリーが「Love you, Mom & Dad」とつぶやくのがいい。


Definition of a band (back)


ストークリーの歌のうまさ、アシッド・ジャズやジャズのジャム・セッション的グルーヴで聴かせるバンド演奏と楽曲構成、そしてキメのリズムやメロディをメリハリよく配置したそつのないソングライティングがミントの魅力の主たる構成要素で、このアルバムは初期3枚の中でもこれらが最もバランスよく、絶妙に作り込まれている作品だと思います


この後ミントパースペクティヴ・レーベルのクローズに伴いエレクトラに移籍して『Life's Aquarium』(1999)をリリースの後、6年間のバンド活動休止に入ります。トニ・ブラクストンと結婚したケリの脱退後、活動を再開したミントはインディから4枚ほどのアルバムをリリース。いずれもそこそこの結果を残していたのですが、彼らの名前を久しぶりにメジャーなニュースで聞いたのは2016年の第59回グラミー賞で、彼らが前年に出したクリスマス・アルバム『Healing Season』が最優秀R&Bアルバム部門にノミネートされたこと。残念ながら賞はレイラ・ハサウェイに持って行かれてしまいましたが、彼らの健在さを改めて実感したことができて嬉しく思ったのを覚えています。


秋の気配が少しずつ強くなる今日この頃、ミントのグルーヴ満点な楽曲と演奏、そしてストークリーの素敵なボーカルを聴きながら過ごしてみるのも乙なのではないでしょうか。


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位76位(1996.10.12付)

同全米R&Bヒップホップ・アルバム・チャート 最高位13位(1996.10.12付)

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#129「Out Of The Blues」Boz Scaggs (2018)

 #129Out Of The BluesBoz Scaggs (Concord, 2018)


先々週はいよいよ秋の到来か?と思われるくらいの素晴らしい気候が何日か続いたのですが、先週は台風一過の後、連日30度台半ばのまたうだるような夏の暑さに逆戻り。こう暑さが続くと疲れてしまいますが、皆さん体に十分に気を付けていい音楽で最後の夏の暑さを乗り切って下さい。


さて今週の「新旧お宝アルバム!」は、そんな暑さを忘れるべく、今年リリースされたボズ・スキャッグスの、渋い艶のあるボーカルが存分に楽しめる、ブルース・カバーを中心にしたニュー・アルバム『Out Of The Blues』をご紹介します。


Out Of The Blues 


ボズといえば70~80年代に洋楽に親しんだファンならアルバム『Silk Degrees』(1976)と大ヒット曲「ロウダウン」に代表されるファンキーで洒脱なブルー・アイド・ソウル・ナンバーや、「We're All Alone」に代表されるR&Bテイスト満点のAORバラード・シンガーのイメージが強烈に残っているアーティストだと思います。

一方、彼の作品を追いかけていろいろ聴かれた方であれば既によくご承知だと思いますが、そもそも彼のルーツというか出自は、同じ黒人音楽でもより根源的なサウンドである、ブルース。彼のキャリアの振り出しは、あのスティーヴ・ミラー・バンドがまだブルースとサイケデリック・ロックのミクスチャー的ロックをやってた1960年代後半の頃のギタリストとしてであり、その後1969年にソロとなりディープなR&Bやブルースロックの聖地とも言えるマッスルショールズで、当時まだ存命だった故デュエイン・オールマンや、マッスルショールズ・スタジオ創設者の一人、バリー・ベケットらと実質上の初ソロ・アルバム『Boz Scaggs』(1969)をリリース、そこに収録されたブルース・ナンバーのカバー「Loan Me A Dime」は、存在感抜群のデュエインのギター・ソロと共にブルース・シンガー、ボズのアイデンティティを確立した有名ナンバーです。


Silk Degrees』『Down Two Then Left』(1978)そして『Middle Man』(1980)といった、当時のメインストリームだったAORブルー・アイド・ソウル・ブームの寵児となったボズでしたが、この後パッタリ活動を休止。1988年に8年ぶりにリリースしたアルバム『Other Road』は、ボビー・コールドウェル作の「Heart Of Mine」の小ヒットを含む、それまでの大ヒット路線を踏襲したものでしたが、この頃からボズは自分の出自であるブルースやディープなR&Bの方向に戻り始めます。


90年代から2000年代にかけ、『Some Changes』(1994)、『Come On Home』(1997)や『Dig』(2001)といった、ブルースやよりディープなR&Bナンバーのカバーと自作曲を含む好盤をいくつかリリースしたものの大きな商業的な成功は得られず。しかし一方で90年代初頭にドナルド・フェイゲンマイケル・マクドナルドと組んで「The New York Rock And Soul Revue」や2010年に同じメンバーでの「Dukes Of September Rhythm Revue」といったR&Bを基調としたライヴ活動に参加し、自分の方向性固めをした後、リリースしたのがボズのメンフィス・ソウルへのオマージュに満ちた素晴らしい『Memphis』(2013)でした。そしてこの作品はシーンからも高く評価され、あの『Middle Man』以来の全米トップ20アルバムとなったのです。


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この直後の来日公演では、『Memphis』からの曲やR&Bのカバーを中心にやってたところ残念ながら多くの観客の反応が今ひとつだったためか「わかったわかった、これやればいいんでしょ」と言って「What Can I Say」から『Silk Degrees』のナンバーになだれ込んで見せたのがとても印象的でした。でも一部の熱心なボズのファンは『Memphis』の素晴らしさとそのライヴに喝采を送っていたと思います。

その『Memphis』に続いて更に様々なR&Bアーティスト達へのオマージュに溢れた『A Fool To Care』(2015)を経て、ブルース・R&B三部作の完結編として今回リリースされたのがこの『Out Of The Blues』。


Boz Scaggs


このアルバムは、いくつかの点で三部作最初の二作『Memphis』『A Fool To Care』と異なっているところがあり、個人的にはそれらはボズの自分のルーツに忠実であろうとする思いの表れだと感じています。

一つには、今回のプロデュースは、それまでの二作でR&Bオマージュのテーマを的確に素晴らしいアレンジでいい仕事をしていたスティーヴ・ジョーダンではなく、基本セルフ・プロデュース。共同プロデューサーとしてクレジットされているのは、90~2000年代にブルースやR&Bテーマのアルバムを一緒に作り続けてきた盟友、クリス・タバレスマイケル・ロドリゲス。ここに彼がサウンドやアルバム作りにおいて気の知れた仲間と自分のやりたいことをやるんだ、という気持ちが表れていると思います。


そして二つ目の、そして最大のポイントは、今回の収録曲は、こちらもブルース・バンド時代からの盟友、ジャック・ウォルロス作の新曲4曲(1曲はボズとの共作)を含めすべてゴリゴリのブルース・ナンバーであるということ。しかも「I've Just Got To Forget You」「The Feeling Is Gone」と彼自身のアイドルであるボビー・ブランドのナンバーを2曲もカバー。前作までのように、アル・グリーンカーティス・メイフィールド、スピナーズザ・バンドらの曲をR&B手法でカバーする、という中途半端なやり方ではなく、自分の最大のルーツであるブルースに徹しているということ。ここにボズの本作に対する本気度を感じるのは自分だけでしょうか。アルバムタイトルはやや逆説的ですが、このアルバムではボズは完璧に「Into The Blues」状態で、それが彼自身の艶のあるボーカルも相まって、最高の結果を生み出しています。


ジャック・ウォルロス作のオリジナル「Rock And Stick」でゆったりと体を委ねるかのように気持ちよく歌うボズの声は最高。ジャック自身のハーモニカのエッジの立った演奏も、このアルバムはブルース・アルバムだぜ!と宣言しているかのよう。メンフィスの夜を思わせるボビー・ブランドの「I've Just Got To Forget You」のカバーも色っぽく、イントロのフレーズから曲を通じてラフながらグルーヴ満点のチャーリー・セクストンのギターが効いている「I've Just Got To Know」、そして一昨年出たストーンズのブルース・アルバムのあの雰囲気を強く感じさせるリズム・セクションが凄いジャック作の「Radiator 110」とどっしりとしたリズムと演奏のナンバーが続きます。




アルバムA面ラストは、ジャックボズの共作で、ちょっとチャック・ベリー風のロックンロールテイストな「Little Miss Night And Day」。ここまで聴いてもブルースだからと単調なところは一切なし。バックを固めるドラムスのジム・ケルトナー、ベースのウィリー・ウィークス、ギターのチャリ坊レイ・パーカーJr.、そしてクラプトンの再来と言われるドイル・ブラモール2世といったここ数作のバックを努める最高のメンバーの演奏もボズのボーカルを引き立てる素晴らしいグルーヴを生み出しています。



そしてアルバムB面に移り、ちょっと驚いたのはいきなりのニール・ヤングの「On The Beach」のカバー。アフターアワーのメンフィスのバーで演奏されるスロー・ブルース・ナンバーのようなアレンジで歌われるこのバージョン、最初聴いた時はニールのカバーとは気付かず、途中で作者クレジットを見てびっくりした記憶があります。オリジナルもムーディーなナンバーですが、これを自分のブルース・スタイルに仕立て上げるあたりが、本作でのボズの素晴らしいところ。

そしてシャッフル調のブルース・ナンバーで、今度はハーモニカをドイルが担当するジミー・リードのカバー「Down In Virginia」からジャッ作のややアップビートなリズムにこのアルバムで初めてホーンセクションが絡む「Those Lies」と流れるように繰り出されるブルース・ナンバーの流れは、またまたアフター・アワーのブルース・バーの雰囲気に戻ってゆったりと歌われる、ボズのアイドル、ボビー・ブランドの「The Feeling Is Gone」のカバーで静かに終わりを告げます。


ここまで読んで来て、うーんブルース・アルバムねえ、ブルースってちょっとハードル高い、なんか難しそう、みんな同じような感じの曲なんでしょう、といった印象を持たれる方も多いかもしれませんが、そういう先入観を一切捨ててとにかくボズのこの新作、ガツンと聴いてやって下さい。

何よりも凡百のブルース・アルバムとの最大の違いは、ボズの素晴らしい声。あの『Silk Degrees』から40年以上経ちますが、年齢を重ねてその艶はますます増しているかのようです。

そしてそれ以前の70年代初頭の頃のボズのアルバムを聴いた後にこのアルバムを聴いても全く違和感がないのも、それだけボズというミュージシャンの軸がぶれていないことの証明だと思いますし、だからこそこのアルバムにはボズの本気度がみなぎってるように感じるのだと思います。


Out Of The Blue (back)


まあ、堅いことは抜きにして今夜はこのアルバムを聴きながら、バーボンでも傾けることにしますか。


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位82位(2018.8.11付)

同全米ロック・アルバム・チャート 最高位12位(2018.8.11付)

同全米ブルース・アルバム・チャート 最高位1位(2018.8.11付)

同全米アメリカーナ・フォーク・アルバム・チャート 最高位3位(2018.8.11付)

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

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