Life Is A Rock - 洋楽こそ我が人生
洋楽全般について、英米ヒット・チャートに登場有無に関係なく、お気に入りの洋楽作品についての独り言やコメントをつれづれに掲載します。「新旧お宝アルバム!」「恒例グラミー賞大予想」など定期コラムが中心です。洋楽 ファンサイト、meantime(www.meantime-jp.com)のスピンオフ企画としてお楽しみ下さい。
【新企画】新旧お宝アルバム!#51 「The Kenny Rankin Album」 Kenny Rankin (1977)

#51『The Kenny Rankin Album』Kenny Rankin (Little David, 1977)


いよいよ学校は夏休み、子供達も大人達も夏休みとポケモンGO!で大騒ぎとなってる今日この頃、皆さんは夏の休暇や旅行などなど、東京はまだ梅雨明けしてないようですが、一足早い夏を楽しまれているでしょうか。

自分は先週末、人生初のフジ・ロック・フェスティヴァルに参戦、初日だけでしたが幸い天気に恵まれる中、大自然の中でのいろんなアーティストの素晴らしいライヴを満喫してきました。特に素晴らしかったのはこのコラムでも以前ご紹介したコートニー・バーネットと、大自然と渾然一体となったかのようなライヴを聴かせてくれたジェイムス・ブレイク。いずれも私のフェイスブックのタイムラインでミニレビューを公開していますのでご興味がありましたらチェックしてみて下さい

さて今週の「新旧お宝アルバム!」は「旧」のアルバムをご紹介する順番。今週は、ヒットシングルや、大きなヒットアルバムには恵まれていませんが、古くからのAORファンの間で根強い人気を持つ一方、ハリー・コニックJr.、ジェイミー・カラムマイケル・ブーブレといった近年のジャズ寄りの男性ボーカリストたちにおそらく大きな影響を与えたであろう、70年代に活躍したシンガーソングライター、ケニー・ランキンの6作目のアルバム、その名も『The Kenny Rankin Album(ケニー・ランキン・アルバム~愛の序奏)』をご紹介します。

TheKennyRankinAlbum (Front) 

このアルバムは、その前作である『Silver Morning(銀色の朝)』(1975)が、同じ頃にリリースされていたニック・デカロの『Italian Graffiti』(1974)やその直後に人気を呼んだマイケル・フランクスの『The Art Of Tea』(1976)と共にソフトロック、AORの隠れた名盤として並び称されて「AORアーティスト、ケニー・ランキン」の名前が一部の洋楽ファンの間で語られるようになった頃にリリースされ、AORの名盤という位置づけで今でも語られることの多い作品。

確かにケニーのソフトなテナー・ヴォイスと、フランク・シナトラの多くの名盤でのアレンジャーとして有名な名匠ドン・コスタによるアレンジとストリングスに彩られた、趣味のいいトラックの数々は、このアルバムがリリースされた時代を考えるとAORという文脈の中で語られていたのはごく自然でしょう。特にケニーはそのちょっと前、ヘレン・レディのヒット曲「Peaceful」(1973年全米最高位12位)の作者として、当時ジャンルとして市民権を得つつあったAORのシンガーソングライターとして認知されていたこともそうした評価を呼んでいた一因だろうと思われます。

しかしケニー自身のハートは、その昔からジャズやスタンダードの分野にあったことは明らかで、このアルバムの短いライナーノーツでも「1962年に初めてドン・コスタからギターの弦をもらって以来、ずっと一緒に仕事するのを夢見ていた」と、当時フランク・シナトラの片腕だったコスタへの強い思いを露わにしていることからもその情熱を知ることができます。

同時に彼の作品とその歌唱は多くのジャズ・アーティスト達の高い評価を受けてきており、有名なジャズ・サックス奏者のスタン・ゲッツなどはケニーのことを「心臓の鼓動を持っているホーンのようだ」と絶賛するほど。

またオリジナル作品以外でもスタンダード曲、特にビートルズの楽曲を独特のアレンジと歌唱で新たな命を吹き込むかのようなパフォーマンスに定評があり、彼のバージョンのビートルズの「Blackbird」を聴いたポールが感動して、レノン&マッカートニーが1987年にSongwriters Hall Of Fameに殿堂入りした時に、ケニーにこの曲のパフォーマンスを依頼したほどです。



そんな彼のジャズやスタンダードへの思い、ドン・コスタとのコラボへの思いが集結したかのようなこのアルバムは、何とあのカントリー・レジェンド、ハンク・ウィリアムスのナンバー「House Of Gold」のカバーで始まります。この曲をあたかも初期のジェームス・テイラーの作品であるかのようにアコギ一本をバックに洒脱に歌い出すケニー。しかし途中からコスタのゴージャスなストリングスでこれが一気にアメリカン・スタンダード王道のアレンジに変貌するさまは、このアルバムにぐっと聴く者を引き込むに充分です。続くぐっとアフターアワー的なジャズ・スタンダード「Here's That Rainy Day」でジャズ・ボーカリストとしても充分な力量をみせた後、自作の「Make Believe」へ。ここではこれまでの2曲と違い、メロディ展開自体がドラマチックな楽曲構成と、正にソプラノサックスのようなハイ・テナーのケニーのボーカルが早くもアルバム前半のハイライト的な出来。ソングライター、ボーカリストとしての彼の非凡な才能を感じます。



ここからは彼独特の解釈によるコンテンポラリー・スタンダード曲のオンパレード。まずはこのアルバム発表直前にデビュー作『Careless』(1976)を出したばかりのスティーヴン・ビショップの名曲「On And On」を軽く料理した後は前年にあのジョー・コッカーが素晴らしいパフォーマンスで大ヒットとしたビリー・プレストンの名曲「You Are So Beautiful」。このドラマチックな曲を敢えてドラマチックなアレンジとせず、イントロの1分近くのストリングスでゴージャスに始まった後は軽ーくボーカル・フェイクを交えながら歌うという新鮮な解釈に。続くラスカルズの名曲「Groovin'」はオリジナルの感じを大切に、オルガンとガット・ギターをバックにこちらもジャジーなフェイクのボーカルで違った感じでのソウルフルさを表現。




そして、ジョージ・ハリスンの遺族がこのアレンジにいたく感動して、ジョージの葬儀にも使われたという「While My Guitar Gently Weeps」。間違いなくこのアルバムのもう一つのハイライトであるこの曲では、ケニーの卓越したボーカルと、コスタの重厚でゴージャスなストリングス・アレンジが、陳腐に陥らないギリギリのセンスで感動的な結果を生み出しています。




アルバム後半は、近年のジャズ・ポップ・シンガー達が裸足で逃げ出しそうなボーカルを聴かせてくれるジャズ・スタンダードの「When Sunny Gets Blue」の後、自作の「I Love You」「Through The Eyes Of The Eagle」でクロージングに。前者はまたしてもケニーのハイテナーボーカルとドラマティックなコード進行の楽曲で感動を掻き立て、後者は、マイケル・マーフィーダン・フォーゲルバーグらのこの時期人気を呼んだ自然派のシンガーソングライター達を思わせるようなテーマとアコギベースの演奏が静かなエンディングを演出。

TheKennyRankinAlbum (Back) 

ケニーのボーカルは、決してヴィブラートとかの技巧はなく、どちらかというとフラットな発声ですが、声自体の美しさと、カバーの場合はジャズっぽいフェイクで、自作曲では巧みにメロディに織り込まれたハイテナーの声が見事なアクセントになっているところが最大の魅力。ストリングス中心のオールドタイムなコスタのアレンジが苦手な向きにはちょっと辛いかもしれませんが、純粋に楽曲とボーカルの素晴らしさに耳を向けるとこれだけのクオリティの作品はそうそうないと思います。

80年代以降、ケニーは本来彼が愛したジャズ・ボーカルのアルバムをコンスタントに発表していましたが、残念なことに2009年、新作のレコーディングを進めている中、肺がんで69歳の生涯を閉じています。

このアルバムもここ十年くらいの名盤復活シリーズの流れで、2008年に紙ジャケ仕様でCD化されていてネットでも入手可能ですので、是非一度ケニーがキャリア全盛期にその才能を凝縮したこのアルバム、聴いてみて下さい。

 <チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位120位(1977.3.26付)

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【新企画】新旧お宝アルバム!#50 「Midwest Farmer's Daughter」 Margo Price (2016)

#50Midwest Farmer's DaughterMargo Price (Third Man, 2016)


先週は日本では落胆の参院選の結果やゲリラ豪雨などで不安定な天候、海外ではニースでのテロ事件やトルコの軍事クーデター事件で多数の犠牲者が出るなど、気持ちの暗くなる一週間だったような気がします。海外の各種事件で不幸にも犠牲になった方やそのご家族の方々には改めて心よりご冥福をお祈りします


さて、今週は3連休の週末の後は、学校は夏休み、旅行などに行かれる方も多いのでは。また今週後半から週末にかけては恒例夏のロックイベント、フジロックフェスティバル2016が開催されるなど、いよいよ夏本番に向けて気分が盛り上がる中、皆さんは洋楽ライフ楽しんでますでしょうか?


今週の「新旧お宝アルバム!」は新しいアルバムの番。今週は、あのホワイト・ストライプスのジャック・ホワイトのレーベル、Third Manからソロデビュー作をリリースした、ナッシュヴィル期待の大型新人、マーゴ・プライスの『Midwest Farmer's Daughter(2016)をご紹介します。


Midwest Farmers Daughter (Front) 


マーゴ・プライスはイリノイ州バッファロー・プレイリー生まれの今年33歳の女性カントリー・シンガーソングライター。しかし今回このアルバムが、ロック界で存在感を示しているホワイト・ストライプスジャック・ホワイトが主宰するレーベル、Third Manからリリースされていることからも判るように、単なるカントリー・アーティストの範疇に止まらないその作風とパフォーマンスから、既にローリング・ストーン誌をはじめとするロック系音楽各誌に注目され高く評価され、この4月にはNBCの人気番組「サタデイ・ナイト・ライヴ」の出演も果たしています。


2000年代に入ってからウィルコサン・ヴォルト、ジェイホークス、ドライヴ・バイ・トラッカーズといった若いアメリカーナ系のバンドの台頭と、ザ・バンドリヴォン・ヘルムスティーヴ・アール、ボニー・レイット、ルシンダ・ウィリアムス、エミルー・ハリスといったベテランのカントリー系ロック・アーティスト達の充実した作品が次々と発表されたことにより、カントリー、ブルース、R&B、ゴスペルといったアメリカ伝統的音楽ジャンルを渾然と統合したいわゆる「アメリカーナ」と称される音楽ジャンルが音楽シーンで強い存在感を持つようになりました。

これを受け、グラミー賞でもこのジャンルの充実を図り、2010年から最優秀アメリカーナ・アルバム部門を創設するなど、このジャンルを主要な音楽ジャンルとして認める動きは近年顕著になってきています。それと呼応するように、従来トラディショナルであったフォーク、ブルース、ゴスペル、カントリーといったジャンルのアーティストも積極的にロック系のアーティストとの共演や、プロデューサーにロック系のプロデューサーを迎えるといった動きが活発になってきました。2009年のグラミー賞で最優秀アルバムを獲得した元レッド・ツェッペリンロバート・プラントと、ブルーグラスの女王と呼ばれるアリソン・クラウスが共演した、新感覚のアメリカーナ・アルバム『Raising Sand』などはその音楽トレンドの潮流の象徴的な出来事だったと言えるでしょう。


Margo Price SNL 


このマーゴ・プライスの作品は、そうした大きな流れの中で評価するのが適切です。逆にこうした流れの中でなければ、これだけ60年代カントリーのルネッサンス的な作風とパフォーマンスのカントリー・シンガーソングライターのデビューアルバムが、これだけロック誌も含め注目を受けることはなかったのかもしれません


といっても決して彼女の作品やパフォーマンスがアナクロだ、ということではありません。確かにスタイル的には、オーソドックスなカントリー作品と、カントリー界の大御所、ロレッタ・リンを彷彿とさせる歌声が「これ、ほんとに2016年の作品?」と思わせるのに充分ですし、ここでの彼女のパフォーマンスは、ナッシュヴィルでライヴハウスが軒を並べるブロードウェイと言われる繁華街で演奏される、いわゆる「ホンキートンク」と呼ばれるハードコアなカントリー・スタイルを踏襲しているものです。しかしそこで歌われる内容は、運命の過酷さや残酷さと直面する人生のリアリティや、それに力強く立ち向かっていったり、時にはどうしようもなく酒や絶望に身を堕としていく主人公の姿を飾りなく、生々しく語るというもの。そういう意味では、そんじょそこらのロック作品よりも無茶苦茶ロックしている作品が次々に、ホンキートンクスタイルで歌われるのです。


アルバム冒頭の「Hands Of Time」は70年代カントリー・ポップ的メロディに乗せて「あたしの望みはちょっとした現金を手に入れることだけ/そのために死ぬほど嫌な仕事もこなした/父親が私が2歳の時に失った農場を取り返すために/残酷な時が刻んだ不運を時計を戻して帳消しにするために」といきなり重いテーマで聴く者の心を打ちます。「About To Find Out」は明るく軽快なカントリー・チューンですがテーマはまるでドナルド・トランプを思わせるような利己的で回りをとことん見下してる嫌な野郎に対するくたばれ!ソングですし、このアルバムで一番ロックっぽい力強いビートで始まる「Tennessee Song」はシンプルだったあの頃に戻ろうよ、というテネシー賛歌。


一方このアルバムで一番ロレッタ・リンを彷彿させる、超伝統的なホンキートンク調のバラードながら無茶苦茶ロックしてる「Since You Put Me Down」は、惚れた男に捨てられた女の歌(「あんたに捨てられてから/私はずっと溺れるほど酒びたり」)なのですが、本人のインタビューによると、この曲は彼女が双子の息子達を出産しながら片方の息子を失ってしまった後のどん底の状態で書かれたとのこと。そんなヘヴィな内容ながら、曲はあくまでも軽快なカントリー・バラードなのです。すごいです。




それ以外の楽曲も、あくまで曲調は明るく、時にはアップテンポで、時には軽快なロカビリー調ですが、歌われる内容は時には寂しく、どん底の状況に対峙しているんだ、というテーマがほとんどです。シングルとしてカットされた「Hurtin' (On The Bottle)」も彼女が影響を受けたというドリー・パートンの昔を思わせる歌声による軽快なカントリー・チューンですが「あたしはあのボトルをやっつけたのよ/あたしは水みたいにウィスキー呑んでるけど/そんなことしてもあんたが私に残した痛みはビクともしないのよね」というもの。アルバム最後の「World's Greatest Loser」はアコギ一本の弾き語りの1分半の短いナンバーですが、こちらも彼女が影響を受けたというエミルー・ハリスっぽい爽やかなボーカルで歌われるワルツ曲なのに、その歌詞は「体重も減って夜も眠れない/全てのものを失っていく/自分の立場も失い時間もない/でもあなたを失うと私は気がふれるでしょう」というとんでもなくダウナーなもの。そのボーカルの余韻でアルバムは幕を閉じます。




もともと60~70年代のカントリー・アーティスト達が歌で伝えていたことは、人生の辛いことや悲しいことを、明るい演奏や歌声に乗せてストーリー的に歌うというものだったはず。ジョニー・キャッシュロレッタ・リンに代表されるその時代のカントリー・レジェンド達の作品はそれによってリスナーの共感を得ていた部分は多かったと思います。時代は移り、2010年代の今になり世の中は豊かになっても、人々を襲う運命や出会いと別れ、満足する仕事や環境やパートナーに巡り会えない苦しみといった人生の悩みは変わらず、そういう観点からマーゴ・プライスの歌はとてもリアルであるということが言えると思います。


Midwest Farmers Daughter (Back) 


このアルバムのタイトル『Midwest Farmer's Daughter』は、ビーチ・ボーイズの「California Girls」の歌詞の一節から取られたとのこと。このタイトルで、こういうリアルな歌を歌うマーゴが、「女の子はどこの子もいいけどカリフォルニアの女の子が最高!」というビーチボーイズの曲の歌詞に対して「あんたらが歌ってる中西部の農夫の娘たちはこんなにリアルな人生を送ってるのよ!」という痛烈な一発をぶちかましているようにきこえます。


いずれにしてもマーゴ・プライス、是非チェックしておいて欲しい新人シンガーソングライター。是非一聴をお勧めします。


<チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位189位(2016.4.16付)

同全米カントリー・アルバム・チャート最高位10位(2016.4.16付)

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

【新企画】新旧お宝アルバム!#49 「McLemore Avenue」 Booker T. & The M.G.'s (1970)

#49McLemore AvenueBooker T. & The MG's (Stax, 1970)


この原稿はまだ日曜日の参院選投票の結果を見る前に書いていますが、このコラムがポストされる月曜日の朝、未来に向けて希望が持てる結果となっていることを切に願って、快晴の投票日、結果に期待を馳せたいと思います。


さて今週の「新旧お宝アルバム!」は「旧」のアルバムの番。先日このコラムをお休みした週に出張がてら立ち寄ってきたメンフィスはマクリーモア・アヴェニューにあるスタックス・アメリカンソウルミュージック博物館(Stax Museum of American Soul Music)。そのスタックス・レーベルを代表するアーティストと言えば、リーダーのブッカーTのオルガンをフィーチャーしたサザン・ソウル・インストゥルメンタル・グループ、ブッカーT&MG'sブッカーTといえば「グリーン・オニオンズ」などが有名ですが、その彼らが1970年に、あのビートルズに敬意を表して作ったトリビュート・アルバム、その名も『McLemore Avenue』をご紹介します。


McLemore Avenue (Front)


ジャケを見て思わずニヤリとした人、多いですよね(笑)。

そう、このアルバムのジャケは、このアルバムの半年前、1969年秋にリリースされたばかりのビートルズ後期の名盤『アビー・ロード』のジャケのズバリパロディです。『アビー・ロード』と違うのは、歩いているメンバーがビートルズの4人ではなく、ブッカーT&MG'sのメンバー、前からベースのドナルド・"ダック"・ダン、ドラムスのアル・ジャクソン・Jr、ギターのスティーヴ・クロッパー、そしてオルガンでリーダーのブッカーT・ジョーンズの4人であることと、横断しているのがロンドンのEMIスタジオ前のアビー・ロードではなく、メンフィスはスタックス・スタジオ(今は上述の博物館があります)前のマクリーモア・アヴェニュー(このアルバムタイトルの由来です)であること。楽しいですよね、こういう遊び心。


内容は正にその『アビー・ロード』の曲を、彼らのスタイルである、オルガンをメインにしたサザン・ソウル・グルーヴたっぷりのノリでインストゥルメンタル・カバーしているというもので、レコードのA面は「Golden Slumbers」「Carry That Weight」「The End」「Here Comes The Sun」「Come Together」の5曲のメドレーと、「Something」の2曲のみ。

レコードB面もやはり2曲のメドレーで、1曲目は「Because」と「You Never Give Me Your Money」のメドレーで、2曲目は「Sun King」「Mean Mr. Mustard」「Polythene Pam」「She Came In Through The Bathroom Window」そして「I Want You (She's So Heavy)」という、あの『アビー・ロード』の怒濤のB面のメドレーをほぼそのままカバーしたというものです。




このアルバムを聴いて思うのは、曲の構成や順番がオリジナルの『アビー・ロード』とは結構異なっている、特に『アビー・ロード』のB面メドレーの曲を中心にしていて、A面の「Maxwell's Silver Hammer」「Oh! Darling」「Octopus's Garden」は取り上げられていないのですが、聴いていると正に『アビー・ロード』へ対する強いリスペクトを感じる、自然な構成になっていること。

それから、単なるカバーでは終わらず、一曲一曲の演奏がそれらの曲を正にブッカーT独特のグルーヴの中に取り込み、あの『アビー・ロード』の各曲が見事にサザン・ソウルのインスト・ナンバーとして蘇っていること


ビートルズを知らない世代の若い洋楽ファンには、渋めのレア・グルーヴの逸品アルバムとして楽しんで頂けるでしょうし、ビートルズも『アビー・ロード』も充分ご存知のベテラン洋楽ファンの皆さんには、『アビー・ロード』に対する、ひと味違ったブラック・ミュージックサイドからのアプローチとして結構楽しめてしまうこと、間違いなしです。

リーダーのブッカーTはこのアルバムについて「『アビー・ロード』を聴いて、既にトップバンドとして君臨していたビートルズが、全くそんなことする必要ないのに、音楽的にもの凄く冒険して自分達のレベルを新たなところに持って行こうとしてるのをヒシヒシと感じて感銘を受けた。作品もどれも素晴らしかったし、こりゃ何かあのアルバムに敬意を表することをしなきゃな、と思って作ったのさ」と語ってます。

確かにどの演奏もオリジナルに敬意を表してかなり丁寧に、かつオリジナルにはないうねるようなグルーヴを生み出しながら演奏されているのがよくわかる、そんな好盤です。

McLemore Avenue (Back) 


このアルバム、2011年にスタックスからリマスター盤CDが出ており、その際オリジナル収録曲に加えて、「Day Tripper」「Michelle」「Eleanor Rigby」「Lady Madonna」といったそれ以外のMG'sによるビートルズカバー曲をボーナストラックで加えたお得なバージョンが出回っていますので、こちらをCD屋さんで見かけた方は是非ゲットして下さい。


その後スタックス・レーベルの70年代中盤の破産により外へ向かうことを余儀なくされたブッカーTはソロ・アーティストとして、数々の作品のセッション・ミュージシャンとして、そしてビル・ウィザーズの『Just As I Am』(1971)やウィリー・ネルソンのアルバム『Stardust』(1978)のプロデューサーとして活躍。

ギターのスティーヴ・クロッパーもソロ、ザ・バンド関連やブルース・ブラザーズなどのバックアップ・ギタリストとしてのセッションワーク、白人でありながらウィルソン・ピケットIn The Midnight Hour」やオーティス・レディング(Sittin' On) The Dock Of The Bay」などソウルの名曲のライターとして、そしてプロデューサーとしても活躍したのはご存知の方も多いところ。

残念ながら同じく白人ながら多くのソウルの名曲のセッションベーシストとして、そしてスティーヴ・クロッパーと共にザ・バンド関連やブルース・ブラザーズで多くの素晴らしい仕事をしたドナルド・ダック・ダンは2012年来日公演中に他界、そしてスティーヴが「この世で最高のドラマー」と呼んだアル・ジャクソンJr.は不幸にも1975年にメンフィスで暴漢に射殺され、オリジナルのMG'sは今や二人。しかしバンドは1992年にロックの殿堂入りを果たしています。


Booker_T_and_the_MGs.jpg 


MG'sスタックスがその活動のピークを迎えていて、このアルバムをリリースした70年代初頭、ブラック・パワーの台頭で全米が盛り上がっていた頃に、ブラック・ミュージックへの敬意からバンドを始めたビートルズの創造的頂点の作品に対して、逆方向からの敬意を表して発表したこのアルバムを改めて聴き、アメリカにおいて未だに根強く残る人種差別に起因する最近の数々の事件を考えてみるきっかけとしてみてもいいのかもしれません。


<チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位107位(1970.6.20付)

【新企画】新旧お宝アルバム!#48 「Malibu」 Anderson .Paak (2016)

#48MalibuAnderson .Paak (Steel Wool / OBE / Art Club, 2016)


先週仕事でUSはナッシュヴィルに出張、そのついでに週末メンフィスに行ってきた関係で一週間お休みを頂いたこのコラム。帰ってきたらこの週末はここはシンガポールか!と思うような溶けてしまいそうな暑さ。皆さん大変ですが涼しい所で楽しい洋楽ライフ楽しんで下さいね!


さて今週の「新旧お宝アルバム!」は新しいアルバムをお届けする順番。今週は、ヒップホップの大御所、Dr.ドレのカムバック作「Compton」に大幅にフィーチャーされたのをきっかけに一気にブレイクした、ヒップホップ・グルーヴィー・ソウルの若き旗手、アンダーソン・パークの「Malibu(2016)をご紹介します。


Malibu (Front)


アンダーソン・パークというこの聞き慣れない名前のアーティスト、黒人と韓国人の両親の間に生まれ、子供の頃から音楽に親しんでティーンエイジャーの頃から曲を作ってたとのこと。その後カリフォルニアはサンタ・バーバラのマリファナ農場(!)で働いてたのだけど突然クビになって、奥さんと生まれたばかりの子供を抱えて路頭に迷ってたところを、LAベースのサ・ラというヒップホップ・グループに拾われて、プロの音楽の世界に入ったという、なかなかワイルドな経歴の持ち主。

その後アンダーソン・パークとしてのデビュー作「Venice(2014)をインディーからリリースした後、あのヒップホップの大御所、Dr.ドレ16年ぶりにリリースした「Compton(2015)に参加、6曲でコラボしたことで一気にシーンでその名を知られることに。


Anderson Paak 


そしてその彼が今年満を持して発表したのがこの「Malibu」。


彼がこのアルバムで聴かせてくれるサウンドは、決してハードコアなヒップホップではなく、ヒップホップのベースを持ったR&B、ソウルミュージックであり、時にはメロウで、時にはダンサブルな、いかにも21世紀のソウルミュージックというべき、ジャズっぽい洗練さとエッジの立ったストリート性とが絶妙のバランスを持った「今の」ブラック・ミュージックです。そしてそれがアーティスト、アンダーソン・パークの最大の魅力と言えます。


アルバムはジャズっぽい演奏をバックに90年代トニトニトニがやったような当事オーガニックと呼ばれたような、ナチュラルなソウルナンバー「The Bird 」でスタート。続く「Heart Don't Stand A Chance」「The Waters」は一転して今のヒップホップ・ソウルを代表するような今風のグルーヴ満点の曲。以前ここでも紹介したジ・インターネットに代表されるような、ソウル的なメロウさとヒップホップのエッジを兼ね備えたようなサウンドが心地よい。

特に後者は今のヒップホップを代表するようなケンドリック・ラマーらとのコラボでも知られる、今のモータウン・レーベルの旗手、BJ The Chicago Kidのラップをフィーチャーした「今」のソウル。

その次の「The Season/Carry Me」も同様に今様のヒップホップ・ソウルなのだけど、これまでの曲に比べより70年代前半のアイザック・ヘイズ、カーティス・メイフィールドあたりのソウルを強く感じます。

そしてこの辺からどんどん7080年代ソウルへのオマージュを強く感じるナンバーが続きます。続く「Put Me Thru」は70年代初頭のスティーヴィー・ワンダーを思わせるナンバーですし、その後の「Am I Wrong」なんて70年代後半から80年代初頭のUKソウルを彷彿させる無茶苦茶オシャレなダンスナンバー!




次の「Without You」はまたグッと2010年代のヒップホップソウルに回帰。ねっとりしたグルーヴに最近売り出し中のリアルな女性ラッパー、ラプソディのラップがひたすらカッコいいナンバーですが、最後の部分でこちらも独特なグルーヴのソウルミュージックで昨年来日も果たしたハイエイタス・カイヨーテナオミ嬢の独特のボーカルも登場しておっと思わせます。




まあこの後も「Lite Weight」でウルフマンジャックは登場するわ、アルバム締めの「The Dreamer」では90年代ヒップホップルネッサンスの旗手の一人だったタリブ・クウェリを担ぎ出したりととにかくやりたい放題で自分のソウルミュージックの玩具箱を作り出してるなあ、というのが正直な感想。だから聴いててとにかく楽しい。ソウル好きの人なら気に入ること間違いなしです。




ちょうどこのコラムを書いている時に、K-Popにハマっている娘が家でプレイしていたK-Popのアイドルグループの曲(とてもジャスティン・ビーバーな感じの今風のダンスポップでした)に何とこのアンダーソン・パークがフィーチャーされているのを見て、なるほどちゃんと自分の出自(片親が韓国人)も踏まえて幅広く音楽活動してるんだな、と彼のしたたかさも感じてしまったこの週末。

Malibu (Back) 

そんなことも含めて、アンダーソン・パークは今後もヒップホップ・ソウル・シーンの最前線を突っ走っていく若きアーティストの一人として是非注目してもらいたいと思います。まずは、このアルバム、聴いてみて下さい!



<チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位79位(2016.2.6付)

同全米R&B/ヒップ・ホップ・アルバム・チャート最高位9位(2016.2.6付)

同全米R&Bアルバム・チャート最高位5位(2016.2.6付)

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