Life Is A Rock - 洋楽こそ我が人生
洋楽全般について、英米ヒット・チャートに登場有無に関係なく、お気に入りの洋楽作品についての独り言やコメントをつれづれに掲載します。「新旧お宝アルバム!」「恒例グラミー賞大予想」など定期コラムが中心です。洋楽 ファンサイト、meantime(www.meantime-jp.com)のスピンオフ企画としてお楽しみ下さい。
【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#58 「Muchacho」 Phosphorescent (2013)

 #58MuchachoPhosphorescent (Dead Oceans, 2013)


なかなか秋本番になってくれず、ここのところ毎日雨続きでうんざりしている方も多いのでは。そうこうしているうちに9月も終わろうとしている中、本格的な秋到来を心待ちにしている方、この機会にもうすぐいよいよ国内サービスが始まるというSpotifyApple Musicなどをチェックしてみて、いろんな新しい音、懐かしい音に接してみてはいかがでしょうか。自分の知っているアーティストでも「こんな新譜が出てたのか」などという発見があってなかなか楽しいものです。


さて、今週の「新旧お宝アルバム!」は久しぶりに最近のアルバムのご紹介です。今回は最近いろんなジャンルの新進気鋭のアーティスト達が集う、ニューヨークはブルックリンをベースに、2000年代からその独特な作風とセンスで紡ぎ出す楽曲を発表し続けているアラバマ州出身のマシュー・ホウクことフォスフォレッセントの6枚目のアルバム『Muchacho(2013)をご紹介します。


Muchacho.jpg 


Phosphorescent」という言葉は、以前ここでもご紹介して、今年初来日で大いに評判を集めたパンチ・ブラザーズのアルバム『Phosphorescent Blues』のタイトルでも見かけた言葉ですが、「燐光を発する」という意味。この言葉をバンド名に採用しているマシューの作り出す音楽は、正にほんのりとした光を発するかのように、薄暗い背景から匂い立って現れてくる映像、というイメージを喚起するような音像表現を持ち味とする楽曲で構成されています。

そうした彼の楽曲のベースを構成しているのはカントリー、ブルース、R&B、ロック、ゴスペルといったアメリカの伝統的な音楽に90年代以降のオルタナティヴ・ロック的たたずまいが渾然一体となっているもので、どの曲も一種懐かしさみたいな風情を湛えながらも明確に今風の音になっていますし、フォスフォレッセントならでは、と思わせるような雰囲気たっぷり。

またそうした独特のヴィジュアルを喚起する音使いや構成の楽曲が多いため、映画などに使用されることも多いようで、このアルバム収録の「Song For Zula」などは既に5本の映画の挿入曲として使われているほど。


マシューは二十歳前後の頃まで世界中を放浪しながら、演奏活動をしていたのですが、2003年に現在のフォスフォレッセントというアーティスト名を名乗り、最初のアルバム『A Hundred Times Or More』をインディーからリリース。その後数枚のアルバムを重ねながら徐々にシーンでの評価を重ねていって、この『Muchacho』で一気にピッチフォーク、アンカット、Q、モジョといった今のロックシーンにフォーカスしている各音楽誌の高い評価を得ました。かくいう自分もピッチフォーク誌10点中8.8点(年間で数枚にしか与えられない高い評価)という評価を見て、ジャケットのドリーミーなイメージに惹かれるものを感じて聴いてみたところ、いっぱつでノックアウトされた次第




冒頭の「Sun, Arise!」は、シンセサイザーの夢見るような音色にゴスペル風のコーラスがからみ、ロックというよりはエレクトロニック・ゴスペルといったユニークな曲調。続く「Song For Zula」はシンセのストリングスと打ち込みのシンセベースを中心に、マシューのつぶやくような歌声が広大な草原に聴く者を誘うかのようなイメージが想起される楽曲で、映画に多数使われたのもうなずけるもの。ここまでで、既にフォスフォレッセント独特の音像世界がしっかりリスナーの脳の中に形成されてきます。

Ride On / Right On」は冒頭2曲のゆったりした曲調から一転して、シャッフルする重いリズムのリフがこちらも印象的な曲。ちょっとサイケデリックなギター・エフェクトや、マシューのボーカルのフェイク具合がちょっと南米とか東欧とかの非アメリカ的なイメージを想起させるのが不思議な感じの曲です。




Terror In The Canyons」はフィドルをフィーチャーするなど、アルバム中最もアメリカーナというか、メインストリームなシンガーソングライター系というか、米国音楽ファンには親しみやすい、ディランニール・ヤングを思わせるような音触りや楽曲の完成度をもった曲です。

A Charm / A Blade」は冒頭のテーマに戻り、またもや「怪しげなゴスペル・ロック」といった風情の始まりから、70年代アメリカーナ・ロック的な展開に移行して「おお、だんだんロックっぽくなってきた」と思っていると、次にくる「Muchacho's Tune」ではリヴァーヴの目一杯効いたギターリフに乗って、メキシコの場末のバーでマシューが一人歌うという、まるで一気にライ・クーダーな展開。しかし楽曲がアメリカーナ伝統楽曲回帰ではなく、ちゃんとオルタナティヴロック的なのでライ・クーダーにはなっていないところがミソ。なんでも前作のツアーでメキシコに行った時に何でも長い列に並ぶのにうんざりしてたところ、「ここでは何でもこんなもんさ、Muchacho(にいちゃん)」と言われたのと、たまたまその頃よく聴いていたブライアン・イーノのレコードが曲のインスピレーションだったとか。


Muchacho Back 


何しろこんな調子でこのアルバムは一時として一つの音楽スタイルに立ち止まらないというか、次から次に出てくるマシューの絵物語を見ているかのようで、彼の半端ない楽曲アイディアと、それを彼独特の形にして表現する才能を如実に実感することができます。表現者は逆境の時にいい作品を作る、というのは昔からよく言われますが、マシューも前作のツアーからこのアルバムにかかる間、ツアーでの疲労、ニューヨーク市の条例改正で自分のスタジオを失い、恋人を失いといった不運に見舞われたそうで、そうした状況がこういう素晴らしいアルバムを生む源泉となったのかもしれません。


アルバムは「A New Anhedonia」「The Quotidien Beasts」といったいかにも90年代以降のオルタナ・ギター・ロック的なナンバーの後、再びドリーミーな楽曲パターンに回帰、ピアノとスティール・ギターとマシューのヨれたボーカルのゆったりな「Down To Go」、そしてアルバム冒頭のリプライズのような「Sun's Arising」はどこか教会か公民館のような場所でスタジオライヴ的なアンビアント・ノイズをバックに再びゴスペルチックなコーラスでクロージングとなります。



このアルバムで一気に多くの音楽ファンの注目を受けることとなったマシューは、アルバム・サポートのツアーを決行、その最終日程だった2013年の12月に地元ブルックリンのウィリアムズバーグ音楽堂でのライヴを収録した『Live At The Music Hall』(2015)をリリースしています。このライヴ盤は『Muchacho』のナンバー中心(「Song For Zula」などはシンセの代わりに生の弦楽四重奏団をバックに演奏するなど、いろんなアレンジの試みもみられます)に過去のアルバムからの曲も交えた「フォスフォレッセント応用編」な出来になっています。

Live At The Music Hall 


アメリカーナなベースにエレクトロやメキシカーナな雰囲気をちりばめたこのアルバムの楽曲は、正に秋が深まろうとするこの時期に聴くには適当に刺激的であり、かつイメージで聴く者を包んでくれる、そんな作品群です。ある意味ジャンルレスなこのアルバム、これまでフォスフォレッセントの名前を知らなかった方々に、是非一度聴いてみて頂きたい、そんな一枚です。


<チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバム・チャート最高位59位(2013.4.6付)

同ロック・アルバム・チャート 最高位22位(2013.4.6付)

同フォーク・アルバム・チャート 最高位5位(2013.4.6付)

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【新企画】新旧お宝アルバム!#57 「Trace」 Son Volt (1995)

#57『Trace』Son Volt (Warner Bros., 1995)


9月も中旬を過ぎているのにまたまた台風接近で雨模様の今週、西日本の方々は台風の影響がひどくなりませんように。MLBではシカゴカブスが早々にナショナルリーグ中部地区の優勝を決め、日本のMLBファンとしてはイチローが安打記録をどこまで伸ばすか、岩隈・青木マリナーズはポストシーズンに出られるか、といったところが興味あるところ。音楽の方もこの秋は気になるライヴやフェスが続々開催、楽しみな季節になってきました。


さて今週の「新旧お宝アルバム!」、先週は90年代オルタナティヴ・ロックのベター・ザン・エズラの作品をご紹介しましたが、今週も90年代からもう一つ、こちらは今につながるアメリカーナというかオルタナティヴ・カントリー・ロックの脈々とした流れを作り出した、このジャンルにおいては歴史的に重要なバンド、サン・ヴォルトのデビュー・アルバム『Trace』(1995) をご紹介します。


SonVolt_Trace.jpg 

70年代には単純にカントリー・ロック、と言われていたものが90年代以降「オルタナティヴ・カントリー・ロック」と言われ始めた要因の一つは、前者が純粋にカントリーやフォーク・ミュージックとメインストリーム・ロック(ブルースやR&Bの要素も含めて)のミクスチャーによって生まれた音楽スタイルだったのに対し、後者の大きな違いはそうした音楽が80年代以降の新しいロックのスタイルであったパンク・ロックやグランジ・ロックといった、より荒々しい、ローなスタイルのロックの要素を通過して消化したものを備えた音楽スタイルであることではないかと個人的には思っています。


サン・ヴォルトというバンドは、1980年代後半に最初のオルタナ・カントリー・ロック・バンドと言われたアンクル・テュペロのリーダーの一人であったジェイ・ファーラーが1994年のアンクル・テュペロの解散後立ち上げた、セントルイス/ミネアポリス地区をベースとしたバンド。
当時アンクル・テュペロの解散後、もう一人のリーダーだったジェフ・トウィーディーが立ち上げたのが、90年代から現在にかけて『Being There』(1996)、『Yankee Hotel Foxtrot』(2001)などの名盤をリリース、メインストリームでも大きな成功を得て最近新譜『Schmilco』(2016)を発表したウィルコ
期せずしてアンクル・テュペロからこのジャンルの二つの重要なバンドが生まれたわけですが、ウィルコがよりメインストリームも意識した、ロックとカントリー的な要素が融合したサウンドを指向したのに対し、サン・ヴォルトは、90年代以降のオルタナ・カントリー・バンドの典型である、カントリーやパンク・グランジなどが併存した音楽スタイルを指向したところが二つのバンドの違いでした。結果サン・ヴォルトは残念ながら商業的にウィルコほど大きく成功することはなかったのですが、このデビュー作を含めていくつかのアルバムはこのジャンルを代表する作品としてシーンの高い評価を得ているのです。


Son Volt 


アンクル・テュペロ解散後、ドラマーのマイク・ヘイドーンと、最後のアンクル・テュペロのツアーに参加したジム(ベース)とデイヴ(バンジョー、フィドル、ギター等)のボクィスト兄弟をメンバーに迎えたサン・ヴォルトのこのデビュー作は、いきなりボブ・ディランのカントリー・アルバム『Nashville Skyline』(1969)あたりを思わせる、シンプルで原点回帰的なカントリー・チューン「Windfall」で始まります。アコギ、ラップ・スティール・ギター、フィドルといった楽器が奏でるゆったりしたこの曲には「もう一回原点に戻って」というファーラーの意気込みを静かに感じます。

2曲目「Live Free」からはエレクトリック・ギターが加わりますが、曲のメッセージはファーラーが心酔していたというビートニクの吟遊詩人、ジャック・キュロアックあたりのスピリットを感じさせるものですし、曲自体もエレクトリックではありますが極めてシンプルなカントリー・ロック。

Tear Stained Eye」はまた1曲目と同様の、典型的なナッシュヴィル・スタイルの浮遊感漂うようなホンキートンク・カントリー・チューン。ここではバンジョーも入り、よりいっそう伝統的な音楽スタイルへのこだわりを感じさせ、ファーラーのボーカルもディランや『Harvest』(1972) の頃のニール・ヤングを思わせるような、伝統的なフォークシンガーを意識したものです。




伝統的カントリースタイルを踏襲した冒頭3曲に続くのが、いきなりパワフルなエレクトリック・ギターのストローク・リフで、グランジを通過した90年代オルタナ・ロックの雰囲気をプンプン漂わせるRoute」。アコギのストロークとエレクトリック・ギターのオブリガートが幻想的でブルースっぽいREM、といった風情の「Ten Second News」を挟んで、いきなりパンクとグランジが合体したような無茶苦茶カッコいいパワフルなギターリフをぶちかます「Drown」がこのアルバム前半のハイライト(LPではこの曲がA面ラスト)。この曲でのギターサウンドは『Rust Never Sleeps』(1979) あたりのニール・ヤングの力強いギターリフを彷彿とさせながらバールーム・ロック的なキャッチーさもあり、当時全米のカレッジ・ラジオでかなりの人気を集めたというのもうなずける出来です。



LPではB面を構成する後半の楽曲は、A面が「前半アコースティック、後半エレクトリック」という構成だったのに対し、典型的な90年代オルタナ・ロック、といった風情のエレクトリックな「Loose String」から始まって、アコギ弾き語りから後半ラップ・スティール・ギターやフィドルがからむ「Out Of The Picture」、思わずフーファイターズか、と思うようなストレートなエレクトリック・ギター・リフによる「Catching On」、というようにアコースティックとエレクトリックが交互にプレイされる構成で、A面とは違った流れで彼らの曲が楽しめる趣向になっています。



そして最後、ナッシュヴィルの有名なシンガー・ソングライター、タウンズ・ヴァン・ザントに捧げたと言われ、タウンズのホンキートンク・スタイルで切々と歌う「Too Early」、そしてこのアルバム唯一のカバーで、ローリング・ストーンズロン・ウッドのソロ・アルバム『俺と仲間(I've Got My Own Album To Do)』(1974)に収録されていたアコースティック・ブルース・ナンバー「Mystifies Me」の素晴らしいバージョンでこのアルバムは幕を閉じます。

アルバムを通じて感じるのは、どの曲もシンプルな楽曲構成でありながら、魅力あふれるフレージングとメロディ、リズムで演奏され、ファーラーのやややさぐれた、ブルース・フォーク・シンガーっぽいボーカルがそうした楽曲にとてもマッチして、不思議な一体感を作り出していることです。

SonVolt_Trace (Back) 


この年1995年のローリング・ストーンズ誌の音楽評論家が選ぶベスト10アルバム・リストでは、スマッシング・パンプキンズMellon Collie And The Infinite Sadness』やオエイシス(What's The Story) Morning Glory?』、そして彼らに多大な影響を与えたニール・ヤングのロックアルバム『Mirror Ball』などと並び9位に選ばれたこのアルバム、当時のロック・シーンでは、このジャンルを代表する作品として未だにウィルコの『Being There』などと並ぶ傑作と高く評価されています。サン・ヴォルトはその後『Straightaways』(1997)と『Wide Swing Tremolo』(1998)の2枚のアルバムを発表後しばらく活動を休止、2005年にはメンバーを一新して『Okemah And The Melody Of Riot』を発表。その後も数年おきに新作を発表しながら活動を続けていますが、最近は以前ほどその名前を音楽プレスで目にすることはありません。


そんな折り、昨年2015年にはこのアルバムのリリース20周年を記念して、新たにリマスターされたヴァイナルLPとCDが再発、当時一斉を風靡したこのバンドの傑作アルバムがより手軽に、いい音で楽しめるようになりました。次回レコード・CDショップに行かれたら、この再発盤を探してみて下さい。このジャンルが嫌いでない方には是非とも一聴をお勧めしたいので。

 <チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位166位(1995.10.7付)

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【新企画】新旧お宝アルバム!#56 「Friction, Baby」 Better Than Ezra (1996)

#56『Friction, Baby』Better Than Ezra (Elektra, 1996)


9月になってもまだまだ暑い中、それでも日々少しずつ秋の気配が感じられるようになってきている今日この頃。パラリンピック開催、テニスの全米オープンでの錦織圭選手の活躍、プロ野球では広島がセ優勝、MLBのポストシーズンの行方も混沌としてきているなど、スポーツの話題もいろいろと盛り上がってきた9月、洋楽も引き続きライヴイヴェントが目白押しで、いろいろ楽しみな秋になってきています。


さて今週の「新旧お宝アルバム!」は本来「新」のアルバムをご紹介するところですが、今週は今からいうと新旧中間くらいの時期、1990年代に活躍したいわゆるポスト・グランジとゆるーく総括されるオルタナティヴ・ロック・バンドの一つ、ベター・ザン・エズラがそのキャリアの頂点時期に発表したアルバム、『Friction, Baby』をお届けします。


Better Than Ezra_Friction Baby 


このコラムを読んで頂いている洋楽ファンの方の多くは70~80年代の、日本で洋楽がメインストリームの音楽ジャンルとしてTVやラジオで聴けた時代に洋楽に親しんだ方々ではないかと思います。私の周りにもそういう方が多いのですが、そうした方々の多くが一様に言われるのは「1990年以降はほとんど新しい洋楽のアーティストとかアルバムを聴いていない」ということ。

1980年代終わりから90年代初頭にかけては、アメリカのヒットチャートの上位が粗製濫造されたラップやヒップホップ作品、MTVの盛り上がりが徒となり楽曲の魅力よりも映像のキャッチーさでヒットになってしまう楽曲などで占められた時期であり、確かにそうした傾向が多くの洋楽ファンを新しい音楽から遠ざけてしまう要因となってしまったことは否めないと思います。


しかし、1990年初頭にはシアトルを起点にニルヴァーナパール・ジャムなどのバンドを中心としたグランジ・ロックと呼ばれる、ハードなロックと思索的で社会との隔絶感を歌詞に乗せた新しいロックのフォームがブレイク、R&B・ヒップホップでもマライアのデビュー、ベイビーフェイスに代表される優れたR&B楽曲を発表するアーティストたち、パブリック・エネミーDr.ドレ、ウータンクランア・トライブ・コールド・クエスト、デ・ラ・ソウルなどがメッセージ的にも楽曲的にも優れたヒップホップ作品を発表、1990年代半ばにはアメリカの音楽シーンが一気に豊潤な状態になっていったのです。


その90年代半ば、グランジの波が過ぎた後に、グランジのスタイルを受け継ぎながら、よりメインストリーム的なアピールのある音楽スタイルを持った「ポスト・グランジ」と呼ばれる数々のバンドが台頭、今日ご紹介するベター・ザン・エズラもそんなバンドの一つです。

ベター・ザン・エズラはルイジアナ州バトン・ルージュのLSU(ルイジアナ州立大)に在学していたケヴィン・グリフィン(vo., g.)、ジョエル・ランデル(g.)、トム・ドラモンド(b)、ケアリー・ボンケイズ(ds)の4人で1988年に結成。

その音楽スタイルはストレートなギター中心のロックサウンドですが、ニルヴァーナやパール・ジャムらのグランジ・バンドやR.E.M.等のオルタナ・ロック・バンドの先達達の影響を強く感じさせながら、聴いてすぐ耳に馴染んでくるポップな感覚を持ったメロディ・楽曲構成に特徴を持つバンドです。

Friction Baby (back) 


今日ご紹介の『Friction, Baby』は『Surprise』(1990)でデビュー直後、ギターのジョエルを自殺で失うという事件でしばらく沈黙の後リリースしたセカンド『Deluxe』(1995)とシングル「Good」(1995年最高位30位)のヒットで注目を浴びる中、彼らとしてはキャリア上昇期にリリースされた作品。

プロデューサーには、ジョン・クーガーフーティ&ザ・ブロウフィッシュといったアメリカン・メインストリームロックアーティスト達の大ヒット作を手がけたことで有名なドン・ゲーマンを迎え、グランジ的な肌合いを残しながら、極めてメインストリーム感満載の作りになっています。


音楽的にも文化的にも高い多様性を持つニュー・オーリンズをベースに活動するバンドらしく、このアルバムもメインはグランジ的なハード・ロック系の楽曲とシンプルなギター中心のオルタナティヴ・ロック系の楽曲が大半を占める中、そこここにブルース色の濃い楽曲(ブラック・クロウズあたりを思わせる「Still Life With Cooley」)やディキシーランド・ジャズっぽいアレンジと楽器演奏がグランジ・ギター的ストロークと共存している曲(「At Ch. Degaulle, Etc.」)などが織り交ぜられ、他のオルタナ・ロック・バンドの作品とはひと味違う作品になっています




例えば冒頭の「King Of New Orleans」や「Long Lost」「Scared Are You?」「Return Of The Post Moderns」などはは大音量のギターストロークがメインリフで、ファズや軽くディストーションがかかったアルペジオ・ギター・フレーズがバランスよく配されるなど、ニルヴァーナパール・ジャムといったグランジ・バンドや、ブッシュフーファイターズ初期を思わせる典型的なポスト・グランジ・タイプの曲ですし、「WWOZ」は、エレクトリック・ギターのシンプルな爪弾きリフと70年代ウェストコースト・ロック的なコーラスのサビが印象的な曲。「Happy Endings」はちょっとレトロでマイナー調のアコギのフレーズが全編を通じて清々しいバラード、そしてアルバム後半の「Speeding Up To Slow Down」は、同じ頃リリースされたR.E.M.の『New Adventures In Hi-Fi』あたりと共通するような雰囲気のオルタナ・ロック・ナンバーです。




そんな中で彼らのキャッチーなメロディとポスト・グランジ的ギターロックが独特な魅力を発揮しているのは、シングルカットされ、全米最高位48位のスマッシュ・ヒットとなった「Desperately Wanting」。90年代オルタナ・ロック然としたエレクトリック・ギターのイントロから始まりながら、サビに至ると魅力的なメロディとケヴィンのボーカルがバックの演奏と相まって思わず耳を引くこの曲、ラジオなどでかかったら「お、これ誰だ?」と思わず気になってしまうだろう、そんな魅力を持った曲です。


Desperately Wanting 

残念なことに、このアルバムの発表前に脱退したオリジナル・ドラマーのケアリーが、ロイヤリティの支払不平等を主張してバンドを訴えたり、このアルバムの次に発表した意欲作『How Does Your Garden Grow?』(1998)が商業的に不振で、これを最後にエレクトラ・レコードから契約を解除されたり、満を持して移籍した先のインディ・レーベルが倒産したりなどの不幸な状況が相次ぎ、2000年代に入ってからのバンドの活動はいくつかのインディ・レーベルを転々としながらの細々としたものにならざるを得ませんでした。

それでも2014年、ベックなどのプロデュースで知られるトニー・ホッファーをプロデューサーに迎えた5年ぶりの新作『All Together Now』が久しぶりに全米チャートにランクインするなど、現在もバンドはケヴィントムに、ドラムスのマイケル・ジェロームを加えた3人組として活動中のようです。


80年代後半の低迷期を乗り越えて多様な音楽スタイルの勃興で再び豊かな時代を迎えていた90年代アメリカ音楽シーンで、そのキャリアの最盛期を迎えていたベター・ザン・エズラというバンドのサウンド、今聴いても充分楽曲クオリティの高さは変わっていません。1990年以降の新しい洋楽アーティストを聴いていないというベテラン洋楽ファンの皆さんも、一度彼らの瑞々しくも若さと意欲にあふれたこの作品、聴いてみてはいかがでしょうか。

 <チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位64位(1996.8.31付)

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【新企画】新旧お宝アルバム!#55 「Tonight!」 The Four Tops (1981)

#55『Tonight!』The Four Tops (Casablanca, 1981)


いよいよ9月に入り、夏の暑さも少しずつ和らぐ一方、毎週のようにやってくる台風ですっきりしない天気が続く今日この頃、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。この秋もいろいろなフェスやアーティストのライヴが予定されていることもあり、皆さん洋楽ライフを楽しんでおられることと思います。


さて今週の「新旧お宝アルバム!」は「旧」のアルバムの順番ですが、今回は「旧」といっても比較的最近に近い80年代初頭に、60年代から70年代にかけてモータウンダンヒル・レーベルで次々に大ヒットを連発、不動の人気を誇っていた大御所ソウル・グループ、フォー・トップスが心機一転、カサブランカ・レコードに移籍して放ったアルバム、『Tonight!』をお届けします。


Four Tops Tonight 

フォー・トップスといえば、60年代のモータウン・レーベルの台頭を、シュープリームス、テンプテーションズ、ミラクルズといった中心グループ達と並んで支えた4人組。彼らのモータウン時代のヒット曲「Baby I Need Your Loving」(1964年最高位11位)、「I Can't Help Myself (Sugar Pie Honey Bunch)」(1965年1位)、「Reach Out I'll Be There」(1966年1位)、「Standing In The Shadows Of Love」(同6位)などはどれもその後様々なポップ、ロック、R&Bアーティストたちにカバーされたクラシックです。

70年代に入ってモータウンがデトロイトからLAに移った時、彼らはデトロイトに残ってABC/ダンヒル・レーベルと契約、後にタヴァレスの「愛のディスコテック(It Only Takes A Minute)」(1975年10位)などを手がける、70年代を代表する白人ソングライター・コンビ、デニス・ランバート&ブライアン・ポッターと組んで「Keeper Of The Castle」(1972年10位)、ミリオンセラーの「Ain't No Woman (Like The One I've Got)」(1973年4位)などの大ヒットを飛ばすなど人気を誇っていました。

何といっても彼らのすごいところは、1953年のグループ結成から1997年にメンバーの一人、ローレンス・ペイトンが他界するまでの間、太く男性的な歌声が特徴的なリード・ボーカルのリーヴァイ・スタッブスを中心に40年以上、一度もメンバー変更がなかったこと。正にソウル史上不動の地位を確保しているレジェンドなグループであることは間違いありません。



その彼らも70年代後半はヒット作品に恵まれず不遇の時期を過ごしていましたが、80年代に入ってカサブランカ・レーベルと契約してリリースした、言わばカムバック・アルバムがこの『Tonight!』。ホイットニー・ヒューストンの「I Believe In You & Me」(1996年4位)の作者としても知られ、70年代後半から様々なポップ・R&B作品に関わっていたデヴィッド・ウォルファートをプロデューサーに迎えて作り上げたこの作品から、A面冒頭の「When She Was My Girl」が全米11位まで昇る、彼らとしては久々の大ヒットとなって見事カムバックを果たしたのは、全米トップ40ファンをはじめとする当時の洋楽ファンであればご記憶のことと思います。


80年代というと、MTVが一世を風靡し、シンセサイザーを中心として打ち込み系のサウンドがポップ・R&Bシーンを席巻したデケイドでした。当時としてはそれが最先端のサウンドメイキングであり、時代が求めた音でもあったのですが、この時代のややもすると人工的なサウンドを多用しすぎた無機的なサウンドは、今聴き直すと残念ながら大変浅薄な作り物的なサウンドにきこえてしまい、最先端であったはずの音がとても古臭いものにきこえてしまうものが多いのは否めないところ。

しかしこのフォー・トップスのアルバムは、オーガニックな楽器演奏の温もりのある音と、シンセサイザーなどの80年代的なサウンドが、大変趣味よくバランスされており、今聴いてもほとんどの曲は「80年代的古臭さ」を感じることはありません。それどころか、やはり40年以上の結束を誇るフォー・トップス4人のコーラス、とりわけリーヴァイ・スタッブスの野性的で高音域ではシャウトする男臭いリード・ヴォーカルは、このアルバムの多くの楽曲に血と肉を授けて、楽曲の魅力を高めています。




そうやって聴いてみると、アルバム冒頭の軽快で洒脱な、トップスの名刺代わりのヒット「When She Was My Girl」で途中に出てくるピアニカ風の音色も、プロデューサーのデイヴィッドがサウンドの自然さを出すべく工夫したものに違いありません。往年の「Reach Out I'll Be There」などの路線を踏襲した、力強いコーラスがどんどんテンションを盛り上げていく「Don't Walk Away」、当時同じく華々しいカムバックを果たしていた、モーメンツ改めレイ・グッドマン&ブラウンのスタイルに張り合うかのような、ゴージャスで美しいコーラスが印象的な「Tonight I'm Gonna Love You All Over」など、冒頭からガンガンにトップス節で攻めてくるこのアルバムのA面は、聴く者をとても興奮させてくれる素晴らしい出来です

面白いのはA面ラストの「Who's Right Who's Wrong」はあのケニー・ロギンズMr.ミスターリチャード・ペイジの作品で、ケニーのアルバム『Keep The Fire』(1979)に収録されていた作品。極めてこの時代的な、シンセキラキラな音満載のAOR的アレンジの曲ですが、リーヴァイの野太いボーカルで聴くと不思議にトップス節に塗り替えられてしまうあたりが魅力。




アルバムのバックを固めるのは、これもこの時期そうだったように名うてのミュージシャン達。ドラムスのジェフ・ポーカロ(Toto)、ベースのネイサン・イースト、ピアノのグレッグ・マティソン、シンセのカシーフなどを中心としたバッキングの演奏は文句なしにタイトですが、逆に言えばこの時期にありがちなサウンドになりがちなので、B面のいくつかの曲では残念ながらこれが裏目に出てやや中だるみのような印象を与えてしまっています。しかしここでもリーヴァイの男臭いボーカルが全体を引き締める役割を果たしていて、スティーヴィー・ワンダーのカバーの「All I Do」あたりから再び盛り上がり、アール・クルージョージ・マーティンが作者に名を連ねるアルバム最後の「I'll Never Ever Leave Again」では一転しっとりとしたボーカルでフュージョンっぽくアルバムのエンディングを演出しています。


Four Tops Tonight (Back) 


このアルバムで見事カムバックを果たしたトップスでしたが、カサブランカの居心地がいまいちだったのか、この後もう1枚アルバムを出した後、10年ぶりにモータウンに復帰しています。

その後トップスは1990年にロックの殿堂入りし、ベテラングループとして精力的に活動していましたが、残念ながら1997年にローレンスが、2005年にはレナルド・ベンソンが、そして2008年にはトップスの顔であるリーヴァイが他界して、ついに創立メンバーはテナーのアブドゥル・フェイカーのみに。しかし、アブドゥルローレンスの息子のロクウェルなど新しいメンバーを加えて今でも「フォー・トップス」として活動しているとのこと


トップスの既に半世紀以上に及ぶそのレジェンドなキャリアに敬意を表して、彼らが80年代のシーン変革期に力強く放ったこの作品を聴きながら、改めて彼らのR&Bレジェンドとしての数々の偉業に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

 <チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位37位(1981.11.21付)

同全米ソウル・アルバム・チャート 最高位5位(1981.10.24-11.7付)

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