Life Is A Rock - 洋楽こそ我が人生
洋楽全般について、英米ヒット・チャートに登場有無に関係なく、お気に入りの洋楽作品についての独り言やコメントをつれづれに掲載します。「新旧お宝アルバム!」「恒例グラミー賞大予想」など定期コラムが中心です。洋楽 ファンサイト、meantime(www.meantime-jp.com)のスピンオフ企画としてお楽しみ下さい。
【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#90「Break Up」Pete Yorn & Scarlett Johansson (2009)

#90Break UpPete Yorn & Scarlett Johansson (Atco, 2009)


6月も後半に入る今週、相変わらず梅雨はどこに行ったのかっていうほど、雨の気配のない天気が続いてますが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。いよいよ今年後半の各種洋楽ライヴのアナウンスやチケット発売も始まり、あっというまに2017年もそろそろ折り返し。来週くらいには、今年前半のおすすめアルバム、なんてリストも考えてみたいと思っています。


さて今週の「新旧お宝アルバム!」は最近、といいながらもう8年前のアルバムになるわけなんですが、ちょっと今の季節感にはそぐわなくて、どちらかというとまだ寒さを感じる初春の暖かい日だまりでセーターを着ながら日なたぼっこをしてる、っていう感じのアルバムをご紹介します。今回ご紹介するのは、90年代後半からブレイクし始めたシンガーソングライター、ピート・ヨーンと、映画『ロスト・イン・トランスレーション』(2003)でブレイク、その後マーヴェル映画のアヴェンジャー・シリーズではブラック・ウィドウ、『世界でひとつの彼女(Her)』(2013)やリュック・ベンソン監督の『ルーシー』(2014)などでセクシーで印象的な女性(または女性の声)を演じ、今年は日本アニメの傑作『攻殻機動隊(Ghost In The Shell)』のハリウッド・リメイク盤に主演した皆さんご存知のスカーレット・ジョハンソンが2009年にリリースした、幸せを感じられるデュエット・アルバム『Break Up』をご紹介します。


Break Up 


このアルバムはもともと、1960年代にリリースされた、当時フランス一のセクシー男性シンガーと言われたセルジュ・ゲインズブールと、一時は彼の妻でもあり、こちらも当時セクシーな女優として知られたブリジッド・バルドーによるデュエット・アルバムをイメージにおいて作られたというもの。

ただ単なる企画もの、過去の有名作品のアイディアに乗っかった作品というレベルに止まらず、ピートの楽曲とスカーレットの不思議な魅力たっぷりのボーカルとがなかなか素敵なケミストリーを生み出している素敵な作品

本家のゲインズブール&バルドー同様、男と女が二人の関係の移り変わりをデュエットを通じて物語っていく、というコンセプトが二人の間の幸福感やオプティミズム、そして時には不安や希望を実に表現していて、時々引っ張り出しては聴きたくなる、そんなアルバムです。

Pete Scarlett


今ハリウッド一のセクシーで演技派女優、スカーレットのことはもう皆さんよくご存知なので今更上記以上のご説明は不要でしょうが(笑)、ピートのことはちょっとご説明しておきます。

彼はニュージャージー州出身のシンガーソングライターで、1999年にキャメロン・ディアズ主演の大ヒットコメディ映画『There's Something About Mary(メアリーに首ったけ)』(1998) を監督したファレリー兄弟の映画『Me, Myself And Irene(ふたりの男とひとりの女)』(2000)に提供した楽曲が全面的に映画に使われたことでブレイク。翌年リリースしたデビューアルバム『musicforthemorningafter』が高い評価を受けて、その年ローリング・ストーン誌の選ぶ「2001年注目のアーティスト」に選ばれるなど、USロックシーンではその実力を認められたシンガーソングライターの一人。また、自らの作品の楽器演奏はほとんど一人でやってしまうというマルチ・インストゥルメンタリストでもあります。

今回紹介するアルバムの楽曲も1曲を除いてはピートの作品で、その作風は90年代のグランジ・ムーヴメントやR.E.M.ベックに代表される90年代後半のアメリカン・オルタナ・ロックのバンド達のサウンドに明らかに多くの影響を受けたと思われる、ポップなフックが耳になじみやすいメロディーと、音使いはシンプルでややラフながら、楽曲の骨組みや楽器(特に時折ノイズ的に使われたシンセやドラムス・パーカッション)の使い方がいかにも90年代ロックを通過してきました的な、不思議な魅力を持った楽曲を多く聴かせてくれます。



しかしこのアルバムのもう一つの、そして最大の魅力はスカーレットのハスキーで、やや気だるそうな、それでいて存在感のあるボーカルでしょう。彼女が全面的にリード・ソロを取る楽曲は一つもなく、主たるパートを最も多く唄っている曲といえば、ピートと交互にメイン・ヴァースを唄う、アルバムオープニングのリズミックでウキウキする「Relator」とナッシュヴィル・バラード的な3曲目の「I Don't Know What To Do」、そしてラス前でメンフィスあたりのラウンジで演奏されているのでは、といったギターの音色が印象的な「Clean」くらいで、それ以外の曲では要所要所でボーカルを入れたり、ピートのボーカルにハーモニーで寄り添ったり、といったパフォーマンスが多いのですが、彼女の声が入ってきた瞬間に一気にその存在感が耳に飛び込んでくるのです。特に「I Don't Know~」でスカーレットのボーカルがふわっと立ち上がってくるあたりはかなりヤバいです。是非聴いてみて下さい。

彼女のボーカルは、技巧として高いものは当然ないのですが、発声の仕方やそもそも声質がなかなか聴かせるところが多く、単なるハリウッド女優の隠し芸的なレベルで終わっていないところには、正直最初聴いた時は驚いたものでした。




一方、4曲目の「Search Your Heart」でのイントロで軽快なギターのリフをバックに2人がサビのフレーズを繰り返し歌うあたりや、ベックの初期の曲を思わせるシンセとリズム・マシーンのイントロからR.E.M.っぽい透明感のあるギターサウンドに変貌する「Shampoo」でスカーレットピートの3度上下のコーラスを付けながら歌う、シナトラ親子の「Somethin' Stupid」を彷彿させるようなボーカルコラボなどは、二人がこのコラボを楽しみながらやっているなあ、と聴きながら思わず幸せを感じることができる楽曲です。



アルバム最後は、こちらもナッシュヴィルやメンフィスの古いライヴ・バーで演奏しているような雰囲気のゆったりした、骨太のギターの音色をバックに、ところどころに90年代的なノイズ一歩手前のパーカッシヴ・サウンドが入る楽曲をピートが唄う「Someday」で締められます。ここでは自らの存在をアルバムからフェードアウトするかのようにスカーレットは完全にバックコーラスに徹しているのも、それまでのアルバムを通しての彼女の存在感を考えると印象的ですね。


Break Up (back)


もともとこのアルバムの音源のセッションは、2006年には録音されていたのですが、諸般の理由からすぐにリリースされませんでした。その間にスカーレット自身、このセッションで音楽活動への自信も得たのか、2008年にはオルタナ・ロック・バンド、TVオン・ザ・レイディオのリーダー、デイヴ・サイテックをプロデューサーに迎えた初ソロアルバム『Anywhere I Lay My Hat』をリリース。何とデヴィッド・ボウイと3曲客演しているこのアルバムは1曲以外はすべてあのトム・ウェイツのカバーという、女性アーティスト、それもプロのミュージシャンでないアーティストによるソロ・デビューとしてはとても異色のもので、シーンで賛否両論を得たようです。

そうこうする中、同時期に、同じような女優と男性シンガーソングライターによるユニット、She & Him(映画『あの頃ペニー・レインと(Almost Famous)』(2000)や米FoxのTVシリーズ『ダサかわ女子と三銃士(New Girl)』での主演で有名なゾーイ・デシャネルM.ウォードのデュオ・チーム)がリリースした『Volume One』(2008)が人気を呼んだというのがおそらくきっかけになって、録音以降棚上げになっていたこの音源がめでたくアルバムリリースに至った、ということではないかと個人的には見ています。


Volume_3_by_She__Him.jpg


ピートはその後もソロで着実な活動を続けていて、昨年も7枚目のアルバム『Arranging Time』(2016)をリリース、ロック・プレスの評価もそれなりに高いようです。一方スカーレットの音楽活動もその後いろいろと続いており、最近では2015年にLAのポップ・オルタナ・バンド、HAIMの長姉エステら3名とザ・シングルスなるバンドを結成、シングルリリースするなど、相変わらず音楽活動への意欲は捨ててないようです

同じタイプのコラボであるShe & Himがその後『Volume Two』(2010)『A Very She & Him Christmas』(2011)、『Volume 3』(2013)、『Classics』(2014)などとコンスタントに素敵なアルバムを作ってるし、スカーレットも映画が忙しいのでしょうが、ピート&スカーレットの続編アルバムで、また素敵な楽曲と二人のボーカルコラボを聴きたい、と思っているのは多分自分だけではないはず。その日が来るのを期待しながら、このアルバムでほんわりした気分をお楽しみ下さい。


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位41位(2009.10.3付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#89「American Flyer」American Flyer (1976)

 #89『American FlyerAmerican Flyer (United Artists, 1976)


関東地方は梅雨入りしたそうなんですが、連日夏になってしまったかのような暑くいい天気が続いていて雨の気配もあまり感じられないここ数日、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。空梅雨というのも秋のお米、そして日本酒の出来のことを考えると困るもので、多少雨も降ってもらって、7月にはからりと梅雨明けそして夏!という風にいきたいものです。


さて今週の「新旧お宝アルバム」はここ数日のさわやかな天気を思わせる、フォーク・ロックの素敵なアルバムをご紹介。イーグルスに続くウェスト・コースト・ロックのスーパーグループか?と当時ちょっとだけ評判になりましたが、本来受けるべきちゃんとした評価を得られないままアルバム2枚で解散してしまったグループ、アメリカン・フライヤーのデビュー・アルバム、『American Flyer』(1976)をご紹介します。


AmericanFlyer.jpg 




1972年『Eagles』で鮮烈なデビュー、その後『Desperado(ならず者)』(1973)、『On The Border』(1974)を経て彼らの最高傑作『One Of These Nights(呪われた夜)』(1975)で人気の頂点を極めたイーグルスの成功は、折からのFMロックステーションの隆盛と相まって、フォーク・ロック、カントリー・ロックといったジャンルに対する人気の高まりを呼び、当然ながら各レコード会社のマーケティングはこのジャンルのアーティストへ集中することになりました。

特にこのジャンルに力を入れたのは、ジャニス・ジョプリンらを見いだし、機を見るに敏で利に聡く、当時コロンビア・レーベルから離れて自らのアリスタ・レーベルを立ち上げていたクライヴ・デイヴィス。「Peaceful Easy Feeling」などイーグルスの初期の作品の作者だったジャック・テンプチンと、90年代のSSW(シンガーソングライター)ルネッサンスの旗手の一人となるジュールズ・シアーを擁したファンキー・キングスを「次のイーグルス」として売り出そうとしたり(彼らは以前このコラムでも取り上げました)、イーグルスのバーニー・レドンの弟、トムを擁したシルヴァーを売り出したりしたものです。

そういうトレンドに乗って出てきたわけではないようですが、機を同じくしてそれまでロック・シーンで着実な活躍をしてきたアーティスト4人が、集結して結成したのがこのアメリカン・フライヤー。そのイーグルスCSN&Yを想起させる軽やかなフォーク・ロック・ベースの楽曲と、美しいメロディとハーモニーで達者な魅力満点のパフォーマンスを聴かせるこのバンドは、このアルバムをプロデュースした、ビートルズアメリカのプロデュースで有名な、あの故サー・ジョージ・マーティンの手腕も相まって、素晴らしい作品となっており、このジャンルのファンにも人気の高い盤です。


アメリカン・フライヤーを語るに当たってまず名前が出るのは、メインのボーカルでこのアルバム12曲中6曲を書いているメインソングライターでもあるエリック・カズ。彼の名前は70年代ウェストコースト・ロック・ファンの間ではつとに有名で、リンダ・ロンシュタットボニー・レイットが特に彼の歌をカバーしていて、特にこのアルバムでセルフ・カバーもしている「Love Has No Pride」は彼のシグネチャー・ソングの一つ。その他にもこの2人がやはりカバーしている「Cry Like A Rainstorm」、イーグルス脱退後のランディ・マイズナーのヒット「Hearts On Fire」「Deep Inside My Heart」など数々の作品をいろんなアーティストに提供してきたシンガーソングライターなのです。

もう一人の主要メンバーであるクレイグ・フラーは、このグループに加入する直前までは、オハイオ州シンシナティを中心に活躍するカントリー・ポップ・グループ、ピュア・プレイリー・リーグの中心メンバーだった人で、PPLの最初のヒット曲「Amie(いとしのエイミー)」(1975年最高位27位)の作者ながら、この曲のヒットを最後にPPLを脱退、このアメリカン・フライヤーに合流しています。

残るメンバーも、60年代にアル・クーパー率いるブルース・プロジェクトに在籍後、ブラッド・スウェット&ティアーズにいたスティーヴ・カッツと、こちらも60年代後半NYの先鋭的ロックバンド、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドに在籍していたダグ・ユールと、錚々たる顔ぶれでした。



そうした名うてのミュージシャン達が結成したスーパーグループ、ということ以上にこのアルバムを特別なものにしているのは、ほとんどの曲でペンとボーカルを取るエリッククレイグの二人の織りなす楽曲の素晴らしさと、メンバー4人によるハーモニー・ボーカルの美しさ、そして随所に職人芸的に施されたジョージ・マーティンのアレンジによる管楽器やストリングスで、これらが見事に調和してそんじょそこらのフォーク・ロック作品とは違った音色のゴージャスさを生み出しています

物憂げなピアノのイントロから印象的なリズム・パターンのリフとエリックの魅力満点のボーカルで冒頭からリスナーをつかむ「Light Of Your Love」や、シングルとして小ヒットもした、サビのコーラスが豪華な「Let Me Down Easy」など、エリッククレイグの共作によるナンバーにはこうした、このアルバムを特別にしている要素が包含されていて、特に全体の中で抜き出た楽曲に仕上がっています。



エリック単独作品の数々ももちろんこのアルバムの中心的な構成要素となっていて、2曲目のスケールの大きいメロディが印象的な「Such A Beautiful Feeling」、静かなアコギと簡単なリズムセクションに管楽器・ストリングスが豪華に調和する「M」、シンプルなカントリー・ロック・バラードにラリー・カールトンのギターをフィーチャーした「Drive Away」、そして彼の看板ソングでもある「Love Has No Pride」などは、このアルバムの柔らかくふっくらとしたトーンを終始コントロールした、ある意味「幹」の役割を果たしています

一方、クレイグの作品もエリックの作品と異なる表情をアルバムに与えています。アナログだとB面冒頭で、ポコあたりを思わせるより伝統的なカントリー・ロックといった味わいの「The Woman In Your Heart」や、大胆にストリングスが無数に配されて、マーティン卿の手腕が遺憾なく発揮され、もはやロックの域をやや超えてしまっている豪華なアレンジの「Call Me、Tell Me」はそうしたクレイグの味を感じられる作品。これらにアーニー・ワッツのサックスをフィーチャーし、この曲の中で一番イーグルスを思わせるスティーヴ作のノスタルジックな曲調の「Back In '57」や、ラテン・パーカッションを配してトロピカルな曲調が楽しいダグ作の「Queen Of All My Days」などが全体に多様な表情を加えているのです。


American Flyer (back)_2


Call Me, Tell Me」の最後のストリングス・フレーズが終わった後に厳かに、しかしもの悲しくも美しいメロディを奏でる1分足らずのストリングスのインストゥルメンタル曲「End Of A Love Song」でまるで映画の終わりのように静かにアルバムは終わるのですが、この曲はエリックマーティン卿の共作。アルバム全体のコンセプトと空気感を見事に作り上げるエリッククレイグ達の楽曲とマーティン卿のプロフェッショナルなプロデューサーワークが見事に大団円を迎える一瞬です。


彼らはこの後2枚目の『Spirit Of A Woman』(1977)を出した後に解散。しかしエリッククレイグは解散後も活動を共にし、翌年には『Craig Fuller & Eric Kaz』(1978)というこちらも地味ながら素晴らしいアルバムをリリースしています。その後エリックはSSW活動を継続、前日のランディ・マイズナーとの仕事の他にも、ドン・ジョンソンの「Heartbeat」(ウェンディ・ウォルドマンとの共作、1986年最高位5位)やマイケル・ボルトンと共作で「That's What Love Is All About」(1987年最高位19位)といったヒット曲も提供、2002年には初来日を果たして、日本のアメリカSSWファンの間での根強い人気に本人も多いに喜んだとか。最近では2015年に41年ぶりのソロの新作となる『Eric Kaz(エリック・カズ:41年目の再会)』をリリースして、これもファンの間ではちょっとした話題になりました。

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一方クレイグは、エリックとのデュオ・アルバムの後は1987年にそのボーカルがあの故ローウェル・ジョージに酷似しているということもあり、新生リトル・フィートにギター・ボーカルとして加入、1993年までに3枚のアルバムに参加しています。また1998年にPPLを再結成したり、2011年にはリトル・フィートの大晦日コンサートに参加したりと、今も活動を続けている様子です。


まだ30歳そこそこの若いメンバーの才能の瑞々しさと、それを包み込みながら彼らの良さを見事に引き出しているマーティン卿の仕事ぶりが存分に楽しめるこのアルバム、一度お聴きになる価値は充分以上。昨年にはユニヴァーサル・ミュージック・ジャパンさんの「名盤発見伝シリーズ」の1枚として、SHM-CD仕様で再発もされていて、CD屋さんでも比較的見つけやすいと思いますので、是非一度アメリカン・フライヤーを体験してみて下さい。


 <チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位87位(1976.10.16付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#88「Blue Boy」Ron Sexsmith (2001)

#88Blue BoyRon Sexsmith (Ronboy, 2001)


6月に入りましたが、時折ゲリラ豪雨はあるもののまだ梅雨の気配があまり感じられず、結構暑い毎日が続いていますが皆さん体調管理をしっかりして洋楽ライフを楽しんでおられることと思います。フジロックサマソニなど、毎年のサマー音楽フェスのラインアップも決まり、既に梅雨の先の楽しい夏の洋楽ライフが目の前に迫ってきているようで楽しみですね。


さて今週の「新旧お宝アルバム!」はちょっと前ながら比較的最近アルバムのご紹介です。今回は、つい最近こちらも素晴らしい出来の最新作『The Last Rider』(2017)をリリース、一昨年のビルボード・ライヴでの素晴らしい来日ライヴに続いて、今年のフジロック・フェスティバルでの再来日も決まっている、21世紀を代表するシンガーソングライターの一人、といってもいいロン・セクスミスがメジャー・レーベルからインディに移籍後リリースした最初のアルバム、5作目の『Blue Boy』(2001)をご紹介します。


Blue Boy 


ティーンエイジャーの頃から地元、カナダはオンタリオ州のセント・キャサリンという街のバーで弾き語りしてミュージシャンとしてのキャリアをスタートしたロンが、80年代後半にトロントに移り、自分の書きためた曲をまとめて最初のアルバム『Grand Opera Lane』(1991)を自費でリリースしたのは、ロン27歳、結婚して最初の息子が6歳の時という、遅咲きのシンガーソングライター。そのもっちゃりとした風貌にそぐわぬ線の細い繊細な、それでいてどこかしらソウルフルさも感じさせる歌声で、傷つきやすい男の気持ちを詩情溢れる歌に託す、というスタイルが静かな共感を呼び、このアルバムがエルヴィス・コステロの耳にとまって彼の絶賛を受けたことがきっかけで次の『Ron Sexsmith』(1995)でインタースコープ・レーベルからメジャー・デビュー。90年代にその音響派と言われた独特のサウンドプロダクションで、クラウデッド・ハウス、ロス・ロボス、コステロら数々のロック系のヒット作を手がけたミッチェル・フルームのプロデュースで、一気に新進の実力シンガーソングライターとしてシーンで認知されました。


Ron Sexsmith


その後『Other Songs』(1997)、『Whereabouts』(1999)と、同じミッチェル・フルームチャド・ブレイクのプロデューサーチームでかなり質の高いアルバムをコンスタントにリリースしたロンでしたが、時代はよりエッジの立ったグランジやミクスチャー・ロックといったジャンルがメジャーな中、彼のスタイルがメジャーのマーケティング方針と合わなかったのでしょう、インタースコープの契約がなくなったロンが、心機一転、Ronboyという当時自主制作だったんではないかと思われるインディー・レーベルから、オルタナ・カントリーのパイオニアの一人として有名なあのスティーヴ・アールをプロデューサーに迎えてナッシュヴィルで録音、リリースしたのがこのアルバム『Blue Boy』です。


このアルバムでも彼の従来なアコースティックな演奏をベースに自分の心情や思いを歌詞に乗せて歌う、という彼のスタイルは根本的に変わっていませんが、スティーヴの影響や、メンフィスやマッスルショールズといった南部の音楽都市に近いカントリーのメッカ、ナッシュヴィルでの録音といったことが影響したのでしょう、それまでのアコギポロポロ的なスタイルから、全体的によりバンドサウンド的、曲によってはホーン・セクションやジャズっぽいアプローチも見せるなど、楽曲的にはそれまでで最も多様なスタイルを満載した、躍動感溢れる意欲作になっていて、メンフィス・ソウル・バンドをバックに歌う骨太のシンガーソングライター、といった風情に脱皮している感じが素晴らしい出来になっています。

一皮むけたのはサウンドだけでなく、リリックにも自分の歌唄いとしての立ち位置を再確認して、それを自信を持って表現しようという彼の決意が見て取れるのがこのアルバムの味わい深いもう一つのポイント。冒頭ドラムスとホーンをバックにソウルフルに始まる『This Song』では、こういった感じです。



ちょっと歌を作ってみた

ただ言葉にメロディを付けただけ

僕の目の前でぶるぶると震えるこの歌

いったいこの歌は生き残ることができるのか


そして今、僕は自分が対峙しなきゃいけないものが見える

君が耳にしたことのある歌一つ一つのために

こわいと感じるのも無理はない

この世に生まれたかと思うと死んでしまう歌の何と多いことか

この歌、いったい生き残れるのか?


続く「Cheap Hotel」「Don't Ask Me Why」も正にメンフィスあたりのバーでギターとドラムスとベースだけの、それでいてタイトなリズムにソウルを感じる演奏にロンのおなじみのもっさりしたボーカルが乗って不思議な一体感を醸し出す楽曲たち。トランペットとピアノで静かにニューオーリンズあたりジャズ・バーで演奏されているかのような「Foolproof」は、これまで夢を見続けては裏切られた男がもう僕の心は愚かな甘い期待なんか持たない、と切ない心境を吐露する、というしみじみとしたバラード。



アルバムではこの他にも、スティーヴのプロデュースが効いている、ギターを前面に出したソウルフルなバンドサウンドの「Just My Heart Talkin'」や「Keep It In Mind」、アコギでシンプルに聴かせる「Tell Me Again」やこのアルバム中唯一のカバーであるフォーク・シンガーソングライター、キップ・ハーネスの「Thumbelina Farewell」、ピアノ弾き語りの「Miracle In Itself」、レゲエのリズムとホーンのアレンジが南部を突き抜けてカリブを思わせる「Never Been Done」などなど、アルバム通じてロンのほんわかした歌声は変わらないのに様々な楽曲スタイルによるロンの世界が展開され、それがこのアルバムの魅力の大きな要因になっています。



このアルバムの後、ジェイソン・ムラーズKTタンストールらを手がけたことで有名なスウェーデン人のプロデューサー、マーティン・テレフェを迎えた6作目『Cobblestone Runway』(2002)や7作目『Retriever』(2004)ではシンセサイザーやキーボードを大胆に導入したポップ・サウンドを展開して、更に新たな境地を見せ、それがまたシーンでは高く評価されました。

正直な話、ロンのアルバムは今年リリースされた最新作『The Last Rider』で14枚目になりますが、どのアルバムを取っても楽曲とパフォーマンスの質が高く、多くの場合期待を裏切られることがないという、ある意味稀有なアーティストだと思います。そして最新作が、今回紹介した『Blue Boy』同様、かなりバンドサウンドを前面に打ち出した、リズミックなナンバーを中心に充実した内容であることも、彼の軸足が大きくぶれることなく安定した質の作品を発表し続けてくれていることを再確認させてくれました。

Blue Boy (back)


自分は2015年のビルボード・ライヴで彼のライヴを初めて体験しましたが、かなり地味なステージになるのかな、と思いつつ望んだところ、確かに派手な演出はないものの、楽曲のパワーとロンの存在感が自然にカタルシスを呼ぶ、そんなステージで大いに得をした気になったものです。

ライヴの途中「エミルー・ハリスが僕の曲をカバーしてくれて、しかもアルバムタイトルにしてくれた時は最高だったな。あのエミルーがだよ!」と嬉しそうにしながら、『Retriever』収録で2011年のエミルーの同名アルバムでカバーされた「Hard Bargain」をプレイするのを見て、思わずオーディエンスの間に暖かい空気が広がったのも素敵な体験でした。


The Last Rider


今年フジロックへ出かける予定の方、ビョークゴリラズ、ロードといったメジャーでロックなアーティスト達もいいですけど、同じグリーン・ステージで最終日の早めの時間にやっているはずのロンのステージもちょっと覗いて、ほんわかした気分になってみるのもいいかも知れませんよ。


<チャートデータ> チャートインせず

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