Life Is A Rock - 洋楽こそ我が人生
洋楽全般について、英米ヒット・チャートに登場有無に関係なく、お気に入りの洋楽作品についての独り言やコメントをつれづれに掲載します。「新旧お宝アルバム!」「恒例グラミー賞大予想」など定期コラムが中心です。洋楽 ファンサイト、meantime(www.meantime-jp.com)のスピンオフ企画としてお楽しみ下さい。
【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#119「Beth Nielsen Chapman」Beth Nielsen Chapman (1990)

 #119Beth Nielsen ChapmanBeth Nielsen Chapman (Reprise, 1990)


今年のゴールデンウィークは全体通じて基本素晴らしい天気の日々が続いてとても気持ちのいい休日を過ごされた方も多かったでしょう。自分も初日に高尾山系を縦走するハイキングで五月の素晴らしい新緑を満喫してきました。一方今日あたりは長い連休が終わって仕事に戻り、GWロスでどんよりしている方も(笑)多いことでしょう。


さて今週の「新旧お宝アルバム!」は、またちょっと90年代シリーズに戻って、90年代に多く登場したシンガーソングライター系のアーティスト達の中でも、メインストリーム系の商業的な成功はなかなか得られなかったものの、カントリー系を中心に多数のアーティスト達に素晴らしい楽曲を提供したり、その後に現れたポップ・メインストリームやアメリカーナ系を中心とした数々の女性アーティスト達に大きな影響を与え、今でも根強いファンを多く持っている女性シンガーソングライター、ベス・ニールセン・チャップマンの代表作とも言える、2枚目のアルバム『Beth Nielsen Chapman』(1990)をご紹介します。


Beth Nielsen Chapman (Jacket) 


90年代作品を改めて評価してみようシリーズ、第5弾


ここまで90年代の音楽的ルネッサンス状況を象徴するような、ロック系アーティストやR&B系アーティスト達を取り上げて来ましたこの「90年代作品を改めて評価してみようシリーズ」。今回のベス・ニールセン・チャップマンはそうしたアーティストとはまた違った形で、カントリーやアメリカーナといった違ったジャンルにおいて、しかし大きな足跡を残したアーティストです。そしてある意味60年代後半~70年代初頭に活躍したキャロル・キングローラ・ニーロといった偉大なシンガーソングライターの系譜を汲むアーティストでもあります


ベス・ニールセン・チャップマンというと、一般的に一番知られているのは、カントリー・ポップ・シンガーで同じカントリー・シンガーのティム・マグロー(そう、あのテイラー・スウィフトの曲の題材にもなった彼です)の奥さん、フェイス・ヒルの1998年の大ヒット「This Kiss」(全米最高位7位、プラチナシングル)の共作者としてでしょう。他の二人のやはりナッシュヴィル・シーンの女性ソングライター達と書いたこの曲はそのポップでアップテンポな曲調で当時大いに人気を呼んだものです。

ベスはこの他にもトリーシャ・イヤーウッド、マーティナ・マクブライド、ウィリー・ネルソン、メアリー・チェイピン・カーペンターなどのカントリーを中心とした有名アーティスト達に90年代以降楽曲を提供してきた他、彼女自身のアルバムに参加して共演したアーティスト達はボニー・レイット、ヴィンス・ギル、マイケル・マクドナルド、ポール・キャラックなどなど、枚挙に暇がありません。

Beth Nielsen Chapman


これほどシーンでその存在を高く評価され、根強いファンも多く、またミュージシャン達からもリスペクトされているシンガーソングライターでありながら、彼女のアルバムやシングルはどれ一つとしてビルボード誌のHot 100やアルバムチャート(総合チャートだけでなく、カントリーチャートも含め)には一切ランキングされておらず、大変不可思議です

思うに、彼女の生み出す楽曲は愛や人生、そしてそれにまつわる真摯な感情をシンプルな言葉と心にしみてくるようなメロディで表現する、ということがあまりにストレートに行われているため、ラジオなどでキャッチーなアピールをするというよりは、草の根的にファンからファンに語り伝えられてきている、そんな作品だから爆発的にラジオでかかるとか、アルバムやシングルが売れるとかいった類いの作品なのではないのかもしれません。


ベスのアップテンポなピアノのメロディで始まる冒頭の「Life Holds On」は「少しでもチャンスが与えられれば、人の生命の復活力は素晴らしい」という人生へのポジティヴなメッセージを与えてくれ、ベスがボーカルに徹したややムーディなバラード「No System For Love」は「世の中はハイテクがどんどん進歩してどんなことでも可能になっているのに、未だに愛のためのしっかりとしたシステムは存在しない」というやや哲学的な曲。

このアルバムの各楽曲のバックは、おそらくプロデューサーのジム・エド・ノーマンが集めたナッシュヴィル・シーンのセッション・ミュージシャンが固めているのですが、3曲目の「I Keep Coming Back To You」ではバックをリー・スクラー(ベース)、ラス・カンケル(ドラムス)のザ・セクションのリズム隊と名うてのセッション・ギタリスト、ディーン・パークスが固めるという、本人もプロデューサーのジムもこの曲への力の入れ具合が伺える楽曲。バックの演奏はシンプルで、ベスのボーカルもパートナーのことを愛していながら、彼との関係がうまくいかないことに悩む女性の心理を表現していますが、決して力の入りすぎない雄弁なパフォーマンスで、聴いた後長く楽曲の印象が残る、そんなこのアルバムのハイライトの一つです



その後も、シンセの控えめなサウンドにアコギの爪弾きを絡めながら、自分の道を歩いて行くだけ、と力強く表明する「Walk My Way」、シンプルなピアノの弾き語りで「私に必要なものは私が持っているものだけ/私のそばにはあなたがいてそこが私の人生が一つになるところ」と満たされた愛の素晴らしさを歌う、エリック・カズとの共作「All I Have」、そして「険しい道も流した涙も、すべて目の前に現れるものを受け入れるしかないのよ」とほんわかとしたメロディに乗せて歌う「Take It As It Comes」などなど、人生の機微や愛、信念そして人生の進むべき道などを、シンプルな歌詞と趣味のいいアレンジと、90年代初頭DX7などのシンセサイザーが多用されていた時代にしてはとても控えめなシンセとアコースティックな楽器によるサウンドに乗せて心に響き渡る楽曲を、ベスが次から次へと歌ってくれるのがこのアルバム




そのアルバムのラストは、クリスマスに自分の生家に戻ってきた主人公が、自分が生まれた日に父が植えた庭の木や、向かいの家のクリスマス・デコレーションや幼なじみの子供達が作った雪だるまなどをポーチから眺めながら、自分が幼い時から流れた時間が早いようでいてゆっくり流れていることを実感する、というアコギの弾き語りで聴く者、特に人生の半ばを過ぎたリスナーの琴線に触れるバラード「Years」で静かに幕を閉じます。


BNC back


ベスは、この後90年代から2000年代にかけて、特にカントリー・シーンがアメリカーナやメインストリーム・ポップと相互乗り入れを進める中で、ディキシー・チックス、メアリー・チェイピン・カーペンター、アリソン・クラウス、ジュエル、そしておそらくテイラー・スウィフトといった、実力派の女性シンガーソングライターの台頭のいわば先駆者と言っていい存在だったと思いますし、それに相応の大きな影響をこうした後進の今や大スター達に残した、忘れてはいけないアーティストだと思います。

残念ながら「This Kiss」の大ヒット以外では大きな商業的な成功やスポットライトを受ける機会に恵まれなかったベス、このアルバム発表の僅か4年後には最愛の夫、アーネストをガンでなくし、自らも乳ガンと闘うなど、苦労多い人生を送っていますが、2011年には10年の交際を経て再婚。時を同じくして9作目にあたるアルバム『Back To Love』(2010)でシーンに復帰、その後も2年に1枚のペースで新作を発表、2016年には、あのオリヴィア・ニュートン・ジョンとカナダの女性シンガーソングライター、エイミー・スカイと3人で、喪失の悲しみを癒やし乗り越えるというスピリチュアルなテーマのアルバム『Liv On』をリリースするなど、依然聴く者を癒やし、啓発する音楽活動を続けています。


Back to Love


5月の爽やかで明るい天気の中、ベスの美しくシンプルな、それでいて自分を見つめ直すことのできるそんな楽曲を聴きながら、ゆっくりと過ごす、そんな時間を作ってみてはいかがでしょうか。


<チャートデータ> チャートインなし

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#118「See You Around」I'm With Her (2018)

 #118See You AroundI'm With Her (Rounder, 2018)


ここ2週間、弾丸でNYに遊びに行ったりしていろいろありましてお休みしていましたこの「新旧お宝アルバム!」。その間にMLB大谷は大活躍するは、国会は安倍・麻生の茶番劇で空転するはでいろんなことが起きている間に季節はめっきり春、というよりこの週末の暑さはもう初夏の雰囲気で、自分も今シーズン初短パンデビューしたほど。


さて今日の「新旧お宝アルバム!」は、そんな爽やかな気候にぴったりの心洗われるようなアコースティック・トリオ、ギターのイーファ・オドノヴァン、マンドリンのサラ・ジャロウズ、そしてフィドルのサラ・ワトキンスの3人がアイム・ウィズ・ハー名義で始めて今年リリースしたアルバム『See You Around』をご紹介します。


See You Around 


アイム・ウィズ・ハーというと、昨年ピーター・バラカンさんが主宰するミュージック・フェス「LIVE MAGIC! 2017」への参加で初来日、日本のルーツ・ミュージック系のファン達の間では既に知られ始めている存在。もともとは上記の3人が2015年頃より一緒にツアーをしたり、ミネソタ州セントポールのフォーク系のコミュニティ・ラジオ番組「A Prairie Home Companion」のホストを3人で務めたりと、地味ながら自分たちの音楽性を素直に表現するための一つの形として使ってきたのがこのアイム・ウィズ・ハーのユニット。今回その名義でめでたくフル・アルバムのリリースということで待ち望んでいたファンも少なくはないと思います。


3人の中で一番キャリアの長いのはフィドルのサラ・ワトキンス。彼女は90年代後半から2000年代後半にかけて、当時プログレッシヴ・ブルーグラス・バンドと呼ばれたニッケル・クリークの主要メンバーとして活躍、後にパンチ・ブラザーズのリーダーとなるマンドリンのクリス・シーリーと共にこの新しいジャンルを確立したアメリカン・ルーツ分野では特筆すべき音楽家の一人です。2009年ソロ独立後は様々なアーティストとコラボしたり、トム・ペティ&ハートブレイカーズのキーボード奏者、ベンモンド・テンチや弟のショーと共に「Watkins Family Hour」名義のユニットでライヴを重ねるなど(アルバムもあり)、精力的な活動を展開しています。

マンドリンのサラ・ジャロウズは高校生時代からその才能を高く評価され、ドブロのジェリー・ダグラスやバンジョーのベラ・フレックらこの世界のベテラン達と一緒に録音したデビュー作『Song Up In Her Head』(2009)でシーンに登場、その後パンチ・ブラザーズ他シーンの有力ミュージシャン達との競演を重ねる一方、2016年には4作目の素晴らしいアルバム『Undercurrent』を発表するなど着実にキャリアを積み重ねています。

ギターのイーファ・オドノヴァンはブルーグラス・ストリングス・バンドのクルックト・スティルのリード・ボーカリスト兼ギタリストとして既に10年以上のキャリアを持つ、やはりアメリカン・ルーツ・シーンでは注目のアーティストの一人です


Im With Her


この3人があのストーンズGet Yer Ya-Ya's Out!』(1970)、フーの『Who's Next』(1971)、『四重人格』(1973)、イーグルスのファースト(1972)、『ならず者』(1973)などなどのロックの名盤を手がけたグリン・ジョンズの息子、イーサン・ジョンズのプロデュース(イーサン自身もレイ・ラモンターニュ、ライアン・アダムス、ジェイホークス等アメリカン・ルーツ系の多くのアーティストとの実績あり)で、全12曲中10曲を3人だけの共作で仕上げたこのアルバム、そんな重量級の面子であることを感じさせない、とってもナチュラルでリラックスしたサウンドで充ち満ちた素晴らしい作品に仕上がっています。その雰囲気は、3人がサングラスをかけて緑いっぱいのパティオの真ん中に座って寛いでいる、というジャケが正に象徴しています。



古い映画のBGMのような不思議なメロディで始まり、そこから一気にサラのマンドリン、イーファのギターのつま弾きに突入し、一人ずつボーカルのコーラスを重ねて盛り上がっていく冒頭の「See You Around」は、このアルバムの象徴的なイメージの楽曲。サラのフィドルとサラのマンドリンのアンサンブルとそれを追っかけるように入ってくるイーファのギター、そして3人がビッチリと決めるコーラスがプログレッシヴ・ブルーグラスの世界を繰り広げる「Game To Lose」、ギターとマンドリンが華やかなサウンドを繰り広げ、よりメインストリームなカントリー・テイストのメロディが素敵な「Ain't That Fine」、3人の繊細なコーラスワークが印象的な「Pangaea」、このアルバムで始めてエレクトリック・ギターが(しかし控えめに)登場する「I-89」、そして「決して一線を踏み越えてはいけない/ 今までやってきたことを無に返してはいけない/決して一線を踏み越えないで/一線のその向こうはとんでもないものが待ってる」という切々と語りかけるような3人のコーラスによるブリッジが印象的で、ちょっとジュエルとかの曲を思い出させてくれるThe Wild One」と、アルバムのA面はあっという間に聴き通してしまいます。



B面はサラのフィドルのウキウキしたソロが楽しい、ほとんどクラシック楽曲のような短いインスト曲「Waitsfield」で軽快に始まり、ギタリストのジュリアン・レイジと3人の共作によるサザン・ソウルっぽいメロディがアーシーなイメージを醸し出す「Ryland (Under The Apple Tree)」、70年代初頭のシンガーソングライター・フォーク・ロックのイメージを惹起してくれるようなメロディと歌詞でふっと懐かしい感じを与えてくれる「Overland」、サラのマンドリンが刻むベースと、途中から絡んでくるイーファのギター、サラのフィドルとのインタープレイがあたかも目の前で3人が即興で演奏してくれているような錯覚を起こす「Crescent City」「Close It Down」とたたみかけるように聴かせてくれる素晴らしい楽曲が、3人のケミストリーを強く印象づけてくれます。アルバム最後の「Hunderd Miles」はこちらもアメリカン・ルーツ・ミュージック・シーンでは重要なアーティストの一人、ギリアン・ウェルチの曲ですが、曲の半分くらいまでは3人のアカペラ・コーラスで歌われ、後半からやっと3人のギターが入ってくるという構成で静かにずっしりとした余韻を残してアルバムを完結してくれます。



90年代後半のエミルー・ハリスU2のプロデューサー、ダニエル・ラノワを迎えて自己変革を果たした『Wrecking Ball』(1995)の成功や、ブルーグラスを全面フィーチャーした映画『オー・ブラザー』の大ヒットに後押しされてブルーグラスの女王からメインストリームにクロスオーヴァーしてアメリカーナ・シーンに確固たる地位を確保したアリソン・クラウスの『New Favorite』(2001)など、ここ20年くらいの間にフォークやブルーグラスをベースにするアメリカーナ・ミュージック、特に女性のシンガーソングライターのシーンにおける存在感たるや飛躍的に大きくなってきていますが、その流れを決して肩に力を入れることなく、自分たちのミュージシャンシップの導くままに曲を書き、集まってスタジオで演奏した、そのヴィヴィッドな雰囲気をそのまま缶に詰めてアルバムにした、そんな感じがすごく素敵なアルバム

これから屋外でパーティやバーベキューなどする機会が増えることと思いますが、そんな時にそばにアイム・ウィズ・ハーの音楽が流れていると、心がとっても安らかになるのでは。そんなことを思わせてくれるアルバムです。是非機会がありましたら耳を傾けて頂けたらと思います。


See You Around (back)


<チャートデータ> 

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位78位(2018.3.3付)

同全米アメリカーナ・フォーク・アルバム・チャート 最高位5位(2018.3.3付)

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#117「Solo」Solo (1995)

 #117SoloSolo (Perspective / A&M, 1996)


例年より1週間以上早く、先週に満開を迎えた東京近辺の桜もこの週末には散り始めて、残念ながら入学式のタイミングでは葉桜になってしまっていそうです。しかし一気に春爛漫の様相となってきたここ数日、皆さんも一気に開放的な気分でいい音楽を楽しんでおられることと思います。先週からいよいよMLBも開幕、大谷田中マーくんを初めとした日本人大リーガー達の活躍も連日伝えられ、楽しい季節になってきました。


さて今週の「新旧お宝アルバム!」は、前回のトニーズに引き続いて90年代シリーズのR&B作品盤ということで、あの名プロデューサー・コンビ、ジミー・ジャム&テリー・ルイスに見いだされて、90年代のアメリカに60年代のストリート・ソウル・カルテットが舞い降りて来たかのようなクラシックな作品で当時のR&Bファン達を魅了したニューヨークはソーホーを中心に活動した4人組、ソロのデビュー・アルバム『Solo』(1995)をご紹介します。


Solo Solo


90年代作品を改めて評価してみようシリーズ、第4弾、R&B編その2。


前回トニーズの『House Of Music』をお届けした際に、あのアルバムは90年代のR&Bを代表するアルバムの一枚、と言いましたが、その他に特筆すべき90年代R&Bのアルバムの一つにあのジャネット・ジャクソンの1997年のアルバム『The Velvet Rope』があります。1980年代のアルバム『Control』(1986)以来ジャネットとタッグを組んできたジャム&ルイスとの先進的なサウンドメイキングによるメインストリームR&Bの構築、という作業が一つの頂点を極めた傑作といっていいこのアルバムにも象徴されるように、ジャム&ルイスはもう一人のこの時期のR&Bサウンド・メイカーの雄、テディー・ライリーと並んで80年代後半打ち込み中心のサウンドからR&Bが新たな段階に進んで以降のR&Bシーンの中心的な存在でした


その彼らのそれまでのジャネットヒューマン・リーグらとの仕事の実績を高く評価したA&Mレーベルが彼らとのJVで1991年に設立したのがパースペクティヴ・レーベル。このレーベルは新進気鋭のこれからのブラック・ミュージックを推進していくであろうと思われるタレントの作品発表の場として用意され、主なアーティストにはレーベル設立直後にこのレーベルからデビューしたミント・コンディションがあります。

そして今日ご紹介するソロは、ジャム&ルイスがNYのソーホーの街角で歌っていた彼らを見いだして、このパースペクティヴ・レーベルからデビュー・アルバムをリリースする、という幸運に恵まれたグループです。テナーのダニエル・ストークスダーネル・チャヴィス、ややしゃがれた声ながらパワフルなユーニク・マック、そしてアコースティック・ベースで3人のコーラスに滑らかでオーガニックなグルーヴを加えるロバート・アンダーソンによるアルバムを通してのパフォーマンスは、その当時ラジオから流れてくるどのR&Bチューンとも異なり、90年当時の洗練されたサウンドプロダクションで、60~70年代にR&Bが「ソウル」であり、聴く者の心揺さぶる音楽であったことを強烈に思い出させてくれる、そんな感動を呼び起こしてくれるもの。
そしてこのアルバムは、ジャム&ルイスがエグゼクティブ・プロデューサーとして全体を見ているだけでなく、12曲については自らプロデュースとアレンジを担当、その他の曲もフライト・タイム・プロダクションの面々ががっちりとプロデュースという、正しくジャム&ルイス肝いりのアルバムになっています。


Solo back


アルバム全体の構成は、上記のようにクラシック・ソウル・テイスト満点の素晴らしいフル・レングスの13曲の楽曲(うち8曲はジャム&ルイス作または共作)の合間合間に、往年のソウルの名曲のカバーが、それもストリートの雑踏の音をバックにほとんどはロバートのベースだけをバックにしたアカペラで短時間ずつ演奏されるというもの。これだけでもオールド・スクールのR&B・ソウルファンにはたまらないところだけど、そのカバーしている曲がオープニングの「What A Wonderful World」、4曲目の「Cupid」、9曲目メドレーで「Another Saturday Night / Everybody Loves To Cha Cha Cha」とサム・クックの曲3曲に、13曲目がドリフターズで有名な「Under The Boardwalk」とレトロ/テイスト満点で間違いなく60年代のヴァイブに持って行かれること請け合い。

そしてこのアルバムのカバーのうち唯一フル・レングスなのがラス前18曲目のあのサム・クックの名唱「A Change Is Gonna Come」の素晴らしいパフォーマンス。ユーニクの絞り出すようなボーカルが公民権運動のテーマソングとして特にブラック・コミュニティの思い入れの強いこの曲に万感を吹き込んでいて、アルバムを締めにかかる楽曲としては最高の効果を達成しています



間に歌われるフル・レングスの楽曲もいずれを劣らぬ素晴らしい出来で、「What A Wonderful World」のカバーに続いてスクラッチ・ノイズをあしらって90年代今のストリート・ソング的仕立てをバックに3人のコーラスがやや控えめにグループ「ソロ」の実力表明をしているかのような「Back 2 Da Street」、ジャム&ルイスがすべての楽器を担当して奏でる、当時のジャネットの楽曲に通じるような軽快で洒脱なビートに乗ってダーネルがしなやかに歌う「Blowin' My Mind」あたりはアルバムの冒頭でがっちりリスナーを掴むには充分。




Cupid」にカバーに続いて明らかにスカルズの「Groovin'」を意識したノスタルジックなソウル・バラードで彼らの最大のヒットシングルとなった「Heaven」(最高位42位)、そして何と!あのドラマティックスの「In The Rain」のキメのフレーズを無茶苦茶カッコよくサンプリングしたゴージャスなナンバー「Xxtra」あたりはこのアルバムでは自分の個人的ハイライト。そしてもう一つの個人的ハイライトは「Another Saturday Night~」のカバーメドレーに続いて、力強くもしなやかなグルーヴでマーヴィン・ゲイの「Let's Get It On」をオマージュしているかのようなひたすら気持ちよい「Where Do You Want Me To Put It」。ここでのボーカル(おそらくダニエル?)はテンプスの往年の名ボーカル、惜しくも先日他界したデニス・エドワーズの男臭いソウルフルなボーカルを思わせて、これも涙




90年代らしいサウンドのクワイエット・ストーム的な濃厚なバラード「Keep It Right Here」「I'm Sorry」に続いて「Under The Boardwalk」の短いカバーを経て、アルバムはいよいよ後半に。そしてまた音は一気にクラシック・テイストに戻って、メインメロディもイントロの楽器も間違いなくジャーメイン・ジャクソンの「Daddy's Home」を意識したな!という「In Bed」でますますソウルファンの気持ちは盛り上がります。

ぐっと80年代っぽいサウンドのクワイエット・ストーム曲「(Last Night I Made Love) Like Never Before」から10秒のスキットを経て60年代後半のテンプスフォー・トップスを彷彿させる男っぽいアップテンポのソウル・ナンバー「Holdin' On」、そして冒頭に触れた感動的な「A Change Is Gonna Come」のカバーで事実上アルバムは完結。最後のトラックは「Heaven」のアコースティックな感じのクワイエット・ストーム・リミックスで静かにフェードアウトしていく感じでエンディングを迎えます。(最後に隠しトラックあり)



再三前回から言ってますが、90年代はR&B・ヒップホップを中心としたブラック・ミュージックでは大きなルネッサンス的オールド・スクール・ソウルへのスタイル回帰と、打ち込み中心のサウンドから大きくオーガニックなサウンド・メイキングに舵が切られ、その中で多くの素晴らしい作品や、才能溢れる新しいアーティスト達が輩出したデケイドです

その中でも80年代をうまく乗り切って90年代に更に高いレベルへとサウンド・メイキングの質を上げていったジャム&ルイスの二人が、ジャネットのメインストリームR&B作品とはまた別の切り口で、クラシック・ソウル・ルネッサンスを見事に表現してみせたのがこのソロのデビュー・アルバムだと思います。

Solo Album (back)


ソロはこの後、前回のトニーズ解散後のラファエル・サディークをプロデューサーに迎えて、こちらも素晴らしいセカンド・アルバム『4 Bruthas & A Bass』(1998)をリリースした後、長く消息が聞こえてませんでしたが、2015年にインディーからニューアルバムを出したらしい、という情報が。残念ながらまだ聴けてないですが、多分変わらぬスタイルで、クラシックなソウルを下敷きにした彼らなりのR&Bを聴かせてくれてるのではないかと思ってます。

その新譜を聴くまでは、この彼らの素晴らしいデビューアルバムで、春爛漫のこの季節、音楽の与えてくれる至福を存分に楽しみましょうか。


追伸:今回のブログ執筆にあたってはこのアルバムの発売当時の日本盤の吉岡正晴さんのライナーノーツを参考にさせて頂きました。謹んで御礼申し上げます。


<チャートデータ> 

RIAA(全米レコード産業協会)認定 ゴールド・アルバム(50万枚売上)

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位52位(1996.3.16付)

同全米R&Bアルバム・チャート 最高位8位(1996.3.16付)

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【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#116「House Of Music」Tony! Toni! Toné! (1996)

 #116House Of MusicTony! Toni! Toné! (Mercury, 1996)


3月もいよいよ後半に入り、世間は年度末で忙しくなり、花粉症の方はいつになく飛び交う花粉にご苦労されてる中、梅は終わっていよいよあちらこちらでチラホラと桜がほころび始めました。日一日と暖かさと寒さが一進一退するのも今週くらいまでで、いよいよ春本格に突入しそうな季節。そんな今夜(3/19)20時から、自分もいつものクアトロラボから離れて渋谷のMusic Bar 45さんでブースインさせて頂くことになりました。春を感じさせるセットでまったりと行きたいと思ってますので、お仕事帰りの一時お立ち寄り下さい。


さて今週の「新旧お宝アルバム!」は、また90年代シリーズにちょっと戻って、個人的には90年代のR&Bを代表するアルバムの一つだと思う作品をご紹介。60~70年代の先達たちのグルーヴや空気感を見事に再現しながら、自らの音楽スタイルを頂点に高めるという離れ業を成し遂げた、リリース当時も当時の洋楽ファン、R&Bファンから絶大な支持を受けたのですが、90年代に既に新しい作品から離れてしまっていた多くの60~70年来のR&Bファンの耳に届かなかったこともあり、最近語られることの少ないのが残念な、そんな名盤、カリフォルニアはオークランド出身の3人組のトニ・トニ・トニの4作目『House Of Music』(1996)をご紹介します。


HOuse Of Music 


90年代作品を改めて評価してみようシリーズ、第3弾、R&B編。


80年代後半のシンセやリズムマシーンの打ち込みを多用した人工的なサウンドや、90年代初頭に登場したN.W.A.に代表されるギャングスタ・ラップの台頭など、90年代に入った頃には、残念ながら60年代以降のジャズやブルースを根っこに置いたオーガニックなソウル・ミュージックを支持してきたR&Bリスナー達には新しい音から耳を背けさせる状況が多く揃ってしまっていました。

しかし、前々週も触れましたが、ロックシーンでも60・70年代の音楽スタイルをベースにした音楽スタイルを新しい感性で展開する新しいアーティスト達が出てきたように、90年代はR&Bシーンに取っても、オリジナルのソウル・R&Bミュージックの良さを再評価し、スタイル的にはそこに回帰するアーティストがヒップホップ・シーンも含めて多く輩出して素晴らしい作品を多く作り出した、ある意味「ミュージック・ルネッサンス」のデケイドなのです

ヒップホップ・シーンでは、ラップと言えばストリート性を強調した殺伐とした挑発的なリリックを激しいトラックに乗せて繰り出すというスタイルが主流だったのが、NYを中心としたイースト・コーストとLA・ベイエリアを中心にしたウェスト・コーストの大きな二つのシーンの勃興によって、一気にそのサウンドやスタイルの多様化が進みました。特に70年代ソウルやジャズなどからのサンプリングの活用と複雑なサウンドメイキングによって単なるラップのバックトラックに止まらないレベルの音楽性を内包したトラックメイキングが、DJプレミアDr.ドレ、パフ・ダディP.ディディ)といったサウンドメイカー達によってジャンルに深みと音楽的正当性を加えられたことは、折からのR&B分野におけるオーガニック・ソウル・ルネッサンスの動向とも同期していました

そのR&Bシーンではアメリカでは「ネオ・ソウル」、日本では「ニュー・クラシック・ソウル」または「オーガニック・ソウル」とネーミングは様々でしたが、要は60~70年代のソウルR&Bミュージックのスタイルの再評価とそのスタイルに戻った、シンセや打ち込み等は極力押さえたサウンドで、より伝統的黒人音楽であるソウル、ブルース、ジャズ、ゴスペルなどの要素を持ったスタイルの優れた作品とアーティスト達が多く登場して、大いにシーンを盛り上げました。ディアンジェロ、マックスウェルなど現在も活躍するアーティスト達が登場したのもこの時代です。

そして今日ご紹介するトニ・トニ・トニ(通称トニーズ)もそうしたネオ・ソウル・アーティストの一つであり、このソウル・ルネッサンスの流れを作り出した重要なアーティストの一つなのです


SonsOfSoul.jpg


後にソロとして活動展開するベースとボーカルのラファエル・サディーク、その兄でギタリストのドウェイン・ウィギンズ、ドラムス・キーボードのティモシー・クリスチャン・ライリーの3人によるトニーズの最初の頃のサウンドは、80年代後半ブラック・ミュージック・シーンを席巻したいわゆるニュージャック・スウィングのスタイルでした。その彼らが大きく音楽性をシフトさせたのはこのアルバムの前作『Sons Of Soul』(1993)。

このアルバムにはシングルヒットした「Anniversary」(全米最高位10位)に代表されるより伝統的なR&Bソウル・ミュージックの音楽スタイルに軸足を置いた楽曲が多く含まれ、かつ、彼ら自身が楽曲を演奏し全曲プロデュースすることにより彼ら自身のミュージシャンシップを確立するとともに、ダブル・プラチナ・ディスク認定の彼らに取っても商業的に最も成功したアルバムになりました。

その後、ラファエルは映画『Higher Learning』(1995)のサントラに「スキヤキ」をモチーフにした「Ask Of You」を提供したり、ディアンジェロのシングル「Lady」に参加したりといったメンバー各自のソロ活動を経て3年後、満を持してリリースされたのがこの『House Of Music』でした


このアルバムを端的にいうと、60~70年代の伝統的なソウルR&Bミュージックへの惜しみない憧憬とオマージュを満々に称え、そのスタイルを見事なまでに踏襲しながら、どれ一つとして単なるコピーやなぞりになっているのではなく、トニーズ自身の楽曲として完璧に構成されているという、なかなか当時のそこらのネオ・ソウル・アーティストには真似のできないことを実現しているアルバムです。

「俺たちトニーズがやっているのは、こういう先達達が磨き上げてきた素晴らしい音楽スタイル。そしてこのスタイルで、俺たちは自分たちでないとできない音楽をやっていくんだ」という決意表明をビンビンに感じる作品で、その彼らの矜持は、これだけ先達のスタイルを如実に感じさせながら、一曲としてカバーは含まれていないということにも強く表れています



このアルバムリリース当時も自分はmeantimeという洋楽サークルのアルバム・レビューでこのアルバムを取り上げていますが(当時このアルバムは、4人のスタッフによる合評という評価の高さでした)今聴いても、ラファエルの独白から始まる1曲目の「Thinking Of You」が流れ始めた瞬間に、あのアル・グリーンで有名なメンフィスのハイ・サウンドを彷彿とされるギタ-リフとドッシリとしたドラムス、そして正にアル・グリーンの歌い方を強く意識したラファエルの歌には、思わず笑顔になってしまいます。そこにはメンフィス・ソウルへの強い敬愛があり、このアルバムの素晴らしさを予感させるオープニングです

ジャズ・クラブでのざわめきのようなバックグラウンドノイズの中からゆっくりと立ち上がってくるような「Top Notch」から、アルバム中唯一メンバー以外のプロデューサーとしてDJクイックを迎え、クイックのラップをフィーチャーした「Let's Get Down」はヒップホップ黎明期のソウルとファンクが融合したようなグルーヴで、メーターをぐっと上げてくれます。




ぐっと雰囲気を変えて、ドラマティックスエンチャントメントか、と思ってしまうほど、ギターの音色に至るまでデトロイト・ソウルのバラードの世界を完璧に再現した「Til Last Summer」、70年代後半のマーヴィン・ゲイあたりのグルーヴにスロウなファンク風味を絶妙に配合した、シーラEのパーカッションをフィーチャーした「Lovin' You」、60年代のアトランティック系サザン・ソウル風味でギターとオルガンと抑えめのリズム・セクションで思わずソウルファンは昇天しそうなStill A Man」、モータウンホランド・ドジャー・ホランドを彷彿させる軽快なリズム・リフに乗ってラファエルスモーキー・ロビンソンを意識した艶のあるボーカルを聴かせる「Don't Fall In Love」、フェンダーローズの演奏は70年代スティーヴィー・ワンダーの世界で、サビのファルセットはスタイリスティックスラッセル・トンプキンスJr.ばりなのがこちらもニヤリとさせてくれる「Holy Smokes & Gee Whiz」などなど、もう聴きこんでいくうちにソウルR&Bファンはどんどん虜になること請け合いの楽曲が次々に登場


そしてここまで聴いて来て気が付くのは、このアルバム、キーボードはハモンド・オルガン、フェンダーローズやエレピ、アコースティック・ピアノだけであり、シンセサイザーはおそらくほとんど使用していないと思われること。また曲の録音もメンバーが持ち寄った曲を1ヶ月かけてリハーサルした後、スタジオライブの一発録りだった、といいますから、このアルバム、バックの演奏も含めて真の意味でのオーガニック・ソウル作品だったということになります。


アルバム後半がややダレ気味になりそうになるところを、ストリングスを配してドラマティックに盛り上げる「Let Me Know」や、アース・ウィンド&ファイヤの70年代後半のバラードを彷彿させるキメのリズムがタワー・オブ・パワーのホーンセクションとも絶妙のグルーヴを醸し出す「Wild Child」といったまたまた素晴らしいメロディと美しい演奏による楽曲が支えて、アルバムクロージングは先ほどの「Lovin' You」のメロディをアコースティック・ピアノとハモンド・オルガンとアープ・シンセ(アルバム中唯一ハッキリとシンセの使用が分かるのはここだけ)が分厚いアンサンブルで無茶苦茶スローダウンしたインストで短く締めるリプリーズ・バージョンで。終わった後、思わず満足のため息が漏れそうな、そんな素晴らしい聴後感

House Of Music (back)


リリース時も、当時盛り上がっていたネオ・ソウルの頂点を極めた傑作として評価の高かったこのアルバム、残念ながらマーキュリー・レーベルのプロモーションが今ひとつだったのか、チャート的には前作を下回る成績に終わっています。しかし、20年以上経った今でも瑞々しさに満ちたこの作品、90年代R&Bを代表するソウル・クラシックの1枚と言っていいと思います

アルバムタイトルは、メンバーが少年の頃オークランドの地元にあったレコード店の名前から取られたそうで、ラファエル曰く「あの頃あの店に溢れていたいろんな音楽にワクワクしたように、このアルバムを作る過程はメンバーがそれぞれ作った曲を持ち寄ったのにもかかわらず、あの時を思わせるようないい雰囲気でセッションできたのでこの名前にしたんだ」とのこと。ドウェインは自分のスタジオにもこの名前を付けるなど、このアルバムのできる過程はメンバーに取っても特別なものだったようです


この作品を出した後残念ながらメンバー間の意見の対立からバンドはこのアルバムを最期に1997年惜しまれながら解散。ラファエルアン・ヴォーグドーン・ロビンソン、ア・トライブ・コールド・クエストアリ・シャヒード・ムハマッドとのルーシー・パールの活動や、『Instant Vintage』(2002)、『Ray Ray』(2004)、『The Way I See It』(2008)、『Stone Rollin'』(2011)といったソロアルバム発表、更にはあのジョス・ストーンの『Introducing Joss Stone』(2007)のプロデュースなど多彩なソロ活動を展開。ドウェインは、後にスーパースターとなるデスティニーズ・チャイルドを見いだし自分の事務所に契約して成功を収めた他キーシャ・コールアリシア・キーズらの作品のプロデュースなど、その後も脈々と続くネオ・ソウルの系譜をサポートする裏方として活躍している様子


90年代のクラシック・ソウル・ルネッサンスの動きを支えたトニーズの最高峰であるこのソウル・クラシック作品を、桜の香りが漂い始めた春の空気を感じながら是非改めて楽しんでみてはいかがでしょうか。


<チャートデータ> 

RIAA(全米レコード産業協会)認定 プラチナ・アルバム(100万枚売上)

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位32位(1997.2.1付)

同全米R&Bアルバム・チャート 最高位10位(1996.12.7付)

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

【Boonzzy Music】新旧お宝アルバム!#115「Body Heat」Quincy Jones (1974)

 #115Body HeatQuincy Jones (A&M, 1974)


先週のアカデミー賞発表ではギエルモ・デル・トロ監督の『The Shape Of Water』が作品賞・監督賞他計4部門を受賞して、2004年第76回アカデミーの『ロード・オブ・ザ・リング~王の帰還』以来のファンタジー作品による作品賞受賞に沸き返りました。ああしてみるとやっぱり映画っていいなあ、と思ってしまいます。作品賞ノミネートの映画、今回は一つも見てないのでボチボチ見ていかなきゃ、と思う今日この頃。


さて外は着実に春に向かう中、先週お休みしてしまった今週の「新旧お宝アルバム!」は、90年代シリーズからちょっと離れて久しぶりに70年代に行ってみたいと思います。ちょうどベトナム戦争が終わり、公民権運動の名残も落ち着いて、建国200年を目前にアメリカが豊かで明るい時代に突入していた頃、アメリカの音楽シーンも多くのミュージシャン達がその音楽スタイルを少しずつ変貌させていた時代。そんな時、後に『スタッフ・ライク・ザット』(1978)、『愛のコリーダ (The Dude)』(1981)により一気にブラック・ミュージックのメインストリーム化を推し進め、マイケル・ジャクソンの『Off The Wall』(1979)『Thriller』(1982)『Bad』(1987)といったメガアルバムのプロデュースで名実ともにアメリカのポピュラー音楽界に君臨することとなるクインシー・ジョーンズが、それまでのジャズや映画TV音楽作曲から、一気にソウルR&Bへ接近して上記のような後のキャリア展開への基礎を築いた重要作品、『Body Heat』(1974)をご紹介します。


Body Heat


トレイルブレイザー(trailblazer)という言葉をご存知でしょうか。


荒れ地や未開の森林などの道なき道(trail)を進みながら後に続く者達のために目印を付けていく(blaze)者、ということでその分野の先駆者、日本語でいうと「パイオニア」に当たる言葉で、アメリカではそうした分野の先駆者を称える時に頻繁に使われる言葉です。


クインシー・ジョーンズというと、どうしても『愛のコリーダ』やマイケル・ジャクソンとの80年代の仕事のイメージが強い方が多いと思われ、最初からポピュラー系ブラック・ミュージックの世界の大御所と思われがちですが、クインシーは正に黒人音楽界を代表するトレイルブレイザーとして、60年代後半~70年代にかけて白人中心社会だったポピュラー音楽界に多くの足跡を残した実績をもっと高く評価すべきミュージシャンでありアレンジャー・プロデューサーだったのです。


シカゴのサウス・サイドのごく普通の黒人家庭に生まれ育ったクインシーが、ティーンエイジャーの頃から音楽に没頭してその高校や大学で才能を磨き、バークレー音楽院への奨学金を得たことによって大きく道を開かれて、卒業後は当時既にジャズの大御所だったライオネル・ハンプトンのバンドのトランペット奏者としてプロ入り。1950年代をジャズの世界で過ごしている中、1960年に当時のマーキュリー・レコード社長のアーヴィング・グリーンに認められて同レーベルNYの音楽ディレクターに就任。

1964年にはクインシーに映画監督のシドニー・ルメットが自分の映画『質屋(The Pawnbroker)』の音楽を頼み、これのヒットで次のフェーズに

ここから60年代~70年代初頭にかけてシドニー・ポワチエ主演の『夜の大捜査線(In The Heat Of The Night)』(1967)、ゴルディー・ホーンアカデミー助演女優賞受賞の『サボテンの花(Cactus Flower)』(1969)、スティーヴ・マックイーン主演の『ゲッタウェイ (The Getaway)』(1972)などなど計33本の映画音楽を手がけた他、『鬼警部アイアンサイド』『The Cosby Show』など数々のTV番組の音楽も担当。一気にジャズの世界からポピュラー音楽の世界にその存在感を高めました

1968年のアカデミー賞ではアフリカ系アメリカ人として初の最優秀オリジナルスコア部門でのアカデミー賞ノミネート、1971年にはアフリカ系アメリカ人として始めてアカデミー賞授賞式の指揮者を務めるなど、この時期のクインシーはトレイルブレイザーの面目躍如たる活躍ぶりでした。


その彼が70年代に入りジャズやポピュラー音楽ではなく、急速にソウルR&Bの世界に接近していった多分一つの理由がスティーヴィー・ワンダーの活躍

高校時代レイ・チャールズと同級生だったクインシーは、新しい世代のアフリカ系アメリカ人の音楽表現者としてのスティーヴィーに感銘したのでしょう、自らもよりソウルR&B寄りの楽曲を含むアルバムを制作しはじめ、1973年にリリースした『You've Got It Bad Girl』では自らのそれまでの作品のジャズっぽいリメイクに加え、スティーヴィーの『トーキング・ブック』(1972) から「迷信」とアルバムタイトル曲「You've Got It Bad Girl」と取り上げていました。


その彼が満を持してリリースしたのが、「ソウル・ジャズ」というその後70年代の一つのトレンドを作り出した作品となったこの『Body Heat』。

バックにはデイヴ・グルーシン、ハービー・ハンコック、ボブ・ジェームズ、リチャード・ティー等などジャズの名うてのミュージシャン達に加えて、その後ソウルR&Bの世界で大物となるリオン・ウェア(R&Bシンガーでマーヴィン・ゲイI Want You」の作者)やミニー・リパートン、アル・ジャロウといったボーカリスト達を配して「ソウルっぽいジャズ作品」ではなく、ソウルとジャズが渾然一体となった作品を作り出したのです



冒頭のアルバム・タイトル・ナンバーから、リオン・ウェアのボーカルを、ミニー・リパートンを含むバックコーラスが寄り添うようにサポートする、紛れもない70年代R&Bの意匠満点の楽曲展開。バックでは多分デヴィッド・T・ウォーカーと思われるR&Bの歌伴的に出入りする匠のギター・フレーズや、デイヴ・グルーシンによるアープ・シンセの音色がスティーヴィー・ワンダーの70年代作品のような雰囲気を醸し出します。

続く「Soul Saga (Song Of The Buffalo Soldier)」でも切れ味鋭いギター・リフをバックに基本ワンコードで延々とエスニックなリズムを展開するグルーヴ満点の楽曲。ここでソウルフルなボーカルを聴かせるのはセッション・ボーカリストとして名高いジム・ギルストラップ

ぐっとアフターアワーズっぽくスローダウンした哀愁感漂うメロディに乗って作者でもあるバーナード・アイグナーのボーカルが聴ける「Everything Must Change」は、後にジョージ・ベンソンやランディ・クロフォードらがカバーした今ではソウル・クラシックと言っていい有名曲アイグナーはこの直後あのマリーナ・ショーの名盤『Who Is This Bitch, Anyway?』(1974)のプロデュースでR&B界に大きな足跡を残すシンガーソングライター(残念ながら昨年72歳で他界)であり、このアルバムで彼をいち早く起用したクインシーのセンスは、この後自分のアルバムでジェイムス・イングラムやタミアといった新進シンガーを紹介し続けた実績にもつながっているものです

アルバムA面はこの後またブラスとギター・リフが交互に登場して、70年代中期のアース・ウィンド&ファイヤークール&ザ・ギャングっぽいダウン・トゥ・アースなファンキー・ナンバー「Boogie Joe The Grinder」を先ほどの「Everything Must Change」の短いリプリーズ・バージョンが挟んで静かに終了。



アルバムB面はクインシーリオン・ウェアの共作「One Track Mind」でスタート。このアルバムでも比較的ジャズ寄りの楽曲ですが、ブラスをフィーチャーしたスローファンクのこのナンバー、延々とバックコーラス隊が出入りして歌うR&B的スタイルはここでも明確。イントロのギターは聴いた瞬間にエリック・ゲイルと分かる「Just A Man」もまた後のクルセイダーズ当たりのフュージョンっぽい楽曲スタイルである意味このアルバムでは異色ですが、ここでルーズな感じなグルーヴを持ったボーカルを聴かせているのはクインシー御大ご本人

このアルバム唯一ボーカルをフィーチャーしていない、ある意味一番ジャズっぽいナンバーが次の「Along Came Betty」。ヒューバート・ローズのフルートが一種独特の雰囲気を醸し出して、クインシー得意の映画音楽かTV番組音楽のスコアっぽい感じを聴かせてくれます。

そしてアルバムはある意味このアルバムの中心的な意匠とでも言える、ソウルR&Bスタイルの極致、共作者の一人リオン・ウェアミニー・リパートンがそれぞれソロ・ボーカルを取り、要所要所にアル・ジャロウのボーカル・エフェクトがフィーチャーされているという、もうソウル・グルーヴ満点の「If I Ever Lose This Heaven」でフィナーレを迎えます。ご存知アヴェレージ・ホワイト・バンドが後にアルバム『Cut The Cake』(1975)でカバーし、シングルヒットにもなったナンバーですが、今考えるととても贅沢なラインアップによって渦巻くようなグルーヴを作り出している素晴らしいバージョン。ここでもヒューバート・ローズのフルートがとても効果的にフィーチャーされています。


Body Heat (back)


このアルバムは当時ジャズ・アルバムとしては異例の全米アルバム・チャートのトップ10に入る大ヒットとなり(今に至るまでクインシーに取って最もチャート上ヒットしたアルバムです)、ジャズというジャンルが一部のコアなジャズファンだけではなく、黒人ポピュラー音楽の一ジャンルとして認識され、より多くのジャズ作品がメインストリームに受け入れられるようになった、ある意味トレイルブレイザー的作品になったのです

これによって恩恵を受けたのが『Mister Magic』(1975)が全米10位のブレイク作となったサックス奏者のグローヴァー・ワシントンJr.であり、当時まだファンクバンドだったEW&Fモーリス・ホワイトと組んで見事なソウル・ジャズアルバム『Sun Goddess』(1974)をヒットさせたラムゼイ・ルイスであり、そして『Breezin'』(1976)がいきなり全米1位になっただけではなく、その年のグラミー賞最優秀アルバムにノミネートされ、メインストリームに一躍躍り出たジョージ・ベンソンといった、それまでジャズの世界で実績を作り上げてきたアフリカ系アメリカ人のミュージシャン達でした。


Mister_Magic.jpeg


その後ソウルR&Bとジャズの蜜月関係は、フュージョンの登場によってポップ・ミュージックへの接近でより多様化していくわけですが、この『Body Heat』で作り上げられたよりアフリカ系アメリカ音楽的なグルーヴを持ったダウン・トゥ・アースな音楽スタイルからは徐々に遠ざかって行くことになります。そしてクインシーは「ポップに行くんだったら思いっきりポップに行ってしまえ!」ということで『愛のコリーダ』やマイケルとの一連のコラボによってその王国を築いて行くことになるのです。

最近のインタビューでの放言が物議を醸しているクインシーですが、彼が60年代以降現在に至るまで残している実績を考えるとまあああいう放言もアリなのかな、と思ってしまうところがクインシー御大の大物たるゆえん。その彼のキャリアの転機となったこのアルバム、改めてじっくり聴いてみることをお勧めします。


<チャートデータ> 

RIAA(全米レコード産業協会)認定 ゴールド・アルバム(50万枚売上)

ビルボード誌全米アルバム・チャート 最高位6位(1974.11.2付)

同全米ソウル・アルバム・チャート 最高位1位(1974.7.6付)

テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

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