Life Is A Rock - 洋楽こそ我が人生
洋楽全般について、英米ヒット・チャートに登場有無に関係なく、お気に入りの洋楽作品についての独り言やコメントをつれづれに掲載します。「新旧お宝アルバム!」「恒例グラミー賞大予想」など定期コラムが中心です。洋楽 ファンサイト、meantime(www.meantime-jp.com)のスピンオフ企画としてお楽しみ下さい。
【新企画】新旧お宝アルバム!#6 「Aquarius」Tinashe

#6「AquariusTinashe (RCA, 2014)

6回目の「新旧お宝アルバム!」、「新」のアルバム紹介の番の今回は、R&B ・ヒップホップ界の大型新人として今全米の若いヒップ・ホップ・ファンの間では既に人気上昇中、しかしそんじょそこらのヒップホップ・シンガーと一線を画してその作曲・プロデュース能力にも非凡なものを見せる、ケンタッキー州出身、若干22歳の歌姫ティナシェの、昨年のメジャーデビュー作「アクエリアス」をご紹介します。

Tinashe (Front)

ここまで読まれて、R&Bはともかくヒップホップと聴いて「ちょっと」とドン引きしてしまった40代以上の洋楽ファンの方、ちょっと待った。やたらやかましいベース音とか、「ビッチ」とか「マザファッカ」とか口走るダミ声のラップとか、そういうイメージを連想されたとすると、ティナシェの音楽はかなりそれとは趣が違うのです。

むしろ彼女はシンガーとしてはジャネット・ジャクソンアーリアといったあたりの系譜を受け継ぐ、とても美しい歌声を持つ80年代以降のメインストリーム王道系の今風R&Bボーカリスト。しかも全ての曲に自ら作詞作曲でからむシンガーソングライターでもあります。

また、このアルバムのサウンドは、ほとんど全てがアンビエント系R&B、とでもいいますか、強烈なビートはあまり聴かれず、むしろムーディでやや翳りをおびながら、端々に希望と明るさも感じさせる、よく出来た映画のサウンドトラックのようなある意味静謐なサウンドで埋め尽くされているのです。

こうした各曲のサウンドは、DJマスタード、Boi-1da、ディテールといった今のR&B・ヒップホップ界を代表するサウンドメイカーたちのプロデュースによってはいますが、各曲をつなぐインタールード(曲間の短いトラック)はほとんど全てティナシェ自身のプロデュースによるもので、このアルバム全体のコンセプトとプロデュースのコントロールは、実はティナシェ自身であることが判ります(実際、このアルバムのエグゼクティブ・プロデューサーはティナシェ自身と彼女のマネージャーのマイク・ナザロです)。

 Tinashe (Insert 1)Tinashe (Insert 2)

実際、収録されている楽曲もいずれもサウンドプロダクションとティナシェのパフォーマンスレベルの高いものが目白押しです。

冒頭、夢の世界のサントラのようなゆったりとしたトラックに乗ってただひたすらティナシェがタイトルをつぶやく「Aquarius」、アルバム中一番「ヒップホップらしい」ビートで、実際シングルとして今人気急上昇中のラッパー、スクールボーイQをフィーチャーして彼女初の全米トップ40ヒットとなった「2 On」、懐かしいアル・B・シュア!の往年のR&Bヒット「Night And Day」のフレーズがモチーフに使われてジワリと盛り上がる「How Many Times」、空の彼方から時折漏れ聞こえてくる天女のつぶやきのように始まり、ミニマルなシンセ・ドラムとシンセ・ループだけをバックに歌うティナシェの歌声がとても幻想的、かつとてもセクシーな「Pretend」(フィーチャーされた今をときめく超人気ラッパー、エイサップ・ロッキーのラップも無駄にエッジが立ってなく、とても落ち着いたグルーヴです)などなど。



現在最新シングルとして今月公式PVがリリースされたばかりの「All Hands On Deck」などは「2 On」のノリに近い、この中ではどちらかというとより普通っぽいヒップホップR&B(ということはそのジャンルのコアリスナーに受ける、ということですが)ですが、こちらにしても何となく抑制されたグルーヴのようなものを感じさせる、他のアーティストとはやはり一線を画す楽曲です。

 

このようにティナシェの楽曲スタイルが個性的なのは、このデビューアルバム発表の前に、彼女は既に自主制作でミックステープ(アーティストがレコードレーベルを通さず、インターネットサイト等で往々にして無料で自分が制作した楽曲集を発表するもの)を既に3本リリースしており、これらの中で既にこうしたスタイルが確立していたからと思われます。

ネット上で評判を集めたこの3本(2012年の「In Case We Die」と「Reverie」、2013年「Black Water」)がメジャーのRCAとの契約のきっかけだったわけですが、このアルバムがヒットした後も、彼女は自宅寝室のスタジオで4本目のミックステープ「Amethyst」を作成、今年3月に自分のサイトで無料公開しています。

つまり彼女はレーベルのプロモーションに乗って活動する一般的なアーティストと異なり、作品のクリエイティブ・コントロールや自分のアーティスト・デベロップメントも含め、自分の意思でキャリアを創りだそうとしている、極めて新しいタイプのアーティストということが言えます。

 Tinashe (Back)

ジンバブエ出身の父親とヨーロッパ系移民子孫の母親という、文化的にも多様なバックグラウンドを持つ彼女(本名:ティナシェ・カチングウェ)は、写真を見てお分かりのように、歌やサウンドプロデュースの才能だけでなく、その美貌とスタイル、そしてダンスのスキルも高いものを持っているようです。

今年3月には幕張メッセ他で開催された音楽フェス「Spring Groove」出演のために来日、一部の日本のファンに鮮烈な印象を与えてくれたとか。全米でもイベントやTV出演が増えていて、ヒップホップR&Bのメインストリームリスナー層にもアピールできる、ビートの効いたリミックス楽曲の提供なども今後増えていくのでしょう。このアルバムのような内面心情を表現するような「普通でない」サウンドも作りながら、こういうこともできる器用さも彼女の才能

まだまだこれからどういう風に伸びていくか判らないこのティナシェというユニークなアーティストの、ある意味原点ではないかとも思える抑制された、物悲しくも美しい今風のR&Bサウンド、一度体験されてはいかがでしょうか。

<チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位17位(2014.10.25

同全米ヒップホップ/R&Bアルバム・チャート 最高位3位(2014.10.25

同全米デジタル・アルバム・チャート 最高位7位(2014.10.25 

2 On」(Featuring ScHoolboy Q

  • ビルボード誌全米シングル・チャート(Hot 100)最高位24位(2014.8.9
  • 同全米ヒップホップ/R&Bシングル・チャート 最高位5位(2014.8.2
  • RIAA全米レコード協会)認定プラチナ・デジタル・シングル(100万ダウンロード)

Pretend」(Featuring A$AP Rocky

  • ビルボード誌全米ヒップホップ/R&Bシングル・チャート 最高位34位(2014.10.25
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【新企画】新旧お宝アルバム!#5 「Carole Bayer Sager(私自身)」Carole Bayer Sager

#5「Carole Bayer Sager(私自身)」Carole Bayer Sager (Elektra, 1977)


5回目の「新旧お宝アルバム!」、「旧」のアルバム紹介の番の今回は、カーリー・サイモン007/私を愛したスパイ(Nobody Does It Better)」、クリストファー・クロスニューヨーク・シティ・セレナーデ(Arthur’s Theme)」そしてディオンヌ・ワーウィック愛のハーモニー(That’s What Friends Are For)」などなど数々のAORの名曲の共作者として知られる1970年代~1980年代を代表するソングライターの一人、キャロル・ベイヤー・セイガーがシンガーとして1977年にリリースしたソロ・デビュー・アルバム「Carole Bayer Sager(邦題:私自身)」を取り上げます。


Carole Bayer Sager (Front)


1970年代から80年代にかけて全米ヒットチャートファンの方や、同時期のAOR系の楽曲がお好きな方であれば、上記のヒット曲の共作者として、彼女の名前を一度や二度は耳にしたことのある方も多いと思います。

まだ高校生の時に書いた「A Groovy Kind Of Love」が1965年UKのグループ、マインドベンダーズに取り上げられ全米最高位2位のヒットになったのが、彼女のプロとしてのソングライターキャリアの華々しい始まりでした。ちなみにこの曲は1988年にフィル・コリンズがカバーして、見事全米No.1になっているのは皆さんご承知の通り。

その後1975年にデビューしたメリサ・マンチェスターのトップ10ヒット「Midnight Blue」(全米最高位6位)、1977年レオ・セイヤーの全米No.1ヒット「はるかなる想い(When I Need You)」とカーリー・サイモン007...」(全米最高位2位)とヒットを重ねて、シーンでのソングライターとしての実績を確保したタイミングでリリースされたのが、このシンガーとしてのファースト・ソロアルバム。

時にキャロルは30歳の女盛り。作詞作曲の才能だけでなく、レコード・プロデューサーの夫がありながら「007」との共作者、マーヴィン・ハムリッシュとの浮名も流すなど、女性としての魅力も溢れていた様子は、オシャレなスタイリングで写ったこのアルバムのジャケットや、コケティッシュな美貌を大写しにした裏ジャケからも充分伝わってきます。

彼女はこの後1982年にあのバート・バカラック夫人となり、上述の「ニューヨーク・シティ・セレナーデ」「愛のハーモニー」「オン・マイ・オウン」(パティ・ラベルマイケル・マクドナルド、1986年全米3週No.1)といった珠玉の作品を作り出すのですが、その前の、いわばキャリア上昇期にそれまでの作品の決算的な形で出されたのがこの作品です。


Carole Bayer Sager (Back)

アルバムオープニングの「Come In From The Rain」から最後の「Home To Myself」(いずれもメリサ・マンチェスターとの共作)まで、キャロルの歌は彼女の歌を歌うシンガー達に比べて決して上手いというものではありません。ただ、特徴のある、その容貌にも通じるコケティッシュな声にはついつい引き込まれてしまいます。

またこのアルバムの曲の多くは「好きな人に対する想いを秘めつつ、同時に自らが傷つかないように」という、男女の関係が微妙に不安定な状況を歌ったものが多いのですが、そうした曲をある時はしっとりと(「Sweet Alibis」「I'd Rather Leave While I'm In Love」)、またある曲では自らを元気づけるかのようにアップテンポ(「Don't Wish Too Hard」「You're Moving Out Today」)で歌うキャロルの情感のこもった歌声は、歌唱力云々を超えて聴くものの琴線に触れる瞬間をいくつも生み出してくれます。


こうしたキャロルの情感あふれる歌詞を載せた収録曲は、どれもメインストリーム・ポップの作品として極めてクオリティの高い楽曲ばかり。

それまでにキャプテン&テニールが歌った「Come In From The Rain」や後にリタ・クーリッジがヒットさせる「I'd Rather Leave While I'm In Love」などをはじめ、いずれも彼女とメリサ、マーヴィン・ハムリッシュ、ブルース・ロバーツ、ピーター・アレン、ベット・ミドラーといった当時のシーンを代表する作曲家やアーティスト達との小粋で、ちょっとキッチュな感覚を感じさせるメロディや構成の共作曲の数々で固められています。そう、60年代NYのブリル・ビルディング・シーンで活躍したキャロル・キングバリー・マンたちの直系のソングライティングの匠が、新しい息吹を持って脈づいている、そんな楽曲が並んでいるのです。




またこのアルバムの音作りも一流。当時NYの有名スタジオ、レコード・プラントで、ブルックス・アーサーのプロデュースによるこのアルバムには、ギターのリー・リトナー、ドラムスのジム・ケルトナー、ベースのリー・スクラー、ピアノのニッキー・ホプキンスなど、70年代を代表するスタジオ・ミュージシャンを中心とした錚々たる面々が参加して、キャロルのシンガー・デビューを盛り上げてくれています。出来が悪かろうはずがありません。


Carole Bayer Sager Single 


キャロルはこの後も「...Too」(1978年)、「Sometimes Late At Night」(1981年)の2枚のソロを発表し、3枚目からは「Stronger Than Before」(バカラック、ブルース・ロバーツとの共作)で全米ヒット(最高位30位)も放つなど一定の成功を収めるのですが、個人的にはまだまだシンガーとしてもソングライターとしてもまだブレイクして間もなく、自信と不安が錯綜しているような感じを漂わせるこのアルバムが、後のややオーバープロデュース気味の作品よりも彼女の魅力をより強く感じさせてくれると思います。

これから梅雨の季節。彼女の楽曲はいずれも物思いにふけりながら聴くにはぴったりのものばかり。

週末の午後など、ゆっくりコーヒーでも飲みながら、彼女の素敵な楽曲の世界に身を委ねてみてはいかがでしょうか。


<チャートデータ>

You're Moving Out Today(おかしな恋人)ビルボード誌全米シングル・チャート(Hot100)最高位69位(1977.11.19)

【新企画】新旧お宝アルバム!#4 「The Phosphorescent Blues」Punch Brothers

#4「The Phosphorescent BluesPunch Brothers (Nonesuch, 2015)

4回目を迎えた「新旧お宝アルバム!」、今回は「新」のアルバム紹介の番。

今日は今年リリースされたばかりの、ニューヨークはブルックリンをベースに活動する名うてのフォーク/ブルーグラス界のミュージシャン達による「プログレッシヴ・カントリーロック・バンド」パンチ・ブラザーズ4作目、「The Phosphorescent Blues」をご紹介します。

Punch Brothers (Front)

2回のレイク・ストリート・ダイヴに続いて今回紹介するパンチ・ブラザーズも、多くのリスナーの皆さんには初耳の名前でしょう。ましてや「プログレッシヴ・カントリーロック」って何だ?と思われる方も多いと思います。

パンチ・ブラザーズは、2006年に、プログレッシヴ・カントリー・バンドのニッケル・クリークのボーカルでマンドリン奏者のクリス・シーリー(Chris Thile)と、グラミー賞最優秀ブルーグラスアルバム部門に2013年と今年の2度ノミネートされた達人バンジョー奏者のノーム・ピケルニー(Noam Pikelny)、そしてそのノームのアルバムをプロデュースし自らもフィドル奏者として著名なゲイブ・ウィッチャー(Gabe Witcher)3人を核に、ギターのクリス・エルドリッジ(Chris Eldridge)とベースのグレッグ・ギャリソン2008年脱退、後任はポール・コワート(Paul Kowert))を加え結成された5人組です。

彼らのサウンドを一言で表現するのは難しいのですが、ポップ、メインストリームロックやクラシックの要素を持ったプログレッシヴ・ロック的な楽曲をアコースティックな楽器で表現しているバンド、と言えば少しはイメージが掴めるでしょうか。

 Punch Brothers Jacket(Open)

何しろ彼らの演奏技術と楽曲のクオリティの高さは実際に曲を聴いて頂くのが一番なのですが、アルバム冒頭の「Familiarity」からしていきなり10分以上に及ぶ、三部構成でメロディやリズムが次々に変化する、いわば「ブルーグラスの『ボヘミアン・ラプソディ』」とでも言うべきプログレッシヴ・ロック的な一曲。しかし楽曲の出来が素晴らしいのと、演奏のタイトさで全くその長さを感じさせません。

かと思うと、2曲目の「Julep」や4曲目の「I Blew It Off」などはとてもメロディの親しみやすいポップなナンバーで、「I Blew It Off」なんて「あれ?これ、スーパートランプのヒット曲のカバーだったっけ?」と思ってしまうほどキャッチャーなメロディの曲。

その一方で、ドビュッシーベルガマスク組曲第4番「パスピエ」(「Passepied  (Dubussy)」)や20世紀初頭のロシアのピアニスト、スクリャービンの「嬰ハ短調前奏曲」(「Prelude (Scriabin)」)といったクラシック曲や、伝統的フォーク楽曲である「Boll Weevil」といった様々なジャンルの楽曲をマンドリン、フィドル、バンジョー、ギターという楽器構成で自曲のように見事に演奏表現してしまうという、極めて高レベルのミュージシャンシップには思わず圧倒されます。このあたりは、自ら楽器を演奏される方が聴くとより的確に評価頂けるのでは。

とかくカントリーやブルーグラス、というとコテコテのカントリー&ウェスタン的な楽曲や、カウボーイが出てきそうなサウンドのフィドルやバンジョーの演奏スタイルを思い浮かべる方は多いと思います。

でもこのアルバムは、単に使われている楽器がマンドリンやバンジョーなどである、と言うだけで、楽曲や演奏へのアプローチなどは、70年代ウェストコーストロックやプログレッシヴ・ロック、はたまた初期のフュージョン・ジャズなどを思わせ、こうしたジャンルに親しんだ方なら、このアルバムの音世界にすんなり入れます。

このアルバムにそうした親しみやすさを加えている貢献者は、このアルバムをプロデュースしたTボーン・バーネットでしょう。

Tボーン・バーネットといえば、2009グラミー賞最優秀アルバム賞を獲得した、ブルーグラスの女王アリソン・クラウスロバート・プラントが組んだルーツ・ロックの名盤「Raising Sand」を始め、ロス・ロボスエルヴィス・コステロなどの代表作を過去手がけた、アメリカン・ルーツ・ロックの分野では定評のあるサウンド・メーカー。彼のプロデュースが、場合によってはコアなブルーグラスの方に行ってしまいそうなサウンドに効果的にメインストリーム的なクオリティを与えています。

 Punch Brothers (Insert)

このアルバムは既に一部のミュージシャンの方々には高い評価を得ているようで、先日某FM曲で高橋ユキヒロさんが「最近お気に入り」ということでプレイされてましたし、現在NY在住の矢野顕子さんは自称パンチ・ブラザーズの「追っかけ」というくらいこのバンドに惚れ込んでおられるようで、特に「ライブで彼らが音を一つでも外したのを聴いたことがない」というくらい、ミュージシャンとしてのレベルの高さを評価しておられるようです。

 Punch Brothers (back)

ミュージシャンでなくとも、このアルバム冒頭の「Familiarity」の壮大な組曲的な楽曲を聴いて頂ければ、伝統的な楽器と演奏スタイルでこんなにコンテンポラリーで、ロックして、映画音楽のようにイメージを掻き立てる表現ができるのかとちょっとした高揚感を経験できると思います。

1回で取り上げたジャクソン・ブラウンの「Late For The Sky」同様、ベルギーの抽象画家ルネ・マグリットの作品(1928年の「恋人たち」)を印象的に使ったアルバム・ジャケットもこのアルバムが特別であることを感じさせてくれます。
ひとつカントリーやブルーグラスとかへの先入観を押入れにしまって、パンチ・ブラザーズのユニークで耳に楽しいアルバムを経験してみてはいかがでしょうか。

<チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位372015.2.14
同全米ロック・アルバム・チャート最高位92015.2.14
同全米ブルーグラス・アルバム・チャート最高位12015.2.142.21

【新企画】新旧お宝アルバム!#3 「End Of A Rainbow」Patti Austin

#3「End Of A RainbowPatti Austin (CTI, 1976)

今回で3回目のこの「新旧お宝アルバム!」、今度はまた「旧」に戻りまして1983年に「あまねく愛で(Baby, Come To Me」の全米ナンバーワンヒット(1983/2/19-26、2週ナンバーワン)を放って当時からの洋楽ファンにはお馴染みのパティ・オースティン1976年のデビュー・アルバム「End Of A Rainbow」を取り上げます。

PattiAustin_EndOfARainbow.jpg 


パティ・オースティンといえば80年代に小林克也さんの「ベスト・ヒットUSA」などで洋楽に親しんだ方々には上記のジェイムス・イングラムとのデュエット曲「あまねく愛で」の大ヒットで親しみのあるアーティストでしょう。

ただ、1990年代以降はメインストリームでの商業的成功は特にないため、80年代に彼女を知っていた方も、またここ最近洋楽を聴き始めた若いリスナーの皆さんにもあまり馴染みがなくなってしまっているのではないでしょうか。

そんな彼女のそもそものキャリアのスタートは4歳の時にジャズ・ミュージシャンだった父親に連れられて行ったアポロ・シアターでのダイナ・ワシントンのコンサートでステージに上げられて歌った歌をサミー・デイヴィスJr.に認められたというなかなか華々しいものでした。

その後彼女は優秀なセッション・ボーカリストとして、様々なCMジングルや、ポール・サイモンの「恋人と別れる50の方法(50 Ways To Leave Your Lover)」(1976)、フランキー・ヴァリの「燃える初恋(Our Day Will Come)」(1975)、ビリー・ジョエルの「素顔のままで(Just The Way You Are)」(1977)など数々の有名作品のバックボーカルを努めて、当時ジャズ界に君臨していたクリード・テイラー率いるCTIレーベルからこのデビューアルバムを出す頃は、実力派としての地位を確立していたのです。

 

このアルバムのオープニングの「Say You Love Me」を聴いてまず感じられるのは、パティの澄み切った美しいボーカルと、ミディアム・テンポの日曜の昼下がりを思わせるようなゆったりとした曲調と、バックのタイトな演奏が一体となり、いきなり目の前に美しい庭園が開けたかのようなイメージを与えてくれることです。

このイメージはこのアルバム全体を通して基本的テーマとして一貫していて、このアルバムは音楽の素晴らしさ、歌を歌うことの喜びといったとてもポジティブなイメージを強く感じさせてくれる、そんな作品に仕上げられています。

 

全体のトーン以外にも、このアルバムを素晴らしいものにしている三つの大きな要素があります。

その一つは、上記に述べた一貫性をサポートする演出として、ストリングスの使い方が効果的なこと。それも各曲の中でのストリングスの使われ方ではなく、キーとなる曲から曲への移行部分に効果的にストリングスがインターミッション的に使われていることです。

冒頭の「Say You Love Me」から「In My Life」へのつなぎと、5曲め(レコードではB1曲目)のフュージョン風の「Give It Time」からバックコーラスとの三声のコーラスでジャジーに始まる「There Is No Time」へのつなぎでこの演出が結構効いていて、アルバム全体の印象を締まったものにしています。このあたりはプロデュースも務めた御大クリード・テイラーのアイデアかもしれません。

 

第二の大きな要素は、このアルバム全体のバックを当時のジャズ系の超一流のスタジオ・ミュージシャンががっちり固めていること

リズム隊はドラムスの神様スティーヴ・ガッドアンディ・ニューマーク、ベースはチャック・レイニーウィル・リー、ギターはエリック・ゲイルスティーヴ・カーン、キーボードはリチャード・ティー、サックス/ホーンはブレッカー・ブラザーズの二人、そしてパーカッションはラルフ・マクドナルドと、当時から80年代にかけてのフュージョンシーンを代表するバンド、スタッフの主要メンバーを含む、一流の連中が勢揃いしてタイトな、それでいてパティのボーカルをうまく支えて演奏していることがこのアルバムの素晴らしい出来には不可欠といっていいでしょう。

 

第三の、そして実は多分最大の要素は、このアルバム全9曲のうち、スパイラル・ステアケイス1969 年のヒット曲「More Today Than Yesterday」のカバー以外の8曲全てをパティ自身が書いていること

彼女の卓越した才能は歌だけではなく、NYのブリル・ビルディングのプロの作曲家が書いたといっても不思議がないほど素晴らしいバラードの「You Don’t Have To Say You’re Sorry」、ブロードウェイのミュージカルからの一曲のような「What’s At The End Of A Rainbow」、ちょっとモータウン的なフレイバーを感じるアップテンポの「This Side Of Heaven」といった自作の曲のクオリティの高さにも充分伺え、このアルバムの魅力を更に高めています。

自作であるがゆえに存分に表現力を駆使して自信たっぷりに歌っていることが、このアルバムでの彼女の歌唱パフォーマンスをクオリティ高いものにしているのは間違いのないところでしょう。

 PattiAustin_EndOfARainbow_Insert.jpg

長らくメインストリームから遠ざかっていたパティ、今年は「あまねく愛で」のパートナー、ジェイムス・イングラムとのデュエット・アルバムの企画もあるとのこと。それを楽しみにしつつ、この素晴らしいR&B/ジャズ・ボーカリストの瑞々しいスタートを振り返って、これからの季節の週末の昼下がりにピッタリのこのアルバムに耳を傾けられてはいかがでしょうか。

<チャートデータ>

ビルボード誌全米ジャズ・アルバムチャート最高位31位(1976

Say You Love Me」同全米R&Bシングルチャート最高位63位(1977.3.53.12

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

新企画】新旧お宝アルバム!#2 「Bad Self Portraits」Lake Street Dive

#2「Bad Self Portraits」Lake Street Dive (Signature Sound, 2014)

先週からスタートしたこの「新旧お宝アルバム!」第2回の今回、「新」のアルバムの最初に選んだのは2004年にボストンで結成、現在はニューヨークのブルックリンをベースに活動する男女2x2の4人組、レイク・ストリート・ダイヴの昨年のアルバム「Bad Self Portraits」です。

LakeStreetDive_BadStreetPortrait.jpg

レイク・ストリート・ダイヴって誰?」そうですよね、日本ではアルバムが発売されてませんし、全米でもこのアルバムでブレイクしたばっかりなので、まずはバンドの紹介から始めなければいけません。

彼らのサウンドを一言で言うと、ジャズ的なフィーリングをベースに、モータウン、R&B、メインストリーム・ポップ、1970年的なクラシック・ロック、カントリー/ルーツ・ロックといった様々な要素を見事にミックスしたキャッチーな楽曲を聴かせる、とても歌唱と演奏能力の優れたバンド、ということになります。

何と言ってもボーカルのレイチェル・プライスの歌唱力は素晴らしいのですが、マライアセリーン・ディオンといったいわゆるメインストリームのポップ・ボーカリストとはちょっと違って、ハスキーな声質で随所にジャズ的なスタイルを見せながら、結構高度なボーカルテクニックを駆使して歌う、とても「カッコいい」女性ボーカリストです。彼女は過去ジャズ・ボーカリストとしてもアルバムを出しており、2003年にはモントルー・ジャズ・フェスティバルの国際ジャズ・ボーカル・コンテストで選外ですが特別賞を受賞した、実力派のシンガーなのです。

他のメンバーは、トランペットも吹くギタリストのマイク・”マクダック”・オルソン、アップライトベースがカッコいいベースのブリジット・カーニー嬢、ドラムのマイク・カラブリーズ。みんなボストンのニュー・イングランド音楽院で知り合った学友で、それぞれがクラシックの素養もあるミュージシャンの師弟で、曲も書き、ジャズにものめり込んだ時期もあったようですが、バンドとしては彼ら自身が慣れ親しんだポップ・ロック・R&B路線で行くことに決めたとのこと。

何しろ1曲めの「Bad Self Portrait」(出来の悪いセルフィー写真、とでもいいますか)からノリのいいサウンドとレイチェルのパワフルながら巧みなボーカルが炸裂するキャッチーなナンバーで、いきなり冒頭から引き込まれること請け合い。


続く「Stop Your Crying」はフォービートの中に一瞬ツービートが混ざるリズムの面白さとバンドのコーラスがレイチェルのボーカルをうまく引き立てるこれもとてもキャッチーな曲。

3曲めの「Better Than」はぐっとしっとりとした曲調ながら、ナッシュヴィルかメンフィスの小さなクラブで演奏しているかのような音響と雰囲気の、これも思わず聴き入ってしまう佳曲(マイクのトランペットもそういう雰囲気を盛り上げてます)。

といった感じでこのアルバム、順番に紹介していくと全曲解説したくなるような、ほぼ全ての楽曲のクオリティが高いのできりがないのです。

そんな中で一つ、レイチェルのボーカル以外に特筆すべきは、リズムの使い方と楽曲のアレンジの組み合わせの面白さ。

Stop Your Crying」のフォービートとツービートの組み合わせ以外にも「Better Than」ではフォービートの途中に一瞬3/4が入るのが曲の魅力になってます。

5曲めの「You Go Down Smooth」などは普通に聴くとモータウン・リズム(フィル・コリンズの「恋はあせらず」とかのあの感じです)なのですが、ブリッジ(サビ)が一小節ごとにボーカルは半音ずつ上がっていくのに対して、ベースは半音ずつ下がっていくというにくいアレンジ(ビートルズの「Got To Get You Into My Life」でのポールのベースラインをヒントにしているようです)だったりとか、とにかく彼らの楽曲には1960年代後半~1970年代の懐かしい楽曲を思わせる心地よさが満載で、体が自然に動き、気持ちよさのドーパミンがガンガンに放出されるのを感じるのです。

Lake Street Dive - Bad Self Portraits (back)

彼らはこのアルバム以前にも2007年からインディーでEPをリリースしたり、いろんなフェスに参加したりして、草の根人気を全米では築きつつあるようで、それが今回のこのアルバムのビルボード誌アルバムチャートでの初めての上位ランキング(18位)といったブレイクに繋がっているようです。

私がこのバンドを知ったのは、現在アメリカ留学中の娘が現地でSpotifyで聴いて気に入っている、というので教えてもらったのがきっかけ。

日本では全く聴いたことがなく、先日ピーター・バラカンさんのイベントにお邪魔した際にリクエストしてかけて頂いた時も、ピーターさんも「知らないバンド」と言われてましたので、娘から教えられなければこのバンドを知ることもなかったかも。

そう考えるとこれだけ良質のバンドが全く日本で知られないのは本当にもったいない。彼らのサウンドは前述のように、70年代に洋楽に親しんだリスナーの皆さんの琴線に触れる魅力満載ですから、「最近のバンドにはいいのがいない」などと仰っているベテラン洋楽ファンの皆さんにはこの機会に彼らの作品に触れてみてはいかがでしょうか?

彼らのパフォーマンスはYouTubeに多くの映像がアップされていますが、このアルバムの楽曲の他に、彼らが2012年にボストンの街角でニューオーリンズ・ジャズ風にアレンジして演奏したジャクソン5の「I Want You Back」やアパートの一室でこれもジャズっぽくアレンジしたホール&オーツの「Rich Girl」など、いろんなカバー曲をとてもクールにやっている映像も多く上がっています。オリジナルの楽曲もさることながらこういうカバーの出来の素晴らしさも、彼らのミュージシャンとしての質の高さを物語っていると思います。

今の私の願いは、アメリカのライブハウスか小ぶりのシアターで、彼らのライブを観ること、そして可能であれば彼らをミュージック・フェスなどで日本に呼んで、一人でも多くの人に彼らの素晴らしい演奏を聴いてもらうようなお手伝いをすること。そんなことを思わせてくれるアーティストに巡りあわせてくれた娘にはホントに感謝してます。

<チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位18位(2014.3.8)

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