Life Is A Rock - 洋楽こそ我が人生
洋楽全般について、英米ヒット・チャートに登場有無に関係なく、お気に入りの洋楽作品についての独り言やコメントをつれづれに掲載します。「新旧お宝アルバム!」「恒例グラミー賞大予想」など定期コラムが中心です。洋楽 ファンサイト、meantime(www.meantime-jp.com)のスピンオフ企画としてお楽しみ下さい。
【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#83「Whatever And Ever Amen」Ben Folds Five (1997)

#83『Whatever And Ever Amen』Ben Folds Five (550 Music / Epic, 1997)


先週は久しぶりに一回お休みを頂いてしまったこのブログ、その間にすっかり桜も終わり先週はずっと暖かい初夏のような陽気でしたが、週末は少し涼しくなってました。でもこれからはどんどん暖かくなる一方だと思うので、アウトドアにコンサートにイベントにとアクティヴィティがどんどん増える季節、音楽は欠かせないですよね。自分も先週ノラ・ジョーンズの素晴らしいライヴに行くことができ、今週はポール卿のドームライヴも含め二つライヴに出かける予定にしてます。皆さんも洋楽ライフ、いい季節に存分に楽しんで下さい。


さて今週は前回に引き続いて90年代の作品です。とかくこの時代は若いリスナーとベテランリスナーの時代の狭間のブラックホールのようなデケイドで、超有名なミュージシャンは別として、地味ながら素晴らしい作品がジャンルを問わず多いにもかかわらず取り上げられることが少ないなあ、と思っていたら先日ミュージック・マガジンさんが4月号で「90年代のUKアルバム・ベスト100」という企画でとりあえずUKにはスポットを当ててくれてちょっと嬉しかったものです。次回は是非USや非英米系の90年代の作品を是非取り上げて頂きたいな、と密かに思う今日この頃。そこで今週はそんなUSの90年代のインディー・ポップを代表する作品の一つだと思う、ベン・フォールズ・ファイヴのメジャーデビュー作『Whatever And Ever Amen』(1997)を取り上げます。



Whatever And Ever Amen


このブログをチェック頂けている方であれば「ベン・フォールズならとっくに知ってるよ」という方も多いだろうとは思いましたが、やはりこの季節になるとこのびっくりするほどのポップ・センス満載で、かつウィットや皮肉に富んだランディ・ニューマンあたりの系譜を継いだような歌詞を、ベン・フォールズのピアノをメインにした楽曲で聴かせてくれるこのギターレス・バンドのアルバムを聴きたくなります。


ノース・キャロライナ州はチャペルヒル出身のベンを中心とした、ロバート・スレッジ(ベース)とダーレン・ジェシー(ドラムス)からなるスリーピース・バンドのベン・フォールズ・ファイヴは、インディー・レーベルからのファースト・アルバム『Ben Folds Five』(1995)でデビュー。当時USの音楽シーンは90年代初頭に大きくブレイクしたグランジ・ブームが終焉に向かう一方、数々のオルタナ・ロック・バンドと言われるアーティスト達が多様な音楽性を糧に新しいロックを模索して数々の作品を世に問うていた時代。そんな中で、まずギターを使わずピアノ中心のバンドで充分にロックしながら、ティンパン・アレー・スタイルの楽曲やトッド・ラングレンを想起させるようなパワーポップな楽曲にウィット満点の歌詞を乗せた楽曲を聴かせる彼らのサウンドはとてもユニークなものでした

Ben Folds Five


そのファーストでシーンの注目を集めた彼らはメジャーレーベルと契約、満を持してリリースしたのがこの『Whatever And Ever Amen』。メジャーデビューなのに売る気あるのかしら、と思うような地味なジャケのこのアルバム、いやいやどうしてファーストのポップながらひりりとする歌詞の楽曲は更にパワーアップしていて、聴く者の耳を冒頭から鷲づかみにします。

冒頭は「One Angry Dwarf And 200 Solemn Faces」。「一人の怒れるこびとと200人のしかつめらしい顔」というタイトルも彼ららしいウィット満点のタイトルですが、弾むようなアップテンポでリズミックなベンのピアノで一気呵成にポップなメロディで聴かせるこの曲で一気に盛り上がれます。歌詞は、高校生の頃クラスメートにいじめられたこびとの主人公がその後成功して大金持ちになって、昔いじめたクラスメート達を罵る(「Kiss my ass, goodbye」という歌詞が思わずにやり、とさせてくれます)というこれまた彼ららしいアイディアの楽曲。

続く「Fair」はミディアムテンポながらここでもベンのピアノがとてもリズミック。途中のコーラスは1960年代のミュージカル映画にでも出てきそうなグッド・タイミーなポップセンス満載で聴いているとウキウキします。




Brick」はこのアルバムからの最初のシングルで当時結構大きなエアプレイヒットになり、BF5のメジャー・ブレイクの起爆剤となった曲。静かなピアノのイントロから徐々にドラマチックに盛り上げていって、クライマックスでのベンのファルセット・ボーカルが利いた、楽曲としてはティンパン・アレー・マナー満点の美しいメロディのポップ作品。しかし歌詞の内容は、彼女を妊娠させてしまった主人公が彼女に堕胎させて、その後それを隠しておくのが苦しくなったので彼女の両親に打ち明ける、というなかなかヘヴィなもの。彼自身の高校時代の経験が題材だというこの曲、内容とメロディの美しさとのギャップが、ベン・フォールズというアーティストの魅力の端的なところを象徴しています。


歌詞の面白さでいえばこのアルバムで一二を争うのが次の「Song For The Dumped(捨てられた男の唄)」。やけっぱちに聞こえるベンのカウントで始まり、終始ピアノとドラムのリズミックなリフが結構ドタバタしながら変にポップに聴かせるこの曲、このアルバムで唯一ギターがフィーチャーされている曲ですが、歌詞はこんな感じです。


「そうか、君はちょっと僕らの付き合いを一休みしたいと。

ちょっとペースを落として自分のスペースを持ちたいって?

ふざけんなこのやろう。


俺の金を返せ

俺の金を返せ、このbitch

今まで使った金を返せってんだ

そして俺の黒いTシャツを返すのも忘れんなよ


お前にディナーなんてご馳走するんじゃなかった

こうやってお前の家の前で俺をぼろ切れみたいに捨て去る直前にさ


俺の金を返せ

俺の金を返せ、このbitch

今まで使った金を返せってんだ

そして俺の黒いTシャツを返すのも忘れんなよ」

 

どうです、笑えるでしょう(笑)。多分史上最も正直で直裁的な別れの歌だと思います、これ。(なお、下に貼った動画は、アルバム未収録の日本語の歌詞を含むバージョンです。お楽しみ下さいw)



とまあ、曲ごとに解説していくときりがないのですが、この他にもジャズっぽいピアノが素敵な「Selfless, Cold And Composed」、トッド・ラングレン的ポップ・センス再登場の「Kate」、ちょっとヨーロッパ風のアコーディオンが気分の「Smoke」、エリック・カルメンのようなクラシック・センスのピアノが美しいのに、終日泣き叫ぶ病気の妻が寝てる間にタバコで家を火事にしないかと悩むという歌詞の「Cigarette」、何にも興味ないふりをしてクールさを装う彼女を痛烈に皮肉る「Battle Of Who Could Care Less」などなど、思い切り楽しいポップ・センスと思わずニヤリとしてしまう歌詞満載の楽曲のオンパレードで一気に聴いてしまいます。

なお、最後の美しいメロディの「Evaporated」が終わってしばらくすると「ほらここに君のための隠しトラックがあるよ~聞いて聞いて、ベン・フォールズ・ファイヴはとんでもない馬鹿野郎さ!Ben Folds Five is a f**king a**hole!)」という声が聞こえて、まあ最後まで笑わせてくれます。

Whatever And Ever Amen (back)


彼らはこの後よりジャズっぽい方向性の『The Unauthorized Biography Of Reinhold Messner』(1999)をリリースしましたが、アルバムサポートのためのツアー終了後にバンドは一旦解散。ベンは解散後も『Rockin' The Suburbs』(2001)、『Songs For Silverman』(2005)などクオリティの高いソロ作品をコンスタントにリリースして、シーンでの存在感をキープしていました。その後2012年にニューヨーク州北部で開催のマウンテン・ジャム・フェスティバルへのライヴ出演をきっかけにバンド再結成し『The Sound Of The Life Of The Mind』(2012)とライブアルバム『Live』(2013)を出しましたが、現在は活動休止状態で、ベンは再度ソロ活動に専念している模様です。


再三言っているようにとにかく楽しい、ポップ・センス満点の作品なので、やはり家にこもって聴いているよりは、外に出て太陽の光の下で聴くのが似合う作品。比較的CD屋さんなどでもよく見かけるので、お求めになりやすいこのアルバム、是非彼らのピアノ中心の素晴らしいポップな楽曲を聴きながら、時には歌詞カードを読んでベンのユニークなユーモアセンスを楽しんでみてはいかがでしょうか?


 <チャートデータ> ビルボード誌全米アルバムチャート最高位42位(1998.1.31付)


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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#82「Loose」Victoria Williams (1994)

#82『Loose』Victoria Williams (Mammoth / Atlantic, 1994)


先週一週間は、雨の予想とかもあったにも関わらず終始天候も崩れそうで崩れずに暖かい日が続いて、そのおかげで週の後半は一気に桜が満開になった、心が満たされる気持ちのいい週でしたね。週末からまたゆっくり天気が崩れてきていますが、一日でもこの素晴らしい桜が楽しめるよう願う毎日、そんな中で欠かせないのは気持ちのいい音楽。皆さんも花見のかたわらいろんな音楽でこの桜を楽しまれたことと思います。


さて今週は久しぶりに90年代の作品を取り上げます。商業的にはなかなか成功することがないのですが、常に個性的でチャーミングで、それでいてインスパイアリングな楽曲を一貫して届け続けてきている、他にあまり似たタイプを見ない女性シンガーソングライター、ヴィクトリア・ウィリアムスキャリアの一つのマイルストーンとなったアルバム『Loose』(1994)をご紹介します。


Loose.jpg 

ヴィクトリア・ウィリアムス、といっても日本の洋楽リスナーの方で彼女の名前をご存知なのは、音楽評論家の方以外ではかなり熱心なここ30年くらいのアメリカのフォーク・ロック/アメリカーナ系ロックのフォロワーの方くらいでしょう。残念ながらこれまでリリースされている彼女の7枚のソロアルバムは、本作を含めてどれもチャートインするほどの売上は記録していませんし、FMなどで頻繁にエアプレイされるタイプの音楽でもないので無理もありません。

でも、ヴィクトリアはアメリカのロック・シーンではミュージシャンの間からのリスペクトを受け続けるミュージシャンの一人で、今回紹介する『Loose』に収録されている作品群の幅広いスタイルに亘る音楽性、決して巧くはないが個性的でチャーミングなボーカルスタイル、そして自然やスピリチュアルなテーマや人への愛、といったことをテーマにする楽曲はそうしたリスペクトを集めるに充分なものであることが分かります。


実はこのアルバム発表の一年前、ヴィクトリア多発性硬化症という難病の宣告を受けていました。この病気は脳や脊髄、視神経などに激痛、視野異常、神経麻痺、筋力低下などの症状が繰り返し出ては収まるのを繰り返すというもので、ギタリストでありシンガーであるヴィクトリアにとっては極めて深刻な病気でした。加えてミュージシャンであったため治療費用を賄う保険等も持っていなかったヴィクトリアの治療をサポートするために立ち上がったのは他あろう彼女をリスペクトするミュージシャン仲間達だったのです。

ソウル・アサイラムデイヴ・パーナー、パール・ジャム、ルシンダ・ウィリアムス、ルー・リード、マシュー・スイートといった90年代のオルタナ・ロック・シーンを代表するそうそうたるミュージシャン達に、当時ヴィクトリアと結婚したばかりのマーク・オルソン率いるザ・ジェイホークスが加わり急遽リリースされたのが全曲ヴィクトリア作品のカバー・アルバム『Sweet Relief: A Benefit For Victoria Williams』(1993)。


Sweet Relief 

このアルバムは幸いチャートインもし、そこそこの評判を呼んだこともあってヴィクトリアに対する関心も当時高まったのでしょう、自身の症状とも折り合いを付けながら、頑張ってスタジオ入りしてヴィクトリアが翌年の1994年にリリースしたのがこの『Loose』でした。


彼女の揺らぐようなハイトーンのボーカルとアコースティックなバンド演奏で、百歳を超えるという古いサボテンの木にまだ遅くないから花を咲かせてよ、と呼びかける「Century Plant」で始まるこのアルバム、タワー・オブ・パワーのレイドバックなホーンセクションをバックにゴスペル的な内容を歌う「You R Loved」、ピアノとバイオリンだけをバックに友人の死を明るく悼む小品「Harry Went To Heaven」、そして『Sweet Relief』収録曲中唯一当時まだヴィクトリアが録音しておらず、パール・ジャムがカバーしたことでおそらく彼女の最も有名な曲となったオルタナ・ロック色の強い「Crazy Mary」などなど、このアルバムを構成する16曲(うち2曲はカバー、1曲はソウル・アサイラムデイヴとの共作でもう1曲はバンドメンバーの作品)はいずれもちょっと聴くだけでヴィクトリアというとてもユニークな才能とスタイルを持ったアーティストが目の前に現れて、優雅にパフォーマンスをしてくれているのが目に見えるようなのです



実は自分はおそらく前述のチャリティアルバムが出る直前くらいの1993年に、ニューヨークのヴィレッジにあったライヴハウス、ボトム・ライン(2004年に廃業)で彼女のライヴを見ています。確か3人くらいのバンドをバックに、椅子に座ってストラトやアコギを掻き鳴らしながら「病気のせいで時々ミスピッキングとかするけど許してね」と言いながら、ステージにパッと清楚な花が咲いたかのようなイメージを放ちつつ、とても心温まるステージをしてくれたことを覚えています。その時多分このアルバムに収録されている作品もいくつかやってくれたに相違ありません。改めて今この『Loose』を聴くと、その時の彼女のステージが蘇ってくるようなので。

上記の曲の他にも、ピアノをバックにしたヴィクトリアのガーリッシュなボーカルがキュートなルイ・アームストロングでお馴染みの「What A Wonderful World」や、LAを中心に70年代初頭人気のあったロックバンド、スピリットの「Nature's Way」(デイヴ・パーナーとのデュエット)などの曲をカバー曲に選ぶあたりも、ヴィクトリアの自然を慈しむキャラクターが表れてますし、叔父さんのジャックの愛犬パピーと自分の愛犬ベルの他界を悲しみながらも彼らを思い出しながら楽しく歌う「Happy To Have Know Pappy」や、友人への情熱的ではないけど確かで安心できる一体感を真摯なボーカルで歌う「My Ally」などなど、彼女の楽曲は聴いていて、そして歌詞を眺めていて思わずほっこりさせてくれるものが多いのです

まさに冬を脱ぎ捨てて春に向かうこの時期にぴったりの感覚を味わわせてくれる、そんな素敵なアーティストであり、アルバムなのです。



件のチャリティ・アルバム同様、この作品のバックをつとめるメンバーもそうそうたるもの。何度も名前の出ているソウル・アサイラムデイヴ・パーナーの他、ご主人のマーク・オルソンとそのバンドメイトである、ザ・ジェイホークスゲイリー・ルイス、タワー・オブ・パワーのホーンセクション、スライ・ストーンの妹のローズ、R.E.M.ピーター・バックマイク・ミルズ、そして何曲かのストリングス・アレンジメントは何とあのヴァン・ダイク・パークスが担当するなど、この時期のフォーク・ロック/アメリカーナ系の作品としてはとても豪華な布陣での制作になっており、高いミュージシャンシップのパフォーマンスが楽しめる作品にもなっています


Loose (back)

その後2006年のマークとの離婚も乗り越えて着実にアルバムを発表し続けていたヴィクトリアですが、2015年末に持病の発作が原因で肩と腰を負傷してしまって現在は治療専念中とのこと。ただまたしても保険が適用されないため、『Sweet Relief』の時に設立されたスイート・リリーフ・ミュージシャン基金が中心になって治療費の寄付を募っているとのこと。

彼女の一刻も早い完全復帰を祈りつつ、ヴィクトリア・ウィリアムスという、希有のスタイルと才能を持ったシンガーソングライターの、人と自然とスピリチュアルへの愛に溢れた作品を、暖かさを増す春に存分に楽しんで見ませんか?


 <チャートデータ> チャートインなし

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#81「Blacks And Blues」Bobbi Humphrey (1974)

#81『Blacks And Blues』Bobbi Humphrey (Blue Note, 1974)


先週一旦暖かくなったか、と思ったら週後半から土曜日にかけてぐっとまた寒くなって雨まで降ったため、桜のつぼみも開きかけの3~4分咲きのまま週末を終わってしまいましたが、昨日の日曜日はまたぐっと春の陽気が戻ってきていました。今週はいよいよ一気に桜開花、お花見日和が期待でき、今度の週末はあちこちの桜の名所が人でいっぱいになることでしょう。


先日もここで言いましたが、春はジャズっぽい音楽が耳に心に優しく感じられる時期。そこで今週は桜の花の下でパーティーでもしながら聴くにはもってこいの、ジャズ・フルート奏者のアルバムをご紹介しましょう。名門ブルー・ノート・レーベルでも数少ない女性ジャズ・ミュージシャンの一人である、ボビー・ハンフリーの春を感じさせるフルート・ワークやライト・ジャズ・ファンクでR&Bに寄り添った楽曲がとても心地よいアルバム『Blacks And Blues』(1974)をご紹介します。


Blacks And Blues 

本来ジャズはまだまだ門外漢に近い自分なので、ジャズ系のアルバムをご紹介する、というのはややおこがましいのですが、このアルバムが出た1970年代前半というのは、60年代中頃までの正統派でストイックなジャズの本流を中心とした発展の歴史から、一気にジャズとファンクとソウルとが一体の流れに合流しラムゼイ・ルイスドナルド・バード、ハービー・ハンコックらによる様々な「ソウル・ジャズ」や「ジャズ・ファンク」といわれる分野の素晴らしい作品が相次いで生まれた変革の時期だったと理解しています。そんな時期に生まれたのがこのアルバム。ジャズ・フルートというと古くはエリック・ドルフィ、近年フュージョンの世界ではハービー・マン、ヒューバート・ローズ、そして先月惜しくも他界したデイヴ・ヴァレンティンといったところが有名ですが、その中でも女性パフォーマーとしてボビー・ハンフリーは独自のポジションを確保しています


テキサス州ダラス出身で、高校の頃からクラシックとジャズのフルート演奏を勉強していたボビーは、地元のタレントコンテストを観ていたあのジャズ・トランペットの大御所、ディジー・ガレスピーに見いだされてNYでミュージシャンとしてのキャリアを積むことを薦められたのがプロのジャズミュージシャンのキャリアの振り出しでした。

その後1971年にジャズの名門レーベル、ブルー・ノートからデビュー。同レーベルの重役でもあった有名プロデューサー、ジョージ・バトラーの下、当時のR&Bソウル楽曲のカバーと、ジャズの先達達の作品のボビーなりの解釈によるプレイを納めたアルバム2枚『Flute In』(1971)と『Dig This!』(1972)でシーンでの存在感を高めていたのですが、1974年にリリースしたこの『Blacks And Blues』はいろんな意味で彼女に取って飛躍の、そして商業的ブレイクの作品となったのです


まず前2作と違うのは、本作のプロデュースと全楽曲の作曲を担当したのが、当時音楽シーンを沸かしていたジャズ・トランペットのドナルド・バードがR&B・ファンクに大きく軸足を寄せたソウル・ジャズの代表作『Black Byrd』(1972)、『Street Lady』(1972)のプロデュースでシーンにその名を馳せていたラリー・ミゼル。彼はジャズ・トランペッターだったドナルド・バードをソウル・ジャズ・ファンクの代表的ミュージシャンとしてブレイクさせ、またドナルド直系のソウル・グループとして1970年代後半「Walking In Rhythm」(1975年全米最高位6位)「Happy Music」(1976年19位)などの全米ヒットを飛ばすブラックバーズの仕掛人として70年代R&Bやソウルジャズシーンにおける重要人物でした。



その彼が作り出したクールな中にも暖かなファンク・グルーヴを内包したソウル・ジャズ・ファンクの楽曲群と、ボビーの縦横無尽にソロを操るジャズ・フルートのパフォーマンス、そしてラリーが自分のプロデュース作品に必ず起用する名うてのミュージシャンたち(ギターのデヴィッド・T・ウォーカー、ベースのチャック・レイニー、ドラムスのハーヴィー・メイソン、そしてピアノ・キーボードのジェリー・ピータース、シンセのフレディ・ペーレンといった彼のレコードにはお馴染みの面々です)のタイトでファンキーな演奏が、すべて有機的につながってこのアルバム全体の大きな暖かなグルーヴを生み出しています。オープニングの「Chicago, Damn」そしてニューヨークの街角の様子を彷彿させるような自動車や街角のSEで始まる「Harlem River Drive」はこうしたラリーの「グルーヴの方程式」とボビーのフルート・ソロが見事にマッチしていて、アメリカの大都市の町中をオープンカーとかで春にドライヴしている、といった雰囲気が満点ですね。


このアルバムのR&B寄りのスタイルは、次のボビーがボーカルを取る「Just A Love Child」で更に鮮明になります。ジャケで観るアフロヘアーで闊達そうな風貌のボビーのイメージとは異なり、聴きようによっては子供の声のように聞こえるハイトーンのボーカルと、男性バックコーラスとの組み合わせがR&B楽曲としての魅力溢れる作品を生み出しています。

アルバムタイトル曲の「Blacks And Blues」はジェリーのピアノのソロを大きくフィーチャーして、それにフレディの奏でるシンセの音色、男性バックコーラスそしてボビーのフルート・ソロが絡んで行くというこのアルバムの楽曲パターンの最大公約数のようなナンバー。春のそよ風を思わせるようなボビーのフルートと男性コーラスの組み合わせが軽やかなグルーヴを演出します。続く「Jasper Country Man」は同じような楽器構成ながら、このアルバム中最もファンクネスが色濃く感じられるアーシーなナンバー。



そしてアルバム最後の「Baby's Gone」はまたR&Bソウル的なスタイルに大きく寄り添って、男性コーラスをバックにしたボビーのガーリッシュなボーカルによる「My baby's gone~」という歌を所々に散りばめながら、ボビーのフルートが主旋律を奏でる、という楽曲。ただR&Bソウル的とは言いながらも、一般的な歌ものの楽曲ではなく、あくまでもボビーのフルートを軸として淡々と楽曲が展開していく、というバンドがジャムりながら、アルバム全体をフェードアウトに持っていく、といった風情がまた春の花爛漫の光景を想像させてくれます。

Blacks And Blues (back)


このアルバムで商業的にブレイクしたボビーは続く『Satin Doll』(1974)、『Fancy Dancer』(1975)でもラリー・ミゼルとのタッグでジャズ・ソウル・ファンクの名盤を世に出していくことになります。また、ソウルR&Bシーンとの接近がきっかけで、あのスティーヴィー・ワンダーの名作『Songs In The Key Of Life』(1976)からのシングル「Another Star」にジョージ・ベンソンと共にジャズ界代表として競演するなど、ジャズの枠にとらわれない幅広い活動を続け、1994年には自分のレーベル、パラダイス・サウンズ・レコードを立ち上げて、自分のアルバム『Passion Flute 』をリリースするなど、現在も活動を続けているようです。


Bobbi Humphrey


いかにも桜の花びらが舞う様を彷彿とさせるようなボビーのフルートの音色と、ラリーの作り出すライト・ファンクなグルーヴ満点の楽曲で、今週あちこちで観られるであろう満開の桜を楽しんではいかがでしょうか。


 <チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位84位(1974.5.25付)

同全米ソウル・アルバムチャート最高位20位(1974.5.18付)

同全米ジャズLPチャート最高位2位(1974.5.11付)

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