Life Is A Rock - 洋楽こそ我が人生
洋楽全般について、英米ヒット・チャートに登場有無に関係なく、お気に入りの洋楽作品についての独り言やコメントをつれづれに掲載します。「新旧お宝アルバム!」「恒例グラミー賞大予想」など定期コラムが中心です。洋楽 ファンサイト、meantime(www.meantime-jp.com)のスピンオフ企画としてお楽しみ下さい。
【新企画】新旧お宝アルバム!#40 「We Are KING」 KING (2016)

#40We Are KINGKING (KING Creative, 2016)


先週金曜日の4月22日(日本時間)、突然世界中に伝わったプリンスの訃報でこの週末、彼の音源を聴いたり、にわかにネット上にアップされ始めた様々なプリンスの映像を見ながら呆然と過ごした音楽ファンはもの凄い数に昇ったに違いありません。かくいう自分もその一人。それほどまでに、革新的でありながらR&B、ジャズ、ヒップホップ、ロックといった伝統的な音楽文化の要素を絶妙にブレンドして昇華させた作品をこの35年間世界に送り出し続けたプリンスという天才クリエイターの喪失は、世界中のファン達の心に大きな穴を開けたのです


そんな大きな損失の痛みを胸に、今週お送りする「新旧お宝アルバム!」は「新」のアルバム紹介。プリンスという巨星は天に旅立ってしまったものの、そのレガシー(遺産)をいろんな形でそこここに感じさせる作品を、これからの音楽シーン、そしてファンに送り出してくれるのでは、と思わせてくれる新しいグループの素晴らしい作品をご紹介します。ロサンジェルスをベースに活動する女性3人組のR&Bグループ、その名もKINGのデビュー・フル・アルバム『We Are KING』です。


We Are King (Front) 


このKINGというグループ、実は既に今の音も追っかけている熱心なR&Bファンの間では少し前から評判に昇り始めていました。2011年に最初のEP『The Story』をリリース、エリカ・バドゥやヒップホップ・グループのザ・ルーツのリーダー&ドラマーであるクエストラヴといったシーンの重要なアーティスト達が彼女達への高い評価を示したことで、シーンでは注目を集め始めました。そんな彼女たちが一般の音楽ファンの耳にも広く入るようになったきっかけは、第55回グラミー賞最優秀R&Bアルバムを受賞した、今乗りに乗るロバート・グラスパーのアルバム『Black Radio』(2012)収録のトラック「More Love」にフィーチャーされたこと。そして今回満を持して彼女ら自身のレーベル、KING Creativeからリリースされたのがこの『We Are KING』。


3人のメンバー、双子のパリスアンバー・ストロザー、そしてアニタ・バイアスが全曲自分達で書き、プロデュースもパリスが行ったこのアルバム、全体を通じて大きな魅力となっているのは、メロディやボーカルなどの基本的スタイルは伝統的なR&Bでありながら(スティーヴィー・ワンダーの60年代のバックアップ・シンガー・グループだったワンダーラヴを引き合いに出す向きもあり)、エレクトロニックなサウンドを巧みに多用しながら心地よいグルーヴを作り上げていくという、各楽曲の組み立て方は明らかに90年代ヒップホップ以降の色合いを強く感じますし、ジャネ・アイコティナシェ、ケラーニといった2010年以降の新しいオルタナティヴ・R&Bアーティストたちのスタイルもしっかり睨んだつくりになっています。従って70年代からのR&Bファンにも、90年代以降ヒップホップ中心に聴いているファンにも、そして最近の新しいR&Bが好きな若いファンにも、広く受け入れられる、そんな多彩さと多才さを存分に備え持ったグループであり、作品です。




エレクトロニックなイントロからシンセ・ベースに乗ったドリーミーなサウンドとコーラスで始まる「The Right One」で始まるこのアルバム、一曲目からいきなりKINGの夢見るような世界に誘い込まれてしまいます。

続く「The Greatest」もエレクトロニックなサウンドと妙にレトロなリズムが摩訶不思議なグルーヴを生み出す楽曲。「Red Eye」はやや実験的なエレクトロなサウンドの使い方をしているのですが、基本メロディやコーラスの使い方がちょっとジャズ・フュージョン的なグルーヴも感じられる曲です。


デビューEPにも収録されていた「Supernatural」のエクステンデッド・バージョンは、ピアノを冒頭にフィーチャーしアコースティックな味わいを見せながら、中盤以降大きなうねりのグルーヴとアップテンポでジャジーな終盤への盛り上がりを見せる、ほぼ7分に及ぶ大作。アルバム中盤の「Love Song」「In The Meantime」の流れは、冒頭の「The Right One」「The Greatest」の流れを更に深度を上げてループするような感覚を与えてくれますが、そこから「Carry On」「Mister Chameleon」と続くあたりは、これらの前半の楽曲よりもマイナーなキーを主題とした曲調でアルバムのトーンを少し変えてくれます。




ミニー・リパートンに代表されるような70年代の女性R&Bボーカルのアルバムに出てきそうなしっとりとしたイントロから歌い出しの「Hey (Extended Mix)」で始まるアルバム後半は、エレクトロニックな70年代デビュー時のポインター・シスターズ、といった雰囲気の「Oh, Please!」を経て、また冒頭の数曲を思い出させるようなエレクトロでドリーミーで大きなうねりのグルーヴが感じられる、デビューEPのタイトル曲でもあった「The Story (Extended Mix)」で静かな盛り上がりを見せ、ラスト・ナンバー「Native Land」で、シンセベースの生み出す心地よいグルーヴに身を任せるうちに、あたかもアフリカの天然色の自然に包まれる中で静かに目を覚ました時のようなイメージでアルバムは幕を閉じます。




何にしてもデビュー・アルバムにしてこの高いクオリティの作品を作り上げてしまったKINGのこのアルバム、今年のR&Bシーンにおける重要作品の一つといって過言はないでしょう。先にも述べたように、R&Bファンであれば是非ともこのアルバムを体験すべき、そういう一枚。そして先週突然旅立ってしまったプリンスの作り出していた作品にも共通するR&Bやジャズ、ヒップホップといった要素をたくましく昇華して自らのサウンドを作り上げている彼女達の作品には、確実にプリンスやその先達達のレガシーが脈々と流れていることは間違いありません。


We Are King (Back)


折しもゴールデンウィークの真っ只中の5月2日には、六本木のビルボード・ライヴ早くも来日ライヴを行うというKINGの3人組。7月にはあのスティーヴィー・ワンダーの傑作『Songs In The Key Of Life』のリリース40周年を記念してロンドンのハイド・パークで開催される、「Stevie Wonder's Songs In The Key Of Life」というイベントに参加し、スティーヴィーファレル・ウィリアムス、コリン・ベイリー・レイといった錚々たる顔ぶれとの共演も果たすようです。


2016年、このKINGというグループ、あちこちの耳目に上ってくる話題のアーティストになる可能性大です。まずは来るゴールデン・ウィーク、彼女たちのこの素晴らしい作品で、KINGの世界に身を委ねてみませんか。


<チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位158位(2016.2.27付)

同全米R&B/ヒップホップ・アルバム・チャート 最高位20位(2016.2.27付)

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【新企画】新旧お宝アルバム!#39 「Aquashow」 Elliott Murphy (1973)

#39AquashowElliott Murphy (Polydor, 1973)


先週木曜日の晩の最初のM6.2の大地震以来、断続的に大きな余震が続いて現地の被災者の皆さんの不安が絶頂に達している熊本の状況は本当に心が痛みます。一刻も早く余震が収まりますように、被災者の皆さんの生活が一日でも早く通常に復帰しますように、そして一刻も早く政府は川内原発を止めますように!と祈って止みません。残念ながら今回の地震の犠牲になった方々には心より追悼の意を申し上げます。

さて気持ちを取り直し今週の「新旧お宝アルバム!」は「旧」のアルバムをご紹介する番。今回は70年代前半、あのブルース・スプリングスティーンルー・リードと共に同じ時期に同じNY・ニュージャージー地区から台頭し、パティ・スミストム・ペティ、更にはトーキング・ヘッズといったNYを中心としたイースト・コーストの後進のロックンローラー達に大きな影響を与え、今も音楽のみならず執筆やジャーナリズムなど多面的な活動を続ける放浪のロックンロール・シンガーソングライター、エリオット・マーフィーのファースト・アルバムである『Aquashow』をご紹介します。


Aquashow (Front) 


エリオット・マーフィーについての日本での知名度は残念ながらとにかく低いのが現実。あるファンの方のブログに「これまで何人もの音楽好きの友人知人と音楽談義を交わしてきたけど、この人のファンだという人には出会ったことがない。ディランスプリングスティーンは好き、テレヴィジョンパティ・スミスは好き、ヴェルヴェッツルー・リードも好き。でも、じゃあエリオット・マーフィーは?ときいて、ああ、好きだよ、いいよね、という答えが返ってきたことは一度もない。」という一節がありましたが、熱心なロック・ファンの間でもあまり知られていないエリオットの立ち位置を象徴するような話だと思います。私も名前だけは知っていましたが、その作品に具体的に触れたのはわりと最近で、聴いてみて「こんなに魅力的な楽曲を書く、カッコいいアーティストだったのか」と思ったくらいです。

ディランスプリングスティーンのようにヒット曲・アルバムを出すわけでもなく(彼の過去のアルバムはおしなべて高い評価を得ているのだがアメリカでも商業的に成功したものはなく、チャートインすらしていない)、かといってルー・リードヴェルヴェット・アンダーグラウンドのようにロックの歴史でアイコンのように扱われることも少ないエリオット

しかし彼がこの『Aquashow』で出てきた時には、当時『青春の叫び(The Wild, The Innocent & The E-Street Shuffle)』でブレイクしようとしていたブルース・スプリングスティーンと並んで「第2のディラン」と呼ばれ、ローリング・ストーン誌を始めロック・メディアからは、ストレートなロックンロールスタイルに、売春婦やドラッグ・ディーラー等を登場人物にNYの荒涼とした都会イメージを60年代後半のビートニクを彷彿とさせる詞で表現する新時代のシンガーソングライターとして、高い評価を得たのですが、商業的に彼がブレイクすることはなかったのです。

彼はそれでも良質なアルバムを出し続け、90年代パリに居を移し妻子を得てからは、ヨーロッパでライヴ活動も含め精力的に活動していた模様。2009年にUSに戻ってからも1~2年ごとに作品を出し続けていて、昨25年ぶり2度目の来日を果たすのに合わせて、この『Aquashow』の曲をセルフ・カバーした『Aquashow Deconstructed』(2015)をリリースするなど、今も一線の活動を継続しているのです。


Aquashow Deconstructed 


そんなロックの吟遊詩人とでもいうべきエリオットの記念すべきデビュー作『Aquashow』は、ディランバーズがジャムっているかのような、エレクトリック・ギターのストロークとハーモニカの音色に乗ってエリオットが皮肉たっぷりに歌うビート感満点の「Last Of The Rock Stars」で始まります。ここでの彼のボーカル・スタイルはトム・ペティそっくり、というかトム・ペティが彼の影響を強く受けていることが如実に判るものです。

2曲目の「How's The Family」はアコギとハーモニカに載せて、デヴィッド・ボウイの「Starman」を彷彿させるサビメロのややスロー目の曲調で、仲違いばかりの夫婦や、麻薬中毒の息子や、不健康な食生活で腹上死した叔父さんといったキャラを登場させて「ところで家族はみんな元気でやってるかい?」と問いかけるという、シャレのきつい一曲。でもそうしたキャラ達への愛情すら感じさせるエリオットの飄々としながら優しさを湛えた歌が印象的なうたです。

3曲目「Hangin' Out」は正にディランズ・チルドレンスプリングスティーンの盟友の面目躍如といっていい、ポップなコーラス・リフレインが印象てきな前のめりのロック・ナンバー。




と、順番に挙げていくときりがないのですが、いずれの曲もバックの演奏は基本的に最小編成のロックバンド構成に、オルガンとハーモニカが効果的に配されていて、いかにもディランズ・チルドレンと言われる彼の作風を効果的に演出しています。ただしどの曲も決して判りにくいのではなく、楽曲そのものはとてもキャッチーなものが多くて、盟友のスプリングスティーンの楽曲が渋すぎると感じられるくらいなのが大きな特徴。上記の「Starman」を思わせる「How's The Family」や、フォーク・トリオのピーター・ポール&マリーの「悲しみのジェット・プレーン」がロケンロールに変身した!と嬉しくなってしまうような「Graveyard Scrapbook」など、どこかで聴いたメロディがふっと登場する楽曲がいくつかあるのもこのアルバムの魅力を高めている気がします。

そしてエリオットのボーカルは、いかにもストリートでバスキングをしているロックのシンガーソングライター、という感じ満点で、ちょっとフェイク気味、オフノート気味で不良っぽく歌うのですが何ともいえない哀愁と魅力を湛えていて、スプリングスティーントム・ペティとかが好きなファンにはぐっとくるものです。このアルバムで一番のスロー・ナンバーで、あの有名女優を歌った「Marilyn」では「マリリンは俺たちのために死んだんだ」と半ばつぶやくように、物語を語るように歌うのですが、当時のNYの荒涼とした街角が目に浮かぶような静かな迫力と魅力に満ちたうたです。



日本ではシーナ&ザ・ロケッツ鮎川誠ルースターズ花田裕之エリオットの熱心なファンということで、前者は1990年の初来日の時、そして後者は昨年の来日の時にステージで共演して、アンコールでルー・リードの「ワイルド・サイドを歩け(Walk On The Wild Side)」を一緒にやったようです。このように一部の熱心なファンや彼を敬愛するミュージシャン達に支えられながら、商業的にはさっぱり成功せずとも、コンスタントに作品を発表し続けている(しかもそのほとんどはロック・メディアや他のミュージシャンから高い評価を得ています)エリオット

今回この『Aquashow』をアレンジを変えながらセルフ・カバーして昨年リリースしたアルバム『Aquashow Deconstructed』も聴いてみたところ、各楽曲ともオリジナルと比べていずれもスローなアレンジなのですが、遙かに深く味わいある渋い音像に変貌していて、そして何よりも40年を経たエリオット自身の歌声が重々しく迫力に満ちた、それでいてオリジナルにもあった飄々としたチャーミングさは依然としてそこにある、とても味のある作品に仕上がっていました。


Aquashow (Back)


彼はおそらくこの後も同じようなペースで作品を作り続け、同じように飄々とした身軽さを感じさせるスタイルで、同じように文学的ともいえるストーリーを持っていて、それでいて聴く者の耳にすっと馴染んでくれるそんな楽曲を歌い続けるだろうな、と思わせてくれます。

そんなロックの吟遊詩人、エリオットがまだ24歳の頃に発表した、若々しさとシニカルさと、それでいて都会の孤独を思わせるようなどこか悲しげな表情を湛えながら、生き生きと輝いているこのアルバムにこの機会に触れてみてはいかがでしょうか。


<チャートデータ>

英米ともにチャートインなし

【新企画】新旧お宝アルバム!#38 「Infinite Arms」 Band Of Horses (2010)

#38Infinite ArmsBand Of Horses (Columbia, 2010)


とうとう桜もこの週末で終わってしまったようで、これからは春本番の素晴らしい季節。ボブ・ディラン、エリック・クラプトン等々海外アーティスト達のライヴも目白押しで、暖かい気候の中、音楽ライフをエンジョイされている方も多いと思います。

今週の「新旧お宝アルバム!」は「新」のアルバム紹介ということですが、6年前にリリースされたのでちょっと時間は経ってしまっているのですが、今の季節にぴったりの春らしい暖かさと詩情あふれる優れた楽曲を満載したアルバムを次々にリリース、21世紀のオルタナ・カントリー・ロック・シーンの重要な一角を占めているサウス・キャロライナをベースに活動する5人組、バンド・オブ・ホーセズが2010年にリリースした名盤『Infinite Arms』を取り上げます。


Infinite Arms (Front) 


そもそもいわゆるオルタナ・カントリー・ロックといわれるジャンルがメインストリームにも認知されるようになったのは、1980年代後半アルバム『Guitar Town』(1986)でカントリー・ベースの楽曲を新たなロックへのアプローチとして提唱したスティーヴ・アールや、伝統的なカントリーの手法とハードコア・パンクのアプローチをミックスしたスタイルで新しいロック・スタイルを築いたイリノイ州出身のアンクル・テュペロらが活動しだした頃。1994年にそのアンクル・テュペロが解散、その元メンバーが結成したのが今でも活動を続けており今年のフジロック・フェスティヴァルにもやってくる今や大御所オルタナ・カントリー・ロック・グループのウィルコサン・ヴォルトでした。そのアンクル・テュペロの解散から10年後、シアトルで結成されたのがこのバンド・オブ・ホーセズ。彼らはある意味第2世代のオルタナ・カントリー・ロック・バンド、ということができます。

Band Of Horses 

そのスタイルは、スティーヴ・アールがあくまでストイックなハードコア・カントリーを軸にロック的アプローチを展開していたり、ウィルコがよりパンク的なアプローチや、ノイズ系のサウンドなど実験的なアプローチで先進的な作品を発表したり(アルバム『Yankee Hotel Foxtrot』(2002)はそのアプローチでの傑作)しているのに比べて極めてオーソドックスで、ある意味70年代のイーグルスポコといったメインストリームのカントリー・ロック・バンドの意匠を明確に受け継いでいるのが特徴であり、彼らの魅力だということができるでしょう。

しかし彼らのサウンドはただ耳に気持ちよいカントリー・ロックだけではなく、90年代を通過したことが明らかな、エッジの立ったギターサウンドなども配した楽曲構成が特徴的です。あの90年代のグランジ・ブームを生み出したシアトルのレコード・レーベル、サブ・ポップからデビューしたということも彼らのこうしたサウンドを形作っている要素なのでしょう。




このアルバムのオープニングを飾るのはほとんどシアトリカルともいえるドラムロールと昔のザ・バンドあたりを思わせるノスタルジックなイントロで始まる「Factory」。この曲のドリーミーで優しい歌声とメロディは彼らの最大の魅力である楽曲の素晴らしさを最大限に発揮しています。続く「Compliments」はメロディは60年代のバーズ、ホリーズあたりを思わせるノスタルジアを漂わせながら、サウンドはよりギターのエッジを効かせたもう一つのBOHの魅力を湛えたもの。当時ロック・チャートでちょっとしたヒットになった「Laredo」も同じ路線の楽曲です。

続く「Blue Beard」「On My Way Back Home」といった楽曲も同じようにちょっとロック的なエッジが立ったアレンジですが、メロディ的にはバーズ的な肌合いの作りで聴く者の胸を弾ませてくれます。

アルバムタイトル曲の「Infinite Arms」は、後半の「Evening Kitchen」「For Annabelle」と併せて、このアルバムで最もメインストリームのカントリー・ロック、もっと言ってしまうと、以前このコラムでもファースト・アルバム『Pickin' Up The Pieces』(1969)をご紹介したポコの影響をとても強く感じさせる、美しくも詩情的な楽曲で、ある意味このアルバムのハイライトでもあります。ここでのボーカルのベン・ブリッドウェルの歌は間違いなくポコのラスティ・ヤングのあの甘くも郷愁を感じさせるボーカルをそのまま再現していてポコのファンにはたまらない楽曲群だと思います。もう一つ「Older」はさらにニッティ・グリッティ・ダート・バンドやフライング・ブリトー・ブラザーズといった大御所の70年代カントリー・ロックの意匠を忠実に再現した曲であり、これももう一つのこのアルバムのハイライトといえます。




このアルバムの魅力はつまるところ、60~70年代のバーズポコ、ニッティ・グリッティ・ダート・バンドなどのメインストリームのカントリー・ロックを彷彿とさせる楽曲と、90年代の新しいロックを経由してベースに蓄えられたギター・ロックをメインとしたエッジの立った楽曲が見事マリアージュされ、21世紀の今の時代に聴いても納得して楽しめるところなのです。

とにかくノスタルジックなドラムロールで始まる「Factory」から大作映画の最後のエンドロールを思わせるような、広大な荒野を映像として想起させるような楽曲「Neighbor」で終わるまで、このアルバムは捨て曲一切なし。それを確認するかのように、このアルバムはその年のグラミー賞の最優秀オルタナティヴ・アルバム部門にもノミネートされています(受賞はブラック・キーズの『Brothers』)。

Inifinite Arms (Back) 


彼らは今年まもなく久々の新譜発表を予定しているということですが、過去このアルバムリリース直後の2010年サマーソニックを含めて2回の来日を果たしていながらまだまだ日本のメディアではその名前が上ることが少ないバンド・オブ・ホーセズ。それにしてはこのバンドの奏でる音楽は極めて上質のものであり、今のオルタナ・カントリー・ロックの最もメインストリームに近いこのアルバムの素晴らしい楽曲たちを、日々暖かさを増す今の季節に楽しんで頂きたいと思います。


<チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位 7位(2010.6.5付)

同全米ロック・アルバム・チャート 最高位2位(2010.6.5付)

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【新企画】新旧お宝アルバム!#37 「Got No Shadow」 Mary Lou Lord (1998)

#37Got No ShadowMary Lou Lord (Work, 1998)


先週からこの週末にかけては各地で桜が満開、天気は万全とはいえませんでしたが、あちこちでお花見で盛り上がった方も多いことでしょう。自分も先ほど近くの公園に足を運んで、見事な桜並木の下でプチお花見としゃれ込んで来ました。この季節になると「ああ日本人で良かったな!」と思ってしみじみしてしまいますね。

さて今週の「新旧お宝アルバム!」は「旧」のアルバムですが、今回はそんなに昔ではないのですが、そのジャンルでは既にクラシックとして語り継がれているアルバム。90年代のインディー・ロック・シーンに登場して存在感のあるシンガーソングライターとして一部に高い人気を呼んだメアリー・ルー・ロードのファースト・フル・アルバムである『Got No Shadow』をご紹介します。


Got No Shadow (Front)


メアリー・ルー・ロードはボストン郊外出身で、早くからボストンの地下鉄の構内で、このアルバムのジャケにも見られるようにアコギをミニ・アンプにつないでひたすらバスキング(路上での演奏)していた、いわば地道な演奏活動でたたき上げてきたシンガーソングライター。

90年代にはニルヴァーナがブレイクする前の故カート・コベインの彼女だったなんていう評判ばかりが先行したこともありましたが、バスキングで鍛えた演奏能力と、彼女が書くストレートなメッセージの歌詞とパワーポップ的な魅力と甘酸っぱいメロディアスさを備えた楽曲が何といっても彼女の最大の魅力。

1993年にシングル「Some Jingle Jangle Morning」(このアルバムに収録)でデビュー以来、もっぱらシングルやEPのみのリリースで着実にファンを獲得していったメアリーが、それまでのシングルや楽曲をまとめて、ソニーの子会社のWorkレーベルからリリースしたのがこのアルバム。

音楽アーティストのファースト・アルバムは往々にしてそのアーティストのベスト・ワークとなることが多いといいますが、それはその作品をリリースするまでに収録の作品が十分にこなれて、熟成して、しかもアーティストが表現したいことが一番凝縮された楽曲で構成されることが多いから

彼女のこのデビュー作『Got No Shadow』もそういう楽曲満載です。折から90年代はロック・ルネッサンス期であり、80年代にエレクトロやシンセサイザー、MTVなどのヴィジュアル要素で思いっきり商業化に走ったロック・シーンが、60~70年代の音楽スタイルをもう一度踏まえて、各アーティストなりの新しい表現方法を模索したことにより、シーンが大いに豊潤な状況になった時期だと思います。メアリーは正にトラディショナルなアコースティックなシンガーソングライターや、パワー・ポップといったスタイルを昇華した素晴らしい作品をここで聴かせてくれています。




冒頭の「His Lamest Flame」(あいつの今の全然イケてない彼女)という曲なんか、タイトルからして大いにニヤリとする曲。この曲のタイトルはエルヴィス・プレスリーの1961年の大ヒット曲「Marie's The Name (His Latest Flame)」(あいつの今の彼女の名前はマリー)に明らかにひっかけながら(歌詞の中で「あたしの名前はマリーじゃないし」という箇所あり)、曲はあくまでポップでストレートなアコースティック・ナンバー。

同じくアコースティックでポップな「Western Union Desperate」に続き、イントロからエレクトリック・ギターのストロークで始まる爽快なパワー・ポップ・ナンバー「Lights Are Changing」。この曲はこのアルバムリリース直前にEPでリリースされた曲で、昨年日本のTV番組「テラス・ハウス」にもフィーチャーされ、昨年10月の彼女の初来日のきっかけともなった、いかにも90年代風パワーポップ的な魅力満点の曲です。



続く「Seven Sisters」はぐっとカントリー・ポップ調のシャッフル・リズムのゆっくりとしたミディアム・ナンバー。ちょっとシェリル・クロウを思わせるようなボーカルとアメリカン・ハートランド・ロックをアコギでやってます的な曲調が印象的な「Throng Of Blowtown」、こちらも90年代一部に人気を博したNYのシンガーソングライター、フリーディ・ジョンソンの曲をカントリー・ロック調にアレンジして独特の雰囲気を作っている「The Lucky One」、1970年前後のCSN&Yとかのハード目なナンバーといった風情の中にポップさもちゃんと出している「She Had You」、そして彼女のデビューシングルで元気のいいファズギターのイントロと演奏の疾走感と彼女のキュートでポップな歌声のアンバランスが妙に気持ちいい「Some Jingle Jangle Morning」など、この時期のパワーポップ系のサウンドがお好きな方であればはまること間違いなしのナンバーが目白押しです。

アルバムの最後はシンプルなアコギの弾き語りによるワルツ・リズムのせつせつとした「Subway」。彼女の出自であるボストンの地下鉄でのバスキング時代のことを思いながら「あたしはボストン行きの地下鉄に乗る風来坊や金持ちも見てきた/あたしはそいつらのためのジミー・ロジャース*ザ・キュアーザ・フーになってあげるんだ/それがそいつらにとって意味があるのなら」と歌いながら、アルバムを締めくくります。

*20世紀初頭に活躍した伝説的カントリー・シンガー。




このアルバムはその楽曲のスタイルといい、アルバム全体の雰囲気といい、90年代のインディー・ロックというかインディー・フォークを代表する作品といっていい作品です。バックにはショーン・コルヴィンエリオット・スミスといった同じく90年代のインディー・フォーク・シーンを代表するアーティストも参加していますが、その一方、つい先頃来日していた元バーズロジャー・マッギンがギターで参加しているなど、彼女のデビュー作に対する当時のシーンの注目度を推し量ることができます。

そして彼女のこのアコギとエレクトリックを併用したフォーク的なアプローチによるパワー・ポップ、というアプローチはシャロン・ヴァン・エッテンコートニー・バーネットといった今の若いアーティスト達にも明らかに影響を与えていると言ったらうがち過ぎでしょうか。

Got No Shadow (Back) 


昨年の「Lights Are Changing」の日本でのタイアップによるブレイクと来日をきっかけに、新作の『Backstreet Angels』(2015)を自主制作でリリースするなどまた活動を最近再開しているメアリー・ルー・ロード。その原点ともいえるこのアルバムを、散りゆく桜を愛でながらじっくりと味わってみてはいかがでしょうか。


<チャートデータ>

ビルボード誌ヒートシーカーズ・アルバムチャート(アルバムチャート100位以内のチャートイン経験のないアーティストのみのチャート) 最高位26位(1998)

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