Life Is A Rock - 洋楽こそ我が人生
洋楽全般について、英米ヒット・チャートに登場有無に関係なく、お気に入りの洋楽作品についての独り言やコメントをつれづれに掲載します。「新旧お宝アルバム!」「恒例グラミー賞大予想」など定期コラムが中心です。洋楽 ファンサイト、meantime(www.meantime-jp.com)のスピンオフ企画としてお楽しみ下さい。
【新企画】新旧お宝アルバム!#54 「Undercurrent」 Sarah Jarosz (2016)

#54UndercurrentSarah Jarosz (Sugar Hill, 2016)


お盆を過ぎたあたりから相次ぐ台風の接近で天候が不安定がちな今日この頃。今週もおかしな軌道を取りながら日本に接近する台風10号に振り回されそうな感じです。8月も終わろうとするこの時期、すっきりとした天気で爽やかな秋を迎えたいものです。


さて、今週の「新旧お宝アルバム!」は新しいアルバムの番。今回はアメリカーナ・ミュージック・シーンの新進気鋭のシンガーソングライターであり、マンドリンやバンジョー・プレイヤーとしても才能を認められ、昨年はピーター・バラカンさん主宰の「Live Magic」にもアメリカーナ女性トリオ、I'm With Herのメンバーとして来日してライヴを行った、若き女性アメリカーナ・シンガー、サラ・ジャロウズの4枚目となる新作『Undercurrent(2016)をご紹介します。


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昨年の「Live Magic」に来日したI'm With Herというトリオは、今日ご紹介するサラ・ジャロウズ(マンドリン、バンジョー)の他に、プログレッシヴなポップ・ブルーグラス・グループとして90年代後半から2000年代にかけて人気を博したニッケル・クリークの創始メンバーの一人、サラ・ワトキンス(バイオリン)、そしていくつかのフォーク・ブルーグラス・グループでリードを取ってきたイーファ・オドノヴァン(ギター)による3人組。他の二人がアメリカーナ・シーンで様々な実績と経験を積んだベテラン・シンガーソングライター達であるのに対し、サラ・ジャロウズは2013年にボストンにあるニュー・イングランド音楽院を卒業したての今年25歳という正しく若手のホープ


しかし彼女も、高校在学中にブルーグラス分野では実績あるシュガーヒル・レーベル(あの「Rapper's Delight」(1979)で有名なラップ・ヒップホップのレーベルとは同名異社)と契約して初ソロ『Song Up In Her Head』(2009)を発表、その楽曲やオクターヴ・マンドリン(通常のマンドリンより各弦の調音が1オクターヴ低い)やバンジョーの腕前は高い評価を得るなど、この若さにして既にこのシーンにおいてしっかりとした実績を築いてきています。

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彼女は過去の作品でボブ・ディランレディオヘッド、ジョアンナ・ニューサムなどフォークやアメリカーナ以外のアーティストの楽曲を取り上げるなど、若いアーティストらしくオープンな姿勢でのアルバム作りをしてきたようですが、この『Undercurrent』は全曲自作または自身の共作のナンバーで占められ、そのどれもがアメリカーナの正統的なルーツを確実に踏まえた楽曲でありながら、決して古色蒼然としておらず、今の2010年代のシンガーソングライター作品としてのしっかりした魅力ある個性を感じる、そんな作品です。

もう一つ今回特筆すべきは、全11曲中、サラが本来のマンドリンやバンジョーを演奏しているのは「Green Lights」「Comin' Undone」「Lost Dog」そしてI'm With Herの他の二人と共作、共演している「Still Life」の4曲のみで、残り7曲では全てサラがギターを弾きながらボーカルを取っている曲。ここからも彼女がこのアルバムで楽曲内容を強く表現したいという意思が伝わってきます。


サラのアコギのフィンガーピッキングで静かに始まり、正しくそのタイトルのように朝の光のような印象を与える「Early Morning Light」はそのタイトルに反して壊れてしまった愛から立ち直ろうとする女性の歌。静謐なエコーがかったサラのボーカルとマンドリンが印象的な「Green Lights」は、そのもの悲しさとは裏腹に「緑のライトと開かれた道と果てしない青空/それがあなたといる時に私が感じるもの」というポジティヴなイメージです。

このアルバムからのシングル「House Of Mercy」は、CSN&Yの「Ohio」を思い起こさせる歌い出しのメロディを持った、やや暗めのトーンのブルース・タッチのアコースティック・ナンバー。




このアルバムで最もオーセンティックなフォーク・ナンバーといっていい、サラのアコギ弾き語りの「Everything To Hide」では愛する人への許されない思いを胸に深く抱くという難しい表現を表現、一方このアルバムで最もメインストリームな魅力を持っているワルツ・バラードの「Back Of My Mind」は、バックのペダル・スティールやエレクトリック・ギターの音色や、遠く離れてもあなたは私の頭のどこかにいるのよ、という歌詞が初期のイーグルスを思わせる佳曲です。

サラが再びマンドリンを取る「Comin' Undone」はちょっとジャジーな感じのスロー・シャッフル・ナンバーで、けだるい雰囲気が魅力。アコギ弾き語りの「Take Another Turn」では人生での選択をどうするのか、と問いかけ、このアルバムでサラが唯一バンジョーを奏でる「Lost Dog」では迷い疲れてサラの元に助けを求める迷い犬について暗喩的に歌います。




アルバム後半は、サラのギターと物憂げな曲調が初期のエミルー・ハリスのナンバーを思わせる「Take Me Back」、I'm With Herのメンバーで演奏され、サラ・ワトキンスのフィドルがマウンテン・フォーク調のもの哀しさを感じさせる「Still Life」を経て、これも唯一サラがエレクトリック・ギターをつま弾きながら、着飾って湖に立つ女性の幻想的なイメージを歌う「Jacqueline」で静かに幕を閉じます。

Undercurrent (LP Back)_2

サラの楽曲の安定していながら決して凡庸に終わらないメロディーや構成、先頃来日したパンチ・ブラザーズのような超絶技巧ではないけどもギターやマンドリン、バンジョーのしっかりした演奏力とバックとのアンサンブルの素晴らしさなどは、このアルバムを繰り返し聴きたくなる大きな要素です。でも、個人的には彼女のボーカルの静謐さ、美しさとさりげない歌い回しなどで見せるしっかりした歌唱力、そしてそうした歌声によって聴く者をどこかに持って行ってくれる、そんな不思議なサラのボーカルの魅力も、このアルバムを特別なものにしている大きな要素だと感じます。


暑かった夏もようやく終わりに向かい、実りの秋に向かおうとするこの季節、季節の移り変わりを感じつつ耳を傾ける作品としては正しくうってつけのアルバム。アメリカーナやフォーク系のシンガーソングライターがお好きな方はもちろん、そうでない方もこの機会に彼女の音楽に触れてみてはいかがでしょうか?


<チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバム・チャート最高位117位(2016.7.9付)

同ロック・アルバム・チャート 最高位14位(2016.7.9付)

同フォーク・アルバム・チャート 最高位6位(2016.7.9付)

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【新企画】新旧お宝アルバム!#53 「Thriller!」 Cold Blood (1973)

#53『Thriller!』Cold Blood (Reprise / Warner Bros., 1973)


ここのところ蒸し暑い日やゲリラ豪雨の日など天候が不安定ですが皆さん体調万全でお過ごしでしょうか。折しもスポーツではリオオリンピックでの連日の日本選手の活躍や、夏の甲子園が佳境に入って来る一方、先週末はサマソニ開催でフェスで盛り上がっている方も多いのでは。いずれにしても体調に気を付けて、音楽とスポーツの夏を満喫して下さい。


さて先週お休み頂いた今週の「新旧お宝アルバム!」は「旧」のアルバムをご紹介する順番。今週ご紹介するのは、サンフランシスコ・ベイエリアから60年代後半~70年代前半に登場したファンキーR&Bグループの一つで、あのタワー・オブ・パワーと並び称された、紅一点女性ボーカルのリディア・ペンスを擁するコールド・ブラッドの4枚目のアルバム、『Thriller!』です。


Thriller (Front) 

スリラー、といってももちろんマイケル・ジャクソンとは何の関係もありません。何やらセンセーショナルなタブロイド紙の記事からの写真か?と思わせるようなユニークなジャケットのアルバムですが、その内容は、ホーンセクションやグルーヴの効いたファンキーなリズムのR&Bロック・ナンバーや、リディアのある時はソウルフルなシャウト・ボーカル、ある時は表現力豊かなボーカルを中心に演奏されるソウルフルなナンバーなど、とてもクオリティの高いR&Bロック・アルバムとなっています。

特にホーンセクションの役割は大きく、上述のもう一つのベイエリアのファンク・グループ、タワー・オブ・パワーとかけもちでこのコールド・ブラッドのメンバーとなっているスキップ・メスキート(テナー・サックス&フルート)を中心とした、タイトでファンキーなホーンセクションが、このアルバムのファンク・サイドのサウンドメイキングの重要な原動力となっています。


コールド・ブラッドは1969年に、当時の超大物ロック・イベント・プロモーターのビル・グラハムのオーディションでその実力が認められ、当時グラハムが所有していたサンフランシスコのライヴハウス、フィルモア・ウェストで活動、その人気を70年代前半にかけて高めていったバンド。ボーカルのリディアがそのソウルフルで力強さでジャニス・ジョプリンに比べられることが多かったのですが、その彼らをグラハムのオーディションに推したのは他ならぬジャニスだったといいますから、彼らの実力はミュージシャン達の間でも認められていたようです。

ジャケにリディアの写真を据えたデビュー作『Cold Blood』(1969)、バックに当時まだブレイク前のポインター・シスターズを従えた『Sisyphus』(1970)、そしてあのダニー・ハサウェイをプロデューサーに迎えた『First Taste Of Sin』(1972)に続けてリリースされたこの『Thriller!』は、それまで主としてメンバーによる作品に2曲程度のカバー曲を混ぜていた彼らのアルバムと異なり、前7曲のうち5曲が他のアーティストのカバー曲で占められているというある意味意欲作となっています。




アルバムの冒頭は、ジャニスの代表曲として有名な「Cry Baby」「Piece Of My Heart」といったR&Bナンバーの作者、ジェリー・ラゴヴォイのペンによる「Baby I Love You」。いきなりファンキーなカッティング・ギターにクラヴィネットが絡み、シンコペーションリズムでベースとドラムスが、いかにも70年代初期なファンキーさでなだれ込み、そこにリディアのシャウト気味のボーカルが乗ってくる、というご機嫌なファンク・ロック。曲の要所要所を締めるリズムのキメのフレーズが、タワー・オブ・パワーとかが好きな方であればとても気持ちいいはず。後半からはホーンセクションが曲の厚みを増してジャムセッション風に曲のグルーヴを加速していきます。

一転して2曲目はご存知スティーヴィー・ワンダーの「You Are The Sunshine Of My Life」。フェンダーローズのイントロで始まり、ほぼ8分にも及ぼうかという長尺のジャズ・フュージョン風演奏をバックに前の曲とうって変わって情感たっぷりに歌い上げるリディアのボーカルがこのバンドのまったく異なる表情を見せてくれます。今時ならプロトゥールズで修正されているであろう、時々ちょっとオフキーになる彼女のボーカルもご愛敬。

続いてA面の最後はレイ・チャールズが1971年のアルバム『Volcanic Action Of My Soul』でやっていた「Feel So Bad」のカバー。こちらもオルガンのリフとブレイクを組み合わせたファンク・グルーヴたっぷりの独特のリズムリフに乗って、リディアのソウルフルなボーカルが炸裂して、思わず「これ、ライヴで見たかった」と思わせてくれます。




B面は何とザ・バンドStage Fright』(1970)からの「Sleeping」のカバーでスタート。こちらはシカゴBSTブラッド・スウェット&ティアーズ)か、というようなブラスロック的なイントロから、またもリディアの表現力豊かなボーカルで、ザ・バンドのオリジナルでは黄昏れた感じのバラード・ロックだったこの曲を、ゴスペルチックに盛り上げて聴かせてくれます。

続くはこのアルバム唯一彼らのオリジナル曲、トランペットのマックス・ハスケット作の「Live Your Dream」。こちらは四つ打ちウォーキング・シャッフルでちょっとニューオーリンズ風な、いかにもホーンプレイヤーが書いた曲らしく曲のドライヴをホーンがリードする楽しいナンバーです。バックを固めるのは2作目でもコラボしたポインター・シスターズ。彼女達はこのアルバムの出たわずか数ヶ月後に衝撃のデビューを飾ることになります。

そして3曲目は、何とボズ・スキャッグスの1969年のセカンド・アルバムから「I'll Be Long Gone」のカバー。ボズのオリジナルもマッスル・ショールズで録音されたとてもソウルフルなナンバーでしたが、コールド・ブラッドのバージョンもゆったりとしたグルーヴを効かせた素晴らしい出来です。

アルバム最後を締めるのは、ビル・ウィザーズのオリジナルのファンキーな味わいそのままに、リディアのソウルフルボーカルの真骨頂が興奮を呼ぶ「Kissing My Love」。カッティング・ギターとクラヴィネットのファンキーなバッキングリフに絡むホーンセクションとリディアのボーカルが生み出すグルーヴとブレイクで終わるエンディングが、アルバムが終わった後もじわーっと余韻を残す出来になっています。


Thriller (LP Back)


このアルバムの後、『Lydia』(1974)、『Lydia Pense And Cold Blood』(1976)と2枚のアルバムを残しながらいずれも商業的には振るわず、バンドは残念ながら70年代後半に一旦解散して80年代、リディアは子育てに専念。80年代後半に再結成し、地元サンフランシスコで地道なバンド活動を続けていましたが、1998年に古巣のフィルモア・ウェストにカムバック、以来3枚のアルバムと2枚のライヴ・アルバムをリリースしながら、何と今でもコールド・ブラッドとして活動しているようです。

リディアは御年68歳と、70年前半当時の若々しさは望むべくもありませんが、何だか今でもこういうファンキーなリズムとグルーヴに乗って、ソウルフルなボーカルを聴かせてくれていそうな気がします。

そのリディアが最も脂が乗っていたと思われるタイミングでリリースされたこのアルバム『Thriller!』、70年代R&Bやファンクがお好きな方であれば文句なくオススメできる快盤です。フェスとかに行くのもいいですが、蒸し暑い夏のお共にファンキーなロックはいかがですか?

 <チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位97位(1973.6.9付)

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【新企画】新旧お宝アルバム!#52 「American Tunes」 Allen Toussaint (2016)

#52American TunesAllen Toussaint (Nonesuch, 2016)


洋楽ファンの皆さん、暑中お見舞い申し上げます。


先週は夫婦で久しぶりに夏休み旅行ということで、東北は平泉と仙台に行き、昼は奥の細道の史事に触れ、夜は新鮮な海の幸とお酒を堪能してきた関係でお休みさせて頂いたこのコラム。先週末6日は広島原爆記念日、そして今日8日には天皇陛下のビデオコメント発表ということで戦後70年の区切りを感じさせる日々が続いています。心から今の平和と国民の人権を尊重する政治、そして周辺諸国との調和を重んじる外交が今後続いていくことを改めて祈ります。


さて、今週の「新旧お宝アルバム!」は新しいアルバムをご紹介する順番ですが、今回は惜しくも昨年11月に他界してしまったばかりのアーティストとしては超大御所で南部音楽、特にニューオーリーンズの音楽シーンの父といわれた故アラン・トゥーサンの最後のセッションをまとめて今年リリースされたアルバム『American Tunes(2016)をご紹介します。


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アラン・トゥーサンといえば、南部特にミーターズネヴィル・ブラザーズなどに代表されるニューオーリンズのR&Bや、ザ・バンドとの客演で知られるドクター・ジョン等に代表されるスワンプ・ミュージックと言われる音楽に興味のある方にはとうにお馴染みの名前。

自身とても雰囲気を持ったピアノプレイヤーながら、過去には様々なアーティストのヒット曲を手がけてきたサウンドメイカーとしても有名で、ポインター・シスターズのデビュー曲「Yes We Can Can」(1973年全米最高位11位)やグレン・キャンベルによるカバーヒット「Southern Nights」(1977年全米No.1)の作者として、またプロデューサーとしてもドクター・ジョンRight Place, Wrong Time」(1973年全米最高位9位)やラベルの「Lady Marmalade」(1975年全米No.1)を手がけたことで有名です。

近年はハリケーン・カトリナ被害からのニューオーリンズ復興プロジェクトから生まれたエルヴィス・コステロとのコラボ作『The River In Reverse』(2006)や、戦前のアメリカン・スタンダードをカバーした『The Bright Mississippi』(2009)などジャズ寄りの渋い作品が多く、昨年1月にも来日したばかり。


昨年11月にスペインでのツアー中に心臓麻痺で77歳で急逝したトゥーサンが、その直前の10月に名うてのミュージシャン達を相手に残していた演奏音源を、今回前作『The Bright Mississippi』のプロデューサーでもあり、アメリカ伝統音楽をベースにしたロック作品のプロデュースでは定評のあるジョー・ヘンリー(最近ではボニー・レイットDig In Deep』(2016)など)がまとめ上げ、トゥーサン没後オリジナル・アルバムとして発表したのがこの『American Tunes』です。

American Tunes (CD Back)


まずこのアルバムに針を落として(そう、アナログで聴かれることをお勧めします)通して聴いて強く感じるのは、トゥーサンのごく自然に奏でられるピアノの音色が聴く者に与えてくれる抱擁感と、遠くアメリカ南部の昔や、ニューオーリンズから見るビッグ・イージー(ミシシッピ川の愛称)の川面がたゆとうように揺れているイメージ、そしてそれらが与えてくれる例えようもない心の安らぎです。ニューオーリンズを訪れてあの街の与えてくれる独特の感じを肌で感じたことのある方にはそういう印象がいっそう強く感じられるに違いありません。





収録された17曲(CD収録は14曲)のうちボーカルが入っているのは、3曲のみであとは全てトゥーサンのピアノに、ビル・フリゼル(ギター)やヴァン・ダイク・パークス(オーケストラ・アレンジ、ピアノ)らのベテランアーティスト達が回りを控えめに固めた布陣で聴かせる、インストゥルメンタル曲です。

ボーカル曲では、戦前のジャグバンド等の伝統音楽に影響を受けたコンテンポラリーなアメリカーナ・ミュージックで最近注目を集めている若手女性シンガーのリアノン・ギデンズが、あのデューク・エリントンのナンバー『Rocks In My Bed』『Come Sunday』でオールドタイムな魅力あふれる歌声を披露しているのと、トゥーサン自身がアルバムラストで、アルバムタイトル曲でもあり、ポール・サイモンの有名曲である『American Tunes』を、逝去一月前とは思えないほど張りのある、若々しい歌声で歌い、このアルバムを締めているのがとても印象的(アナログアルバム<下記写真>ではこの後ヘンリー・マンシーニの有名曲「Moon River」など3曲が収録されています)。

American Tunes (LP Back)


アルバム中自作曲は、いかにもニューオーリンズのセカンド・ライン(ニューオーリーンズの葬列で、ファーストラインは悲しみを表す遺族の列であるのに対して、セカンドラインは陽気に故人を送り出すための楽器演奏のミュージシャン達の列であることに起源を発しているニューオーリンズ独特の音楽スタイル)の典型とも言える洒脱な曲調のアルバムオープニング曲「Delores' Boyfriend」とグレン・キャンベルがカバーして大ヒット、自らの代表アルバムのタイトル曲でもある「Southern Nights」をプレイしているのみ。

それ以外は前述したデューク・エリントンやヘンリー・マンシーニ、ポール・サイモン、そして同じくニューオーリンズ・ミュージックの代表選手といえるプロフェッサー・ロングヘアーの「Mardis Gras In New Orleans」と「Hey Little Girl」など、戦前から最近までの幅広い時代の、アメリカ伝統音楽に根ざす楽曲を広く取り上げて演奏し、トゥーサンならではの雰囲気を醸し出しています。


中でも印象的だったのは、ジャズの名ピアニスト、ビル・エヴァンスの代表曲とも言える「Waltz For Debby」のカバー。原曲はしっとりとした、夜のナイトクラブの喧噪の中で自らの世界を作り出すがごとく濃密なスロウテンポの演奏となっているのを、トゥーサンは、この曲をセカンド・ライン風に大胆にアレンジして、テンポも弾むようなミドルアップで、洒脱ながら原曲の素晴らしさが生き生きと浮かび上がるパフォーマンスに変貌させているのです。ビル・エヴァンスの熱心なファンには怒られるかもしれませんが、オリジナルの素晴らしさもさることながら、このバージョンの方が元気をもらえる楽しいバージョンになっていて、聴いていてとても嬉しくなります。





今回このアルバムタイトルにポール・サイモンの「American Tunes」が選ばれた理由として考えられるのは、実は昨年12月、トゥーサンも設立メンバーとして関わっていた「New Orleans Artists Against Hunger and Homelessness(飢えとホームレス撲滅のためのニューオーリンズ・アーティスト達)」結成30周年のベネフィット・コンサートで、トゥーサンポール・サイモンが共演することになっていたためだと思います。残念ながらその前月に急逝したトゥーサンを欠きながら、当日ポール・サイモンはソロで演奏し「アラン・トゥーサンはニューオーリンズを世界に紹介してくれた。そして彼がその天才的音楽の全てを私たちに恵み終わる前に残念ながら帰らぬ人となってしまった」とスピーチし、トゥーサン逝去を惜しんだとのこと。





暑い夏はいろいろなことを思う時、去ってしまった人達を思う時、そして我々が恩恵を受けている平和や自然との調和について改めて思いを馳せる時期でもあります。

トゥーサンの遺作となったこの素晴らしいピアノ・アルバムは、そうした暑い夏の様々な思いにふけるのに最高のサウンドトラックとなって、あなたの夏のひとときを豊潤な音楽と素晴らしい雰囲気で彩ってくれることでしょう。是非一度このアルバムに耳を傾けて頂き、可能なかたであれば、ぜひともアナログLPでお聴きになってみることをお勧めします。


<チャートデータ>

ビルボード誌全米ジャズ・アルバム・チャート最高位2位(2016.7.9 & 23付)

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