Life Is A Rock - 洋楽こそ我が人生
洋楽全般について、英米ヒット・チャートに登場有無に関係なく、お気に入りの洋楽作品についての独り言やコメントをつれづれに掲載します。「新旧お宝アルバム!」「恒例グラミー賞大予想」など定期コラムが中心です。洋楽 ファンサイト、meantime(www.meantime-jp.com)のスピンオフ企画としてお楽しみ下さい。
【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#70「This Girl's In Love (A Bacharach & David Songbook)」Rumer (2016)

 #70This Girl's In Love (A Bacharach & David Songbook)Rumer (EastWest / Warner Bros., 2016)


さていよいよ今年も押し詰まって最終週になりました。#26のドーズAll Your Favorite Bands』から始まった今年2016年の「新旧お宝アルバム!」もおかげさまで今回を含めて45枚のお宝アルバムをお届けすることができました。拙い文章におつきあい頂き心より感謝すると共に、この「新旧お宝アルバム!」が皆さんが新しい音、今までよく知らなかったアーティストの作品などに触れるきっかけに少しでもつながっていれば望外の喜びです。来週は年末でお休みさせて頂きますが、また1月第一週からまた引き続きお届けしますのでよろしくお願いします。


さて今週の「新旧お宝アルバム!」は年末のほっこりとした気分そのままに、2010年代のカレン・カーペンターとの評判を取る歌姫、ルーマーが直球ど真ん中であのバート・バカラックハル・デイヴィッドのソングライティングコンビの作品に取り組んだ作品『This Girl's In Love (A Bacharach & David Songbook)』をご紹介します。


ThisGirlsInLove (Vinyl)


パキスタン生まれのイギリス人女性シンガー、ルーマーことサラ・ジョイスといえば、最近のメインストリーム・ポピュラー・ミュージックを追いかけている音楽ファンの間では、既にその美しい歌声による卓越した歌唱で評判を呼んでいるアーティスト。その歌声のジェントルさと、声域がやや低めのコントラルト・ヴォイスであることから、レコードデビュー当時、同じようなタイプの歌声のカレン・カーペンターに比せられていました。最近の彼女の歌唱はデビュー当初に比べるとややソフトになってカレンとの類似性はやや薄れたものの、安定した情緒満点の歌声は、聴く者の気持ちを落ち着けてくれるそんな素晴らしさがあります。


イギリス人ながら、産業エンジニアの父親の仕事の関係でパキスタンで生まれて5歳まで育ったルーマーは両親の離婚で母親とイギリスに戻った後、ジュディ・ガーランド、アレサ・フランクリン、ジョニ・ミッチェル、トレイシー・チャップマンといった女性シンガー達の歌声に癒やされながら音楽に浸る少女時代を過ごしました。しかし、ルーマーが21歳の時母親が乳がんで余命幾ばくもない時に、実の父親がパキスタン駐在時に使っていたパキスタン人のコックであったという衝撃の事実を知らされ、パキスタンに父を探しに行くのですが、現地到着時にその直前に事故で既に父親が他界していたことを知ります。彼女の歌声が美しいだけでなく、どことなく陰りと寂しさを湛えているように聞こえるのはそうした波瀾万丈の人生を若くして経験したことが大きな影響を与えているように思えます。


自分同様少女時代をアジア(今のバングラデシュ)で過ごした近代女流作家、ルーマー・ゴッデンの名前を頂いたステージ・ネームで20代前半からロンドンを中心に音楽活動を始めたルーマーは2010年にリリースしたデビュー・アルバム『Seasons Of My Soul』が全英3位、全米でも46位に昇るヒットとなり、その関係でバート・バカラックに紹介されたルーマーは彼の自宅に招待されて歌ったのがきっかけで『Rumer Sings Bacharach At Christmas』(2010)をリリース、彼女とバカラックとのつながりはこの時から始まっています。その後トッド・ラングレンギルバート・オサリヴァンなど男性シンガーソングライター曲のカバー作『Boys Don't Cry』(2012)を発表、数々の名曲をルーマーの解釈で歌うというシンガーとしてのポジションを確保します。

その彼女をより広いオーディエンスに知らしめることになったのが前作の『Into Colour』(2014)。冒頭の「Dangerous」は彼女には珍しく今風ダンス・ポップ的な楽曲ながら、彼女らしさを存分に聴かせる佳曲で、これが当時日本でも多くFM等でプレイされたことから彼女の名前が静かに音楽ファンの間に知られていくことに。昨年2015年にリリースした、あのフィル・コリンズマリリン・マーティンの1985年の全米No.1ヒット「Separate Lives」を作者のスティーヴン・ビショップとデュエットするなど、魅力ある楽曲選曲と歌唱で、ディオンヌ・ワーウィックリンダ・ロンシュタットといったカバー曲に自分の存在感を吹き込むシンガーの後継者としての実力を発揮した『B Sides & Rarities』を経て、今回、全面的にアメリカン・ソングブックの巨匠コンビ、バート・バカラックハル・デイヴィッドの作品集をリリースしたのです。


This Girls in Love CD 

アナログ盤LPですと、緑いっぱいの庭にあるクラシックな感じの長いすに黒いハンサムな犬と物憂げに座るルーマーの姿がとても印象的なこのアルバム、オープニングは数々のバカラック作品のカバーシンガーたちが歌ってきた有名曲「The Look Of Love」で物憂げにゆっくりとスタート。ディオンヌ・ワーウィックが1972年のアルバム『Dionne』で歌っていた「Balance Of Nature」という、バカラック作品としてはあまり知られていない、それでもルーマーのチャーミングな側面を生き生きと聴かせてくれるミディアム・ナンバーに続いて、フィフス・ディメンション1970年の大ヒット曲(全米2位)の「One Less Bell To Answer」がオリジナルのアレンジにほぼ忠実な演奏に乗って歌われます。ルーマーのあくまでもソフトで感情を抑えめに表現する歌声がこのバラードの雰囲気によく合っています。



アコギのイントロからストリングスをバックにルーマーのコントラルト・ボーカルがこのアルバムの曲では一番カレンを感じさせるのが次の「Are You There (With Another Girl)」。これもディオンヌが1965年のブレイクアウト作『Here I Am』の中で歌った曲で、ブライアン・ウィルソンあたりが書きそうな感じの柔らかい楽曲ながら複雑なコード進行とリズム展開を含む楽曲をルーマーが軽々と歌っています。次の、同じくディオンヌが最初1964年に歌い、後にスタイリスティックスがカバーしてヒットさせた「You'll Never Get To Heaven (If You Break My Heart)」はあの名曲「サンホセへの道(Do You Know The Way To San Jose)」と同様にハル・デイヴィッドのポップソングらしくない歌詞が印象的な歌。

そしてアナログA面最後はバカラック・ナンバーの大定番「(They Long To Be) Close To You」。カレンとの類似性が盛んに言われてきたルーマーですが、ここではカーペンターズのバージョンからぐっとテンポを落として、ピアノとストリングスだけのバックで、どちらかというと1963年に初めて歌った俳優のリチャード・チェンバレンのバージョンに近いアレンジになっています。こうして聴くと、ルーマーの歌唱は楽曲のアレンジがシンプルで音数が抑えられた時にその存在感と表現力を増すように思えます。



アナログB面は、バカラック・ナンバーを多く取り上げたあのダスティ・スプリングフィールドの名盤『Dusty In Memphis』(1969)で歌われていたのが印象的な「(In The) Land Of Make Believe」でゆっくりスタート。そしてディオンヌの最初のバージョンもさることながら、故ルーサー・ヴァンドロスの名唱で知られる素晴らしいバラード曲「A House Is Not A Home」をルーマーが叙情性満点に、しかし抑えた表現力でゴージャスに歌っているのがこのアルバムでも一二を争う出来。

これもディオンヌの代表曲「Walk On By」とそれに比べるとやや知られていないディオンヌのオリジナルの「The Last One To Be Loved」に続いて演奏されるのは、バカラックハーブ・アルパートのために書いてハーブの初のNo.1ヒット (1968)となった「This Guy's In Love With You」の女性版「This Girl's In Love With You」。ここでは何とバカラック自らピアノを弾きながら冒頭部分で渋いボーカルを聴かせてくれるというバージョン。ここでもルーマーのボーカルは伸びやかで、こちらもオリジナルとほぼ同じようなアレンジのトラックをバックに暖かい歌を聴かせてくれます。

そしてアルバム最後は、おそらく最近の世界情勢や政治的状況に思いを馳せてのことでしょう、バカラックが1965年にジャッキー・デシャノンに提供してトップ10ヒット(最高位7位)になり、その後1971年にベトナム戦争で全米が揺れる中、LAのラジオDJトム・クレイが、キング牧師の演説やケネディキング牧師暗殺のサウンドビットをミックスし、ディオンの「Abraham, Martin & John」とのメドレーで再度全米8位のヒットになった「What The World Needs Now Is Love」。ホルンとストリングスを中心としたオーケストラをバックに荘厳な映画のサントラ盤のように始まるバックに乗って歌うルーマーの歌声はどこか深い哀悼の感じを湛えながら、歌のメッセージ通り、ポジティブなトーンを持ちつつアルバムのエンディングを演出しています




このアルバムのプロデュースとほとんどの曲でのピアノとベースは、現在のルーマーのご主人で、その昔バカラックのサウンド・プロデューサーだったロブ・シラクバリが担当し、バカラック・サウンドの意匠を確実に再現しながら、ルーマーの歌を引き立てるサウンドプロダクションに成功しています。タイトル曲でのバカラックの共演の他、ディーン・パークス(g.)といった達者なミュージシャンや、あちこちでふんだんにストリングスやホーンのミニオーケストラを使って完璧なバカラック・サウンドの再現を演出していますが、それを全体締めているのが、名匠アル・シュミットによる録音とエンジニアリング。


rumer-this-girl-lp-back.jpg


おそらくクラシックやジャズにチューニングされたオーディオセットで聴くと更にそのサウンドの重厚さが楽しめるであろうこの作品、皆さんのおうちのシステムでも、年末年始にぴったりな雰囲気が楽しめることと思います。どうか年末年始、このアルバムに耳を傾けながら、心豊かな時を過ごされますように、そして2017年が皆さんに取って、世界にとって、より良い希望に満ちた一年となりますように


<チャートデータ>

全英アルバムチャート 最高位28位(2016.12.8付)

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【BoonzzyMusic】新旧お宝アルバム!#69「Makings Of A Dream」Crackin' (1977)

 #69『Makings Of A Dream』Crackin' (Warner Bros., 1977)


さて2016年も後残り2週間を切って、今週はクリスマス・ウィークということであちこちで忘年会、イベント、クリスマス・パーティなど賑やかな週になりそうですが、食べ過ぎ呑みすぎで体調など崩さないよう、お互いに気を付けましょうね!


さて今週の「新旧お宝アルバム!」、旧のアルバムをご紹介する順番ですが、今回は70年代後半に数枚の都会的なR&B・ファンク・サウンドのクオリティの高いアルバムを出したものの、その後のAORブームに乗ることなく解散してしまった、知る人ぞ知るバンド、クラッキンのセカンド・アルバム『Makings Of A Dream』(1977)をご紹介します。


Makings Of A Dream 

クラッキンは、ネブラスカ州オマハ出身のレスター・エイブラムス(kbd., vo.)を中心とした白黒混合の7人組ユニット。レスター自身、両親共にネイティヴ・アメリカンや黒人と白人の混血だったこともあり、非常に多様な文化背景の少年時代を過ごしたレスターは地元のバンドでドラムを叩くように。

60年代後半には後にクラッキンの母体となるバンド、ザ・レス・スミス・ソウル・バンドを率いるレスリー・スミス(vo.)、リック・チュダコフ(b.)、アーノ・ルーカス(vo., perc.)らと合流、その後L.A.カーニヴァルというバンドを経て、70年代半ばに再合流、ピーター・ブネッタ(ds.)、ボブ・ボーディ(g.)、G.T.クリントン(organ, synth.)を加えた7人組のクラッキンをスタートさせました。


クラッキンのサウンドは冒頭にも書いたように、都会的なソフィスティケイトされたR&B・ファンク・サウンド。それに加え、ポップなメロディと達者なコーラス・ワーク、ソウルフルなボーカルで、80年代前後から大きな盛り上がりを見せるAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)の先駆けのような洒脱なサウンドを聴かせます。

このアルバムを聴いて、マイケル・マクドナルドを中心とした後期ドゥービー・ブラザーズを連想する人も多いと思いますが、実はレスタークラッキン解消後そのドゥービーと合流、1979年のグラミー賞レコード・オブ・ジ・イヤー/ソング・オブ・ジ・イヤーの両方を獲得した「What A Fool Believes」のアレンジ、同曲が含まれたアルバムのタイトル・ナンバー「Minute By Minute」をマイケルと共作するなど、この手のサウンドメイカーとしてしっかり活動を続けていたのです。

レスターがそうした成功を収める前のバンド、クラッキンランディ・ニューマンSail Away』(1972)、ライ・クーダーPardise & Lunch』(1974)、ジェイムス・テイラーGorilla』(1975)など数々の名盤を手がけた名プロデューサー、ラス・タイトルマンと組んで制作したのがこのセカンド・アルバム『Makings Of A Dream』です。メンバーをモノクロのトーンでとらえたスタイリッシュなアルバムジャケの写真は、ご存知あのノーマン・シーフによるもの。つまりこのアルバムではレーベルも完全に「売り」に行っていたのは間違いありません



アルバム冒頭のレスター作の「Feel Alright」から、タイトなベースとドラムにクラヴィネットとエレピがからみ、そこにレスリーの伸びやかなボーカルが乗って、澄み切った青空に飛び上がって行くような爽快でソウルフルなサウンドが展開、一気にクラッキンの世界に聴く者を引っ張り込んでくれます。リックレスリー作の「Take Me To The Bridge」はコーラス主体のボーカルがこの時代の作品としては新しかったであろう、ややムーディなミディアム・ナンバー。続くレスター作「Beautiful Day」はイントロからクラヴィネットが唸るミディアムなファンク・ナンバー。こちらもレスリー、レスター、アーノの3人がコーラス・ボーカルでクールなファンクネスを演出しています。そしてアルバムA面はレスターが自作自演でウォーキング・シャッフル・リズムの『Silk Degrees』の頃のボズ・スキャッグスあたりがやりそうなポップなR&Bナンバー「I Want To Sing It To You」で中入り。


アルバムB面はエレピ・クラヴィネットとリズム・セクションがフュージョンっぽいリズムを繰り出すレスターのナンバー「Well And Good」でスタート。アーノのボーカルが高めのトーンのメロディをソウルフルに歌います。

続く「Who You Want Me To Be」はリックアーノのペンによるややスロウないわゆる「AORっぽい」佳曲。冒頭の「Feel Alrigt」でもそうでしたが、レスリーの伸びやかなボーカルは黒人にしてはブルー・アイド・ソウル・シンガー的な発声とメロディ回しなのが新鮮でもありクラッキンのサウンドを都会的に聴かせている大きな要因のように思います。




A面と同様に3曲目はボブのワウ・ギターが活躍し、レスリー、レスター、アーノが交互にボーカルを取り、要所は素晴らしいコーラスで締めるというファンク・ナンバー「What Goes Around Comes Around」。同じくレスターアーノのツイン・ボーカルでカッティング・ギターとリックの跳ねるベースが気持ちのいい「You're Winning」の後、後にレスターが手がけるドゥービーの「Minute By Minute」を思わせるようなエレピのイントロで始まり、またもやレスター、レスリー、アーノのトリプル・ボーカルがゴージャスな「(There's A) Better Way」でアルバムは余韻を残して終了します。

この後クラッキンは、後にクリストファー・クロスを手がけてブレイクさせたプロデューサー、マイケル・オマーティアン・プロデュースによるアルバム『Crackin'』(1977)『Special Touch』(1978)の2枚をリリース、一部の評価は得るものの、商業的な成功にはつながらず、バンドは自然消滅の格好となります。


Crackin-crackin.jpg Special Touch 

しかしレスターがその後ドゥービーと合流したように、リックピーターの二人はその後プロデューサー・チームとして活躍。中でもロビー・デュプリーのデビューアルバムで全米トップ10ヒットの「Steal Away(ふたりだけの夜)」を含む『Robbie Dupree』(1980)、マシュー・ワイルダーの同じく全米トップ10ヒット「Break My Stride(想い出のステップ)」を含む『I Don't Speak The Language』(1983)、そしてR&Bレジェンド、スモーキー・ロビンソンの6年ぶりの全米トップ10ヒットとなった「Just To See Her」を含む『One Heartbeat』(1987)などなど、80年代を通じてAORシーンの重要なサウンドメイカーの一つとして活躍していたのです。

そしてもう一人のクラッキンの中心人物、レスリーも、80年代を通じてリッキー・リー・ジョーンズ、ロビー・デュプリー、ローレン・ウッド、ビル・ラバウンティ、ライオネル・リッチー、マイケル・ボルトンといったAOR/R&B系のメインストリームのアーティスト達の名盤にセッション・ボーカリストとして参加、他のメンバー同様、確実に80年代のAORシーンを支えていたのです。


このクラッキンというグループとこのアルバムは、その後時代の中に埋もれて忘れ去られていたのですが、90年代渋谷を中心に盛り上がったいわゆる「フリー・ソウル」ムーヴメントで次々にリリースされたオムニバス・アルバムに「Feel Alright」が取り上げられたをきっかけに再評価、昨年にはこのアルバムを含む3枚のアルバムがワーナー・ミュージックさんからSHM-CDでリイシューされるという盛り上がりぶり。

入手しやすくなったこのアルバム、この機会に手に取り、洗練されたクラッキン・サウンドを楽しんでみてはいかがでしょうか?


Free Soul River


 <チャートデータ> チャートインなし

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#68「ArtScience」Robert Glasper Experience (2016)

 #68ArtScienceRobert Glasper Experience (Blue Note, 2016)


12月に入ってもまだ終わらぬ2016年音楽シーンの物故者リスト。先週は何とキング・クリムゾンELP(エマーソン・レイク&パーマー)のボーカリスト・ベーシストで有名なあのグレッグ・レイクがガンで他界するという残念なニュースが飛び込んで来ました。心よりご冥福をお祈り申し上げます。ELPのうち二人が星になってしまった2016年、残りあと3週間ほどが楽しいニュースで埋め尽くされますように。


さて今週の「新旧お宝アルバム!」は、ここのところたびたび来日もしており(今月後半もブルーノート東京でのライブが予定されています)、精力的にツアーや作品リリースにと活発な活動を行っている、今のアメリカのブラック・ミュージックのある意味最重要人物の一人、ロバート・グラスパーの今年2枚目のリリースとなった新作『ArtScience』をご紹介します。


RGE ArtScience 


すでに熱心なR&Bファンや若いジャズファンの間では確実に高い評価を獲得しているロバート・グラスパー。本来はジャズ・ピアニストですが、ジャズの枠にとらわれず、R&B、ファンク、ヒップホップ、ポップ、ロックといったありとあらゆるメインストリーム大衆音楽の意匠を練り込んで「ロバート・グラスパー・ミュージック」とでも言うべきスタイルを確立しており、若いミュージシャン世代(ロバートはヒューストン出身の今年38歳です)を代表する重要なサウンドメイカーとしてその実力をここ数年いかんなく発揮しています。サックス担当でロバートのサウンドメイキング・パートナーともいうべきケイシー・ベンジャミン、ベースのデリック・ホッジアデル21』(2011) やマックスウェルの『BLACKsummers'night』(2009)への客演で知られるドラムスのクリス・デイヴのカルテットによる「ロバート・グラスパー・エクスペリメント」を率いて次々に意欲作をリリースするロバート、「いまのブラック・ミュージック」を端的に知りたいのであれば彼のレコードを聴くことを強くお勧めします。


その彼の実力が大きく評価されて一般のリスナーに知られることとなったのは2012年のアルバム『Black Radio』。エリカ・バドゥレイラ・ハサウェイ、ビラール、ミュージック・ソウルチャイルドらのネオ・ソウル・シンガー達やルーペ・フィアスコらヒップホップ陣をボーカルに配した様々な黒人音楽のハイブリッド的なサウンドと、デヴィッド・ボウイニルヴァーナ(「Smells Like Teen Spirit」)らのロック楽曲の新鮮なアプローチでのカバーで、その年のグラミー賞最優秀R&Bアルバムを受賞。ドラマーをマーク・コレンバーグに入れ替えリリースした『Black Radio 2』(2013)も同様のスタイル。アルバム部門の受賞は逃したものの、レイラ・ハサウェイマルコム・ジャマール・ウォーナー(80年代のTV人気シリーズ「The Cosby Show」のビル・コズビーの長男シオ役で有名)をフィーチャーしたトラック「Jesus Childern Of America」で見事最優秀トラディショナルR&Bパフォーマンス部門を受賞するなど、この2作でロバート・グラスパーのシーンにおける認知度と評価は急上昇した感があります。


RGE.jpg


ロバートの才能とその精力的な活動ぶりは、ニルヴァーナのカバーに象徴されるように、ジャンルにこだわらないところにその独自性があります。

Black Radio」2作リリース後、ロバート全く異なるメンバーでアコースティック・ジャズ・トリオを構成メイシー・グレイビラール、ミュージック・ソウルチャイルドらをボーカルに配し、自作のナンバーに加えレディオヘッド、ジョニ・ミッチェル、新進ソウル・シンガーのジェネ・アイコらのナンバーをアコースティック・ジャズで演奏する『Covers』(2015)をリリース。このトリオで2015年のブルーノート・ジャズ・フェスティヴァルで来日した時のパフォーマンスを観ていますが、ウータン・クランのTシャツを着て登場した(笑)ロバートのピアノを中心とした素晴らしい演奏はメインのパット・メセニーやジェフ・ベック以上に印象的なものでした

その後2015年のヒップホップ代表作であったケンドリック・ラマーの『To Pimp A Butterfly』へのゲスト参加、ドン・チードル主演のマイルス・デイヴィスの伝記映画『Miles Ahead』(2015)サントラ盤監修と全面参加、そして今年後半にドロップされたコモンの最新作『Black America Again』(2016)への全面参加などその活動範囲とシーンへのインパクトたるや瞠目すべきものがあります

またロバート自身、今年の5月にはマイルス・デイヴィスの代表曲をロバートのセンスでリミックスしたアルバム『Everything's Beautiful』を発表、スティーヴィー・ワンダー、エリカ・バドゥ、ハイエイタス・カイヨーテ、ビラールらのR&Bアーティストやジャズ・ギタリストのジョン・スコフィールドをフィーチャーした、マイルスの原曲の数々を大胆に換骨奪胎した作品でシーンを驚かせたばかり。

RG Everythings Beautiful


そんな中リリースされた本作『ArtScience』。ロバート・グラスパー・エクスペリメント(以下RGE)のカルテットとして発表されたこのアルバム、「Black Radio」路線に立ち戻ったかのように見えるのですが、今回大きく「Black Radio」シリーズと異なることが二つあります。

一つには今回のアルバムでは、これまでの彼の作品のウリの大きな部分でもあった客演ボーカリストが一切フィーチャーされていないこと。ボーカルはすべてロバート及びバンドメンバーの4人が担当して、決してボーカル技術的に卓越しているわけではないものの、相変わらず様々な音楽要素がミックスされたサウンドとも相まって、独特の素晴らしいグルーヴを生み出してます。

もう一つは上記とも関連するのですが、今回は収録楽曲のうち2曲のカバーを除く10曲中9曲がロバートとバンドメンバーの共作になっていること。これまでは客演ボーカルが多彩だったことによって必然的に楽曲はほとんどがロバートと客演アーティストの共作、というパターンだったのですが、このバンドとの共作が今回有機的バンドサウンドの出来上がりに大きな貢献をしているように思えます

これはある意味今後RGEが独立かつ一体となったユニットとして、よりライヴ活動を展開しやすい形での活動を目指していく、という所信表明のようにも受け取ることができる気がします。実はこれに思い当たるまで今月のブルーノートのライヴに行くのを迷っていたのですが、俄然行かなきゃ!と思った次第。



アルバムは、フリージャズ的なRGEの演奏で始まり、途中「いろいろなスタイルの演奏をトライしてみるので観ていてくれ」というラジオMC的なアナウンスからヒップホップ的なサウンドビーツで彩られ、早くもアルバム全体の音楽的多様性を予感させる「This Is Not Fear」で始まり、同名タイトルのフランク・オーシャンの楽曲を思わせるドリーミーなアトモスフェリックR&B的サウンドにロバートのボーカルが乗る「Thinkin' About You」。

80年代ダンスR&Bナンバーと70年代後半のフュージョン・サウンドが合体したようなタイトなリズムと心地よいベースラインの「Day To Day」、メンバーの楽しそうなダイアログを挟んで、ウェザー・リポートの全盛期を思わせるようなシンセの基本リフとハイハットの刻みのリズムに乗ったボコーダーのボーカルを中心に、80年代以降のコンテンポラリー・ジャズ・ロック的な9分超に及ぶハイテンションなナンバー「No One Like You」。

一転してまたオッド・フューチャー的な現代的スロウジャム「You And Me」、そしてロバートの素晴らしいフェンダー・ローズの音色とボコーダー・ボーカルがドリーミーなカタルシスでゴージャスなジャズ・ナンバーとなっている、ハービー・ハンコックのカバー「Tell Me A Bedtime Story」と、ここまでアナログ盤だと最初のAB面に収録の6曲で、このアルバムがこれまで以上に意欲作であるのが如実にわかる楽曲のクオリティの高さです。





後半はリズム・マシーンの鼓動とシンセの刻むリズムにロバートのエレピが早いテンポで絡む、EDMジャズとでも言うべき「Find You」でスタート。後半スロウな生ピアノの演奏になってフェードアウト後に聞こえてくる、ロバートの息子のライリー君の「警察がもっとより良くなるように努力しよう、本当の意味で我々を助けてくれる警察になるように。銃撃はなしだよ。もし次そんなニュースが耳に入ったら、僕はすごく怒るよ」というモノローグがはっと胸を打ちます。

アコースティックなジャズ・ナンバー「In My Mind」でほっとした後、ケイシーのボコーダー・ボーカルの乗ったちょっとEDM入ったスティーリー・ダン、といった風情のポップ・ナンバー「Hurry Slowly」、ポリスか!と思わずつぶやきたくなるレゲエのギター・リズムが印象的な「Written In Stone」、そして全盛時のEW&Fのバラード風ですが、わざとバックのシンセの音程にゆらぎを出しているのが独特の雰囲気を醸し出す「Let's Fall In Love」と後半もバラエティ満点の楽曲構成。

しかしアルバム最後であっと思わせるのは何とあのヒューマン・リーグの大ヒット曲「Human」のカバー。この曲もフランク・オーシャンを思わせるオッド・フューチャー的なアレンジと楽器使いとボコーダー・ボーカルで独特のグルーヴを作り出しています。よく考えるとこの曲、あのジャム&ルイスの曲ですから本来R&Bとして考えて然るべきナンバーですよね。


RGE ArtScience back 


冒頭でも書きましたが、「いまのブラック・ミュージック」を体験したければ、ロバート・グラスパーのレコード、特に改めてオリジナルのRGEメンバーでタイトに作り込まれ、これからのRGEの方向性を示唆するかのようなこのアルバムをぜひ聴いてみて下さい。

そのサウンドの新鮮さ、多様さ、ポップセンス、そして驚くようなサウンドスケープの展開にきっと満足して頂ける、そんな素晴らしい作品ですので。


<チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位129位(2016.10.8付)

同全米R&B/ヒップホップ・アルバム・チャート 最高位5位(2016.10.8付)

同全米ジャズ・アルバム・チャート 最高位1位(2016.10.8付)

同全米コンテンポラリー・ジャズ・アルバム・チャート 最高位1位(2016.10.8~15付)

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【完結編】2016年ビルボードHot 100 年間チャート大予想(#3〜#1)

さて年間チャートの予想発表、いよいよトップ3です。


#3. Love Yourself ▲2 - Justin Bieber (#1 for 2 weeks - 2/13 & 27)

<Hot 100 - 41 wks, Top 40 - 38 wks, Top 10 - 24 wks>


JustinBieberLoveYourself.png 

4位に続いて年間3位のワン・ツー・パンチで今年の強さをいかんなく見せつけているジャスティン・ビーバーの「Love Yourself」。No. 1アルバム『Purpose』から、「Where Are U Now」「What Do You Mean?」「Sorry」に続く4曲目のヒットでアルバムから何と3曲目のNo.1ヒットという強さ。2月に間に1位初登場のゼインPillowtalk」を挟んで飛び石で2週1位を記録、UKでは昨年12月から1月にかけて通算6週間1位の大ヒットでした。

Sorry」と違って音数をぐっと抑えてギターのつまびきだけで頭から最後まで通し、なかなか魅力的なメロディが素晴らしいこの曲、あのエド・シーランとの共作。ナルシスティックな女の子を皮肉っぽく歌う歌詞と、この曲についてはEDMっぽいアレンジを敢えて避けたことがこの大ヒットの要因でしょう。エド・シーランのメロディはこういう抑えたアレンジで光るからね。




で、この流れに乗って今年ジャスティンは自分のレコードだけでなく、メジャー・レザーの「Cold Water」(8月最高位2位)、DJスネイクの「Let Me Love You」(10~11月最高位4位)と他のアーティストの客演でも大ヒットにからんだジャスティン、2016年カムバック賞の資格充分だと思うのですがどうでしょうか?


#2. Work ▲3 - Rihanna Featuring Drake (#1 for 9 weeks - 3/5~4/30)

<Hot 100 - 36 wks, Top 40 - 33 wks, Top 10 - 18 wks>


Rihanna Work 

年間2位に予想したのは、今年の第一四半期を席巻したリアーナ+ドレイクの「Work」。2/13に9位にいきなり初登場、その後7位→4位→1位とあっという間に1位をマークそのまま9週突っ走った横綱相撲的なチャートアクションが圧倒的でした。「♫Work work work work work♫」というフレーズが耳にこびりついた人は多かったようで、かのオバマ大統領もホワイトハウスのイベントでこの歌を口ずさんだ、というのでニュースになってましたな。




あとこの曲では中盤から軽ーい感じでレイドバックなフロウで絡んでくるドレイクが良い感じの味を加えていたのも楽曲の魅力を加えてたかも。でもシンプルなメロディ、そして音数少なめの打ち込みだけで構成されたシンプルなトラックでこんだけ大ヒットしたわけですから、アーティストパワーのなせる技といったところでしょうか。アルバム『ANTI』よりの第一弾シングルで、UKでは2月から3月にかけて2週間最高位2位でした。


さあ、いよいよ1位は?当然あの曲ですわ。


#1. One Dance ▲4 - Drake Featuring WizKid & Kylo (#1 for 10 weeks - 5/21 & 6/4-7/30)

<Hot 100 - 32* wks, Top 40 - 32* wks, Top 10 - 20 wks>


DrakeOneDance.png


年間1位の予想は、多分大方の人も予想してたとおり、ドレイクの「One Dance」。4/23に21位初登場、その後13位→3位→2位→1位とこちらもリアーナの「Work」に劣らず横綱相撲ぶり。1位1週取った後、こちらも1位初登場のジャスティン・ティンバレイクを1週はさんで、再び1位、そのまま通算10週1位をキープした今年を代表するヒットになりました。UKでは更にでかいヒットを記録、4月~7月にかけて何と15週間1位という、1994年のウェット・ウェット・ウェットの「Love Is All Around」(同じく15週1位)以来の記録的ヒットになってるからまあすごい。




アルバム『Views』も、メジャーデビュー以来『Thank Me Later』(2010)、『Take Care』(2011)、『Nothing Was The Same』(2013)、『If You're Reading This It's Too Late』(2015)、トラップ・ラッパーのフューチャーとのコラボアルバム『What A Time To Be Alive』(2015)に続いて連続6枚目の全米No.1アルバム。しかも発売初週の売上が104万AEU(実数売上は85.2万ユニット)という今年のアルバム売り上げでは、1位5週目(1/9付)で119万AEU(実売116万ユニット)を記録したアデルの『25』に次ぐ売上を記録。アルバムチャートトップに通算13週居座るという大ヒットアルバムでした(10週以上のアルバムチャート1位は、去年のテイラー・スイフト1989』の11週以来)。

このアルバム全体が、前作の『If You're Reading This...』あたりからの傾向でもある、かなり音数を絞り込んで、シンプルな打ち込みトラックとドレイクの独特のグルーヴを持ったフロウとで勝負してそれがかなり良い結果を生んでるのですが、この「One Dance」などその最たるもの。古くからの洋楽ファンだとなかなか馴染めない類いの音かもしれないけども、今の音楽シーンの一つの完成形のサウンドであることは間違いないところ。今週発表のグラミー賞ノミネーションでもかなりの部門に顔を出してくることが予想されるね。


ということで年間チャート予想、いかがだったでしょうか。2016年の全米ヒットチャートの全体的な所感としては、

ポップ・ミュージックの新しい形を示唆するようなサウンドがいくつか見られたことトウェンティ・ワン・パイロッツのブレイクはその一つの例でしょう)

※相変わらずEDM系は強いけどもこれまでに比べて相対的な楽曲のレベルはかなり上がってきたのではないかということ

※一方で結構安易なコラボや中身どうでもいいアーティスト(例えばパンダとかw)は相変わらずヒットチャートを賑わしていたこと

といった感じではないかと。


思えば、自分がビルボードHot 100のチャートを毎週毎週データベースに入力するようになったのが2000年頃。70~80年代の高校生大学生の時代にケイシー湯川さん全米トップ40を聴きながら毎週ノートにチャートを付けていたのとやってることは似ているけども、あの頃の毎週ドキドキしながらノートを書いていたとのは明らかに自分に取ってのインパクトは違う。でも、毎週Hot 100を入力していることによって、その時その時のヒット曲のヒットの趨勢というか、動きというか、そういうものが肌で感じられると言う部分は共通している

そういう意味でいうと、昔に比べて今はより客観的にヒット曲の動向を観察できるようになった、と言う点はあるかもしれない。


Bruno Mars 24K magic


そんな中で、何となく今年のチャート、ヒット曲の出方を見ながら感じたのが上にまとめた3つのポイント。正直言って、去年から今年にかけてのヒット曲の出方って、2000年代後半以降の中でもいつになくすごく健全だと思うアデルドレイクジャスティン・ビーバーブルーノ・マーズエド・シーランといったところが繰り出してくるちゃんとした良い曲、時代の脈を伝えてくれるクオリティ高い楽曲がちゃんと上位に上がってヒットしていて、チャートが健全に機能している、という感じが最近ひしひしとするのだ。

こういう状況って、80年代後半~90年代前半にかけてヒットチャートが死ぬほどつまらなくなっていたところから(その時期真剣に洋楽から離れていた時期もあった)90年代中盤以降、まるで冬を越した木々の芽や花が咲き誇るように、ロック、アメリカーナ、オルタナティヴ・ロック、ヒップホップなど様々な音楽ジャンルの充実が進んだあの頃の状況にすごく似ていると思う

そういう意味で、来年のヒット曲動向、チャートの動向が大変楽しみになってきた。引き続きこのブログでは昔懐かしい音楽もカバーしていきますが、大衆音楽なんてその時その時の時代を映し出す生き物なので「今」の音楽もそれ以上にカバーしていきたいと思います。よろしく。

【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#67「There's No Place Like America Today」Curtis Mayfield (1975)

#67『There's No Place Like America Today』Curtis Mayfield (Curtom, 1975)


いよいよ2016年も12月に突入。洋楽ファンにとっては年間ランキングの発表やグラミー賞ノミネーションの発表などイベント続きで、いろいろと盛り沢山な日々でしょう。またこの月はクリスマス商戦を見込んでか、いろいろ魅力的な企画盤やボックスセット、また思わぬアーティストの新譜がリリースされる時期。前者の例ではボブ・ディランの1966年の「リアル」ロイヤル・アルバート・ホールのライヴやローリング・ストーンズのブルース・カバー・アルバム、後者の例ではブルーノ・マーズの新譜などがそう。いずれにしても今年も12月は洋楽ファンには楽しくも忙しい月になりそうですね。


さて今週の「新旧お宝アルバム!」は、先日のアメリカ大統領選でトランプが当選して以来、何かと不穏なニュースが絶えない状況を思いながら、約40年ほど前にこれによく似た不穏な状況に対するメッセージとも思える内容でリリースされた、ソウル界のレジェンドの一人、カーティス・メイフィールドのアルバム『There's No Place Like America Today』(1975)をご紹介します。


Theres-No-Place.png 


カーティス・メイフィールドという人は、日本では洋楽ファンの間でもかなりのソウルR&Bファン以外には今ひとつ馴染みきれないタイプのアーティストかもしれません。彼は一般的には1972年のブラック・シネマの傑作の一つ『Superfly』の主題歌(全米最高位8位)や、同じ映画からのヒット曲「Freddie's Dead」(同4位)で知られていますが、60年代に所属していたソウル・グループ、インプレッションズで活躍していた時代から、その独特の都会性とアーシーさを兼ね備えたサウンドメイキングと、「People Get Ready」(ジェフ・ベックロッド・スチュアートのカバーが有名)や「We're A Winner」など黒人公民権運動を支持する内容のソングライティングで、シーンでは独自の地位を築いてきたシンガーソングライターです。

また彼の歌唱スタイルは主としてファルセットに近い高く細いボーカルによる、メロディ重視というよりもグルーヴ重視のスタイルのものが多く、このあたりがどちらかというとメロディアスでキャッチーなサウンドを好むファンの皆さんの間では今ひとつ支持を得られていない理由の大きなところ。


その彼がちょうど10年にわたってアメリカの経済と人心を揺り動かしたベトナム戦争がようやく終結した1975年にリリースしたこの作品、タイトルからして「今のアメリカほど素晴らしいところはない」と皮肉たっぷりです。アルバムジャケットも、上半分には白人家族が楽しそうに車に乗っているイラストにかぶせるように下半分には食料配給を受け取るための黒人たちの列の写真が配されており、人種貧富間格差は厳然としてあるのだ、という痛烈なメッセージを表しているものです。


Curtis Mayfield


全7曲、すべてカーティスのペンによる楽曲で構成されたこのアルバム、サウンド的には淡々としたほぼ平板なメロディの楽曲が多く、演奏は70年代前半多用されたワウのかかったギターストロークをゆったりとしたグルーヴの、しかししっかりとしたリズムセクションが支えるところに、どちらかというと中音以下の低めのフレーズやオブリガードを奏でるエレピがからみ、そこにカーティスのファルセットっぽいボーカルが切々とメッセージを訴える、と言うスタイルがほとんど。従って明るいホーンセクションもフィーチャーし愛の素晴らしさをストレートに歌った「So In Love」以外はマイナー調の曲で占められ、全体的には何となく黄昏れたイメージが色濃く出ているアルバムなのですが、カーティスのファルセット・ボーカルはこうした一見単調にきこえる楽曲に不思議にポジティブなテンションと輝きを与えています



楽曲のアレンジ以上に重要なのは歌詞。いきなり通りで撃たれた友人の話でガンコントロールの問題点をえぐる「Billy Jack」、季節が変わるごとに苦しみがまた始まる、と歌う「When Seasons Change」で黒人社会の現実を取り巻く無力感を歌う楽曲に続いて歌われるのは、カーティスの曲の中でも最もポジティヴで明るく、喜びに満ちたトーンで愛の素晴らしさを歌う「So In Love」。一方、ゴスペルバラード風のトラックに乗って、救いを求めるには自分の内なる神に話しかけよ、というカーティスの冒頭のつぶやきに対して、今の世界は自分たちを奴隷のように扱う世界だし、子供達が飢えるのを見るくらいであれば墓に入った方がいい、といったネガティブなカウンターメッセージを突きつける「Jesus」、悩みの尽きない人々のことを歌う「Blue Monday People」、この街では愛など見当たらないと歌う「Hard Times」などやはりアルバムのほとんどはヘヴィな現実を淡々と歌う歌で占められています。



この「Hard Times」は、後にジョン・レジェンドザ・ルーツが、オバマ大統領就任を祝福するコラボ・アルバム『Wake Up!』(2010)発表の際、その冒頭でカバーされていた曲。もちろんこの時はオリジナルのカーティスの曲が歌われた頃とは状況はかなり変わっていたはずですが、根本のところは依然として変わっていない、と言うためのカバーだったのでしょう。


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最後の「Love To The People」も、失業や不景気なニュース、食卓には豆料理しか上がらないような厳しい状況を淡々と歌いながらも、自分はあきらめない、救いはないと皆は言うけど人々に愛を与えれば魂は救われるはず、と若干の希望を表明しながらアルバムは終わります。


トランプの大統領選当選以来、全米各地で伝えられる有色人種や移民系市民に対する差別的な言動や行動がこうした人々の不安をかき立てており、このアルバムから40年経った今でも問題の本質は決して消えてはいないことが改めて明らかになっています。そうした今の状況を思うにつけ、今以上に厳しい状況に直面していたこの時代にこうしたアルバムをリリースしていたカーティスの気持ちに思いを馳せて、改めてこうした差別的な状況について考えるのが、カーティスのメッセージへの正しい反応ではないかと思えます


Theres No Place (back)


近年若い音楽ファン達の一部に「音楽に政治を持ち込むのは反対」といった意見があるようで、今年夏の野外フェスでの演奏の際、政治的なコメントをしたりメッセージを歌に乗せることへの反発がネット上やSMSで多く飛び交ったようです。しかしこれはおかしなことではないでしょうか。音楽に限らず、演劇や文学など芸術的表現活動というのは、その時代時代の政治的・社会的な問題意識と無縁であったことは歴史的に一度もなく、むしろそうした政治的・社会的な問題に対する風刺や批判を、芸術的な形で表現することが存在意義(レゾン・デタール)であったはずです。

カーティスに代表されるR&Bも、サム・クックの「A Change Is Gonna Come」(キング牧師らの黒人公民権運動のアンセム的有名曲)やスティーヴィー・ワンダーの「You Haven't Done Nothing」(ウォーターゲイト事件で失脚した当時のニクソン大統領を痛烈に批判)を引き合いに出すまでもなくこうした批判精神がその根本ですし、ロックにしてもウッドストック・フェスティヴァルボブ・ディラン、日本の忌野清志郎らの一連の作品に明らかなように、本来反体制的な価値観の新しい音楽表現スタイルであり、その時代時代の社会批判・政治的立場表明のための表現手段であったはずです

上記の政治嫌いの音楽ファンの皆さんにはどうかそのあたりをもう一度思い出して頂き、このカーティスのアルバムの心に重い、しかし重要なメッセージを乗せた素晴らしいR&Bサウンドを耳を傾けて頂きたいものです。


 <チャートデータ>

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位120位(1975.7.19付)

同全米ソウル・アルバム・チャート 最高位13位(1975.7.19付)

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

2016年ビルボードHot 100 年間チャート大予想(#10〜#4)

この間のこの年間チャート予想のブログで、この間の水曜日にホンチャンの年間チャート発表、と書いてしまいましたが、その後調べたところ実際の発表は明日からの週の水曜日発表のようです。失礼しました。

ということで2016年Hot 100 年間チャート予想、トップ10突入です。4位まで一気に発表


#10: Hello ▲6 - Adele (#1 for 7 wks* of Total 10 wks - 11/14/2015-1/16/2016) 
<Hot 100 - 23 wks*, Top 40 - 23 wks*, Top 10 - 15 wks*>


去年のこの時期にいきなり1位に初登場してそのまま10週間つっぱしったアルバム『25』からのファースト・シングル。アルバムも発売初週で348万AEU(Album Equivalent Point = 実売上ユニット数にストリーミングやYouTubeなどの再生数をアルバムユニットに換算して加えたもの)を余裕で達成してAEUが集計に採用された2014/12/13付チャート以降では最大のAEU、そして実売上338万枚は1991年にニールセンが実売ユニット数をトラックし始めてから最大の週間売上枚数の記録を樹立するというすごい勢い(それまでの記録は2000年3月にインシンクが記録した『No Strings Attached』の241万枚)。確かに去年の今頃は「世界が待ってたアデルの新譜が出た~」った感じでしたね。このシングルも最初の1位3週分をカットされてもなお堂々のトップ10入りでした。


#9: Don't Let Me Down ▲2 - The Chainsmokers Featuring Daya (#3 - 7/16-23)
<Hot 100 - 38 wks, Top 40 - 34 wks, Top 10 - 23 wks>


何といっても今年の出世頭といえば、このチェインスモーカーズの2人(NY出身のアンドリュー・タガートアレックス・ポール)でしょう。昨年「#SELFIE」(最高位16位)で出てきた時は、色物系のEDMユニットだとばかり思っていたのですが、その後「Roses」(最高位6位)で大ブレイクしてからはこの「Don't Let Me Down」そして次の「Closer」では一気に1位をゲットして2016年を代表する曲の一つにしてしまうという急上昇ぶりにはビックリ。良くも悪くも今のポップ・シーンを象徴するような「EDM + ポップ + ちょいヒップホップ + ダンサブル」というフォーミュラで見事に当てたこの二人、2017年も引き続き勢いを維持しそう。この曲にはピッツバーグ出身の女性ボーカルのデイヤ嬢をフィーチャーし、ちょっとカルヴィン・スミス+リアーナ風に迫ったのもヒットの要因かも。アルバム『Collage』より。


#8: Closer ▲2 - The Chainsmokers Featuring Halsey (#1 for 12 wks - 9/3-11/19)
<Hot 100 / Top 40 / Top 10 - 15 wks>


そしてそのチェインスモーカーズの二人が、こちらも新進シンガーのホールジー嬢をフィーチャーしたこの曲で今年後半のHot 100の首位を独占してしまったのは記憶に新しいところ。この曲ではフィーチャーされたホールジー嬢だけでなく、チェインスモーカーズの2人のボーカルもメインにフィーチャーされたのが、少しこれまでとは趣向が変わったのも当たった要因の一つかも。もちろんそれまでにヒットを重ねてモメンタムが積み上がっていて「それチェインスモーカーズの新曲だ!」とラジオやリスナーが飛びついた、というのも当然大きかったと思う。でもこれだけ売れても多分この二人のグラミー・ノミネートはダンス部門のみなんだろうなあ。


#7: Cheap Thrills ▲2 - Sia Featuring Sean Paul (#1 for 4 weeks - 8/6-27)
<Hot 100 - 39 wks, Top 40 - 28 wks, Top 10 - 18 wks>




その「Closer」に1位から引きずり下ろされたのが、シーアショーン・ポールという意表をつくコラボでソロ名義のブレイクヒット「Chandelier」(2014年最高位8位)以来のトップ10で彼女初のナンバーワンとなったこの曲。確かにラガトン風のリズムマシーンのビートが全編ベースになっているこの曲、いつものキャッチーな今風ポップのシーア節なんですが、イントロや随所にあの懐かしいショーン・ポールのトースティングがいいアクセントで入ってるのがやっぱこのヒットにつながった最大の要因なんでしょうねえ。ショーン・ポールにとっては2003年の「Get Busy」(3週1位)、ビヨンセにフィーチャーされた「Baby Boy」(9週1位)、2006年「Temperature」(1週1位)に続く通算4曲目の1位に。アルバム『This Is Acting』より。


#6. Stressed Out ▲4 - twenty one pilots (#2 - 2/27)
<Hot 100 - 44 wks, Top 40 - 41 wks, Top 10 - 14 wks>



そしてチェインスモーカーズと並んで今年大きくブレイクしたトウェンティ・ワン・パイロッツの最大のヒットにしてすべてのブレイクのはじまりがこの「Stressed Out」。ちょっとラップ風の導入部から一気にキャッチーなサビにつなげてしまうあたりのソングライティングセンスはかなりやはり高いものだなあと思うし、この楽曲あってこそのブレイクだったと言っていいんだろう。だからHot 100に1回登場しては1週で落ち、2回目の登場も1週で落ち、そして3回目の登場後通算21週目にして最高位の2位を記録、トータルHot100滞在週44週と、この集計期間中では最長のチャートインをしているスリーバー・ヒットにつながったんだと思う。アルバム『Blurryface』より。


#5. Panda ▲3 - Desiigner (#1 for 2 weeks - 5/7-14)
<Hot 100 - 38 wks, Top 40 - 32 wks, Top 10 - 17 wks>


あー出たよ、パンダ~(笑)
。ブルックリン出身今年まだ19歳の新人ラッパー、デザイイナー(としか読めないわな)ことシドニー・ロイエル・セルビー3世くんがカニエに見いだされてデビューしたら、いきなりそのハイプも後押しになったかいきなりナンバーワンヒットになったという今年ピコ太郎に次ぐ最大の色物ヒット。あと、スタイルとしては所謂最近はやりのトラップ・ラップってやつなのでそれもヒットの要因だったのかも。それでも年間5位とはねえ。
しかし何でパンダなんだよ(笑)。何でもデザイイナーくん、BMWのX6モデルがお気に入りでその顔がパンダっぽいから、というしょーもない理由で書いた曲らしい。多分この後二度と聴かないだろう、僕は。ちなみにヒップホップヘッドの息子もこの曲は「しょうがねえ」と苦笑いしていたな。アルバム『New English』より。


#4. Sorry ▲5 - Justin Bieber (#1 for 3 wks - 1/23-2/6)
<Hot 100 - 39* wks, Top 40 - 34* wks, Top 10 - 18* wks>


今年のカムバック賞をあげたいのはこのジャスティン・ビーバー。一時期はせっかく4週連続シングルリリース、なんていう昔の原田真二もびっくり(古い!)な企画やったのに出すシングル出すシングルことごとくヒットせず、なんてこともあってボロボロ状態だったのに、今回のアルバム『Purpose』ではスクリレックスとかブラッドことマイケル・タッカーとかいった今の第一線のEDMやEDM寄りR&Bのプロデューサーたちをうまく起用したのがはまったのか、アルバムは3年ぶりの全米No.1、収録の13曲全曲が2015/12/5付のチャートにチャートインするという快挙達成
その中でもこの「Sorry」は先行シングルのスクリレックスとのコラボ曲「Where Are U Now」(2015年7月最高位8位)、昨年大ヒットの「What Do You Mean」(同9月1週1位)に続くヒットで、このアルバムの典型的なEDMポップヒット。ジャスティンはもう一曲あるけど、さあそれはトップ3のどこに入っているか、乞うご期待ということで。


続きの完結編トップ3は明日アップします。お楽しみに。


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