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Life Is A Rock - 洋楽こそ我が人生
洋楽全般について、英米ヒット・チャートに登場有無に関係なく、お気に入りの洋楽作品についての独り言やコメントをつれづれに掲載します。「新旧お宝アルバム!」「恒例グラミー賞大予想」など定期コラムが中心です。洋楽 ファンサイト、meantime(www.meantime-jp.com)のスピンオフ企画としてお楽しみ下さい。
【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#152「The Dynamic Superiors」The Dynamic Superiors (1975)

 #152The Dynamic SuperiorsThe Dynamic Superiors (Motown, 1975)


7月後半はフジロックへのフル参戦など個人的に忙しく、しばらく間が空いてしまいましたこの「新旧お宝アルバム!」、ここのところの連日の猛暑を払うためにはいい音楽、ということで今週は久しぶりに70年代ソウルの名盤ながら、熱心なソウルファンの間では大変知名度も人気も高いものの、一般の洋楽ファンの皆さんにはそれほどお馴染みがない、というのがいかにも惜しい、ワシントンDC出身のコーラス・グループ、ザ・ダイナミック・スーペリアーズのデビューアルバム『The Dynamic Superiors』(1975)をご紹介します。

既にソウル・R&B関係のレビューや書籍では語り尽くされた感のあるこの名盤、今更ながら取り上げるのはソウルファンの先輩方からの突っ込みを頂きそうで甚だ不安なのですが、ここは敢えてそうした名盤をソウルファン以外の皆さんにも知って頂きたい、という趣旨で取り上げますので、是非暖かい心でご覧頂きたいと思います(笑)

Dynamic Superiors 

伝統的なソウル・ミュージックにおいて、一つのスタイルとして「コーラス・グループ」というものがあるのは皆さんご存知の通り。1970年代はそのスタイルが一つの絶頂期を迎えた時期でした。60年代から活躍してそのモメンタムをがっちり持続していたモータウンテンプスフォー・トップス(後にダンヒル/ABCに転じますが)や「Oh Girl」のシャイライツといったベテラングループは言うまでもなく、ドラマティックスIn The Rain」、スタイリスティックスBetcha By Golly Wow」、ブルー・マジックSideshow」などなど、このデケイドは数々の名曲・名唱でファンを虜にした新しいコーラス・グループも続々登場、さながらソウル・コーラス・グループ百花繚乱の様相を呈した時代を形成していました

そんな中、1963年にワシントンDCで結成以来、苦節10年を経て1960~70年代に隆盛を極めたモータウン・レーベルとの契約がかない、レコーディングにこぎ着けて今日ご紹介する『The Dynamic Superiors』をリリース、ソウル・シーンで大きな成功を収めることができたのが、リードのトニー・ワシントン、ファースト・テナーのジョージ・スパン、セカンド・テナーのジョージ・ピーターバックJr.、バリトンのマイケル・マカルピン、ベースのモーリス・ワシントンの5人からなる、ザ・ダイナミック・スペリアーズ

このアルバムの素晴らしさはいろいろあれど、リードのトニーの美しく艶やかなファルセットと、2人のテナーの達者な歌唱とそれをサポートするバリトンとベースによる、当時の並み居るコーラスグループと比較しても実力充分のグループ歌唱力と、当時はモータウンの強力ハウス・ソングライティング・チームだったアシュフォード&シンプソンがほぼ全曲作曲とプロデュースを手がけた楽曲群のクオリティの高さが、このアルバムを実にソリッドなコーラス・グループの名盤にしている二つの大きな要素だと思います。

Dynamic Superiors (photo)

そしてもう一つ、トニーは当時としては珍しく自らがゲイであることを公言して、ステージにもドラッグの出で立ちでしばしば登場していたという、今のLGBTQムーヴメントのはしりのようなアーティスト。当時ブラックでゲイであることを公表するのはとても勇気のいることだったと思うけど、彼の時折天にも突き抜けるような美しいファルセット・ボーカルにはそうした自信が満ちていることも、このアルバムを通じて感じることです。

アルバムは彼らの代表作の一つで最初のナショナルヒット、クラシックなコーラス・グループ・スタイルの楽曲「Shoe Shoe Shine」で始まりますが、これがのっけからトニーのファルセットが炸裂する70年代ソウル王道の名曲バラード。ソウルファンの間ではつとに有名なこの曲、作者のアシュフォード&シンプソン自身もかなり気に入った出来だったらしく、彼ら自身のライヴで自分が書いた数々の名曲メドレーをやる時にもこの曲を交えることが多かったといいます。

テナーがリードを取って他のメンバーがコーラスに徹する、ミディアムテンポのこれまた王道の楽曲「Soon」に続いて、ドラマティックなイントロからまたまたトニーのリードが素晴らしく、後半サビにかけてメンバーのコーラスが絡んで感動的に盛り上がる「Leave It Alone」は個人的にもこのアルバムのベストカット。ソウルチャートでもこの曲が最初のヒットで最高位13位を記録した、事実上彼らのシーンでの地位を確固たるものにした曲です。


なお、この「Leave It Alone」とA面最後の「Romeo」のアレンジを担当しているのが、この直後スタジオ・ミュージシャンによるスーパーグループ、スタッフに加入して70年代後半~80年代にかけてのフュージョンシーンで活躍、数々のポップヒットのバックやアレンジも担当したリチャード・ティー(kbd)。このアルバムでは彼の他に、ヴァン・マッコイとの仕事で有名なリオン・ペンダーヴィスアーサー・ジェンキンスら実力者のスタジオ・ミュージシャンがアレンジを担当するなど、当時モータウンとしては万全の布陣で臨んでいた自信作であったことが窺えます。

アッパーなリズムながらしなやかなメロディとメンバーのコーラスが素晴らしい「Don't Send Nobody Else」で引き続き盛り上がった後、A面は静かな始まりからサビから「いろんな女の子を経験したけど君の前では僕はただの男の子/君が僕を1人の女性しか愛せない男にしたんだ」というベタな歌詞ながら後半盛り上げるバラード「Romeo」でA面は終了。


B面も最初のトニーのファルセットが再び炸裂する「Star Of My Life」から始まって、トニーの真骨頂ともいえるドラマチックな展開のバラードナンバー「Cry When You Want To」、後期のフォートップスを彷彿させるテナー・リードのアップテンポナンバー「I Got Away」、ストリングスを配したサザン・ソウル的な味わいから後半フィリー・ソウル風に展開する素敵なミディアム曲「One-Nighter」を経て、最後もサビのコーラスとリードの掛け合いに思わず頬がほころぶ、安定の王道ソウル・ナンバー「Release Me」でアルバムは余韻を残して終わります。

アルバムはチャートインできなかったものの、シングル「Shoo Shoo Shine」がナショナルヒット、「Leave It Alone」がR&Bヒットとなったのにモータウンも気を良くしたか、次のアルバム『Pure Pleasure』(1975)でも同じくアシュフォード&シンプソンを起用して、そこそこのヒットを達成。

しかしプロダクション・スタッフを大幅に入れ替えた『You Name It』(1976)は商業的には不発に終わり、起死回生のつもりだったのか、モータウン黄金期のソングライターチーム、ホランド兄弟プロデュースで、彼らの曲を中心としたほとんどがカバーのアルバム『Give And Take』(1977)でもマジックを再現することはできず。

モータウンとの契約も切られ、グラディス・ナイト&ザ・ピップスの「夜汽車よジョージアへ!」のアレンジや「Dynomite」のバズーカで有名なトニー・カミロが立ち上げたレーベルから、1980年には最後のアルバム『The Sky's The Limit』をリリース。この時はトニー・ワシントンの代わりにレーベルオウナーのトニー・カミロがボーカルを務めたりしてるので、まあこの辺が潮時だったのでしょう。

Dynamic Superiors (back)

本来得られるべきであったレベルの商業的成功や、ジャンルを超えた人気などを勝ち得るには至りませんでしたが、今聴き返してもこのアルバムは、当時のザ・ダイナミック・スペリアーズのメンバーがアシュフォード&シンプソンや腕達者のサポート・ミュージシャン達と作り出すマジックがぎっしり詰まっている、それこそ珠玉のような作品です。ソウルをこれからもっと聴いていきたい、何かソウルのいい作品はないか、という向きには心よりお勧めできる、そういうアルバムです。このアルバムが皆さんに一筋の涼風をお届けできますように。

<チャートデータ> 
チャートインせず

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#151「Mount Royal」Julian Lage & Chris Eldridge (2017)

 #151Mount RoyalJulian Lage & Chris Eldridge (Free Dirt, 2017)


連日相変わらずの雨続きで、いつになったらこの梅雨は明けるのだろう、などと5月後半に空梅雨だと思われた時期とは正反対のことを思ってしまう今日この頃。こういう天気には、瑞々しいアコースティックな音楽が似合いますね。

今週の「新旧お宝アルバム!」はそんなアコースティックな気分に合わせて、ジャズやブルーグラス、オルタナカントリーのアーティストらとの共演も多い、独自の世界を聴かせる若手気鋭のギタリスト、ジュリアン・ラージと、先日二度目の来日で大いにアメリカン・ルーツ・ロック・ファンを興奮させるライヴを披露してくれたパンチ・ブラザーズのギタリスト、クリス・エルドリッジの二人が彼ら3作目のコラボ・アルバムとしてリリースした心温まるアコースティック・アルバム『Mount Royal』(2017)をご紹介します。

Mount Royal 

ミュージシャンシップ」という言葉があります。「歌唱や楽器演奏に関わらず、ミュージシャンとして卓越した技量と感情表現、楽曲創作などを存分に発揮させている状態」といったような意味だと理解していますが、先日Blue Note東京で行われたパンチ・ブラザーズのライヴは正にその「ミュージシャンシップが最大限に発揮された」ライヴだったと思います。音楽のスタイルや使う楽器はブルーグラスのそれですが、展開する楽曲パフォーマンスはパッションと卓越した技量を存分に爆発させた、最高級のロック・パフォーマンスにも通じるものを感じさせたのです。パンチ・ブラザーズ自体がロック系やポピュラー系の楽曲、さらにはドビュッシーバッハなどクラシックの楽曲すらも彼らのブルーグラスの意匠を纏わせた新しい音楽として表現するという極めてカバー領域の広いアーティストだけに、くだんのライヴはその殆どが伝統的なブルーグラス楽曲であったにも関わらず(前のセットではレディオヘッドの「Kid A」なんて曲をやったりしたようですが)、全く古臭さとか予定調和的といったものとは正反対の興奮を呼び起こすライヴだったのです。

以前、パンチ・ブラザーズのリーダーでマンドリンの名手、クリス・シーリーとジャズ・ピアニストのブラッド・メルドーとの素晴らしいコラボアルバムを取り上げたことがありますが、これを聴いてパンチやそれを取り巻くミュージシャン達をまたこのブログで取り上げたい、という気持ちが湧いてきて、そうだ、このアルバムがあったと思い出し、こうしてご紹介している次第です。

Lage Eldridge

ジュリアン・ラージはカリフォルニアのワインで有名なソノマ郡出身。今年32歳とまだまだ若いミュージシャンながら、8歳の頃の演奏の様子がドキュメンタリー映画になったり、15歳でスタンフォード大学のジャズ・ワークショップの教鞭を執ったりという、言わば天才ジャズ・ギタリスト。ご多分に漏れずジャズやアメリカ現代音楽のエリート達を輩出しているボストンのバークリー音楽院を卒業後、2009年の『Sounding Point』(2010年の第52回グラミー賞最優秀コンテンポラリー・ジャズアルバム部門ノミネート)を皮切りに勢力的に作品を次々に発表。その過程でジャズミュージシャンとの競演だけでなく、オルタナカントリー・ロック・バンドのウィルコのギタリスト、ネルス・クラインや、今回ご紹介するパンチ・ブラザーズクリス・エルドリッジ、更にはブルーグラス・マンドリンの巨匠、デヴィッド・グリスマンらとの競演作も発表するなど、幅広い活動を展開しています。

クリス・エルドリッジは先日のパンチ・ブラザーズのギタリストとしてのライヴでも、その超人的なアコースティック・ギター・ワークで観客を興奮させてくれたこちらも若手のブルーグラス/オルタナ・カントリー系のギタリスト。伝説的なブルーグラス・バンド、セルダム・シーンのバンジョー奏者だったベン・エルドリッジを父に持ち、その影響もあってティーンエイジャーの頃から父のバンドに入ってギターの腕を磨いて来ました。こちらもバークリー音楽院卒業後、同じバークリーで知り合ったメンバーとブルーグラス・バンド、ジ・インファマス・ストリングダスターズを結成。シーンで活動を展開している中、クリス・シーリーの耳に止まり、彼の誘いでパンチ・ブラザーズに加入、今やパンチのあのスリリングなバンド・サウンドの要の一人として活躍中です。

このアルバムは、二人が奏でるマーティンのアコースティック・ギター2本だけで構成されているという完全なアコギ・アルバム。しかし時折クリスのボーカルを交えながら、それぞれがある時はメロディを美しく奏でたり、ある時はパーカッシヴにリズムをドライヴしたり、またある時はミニ・オーケストラのように美しいゴージャスなハーモニー・アンサンブルを聴かせたりととても表情豊かなサウンドで出来上がっています。ジュリアン作の曲が3曲、クリス作の曲が2曲、二人の共作が3曲、何とあの元パール・ジャムエディ・ヴェダー作を含むカバー曲が3曲に、トラディショナル曲が1曲という、楽曲構成バランスも考えられたアルバム構成で、プロデュースは、クリスパンチ・ブラザーズでの盟友、フィドル・プレイヤーのゲイブ・ウィッチャーが務めて二人のアンサンブルを美しく仕上げています。

アルバム冒頭の「Bone Collector」はパンチの曲を彷彿させるような、叙情的にゆっくり始まり、ジャズなのかブルーグラスなのか渾然とした複雑な楽曲展開を経てカタルシスを作りだす、のっけからおっと思わせる二人の共作曲。クリス作の「Rygar」はさりげないアコギの技巧が楽しめるリフと、ブリッジでコードストロークのパーカッシヴな感じの対照が美しい心安らぐナンバー。

再び共作の「Everything Must Go」はまたクラシックの小品を思わせるような、詩情豊かなアコギの奏でるメロディと楽曲展開が美しい作品。

一転してクリスのボーカルが聴ける、1960年代のブルーグラス復興に寄与した有名なバンジョー奏者、ドン・ストーヴァー作の「Things In Life」で、それまで映画のサントラ的な情景描写的な楽曲群からすっと違和感なくブルーグラス楽曲の世界に連れて行ってくれるあたりは二人の能力のなせる業か。その流れをキープするかのように、トラディショナル・ナンバーの「Old Grimes」は美しい二人のギターリフの絡み合いによるブルーグラス風味が楽しめる曲。ちょっとギター練習曲的な雰囲気もなかなか楽しいナンバーです。そしてレコードA面ラストはジュリアン作の静かなジャズ的雰囲気の「Henry」。

B面オープニングは、クリスのボーカルでゆっくりとしたアコギのアルペジオで演奏される「Sleeping By Myself」。Aメロの最後のあたりのコード進行が心地よいこのナンバーは、パール・ジャムのアルバム『Lightning Bolt』(2013)で、エディ・ヴェダーがもう少し早いテンポでカントリー・ロックっぽく演奏していた曲。こういう曲を見つけてきてカバーするセンスは、多分クリス・シーリーあたりの影響を受けたクリスゲイブのアイディアではないかと思いますね。

続いてジュリアン作の「Broadcast」「Goldcare」と、いかにも雨粒したたる木々の緑が広がる光景にぴったり、といったアコギジャズ・スタイルの心がホッとする楽曲が続いて、共作の「Lion's Share」。A面の楽曲もそうでしたが、ジュリアンが書く曲はアコギジャズ風、クリスが書く曲はブルーグラス風、とスタイルがはっきり現れるのに、二人の共作になると途端に映像的で叙情的なジャンル不明の音楽スタイル(ある意味パンチ・ブラザーズ的とも言えますか)による素晴らしい世界観が表現されるのには軽い感動を覚えますね。

また雰囲気はブルーグラス方向にちょっとシフトされ、ミシシッピ川流域のフォーク・ミュージックの第一人者として60年代後半から90年代まで活躍したブルーグラス奏者、ジョン・ハートフォードのアルバム『Annual Waltz』(1986)に収録されていた、フォスターあたりのメロディを纏ったいかにも昔のオールド・タイム・フォーク・ミュージックといった趣の「Living In The Mississippi Valley」が軽快な二人のギターと、クリスのさりげない歌声で演奏され、またホッとした感じを醸し出します。

そしてアルバムを締めるのは、楽曲スタイルとしてはクリス作ということもあり、ブルーグラス風にファーストピッキングのアコギフレーズや、技巧的なフレーズの展開が軽快な「Greener Grass」。



アルバムの中ジャケにはジュリアンクリスが、揃って1930年代製のヴィンテージもののマーティンのギターを抱えて写った写真があしらわれていて、その二人の様子も気楽にセッションを楽しんでいる途中の休憩時間、といった感じを伝えて、このアルバムの制作過程がとてもいい雰囲気であったろうことが窺えるものです。きっとどちらがリードを取るとか、どうとかいったようなゴタゴタは一切なかったんだろうな、と絡み合うような二人の卓越したプレイを聴けば聴くほど思う、そんな一枚。

Mount Royal (back) 

実はこの二人はこのアルバム発表後、一緒に来日してライブもやっています。今更ながらそれも見に行くべきだった、と思いますね。

まだまだ雨は続き、鬱陶しいと思う一方、水に濡れそぼった木々の様子を窓から眺めながら、二人のある時は美しく、ある時はホッとするようなアコギ・アンサンブルのこの作品を聴いて、心豊かな時間を過ごすのはいかがでしょうか。

<チャートデータ> 
ビルボード誌全米ジャズ・アルバムチャート 最高位8位(2017.3.18付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#150「Breakaway」Art Garfunkel (1975)

 #150BreakawayArt Garfunkel (Columbia, 1975)


いよいよ今日から2019年も後半、7月に突入ですがまだしばらく梅雨っぽい天気は続くようでして。こういう天気になるとやっぱりしっとりした音楽が聴きたくなるもんですね。

今週の「新旧お宝アルバム!」は記念すべき150回目。今回はひとつ70年代に戻って、こういうややムーディーな天気を爽やかにしてくれる、美しい歌声を聴かせてくれるアート・ガーファンクルのアルバムでも。彼のソロアルバム第2作目でファンの間でも人気のあるアルバム『Breakaway愛への旅立ち)』を、この頃のアートをご存知ない若い洋楽ファンの方々のためにも、改めてご紹介します。

Breakaway.jpg 

一昨年3年ぶりに来日して、もう70代ながらその素晴らしい歌声を聴かせてくれたという(残念ながら自分は行けず涙)アート。70年代に入ってサイモン&ガーファンクルの解散を受けてリリースした最初のソロアルバム『Angel Clare(天使の歌声)』(1973)は、S&G時代のプロデューサー、ロイ・ハリーとの共同作業で選曲やプロデュースを行った、ある意味ではアートにとってはソロ活動モードに充分慣れるための、S&G時代の延長的なアルバムになっていました。ジミー・ウェッブ作の「友に捧げる讃歌(All I Know)」(全米最高位9位)やポール・ウィリアムスロジャー・ニコルス作の「青春の旅路(Traveling Boy)」といったS&G時代のアートの名唱を彷彿させるようなドラマティックな楽曲のヒットが出ましたが、個人的には今聴き返すとどこか肩に力の入った、それでいてそれまでのアプローチから脱していない感じが否めない、そんなアルバムにきこえます。オシビサの「Woyaya」のカバーとか、どうしても「コンドルは飛んでいく」のアプローチの二番煎じのようにきこえてしまって。

Angel Clare

それから彼がいろいろ考えたのかどうかは判りませんが、3年を経てリリースされたこの2枚目のソロ『Breakaway』では、プロデューサーを名匠リチャード・ペリーに任せたことや、ポールS&G瞬間再結成となった曲「My Little Town」を収録したのが、逆にS&G時代からの延長の呪縛からアートを解き放ってくれたのか、すっかりフレッシュな感じで歌うアートの歌声が「これからがソロ活動時代の本番だ」と決意表明しているようにもきこえるのです。

様々なカバー曲を集めて、これにアートの歌声、歌唱解釈力で新たな魅力を吹き込む、というアルバム制作スタイルは前作と同じですが、このアルバムの選曲に当たっては、60年代に活躍していたジミー・ウェッブポール・ウィリアムスといった「お馴染み」のライター達からちょっと離れて、いろいろな人の曲をトライしているのも好感が持てます。そしてそれが見事に機能しているのもこのアルバム全体の「アートのソロアルバム」としての完成度を高めている要因ではないかと思うのです。

アルバムオープニング、ハイトーンで始まる美しいバラード「I Believe (When I Fall In Love It Will Be Forever)」はまるでアートのためにあるようなそんなゴージャスなメロディを持った曲ですが、これが実はスティーヴィー・ワンダーの名作アルバム『Talking Book』(1972)のクロージング・ナンバー。原曲より2度ほどキーを上げて、アートのハイトーンボーカルによりマッチするようにアレンジされたこの曲でのアートの歌唱にははっきり自信を感じますね

2曲目はスティーヴ・イートンというシンガーソングライターの正直地味なバラード「Rag Doll」ですが、こういうシンプルなメロディではアートの声と歌唱が引き立つようです。

そしてアルバム・タイトルナンバーの「Breakaway」(全米最高位39位)。スコットランド出身のシンガーソングライティング・デュオ、ギャラガー&ライルのペンによる、夢見るようなメロディが素敵なナンバーで、リトル・フィートビル・ペインが弾くフェンダーローズのイントロに乗って登場するアートの歌声と、デヴィッド・クロスビー、グラハム・ナッシュ、トニー・テニールらの美しいバックコーラスがふわっと気持ちを持ち上げてくれます。元々70年代初頭マッギネス・フリントというバンドにいたギャラガー&ライルは、1976年にこの曲を自ら録音したアルバム『Breakaway』がUKでアルバムチャート6位に登るまではあまり知られていなかったわけで、その2人を見つけてきて自分のアルバムのために曲提供を依頼したアートの先見の明は素晴らしいもんです


4曲目のバーバンク・サウンドを思わせるメロディのバラード「Disney Girls」は、あのビーチ・ボーイズの中期以降のメンバーで、バリー・マニローの「歌の贈り物(I Write The Songs)」の作者としても有名なブルース・ジョンストンの作品。この曲は、彼が在籍していたビーチ・ボーイズ1971年の名作『Surf's Up』に「Disney Girls (1957)」と言うタイトルで収録されていた切ない味わいのバラード。その他数々のアーティストにカバーされたこの曲をアートは見事に自分のものとしてほんわりとした切なく素晴らしい歌唱を聴かせてくれます。ブルースはこのアルバム発表直後、バリー・マニローに書いた「I Write The Songs」が大ヒットして、ソングライターとしてのキャリアを一気に次のレベルに上げていますので、アートのこのカバーもそうした流れに一役買ったのではないでしょうか。ちなみにブルース自身のバージョンは、この後1977年にリリースされた彼のアルバム『Going Public』で聴くことができます。

そしてレコードA面のラストは、今度はボサノヴァの大御所アントニオ・カルロス・ジョビンの代表曲「三月の水(Águas de Março)」をカバーした「Waters Of March」。同じラテン系作品のカバーでも、ここでは前作のオシビサのカバーなどに見られた気負いのようなものは感じられず、あくまでゆったりとジョビンのメロディに身を任せるかのようなアートの歌唱が印象的。

レコードB面トップは、当時S&G再結成か!と騒がれたヒット曲「My Little Town」(全米最高位9位)。久々のポールとのハーモニーにもテンションのようなものは感じられず、5年の月日が溶けゆくかのようなスムーズなコーラスが気持ちいいナンバーですが、この曲、よく聴くと、実は転拍子がいくつも行われ、コード進行もかなり複雑で歌唱にはかなり技術を要する曲なのです。そんなことを聴いただけでは一切感じさせない2人のケミストリーは、少なくともこの時期はまだ健在だったということでしょう。

そして2曲目は、イントロのアンドリュー・ゴールドが弾くギターのコードアルペジオ的なストロークが夢見るような雰囲気を醸し出す、1950年代のドゥーワップ・グループ、フラミンゴズのヒット曲のカバー「I Only Have Eyes For You(瞳は君ゆえに)」(全米最高位18位)。そしてこのアルバムでアートが2曲を取り上げているスティーヴン・ビショップ作の1曲目「Looking For The Right One」。この頃はまだ駆け出しのソングライターだったスティーヴンの曲をアートが録音したのは、このアルバムに参加しているベースのラス・カンケルの奥様、リア・カンケルがたまたまスティーヴンのデモ・カセットをアートに渡したのがきっかけだったとか。後のスティーヴンの作品を思わせる、アコギ・エレキの両方のギターの使い方が印象的で、美しいメロディを持つこの曲が、シンガーソングライター、スティーヴン・ビショップのキャリアに扉を開いてくれたわけで、ここでもこのアルバムのテーマとも言える、新しいシンガーソングライターの作品に日を当てるというアートのアプローチが成功しています。


アートが日を当てたのは新しいライターだけではなく、往年の名シンガーソングライターであったアルバート・ハモンドが同じ1975年に放った小ヒット(全米最高位91位、ACチャート1位)をカバーした「99 Miles From L.A.」も、アートのドリーミーなボーカルが素敵な一曲になっています。

そしてアルバムを締めるのは、シンプルなピアノと控えめなベースとドラムスをバックにアートが押さえた情感を表現しながら歌い、後半ドラマティックに盛り上がる、スティーヴン・ビショップ作のもう一曲「The Same Old Tears On A New Background」。この曲は、この後アートの肝いりでABCレコードと契約成ったスティーヴンのデビュー名作アルバム『Careless』(1976)のクロージング・ナンバーでもありました。

Breakaway (back)

この宝石箱のようなアルバム全体を支えるのは上記の他、リー・スクラー(b)ら西海岸のセッション・プレイヤー、ザ・セクションの面子や、ラリー・ネクテル(g)、ジョー・オズボーン(b)らレッキング・クルーの面々、バリー・ベケット(kbd)やピート・カー(g)らマッスルショールズの面々に加え、ジム・ケルトナー(ds)、ニッキー・ホプキンス(kbd)、ジム・ゴードン(ds)やスティーヴ・クロッパー(g)等々、超豪華なセッション・ミュージシャン達。アートがいかにも気持ち良さそうに歌っているのも納得ですね。

2007年のスタンダード・ナンバー・カバー・アルバム『Some Enchanted Evening』以降アルバムを発表していないアート。1978年には王貞治選手(当時)のホームランを見るためにお忍びで来日もしたというアートにはまだまだ新作を出して、そしてまた来日してその変わらない歌声を聴かせてもらいたいものです

<チャートデータ> 
ビルボード誌全米アルバムチャート 最高位9位(1975.11.29-12.6付)
全英アルバムチャート 最高位7位(1975.11.2付)


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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#149「The North Star」Roddy Frame (1998)

 #149The North StarRoddy Frame (Independiente, 1998)


先週から一転してまるで帳尻を合わせるかのようにここのところいかにも梅雨らしい雨空が続いてますが、こういう天気が続くとどうしても出歩くのが億劫になるわけで。そして音楽もやたら元気のいいものよりも、アコギやピアノが入ったちょっとしんみりするものがぴったり来たりする、そんな季節。

今週の「新旧お宝アルバム!」は久しぶりに「90年代を見直そう」シリーズ、とかくシニアの洋楽ファンの耳に届くこともなかなかない、それでいて今の洋楽メインストリームの様々な意味でのある源流にもなっている、音楽的には豊潤だったあのデケイドからアルバムをご紹介します。今日は、雨空に雰囲気的もぴったりくる、元アズテック・カメラのリーダー、ロディ・フレイムが1998年、アズテック・カメラ解散後にリリースした初ソロアルバム『The North Star』をご紹介します。

TheNorthStar.jpg 

アズテック・カメラというと、最初のヒット曲「Oblivious(思い出のサニー・ビート)」(1983年全英最高位18位)に代表されるように、軽快なビートにアコギのサウンドが印象的な、上質なポップ・ソングを聴かせてくれるバンドで、当時、エヴリシング・バット・ザ・ガール(EBTG)とかペール・ファウンテンズとかいったバンドと並び称されていわゆる80年代前半の「ネオ・アコ・ブーム」の中心的バンドの一つとして、ちょっと趣味のいいUK系のサウンドを好む洋楽ファンの間では人気あったバンドでした。ちょうど今だとアラ還世代の昔の洋楽ファンは、当時流行ったカフェバー(死語w)なんかでこのアズテック・カメラとか、EBTGベン・ワットの『North Marine Drive』(1983)とかを聴きながらカクテルなんぞ飲んで「クリスタル(これも死語w)」気分を味わった方も多いのでは。

そのアズテック・カメラのリーダーだったロディ・フレイムはファーストの『High Land, Hard Rain』(1983)から6作目のラストアルバム『Frestonia』(1995)までに収録された全曲を書き、一貫して高いクオリティの楽曲を作り出す一方(80年代当時、あのエルヴィス・コステロが作曲家としてロディをライバル視していたという話もあり)、様々なスタイルの音楽に強く興味を持ってそれらを自分の楽曲に取り入れたり、いろんな曲をカバーしたりするなど、アズテック・カメラの作品を辿るとロディの音楽感性の幅の広さが如実に感じられます。具体的には、セカンド・アルバム『Knife』(1984)を作る際、当時ロディがお気に入りだったボブ・ディランの『Infidels』(1983)のプロデューサーが、ダイア・ストレイツマーク・ノップラーと知るや、アルバム用にマークがプロデュースしてもらえそうな曲を書き上げて、マークをプロデューサーに迎えて『Knife』を完成したり、その『Knife』からのリード・シングル「All I Need Is Everything」のB面に、あのヴァン・ヘイレンの「Jump」のアコギ・カバーを収録して評判を呼んだりと、自らの作品の幅を広げることにはいい意味で貪欲さを見せて、その評価を高めていきました。その後も彼はアメリカのR&Bにも興味津々で、「ジャム&ルイスみたいなアルバムを作りたい」といって、ジャズ・R&Bの大御所トミー・リピューマをプロデューサーに迎えて3作目『Love』(1987)をヒットさせたり、何と坂本龍一をプロデューサーに迎えて5作目『Dreamland』(1993)を作ったりと、その間口の広さをいかんなく発揮していました。

Roddy Frame

そのロディが13年間にわたるアズテック・カメラとしての活動に終止符を打ち、満を持してリリースした初ソロアルバムがこの『The North Star』。

アルバムを聴くと、「Bigger, Brighter, Better」のように従来のアズテック・カメラでの路線を踏襲した、いわゆるネオ・アコ・スタイルの軽快なポップ・ナンバーもあり、「Autumn Flower」のように初秋の季節などにぴったりのピアノの弾き語りによる叙情的なナンバーもあり、あの80年代のUKギター・ポップ・サウンドが目の前に蘇ってくるような「Sister Shadow」や日本盤のみのボートラ「Biba Nova」もありと、アズテック・カメラ時代からのロディのファンの期待に十二分に応えてくれる、クオリティ高い楽曲も多く含まれている一方、初ソロにふさわしくロディの気概を感じさせる新しいスタイルの曲も多く、おっと思わせる作品になっています

具体的には、オープニングの「Back To The One」やリードシングルにもなった「Reason For Living」、そして個人的にはこのアルバムで最も好きなナンバー「River Of Brightness」といった楽曲群に感じられる、強いアメリカーナ・サウンドへの傾倒ぶり。使っている楽器についても、これらの曲についてはアコギと同等以上にエレクトリック・ギターが主役を張っており、またその使われ方や、楽曲・メロディの展開までもが、当時アメリカでメインストリーム・ロック・シーンに登場し始めていた、あのライアン・アダムスを擁するウィスキータウンサン・ヴォルトといった、当時で言うオルタナ・カントリー・ロック・バンドの影響を強く感じさせるものが多いのです。特にこの3曲あたりは、ブルース・スプリングスティーンあたりに演奏させても全く違和感がない、そんなアメリカーナの魅力をふんだんに湛えた「豪快さ」すら感じさせるナンバーで、繊細なギター・ポップの作品で知られるロディの作品スタイルからは明らかに新しい世界に踏み出しているように思います。

思えばロディの音楽的な間口の広さと、彼がアメリカ音楽を貪欲に吸収しようとしてきたことを考えると、彼がこうしたアメリカーナの動きに興味を持っていち早く自らの楽曲に取り入れようとしたとしても全く違和感のないところ。

レコーディングにもシンセサイザー等の電子楽器系は一切使わずシンプルな楽器構成に徹しているあたりも、アメリカーナなサウンドへのアプローチをサポートするために必要なセットアップだったに違いないと思えます。

そんな彼のこのアルバムに託した思いは、アルバムラスト(日本盤ではこの後にボートラの「Biba Nova」収録)のシンプルで美しいアコギの弾き語りのバラード「Hymn To Grace」に窺えます。

アコギ一本にいかにもロディらしい、UKポップスタイルのメロディに乗ってロディのボーカルが静かな部屋に響き渡るようなこの曲では「天からの恵みへの賛歌があなたの中にその場所を見つけたのだ」と、あたかもロディ自身がこうした素晴らしい楽曲達を天からの恵みと表現しているかのようにきこえます。静かに最後のアコギのフレーズが終わってギターの残響が消える時、ロディがこのアルバムに託した思いが伝わってくるように思うのは自分だけでしょうか。

残念ながらこの初ソロアルバムは商業的には成功したとは言えませんが(全英アルバムチャート最高位51位)、彼はそんなことを気にする様子もなく、次作『Surf』(2002)では更にシンプルな楽曲スタイルを前面に出した作品で評判を呼び、3作目『Western Skies』(2006)リリース直後には初の単独来日を敢行。その際の大阪ブルーノートでのライヴは翌年ライヴ盤で発売されています。その後も2010年に再来日した後、2013年には地元ロンドンで、アズテック・カメラの『High Land, Hard Rain』リリース30周年記念ライブを行うなど継続的に活動。2014年には今のところの最新作『Seven Dials』を8年ぶりにリリース。ネオアコ時代からの盟友、元オレンジ・ジュースエドウィン・コリンズらをバックに迎えたこの作品は、引き続きシンプルで親しみやすい楽曲でシーンからの評判もまずまずのよう。

Seven Dials

まだまだ音楽活動を継続的に続けているロディ、次の新作と3回目の来日を期待しながら、この素敵な初ソロアルバムを聴いて梅雨空の鬱陶しさを、清々しさに感じ取って本格的な夏の到来を待つこととしましょう。

<チャートデータ> 
全英アルバムチャート 最高位55位(1998.3.10付)

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#148「Be The Cowboy」Mitski (2018)

 #148Be The CowboyMitski (Dead Oceans, 2018)


短い梅雨っぽい時期もどうやらそろそろ終わりになって、昨日くらいからまた暑いいい天気が戻ってきた感じがありますね。早くこいこい夏よ来い。

今週の「新旧お宝アルバム!」は最近の新譜から。ここのところ、ブルース・スプリングスティーンマドンナの新譜が相次いでリリースされてベテラン組のミュージシャン達も頑張ってますが、ここは新しめのアーティストの新譜ということで。とは言ってもリリース自体は昨年の8月ですからしばらく前ではありますが、この夏フジロック・フェスティヴァルにもやってくる、日米ハーフの女性オルタナティヴ・シンガーソングライター、ミツキのもう5枚目になるアルバム『Be The Cowboy』(2018)をご紹介します。

Be The Cowboy 

ミツキは米国務省に勤務していたアメリカ人の父と日本人の母を持つ、日本生まれニューヨーク育ちの今年29歳になる、女性シンガーソングライター。

ニューヨーク州立パーチェス・カレッジで音楽の勉強をしている頃、学校のプロジェクトとして、最初のアルバム『Lush』(2012)と2枚目『Retired From Sad, New Career In Business』(2013)を自らのピアノ弾き語りベースでダウンロードオンリーで作成。大学卒業後、ミュージシャンとしてのキャリアを求めて3枚目のアルバム『Bury Me At Makeout Creek』(2014)をリリース。この作品から彼女のスタイルはそれまでのピアノ中心から、いわゆるオルタナティヴ・ロック的なギターを中心としたスタイルに変化したと言いますから、この頃に今に続くミツキの楽曲スタイルがある程度固まってきたようです

そのミツキが音楽シーンで注目される存在となったのは前作、4作目となるアルバム『Puberty 2』(2016)のリリースと、90年代のシューゲイザーやエモ・ロックへのオマージュ的サウンドと自らのバイカルチュラルな出自からわき出る感情を表現したように思えるシングル「Your Best American Girl」がシーンで大きな話題と評価を得たこと。『思春期その2』と題されたこのアルバムは初めてロック関係のチャートに顔を出し、ピッチフォーク、ペイスト、ローリング・ストーンといった音楽各誌の2016年のベストアルバムランキングの上位に選出され、ミツキの名前を多くの音楽ファンに知らしめることになったのです。

彼女の「Your Best American Girl」のPVを初めて見た時のエモーションの湧出をものすごく感じたのははっきり覚えています。米人男性との素敵な状況が突然ガラスが割れるかのように崩れ去り、ニコを思わせるようなミツキの静かな歌声がファジーなギターストロークをバックにした叫びのような歌声に変貌していく様子をイメージ化したこのPV、ミツキというアーティストの一つの側面を理解し、彼女の作品にリスナーを引きつけるのにうってつけのプレゼンテーションだったと思いますね。

これをきっかけに2016年12月、2017年11月そして今年の2月とほぼ毎年来日を果たして着実に日本でのファンも増やす一方、2017年秋から1年以上に及ぶロードの「Melodrama」ワールドツアーの北米でのオープニング・アクトを務めるなど、USでもリスナー・ベースを着実に広げているミツキが、昨年8月にドロップしたのがこの新譜『Be The Cowboy』です

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大きな評価を得た前作でも聴かれた、ミツキニコを思わせるような、何かが取り憑いたような、それでいて聴く者の感情をある時は掻き立て、またある時は落ち着かせてくれる、独特のボーカルスタイルは健在。そしてギター・ロック的だったり、エレクトロ・ポップ的だったり、60年代ポップ風だったり、後期ビートルズ風だったり、ゴスペル風だったりと様々な音楽スタイルを自由自在に操りながら、ミツキならではのエモーションを感じさせるメッセージや情景描写の歌詞を持つ楽曲群が今回のアルバムを前作以上の素晴らしいものにしていますし、ミツキの存在が楽曲を通して大きく迫ってくる、そんな感じがします。彼女の楽曲スタイルは、たとえばそのオルタナで多彩な音楽性や、感情を複雑に表現した歌詞で、セント・ヴィンセントラナ・デル・レイといった同時代のアーティスト達に似ているのですが、彼女の場合、この作品でこの2人以上にミツキならではのスタイルを確立しているように思います。

そして今回のアルバムの特徴的なのは、ほとんどの曲が3分以下と短く、次から次に送り出されてくるミツキの楽曲が万華鏡のようにリスナーの耳を包んでくれること。

荘厳な教会音楽のようなオルガンをバックに「あなたは私のナンバーワン....」と訴えるようなミツキのボーカルとのっけから壮大なメロディとカタルシスを届けてくれるオープニングの「Geyser」を聴いただけで、今回のアルバムの内容に期待が膨らむというもの。ニュー・オーダーっぽい80年代エレクトロ・ポップとギターサウンドにポップなメロディが乗っている「Why Didn't You Stop Me」は自ら終止符を打った関係なのに、相手に「何で止めてくれなかったの?」と迫るアンビヴァレントな感情を歌っていたり、初期のスマッシング・パンプキンスを思わせるオルタナ・ギター・ロックな「A Pearl」では二人の関係が倦怠に陥っているのは自分が「戦争」に恋していて、それが残してくれた真珠を手の中で転がしてるから、と意味深なメタファーを提示します。

60年代カントリーポップっぽい「Lonesome Love」は相手に愛で優位に立とうとする彼女が敢えなく愛の虜になってしまう、という歌ですし、後期のビートルズのアルバムに登場しそうなちょっとノスタルジックな曲調の「Me And My Husband」では夫と私は完璧にうまく行ってるといいながら、あたかも息絶える直前の状況にいるかのような歌詞が不思議なシメトリーを醸し出しています。

70年代ディスコっぽいメロー・ポップな「Nobody」もまたまた孤独さをテーマにしながらも、自分に必要なのは哀れみなんかじゃなくて、あなたがそばにいて心からのキスをしてくれること、とストレートな感情を吐露した曲です。

静謐なピアノをバックに夢見るようなボーカルを聴かせる「A Horse Named Cold Air」などは、ミツキ自身がこのアルバムを作る時にイメージしたという「真っ暗な舞台で自分だけがピンスポットを受けて歌っているミツキの姿」をビジュアライズするかのような曲で、ある意味このアルバムの象徴的な楽曲なのかもしれません。

そしてアルバムラストの「Two Slow Dancers」。エレピのコードプレイとシンセのたゆとうようなサウンドをバックに歌われるこの美しいスローバラードは、昔若い頃よくダンスした体育館の匂いを思い出しながら、もっと若ければいろいろ簡単なのに、と昔を懐かしむ歌のようにきこえるのですが「私達は2人のスローダンサーだけど、1人で残されてる」というあたりからミツキ独特の世界に。「重力がゆっくり私達を引っ張り下げていて、それはお互いの肌を見ればわかる」という歌詞で、この歌が単に懐古的感情ではなく、人の老いとか更には人生の終末を見つめる感情を歌っていることがわかります

そうしたちょっと重いテーマを美しく、さりげなく歌いきってしまうミツキ

音楽シーンは昨年からちょっと「カウボーイ」がキーワードになってきている気がします。昨年のグラミー賞最優秀アルバムを取ったケイシー・マスグレイヴの『Golden Hour』はカウボーイをはじめとしたヒーロー達をパートナーのメタファーに使ってましたし、今年に入って既に10週連続Hot 100の首位を走っているリル・ナズ・Xの「Old Town Road」は黒人ラッパーのリル・ナズ・Xがカウボーイの格好でラップしたのがネットで大いにバズったのが大ヒットの大きな要因でした。

ミツキのいう「カウボーイになれ」というのは自分に対するメッセージなのか、リスナーへのメッセージなのかは不明ですが、カウボーイが単なるマッチョイメージのシンボルではなく、独立した、他の助けを必要としない自分自身を持ったキャラクターだとすると、彼女が自分自身に対して更に一段上のレベルを目指していくための自己発揚なのかもしれませんし、彼女自身がインタビュー等で以前吐露しているように、自分の出自に関し「自分が何人かって葛藤することはもうやめた」という思いを更に昇華するためのタイトルなのかも。

そういうミツキ自身の強いヴァイブもこのアルバムを魅力溢れるものにしていると思いますし、その証拠にこのアルバム、2018年のピッチフォーク誌の年間アルバムランキングで堂々1位に輝くなど、再び業界各誌の高い評価を受けています。

Be The Cowboy (back)

その『Be The Cowboy』を引っさげて、ミツキはこの夏フジロック・フェスティヴァルにやってきます。去年から続く新作ツアーの一貫として日本では2月の来日公演に続く2回目のライヴ、自分もフジロックには今年も参戦しますので今からミツキのステージが楽しみ。

彼女はその後も8月シカゴのロラパルーザを始め、この夏欧米の各種フェスに出演した後、9月7日と8日のニューヨークはセントラル・パークで開催される夏の音楽フェス、SummerStageへの出演を最後にしばらく音楽活動を休止することを先頃宣言しています。前作そして今作で大きく羽ばたいたミツキには9月以降の休養を前に、フジロックでは大いに充実したパフォーマンスを見せてくれることを期待して、我々はこのアルバムでミツキの世界を楽しみましょう。

<チャートデータ> 
ビルボード誌全米アルバムチャート 最高位52位(2018.9.1付)
同全米ロック・アルバムチャート 最高位7位(2018.9.1付)
同全米オルタナティヴ・アルバムチャート 最高位6位(2018.9.1付)

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