Life Is A Rock - 洋楽こそ我が人生
洋楽全般について、英米ヒット・チャートに登場有無に関係なく、お気に入りの洋楽作品についての独り言やコメントをつれづれに掲載します。「新旧お宝アルバム!」「恒例グラミー賞大予想」など定期コラムが中心です。洋楽 ファンサイト、meantime(www.meantime-jp.com)のスピンオフ企画としてお楽しみ下さい。
【新企画】新旧お宝アルバム!#36「Ego Death」The Internet (2015)

#36Ego DeathThe Internet (Odd Future / Columbia, 2015)


この週末は一気に暖かくなって、あちこちで桜の花も三分咲きぐらいには開いてきてまったりと過ごされた方も多かったのでは。いよいよ今週末あたりは桜もかなり咲いて花見気分満点の週末になりそうですね。こうなってくるとやはり良い音楽を聴きながら美味しいおつまみとお酒を楽しみたいもの。素晴らしい春の洋楽ライフをお過ごし下さい。

さて、今週の「新旧お宝アルバム!」は「新」のアルバム紹介です。今週は、21世紀のR&Bシーンを担う重要勢力、オッド・フューチャー軍団の中心メンバー、シド・ザ・キッド(シドニー・ベネット)マット・マーシャンズ(マシュー・マーティン)を中心とする新世代のR&Bグループ、ジ・インターネット3枚目のアルバム『Ego Death』を取り上げます。

Ego Death (Front) 

皆さんはオッド・フューチャーというR&B/ヒップホップ・アーティストのグループについてお聴きになったことがあるでしょうか。

2007年頃からカリフォルニアはLAのラデラ・ハイツという、比較的所得レベルは高めながら(あのヴァネッサ・ウィリアムスやボクサーのケン・ノートンが住んでいる)人口の7割はブラックという、ちょっとユニークな地域出身のプロデューサー兼ラッパーのタイラー・ザ・クリエイター(タイラー・グレゴリー・オコンマ)マット・マーシャンズ、女性サウンドメイカーのシド・ザ・キッドらが中心になって集まった、ややゆるめのR&B/ヒップホップ・アーティスト集団が「オッド・フューチャー」。
オッド・フューチャー立ち上げ以来、そこに所属するアーティスト達は、個々の作品発表だけでなく、お互いの作品に参加し合って他のメンバーの作品のサポートをするなどの活動を行って、オッド・フューチャーというグループの存在感をシーンでじわじわと高めてきました。

Channel Orange

その流れとの存在感がメインストリームに一気にブレイクしたのが、クールな音像とアンバランスなカニエちっくなヒップホップ・センスが奇妙な魅力を醸し出している、オッド・フューチャーのメンバー、フランク・オーシャン2013年のグラミー賞で最優秀新人賞、最優秀アルバム(『Channel Orange』)、レコード・オブ・ジ・イヤー(「Thinkin About You」)など6部門にノミネート、アルバム『Channel Orange』が最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバムを受賞したこと。これでオッド・フューチャーの名前はメインストリームに認知されることになり、主宰者とでもいうべきタイラー・ザ・クリエイターのアルバム『Wolf』(2013年全米最高位3位)、『Cherry Bomb』(2015年同4位)のメインチャートでの成功にも繋がって、そういう状況の中で昨年6月にドロップされたのが、このジ・インターネットの『Ego Death』。

オッド・フューチャーのもう一方の中心人物であるシド・ザ・キッドの自宅のアパートにあるスタジオで3週間で録音されたというこのアルバム、ひと言で表現すると、R&B的なサウンドがお好きな方であれば間違いなく気にいって頂けるであろう、
無茶苦茶気持ちのいいグルーヴ満載の、一級品ソウル・ジャズ・ファンク・ヒップホップ作品に仕上がっています。

いつものように一曲ずつ取り上げて説明するのがあまり意味をなさない、と思えてしまうほどこのアルバムの楽曲群は、ソウル・ジャズ・ファンク・ヒップホップが絶妙にブレンドされたグルーヴ、という一本の太い幹に貫かれています。そこにはメンフィス・ソウルを出自とした、90年代以降のオーガニック・ソウルにつながるねっちりとしたエモーショナルなソウル感覚も強く感じられますし、スライ・ストーンプリンス以来のいわゆる密室ファンク的などろりとしたそれでいてとても乾いた感覚のファンクネスもあり、ストリート的やギャングスタ系ではなくよりジャズやソウルに近いグルーヴのJ.ディラDJプレミア、ア・トライブ・コールド・クエストといったあたりの浮遊感満点のヒップホップグルーブも内在していて、といったある意味70年代以降のブラック・ミュージックの集大成のような作品がこの『Ego Death』。で、聴いていると一級品のジャズのレコードに通じるようなクールネスとグルーヴも感じるのです。こんなR&Bアルバム、最近ではあまりなかったと思います。

そしてもう一つこのグループの重要な点は、こうした一級品のグルーヴの楽曲を、打ち込みとかではなく、基本メンバーが楽器演奏でプレイしているという点。バンド演奏にこだわるヒップホップのザ・ルーツなどと同様、バンドとしての表現にこだわっているという意味で、このジ・インターネットというグループはシーンでもユニークな位置を占めていると思いますし、注目に値すると思います。

 

このアルバム、全く捨て曲というものがないのですが、敢えて曲を選ぶとすると、あのロックグループ、ファンとの共演でブレイクしたジャネル・モネイがフィーチャーされ、クールなグルーヴがいい「Gabby」、頭モヒカンのシド・ザ・キッドの女性らしい一面が現れたドリーミーなボーカルとタイトなリズムが催眠効果のある「Under Control」、あのジャスティン・ティンバーレイクの『20/20 Experience』の全曲を共作、先頃のグラミーを席巻したケンドリック・ラマーの『Pimp A Butterfly』でも重要曲に参加していたR&Bシンガー、ジェイムス・フォーントルロイをフィーチャーした、クールなヒップホップ感覚満載のカッコいいナンバー「For The World」、これも催眠効果のあるベースとボーカルがひたすら気持ちのいいグルーヴを生み出している「Girl」、そしてCDには入っておらず、アナログ盤のみに収録されている、すべてのライヴが終わった後のガランとしたライヴハウスでボーカルと23人のバンドメンバーだけが静かに演奏している、といった風情がとてもヴィヴィッドな音像を結んでくれるしっとりとしたR&Bバラードのラスト・ナンバー「Missing You」などは特に印象に残る楽曲。

 

このアルバムは、シーンでも高く評価され、音楽誌の評価も高かったこともあり、先頃の第58グラミー賞では最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム部門にノミネートされましたが、惜しくもザ・ウィークンドの『Beauty Behind The Madness』に受賞を譲っています。受賞は逃しましたが、ある音楽誌が曰く「このアルバムは、昔からの音楽をパクったりすることなしに、聴いている者に過去の素晴らしい音楽経験を呼び起こしてくれる」。正に聴き込むほどに昔から聴いてきた素晴らしい音楽(特にR&Bやソウル、ヒップホップなど)についてのデジャヴ(既視感)を強く呼び起こしてくれる、そんなアルバム。是非ソウル好き、ヒップホップ好き、そしてジャズファンの方にも是非聴いて頂きたい、そんな作品、是非今週末のお花見パーティのお供にいかがでしょうか。


Ego Death (Back) 

<チャートデータ>
ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位 89位(2015.7.18付)
同全米R&B/ヒップホップ・アルバム・チャート 最高位9位(2015.7.18付)

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【新企画】新旧お宝アルバム!#35 「Lark」 Linda Lewis (1972)

#35LarkLinda Lewis (Reprise, 1972)


春分の日の三連休は一気に春の陽気を実感させる暖かさで、心地よさに誘われてあちこちに出かけたり、おうちでゆっくりと過ごしたりしながら過ごされてる方も多いことでしょう。

今週の「新旧お宝アルバム!」は「旧」のアルバムの順番。今回は、こういう暖かい春の到来の時期にぴったりの、5オクターブの美しい歌声が正にヒバリの鳴き声のように聴く者の心を暖かく包んで癒やしてくれる名盤、リンダ・ルイスの『Lark』をご紹介します。


Linda Lewis Lark (front)


リンダ・ルイスといえば、90年代半ば頃のいわゆる「フリー・ソウル」ブームの頃に渋谷系の音楽ファンやDJたちが昔の音源を掘り起こす中で再発見され、ちょうど時を同じくして彼女の新作『Second Nature』(1995)が発表されたこともあり、一時音楽好きの間では結構評判になったUK出身の黒人女性シンガーソングライター。しかしそのスタイルはいわゆる伝統的なR&Bシンガーでもなく、当時盛り上がりを見せていたオーガニック・グルーヴ満点のUKソウルでもありません。

彼女のスタイルはどちらかというと、自ら曲も書き、アコギも達者に操ることから、ジョニ・ミッチェルローラ・ニーロといったフォーク系のシンガーソングライター達の影響を色濃く受けているのは明らかで、それに彼女独特のセンスによる昇華されたようなグルーヴ感がふんだんに溢れかえっているのです。

自分が持っているこのアルバムの日本盤CDの解説を書かれている渡辺亨さんなどはビョークとの類似性を指摘されていますが、これは多分このアルバムの最後に収録されたライヴ・バージョンの「Little Indian」のワールド・ミュージック的なパフォーマンスにかなり触発されてのコメントではないかと思われます。


Lark (Insert)


またリンダというと有名なのが、ミュージック・マガジンの元編集長だった故中村とうよう氏がオリジナル盤のリリース当時、このアルバムとリンダを「ジョニ・ミッチェルもローラ・ニーロもキャロル・キングも束になってもかなわない」と手放しで絶賛したという事実。マイケル・ジャクソンの『スリラー』(1982) に0点を付け、発表当時ロック・シーンに衝撃を与えたトーキング・ヘッズの『Remain In Light』(1980)をボロクソに評するなど、その辛辣な評論スタイルでは定評のあるとうよう氏が絶賛したのも、彼女のシンガーとしてのテクニックが素晴らしいにも関わらず、そのパフォーマンスが極めてナチュラルであり、かつ文化的普遍性を感じさせることによるのではないかと思う次第です。

いずれにしても黒人女性シンガーで比較できるアーティストがあまり見当たらず、強いていえば彼女が日本で再発見された90年代半ばに出てきたインディ・アリーくらい。ただインディ・アリーはかなり伝統的なR&Bスタイルを強くバックボーンに持っており、リンダの「無国籍感」のようなものは希薄です。やはりリンダの表現スタイルと立ち位置は、このアルバムが発表されて40年以上が経つ今でもとてもユニークといっていいと思います。


そして何といっても素晴らしいのはリンダの声とそのボーカル・テクニック。5オクターブの美しい歌声は、とてもキュートでありながらあざとさやテクニックをひけらかすようなところは一切なく、テクニック的にはかなり高度な歌唱をしているのに、聞こえてくる歌声はあくまで美しく、ナチュラルで自然に耳に入ってきて聴く者を包んでくれます。

同じ5オクターブの歌声というとミニー・リパートンが有名ですが、リンダはどうやらミニーよりもやや声域が低めで、ミニーが出さない低めの音階もカバーしている模様(「Feeling Feeling」あたりではそれがよく判ります)。ミニーの代表作「Lovin' You」(1975)のあの歌声とバックに小鳥の歌声を配したアレンジなどは、プロデュースしたスティーヴィー・ワンダーリンダの大ファンだったという話を聞くと、きっとリンダのこのアルバムの雰囲気に影響を受けたものだったに違いない、と思ってしまいます。




とにかくアコギでジョニ・ミッチェル風に始まりいきなりリンダのキュート・ボイスが炸裂する冒頭の「Spring Song」から、フェンダーローズのイントロからゆったり始まり後半ゴスペル的なカタルシスに盛り上がっていく「Reach For The Truth」、ちょっと非西洋的なコード展開のアルペジオのアコギとリンダのボーカルが印象的な「It's The Frame」、70年代ウェストコーストのシンガーソングライター作品のようなスケールたっぷりな曲調にミスマッチなリンダのキュートボイスが得も言われぬ快感を呼ぶ「Feeling Feeling」などなど、とにかく春の訪れにこれ以上なくふさわしいと思えるリンダの歌声に浸って下さい。

アルバム後半の楽曲でもリンダの歌声は素晴らしく、このアルバムで最も伝統的なR&Bスタイルに近い、後にコモンの「Go!」(2005)にもサンプリングされていた「Old Smokey」やピアノの弾き語りがローラ・ニーロを思わせる「Been My Best」など佳曲ぞろい。アルバム最後は上述したちょっとワールド・ミュージックっぽいライヴバージョンの「Little Indians」で幕を閉じます。




このアルバムをプロデュースしているジム・クリーガンは、ファミリースティーヴ・ハーレイ&コックニー・レベルなどのUKの個性的なロックバンドのギタリストだった人で、この当時リンダのご主人。この頃リンダは自分の作品以外でも、キャット・スティーヴンスの『Catch Bull At Four』(1972)やデヴィッド・ボウイの『アラジンセイン』(1973)といったアルバムにボーカルで参加しており、夫婦揃ってとても多様な音楽ジャンルでの活動を行っていたわけで、このアルバムの各楽曲の「ジャンル昇華感」みたいなものはそうした様々なジャンルでの活動を経て培われたものだったのでしょう。

Lark (Back)


90年代再発見された頃も、ジャミロクワイジョーン・アーマトレイディングといったアーティストのアルバムにも客演し、来日公演も行ってリンダに対する関心と評価はかなり盛り上がっていたようですが、それから既に20年が経過して、今彼女の名前が音楽シーンで語られることは少なくなってしまいました(曽利文彦監督の2007年のアニメ映画『ベクシル2077日本鎖国』の中で使われた、ベースメントジャックスの曲「Close Your Eyes」にフィーチャーされていた、というのが一番最近の動向のようです)。


いつの時代になっても普遍的な素晴らしさを持つこの作品を再評価して楽しむ意味でも、春爛漫が間近に迫っているこの時期、リンダのヒバリのような美しい歌声とジャンルレスな彼女の素晴らしい楽曲を満載したこのアルバムをスマホに入れて、暖かい日の光の中に飛び出して、彼女の歌声を存分に浴びてみませんか?



<チャートデータ>

英米ともにチャートインなし

【新企画】新旧お宝アルバム!#34 「Something More Than Free」 Jason Isbell (2015)

#34『Something More Than Free』Jason Isbell (Southeastern, 2015)


もう春は目の前か、と思ったらここ数日は一気に真冬の寒さに戻ってしまいましたが、皆さん体調など崩されてはいないでしょうか。この寒さを乗り切ればもう桜満開の季節は目の前、ということで期待しつつ春の訪れを待つことに致しましょう。

さて、今週の「新旧お宝アルバム!」は「新」のアルバム紹介の順番。今回は、昨年各音楽誌での評価も高く、先日のグラミー賞でも見事最優秀アメリカーナアルバム部門を受賞した、ここのところ注目を集めるオルタナ・カントリー・ロックの流れの新たな担い手の一人、ジェイソン・イズベルのインディからの5枚目のアルバム『Something More Than Free』を取り上げます。


jason-isbell-something-more-than-free-(Front).jpg 


ちょっとマット・デイモン似のジェイソンはアラバマ州グリーン・ヒル出身、今年37歳になる既に年齢的にはベテランといっていいギタリスト兼シンガーソングライター。幼少の頃からアラバマ州、テネシー州エリアでカントリー・ミュージックやサザン・ロックを聴きながら育ち、ティーンエイジャーの頃にはギターだけでなく、トランペットやフレンチホーンなどいろいろな楽器をこなしていたようです。

その頃から曲を書き始め、21歳の時にはマッスルショールズのスタジオと楽曲出版契約を結ぶなど、シーンでの活動を始め、2001年22歳の時に、知り合いのつてでジョージア州アセンズ(あのR.E.M.と同郷)をベースにするオルタナ・カントリー・ロックバンドのドライヴ・バイ・トラッカーズにギタリスト兼ソングライターとして加入。

そこから2007年まで、アルバム4枚を出す間ドライヴ・バイ・トラッカーズの中心メンバーとして活躍、ジェイソンの書く曲はメンバーやファンからも高い評価を受けていたとのこと。

2007年、グループを脱退してからは、マッスルショールズ・エリアのミュージシャン4人を集めたザ・400ユニットを率いてソロ活動を開始。アルバムを重ねるごとにライアン・アダムス、ブルース・スプリングスティーンなど先達のミュージシャン達の評価を受けるようになり、今回のアルバム『Something More Than Free』は彼にとって初めての全米トップ10アルバム(初登場6位)となると同時に、カントリー、フォーク、ロックチャートのすべてで1位を獲得するという、彼にとっては正にキャリア・チェンジングなブレイク作になりました。ただ残念ながらインディ・リリースということもあり、どうやら日本発売の目処は立っていないようです。

このアルバムの楽曲は、彼が個人的に影響を受けたと語っているニール・ヤングの70年代前半の『渚にて(On The Beach)』(1974)くらいまでのアコースティック・メインの楽曲の中のそこここに彼の音楽キャリアに大きく影響を与えたと思われるカントリー系のサウンドや、メンフィスやマッスルショールズのR&Bの香りが感じられるというものが多くなっています。

Something More Than Free (back)

冒頭の「If It Takes A Lifetime」は軽快なアコギのフィンガーピッキング・スタイルで、シャッフル・リズムに乗ってジェイソンがカントリーの先達の作品をリスペクトするようなメロディや歌唱スタイルで楽しくアルバムをスタートする小品。グラミー賞の最優秀アメリカーナ歌曲賞を受賞した続く「24 Frames」はエコーのかかったジェイソンのボーカルが、ライアン・アダムスの作品やブルース・スプリングスティーンのアコースティック系のナンバーを彷彿とさせるハートランドなミッドテンポのスケールの大きい曲。




続く「Flagship」はジェイソンがアコギ一本で切々と歌うシャッフル・バラードですが、メロディのブリッジへの展開というか持って行き方がもうまんまライアン・アダムスの影響を受けているのがありありで微笑ましい限りです。アルバム全体はこうした、アコギ中心で透明感あふれるジェイソンのボーカルが印象的な楽曲(「Something More Than Free」)や、70年代のカントリー・ロック・バンドからの流れを感じさせるスケールの大きいメロディ展開やマイナーコードを交えた叙情たっぷりのコード進行が印象的な曲(「Children Of Children」)など、いずれも楽曲の作りが緻密でありながらストレートでシンプルな印象を与える、聴いていてすーっとジェイソンの世界に入っていける、そんな楽曲が並んでいます。




アルバムのラス前「Palmetto Rose」はそれまでの流れからちょっと目先を変えて、エレクトリックで豪快なギターのバッキングが印象的な、ちょっとドワイト・ヨーカムとかを思い出させてくれるようなネオロカビリーっぽいナンバー。ラストの「To A Band That I Loved」は再び透明感たっぷりのジェイソンのボーカルが、ワルツのリズムに乗ってアコギやピアノのフレーズの中に、途中ファズがバリバリに効いたギターのフレーズが顔を出す、という曲。どうやら内容的には以前在籍していたドライヴ・バイ・トラッカーズにいた頃のことを振り返りながら書かれた曲のようで、昔のバンド仲間達に向けてこう語りかけて、余韻たっぷりにアルバムを終わります。


未だに君らの顔をいかにもな場所やあり得ない場所で見ることがあるんだ

どこかデカ過ぎる音でプレーしているか、自分達のショーで残り少なくなった観客の中でプレーしている時に

もう帰る時間はとっくに過ぎているのに残ってくれている観客たちの中で

もう帰る時間はとっくにすぎているのに残ってくれている観客たちの中で



このコラムでこれまでにも取り上げたライアン・アダムスが、2000年ウィスキータウンというバンドを脱退して、自らのソロ活動を始め、この15年くらいの間にオルタナ・カントリーのシンガーソングライターの流れを確立したのと同じように、ジェイソンが2007年にドライヴ・バイ・トラッカーズを脱退してからの活動が約10年の時を経て、琥珀の時期に入ろうとしている、そんな円熟味と青年っぽさを残したような感情の高まりを感じさせるような楽曲と歌声がとても印象的な作品。

これまでに名前の挙がったライアンブルース以外に、ジャクソン・ブラウンなどのアメリカのストーリー的な作品をメインとするシンガーソングライターの潮流の中心のアーティスト達の流れを脈々と組む、このアルバム、じっくり味わって聴いてみられることをお勧めします。


<チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位8位(2015.8.8付)

同全米カントリー・アルバム・チャート 最高位1位(2015.8.8付)

同全米フォーク・アルバム・チャート 最高位1位(2015.8.8付)

同全米ロック・アルバム・チャート 最高位1位(2015.8.8付)

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

【新企画】新旧お宝アルバム!#33 「Tales Of Mystery And Imagination: Edgar Allan Poe」 The Alan Parsons Project (1976)

#33Tales Of Mystery And Imagination: Edgar Allan PoeThe Alan Parsons Project (20th Century, 1976)


ここ数日急に暖かさが増して、梅の花も満開の時期を過ぎ、そろそろ桜の蕾が膨らみを増していよいよ春本番が間近に来ていることを思わせる今日この頃、皆さんはいかがお過ごしですか?

さて今週の「新旧お宝アルバム!」は「旧」のアルバムとして、80年代に「Eye In The Sky」「Time」「Don't Answer Me」などのヒットを次々に飛ばし、MTV世代の洋楽ファンの皆様にもお馴染みのアラン・パーソンズ・プロジェクト1976年にリリースしたグループ処女作で、あの19世紀に「黒猫」「アッシャー家の崩壊」などの恐怖文学やミステリー・推理小説の原型となった「モルグ街の殺人」「黄金虫」など、数々の画期的な作品を著した鬼才、エドガー・アラン・ポーの作品を題材とした意欲作、『怪奇と幻想の物語~エドガー・アラン・ポーの世界~(Tales Of Mystery And Imagination: Edgar Allan Poe』をご紹介します。


TalesOfMysteryImagination (Front)


80年代に上記のようなポップなヒットシングルを量産していたアラン・パーソンズ・プロジェクト(APPに親しんだMTV世代以降の洋楽ファンの方々に取って、APPスティーリー・ダンなどと並ぶちょっとセンスのいいポップ・バンド、というイメージかもしれません。

しかし、APPの中心人物、アラン・パーソンズは、あのビートルズの名盤『アビー・ロード(1969)や『レット・イット・ビー(1970)、そしてプログレッシブ・ロックの名盤ピンク・フロイドの『狂気(Dark Side Of The Moon(1973)といった60年代~70年代初頭のUKロックを代表する数々のレコードのエンジニアを務めるなど、当時の音楽制作サイドの重要人物として有名なお人

Dark Side Of The Moon 


自然、彼が1975年に相棒のエリック・ウールフソンと結成したAPPの当初の作品は、どちらかというとピンク・フロイドを思わせるようなプログレッシヴ・ロック的なシャープで映像的かつ独特のイメージを喚起するものが多かったのです。

その時代のスタイルを如実に象徴するのが今回ご紹介するアルバム。エドガー・アラン・ポーといえば、ミステリー愛好家のみならず、19世紀ゴシック文学に興味のある方であればよくご存知の作家。「怪人二十面相」シリーズの江戸川乱歩がそのペンネームを彼の名前から取ったことはあまりにも有名です。

そんなポーの作品を題材に、サウンド的にもゴシックな雰囲気をふんだんに湛えたこのアルバムは、プログレッシヴ・ロックの傑作であると同時に、後のAPPのポップ・フィールドでの成功を予感させるような、ちょっと影がありながら、魅力的なサウンドとメロディーの楽曲があたかもポーの小節をオムニバス映画化した作品のサウンドトラックのように緻密に構成されているポップ作品としても非常にクオリティの高い作品です。


TalesOfMysteryImagination (Insert) 


この作品の重厚かつ緻密なサウンドを支えているのはもちろんアランエリックのペンによる楽曲群と彼らの演奏・ボーカルですが、彼らはこのアルバムに200人を超えるミュージシャンを起用し、かなりの制作費をかけた模様。またこのアルバムに参加しているパフォーマー達の顔ぶれも多彩です。

アルバム発売当時のCMスポット、及びオープニングの「夢の中の夢(A Dream Within A Dream」の冒頭、そしてこのアルバムの中心である5つのセグメントから成る組曲的トラック「アッシャー家の崩壊(The Fall Of The House Of Usher」の冒頭のアナウンスを担当しているのが、あの映画『市民ケーン』で知られる映画監督、オーソン・ウェルズ

アルバム2曲目の「大鴉(The Raven」とアルバム最後の「To One In Paradise」でナレーションを担当しているのは、映画『ロミオとジュリエット(1968)ロミオ役で有名なイギリスの名優、レナード・ホワイティング

そして各曲のボーカルを担当するのは、APPの二人に加えて、70年代のホリーズのヒット「兄弟の誓い(He Ain’t Heavy…He’s My Brother」や「安らぎの世界へ(The Air That I Breathe」のボーカルを取っていたテリー・シルヴェスター70年代後半UKでヒット曲を連発していたロック・シンガー、ジョン・マイルズ、そしてアルバム3曲目の「告げ口心臓(The Tell-Tale Heart」のボーカルは1968年に英米で大ヒットした「Fire」のクレイジー・ワールド・オブ・アーサー・ブラウンアーサー・ブラウン

また、各曲のトラックの演奏を担当しているのが、70年代中盤ポップヒット「Magic」「January」で知られるパイロットのメンバーと、70年代後半に「How Much I Feel」「Biggest Part Of Me」の全米トップ10ヒットを飛ばすアンブロージアのメンバーというジャンル関係なしの贅沢さ。

こんなメンバーを配していい作品ができないわけはありません。



アルバムはオーソン・ウェルズのナレーションの後、ポーの詩を元にしたインストの「夢の中の夢」で静かに始まります。そして続くは「大鴉」(これも元はポーの詩です)。この曲はロックで初めてボコーダーを使用した曲らしく、アラン自らボコーダーを通したボーカルで何やら幻想的なポーの世界を作り上げるベースになっています。

続く「告げ口心臓」は老人を殺した男がその死んだ老人の心臓の鼓動に苛まれて自らの罪状を告白してしまうというポーの作品を、冒頭アーサー・ブラウンの叫び声とその後のちょっとワイルドなボーカルで見事に表現しています。

その次は「アモンティリヤードの酒樽(The Cask Of Amontillado」。自らを侮辱した男に復讐するためにその男を酒蔵の奥に煉瓦とモルタルで塗り込めるという話とは裏腹に後の「Time」あたりに通じるような美しいメロディと力強いリズミックな曲調が印象的です。

そしてこのアルバムからの全米トップ40ヒットとなった「タール博士とフェザー教授の療法(The System Of Dr. Tarr & Professor Fether」。新しい療法を開発したという触れ込みのタール博士フェザー教授が実は二人とも狂人であったというお話ですが、曲はジョン・マイルズのソウルフルなボーカルが印象的なキャッチーな楽曲。

そして本アルバムの中核である「アッシャー家の崩壊」。精神的に病んだ友人に乞われてアッシャー家を訪れた主人公が、生きながら埋葬されてしまった友人の妹が地下から戻ってきて友人を殺し、一緒に屋敷共々地中に崩壊していくのを目撃するという、ゴシック恐怖小説の極致みたいなお話しを、APPはまるで映画音楽のサントラのようなひたすらドラマティックで美しいインスト組曲で表現しています。

そしてアルバムは静かで美しいメロディを持つ「To One In Paradise」で、ここまでテンション高く展開していたアルバムに終止符を打ちます。




どうしてもプログレッシヴ・ロック的と言ってしまうと、難解でちょっと衒学的で、わかりにくい、といったイメージが伴いがちですが、APPのこのアルバムは後の彼らの作品でもそうであるように、楽曲的にはとても判りやすく、曲によってはとても美しい、あるいはキャッチーな曲が並んでいます。思うにアラン・パーソンズという人はイメージ的に音を作り上げることについては天才的なところがあり、この後も有名なSF作家であるアイザック・アシモフの作品をモチーフにした『I Robot』(1977)でもAIをテーマに非常にヴィジュアルな音表現による作品を発表しています。


TalesOfMysteryImagination (back)


80年代はどちらかというと楽曲単位で自らのサウンドプロダクションを発揮することでメインストリーム・ポップでの成功を果たしたアラン・パーソンズですが、その彼のそもそもの出自の部分を経験して頂く意味でもこの彼らの処女作アルバムを、一度じっくり聴いてみてはいかがでしょうか?


<チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位38位(1976


(The System Of) Dr. Tarr & Professor Fether

ビルボード誌全米シングル・チャート(Hot 100 最高位37位(1976.9.18付)


The Raven

同 最高位80位(1976.10.30付)


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