Life Is A Rock - 洋楽こそ我が人生
洋楽全般について、英米ヒット・チャートに登場有無に関係なく、お気に入りの洋楽作品についての独り言やコメントをつれづれに掲載します。「新旧お宝アルバム!」「恒例グラミー賞大予想」など定期コラムが中心です。洋楽 ファンサイト、meantime(www.meantime-jp.com)のスピンオフ企画としてお楽しみ下さい。
【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#121「Mental Illness」Aimee Mann (2017)

 #121Mental IllnessAimee Mann (SuperEgo, 2017)


先週も連日の夏日、週末当初は雨の予報でしたがそれもどこかに行って正に五月晴れというにふさわしい素晴らしい天気でした。この週末はいろんなアクティヴィティで存分に五月の爽快な天候を楽しまれた方も多かったと思います。


さて今週の「新旧お宝アルバム!」は、80年代にティル・チューズデイのリード・ボーカルとしてシーンで地位を確立した後ソロに転じ、90年代以降コンスタントに自らのインディ・レーベル、スーパーエゴから着実にアルバムをリリース、自らの心情を率直に歌う楽曲を通じて高い評価を得続けているエイミー・マンが、昨年5年ぶりにリリースしたアルバム『Mental Illness』(2017)をご紹介します。


Aimee Mann Mental Illness 


このアルバムの前作になる『Charmer』(2012)はどちらかというと元気のいいポップ・ロック風の作品だったのですが、この『Mental Illness』は一貫してアコースティックで、物静かで、思索的で、ストリングスが多くの楽曲でフィーチャーされている、どちらかというとムーディーなアルバム

加えてタイトルも決して明るくないですし、多くの楽曲の題材が人生における後悔や現状を嘆くようなものであり、エイミー自身も「これまで自分が作った作品の中で最も悲しく、スローで、アコースティックなアルバム」と言っているように前作とはいろんな意味で対照的な作品です。

Aimee-Mann.jpg 




実際このアルバムの制作中、彼女のマネージャーはもっとアップテンポな曲を書くように迫ったらしいのですが、彼女は「今の感情を表現するにはこれしかない」とアルバム制作のアプローチを変えなかったといいます。

結果、ここで聴けるのは、人生の悲しい状況の数々に対する、シンガーソングライター、エイミー・マンの偽りのない感情の吐露と、そのようなテーマでありながら決してダウナーに落ち込んで行かず、むしろ「人生にはいろんな悲しいこともあるけど、悲しんでばかりいずに生きて行きなさい」と、トンネルの先の小さな光にエイミーが導いてくれているような、そんな不思議な満足感を与えてくれる、美しい楽曲が宝石箱のように目の前に広げられる、そんなイメージを与えてくれる作品です


アルバムのファーストシングルとなった冒頭の「Goose Snow Cone」はエイミーがアイルランドツアー中の雪の日にホームシックになって、インスタグラムで友人のグースという名前の猫の写真を見ていて書いたという曲。静かにほとんどアコギの爪弾きとコーラスだけをバックにゆっくりと流れていく、孤独について歌ったこの地味と言ってもいい曲のスタイルがほぼ一貫してアルバム最後まで続きます

ワルツのリズムでアコギとオルガンをバックに、エイミーのフォーキーなボーカルで過去の過ちを振り返る「Stuck In The Past」、春のそよ風のようなメロディで、相手がもともと自分のことを愛してなどいなかった、と淡々と歌う「You Never Loved Me」などなど、アルバム冒頭から流れるようにシンプルながら聴く者を引き付けるエイミーの楽曲が続きます。



このアルバムで最も「ロック」っぽいアレンジながら、ザ・バンドの最もスローな曲よりもレイドバックな感じで、知り合って大分経ってから実は双極性障害だったと分かった友人の過去の行動や発言の不可解さがやっと理解できた、と歌うというなかなかヘヴィなテーマの「Lies Of Summer」から、こちらもこのアルバムの中では最もサウンド・プロダクションが施され、そこはかとないフォーキーなポップさが魅力の「Patient Zero」、ピアノの弾き語りで70年代初頭のシンガーソングライター然とした印象深いメロディが素晴らしい「Good For Me」、トルバドゥール風のアコギストロークをバックに夢見るように流れるメロディが、「あなたはもう彼女をものにするチャンスを台無しにしたんだから、もういい加減に諦めなさい」という歌詞となかなかミスマッチな「Knock It Off」といった、中盤の楽曲群がこのアルバムの中でもハイライトと言っていいでしょう



アルバムの後半もムーディながら、それでいて聴く者を引き付ける楽曲は続き、最後の「Poor Judge」は男女関係の素晴らしいスタートから、関係破綻後にそれまでのそれぞれの「まずい判断」の数々を振り返るという、このアルバム全体を象徴するほろ苦い、ピアノの弾き語りとストリングがゴージャスにコラボする楽曲。全編39分という長さがあっという間に終わってしまった、という感じを残してアルバムは完結します。



こんな地味で、そして内省的でムーディーな作品でありながら、このアルバム発表直後からシーンでの評価は高くローリング・ストーン誌MOJOなどいくつかの有力音楽誌の2017年の年間アルバムリストにもランキングされ、更には今年1月発表の、第60回グラミー賞の最優秀フォーク・アルバム部門を見事受賞、彼女に取って初の作品グラミー(第48回で最優秀レコーディング・パッケージ賞を受賞したことあり)となり、改めてエイミーの名前に注目が集まることになりました。


Mental Illness (Back)


しかしおそらくこの受賞や各誌の反応があっても、エイミー自身は自分の心情や創作意欲に正直なアーティスト活動を今後も続けていくことでしょうし、そうした彼女の次の作品がどのようになるのか、興味が尽きないところです

それまでの間、風薫る五月の天気を楽しみながら、エイミーの心に染み入るようなこのアルバムを楽しんでみてはいかがでしょうか。


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位54位(2017.4.22付)

同全米ロック・アルバム・チャート 最高位7位(2017.4.22付)

同全米アメリカーナ・フォーク・アルバム・チャート 最高位4位(2017.4.22付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#120「Love Has Got Me」Wendy Waldman (1973)

#120Love Has Got MeWendy Waldman (Warner Bros., 1973)


先週の寒々しい雨空からまた一気に暖かい日々が続いたこの週末、いよいよ音楽を存分に楽しむには絶好の季節になってきました。MLBシーズンも佳境に入り、大谷選手も連日の活躍の様子が頼もしい限り。あとはMLBファンとしてはダルヴィッシュの早期の復活を望みたい今日この頃です。


さて今週の「新旧お宝アルバム!」は、久しぶりに1970年代のアルバムを温故知新。70年代初頭から特にウェストコースト・シーンを中心にシンガーソングライターやセッション・ボーカリストとしての多彩な活動を続け、近年も元気に活動を続ける、ウェストコースト・ロック・ファンにはお馴染みの女性シンガーソングライター、ウェンディ・ウォルドマンのデビュー・ソロ・アルバム『Love Has Got Me』(1973)をご紹介します。


Love Has Got Me 


このコラム、ここのところ女性アーティストを続けて取り上げていますが、やはりこういう爽やかな季節になると心に染みる女性アーティスト達の作品に針を落としたくなるのも必然ということで


ウェンディ・ウォルドマンといえば、古くからのウェストコースト・ロック・ファンの間では、まだメジャーブレイクする前のカーラ・ボノフ、アンドリュー・ゴールド、そして後にカーラリンダ・ロンシュタットのバック・バンドの主要メンバーとして、またウェストコーストの重要セッション・ミュージシャンの一人として活躍するケニー・エドワーズと4人によるグループ、ブリンドルで70年代初頭活動、その後リンダアンドリューらのアルバムのセッション・ボーカリストとして、またマリア・マルダーランディ・マイズナーらのアルバムに曲を提供するソングライターとして、つとに有名なアーティスト。

しかし彼女自身はこれまで商業的成功のスポットライトを浴びたことはほとんどなく、唯一1992年にヴァネッサ・ウィリアムスが歌って全米1位、そしてその年のグラミー賞レコード・オブ・ジ・イヤーソング・オブ・ジ・イヤーにノミネートされた「Save The Best For Last」(以前このコラムでご紹介したフィフス・アヴェニュー・バンドジョン・リンドとの共作)の成功くらいです。それでも彼女の織りなす、フォークやラテン、R&B、オールド・タイム・ミュージックといった様々な要素が一体となった心和ませる楽曲と、ナチュラルな歌唱スタイルのボーカルが、古くからのSSWファンのみならず、同僚のミュージシャン達をも魅了し続けてきました。


Woke Up This Morning


そのウェンディブリンドルが録音したアルバムもリリースできずに、シングル1枚のみで解散した後にメジャーのワーナーと契約、リリースしたのが今日ご紹介する『Love Has Got Me』。後に『Born In The U.S.A.』(1984)ほか80年代のブルース・スプリングスティーンの一連のヒットアルバムを手がけてその名を馳せることになるチャック・プロトキンがプロデュースを手がけた初期のアルバムになるこの作品、ウェンディの楽曲やパフォーマンス・スタイルをいかに引き立たせるかということに気を配っていることがよく分かるアルバム作りで、全体素晴らしい作品に仕上げています。もちろん曲は全曲ウェンディの自作。

そしてバックを固めるのはこの時期のウェストコーストの名うてのミュージシャン揃いで、リー・スクラー(ベース)とラス・カンケル(ドラムス)のザ・セクションのリズム隊やケニー、アンドリューブリンドル仲間達を中心に、面白いのはクルセイダーズのサックス奏者、ウィルトン・フェルダーがB面の6曲全曲でベースを担当していること。この頃はまだウィルトンはウェスト・コーストのスタジオ・ミュージシャンとしての仕事が多かった時期で、あのジャクソン5の「I Want You Back」のベースもウィルトンの仕事だというのはよく知られたところです。つまりウェンディのバックは誠に手堅いミュージシャンで固められていた、というのもこのアルバムの完成度を高めている重要な要因でしょう。



ケニーのつま弾くマンドリンで優しく始まって、ちょっとリンダ・ルイスを彷彿させるようなエキゾチックなメロディ展開とボーカルスタイルで徐々に楽曲を盛り上げていく冒頭の「Train Song」、後半のアンドリュー・ゴールドの控えめなギターソロやオルガンをそこはかとなく配するあたり、取りあえずウェンディの音楽スタイルのあらゆる側面を少しずつ聴かせてくれる、そんなアルバムオープニングにはふさわしい曲です。

ウェンディの楽しそうな笑い声で始まり、ウェンディのピアノと、TVや映画音楽作曲で有名なお父さんのフレッド・シュタイナーがアレンジしたストリングスとが、ちょっとジャズっぽいコード進行?と思えるような独得なメロディを操りながらちょっとエキゾチックな感じのバラードになっている「Thinking Of You」は一転70年代SSWらしい雰囲気を演出。

そしてこのアルバムでも3曲でバックボーカルに参加している、「真夜中のオアシス」で有名なマリア・マルダーがアルバム『Waitress In A Donut Shop』(1974)でカバーしていた、マリアッチ風味の異国情緒満点のオールド・タイミーな楽しいナンバー「Gringo En Mexico」で、ウェンディの多彩な作品スタイルの魅力にぐっと持って行かれます


ウェンディのピアノだけの弾き語りで叙情的で力強く、自然との対話を表現したミディアムの「Horse Dream」、アコギのややラフなストロークからちょっとテックス・メックス風のシャッフルに展開していく「Can't Come In」、そしてまた父フレッドのアレンジによる、アコーディオンをフィーチャーしたクラシックでムーディーな「Pirate Ship」でA面はしっとりと一旦幕を閉じます。



B面は、いかにもカリフォルニアの70年代のSSW然とした、クリアな青空を連想させるアップビートな「Old Time Love」でスタート。続いてウェンディの本領発揮たる、オールド・タイミーでガーシュインとかの時代の音楽を連想させる「Vauderville Man」は、こちらもマリア・マルダーがこのアルバムと同時期リリースのデビューアルバム『Maria Muldaur』(1973)でカバーしていたナンバー。そう考えるとこういう曲でのウェンディのボーカルにはマリアに共通するような、エキゾチックなセクシーさがほんのり感じられます。続く「Lee's Traveling Song」は「ライオン・キング」とか「ターザン」とかのアニメ映画の挿入曲にぴったりでは、と思わせるような曲調。

このアルバムもう一曲のいかにもカリフォルニアのSSW然とした洒脱なナンバー「Natural Born Fool」に続いて、ごくごくシンプルな、ほとんどジャズ・カルテット的な楽器構成と押さえた音数で、ふわっとしたイメージで聴かせるバラード「Waiting For The Rain」でぐっとテンションを落としたアルバムは、初期リンダやカーラ・ボノフのファーストなどによく聴かれたマイナー調のメロディにシンプルなアコギやエレピが絡む、それでいて力強いボーカルのサビが印象的なアルバムタイトルナンバーで静かにエンディングとなります。


ウェンディはこのアルバムに続いて、同じくチャック・プロトキンのプロデュースで、今度はマッスル・ショールズ・スタジオで全面的に録音された、R&B・スワンプ風味満点のこちらも素敵なアルバム『Gypsy Symphony』(1974)、その2枚から一転してややムーディで地味ながらウェンディの楽曲が光る『Wendy Waldman』(1975)など、ワーナーから5枚のアルバムを出しましたが、いずれも商業的には結果が出ず、ウェンディワーナーを離れて1982年にはナッシュヴィルに移住、以降80~90年代は、自らの作品は3枚のみでもっぱらカントリー・アーティストを中心にした他のアーティストへの楽曲提供活動を続けました

この時期に彼女が最も商業的成功に近い所まで行ったのは、あのドン・ジョンソンの「Heartbeat」(1986年全米5位)をあのエリック・カズと共作してヒットさせたことくらい。この曲は彼女自身のアルバム『Which Way To Main Street』(1982)に収録されていたのを取り上げられたものでしたが、このアルバムは80年代のシンセ打ち込みサウンド満載で当時のウェンディファンの期待に応えるものではなかっただけに皮肉なものです。


Love Has Got Me (Back)


近年、1995年にはあのブリンドルを再結成してアルバム発表、ツアーもしたり、2002年には同じメンバーで『House Of Silence』を発表。2007年には女性ロッカーのシンディ・バレンズらとザ・レフュジーズなるバンドを結成してアルバムも3枚リリースしたりと、少なくとも様々な形での音楽活動は継続している様子。

しかしブリンドル時代以来のウェンディ・ファンにとっては、またあの瑞々しくもややエキゾチックなウェンディの作品やボーカルを聴きたいところ。そういった、この5月の爽やかな気候にぴったりな彼女の新作を期待しながら、今はこのアルバムを楽しみことと致しましょう。


Bryndle 1995


<チャートデータ> チャートインなし

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#119「Beth Nielsen Chapman」Beth Nielsen Chapman (1990)

 #119Beth Nielsen ChapmanBeth Nielsen Chapman (Reprise, 1990)


今年のゴールデンウィークは全体通じて基本素晴らしい天気の日々が続いてとても気持ちのいい休日を過ごされた方も多かったでしょう。自分も初日に高尾山系を縦走するハイキングで五月の素晴らしい新緑を満喫してきました。一方今日あたりは長い連休が終わって仕事に戻り、GWロスでどんよりしている方も(笑)多いことでしょう。


さて今週の「新旧お宝アルバム!」は、またちょっと90年代シリーズに戻って、90年代に多く登場したシンガーソングライター系のアーティスト達の中でも、メインストリーム系の商業的な成功はなかなか得られなかったものの、カントリー系を中心に多数のアーティスト達に素晴らしい楽曲を提供したり、その後に現れたポップ・メインストリームやアメリカーナ系を中心とした数々の女性アーティスト達に大きな影響を与え、今でも根強いファンを多く持っている女性シンガーソングライター、ベス・ニールセン・チャップマンの代表作とも言える、2枚目のアルバム『Beth Nielsen Chapman』(1990)をご紹介します。


Beth Nielsen Chapman (Jacket) 


90年代作品を改めて評価してみようシリーズ、第5弾


ここまで90年代の音楽的ルネッサンス状況を象徴するような、ロック系アーティストやR&B系アーティスト達を取り上げて来ましたこの「90年代作品を改めて評価してみようシリーズ」。今回のベス・ニールセン・チャップマンはそうしたアーティストとはまた違った形で、カントリーやアメリカーナといった違ったジャンルにおいて、しかし大きな足跡を残したアーティストです。そしてある意味60年代後半~70年代初頭に活躍したキャロル・キングローラ・ニーロといった偉大なシンガーソングライターの系譜を汲むアーティストでもあります


ベス・ニールセン・チャップマンというと、一般的に一番知られているのは、カントリー・ポップ・シンガーで同じカントリー・シンガーのティム・マグロー(そう、あのテイラー・スウィフトの曲の題材にもなった彼です)の奥さん、フェイス・ヒルの1998年の大ヒット「This Kiss」(全米最高位7位、プラチナシングル)の共作者としてでしょう。他の二人のやはりナッシュヴィル・シーンの女性ソングライター達と書いたこの曲はそのポップでアップテンポな曲調で当時大いに人気を呼んだものです。

ベスはこの他にもトリーシャ・イヤーウッド、マーティナ・マクブライド、ウィリー・ネルソン、メアリー・チェイピン・カーペンターなどのカントリーを中心とした有名アーティスト達に90年代以降楽曲を提供してきた他、彼女自身のアルバムに参加して共演したアーティスト達はボニー・レイット、ヴィンス・ギル、マイケル・マクドナルド、ポール・キャラックなどなど、枚挙に暇がありません。

Beth Nielsen Chapman


これほどシーンでその存在を高く評価され、根強いファンも多く、またミュージシャン達からもリスペクトされているシンガーソングライターでありながら、彼女のアルバムやシングルはどれ一つとしてビルボード誌のHot 100やアルバムチャート(総合チャートだけでなく、カントリーチャートも含め)には一切ランキングされておらず、大変不可思議です

思うに、彼女の生み出す楽曲は愛や人生、そしてそれにまつわる真摯な感情をシンプルな言葉と心にしみてくるようなメロディで表現する、ということがあまりにストレートに行われているため、ラジオなどでキャッチーなアピールをするというよりは、草の根的にファンからファンに語り伝えられてきている、そんな作品だから爆発的にラジオでかかるとか、アルバムやシングルが売れるとかいった類いの作品なのではないのかもしれません。


ベスのアップテンポなピアノのメロディで始まる冒頭の「Life Holds On」は「少しでもチャンスが与えられれば、人の生命の復活力は素晴らしい」という人生へのポジティヴなメッセージを与えてくれ、ベスがボーカルに徹したややムーディなバラード「No System For Love」は「世の中はハイテクがどんどん進歩してどんなことでも可能になっているのに、未だに愛のためのしっかりとしたシステムは存在しない」というやや哲学的な曲。

このアルバムの各楽曲のバックは、おそらくプロデューサーのジム・エド・ノーマンが集めたナッシュヴィル・シーンのセッション・ミュージシャンが固めているのですが、3曲目の「I Keep Coming Back To You」ではバックをリー・スクラー(ベース)、ラス・カンケル(ドラムス)のザ・セクションのリズム隊と名うてのセッション・ギタリスト、ディーン・パークスが固めるという、本人もプロデューサーのジムもこの曲への力の入れ具合が伺える楽曲。バックの演奏はシンプルで、ベスのボーカルもパートナーのことを愛していながら、彼との関係がうまくいかないことに悩む女性の心理を表現していますが、決して力の入りすぎない雄弁なパフォーマンスで、聴いた後長く楽曲の印象が残る、そんなこのアルバムのハイライトの一つです



その後も、シンセの控えめなサウンドにアコギの爪弾きを絡めながら、自分の道を歩いて行くだけ、と力強く表明する「Walk My Way」、シンプルなピアノの弾き語りで「私に必要なものは私が持っているものだけ/私のそばにはあなたがいてそこが私の人生が一つになるところ」と満たされた愛の素晴らしさを歌う、エリック・カズとの共作「All I Have」、そして「険しい道も流した涙も、すべて目の前に現れるものを受け入れるしかないのよ」とほんわかとしたメロディに乗せて歌う「Take It As It Comes」などなど、人生の機微や愛、信念そして人生の進むべき道などを、シンプルな歌詞と趣味のいいアレンジと、90年代初頭DX7などのシンセサイザーが多用されていた時代にしてはとても控えめなシンセとアコースティックな楽器によるサウンドに乗せて心に響き渡る楽曲を、ベスが次から次へと歌ってくれるのがこのアルバム




そのアルバムのラストは、クリスマスに自分の生家に戻ってきた主人公が、自分が生まれた日に父が植えた庭の木や、向かいの家のクリスマス・デコレーションや幼なじみの子供達が作った雪だるまなどをポーチから眺めながら、自分が幼い時から流れた時間が早いようでいてゆっくり流れていることを実感する、というアコギの弾き語りで聴く者、特に人生の半ばを過ぎたリスナーの琴線に触れるバラード「Years」で静かに幕を閉じます。


BNC back


ベスは、この後90年代から2000年代にかけて、特にカントリー・シーンがアメリカーナやメインストリーム・ポップと相互乗り入れを進める中で、ディキシー・チックス、メアリー・チェイピン・カーペンター、アリソン・クラウス、ジュエル、そしておそらくテイラー・スウィフトといった、実力派の女性シンガーソングライターの台頭のいわば先駆者と言っていい存在だったと思いますし、それに相応の大きな影響をこうした後進の今や大スター達に残した、忘れてはいけないアーティストだと思います。

残念ながら「This Kiss」の大ヒット以外では大きな商業的な成功やスポットライトを受ける機会に恵まれなかったベス、このアルバム発表の僅か4年後には最愛の夫、アーネストをガンでなくし、自らも乳ガンと闘うなど、苦労多い人生を送っていますが、2011年には10年の交際を経て再婚。時を同じくして9作目にあたるアルバム『Back To Love』(2010)でシーンに復帰、その後も2年に1枚のペースで新作を発表、2016年には、あのオリヴィア・ニュートン・ジョンとカナダの女性シンガーソングライター、エイミー・スカイと3人で、喪失の悲しみを癒やし乗り越えるというスピリチュアルなテーマのアルバム『Liv On』をリリースするなど、依然聴く者を癒やし、啓発する音楽活動を続けています。


Back to Love


5月の爽やかで明るい天気の中、ベスの美しくシンプルな、それでいて自分を見つめ直すことのできるそんな楽曲を聴きながら、ゆっくりと過ごす、そんな時間を作ってみてはいかがでしょうか。


<チャートデータ> チャートインなし

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