FC2ブログ
Life Is A Rock - 洋楽こそ我が人生
洋楽全般について、英米ヒット・チャートに登場有無に関係なく、お気に入りの洋楽作品についての独り言やコメントをつれづれに掲載します。「新旧お宝アルバム!」「恒例グラミー賞大予想」など定期コラムが中心です。洋楽 ファンサイト、meantime(www.meantime-jp.com)のスピンオフ企画としてお楽しみ下さい。
【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#114「Congratulations...I'm Sorry」Gin Blossoms (1996)

 #114Congratulations...I'm SorryGin Blossoms (A&M, 1996)


後半日本選手のメダル獲得が相次ぎ尻上がりに盛り上がったピョンチャンオリンピックも終わり、次は3月4日(日本時間5日朝)の第90回アカデミー賞発表に注目が向かうところ。この週末はまた寒の戻りで冷え込んだ東京ですが、今週で2月も終わり、うちの庭の河津桜も大分咲いてきてそろそろまた春の感じが盛り上がって来そうな今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。

さて今週の「新旧お宝アルバム!」は、先週に続いて90年代以降新しい洋楽から離れてしまった皆さん向けに、素敵な90年代作品を一枚ご紹介。ストレートなロックンロールにポップでちょっと甘酸っぱさのあるメロディを乗っけて90年代半ばにブレイクしたアリゾナ州テンピ出身のバンド、ジン・ブロッサムズがメジャー・ブレイクの後、大きな困難を乗り越えて発表したアルバム『Congratulations...I'm Sorry』(1996)をご紹介します。


Congratulations Im Sorry 


90年代作品を改めて評価してみようシリーズ、第2弾。


90年代初頭のアメリカでのロックシーンの復活は、アメリカではシアトルのインディ・レーベル、サブ・ポップの草の根的なマーケティングが、ニルヴァーナ(英語読みではナヴァーナ)やパール・ジャム、サウンドガーデン、ストーン・テンプル・パイロッツといった今のロックシーンにも大きく影響を残している力のあるバンドの輩出と相まって大ブレイク、「グランジ」という確固たるサブジャンルを形成したことにより決定づけられました。その頃イギリスでは、80年代からスミスニュー・オーダーといった有力なバンドを輩出していたマンチェスターを中心に、ストーン・ローゼズハッピー・マンデイズといった、サイケデリアやアシッド・ハウスなど、ダンス・ミュージック的リズム要素を強調した新しいタイプのロック・バンドの台頭によるいわゆる「マンチェスター・ムーヴメント」による新しいスタイルのロックへの変貌が進行中でした。

このようにイギリスではダンス・ミュージック的な方向性へとロックが合流していった90年代でしたが、アメリカではダンス・ミュージック的な要素はもっぱらヒップホップやR&Bアーティストの分野に止まる一方、復活したロック・シーンは基本的に60年代70年代の伝統的アメリカン・ロックの流れを汲むルーツ・ロックやパワー・ポップ、あるいはカントリー・オルタナティブ的な方向にどんどん向かって行きました

先週このコラムでご紹介したカウンティング・クロウズなどはそのうちのルーツ・ロック方向に発展を見せて一時代を築いたバンドですが、今日紹介するジン・ブロッサムズは、そうしたルーツ・ロック的要素をベースにしながらも、よりメインストリームでシンプルなロックンロールによるパワー・ポップ的スタイルでブレイクしたバンドです。

gin-blossoms.jpg


彼らの音楽の魅力は、とにかく理屈抜きにストレートなギター・ロック的なスタイルと、ポップで時に甘酸っぱささえ感じさせるような素敵なメロディ・ラインが一体になった楽曲スタイル。ボーカルのロビン・ウィルソンの歌声はチープ・トリックロビン・ザンダーを思わせるような、甘さと力強さを備えた魅力を持っています。そしてこのアルバムでの彼らの演奏とロビンのボーカルはひたすらポジティヴで前向きなオーラを発散していますが、それは彼らを襲ったある不幸な出来事を乗り越えてのことでした

彼らは90年代初頭、何枚かのEPをリリースしてシーンの注目を集め始めた後A&Mと契約、初のフルアルバム『New Miserable Experience』(1992)とそこからのシングル「Hey Jealousy」「Found Out About You」(いずれも全米最高位25位)のヒットでブレイク。

しかしこの2曲の作者だったギタリストのダグ・ホプキンスがアルバム制作中にそのプレッシャーから過度な飲酒による鬱病になり、ブレイクしそうなバンドへの影響を懸念したレーベルのA&Mダグのバンドからの解任と楽曲ロイヤリティの半分放棄を強制。代わりのメンバーのスコット・ジョンソンを加えたバンドはツアーに出たのですが、1993年12月にダグが自ら書いた「Found Out About You」がチャート上昇している中、自殺により他界



残されたメンバーはこの悲しい出来事でかなりショックを受けたものの、協力して曲作りに没頭、1995年秋に封切りされた音楽コメディ映画『Empire Records』に新曲「Til I Hear It From You」を提供、シングルとしてリリース。そして1996年2月にリリースされた今回紹介の『Congratulations...I'm Sorry』からの「Follow You Down」と両A面シングルとして再リリース、全米最高位9位に上る彼ら最大のヒットとなったのでした

既にお分かりのように、このアルバムのタイトルに込められた意味は、前作でブレイクした自分たちへの祝福と、その一方で不幸な最期を迎えてしまったバンドメイト、ダグへの気持ちを表しているのです


こうした当時の状況を踏まえてこのアルバムを聴くと、ここに含まれた楽曲たちには当時の困難な状況を思わせるような暗さとか、陰鬱さといったものは皆無で、むしろ次のステップに向かって上がっていこうとするバンドの前向きでポジティヴな雰囲気がいっぱいな、ストレートでポップな(しかし軟弱ではない)ナンバーが並んでいます

オープニングの「Day Job」はこのアルバム中で最もハードなエッジのロック・ナンバーで、このアルバムへの彼らの意気込みを感じますが、続くラズベリーズあたりを思わせる「Highwire」、第一弾シングルでパワー・ポップなサビのコーラスと力強いバンドサウンドに絡むブルース・ハープの音色が印象的な「Follow You Down」、第二弾シングルでちょっとレイドバックしたギター・リフがサザン・ロック的な香りを漂わせながらメロディはラジオ・フレンドリーな「As Long As It Matters」と立て続けにジン・ブロッサムズらしい、アメリカのハイウェイを走りながらラジオで聴くとピッタリはまるような、素敵な楽曲が矢継ぎ早に繰り出されます。


90年代のCD時代なので全13曲とやや曲数が多い分だけ後半ややマンネリ気味になるのが難ですが、「Perfect Still」「My Car」「Virginia」「Whitewash」と次々に出てくる疾走感満点のパワー・ポップな楽曲たちや、珍しくカントリーやテックス・メックスの香りを漂わせるナンバー「Memphis Time」やマイナーコードで根音が半音ずつ下がっていくことでメロディ進行の深みを出している「Competition Smile」、そしてあのマーシャル・クレンショーとメンバーの共作による珠玉のポップ・ロック・ナンバー「Til I Hear It From You」で完結するこのアルバム、とにかく聴くだけで気持ちを高揚させてくれる、そんな快作です。


ギターのダグが半分の楽曲を書いていた前作『New Miserable Experience』に比べるとややギター・エッジの効いたハードなナンバーが少いのでは、といった一部の評価もあるようですが、むしろボーカルのビンとギターのジェシ・ヴァレンズエラ、そしてドラムスのフィリップ・ローズの3人が中心になって作ったこのアルバム、ダグのレガシーを充分に踏まえて更に楽曲のスタイルを発展的に昇華した、そんなクオリティの高いパワー・ポップ・アルバムになっていると思います。

Congratulations Im Sorry (back)


前回ご紹介したカウンティング・クロウズ同様、このバンドもその作品の良さに比してなかなか今語られることの少ないバンド。彼らはこのアルバムの成功の後、1997年に一旦解散しますが2002年にこのアルバムのメンバーで再結成、『Major Lodge Victory』(2006)、『No Chocolate Cake』(2010)と数年ごとにアルバムをリリース、現在も新作の最終段階にあるとのこと。新譜が出てもなかなか話題にはならないのでしょうが、彼らが一番の燦めきを放っていた頃のこのアルバムを聴きながら、新作の到着を待ちたいものですね。


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位10位(1996.3.2付)

スポンサーサイト

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#113「August And Everything After」Counting Crows (1993)

 #113August And Everythign AfterCounting Crows (Geffen, 1993)


ピョンチャンオリンピックでの羽生・宇野選手の金銀ワンツーフィニッシュで大変盛り上がった先週、そのオリンピックも終盤に向かい2月も後半になる中、外の気候は着実に春に向かって進んできているように思います。うちの庭の早咲きの河津桜はもうこの週末あたりからほころび始めました。春の到来楽しみですね。

今週の「新旧お宝アルバム!」は、どちらかというと春というよりは黄昏れた初秋、といった雰囲気をたたえる成熟した楽曲サウンドと、映画の一場面を切り取ったようなストーリー性の高い歌詞で構成された、とてもクオリティ高い楽曲満載の、90年代アメリカンロックの復興を当時担った代表的バンドの一つ、カウンティング・クロウズの名作の誉れ高いメジャー・デビュー・アルバム『August And Everything After』(1993)をご紹介します。


Counting Crows August Everything After 


90年代作品を改めて評価してみようシリーズ。


そもそもこのコラムや、Facebookで自分が展開している《Song Of The Day》の活動を始めるきっかけになったことなのですが、現在の洋楽聴取人口の過半数を占めていると思われるアラフィフから上、団塊の世代の皆さんが、往々にして大体1990年くらい、場合によっては80年代半ばくらい以降の作品・アーティストを聴こうという方が少ないという問題意識があります

ある意味致し方ないと思うのは、80年代に盛んに行われたシンセ打ち込みサウンド(ローランド社TR808、通称「ヤオヤ」やヤマハ社DX-7などが盛んに使われた)に支配された人工的でチープな楽曲や、創造性や楽曲構成力に乏しいアメリカのハートランド系やスラッシュ・メタル系のバンドがやたら跋扈したことで60・70年代から洋楽を聴いてこられたこの世代の方々の多くは大抵80年代後半には新しい音を追っかけるモチベーションを失って、それまでに発表された作品・アーティストによりどころを求めたという状況があったことです。事実自分もこの時期、一時会社派遣の留学で世俗的な生活を中断したこともあって、上記のような理由であまり洋楽を聴かない時期がありました。


ただ自分にとって幸運だったのは、そこから普通の業務に復帰した93年くらいにたまたま知り合った自分よりちょっと年下の「今のロック・R&Bを聴いている洋楽ファン」の友人たちと知り合い、洋楽ファンサークル「meantime」の運営メンバーの一人としてその時期の「今の音」も含めてどっぷり聴きこむ機会を得たこと。2006年くらいまで続いたこの「meantime」の活動が今の自分の年代やジャンルにこだわらず広くかつある程度突っ込んで洋楽を聴き続けることができるスタイルを作ってくれたと思っています。

先日同世代の洋楽ファンと話をしていて「90年代以降は聴いてないし、聴いて見たけどあまり合わないと思って昔の音ばかり聴いてる」というコメントがやっぱり出てくるのを聴いて、今週のこのコラムは「90年代に登場した素晴らしい作品を是非取り上げたい」ということでこのカウンティング・クロウズの名盤を取り上げた次第。このアーティストとアルバムも、93年当時知り合ったmeantimeのメンバーに教えてもらった作品の一つです。


Counting Crows


前置きが長くなりました。

カウンティング・クロウズのサウンドを一言で表現するのはなかなか難しい。全盛期はラスタヘアーかと思うようなボリューミーで個性的な髪型とちょっとポチャッとした体型からはなかなか想像できないような、心の奥底に訴えてくるような情感たっぷりのボーカルを聴かせるリードボーカルのアダム・ドゥーリッツの個性的な歌唱スタイル。アコースティック・ピアノやハモンドオルガンに加えてアコーディオンの音色が、とてもセピア色でボヘミアンな雰囲気を醸し出す独得の楽器構成。それでいて演奏の軸はしっかりとしたギター、ベース、ドラムスのバンドサウンド。そして極めつけは半分以上の楽曲を書くアダムの、物語を語るかのようなストーリー性が高く、孤独や満たされぬ愛情ややさぐれた気持ちなどを一流の歌詞に乗せてくる表現力。そして何よりもこうした楽曲や演奏、歌唱のスタイルが、80年代のアメリカンロックの典型的なスタイルとは対極的で、むしろ70年代初頭のスワンプやブルーズ、そして今風にいうとザ・バンドに代表されるようなアメリカーナなサウンドに根差していること。


そしてこういうアルバムを作らせたら天下一品のプロデューサー、T-ボーン・バーネットの下、とてもこれがメジャーデビュー作とは思えないほどの成熟した叙情性満点の素晴らしい楽曲群を聴かせるこのアルバム、中でも最も有名なナンバーはリード・シングルとしてラジオ・リリースされて、ビルボード誌エアプレイ・トラック・チャートでも最高位5位の大ヒットとなった3曲目の「Mr. Jones」(当時ビルボード誌Hot 100はフィジカル・シングルの出ない曲はチャートインさせなかったので、この曲のようにラジオエアプレイによるメガヒットはチャートインすらしなかったという事情あり)。

初期のビリー・ジョエルエルトン・ジョンの楽曲の歌詞構成を彷彿させるようなトルバドゥールで饒舌な歌詞の奔流が、エフェクトも何もないギターストロークで始まってだんだんにテンポと楽器を加えていって、ブリッジでは耳に残るサビメロにドライヴされた楽曲としてのカタルシスに達するという、およそ80年代では考えられないスタイルの楽曲。

そして歌詞の内容は、アダム自身と彼の昔からのバンド仲間のマーティ・ジョーンズ(Mr.ジョーンズ)が、サンフランシスコのニュー・アムステルダムというバーでビッグ・スターになる夢を語りながら、Mr.ジョーンズの父親のフラメンコ・ギタリストの弾くギターに合わせて踊る黒髪のフラメンコ・ダンサーを眺める、といった正に映画の一場面のような設定



「Mr.ジョーンズと僕は将来の夢を見ている

そして美しい女達を見つめてる

『ほら、あの娘、君をみてるぜ。違う違う、僕の方を見てるんだ』

明るいスポットライトに立って、僕は灰色のギターを買った

誰もが自分のことを好きなら、寂しくなることも決してないだろう」


この他にもピカの絵への言及や、ボブ・ディランになりたいなんていう歌詞も飛び出すこの曲は、ちょうどNYの留学から帰ってきて日本で日常の仕事の毎日に戻って、何を聴くべきだろうと途方にくれていた自分の耳にすーっと入って来た。ちょうど1992~93年頃というのは、このカウンティング・クロウズの他にも、ブラック・クロウズィランの息子のジェイコブ率いるウォールフラワーズといったような、この後90年代を通じてアメリカン・ロック・シーンを背負っていく新しいバンド達が勃興した時期。その中でちょっとユニークなスタイルのカウンティング・クロウズのサウンドはとても鮮烈に写ったものでした。



アルバムには他にも、夜明けのように静かなエレクトリック・ギターのつま弾きからだんだんに盛り上がっていく、「Mr. Jones」に似た構成で、ナッシュヴィルからやって来たマリアのことを歌うオープニング「Round Here」、アコーディオンが効いてて、典型的アメリカ中西部のネブラスカ州の一都市のことを歌ってるとは思えない「Omaha」、ハモンドオルガンの音色と音数を抑えたギターのつま弾きからサビにかけてレイドバック調に盛り上がるあたりが快感の「Time And Time Again」、マンドリンのイントロがちょっとREMの曲を想起させるけど、曲に入るとストレートなミディアム・テンポのロックの「Rain King」、ゆったりとしたギターのストロークに時々絡むピアノの音色とアダムのボーカルが楽曲全体のスケールの雄大さを演出している「Sullivan Street」、そしてアルバムラストでいきなりギターロックっぽいギターストロークを基調とした、彼らにしてはとてもストレートなロックナンバーながら「人生はあらゆる可能性に満ちているけど、下手をすると小さい時に思ってたよりずっとつまらなく、場合によっては残酷な結果になるから、そうならないように変化を常に求めてそういう連鎖を止めて行かなければいけないんだ」と歌う「Murder Of One」など、今聴いても、70年代のロックの名盤達と全く遜色ない、いやむしろ瑞々しくも新鮮な素晴らしい楽曲でいっぱいです


彼らはこのアルバムの成功で、1996年にはやはり「Goodbye Elisabeth」「A Long December」といったヒットもした名曲を擁するセカンド『Recovering The Satellites』をリリース、90年代を代表するアメリカンロックバンドの一つとしてシーンでの地位を確立。

アダム達はその後も自分たちの音楽スタイルを維持し、その後はこの2枚ほどの商業的成功にはつながらなくとも、4~5年に1枚くらいのゆっくりとしたペースで質の高いアルバムを出し続けて、現在も活動を続けている。現状では最新作となる通算7枚目の『Somewhere Under Wonderland』(2014)もちゃんとアルバムチャートのトップ10に入るヒットになってるし、評論家筋の評価もかなり高いようだ。


Recovering Satellite


同じ頃に90年代のアメリカンロック復興に貢献した他のバンドたち、例えばパール・ジャムらのグランジ系や、先ほど名前の出たブラック・クロウズ、ウォールフラワーズ、そしてよりインディーなベン・フォールズ・ファイヴらに比べると、なぜかカウンティング・クロウズというのは比較的最近語られることが少ないように思ってやや残念

90年代以降の音楽を聴かないシニア洋楽ファンだけでなく、最近洋楽を聴き始めた若い洋楽ファン達も是非これを機会に、カウンティング・クロウズというとてもいい楽曲を聴かせてくれるバンドを「発見」してもらえればこんなに嬉しいことはない


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位4位(1994.4.2付)

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#112「Gumbo」PJ Morton (2017)

#112GumboPJ Morton (Morton Records, 2017)


まだまだ北陸や新潟では豪雪が続いていて大変な状況が続いているようで、地元の皆さんのご苦労、心よりお見舞い申し上げます。一方関東では立春を過ぎたあたりから、日差しや空気の感じが少しずつ春に向かって変わり始めていることを感じさせてくれる日々が続いています。裏日本の皆さんも含めて春はそこまで来ているということで、もう少しの辛抱ですね。体調など崩されないよう、呉々もご自愛下さい。


今日はそうした早春の匂いを感じさせるような、有機的な暖かいボーカルと楽曲を聴かせてくれるアルバムをマルーン5のキーボーディストとしても活躍する一方、自分の故郷のニューオーリンズをベースに自らのレーベルを立ち上げてそこからリリースしたアルバムが、先日のグラミー賞にもノミネートされたR&Bシンガーソングライター、PJ・モートンのアルバム『Gumbo』(2017)をご紹介します。


PJ Morton Gumbo 


父親がニューオーリンズ地元のバプティスト教会の司教でゴスペル・シンガー、母親がやはり牧師という日常に宗教的な環境がある中で育ったPJがミュージシャンとしてその才能を広く知られるようになったのは、2010年、29歳の時に友人に勧められて受けたマルーン5のキーボーディスト兼バックシンガーのオーディションで高い評価を受けた時というから結構遅咲きのアーティスト

それまでもインディー・レーベルから4枚のアルバムを出していたものの脚光を浴びることのなかったPJマルーン5の正式メンバーとなることでより広くそのパフォーマンスを知られることになり、2012年にはドレイクなどを擁するメジャーレーベルのヤング・マネーと契約、翌年リリースしたメジャー・デビュー作『New Orleans』(2013)からのスティーヴィー・ワンダーをフィーチャーしたシングル「Only One」がその年の第56回グラミー賞の最優秀R&Bソング部門にノミネートされるというブレイクを果たします

自分がPJの作品と巡り会ったのはこの『New Orleans』が始めてで、きっかけはやはりグラミーのノミネートを見て「?誰だろうこれ」と思ったこと。聴いてみたところ、そのスムーズでオーガニックな70年代R&B然とした楽曲がすっかり気に入ってしばらくよく聴いていました。


PJ Morton New Orleans


その後しばらく名前を聴かずすっかり忘れていたところ、先日の第60回グラミー賞で、この『Gumbo』が最優秀R&Bアルバム部門、そしてアルバム冒頭収録の「First Began」が最優秀R&Bソング部門にノミネートされているのを見つけ「おーPJモートンまた出してるのか」と喜んで聴いてみたところ、これがなかなか素晴らしい作品なので今回取り上げることにした次第。

先日のカブキ・ラウンジでのグラミー賞予想イベントでご一緒した吉岡正晴さんも最近お気に入りでよく聴いているというこのアルバム、まず聴いてすぐ気が付くのが、PJの歌い回しやメロディ・コード展開など楽曲構成が、もろスティーヴィー・ワンダーを思わせること。前作の『New Orleans』でも、スティーヴィーをフィーチャーした曲があったくらいで、もともと歌い口がスティーヴィーっぽいという特徴はあったのですが、今回は、それを遠慮することなく、ひょっとしてかなり意図的にスティーヴィーっぽさを前面に出している印象があります

こういうアプローチについては好き嫌いあるのでしょうが、PJの場合ただの物まねや、あざとさは一切なく彼自身のスタイルの一つの表現方法として成功していると思いますし、スティーヴィーに代表される70年代半ばくらいまでの有機的なR&Bがお好きな向きにはたまらない内容になっていて、このアルバム気にいって頂けること請け合いだと思います。



もし僕が死んだら、また始めて君と会った頃のように別の世界で君と巡り会って、同じように恋に落ちよう、と暖かく歌う冒頭の「First Began」は歌い出しはジョン・レジェンドっぽいなあ、という感じなのですが、途中でボーカルをフェイクさせるあたりから、もうめっきりスティーヴィー(笑)。フェンダーローズを基調にウォーキング・リズムを刻む楽曲は例えようもない懐かしさを感じさせます。中間部分にニューオーリンズ同郷の若手ラッパー、ペルをフィーチャーした「Claustrophobic」も、『ファースト・フィナーレ』あたりでスティーヴィーが多用していたムーグ・シンセサイザーっぽいキーボード音をベースにしたミドル・シャッフルの気持ちいい曲。ペルのラップが結構効いていて、単なるスティーヴィー・コピー曲になるのをうまーく抑えてるのがいい所。

Sir Duke」や「As」みたいなキーボード・リフがご機嫌でファンキーな「Sticking To My Guns」も楽しいし、ストリングス・シンセとムーグっぽいキーボードで切々と歌う「Religion」や「Alright」も聴いててひたすら気持ちいい。



新進気鋭の若手R&Bシンガー、BJ・ザ・シカゴ・キッドとコーラスグループのハミルトーンズをフィーチャーした「Everything's Gonna Be Alright」でちょっとカーク・フランクリンのゴスペル・クワイアのパフォーマンスを彷彿させるアップテンポの楽曲を聴かせてくれるあたりは、PJのゴスペルのバックグラウンドを強く感じさせますが、続く「They Gon' Wanna Come」では再びスティーヴィー・モードに回帰(笑)。『キー・オブ・ライフ』あたりに入っていてもちっともおかしくないミディアム・バラードのこの曲も理屈抜きのグルーヴが心地良い一曲。このアルバムでは一番スティーヴィーの意匠を感じさせない「Go Thru Your Phone」を経て、アルバムは何とあのビージーズの「How Deep Is Your Love」をミディアム・アップの軽快なアレンジでR&Bグルーヴ満点に料理したパフォーマンスでクロージングに。ここまで9曲わずか29分という最近のアルバムにしては大変短いですが、楽曲クオリティが極めてどれも高くて、最優秀R&Bアルバムにノミネートされる資格充分といったところです。



今回、自らの出自であるニューオーリンズの名物料理、ガンボをアルバムタイトルにした理由について、PJ自身は「ソウル、ゴスペル、ジャズ、ポップ、ロックといったいろんな要素と楽曲スタイルをごっちゃにして作った、正しく自分に取ってガンボ・スープみたいなアルバムだから」と語っているように、スティーヴィーの意匠の下に聞こえてくる楽曲はさまざまな音楽スタイルをハイブリッドにしたものであり、それがアルバム全体のトータル感と楽曲クオリティを高くしている大きな要素のように思えます。



PJ Morton 

また、いわゆる最近のメインストリームR&Bがシンセや打ち込みを駆使して浮遊感は満点ながら、下手をするとどこか冷たいグルーヴを感じさせるものが往々にしてある一方、ここでPJが聴かせてくれる楽曲やサウンドは、それに対峙する形で耳に暖かくて懐かしさを感じさせてくれるものであり、ある意味で今のR&Bのあり方の別の形を提示しているように思いますし、それがグラミーのノミネートにも現れたのだと思います。

梅や河津桜のつぼみが日々膨らんできている今日この頃、こういう春の到来を期待させてくれるような暖かいR&B作品、いかがでしょうか。


<チャートデータ> チャートインせず

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#111「Little Stevie Orbit」Steve Forbert (1980)

#111Little Stevie OrbitSteve Forbert (Nemperor, 1980)


予想を上回る圧倒的なブルーノ・ナイトとなったグラミー賞の発表も終わり、アウォード関係ではあと3月初旬のアカデミー賞の発表を残すのみ。大谷エンジェルスのキャンプに向かい、一時期の凍り付くような東京の寒さもこの週末でちょっと和らいだ感じのあるここ最近、2018年も早くも1/12が終わって2月になりました。ここからは日々少しずつ春が遠くから近づいてくる気配を感じられる、そんな時期

今週の「新旧お宝アルバム!」は、そんな季節に聴くにはぴったりの、都会で生きる厳しさと荒涼感の向こうにほのかに暖かさを感じさせるような、そんな珠玉の楽曲を淡々と、しかし時にはエモーショナルに歌うシンガーソングライター、スティーヴ・フォーバートが、あの大ヒット曲「ロミオの歌」を含むアルバム『Jackrabbit Slim』(1979)でブレイクした後すぐさまリリースしたアルバム、『Little Stevie Orbit』(1980)をご紹介します。


LittleStevieOrbit.jpg


あの印象的なピアノのイントロで一気に聴く者のハートを鷲づかみにするヒット曲「ロミオの歌(Romeo's Tune)」(1980年全米最高位11位)でスティーヴを知った当時の洋楽ファンは多かったと思います。当時日本のFMでもよくプレイされていて、初期のビリー・ジョエルをもう少しラフでブルージーにしたトルバドゥールな感じの作風と、イケメンではないけど個性と魅力いっぱいのルックス、そしてあのかすれ声だけどエモーショナルなボーカル・スタイル。ミシシッピ州からNYに出てきて、2枚目のアルバムでブレイクしたというサクセス・ストーリーも彼への魅力をかき立てるものでした。


そんなスティーヴが、ある意味「ロミオの歌」の成功をリセットしたいとでもいうように、1年を空けずに発表したのが今回ご紹介する『Little Stevie Orbit』。ブレイクした前作『Jackrabbitt Slim』では、あのザ・バンドの『Music From Big Pink』(1968)やジャニス・ジョプリンの『Cheap Thrills』(1968)など、ルーツ・ロックのクラシックといえる数々の作品を手がけたジョン・サイモンをプロデューサーに迎えて、アルバム全体が大変手堅くまとまっている印象のアルバム作りをしていたのですが、この『Little Stevie Orbit』ではそのジョン・サイモンとは袂を分かち、ホワイトスネイクロマンティックス、モーターヘッドといったハードなロック・バンドとの仕事で知られる元プロコル・ハルムのピート・ソリーをプロデューサーに迎えるという大胆な路線変更をしています。


Steve Forbert 

よりハードエッジなロック色の強い音を得意とするピーターと作られたこの『Little Stevie Orbit』、オープニングはあの「ロミオの歌」同様アップテンポなピアノの音で始まる「Get Well Soon」ですが、ピアノもブギウギのリフをバックで叩きつけていて、楽曲のスタイルはポップなものからよりロック色を感じさせるパンチの効いたもの。それでいてスティーヴのトルバドゥール的な魅力満載の楽曲になっています。







2曲目の「Cellophane City」は控えめなバンドの演奏が刻んでいるのはレゲエのリズムですし、「Song For Carmelita」や「Song For Katrina」はウォーキング・リズムのカントリー・フォークっぽい、ちょっとディランを思わせる楽曲たちですが、そこに乗っているメロディと歌詞は紛う方なきスティーヴ・フォーバートの世界。

Laughter Lou (Who Needs You?)」くらいから、前回のアルバムのソロの弾き語り的スタイルから、うねりのあるバンドの演奏をバックに軽快にあのボーカルを繰り出すスティーヴの魅力が全開となります。アルバムのバックを固める主要メンバーは前作とあまり変わっていないのですが、よりバンドサウンド的に聞こえるのは、プロデューサーの仕事の違いでしょうか

そしてレコードだとA面ラストを飾る「One More Glass Of Beer」はお客が帰ってしまってがらんとしたバーラウンジかどこかで、ピアノと抑えめのオルガンをバックにスティーヴがギター一本で切々と歌い、後半からはストリングも入ってきて盛り上がって終わる、という印象的な楽曲。



アルバムB面はディラン的なスタイルで、アコーディオンをバックにブルース・ハープを吹きながらちょっとジプシー民謡風に歌う「Lucky」でスタート。カッチリしたリズムセクションとラグタイム風のピアノとオルガンが、ちょっと南部的なサウンドを思わせるバンドサウンドをバックに歌う「Rain (Philadelphia Rain)」などはスティーヴのミシシッピ出身というR&Bやブルースをルーツに持つ作風を如実に表した魅力たっぷりの曲。




そして、おそらくプロデューサーのピーターのアイディアだと思われる、ハートランド・ロックっぽいエレクトリック・ギターのコードリフを印象的に配してこちらもロック色を前面に出した「I'm An Automobile」や、「いいレコードがなぜいいか、パーティーで女の子が君に話しかけてきた理由がなぜか/あんた何でそんな質問するの、ええ?/聞かなきゃわからないくらいだったら一生わかんないぜ」とパンチの効いた歌詞を軽快なリズムに乗せていかにもスティーヴらしいメロディというか喋りで聞かせる「If You've Gotta Ask You'll Never Know」など、B面も魅力満載の楽曲でいっぱい。



アルバムはちょっとスティーヴらしくないギターソロで始まるけど、楽曲に入ると一気にスティーヴのトルバドゥールっぽい世界になる「Lonely Girl」、そして静かにアコギを掻き鳴らしながら、ちょっと昔のドゥーワップっぽい楽曲スタイルからこのアルバムのテーマでもあるバンドサウンドになだれ込んで行くあたりがいい感じの「A Visitor」で幕を閉じます。


アルバム全体を聴くと、前作に比べて一曲一曲の楽曲の魅力が非常に際立っていて、メリハリが効いている印象ビリー・ジョエルとのアナロジーを許して頂けるのであれば、前作がスティーヴの『The Stranger』(1977)とするならば、このアルバムはその2作前の『Streetlife Serenade』(1974)という感じで、スティーヴは前作の成功でビリーが『52nd Street』(1980)に進んだように一気に商業的に突き進むのではなく、今一度自分のルーツ的なサウンドに立ち返って、それを更に研ぎ澄ましたのがこのアルバム、と言う印象です


Little Stevie Orbit (back)


残念ながらこのアルバムは前作ほどの商業的成功は得られず、このアルバムからのシングルヒットも出ていません。最初からシングルヒットを狙うのではなく、自分の立ち位置を確認して高めるためのアルバムだったとすればある意味当然だったと思いますし、スティーヴ自身もそれは百も承知だったに違いありません。

その後スポットライトの当たる場からはめっきり姿を消してしまった感のあるスティーヴですが、実はその後も2~3年に1枚ずつというコンスタントなペースで新作を発表し続けていて、シーンからは堅実な評価を得続けています。1985年にはナッシュヴィルに移住して、以降カントリー・コミュニティとの交流も深めており、カントリーの巨人、ジミー・ロジャースに対するトリビュート・アルバム『Any Old Time』は2004年のグラミー賞で最優秀トラディショナル・フォーク部門にノミネートされたり、2007年にはキース・アーバンが「ロミオの歌」をカバーするなど、着実な活動を続けていて今でも健在です。


2016年には18作目のアルバム『Flying At Night』を発表、今も地に足の着いた音楽活動を続けているスティーヴが、メディアやシーンの注目の的になっていた時期に、自らの音楽表現の矜持を維持しながらいい作品を作ろうとしたこのアルバム、今のような気候の時期に聴いて頂くと「ああ、春もそんなに遠くないなあ」と思わせてくれる、そんな作品です


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位70位(1980.11.15付)

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

copyright © 2018 Life Is A Rock - 洋楽こそ我が人生 all rights reserved.
Powered by FC2ブログ.