Life Is A Rock - 洋楽こそ我が人生
洋楽全般について、英米ヒット・チャートに登場有無に関係なく、お気に入りの洋楽作品についての独り言やコメントをつれづれに掲載します。「新旧お宝アルバム!」「恒例グラミー賞大予想」など定期コラムが中心です。洋楽 ファンサイト、meantime(www.meantime-jp.com)のスピンオフ企画としてお楽しみ下さい。
【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#92「Waiting On A Song」Dan Auerbach (2017)

 #92Waiting On A SongDan Auerbach (Easy Eye Sound / Nonesuch, 2017)


雨が降らないとつぶやいてたら先週は九州地方を襲った台風の影響で悲しい災害が発生、多くの方々が被害を受けてしまいました。被災者の方々、そして不幸にも水害の犠牲になってしまった方々には心よりお悔やみ申し上げると共に、日常への一日も早い復旧を願っています


さて今週の「新旧お宝アルバム!」は久々に今年発売された新譜を。2017年も折り返し点を過ぎて、各音楽誌や音楽情報サイトでは今年前半のベストアルバム、なんて企画もちらほら目にする最近、自分的にはかなりそういったリストの上位に入ってくるのではないかと思っているのが、オハイオ州アクロン出身のブルース・オルタナティブ・ロックバンド、ブラック・キーズのリーダーで、2013年には自分たちの作品やDr.ジョンのアルバムなどの仕事でグラミー賞最優秀プロデューサー賞も獲得しているダン・アウアーバックのソロ・アルバム『Waiting On A Song』。ドカスカビートと骨太のブルースっぽいロックを聴かせるブラック・キーズのサウンドとはひと味違った魅力を持つこのアルバムを今週は紹介しましょう。


Waiting On A Song 


ダンがソロ・アルバムを出すのはまだブラック・キーズが大きくブレイクする前の2009年の『Keep It Hid』以来8年目、2枚目になります。今回のソロ・アルバム制作のきっかけは、その後ブラック・キーズが大きくブレイクすることになったアルバム3枚『Brothers』(2010)、『El Camino』(2011)、『Turn Blue』(2014)の大ヒットとそれをサポートするツアー続きでほとほと疲れてしまったダンが、2014年から2015年にかけてレイ・ラモンターニュラナ・デル・レイ、ケイジ・ジ・エレファントらのアルバムをプロデュースした後2015年に再婚、そして2016年夏に休養宣言をしたことが実は始まりだったとか。


El Camino 

早くから南部の音楽のメッカ、ナッシュヴィルに移り住んでいたダンは、ひたすらレコーディングに、ツアーに、そしてプロデュースワークで駆け抜けた後はゆっくりアンプラグして過ごすつもりだったようですが、それまで時間なく交流がなかなかできなかった地元のミュージシャンや音楽関係者と交流するうちに、このアルバムを作ることになる二人の重要なパートナーと知り合ったといいます。

一人はこのアルバムのプロデューサーでもあり、このレコードが録音されたナッシュヴィルのEasy Eye Soundスタジオのオウナーでもあるデヴィッド・ファーガソン。彼はメンフィスのサン・スタジオを創始者のサム・フィリップスと共に支えた伝説のプロデューサー、”カウボーイ”ジャック・クレメントの直弟子で、90~2000年代にこちらも名プロデューサーのリック・ルービンの手腕で復活したジョニー・キャッシュアメリカン・レコーディング・レーベルから発表したその時代のアルバムのサウンド・エンジニアを務めた、ナッシュヴィルでも大御所のサウンド・プロデューサーです。

そしてもう一人が、デイヴィッドと親しくなったダンが連れて行かれたナッシュヴィルのライヴハウスでのジョン・プライン(70年代にカリスマ的人気を誇ったシンガーソングライター)のライヴで、バンドのマンドリンを弾いていたパット・マクラフリン。彼は80~90年代にスティーヴ・ウォリナータニヤ・タッカー、ゲイリー・アランなどカントリー・シンガー達に数々の曲を提供してきて、ナッシュヴィルでも有数のシンガーソングライターとしての実績を持っていましたが、2010年にジョン・プラインのツアーの前座をやったのをきっかけにジョンのバンドに時折参加していたとのこと。巡り合わせというのはこのこと。

意気投合した3人は「とにかく曲を書こう」ということで毎日ダンの家に集まり、朝9時から夕方までとにかく共作で曲を書きまくったといいます。週の前半は曲を書き、後半はその曲のデモを録音する、というのを続け書き上がった曲は、他のバンドメンバーとの共作も含め200曲に上ったというから驚きです。


このレコードのもう一つのポイントは、バックをつとめるバンドのメンバーがほぼ全曲不動であるということ。ギターのラス・パール、ベースのデイヴ・ロー、キーボードのボビー・ウッド、ドラムのジェフ・クレメンスの4人はダンと共にこのアルバム収録の10曲のほとんど全部を不動のメンツで固めて、骨太でタイトで、それでいてしなやかな演奏を聴かせてくれます。スペクター・サウンドの成功のバックにレッキング・クルーが、モータウンの成功のバックにザ・コーポレーションが、そしてスタックスの成功のバックにブッカーT&MGズが、と古来成功したサウンド・プロダクション・チームには不動のバンドメンバーがいましたが、このアルバム制作にあたってはそれを念頭に置いていたとダンは言います。そしてそれに加えてゲスト参加しているミュージシャンはすべてレジェンド級のアーティストばかり。ラウンジっぽいギター音のレゾナンスが聴いた瞬間に彼と分かるデュアン・エディ、マーク・ノップラー、そしてブルーグラスの世界でドブロ・ギターと言えばこの人、ジェリー・ダグラスなどがダンデイヴィッドパットのペンによる楽曲のレベルを一段と上げているのです。



サウンドは、ブラック・キーズのドカスカビートのブルース基調のロック・サウンドを想像するといい意味で大きく裏切られます。このアルバムのきっかけとなったジョン・プラインとの共作曲でオープニングのタイトルナンバー「Waiting On A Song」はマイアミ・ソウル風のベース・リフで軽快に始まり「おっ、何だこれは」と思ううちに、思いっきりカントリーに寄り添ったジョン・メイヤー、といった感じのオーガニックなブルー・アイド・ソウルに転じていく、実にオープニングにふさわしい目の前に道が開けていくような曲(PVも映画風で楽しいですね)。ストリングをバックに構えながらメンフィス・ソウル風なリフがこれも心地よい「Malibu Man」、ニック・ロウか、トラヴェリング・ウィルベリーズかといった軽快なロカビリー基調の軽快なサウンドの途中に紛う方無きデュアン・エディ御大の骨太のギターが登場して、思わず体が動く「Livin' In Sin」といったあたりを終わる頃にはこのアルバムの虜になっていました。


続く「Shine On Me」もジュース・ニュートンの「Queen Of Hearts」やトラヴェリング・ウィルベリーズに共通するロカビリー・タッチのとてもポップなリフのキャッチーな曲。ここでのメイン・リフのギターを弾いているのはマーク・ノップラーですが、バンドメンバーと一緒に楽しんでプレイしているのが目に見えるよう。

ひとしきりビートの軽快なナンバーが続いた後は、ムーディなナッシュヴィル・ソウル歌謡、といった感じの「King Of A One Horse Town」からダンラスのアコギとデイヴのアコースティック・ベースにこちらもナッシュヴィル・レジェンドのジェリー・ダグラスのドブロが絡む「Never In My Wildest Dreams」にかけては、いわばこのアルバムのレイドバック・セット。「Cherrybomb」は妖しげな魅力をたたえた女性とその冷たさを歌うというカントリーでは定番のテーマの歌詞を、60年代のゾンビーズあたりを思わせるミステリアスな雰囲気のサウンドに乗せて歌うというもの。


アルバム終盤の3曲はまたちょっとアップテンポのビートに戻って、カントリー・クラシックに対するオマージュとも思えるタイトルの「Stand By My Girl」、ちょっとダウンテンポながらノーザン・ソウルの雰囲気をたっぷり称えたソウルフルなナンバー「Undertow」、そしてハンドクラッピングとジャンプするような軽快なリズムに乗って軽々とダンが思わせぶりな女の子に「その気があるなら態度で見せてくれ/その気がないのならいい加減僕を自由にさせて/僕の気持ちは最初から見せている/ねえ君、君の気持ちを見せて」と歌う「Show Me」でほんわかしたムードでアルバムは完結。

Waiting On A Song (back)


このアルバムに入った10曲以外にも190曲のストックがまだあるわけで、この3人のソングライティング・チームの楽曲のクオリティの高さからいって、このセッションの2弾目、3弾目も今後出てくるのではないかと期待させます。そんな期待を膨らませてくれるほど、このアルバムはいつも変わらないバンドメンバーが集まって普通に楽器を弾いて、キャッチーだけど単純ではなくレベルの高い楽曲を演奏しているダン達の楽しさが伝わってくる好盤。是非ともストリーミングで、そしてCDショップで実際に聴いて見て下さい。アメリカン・ルーツ・ミュージック(含むR&B)がお好きな方であれば絶対お気に入りの一枚になると思いますので


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位41位(2017.6.24付)

同全米オルタナティヴ・アルバムチャート最高位5位(2017.6.24付)

同全米ロック・アルバムチャート最高位8位(2017.6.24付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#91「How Will The Wolf Survive?」Los Lobos (1984)

#91『How Will The Wolf Survive?』Los Lobos (Slash / Warner Bros., 1984)


先週は一週間US出張の関係でお休みしてしまったこの「新旧お宝アルバム」、帰国してみると成田を立つ前に比べて湿気も増えて、少し梅雨らしくなったなあ、と思ってましたが肝心の雨はそこそこで蒸し暑さだけは全開のここ数日。皆さんも体調崩さぬよう洋楽ライフを楽しんで下さい。

そのUSは正に今独立記念日ホリデーの真っ最中ということで、ゆったりした時間が流れているようですが、ここ東京では週末の都議選の結果が自民惨敗、小池都知事の都民ファーストの圧勝となりました。この後の展開は不透明ですが、奢れる安倍下ろしの一歩になったのであれば国民にとって歓迎すべきことだと思います。


さて今週の「新旧お宝アルバム」は時代を80年代に戻して、自らの民族的ルーツと音楽的表現を試行錯誤しながら見事にオリジナルでカッコいいロック作品を作り上げた、ロス・ロボスのメジャーブレイク作『How Will The Wolf Survive?』(1984)をご紹介します。


How Will The Wolf Survive 

ロス・ロボスというと、全米トップ40ファンの間では1987年の同名映画の主題歌で、その映画の主人公でもあった50年代のロカビリー・スター、リッチー・ヴァレンスのヒット曲のカバー「La Bamba」の全米No.1が最もお馴染みだと思いますが、彼らがロック・シーンにおいてメジャー・ブレイクを果たしたのはその3年前にリリースされたこのアルバム『How The Wolf Survive?』でした。

メンバーはLAで最もラティーノの人口割合が多い(90%以上がラティーノ)イーストLA出身の6人組、特に自らの民族的ルーツをメキシコに持つメンバーが多く、このアルバムにおいて彼らはメキシコの民族性とロック・サウンドの融合による新しくオリジナルなスタイルでのテックス・メックス・ロック(メキシコ音楽とカントリーの融合した音楽スタイル)を見事なサウンド・プロダクションと楽曲で実現しているのです。


Los Lobos


メンバーのうちリーダーのデヴィッド・ヒダルゴ、ルイ・ペレス、セザール・ロサス、そしてコンラッド・ロザーノの4人はギター、ベースといったロック・バンドの基本楽器の他、テックス・メックスに欠かせないアコーディオン、レキント・ハローチョやギタロン、ハラーナ・フアステカといったメキシコ音楽特有の弦楽器の数々を要所要所で駆使しており、これが彼らの独自のサウンドに欠かせないものになっています。

そうしてこうした文化的多様性を内包した音楽性を見事にロック作品として昇華しているのに欠かせないのが、後にコーエン兄弟の映画『オー・ブラザー(O Brother, Where Art Thou?)』(2000) のサントラ盤やアリソン・クラウスロバート・プラントの歴史的コラボ作『Raising Sand』(2007)などでアメリカン・ルーツ・ミュージックを基盤とした音像豊かなロック・プロダクションで知られる名匠Tボーン・バーネットのプロデューサー・ワークです。彼の必要最低限の音数を使い、余計な装飾的なサウンドを一切廃した「引き算」のプロダクションがこのアルバムをとてもタイトに、されどインパクトあるものにしているのです。



アルバムはいきなりストレートでシンプル、でもインパクトのある軽快なロック・ナンバー「Don't Worry Baby」で勢いよくスタート。ロス・ロボスは90年代にこちらも名プロデューサーのミッチェル・フルームを迎えた『Kiko』(1992)『Clossal Head』(1996)といった名盤をものしていますが、そのあたりのサウンドの萌芽を感じさせるような、力強いサウンド。ここでは伝統的なロック楽器のみの演奏ですが、既に何か違うぞ、的なものを期待させてくれるそんなオープニングです。

このアルバムに先立ちリリースされたEP『...And A Time To Dance EP』(1983)で買ったGMドッジ・バンで全米ツアー中に、このアルバムの最初の曲として作られた次の「A Matter Of Time」もまだ通常のギター中心のサウンドですが、レイド・バックしたブルース調の楽曲とギターの音色がテックス・メックス色を強く醸し出している気持ちのいいナンバー。


そして次の「Corrido #1」からはアコーディオンとドラムスをバックにしたエキゾチックな演奏で、一気にテックス・メックスの世界に突入。シャッフル調のリズムが心地よい「One Last Night」、ヒダルゴの要所要所を締める巧みなギターリフとアコーディオンのバッキングとレトロな曲調が楽しい「The Breakdown」、そして軽快なギターリフとリズム、そして「昨夜はジン一本ですっかりベロベロ/でも気分は最高/昨夜はウィスキー一本で酔っ払っちゃったぜ/でもそう、俺は気分最高」という楽しい歌詞で思わず踊り出したくなる「I Got Loaded」あたりまでは一気にロス・ロボスの軽快でノリのいいテックス・メックス・ロックの世界に引き込まれてしまいます。


自らの民族性への誇りを思わせる伝統的メキシコ音楽スタイルに徹した演奏で、全編スペイン語の歌詞の「Serenata Norteña」(北部のセレナータ、セレナータというのは夜に女性の窓の下に来て歌う求愛歌)がそうしたロック・サウンドに続いて登場するこのアルバム構成、嫌がおうにも彼らのスタイルの独自性を実感させられますが、続く「Evangeline」「I Got To Let You Know」ではすぐさままた彼らのテックス・メックス・ロックスタイルに戻り、思わず聴きながら体が動いてしまう演奏で盛り上げてくれます。ラス前の短いインスト・ナンバー「Lil’ King Of Everything」ではメンバーがギターやベースをメキシコ音楽特有の弦楽器に持ち替えて、砂漠に開くサボテンの花を思い浮かべるような美しいメロディを聴かせてくれます。



ラストナンバーの「Will The Wolf Survive?」ではまたテックス・メックス・ロックのスタイルに戻り、ヒダルゴのギターリフやメキシコ弦楽器の美しい音色をバックに「果たして俺たち(ロス・ロボスというのはスペイン後で「狼」の意味)はこの厳しい音楽シーンで生き残っていけるのだろうか?」というある意味深刻なメッセージを、極めて明るく開放的なトーンで唄いながら、アルバムを締めます。


このアルバムはリリースされるや、数々のロック評論筋から高い評価を受け、かのローリング・ストーン誌などは1984年に発表した「1980年代で最も偉大なアルバム100枚」の第30位にこのアルバムを挙げるなど「テックス・メックス・ロック」という新しいジャンルを確立した作品として広く受け入れられたそんな作品。

ラ・バンバ」の思わぬヒットでイメージを限定される恐れもあったのですが、その後前述した90年代のミッチェル・フルームを迎えての作品群への高い評価や、2000年代に入って自らプロデュースした『Good Morning Aztlán』(2002)、エルヴィス・コステロトム・ウェイツ、サルサの雄ルーベン・ブラデスらを客演に迎えた『The Ride』(2004)、グラミー賞の最優秀アメリカーナ・アルバム部門にもノミネートされた『Tin Can Trust』(2010)など、コンスタントにクオリティの高い作品をリリース。2015年には17枚目にあたるオリジナル・アルバム『Gates Of Gold』を発表、相変わらず力強くもやや円熟の域に達しつつある、彼ら独特のテックス・メックス・ロックを聴かせてくれます。

Gates Of Gold


先週のUS出張の帰りにLAに立ち寄りましたが、日本と違ってLAは昼間は30度を超す猛暑の毎日で、ロス・ロボスのこういう乾いた、それでいてメキシコの異国情緒を感じさせる音が似合う気候でした。日本はまだ湿気も多くカラッとは行きませんが、これからどんどん暑くなる毎日。ロス・ロボスのレコードでも聴きながら辛いメキシコ料理とビールで夏を乗り切ってみる、というのも乙なのでは?


 <チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位47位(1985.3.9付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#90「Break Up」Pete Yorn & Scarlett Johansson (2009)

#90Break UpPete Yorn & Scarlett Johansson (Atco, 2009)


6月も後半に入る今週、相変わらず梅雨はどこに行ったのかっていうほど、雨の気配のない天気が続いてますが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。いよいよ今年後半の各種洋楽ライヴのアナウンスやチケット発売も始まり、あっというまに2017年もそろそろ折り返し。来週くらいには、今年前半のおすすめアルバム、なんてリストも考えてみたいと思っています。


さて今週の「新旧お宝アルバム!」は最近、といいながらもう8年前のアルバムになるわけなんですが、ちょっと今の季節感にはそぐわなくて、どちらかというとまだ寒さを感じる初春の暖かい日だまりでセーターを着ながら日なたぼっこをしてる、っていう感じのアルバムをご紹介します。今回ご紹介するのは、90年代後半からブレイクし始めたシンガーソングライター、ピート・ヨーンと、映画『ロスト・イン・トランスレーション』(2003)でブレイク、その後マーヴェル映画のアヴェンジャー・シリーズではブラック・ウィドウ、『世界でひとつの彼女(Her)』(2013)やリュック・ベンソン監督の『ルーシー』(2014)などでセクシーで印象的な女性(または女性の声)を演じ、今年は日本アニメの傑作『攻殻機動隊(Ghost In The Shell)』のハリウッド・リメイク盤に主演した皆さんご存知のスカーレット・ジョハンソンが2009年にリリースした、幸せを感じられるデュエット・アルバム『Break Up』をご紹介します。


Break Up 


このアルバムはもともと、1960年代にリリースされた、当時フランス一のセクシー男性シンガーと言われたセルジュ・ゲインズブールと、一時は彼の妻でもあり、こちらも当時セクシーな女優として知られたブリジッド・バルドーによるデュエット・アルバムをイメージにおいて作られたというもの。

ただ単なる企画もの、過去の有名作品のアイディアに乗っかった作品というレベルに止まらず、ピートの楽曲とスカーレットの不思議な魅力たっぷりのボーカルとがなかなか素敵なケミストリーを生み出している素敵な作品

本家のゲインズブール&バルドー同様、男と女が二人の関係の移り変わりをデュエットを通じて物語っていく、というコンセプトが二人の間の幸福感やオプティミズム、そして時には不安や希望を実に表現していて、時々引っ張り出しては聴きたくなる、そんなアルバムです。

Pete Scarlett


今ハリウッド一のセクシーで演技派女優、スカーレットのことはもう皆さんよくご存知なので今更上記以上のご説明は不要でしょうが(笑)、ピートのことはちょっとご説明しておきます。

彼はニュージャージー州出身のシンガーソングライターで、1999年にキャメロン・ディアズ主演の大ヒットコメディ映画『There's Something About Mary(メアリーに首ったけ)』(1998) を監督したファレリー兄弟の映画『Me, Myself And Irene(ふたりの男とひとりの女)』(2000)に提供した楽曲が全面的に映画に使われたことでブレイク。翌年リリースしたデビューアルバム『musicforthemorningafter』が高い評価を受けて、その年ローリング・ストーン誌の選ぶ「2001年注目のアーティスト」に選ばれるなど、USロックシーンではその実力を認められたシンガーソングライターの一人。また、自らの作品の楽器演奏はほとんど一人でやってしまうというマルチ・インストゥルメンタリストでもあります。

今回紹介するアルバムの楽曲も1曲を除いてはピートの作品で、その作風は90年代のグランジ・ムーヴメントやR.E.M.ベックに代表される90年代後半のアメリカン・オルタナ・ロックのバンド達のサウンドに明らかに多くの影響を受けたと思われる、ポップなフックが耳になじみやすいメロディーと、音使いはシンプルでややラフながら、楽曲の骨組みや楽器(特に時折ノイズ的に使われたシンセやドラムス・パーカッション)の使い方がいかにも90年代ロックを通過してきました的な、不思議な魅力を持った楽曲を多く聴かせてくれます。



しかしこのアルバムのもう一つの、そして最大の魅力はスカーレットのハスキーで、やや気だるそうな、それでいて存在感のあるボーカルでしょう。彼女が全面的にリード・ソロを取る楽曲は一つもなく、主たるパートを最も多く唄っている曲といえば、ピートと交互にメイン・ヴァースを唄う、アルバムオープニングのリズミックでウキウキする「Relator」とナッシュヴィル・バラード的な3曲目の「I Don't Know What To Do」、そしてラス前でメンフィスあたりのラウンジで演奏されているのでは、といったギターの音色が印象的な「Clean」くらいで、それ以外の曲では要所要所でボーカルを入れたり、ピートのボーカルにハーモニーで寄り添ったり、といったパフォーマンスが多いのですが、彼女の声が入ってきた瞬間に一気にその存在感が耳に飛び込んでくるのです。特に「I Don't Know~」でスカーレットのボーカルがふわっと立ち上がってくるあたりはかなりヤバいです。是非聴いてみて下さい。

彼女のボーカルは、技巧として高いものは当然ないのですが、発声の仕方やそもそも声質がなかなか聴かせるところが多く、単なるハリウッド女優の隠し芸的なレベルで終わっていないところには、正直最初聴いた時は驚いたものでした。




一方、4曲目の「Search Your Heart」でのイントロで軽快なギターのリフをバックに2人がサビのフレーズを繰り返し歌うあたりや、ベックの初期の曲を思わせるシンセとリズム・マシーンのイントロからR.E.M.っぽい透明感のあるギターサウンドに変貌する「Shampoo」でスカーレットピートの3度上下のコーラスを付けながら歌う、シナトラ親子の「Somethin' Stupid」を彷彿させるようなボーカルコラボなどは、二人がこのコラボを楽しみながらやっているなあ、と聴きながら思わず幸せを感じることができる楽曲です。



アルバム最後は、こちらもナッシュヴィルやメンフィスの古いライヴ・バーで演奏しているような雰囲気のゆったりした、骨太のギターの音色をバックに、ところどころに90年代的なノイズ一歩手前のパーカッシヴ・サウンドが入る楽曲をピートが唄う「Someday」で締められます。ここでは自らの存在をアルバムからフェードアウトするかのようにスカーレットは完全にバックコーラスに徹しているのも、それまでのアルバムを通しての彼女の存在感を考えると印象的ですね。


Break Up (back)


もともとこのアルバムの音源のセッションは、2006年には録音されていたのですが、諸般の理由からすぐにリリースされませんでした。その間にスカーレット自身、このセッションで音楽活動への自信も得たのか、2008年にはオルタナ・ロック・バンド、TVオン・ザ・レイディオのリーダー、デイヴ・サイテックをプロデューサーに迎えた初ソロアルバム『Anywhere I Lay My Hat』をリリース。何とデヴィッド・ボウイと3曲客演しているこのアルバムは1曲以外はすべてあのトム・ウェイツのカバーという、女性アーティスト、それもプロのミュージシャンでないアーティストによるソロ・デビューとしてはとても異色のもので、シーンで賛否両論を得たようです。

そうこうする中、同時期に、同じような女優と男性シンガーソングライターによるユニット、She & Him(映画『あの頃ペニー・レインと(Almost Famous)』(2000)や米FoxのTVシリーズ『ダサかわ女子と三銃士(New Girl)』での主演で有名なゾーイ・デシャネルM.ウォードのデュオ・チーム)がリリースした『Volume One』(2008)が人気を呼んだというのがおそらくきっかけになって、録音以降棚上げになっていたこの音源がめでたくアルバムリリースに至った、ということではないかと個人的には見ています。


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ピートはその後もソロで着実な活動を続けていて、昨年も7枚目のアルバム『Arranging Time』(2016)をリリース、ロック・プレスの評価もそれなりに高いようです。一方スカーレットの音楽活動もその後いろいろと続いており、最近では2015年にLAのポップ・オルタナ・バンド、HAIMの長姉エステら3名とザ・シングルスなるバンドを結成、シングルリリースするなど、相変わらず音楽活動への意欲は捨ててないようです

同じタイプのコラボであるShe & Himがその後『Volume Two』(2010)『A Very She & Him Christmas』(2011)、『Volume 3』(2013)、『Classics』(2014)などとコンスタントに素敵なアルバムを作ってるし、スカーレットも映画が忙しいのでしょうが、ピート&スカーレットの続編アルバムで、また素敵な楽曲と二人のボーカルコラボを聴きたい、と思っているのは多分自分だけではないはず。その日が来るのを期待しながら、このアルバムでほんわりした気分をお楽しみ下さい。


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位41位(2009.10.3付)

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#89「American Flyer」American Flyer (1976)

 #89『American FlyerAmerican Flyer (United Artists, 1976)


関東地方は梅雨入りしたそうなんですが、連日夏になってしまったかのような暑くいい天気が続いていて雨の気配もあまり感じられないここ数日、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。空梅雨というのも秋のお米、そして日本酒の出来のことを考えると困るもので、多少雨も降ってもらって、7月にはからりと梅雨明けそして夏!という風にいきたいものです。


さて今週の「新旧お宝アルバム」はここ数日のさわやかな天気を思わせる、フォーク・ロックの素敵なアルバムをご紹介。イーグルスに続くウェスト・コースト・ロックのスーパーグループか?と当時ちょっとだけ評判になりましたが、本来受けるべきちゃんとした評価を得られないままアルバム2枚で解散してしまったグループ、アメリカン・フライヤーのデビュー・アルバム、『American Flyer』(1976)をご紹介します。


AmericanFlyer.jpg 




1972年『Eagles』で鮮烈なデビュー、その後『Desperado(ならず者)』(1973)、『On The Border』(1974)を経て彼らの最高傑作『One Of These Nights(呪われた夜)』(1975)で人気の頂点を極めたイーグルスの成功は、折からのFMロックステーションの隆盛と相まって、フォーク・ロック、カントリー・ロックといったジャンルに対する人気の高まりを呼び、当然ながら各レコード会社のマーケティングはこのジャンルのアーティストへ集中することになりました。

特にこのジャンルに力を入れたのは、ジャニス・ジョプリンらを見いだし、機を見るに敏で利に聡く、当時コロンビア・レーベルから離れて自らのアリスタ・レーベルを立ち上げていたクライヴ・デイヴィス。「Peaceful Easy Feeling」などイーグルスの初期の作品の作者だったジャック・テンプチンと、90年代のSSW(シンガーソングライター)ルネッサンスの旗手の一人となるジュールズ・シアーを擁したファンキー・キングスを「次のイーグルス」として売り出そうとしたり(彼らは以前このコラムでも取り上げました)、イーグルスのバーニー・レドンの弟、トムを擁したシルヴァーを売り出したりしたものです。

そういうトレンドに乗って出てきたわけではないようですが、機を同じくしてそれまでロック・シーンで着実な活躍をしてきたアーティスト4人が、集結して結成したのがこのアメリカン・フライヤー。そのイーグルスCSN&Yを想起させる軽やかなフォーク・ロック・ベースの楽曲と、美しいメロディとハーモニーで達者な魅力満点のパフォーマンスを聴かせるこのバンドは、このアルバムをプロデュースした、ビートルズアメリカのプロデュースで有名な、あの故サー・ジョージ・マーティンの手腕も相まって、素晴らしい作品となっており、このジャンルのファンにも人気の高い盤です。


アメリカン・フライヤーを語るに当たってまず名前が出るのは、メインのボーカルでこのアルバム12曲中6曲を書いているメインソングライターでもあるエリック・カズ。彼の名前は70年代ウェストコースト・ロック・ファンの間ではつとに有名で、リンダ・ロンシュタットボニー・レイットが特に彼の歌をカバーしていて、特にこのアルバムでセルフ・カバーもしている「Love Has No Pride」は彼のシグネチャー・ソングの一つ。その他にもこの2人がやはりカバーしている「Cry Like A Rainstorm」、イーグルス脱退後のランディ・マイズナーのヒット「Hearts On Fire」「Deep Inside My Heart」など数々の作品をいろんなアーティストに提供してきたシンガーソングライターなのです。

もう一人の主要メンバーであるクレイグ・フラーは、このグループに加入する直前までは、オハイオ州シンシナティを中心に活躍するカントリー・ポップ・グループ、ピュア・プレイリー・リーグの中心メンバーだった人で、PPLの最初のヒット曲「Amie(いとしのエイミー)」(1975年最高位27位)の作者ながら、この曲のヒットを最後にPPLを脱退、このアメリカン・フライヤーに合流しています。

残るメンバーも、60年代にアル・クーパー率いるブルース・プロジェクトに在籍後、ブラッド・スウェット&ティアーズにいたスティーヴ・カッツと、こちらも60年代後半NYの先鋭的ロックバンド、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドに在籍していたダグ・ユールと、錚々たる顔ぶれでした。



そうした名うてのミュージシャン達が結成したスーパーグループ、ということ以上にこのアルバムを特別なものにしているのは、ほとんどの曲でペンとボーカルを取るエリッククレイグの二人の織りなす楽曲の素晴らしさと、メンバー4人によるハーモニー・ボーカルの美しさ、そして随所に職人芸的に施されたジョージ・マーティンのアレンジによる管楽器やストリングスで、これらが見事に調和してそんじょそこらのフォーク・ロック作品とは違った音色のゴージャスさを生み出しています

物憂げなピアノのイントロから印象的なリズム・パターンのリフとエリックの魅力満点のボーカルで冒頭からリスナーをつかむ「Light Of Your Love」や、シングルとして小ヒットもした、サビのコーラスが豪華な「Let Me Down Easy」など、エリッククレイグの共作によるナンバーにはこうした、このアルバムを特別にしている要素が包含されていて、特に全体の中で抜き出た楽曲に仕上がっています。



エリック単独作品の数々ももちろんこのアルバムの中心的な構成要素となっていて、2曲目のスケールの大きいメロディが印象的な「Such A Beautiful Feeling」、静かなアコギと簡単なリズムセクションに管楽器・ストリングスが豪華に調和する「M」、シンプルなカントリー・ロック・バラードにラリー・カールトンのギターをフィーチャーした「Drive Away」、そして彼の看板ソングでもある「Love Has No Pride」などは、このアルバムの柔らかくふっくらとしたトーンを終始コントロールした、ある意味「幹」の役割を果たしています

一方、クレイグの作品もエリックの作品と異なる表情をアルバムに与えています。アナログだとB面冒頭で、ポコあたりを思わせるより伝統的なカントリー・ロックといった味わいの「The Woman In Your Heart」や、大胆にストリングスが無数に配されて、マーティン卿の手腕が遺憾なく発揮され、もはやロックの域をやや超えてしまっている豪華なアレンジの「Call Me、Tell Me」はそうしたクレイグの味を感じられる作品。これらにアーニー・ワッツのサックスをフィーチャーし、この曲の中で一番イーグルスを思わせるスティーヴ作のノスタルジックな曲調の「Back In '57」や、ラテン・パーカッションを配してトロピカルな曲調が楽しいダグ作の「Queen Of All My Days」などが全体に多様な表情を加えているのです。


American Flyer (back)_2


Call Me, Tell Me」の最後のストリングス・フレーズが終わった後に厳かに、しかしもの悲しくも美しいメロディを奏でる1分足らずのストリングスのインストゥルメンタル曲「End Of A Love Song」でまるで映画の終わりのように静かにアルバムは終わるのですが、この曲はエリックマーティン卿の共作。アルバム全体のコンセプトと空気感を見事に作り上げるエリッククレイグ達の楽曲とマーティン卿のプロフェッショナルなプロデューサーワークが見事に大団円を迎える一瞬です。


彼らはこの後2枚目の『Spirit Of A Woman』(1977)を出した後に解散。しかしエリッククレイグは解散後も活動を共にし、翌年には『Craig Fuller & Eric Kaz』(1978)というこちらも地味ながら素晴らしいアルバムをリリースしています。その後エリックはSSW活動を継続、前日のランディ・マイズナーとの仕事の他にも、ドン・ジョンソンの「Heartbeat」(ウェンディ・ウォルドマンとの共作、1986年最高位5位)やマイケル・ボルトンと共作で「That's What Love Is All About」(1987年最高位19位)といったヒット曲も提供、2002年には初来日を果たして、日本のアメリカSSWファンの間での根強い人気に本人も多いに喜んだとか。最近では2015年に41年ぶりのソロの新作となる『Eric Kaz(エリック・カズ:41年目の再会)』をリリースして、これもファンの間ではちょっとした話題になりました。

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一方クレイグは、エリックとのデュオ・アルバムの後は1987年にそのボーカルがあの故ローウェル・ジョージに酷似しているということもあり、新生リトル・フィートにギター・ボーカルとして加入、1993年までに3枚のアルバムに参加しています。また1998年にPPLを再結成したり、2011年にはリトル・フィートの大晦日コンサートに参加したりと、今も活動を続けている様子です。


まだ30歳そこそこの若いメンバーの才能の瑞々しさと、それを包み込みながら彼らの良さを見事に引き出しているマーティン卿の仕事ぶりが存分に楽しめるこのアルバム、一度お聴きになる価値は充分以上。昨年にはユニヴァーサル・ミュージック・ジャパンさんの「名盤発見伝シリーズ」の1枚として、SHM-CD仕様で再発もされていて、CD屋さんでも比較的見つけやすいと思いますので、是非一度アメリカン・フライヤーを体験してみて下さい。


 <チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバムチャート最高位87位(1976.10.16付)

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#88「Blue Boy」Ron Sexsmith (2001)

#88Blue BoyRon Sexsmith (Ronboy, 2001)


6月に入りましたが、時折ゲリラ豪雨はあるもののまだ梅雨の気配があまり感じられず、結構暑い毎日が続いていますが皆さん体調管理をしっかりして洋楽ライフを楽しんでおられることと思います。フジロックサマソニなど、毎年のサマー音楽フェスのラインアップも決まり、既に梅雨の先の楽しい夏の洋楽ライフが目の前に迫ってきているようで楽しみですね。


さて今週の「新旧お宝アルバム!」はちょっと前ながら比較的最近アルバムのご紹介です。今回は、つい最近こちらも素晴らしい出来の最新作『The Last Rider』(2017)をリリース、一昨年のビルボード・ライヴでの素晴らしい来日ライヴに続いて、今年のフジロック・フェスティバルでの再来日も決まっている、21世紀を代表するシンガーソングライターの一人、といってもいいロン・セクスミスがメジャー・レーベルからインディに移籍後リリースした最初のアルバム、5作目の『Blue Boy』(2001)をご紹介します。


Blue Boy 


ティーンエイジャーの頃から地元、カナダはオンタリオ州のセント・キャサリンという街のバーで弾き語りしてミュージシャンとしてのキャリアをスタートしたロンが、80年代後半にトロントに移り、自分の書きためた曲をまとめて最初のアルバム『Grand Opera Lane』(1991)を自費でリリースしたのは、ロン27歳、結婚して最初の息子が6歳の時という、遅咲きのシンガーソングライター。そのもっちゃりとした風貌にそぐわぬ線の細い繊細な、それでいてどこかしらソウルフルさも感じさせる歌声で、傷つきやすい男の気持ちを詩情溢れる歌に託す、というスタイルが静かな共感を呼び、このアルバムがエルヴィス・コステロの耳にとまって彼の絶賛を受けたことがきっかけで次の『Ron Sexsmith』(1995)でインタースコープ・レーベルからメジャー・デビュー。90年代にその音響派と言われた独特のサウンドプロダクションで、クラウデッド・ハウス、ロス・ロボス、コステロら数々のロック系のヒット作を手がけたミッチェル・フルームのプロデュースで、一気に新進の実力シンガーソングライターとしてシーンで認知されました。


Ron Sexsmith


その後『Other Songs』(1997)、『Whereabouts』(1999)と、同じミッチェル・フルームチャド・ブレイクのプロデューサーチームでかなり質の高いアルバムをコンスタントにリリースしたロンでしたが、時代はよりエッジの立ったグランジやミクスチャー・ロックといったジャンルがメジャーな中、彼のスタイルがメジャーのマーケティング方針と合わなかったのでしょう、インタースコープの契約がなくなったロンが、心機一転、Ronboyという当時自主制作だったんではないかと思われるインディー・レーベルから、オルタナ・カントリーのパイオニアの一人として有名なあのスティーヴ・アールをプロデューサーに迎えてナッシュヴィルで録音、リリースしたのがこのアルバム『Blue Boy』です。


このアルバムでも彼の従来なアコースティックな演奏をベースに自分の心情や思いを歌詞に乗せて歌う、という彼のスタイルは根本的に変わっていませんが、スティーヴの影響や、メンフィスやマッスルショールズといった南部の音楽都市に近いカントリーのメッカ、ナッシュヴィルでの録音といったことが影響したのでしょう、それまでのアコギポロポロ的なスタイルから、全体的によりバンドサウンド的、曲によってはホーン・セクションやジャズっぽいアプローチも見せるなど、楽曲的にはそれまでで最も多様なスタイルを満載した、躍動感溢れる意欲作になっていて、メンフィス・ソウル・バンドをバックに歌う骨太のシンガーソングライター、といった風情に脱皮している感じが素晴らしい出来になっています。

一皮むけたのはサウンドだけでなく、リリックにも自分の歌唄いとしての立ち位置を再確認して、それを自信を持って表現しようという彼の決意が見て取れるのがこのアルバムの味わい深いもう一つのポイント。冒頭ドラムスとホーンをバックにソウルフルに始まる『This Song』では、こういった感じです。



ちょっと歌を作ってみた

ただ言葉にメロディを付けただけ

僕の目の前でぶるぶると震えるこの歌

いったいこの歌は生き残ることができるのか


そして今、僕は自分が対峙しなきゃいけないものが見える

君が耳にしたことのある歌一つ一つのために

こわいと感じるのも無理はない

この世に生まれたかと思うと死んでしまう歌の何と多いことか

この歌、いったい生き残れるのか?


続く「Cheap Hotel」「Don't Ask Me Why」も正にメンフィスあたりのバーでギターとドラムスとベースだけの、それでいてタイトなリズムにソウルを感じる演奏にロンのおなじみのもっさりしたボーカルが乗って不思議な一体感を醸し出す楽曲たち。トランペットとピアノで静かにニューオーリンズあたりジャズ・バーで演奏されているかのような「Foolproof」は、これまで夢を見続けては裏切られた男がもう僕の心は愚かな甘い期待なんか持たない、と切ない心境を吐露する、というしみじみとしたバラード。



アルバムではこの他にも、スティーヴのプロデュースが効いている、ギターを前面に出したソウルフルなバンドサウンドの「Just My Heart Talkin'」や「Keep It In Mind」、アコギでシンプルに聴かせる「Tell Me Again」やこのアルバム中唯一のカバーであるフォーク・シンガーソングライター、キップ・ハーネスの「Thumbelina Farewell」、ピアノ弾き語りの「Miracle In Itself」、レゲエのリズムとホーンのアレンジが南部を突き抜けてカリブを思わせる「Never Been Done」などなど、アルバム通じてロンのほんわかした歌声は変わらないのに様々な楽曲スタイルによるロンの世界が展開され、それがこのアルバムの魅力の大きな要因になっています。



このアルバムの後、ジェイソン・ムラーズKTタンストールらを手がけたことで有名なスウェーデン人のプロデューサー、マーティン・テレフェを迎えた6作目『Cobblestone Runway』(2002)や7作目『Retriever』(2004)ではシンセサイザーやキーボードを大胆に導入したポップ・サウンドを展開して、更に新たな境地を見せ、それがまたシーンでは高く評価されました。

正直な話、ロンのアルバムは今年リリースされた最新作『The Last Rider』で14枚目になりますが、どのアルバムを取っても楽曲とパフォーマンスの質が高く、多くの場合期待を裏切られることがないという、ある意味稀有なアーティストだと思います。そして最新作が、今回紹介した『Blue Boy』同様、かなりバンドサウンドを前面に打ち出した、リズミックなナンバーを中心に充実した内容であることも、彼の軸足が大きくぶれることなく安定した質の作品を発表し続けてくれていることを再確認させてくれました。

Blue Boy (back)


自分は2015年のビルボード・ライヴで彼のライヴを初めて体験しましたが、かなり地味なステージになるのかな、と思いつつ望んだところ、確かに派手な演出はないものの、楽曲のパワーとロンの存在感が自然にカタルシスを呼ぶ、そんなステージで大いに得をした気になったものです。

ライヴの途中「エミルー・ハリスが僕の曲をカバーしてくれて、しかもアルバムタイトルにしてくれた時は最高だったな。あのエミルーがだよ!」と嬉しそうにしながら、『Retriever』収録で2011年のエミルーの同名アルバムでカバーされた「Hard Bargain」をプレイするのを見て、思わずオーディエンスの間に暖かい空気が広がったのも素敵な体験でした。


The Last Rider


今年フジロックへ出かける予定の方、ビョークゴリラズ、ロードといったメジャーでロックなアーティスト達もいいですけど、同じグリーン・ステージで最終日の早めの時間にやっているはずのロンのステージもちょっと覗いて、ほんわかした気分になってみるのもいいかも知れませんよ。


<チャートデータ> チャートインせず

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